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食物依存症と過食 Part1: 体への影響

目の前にはチョコレートがひと箱あります。今日は仕事がいつもより忙しく、ストレスや疲れも溜まっているので、「心の癒しのためにちょっとだけ」と思って手を出したものの、いつの間にか全部食べてしまいました。そして甘いものを食べたせいか、塩辛いものが無性に食べたくなり、ついポテトチップスも一袋食べきってしまいました。食べきった後には、「しまった」と罪悪感に近い気持ちが押し寄せてきて憂鬱になります。ダイエットを頑張っている人で、こういう経験をした方は意外と多いかもしれません。こういうことになると殆どの人は自制心が足りないと思い、自分を責めることもありますが、ある理由による過食は自分の意志だけで克服するのはなかなか難しいものです。

食物依存症という言葉を耳にしたことがありますか? よく摂食障害である過食症と勘違いされやすい症状ですが、過食症が強い痩せ願望などの精神的な部分が原因であることに対し、食物依存症は食べ物を食べる行為自体に依存するという違いがあります。薬物依存症やアルコール依存症のように、食べ物に対して化学的に中毒症状を起こしている状態と考えた方がわかりやすいかもしれません。これから食物依存症と過食の関係を確認し、体成分にどのような影響を及ぼすかを説明します。


食物依存症とは?


食物依存症は大きく3つの特徴を持ちます。
▶ 食べる行為をコントロールできない
▶ 身体・精神的な悪影響にもかかわらず食べ続ける
▶ やめたいと思いながらも食べることをやめられない

食物依存症が問題になり始めたのはここ10年ほどで、まだ明確に定義されていない部分が多いですが、放置すると摂食障害に繋がる可能性が高い状態なのは確かです。全ての食べ物が食物依存症を引き起こすわけではありません。最近の研究では、果物や野菜など加工されていない食品は依存症になる危険性が低く、ピザやチョコレート、ポテトチップスの順で依存症の危険性が高かったと報告されています1)。 依存症になりやすい食品の共通点としては高脂質・高塩分・高糖質が挙げられます。甘く、塩辛く、脂っこい食べ物は依存症を引き起こしやすいですが、中でも特に強く働くのは甘味です。塩辛さや脂っぽさは甘味をうまく隠したり、甘味を引き立てたりして、さらに食が進むようにします。強い甘味が食物依存症を引き起こしやすい理由は、大きく3つ挙げられます。

ドーパミンとオピオイドの作用

ドーパミンは脳に働く化学物質で、報酬系という部分を活性化させて行動を強化します。人は褒めてもらうと、その行為を繰り返すようになります。これはドーパミンが働き、褒めてもらうための行為を強化したためです。依存症も「甘いものを食べる」「アルコールや薬物を使用する」などの快感を得る行為がドーパミンによって強化された状態です。オピオイドも脳に働く化学物質で、エンドルフィンもオピオイドの一種です。鎮痛作用もあり快感を与えるもので、手術や末期がん患者に使用する鎮痛剤にも使用されますが、麻薬の成分としても使われます。糖と脂質が結合されたものを食べるとき、オピオイドを分泌する脳神経は素早く活性化されます。オピオイドの作用で脳が「快感」を感じると、ドーパミンが増加し、報酬系が活性化されることで快感を得られたもの(甘いもの)を食べる行為を強化させます。甘味はこの一連の脳内作用に強く働きます。つまり、甘いものを食べるとオピオイド回路が活性化されて幸福感を感じ、ドーパミンが報酬系を活性化させることで甘いものを食べる行為を強化させます。

インスリンとレプチンの作用

食事をすると血糖値が上昇します。血糖値が上がるとインスリンが分泌され、糖を細胞に届けてエネルギーとして使うことで血糖値を下げます。そのため、血糖値が急に上がると、一時的にインスリン分泌量も増加します。一方、レプチンは満腹感を感じるようにします。一般的に食事を開始して20分ほど経つと分泌されますが、レプチンの信号が脳に届くと「エネルギーが十分なのでもう食べなくていい」という状態となります。これが満腹感で、満腹感をよく感じない人はレプチンの信号を脳がうまくキャッチできていない状態とも言えます。インスリンが送る「血糖値が高いのでインスリンをもっと作って欲しい」という信号と、レプチンが送る「もう食べなくていい」という信号は脳の同じ部分(視床下部)に届きますが、問題はインスリンとレプチンが視床下部に送る信号が同じで、片方が届くともう片方の信号にはうまく反応できないという状態に陥りやすいということです。甘いものを食べると血糖値が急激に上昇するため、インスリンの分泌が先に起こり、そのあとレプチンが分泌されますが、すでにインスリンの信号を受けている脳はレプチンの信号をうまく受け取れなくなります。そのため、満腹感を感じるまで時間がかかり、レプチンの信号を脳が受け取れるまで食べるようになります。この状態が長期化すると脳がレプチンの信号にうまく反応できなくなるレプチン抵抗性が発生し、ますます過食が進んでしまいます。

「甘味=食べていい状態」という生体的認識

必要なエネルギーを効果的に得るため、人はある味を本能的に好きになるように進化してきました。例えば、高カロリーの脂っこい食べ物は飢餓状態になっても生き残れるためのエネルギーを蓄積できる物であるため、積極的に摂取するようになっています。脂がのっている魚や肉をおいしく感じるのもこのような本能が働くからといえるでしょう。甘味も同じです。昔、果物は決まった時期にしか食べられず、果物から得られる栄養分を摂取する時期も限られていました。そのため、熟した果実の甘さを「食べころ」の信号として体が覚え、積極的に手を出すようになっているといいます。また、腐った食べ物は甘い味がしないため、「甘味=安全な食べ物」として認識し、好むようになったともいわれます。

甘いものを食べること自体は、精神的に安定をもたらす効果もあり、悪いだけではありません。しかし、食物依存症になるのは問題です。依存症になりやすい甘さは砂糖など高度に精製された甘さですが、砂糖は果物などとは違ってカロリー以外の栄養分が殆どありません。つまり、同じ甘いものでも果物はビタミンや食物繊維なども一緒に摂取できますが、砂糖ではカロリーしか得られません。そのため、少量でもカロリーの過剰摂取に繋がりやすいです。そして、依存症になるとコントロールが効かず、過食に繋がりやすくなります。


過食の原因と問題


過食の原因は前項で述べた食物依存症もありますが、他の理由もあります。

慢性的または過度なストレス
ストレスを感じるとこれを和らげるためにコルチゾールが分泌されます。コルチゾールは筋肉を分解して血糖値を上げるのと同時に、レプチンの分泌量を低下させるため食欲を高めます。また、ストレスが溜まるとセロトニンの分泌量が少なくなります。すると、体はセロトニン分泌量を高めるために必要なアミノ酸を脳に届かせようとし、アミノ酸を運搬するインスリンの分泌を促進させます。インスリンは血糖値が高くなると分泌されるため、結果的に甘いものを食べたくなります。

極端な食事制限
極端な食事制限は体にひどいストレスを与えるため、コルチゾールの働きによって食べ続けるようになります。また、食事制限によって慢性的な栄養不足状態に陥ってしまうため、食べ始めると足りなかった栄養分やエネルギーを補充しつつ、エネルギーが足りなくなったときの予備として食べ続けるようになることもあります。

 


食事は生きるために必要なことですが、過食は体に様々な問題を起こします。過食が招く問題としては次のようなことが挙げられます。

代謝症候群・肥満
過食の特徴は「早食い」と「コントロール障害」です。早く食べるとレプチンが働く前にすでに食べ過ぎてしまい、コントロールができないため満腹感を感じても食べ続けます。食べすぎることで膨満感(お腹の張り)を感じると体を動かすことも容易ではなくなり、運動を避けるようになるので、過剰なエネルギーを消費できず体脂肪として蓄積され肥満に繋がります。肥満によって心血管機能も低下しやすくなり、動脈硬化や血液循環の悪化など、心血管疾患の原因になります。

インスリン・レプチン・ドーパミンの変化
過食すると血糖も急に増加するとともに、血中インスリン濃度が高くなります。この状態が長期化するとインスリンがうまく働かなくなりますが、このような症状をインスリン抵抗性といいます。インスリン抵抗性は糖尿病の原因となり、細胞にエネルギーがうまく届かなくなるため代謝機能の障害を招きます。過食によって血中のレプチン濃度も高くなります。レプチンは脂肪細胞で分泌され、満腹感以外に体脂肪量を一定水準に維持させることにも関わります。つまり、体脂肪量が多すぎるとエネルギーが余り過ぎという信号を送り、エネルギー消費量を高めますが、体脂肪量が少なくなるとエネルギーを体脂肪として蓄積するようにします。血中インスリン濃度が高くなるとレプチン反応が鈍くなるため、脂肪細胞はレプチン分泌量を増加させて脳に信号が届くようにします。長期間レプチン濃度が高く維持されると、インスリンと同じくレプチン抵抗性が生じ、満腹感をよく感じられなくなります。過食でドーパミンが分泌されて報酬系が活性化されても、脳は徐々にその刺激に慣れてしまいます。そのため、最初に味わった満足感を得るためにはより多く食べないといけなくなります。また、ドーパミンの働きが収まった後は罪悪感などで落ち込んでしまうことも多いです。このように、定期的且つ長期間の過食習慣はホルモンの働きにも悪影響を及ぼします。

胃腸の収容量が増える
胃腸は伸縮性が良いため、過食が続くと飲食物収容量が増加します。これも満腹感を得ることが難しくなる原因になり、過剰なカロリー摂取に繋がります。

睡眠障害を起こしやすい
夜は過食しやすいですが、これは睡眠障害にも関連してきます。生活リズムの乱れや睡眠不足による疲れ・ストレスは、さらに高カロリーの物を食べるようになるなどの悪循環に繋がり、体脂肪量の増加と筋肉量の減少による疾患のリスクを高める恐れがあります。

ここまでは食物依存症と過食について確認しました。次のトピックではこれらをどのように改善できるのか、その方法について説明します。

 

参考文献
1. Which Foods May Be Addictive? The Roles of Processing, Fat Content, and Glycemic Load. Erica M. Schulte, Nicole M. Avena, Ashley N. Gearhardt. PLOS ONE | DOI:10.1371/journal.pone.0117959 February 18, 2015

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