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在宅勤務で健康維持する方法


2018年、日本企業のテレワーク導入率は19.0%
で年々増加傾向にありますが(2017年:13.8%、2016年:13.2%)、2020年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによってテレワークの導入が各企業で加速していくことが予想されます。まだテレワークの制度が整っていない企業でも、今後早急に導入を検討しなければならないような状況でもあります。テレワークと言ってもその勤務形態は様々で、在宅勤務・サテライトオフィス勤務・モバイルワークもテレワークに含まれます。
※総務省「通信利用動向調査(企業編)平成30年報告書」より引用。常用雇用者が100人以上の全国の企業を対象にした調査で、2,119企業から集計。

在宅勤務には、定型業務の効率性向上・通勤時間の短縮・オフィスコストの削減・通勤困難者への対応・非常時(災害や新型コロナウイルスなど)の事業継続など、多くのメリットがあります。通勤時間の短縮で使えるようになった自由な時間は、セルフケアや新しいことに挑戦できる機会でもあります。しかし、在宅勤務に普段から慣れていない人たちにとっては、「自宅でどのように業務に取り組めば良いのか? どのようにストレス管理・健康的な食事・運動を取り入れれば良いのか?」 と、悩まされる人も多いです。新型コロナウイルスのパンデミックから身を守ることを考えると、今は健康的なワークライフバランスを確立させてセルフケアを最優先すべき時期ではないでしょうか。今回のトピックでは、テレワーク導入に伴ったワークライフバランスの変化に対応できるよう、生活の中で取り入れるべき・見直すべき点についてご紹介していきます。


メンタルヘルスについて


新型コロナウイルスはその特性や効果的な治療法など、まだ明らかとなっていない部分も多いです。これらの不明点は、自粛生活のストレスや感染の危険性への不安が増長される原因となっています。現在も多くの方が在宅勤務・自宅療養・外出自粛で自宅中心の生活を余儀なくされていますが、ウイルスもストレスも目には見えないものの健康を損なう要因であることに違いはありません。悪化する前から精神状態の管理方法について考えてみる必要があります。

 icon-caret-square-o-right 瞑想
瞑想は、どこでもできる簡単なストレスケア方法です。2020年の研究によると、毎日20分の瞑想を行うだけで、生産品質の改善や仕事のミス減少などの生産性が向上するだけでなく、POMS(気分プロフィール検査)の【抑うつ・落ち込み】や【怒り・敵意】などの項目が減少し、精神的にも大きな効果が見られました¹⁾。このように、研究でも定期的な瞑想の実施は生産性の向上のみならず、幸福感を高めることにも役立つことが示されています。初めて瞑想を行う方は、毎日3分から始めて徐々に時間を伸ばしていきましょう。瞑想の方法は様々ですが、今回は気軽に始められるよう、瞑想法の土台にもなっていた ”呼吸による瞑想” を簡単にご紹介します。


※「Googleも採用するマインドフルネス瞑想/その効果と難易度別3つの実践方法」林佐智子.ライフアンドマインドより引用・改変

呼吸による瞑想は、ただ呼吸に意識を向けるだけの方法なので新しいスキルや道具も不要です。しかし、呼吸は自律神経の中で唯一意識的に介入することができる神経系なので、意図的に呼吸を変化させることでその状況が脳に伝わり、脳内に働きかけることができると言われています。呼吸法は、横隔膜を動かして内臓にも刺激が伝わる腹式呼吸がお勧めですが胸式呼吸でも問題なく、やりやすい呼吸で②-③を繰り返し3分から15分ほど続けてみましょう。

icon-caret-square-o-right 仕事とプライベートのバランス
自宅で仕事を行う際の問題点は、仕事の時間とプライベートの時間に境界線が無くなることです。会社に通勤していた頃は、オフィスを離れることで自然と終業を認識できていましたが、自宅での仕事は就業時間の区別をつけにくくなってしまいます。朝早くから夜遅くまで一日中、メールの返信をするなどパソコンと向き合ってばかりではありませんか?

プライベートの時間まで仕事の時間に充てることは、心身の健康状態の悪化にも関連します。在宅勤務中でも、できるだけ通常通りの勤務時間を設定して区切りをつけてください。時間になったらパソコンは閉じて、仕事関連の通知はミュートにしましょう。このようなルールをチームや上司と共有して、仕事とプライベートのバランスを取るためには会社からの理解も必要です。

icon-caret-square-o-right 睡眠
毎朝決められた時間に出社する必要がなくなったので、目覚ましをかけることを止めてはいませんか? 今までの規則正しかった睡眠ルーティンを忘れてはいませんか? 不規則な睡眠スケジュールや睡眠不足は、脳細胞回復の妨げとなり、認知機能や判断力・記憶力低下の原因になります。また、睡眠を促進するホルモンであるメラトニンは気持ちを落ち着かせるセロトニンとも密接な関係があるため、十分な睡眠をとることは心理的安定をもたらし、ストレス解消にも繋がります。


健康的な食事


在宅勤務中の昼食と間食はどのようにしていますか? バランスの取れた食事と栄養価の高い間食を選択することは、健康体を目指す上で必要不可欠です。外出の必要もなく手軽に食事を済ませられるからと言って、デリバリーのピザやファストフードを頻繁に頼んではいませんか? デリバリーに対応している食事は、高カロリーかつ塩分過多・糖質過多なものが多く、頻繁に食べると肥満のリスクが高まります。

在宅勤務は、外食を避けて自炊をするチャンスです。自炊であれば、食材の選択から調理方法までより細かく食事内容を制御することができます。これからの食事には、次のようなバランスの取れた食品を取り入れることをお勧めします。
icon-check-square-o 全粒穀物(玄米・全粒粉小麦・オートミールなど)
icon-check-square-o 様々な種類のタンパク源(赤身の肉・魚介類・卵・大豆製品・ナッツ類など)
icon-check-square-o 低脂肪または無脂肪乳製品(牛乳・ヨーグルト・チーズなど)
icon-check-square-o 非デンプン質野菜(葉野菜・トマト・玉ねぎなど)とデンプン質野菜(ジャガイモ・カボチャ・グリーンピースなど)
icon-check-square-o 丸ごと果実

肉料理をするときは大量の添加物と塩が含まれている加工肉ではなく、新鮮な赤身肉を選んでください。調理で使用する油は、オリーブオイルやキャノーラオイルなどの健康的な食用油を使うのもいいでしょう。一人で様々な種類の野菜と果物を消費するのが難しい場合は、小分けできる冷凍野菜やドライフルーツを取り入れてみましょう。


自宅での食事は人目もないので、ついつい ”ながら食べ” をしていませんか? 仕事をしながら、スマートフォンやテレビを見ながら、本や雑誌を片手にしながら食事をしていませんか? “〇〇しながら” の行為と食事を同時に行うことは、意識を分散してしまうので過食になりがちです。Physiology and Behaviorジャーナルに掲載された2019年の研究でも、食事中にスマートフォンを使用することはカロリー摂取量の増加に関連することを報告しています²⁾。仕事部屋やパソコンの前で食事は避けて、できるだけ食事スペースと仕事スペースを分けてください。気が散った状態での食事は、過剰なカロリー摂取に陥る傾向があります。仕事中であろうがなかろうが、”ながら食べ” は止めましょう。

仕事中にお菓子を食べながらの、ながら仕事も同じように気を付けてください。仕事のストレスも過剰な間食の引き金になりますが、どうしても口にしたい時は健康的な間食を選択してください。高カロリーなジャンクフードや菓子パン類は手の届きにくい場所へ移しましょう。健康的な間食の例としては、フルーツ・ナッツ類・ポップコーン・全粒粉クラッカー・お餅などがあります。

また、食事も睡眠と同様に、規則正しいスケジュールを守ってください。不規則な食事も肥満のリスクに繋がります。毎日同じ時間に食事と間食を摂るように心掛けてみましょう。これは勿論、休日にも当てはまります。


定期的な運動


在宅勤務では、通勤で体を動かすことができないので、運動のガイドラインを満たすことが困難になってきます。このような状況で、どのようにモチベーションを維持しながら身体活動量を増やすことができるでしょうか。在宅勤務では、オフィスビルに出入りしたり、会議室や休憩室まで歩いたり、階段を上り下りするような身体活動はありません。残念なことに、自宅で一日中デスクワークに取り組むだけでは筋肉量は増えませんし、体脂肪量は減少するどころか増加してしまいます。在宅勤務やデスクワークで運動量が足りない方は、仕事の合間にちょっとした運動休憩を挟んで運動量を確保する必要があります。

2020年の最新の研究でも、ちょっとした運動休憩を取ることは、食後の血糖反応を良くしてトリアシルグリセロール(中性脂肪)の低下に役立つことが示されています³⁾。この研究では、長時間の座位活動の合間に下記の運動休憩を取り入れています。
icon-check-square-o 昼食前に30分の早歩き
icon-check-square-o 4時間の座位(デスクワーク) → 30分のサイクリング運動(運動強度: 70%VO₂max)
icon-check-square-o 40分の座位(デスクワーク) → 6分のサイクリング運動(運動強度: 70%VO₂max)
icon-check-square-o 3時間15分の座位(デスクワーク) → 15分の立位 & 15分のウォーキング & 15分のMVPA(中-高強度の身体活動)運動

仕事中に運動休憩を取ることをつい忘れてしまう人は、タイマーをセットしてください。座ったまま一定時間が過ぎたら、強制的に立ち上がって、少し室内を移動してみましょう。できれば、運動休憩は屋外で実施してください。日光を浴びると免疫機能に重要な役割を果たすビタミンDを皮下で生合成できます。屋外に出ることが難しい場合は、ヨガ・自荷重の運動・トレーニングビデオで紹介されている有酸素運動など、室内でもできる簡単な運動を行いましょう。

1日中自宅で過ごしていると、どんなに努力しても、十分な運動量を確保することはとても難しいです。厚生労働省が定める「アクティブガイド-健康づくりのための身体活動指針-」では、1日に60分の身体活動と8,000歩を目安に歩くことを推奨しています。60分の身体活動のうち20分は筋トレやスポーツを行うことを目指します。なかなかこの目標まで達成することは難しい状況かもしれませんが、少しでも運動休憩などを取り入れてコツコツ身体活動量を増やしていきましょう。


進捗状況を確認する


一人で運動のモチベーションを維持することは、家族や友人と一緒に行う時よりも難しくなります。そんな時は、体組成計で進捗を記録したり、体成分データを周りの人と共有したりすることで、モチベーションアップに繋げましょう。

骨格筋量や体脂肪率などの体成分は、体重よりも遥かに優れた指標です。体重が減ったとしても、それだけでは体にとって良い変化なのかわかりません。一日中座りっぱなしの生活で筋肉量が減り、体重が減ったことは良い変化ですか? 水分補給を忘れてしまい脱水状態に陥った結果、体重が減ったことは良い変化と言えますか? 体重が標準範囲内だからと言って健康体とは限りません。筋肉量と体脂肪量がそれぞれ適量でなければ、本当に健康かは分かりません。

InBody Dialは家庭用のInBodyで、業務用InBodyと同様に部位別測定・2周波の多周波数測定・統計補正の排除を可能にした家庭用で最も精度の高い体組成計です。体重だけでなく、骨格筋量・体脂肪率・BMI・内臓脂肪レベルなどの項目が、スマートフォンアプリの履歴で確認することもできます。
※InBody Dialの詳細は製品情報の家庭用製品「InBody Dial」からご覧ください。


終わりに

緊急事態宣言をきっかけに新しく在宅勤務を始めた方にとって、健康的なワークライフバランスを確立させるのに今以上の好機はありません。仕事とプライベートの健康的な両立には、メンタルヘルスマネジメント・バランスの取れた食事・定期的な運動の3つの視点が欠かせません。ストレスや不安を感じている時は、瞑想を試してみたり睡眠を優先するようにしてください。食事メニューを見直して、バランスの取れた食品・調理法を選択しましょう。そして、1日に少なくとも60分の身体活動を実施するように心掛けてください。

 

参考文献
1. The effects of meditation on the performance and well-being of a company: A pilot study. Pagliaro G et al., Explore (NY). 2020 Jan – Feb;16(1):56-60
2. Smartphone use while eating increases caloric ingestion. Gonçalves RFDM et al., Physiol Behav. 2019 May 15;204:93-99
3. Effects of Interrupting Prolonged Sitting with Physical Activity Breaks on Blood Glucose, Insulin and Triacylglycerol Measures: A Systematic Review and Meta-analysis. Loh R et al., Sports Med. 2020 Feb;50(2):295-330

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喫煙による健康被害

2020年4月1日より、昨年から一部施行となっていた「健康増進法の一部を改正する法律」が全面施行になります。これまでは学校や病院といった行政機関及び公共施設において、原則敷地内禁煙と定められていましたが、全面施行になることで、それ以外の屋内施設がほぼすべて原則屋内禁煙となります。屋内での喫煙の場合、喫煙室の設置や喫煙室の標識掲示も必要になります。また、20歳未満であれば来店客・従業員問わず、喫煙エリアへの立入禁止も定められています。

近年、喫煙者自身の健康に対する悪影響よりも周囲の人に対する受動喫煙の健康に対する悪影響が深刻な問題となっており、受動喫煙を防ぐためにも、今回の法改正に則って分煙を進めていく必要があります。今回は喫煙や受動喫煙による身体への影響についてお話します。


たばこの歴史

たばこは16世紀後半に日本に伝来したとされています。江戸時代初期にはたばこの喫煙及び売買の禁止令が出されたものの、次第に容認され、嗜好品として徐々に定着していきました。江戸時代では葉を刻んだたばこをキセルで吸う「刻みたばこ」が好まれていました。明治時代になると、外国から「紙巻きたばこ」が輸入されるようになり、国内でも製造されるようになりました。明治後期には政府が国家の財源確保のため、たばこに関する法律を整備し、たばこ産業は国営化されていきました。昭和では、戦時中の英語使用禁止や配給制の影響を大きく受けましたが、戦後、国営化されていたたばこ産業は徐々に民営化が進み、様々な銘柄が誕生しました。平成に入ると健康志向の高まりや世界的なたばこ規制もあり、たばこ販売量は1996年をピークに緩やかに減少していきます。このような背景から、近年は分煙環境の整備や喫煙マナーの向上、未成年者の喫煙防止などの取り組みや煙の発生しにくいたばこの開発が進められています¹⁾。

ちなみに、たばこは英語で「tobacco」「cigarette」の2通りの表現があります。元々、「tobacco=原材料の植物であるたばこ」「cigarette=加工して販売しているたばこ」をそれぞれ指していたのですが、最近は加工して販売しているたばこも「tobacco」を使うようになっており、「たばこを吸う=smoking tobacco」と表現することもあります。また、「Tobacco」は産業としてのたばこを表す際にも用いられます。


たばこの煙

たばこの煙は喫煙者がたばこから吸う「主流煙」、喫煙者が吐き出した「呼出煙」、たばこそのものから発する「副流煙」があります。健康増進法第25条では受動喫煙を「室内又はこれに準ずる環境において、他人のたばこの煙を吸わされること」と定義しており、ここで述べている「他人のたばこの煙」は「呼出煙」と「副流煙」を指します。

たばこの煙は粒子成分とガス成分の2種類に分かれます。粒子成分には4,300種類、ガス成分には1,000種類もの化学物質が含まれ、そのうちのいくつかは粒子成分とガス成分の両方に含まれると報告されています²⁾。このうち、発がん性があると報告されている物質は約70種類も含まれています。たばこの煙に含まれる成分はたばこの葉そのものに含まれるものと、乾燥や加⼯・製造の過程で⽣成・添加されたもの、そして、それらが燃焼する際に⽣成されるもので構成されており、喫煙や受動喫煙ではこれらが合わさったものを吸い込んでいることになります。


たばこの三大有害成分

世界の喫煙に起因する年間死亡者数は、能動喫煙によって約700万人、受動喫煙によって約120万人と報告されています²⁾。また、日本人の年間死亡者数は、能動喫煙によって約13万人、受動喫煙によって約1万5000人(肺がん・虚血性心疾患・脳卒中による死亡)と推計されています³⁾。

たばこに含まれている「ニコチン」「タール」「一酸化炭素」は三大有害成分と呼ばれています。たばこの有害成分と聞いて、まず思い浮かべる代表的なものが「ニコチン」です。ニコチンは、たばこ葉の根で生合成されたのち、葉に蓄積する天然の成分です。ニコチンには毒性があり、本来は植物自身が虫や動物に食べられないよう、身を守るために生成している成分です。たばこはナス科の植物であるため、同じナス科のトマトやナス、ピーマン、ジャガイモなどにもニコチンは存在しますが、これらの植物に含まれるニコチンは非常に微量です。ニコチンは、喫煙によって発症リスクが高まるがんや脳卒中の直接的な要因であると思われていますが、現時点ではニコチンに発がん性は認められておらず、発がん性があるかどうかは不明です。しかし、ニコチンには麻薬と同等の強い依存性があると言われており、依存の離脱症状によって、不快感・抑うつ状態・不眠・気性が荒くなる・不安感・集中力欠如・心拍数減少・食欲増加などが見られます。この依存性から、たばこをたくさん吸うことによってニコチン以外の有害な化学物質を大量に摂取してしまい、各疾患の発病リスクも高まります。

「タール」はいわゆるヤニと呼ばれ、フィルターに付着する、べっとりしたものです。タールには数十種類の発がん物質が含まれています。「一酸化炭素」は酸素の運搬を阻害します。通常、体内に取り込まれた酸素は血中のヘモグロビンと結びつき、血液循環によって身体の各部に運ばれます。しかし、一酸化炭素は酸素の200~250倍の速さでヘモグロビンと結びつくことから、酸素とヘモグロビンの結合を妨げ、結果的に身体が酸素欠乏症に陥ります。

三大有害成分をはじめとした有害成分によって、各種がんや循環器疾患、呼吸器疾患、糖尿病、妊娠・出産へのリスク、小児の発育阻害などが引き起こされます。喫煙と各疾患との因果関係は次の表のように示されています。

「喫煙と健康 喫煙の健康影響に関する検討会報告書」より抜粋³⁾

InBodyは、喫煙が原因となる各種がんや循環器疾患・呼吸器疾患・糖尿病などのリスク管理に、測定項目を活用することができます。2009年の研究⁴⁾では、近年患者数が増加しているCOPD(慢性閉塞性肺疾患:たばこの煙などが原因で息がしづらくなる病気)患者に多い肺気腫(肺の呼吸機能が低下している状態)の重症度と筋肉量・体脂肪量の関係について発表しています。また、2014年のアジアサルコペニアワーキンググループの発表⁵⁾では、喫煙歴がサルコペニアに関連していると述べています。
※サルコペニアについてはInBodyトピック「サルコペニアの理解に必要なこと」をご覧ください。


新しいたばこの普及

最近は紙巻きたばこではなく、新しいたばこを利用する人も増えてきています。2018年に行われた、18~72歳の男女約4,000人が回答したアンケートによると、男性で14.5%、女性で4.7%の方が現在新しいたばこを使用していると回答しています。特に、20代の若者でその傾向は強く現れました(男性24.4%、女性10.1%)⁶⁾。新しいたばこは火を使わずに電気の力で水蒸気を発生させる仕組みで、大きく分けると次の2種類があります。

icon-caret-square-o-right たばこ葉を熱し、ニコチンが含まれた水蒸気を吸引する種類
従来の紙巻きたばこよりもニコチンの含有量が少なく、有害物質の一つであるタールも含まれないことから、紙巻きたばこより身体への悪影響が少ないと言われています。また、煙とニオイが少ないことも特徴です。

icon-caret-square-o-right 液状のリキッドを熱し、水蒸気を吸引する種類
ニコチンやタールを含まないため、紙巻きたばこや上記のたばこよりも身体への悪影響が少ないです。煙とニオイが多く、爆煙と呼ばれています。日本の薬事法上ではニコチンを含んだ液状のリキッドは販売禁止となっていますが、海外ではニコチンを含んだ液状のリキッドも流通しており、必ずしもニコチンが含まれていないたばことは言えません。

気を付けなければいけないのは、どちらも紙巻きたばこよりは少ないものの、有害化学物質を一切含んでいないわけではない、という点です。紙巻きたばこよりも身体への悪影響が少なく済むからといって、たくさん吸い続けると身体に悪影響が出ることに変わりはありません。

紙巻きたばこと比較すると、新しいたばこの主流煙は有害化学物質量が減少していますが、ニコチン量はほぼ同量です。その反面、製造方法や加熱方法の違いにより、一部の有害化学物質は新しいたばこの方が増加していました。受動喫煙における曝露量は紙巻きたばこより新しいたばこの方が少なくなっていたものの、ニコチンの受動喫煙は確認されており、新しいたばこだからといって、受動喫煙が全く0になるわけではありません⁶⁾。

これらのたばこはまだ発売されてから日が浅いこともあり、身体への影響における紙巻きたばことの違いや、がん発症リスクなどの検証が十分に行われていません。たばこへの規制が厳しい米国でも、新しいたばこに関して有害化学物質の発生低減を認めてはいますが、発症リスクの低減についてはまだ認めていません。2019年の研究⁷⁾では新しいたばこのフィルターから加熱時に有害化学物質が発生していることが報告されており、新しいたばこによる新たな問題も生じているようです。新しいたばこの影響については研究が進められていますが、WHOも継続した評価が必要であると主張しています。
※これらのたばこは「加熱式たばこ」「非燃焼式たばこ」「電子たばこ」等、表記が統一されていないため、今回は「新しいたばこ」としています。


進んでいく分煙

改正法が施行されると、原則室内禁煙となります。しかし、施設における事業内容や経営規模に対する配慮から、その類型・場所ごとに、各種喫煙室の設置が認められています。

「なくそう!望まない受動喫煙。」 厚生労働省より抜粋⁸⁾

通常の施設内では、「喫煙専用室」「加熱式たばこ専用喫煙室」の設置が可能です。「喫煙専用室」では加熱式たばこを含めたたばこの喫煙が可能ですが、飲食を始めとするサービス等の提供はできません。一方、「加熱式たばこ専用喫煙室」では、加熱式たばこのみの喫煙が可能ですが、飲食等の提供は可能です。どちらも施設の一部に設置が可能です。

シガーバーや、たばこ販売店、公衆喫煙所など、喫煙をサービスの目的とする施設(喫煙目的施設)については、受動喫煙防止の構造設備基準に適合した室内空間に限り、「喫煙目的室」を設けることができます。喫煙目的室では、喫煙に加え、飲食を始めとするサービス等を提供することも可能です。

しかし、経営規模の小さな飲食店については、喫煙目的室を設置できるほどの十分なスペースを確保することが難しく、事業継続に影響を与えることが考えられます。経過措置として、既存の小さな飲食店(客席面積100m²以下)のみ「喫煙可能室」の設置を認め、喫煙に加え、飲食を始めとするサービス等を提供することを可能としています。

「なくそう!望まない受動喫煙。」 厚生労働省より抜粋⁸⁾

また、これらを設置した場合、施設内に喫煙室がある旨を周知する必要があります。今後、このような標識を見る機会が増えるでしょう。


終わりに

たばこは江戸時代から人々の生活に根付いている文化の一つであるため、なくなることはないでしょう。たばこを吸う人吸わない人それぞれに配慮した社会環境作りが今後、更に進められていきます。現在、世界的な問題になっているコロナウイルス(COVID-19)も肺炎などの呼吸器疾患を起こしやすく、同様に呼吸器へ悪影響を及ぼす喫煙との関係が示唆されています。
※詳しくはInBodyトピック「呼吸器疾患とは Part1: 主な呼吸器疾患」をご覧ください。

WHOのテドロス事務局長も3月20日の談話の中で、「たばこを吸わないでください。喫煙は、もしあなたがコロナウイルスに感染した際、重症化するリスクを高めます。」と話しています⁹⁾。この記事を機に、たばこを吸う人も吸わない人も今一度、たばことの関わり方を考えてみてください。

 

参考文献
1.「JT(日本たばこ産業株式会社)」公式ホームページ
2.「Tobacco」WHO
3.「喫煙と健康 喫煙の健康影響に関する検討会報告書」厚生労働省
4. Extent of Emphysema on HRCT Affects Loss of Fat-free Mass and Fat Mass in COPD. Hiroko Kurosaki, Takeo Ishii, et al., Inter Med. 2009; 48: 41-48
5. Sarcopenia in Asia: Consensus Report of the Asian Working Group for Sarcopenia. Liang-Kung Chen, Li-Kuo Liu, et al., JAMDA. 2014; 15: 95-101
6. 非燃焼加熱式たばこにおける成分分析の手法の開発と国内外における使用実態や規制に関する研究. 欅田 尚樹, 伊藤 加奈江, 木村 和子, 田淵 貴大, 厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究, 2018
7. iQOS: evidence of pyrolysis and release of a toxicant from plastic. Davis B, Williams M, Talbot P, Tob Control. 2019; 28(1): 34-41
8.「なくそう!望まない受動喫煙。」厚生労働省
9.「WHO Director-General’s opening remarks at the media briefing on COVID-19 – 20 March 2020」WHO

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水は飲めば飲むほどいいのか?

運動中にも十分な水分補給が必要という話を聞いたことはありますか? のどが渇く前に水を飲んだ方がいいという話はどうでしょうか? 水分補給に関しては様々な意見がありますが、汗で失った水分を適切に補給することが重要なことは間違いありません。水は人体の機能が正常に作用するために必要不可欠であり、何らかの理由で水分を失ったのであれば必ず補給しなければなりません。


では、逆に水を「飲みすぎる」ことはどうでしょうか? 健康に問題はないでしょうか? 答えは「飲みすぎは問題になる」です。水を飲みすぎると体内のナトリウムをはじめとした各成分が希釈され、命の危険をもたらすほど血中濃度が低くなり、体内の電解質均衡が崩れます。電解質異常は深刻な症状に繋がることもあります。まずは、水分摂取量が適切でないと、どういう問題が生じるのかを説明します。


適切な飲水量はどれくらい?


詳しい説明の前に、水と人体はどういう関係かを見てみましょう。まず、食べ物や空気と同じく、水は生命維持に関連する重要な要素です。人体の約60%は水であると言われており、人体を構成する必要な成分と言えます。水は体温の維持に役立ち、血液として栄養素を運び、老廃物を尿の形で排出し、内臓にある程度溜まっていることで詰め物のような役割をします。水は人体に細胞単位から関与しているため、水を十分に摂取しないと1日も経たないうちに、致命的なダメージを受けてしまう恐れがあります。水が足りないと人体は脱水状態に陥ります。軽い脱水でも疲労感や認知機能・運動能力の低下等の症状が現れます。そして、深刻な脱水になると死に至ることもあります。

アメリカで行われた研究を基にした一般健常者の1日推奨水分摂取量は、男性約3.7L・女性約2.7Lです¹⁾。しかし、この水分摂取量は普通に生活する一般人における推奨量であり、アスリートや定期的に運動をする方の場合、または暑くて湿度が高い天気の場合は推奨量も増えます。また、妊婦や授乳中の女性はより多くの水分摂取が必要となります²⁾。
※脱水についてもう少し詳しく知りたい方はInBodyトピックの「脱水時に必要な飲み物は? 」もご覧ください。


水を飲みすぎるとどうなるのか?

2003年、64歳の女性が自宅で死亡しました。死亡前日、女性は30~40杯ほどの水を飲み、何度も嘔吐しました。女性は徐々に方向感覚を失い、痛みを訴え、水を十分飲めていないと叫び始めました。女性は医師の診断も拒み、横になって寝ているうちに死亡しました。女性には既往歴がなかったため、死亡6時間後に死体解剖が行われました。血液毒物学的な観点から様々な原因が除外されたあと、最終的に見い出された死因は「急性水中毒による血中ナトリウム濃度の低下(低ナトリウム血症)」でした³⁾。低ナトリウム血症とは血中のナトリウム濃度が低い状態を意味し、最も頻繁に見かける電解質異常症です。低ナトリウム血症の診断基準は血中ナトリウム濃度<136mmol/Lと定められています。


また、長距離トライアスロン選手を対象にした研究もあります⁴⁾。この研究ではニュージーランドのトライアスロン選手330名のうち58名が、競技終了時の血液検査から低ナトリウム血症を発症していると診断されました。58名中医師の診察を受けた18名は、重度の低ナトリウム血症と診断され、深刻な症状が現れていました。研究結果によると、長距離運動選手において低ナトリウム血症はよく見かける状態であり、無症状の選手も多いことが分かりました。また、運動選手の深刻な低ナトリウム血症の約73%は、体液過剰が原因として挙げられています。他にも水分摂取に関する多くの研究がありますが、結論はどれも同じで、あまりにも水を飲みすぎるとかえって健康に悪影響を及ぼすということが示されています。


なぜ問題が起こるのか?

なぜ水を飲みすぎると、最悪の場合、命を落とすほど健康を損なうのでしょうか? その理由を理解するため、人体がどのように水と塩分(ナトリウム)、そして老廃物を扱っているのかを確認する必要があります。

臓器の中でも腎臓はフィルタのような役割をします。血液は腎動脈を経由して腎臓に流れ込みます。腎臓に入った血液から過剰な体液と老廃物が腎小体と細尿管で構成されたネフロンでろ過されます。ろ過される老廃物の中には塩分も含まれていますが、人体が必要とするものは再吸収され、残りは尿管に送られて尿として排出されます。しかし、水を飲みすぎると腎臓のろ過機能に過剰な負担をかけることになります。そうなると人体には、うまくろ過されなかった過剰な体液と老廃物が滞留されたままになり、低ナトリウム血症の原因となります。また、既に腎機能に問題があった場合は、より状態が悪化する恐れもあります。


水中毒


水分や老廃物を除去する腎機能に負担がかかりすぎると、上述した64歳女性の死因でもあった “水中毒” に発展する恐れがあります。水中毒と呼ばれる状態は電解質不均衡が原因であり、低ナトリウム血症を引き起こします。血中ナトリウム濃度が急激に低下すると、次のような症状が現れます。

・初期症状: 混乱、方向感覚の喪失、吐き気、嘔吐を含む精神状態の変化、または精神異常
・後期症状: 初期症状を放置すると発作、意識不明、最終的には死亡


低ナトリウム血症の種類

低ナトリウム血症はナトリウム摂取量の不足だけが原因ではありません。これは水分摂取量に比べナトリウム摂取量が少ないパターンです。低ナトリウム血症には3つのタイプがあり、それぞれ異なる原因で発症します。

1. 細胞外液量正常型の低ナトリウム血症 (Euvolemic hyponatremia)
希釈性低ナトリウム血症とも言われる症状で、水をたくさん飲みすぎることで生じる症状はこちらに該当します。一般的には多飲症(polydipsia)やその他の原因で水を飲みすぎると発生します。代表的な治療方法は原因となる疾患(糖尿病、精神疾患、脳損傷)を治療することです。

2. 細胞外液量増加型の低ナトリウム血症 (Hypervolemic hyponatremia)
このタイプの低ナトリウム血症は水分とナトリウムが同時に増加しているものの、相対的に水分増加量がナトリウム増加量を上回るときに発症します。心不全や肝硬変などの疾患による浮腫で体液貯留が生じると発生することが多いです。治療方法としては水分摂取量の制限と利尿剤を使用して強制的に水分を排出する方法があります。

3. 細胞外液量減少型の低ナトリウム血症 (Hypovolemic hyponatremia)
細胞外液量増加型とは逆に、細胞外液量減少型の低ナトリウム血症は水分とナトリウムが同時に減少しているものの、相対的にナトリウム減少量が水分減少量を上回るときに発症します。このタイプの低ナトリウム血症はナトリウムを含んでいる体液の損失によって起こり、嘔吐や下痢による体液損失が代表的な原因です。また、利尿剤や腎疾患によっても発症します。治療は重症度によって異なりますが、0.9%濃度の生理食塩水などの電解質を投与して失った水分とナトリウムの交換を行う必要があります。


適量の水を摂取するために

ここまで過剰な水分摂取で起こりうる問題についてお話しました。では、どうすれば適切な量の水を飲むことができるのでしょうか? 次に、過剰な水分摂取を避けるために実践すると良い方法をいくつかご紹介します。


1. のどが渇いてから水を飲む


体は水分が足りないときに適切に反応します。そのため、のどが渇いてから水を飲み、渇く前には飲まないようにしましょう。殆ど座って生活する場合は推奨水分摂取量に従って水を飲み、活動量が多い場合は推奨量よりは多めに水を飲んでください。のどがいつ渇くのかを記録することも良いかもしれません。


2. 1時間にどれほど汗をかいているか推定する


これは少し複雑な方法ですが、暑くて湿度の高い日に外で運動する時や、競技スポーツをするときに試してみると良い方法です。まず、運動前に体重を測り、運動中にのどが渇いたら水を飲んで、運動が終わってまた体重を測ります。そして、運動中にどれほど水を飲んだのかも確認しておきます。

理想は運動前後の体重が同じか、運動後の体重減少量がわずかな状態です。必要以上に水分を摂取していれば、体重は増加するはずです。この方法からどれほど汗をかいていたか、どれほど水を飲めばいいのかを推定できます。


3. 飲み過ぎないように注意する


最も簡単な方法はこれです。のどの渇きが解消されたらそれ以上飲まないようにしましょう。それ以上飲むと吐き気や嘔吐など、水中毒の症状を経験することになるかもしれません。だからといって全く水を飲まなくていい、ということではありません。のどが渇いてなければそれ以上飲まないということです。

必要な量の水分を摂取できているかを見分ける簡単な方法があります。のどが渇く頻度が少なかったり、尿の色が透明または薄い黄色をしていたりすると水分摂取量が足りていると判断していいでしょう。尿のカラーチャートはInBodyトピックの「脱水時に必要な飲み物は? 」内で確認できます。


正しく水分を摂取するために

「過ぎたるは猶及ばざるが如し」といいます。水も同じで、摂取量が少なすぎても多すぎても健康に悪影響を及ぼします。しかし、体が送る信号に従って水を飲む量やタイミングを調整するだけでこれらの問題は解決できるでしょう。適量の水を飲んでいるか、今一度確認してみてください。

 

参考文献
1. Dietary Reference Intakes for Water, Potassium, Sodium, Chloride, and Sulfate, The National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine
2. Hydration for Pregnancy and Motherhood, Emma Derbyshire, Pregnancy and Motherhood May 2016
3. Fatal water intoxication, D.J. Farrell and L. Bower, J Clin Pathol. 2003 Oct; 56(10): 803–804
4. Hyponatremia in ultradistance triathletes. Speedy DB, Noakes TD, et. al., Medicine and Science in Sports and Exercise, 01 Jun 1999, 31(6):809-815

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免疫力を高める方法

インフルエンザが流行っても全く影響がない人がいれば、数日間高熱を出しながらベッドから一歩も動けない人もいます。また、よく風邪をひく人もいれば、年に数回軽い症状だけですぐ治る人もいます。このような違いは、免疫力の差によって生じると言われています。ウイルスに感染すると、人体はすぐに進入を防ぐための防御体制に入ります。免疫系はこの防御体制の最前列に立ち、体を守る役割をします。この防御体制は常に様々な菌やウイルスから体を守ろうと働いています。

人体の防御体制は体を守り、健康を維持できるように長い年月を経て進化してきました。様々な菌が身の回りの至るところにあり、体内に侵入してしまうこともありますが、私たちは何事もなく生活できています。このように、健康を維持するためには最前線でウイルスと戦う免疫系を強化することが重要です。今回のトピックでは、免疫力を高めるために役立つ方法をご紹介します。


人体の免疫系とは


免疫系は健康を維持するための必須要素で、様々な細胞が密接に連携している複雑なシステムです。免疫系の主な役割は、様々な病原体が体内に侵入して恒常性を乱そうとするときにこれらを中和して有害な要素を排除すること、つまり疾患の原因になる細胞と戦うことです。免疫系は大きく自然免疫(先天性免疫、基本免疫)と獲得免疫(後天性免疫、適応免疫)に分けられます¹⁾。

ウイルスや細菌が体内に侵入するときに初めて当たる防御体制は、皮膚や粘膜などの細胞上皮です。細胞上皮は機械的(多重構造の物理的防御壁)・科学的(分泌液や胃液などの化学物質での防御)・生物学的(腸内細菌などの体内微生物による防御)方法で病原体を排除します。細胞上皮を突破した病原体が体内まで侵入すると、次に自然免疫系と対峙します。自然免疫系ではマクロファージや好中球などの食細胞を中心に病原体を排除します。より確実に病原体を排除するために、獲得免疫系が抗体を形成する際に必要な情報を記憶します。白血球の一種であるT細胞やB細胞などは一度進入した病原体の情報をマクロファージや樹状細胞から受け取り、記憶しておいたあと、病原体に感染された細胞を殺すことで迅速にウイルスを排除します。

このように、免疫系は様々な細胞と密接に連携して適応・進化することで健康を守っています。免疫系を強化して更に健康を維持しやすくするためには、どのような日常的行動があるのでしょうか。


免疫力を高めるための7つの方法


1.禁煙


喫煙が体に及ぼす悪影響については言うまでもないでしょう。喫煙は免疫系を損傷させるだけでなく心血管疾患・自己免疫機能損傷・呼吸器疾患・神経疾患とも関連します²⁾。喫煙と関連する疾患の症状としては息切れ・長引く咳・頻繁な風邪等が挙げられます。特に喫煙で吸い込むニコチンは樹状細胞などの獲得免疫細胞の免疫監視機能に影響を及ぼすことで、免疫抑制剤のような働きをして免疫系の活動を鈍らせます³⁾。つまり、たばこを吸うことは免疫系の働きを邪魔することと同じと言えるでしょう。


2.適量の飲酒


祝い事や記念日など、楽しい時間にお酒は欠かせないでしょう。適量のお酒を嗜むことはストレスを軽減させることもでき、雰囲気を楽しむには良いかもしれませんが、飲みすぎると免疫系を損傷させます。アルコールは肝臓を含む臓器損傷の因子でもあり、体の回復速度を遅らせます。厚生労働省で発表したアルコール摂取適量は一日約20g(純粋なアルコールの量)で、濃度5%のビール500mlほどです⁴⁾。適量以上のアルコール摂取は必須免疫経路を邪魔し、感染に対する身体の防御能力を低下させます⁵⁾。また、アルコールに関わる免疫系障害は特定のがんの発病率を高める可能性があります。このような問題は慢性的にアルコールを摂取する人に限られているわけではなく、一時的な暴飲も防御機能には重大な損傷を及ぼす恐れがあります。


3.ストレスを減らす


慢性ストレスは毒のようなものです。ストレスは健康に関する全ての要素に悪影響を及ぼします。更に、意識できないストレスが徐々に体を蝕んでいくことも危険です。様々な身体システムの中で体の辛い状態をコントロールするのが免疫系です。特に、免疫系の細胞はコルチゾールのようなストレスホルモンを認識する受容体を持っています⁶⁾。

急なストレスは血液内の炎症性因子であるサイトカインの濃度を高め、免疫系を乱します⁶⁾。ストレス・抗体・疾患はお互いに密接しており、これらの関係はライフステージ・環境・目標・ストレスを感じた期間・十分な睡眠のような因子によって左右されます。従って、健康を維持するためには友達や家族と一緒に楽しい時間を過ごしたり、適切な運動や趣味を楽しむことで、ストレスを緩和させたりすることが効果的です。


4.十分な睡眠


睡眠は免疫プロセスを整える心強いコーディネーターであり、獲得免疫にかかわる細胞の記憶能力を向上させます⁷⁾。適切な睡眠をとらないと、風邪やインフルエンザなどの感染リスクが高くなるだけではなく、ウイルスや細菌の感染からの回復速度も遅らせてしまいます。睡眠中に免疫系が強化され、有害要素をフィルタリングする役割を持つ免疫器官であるリンパ節にT細胞を移動させます⁷⁾。T細胞は体に炎症反応があるときやストレスを感じるときに作用するサイトカインを生成しますが、睡眠時間が足りないとサイトカイン生成量が減り、免疫系は更に損傷されます。十分な睡眠はひどい風邪にも良い薬と言えるでしょう。


5.定期的な運動習慣


定期的な運動習慣は免疫機能を向上させ、外部感染からの防御機能を強化させることが様々な研究から明らかになっています⁸⁾⁹⁾。筋トレを行い、筋肉量を増やすことで、免疫系が疾患と戦うために必要なタンパク質量を増加させることに繋がります¹⁰⁾。簡単にいえば、健康的な食事と定期的な運動を行って筋肉量が増えると、免疫系が疾患と戦って健康を守ることに役立ちます。逆に、あまり運動をしないで筋肉量が落ちてしまうと病原菌やウイルスから体を守ることが難しくなるでしょう。

できれば室外で運動することもお勧めします。室外での運動は、ストレス解消はもちろん、ビタミンDの生成にも良い効果をもたらします。ビタミンDは日光を浴びることで体内から作られるもので、多くの研究で骨の健康を守るだけではなく、免疫力を高める効果や糖尿病・高血圧・心疾患のような疾患のリスクを下げる効果も示されています¹¹⁾。そのため、天気がいい日には外で日光を浴びながら運動をするのも良いでしょう。もちろん、紫外線対策はしっかり行ってください。

加齢に伴い身体の様々な能力は低下していきますが、免疫力も例外ではありません。しかし、高齢者において定期的な身体活動は加齢の影響を抑え、感染や疾患に対する免疫機能を強化するという研究結果もあります¹²⁾。


6.健康的な食事


体は適切に機能するためにエネルギーを必要とします。このエネルギーは食事を取るとカロリーという形で体に提供されます。エネルギー摂取が足りないことは、微量栄養素欠乏及び免疫系と主要身体機能損傷の原因となります。世界的に、栄養不良は免疫欠乏の最も大きい原因として挙げられています¹³⁾。食事はとても大事です。食事の取り方次第で、健康を維持するために必要な化学経路が作られることもあれば、破壊されることもあります。栄養が豊富な食事を取ることは、免疫系を強化させ健康維持に貢献します。

特定栄養素の欠乏・過度な食事制限・栄養不良は、フリーラジカルを過剰に生成させ、感染に対する免疫細胞を損傷させる恐れがあります。ビタミンやミネラルなど適切な栄養分を摂取し、時間をかけて改善していくことが重要になります。緑黄色野菜やポリフェノールが豊富に含まれている食品には、フリーラジカルによる酸化作用を打ち消す抗酸化物質が含まれています。

フィトケミカル(phytonutrients)と呼ばれる植物由来の化学物質も免疫系強化に重要な役割をします。ポリフェノール・フラボノイド・イソフラボン・カロチノイド・植物性エストロゲン等、一部のフィトケミカル成分は免疫力を高める効果を持っています。フィトケミカルの摂取は健康増進だけではなく、がんや心血管疾患・神経変性疾患・糖尿病・炎症性疾患のような慢性疾患の予防にも役立ちます¹⁴⁾。

このようにビタミン・ミネラル・主要アミノ酸を含むタンパク質等をバランスよく摂取することで感染抵抗力を高めます。もし食事だけで必要な栄養分を摂取することが難しいのであれば、総合ビタミン剤やサプリメントで補うことも良いでしょう。


7.適切な体脂肪率の維持


過剰なエネルギー摂取は炎症性疾患及び自己免疫疾患のリスクを高めると報告した研究もあります¹⁵⁾。健康体の理想的な体脂肪率は、男性10~20%・女性18~28%の間です。体脂肪率が高すぎると、免疫反応の調節が上手くいかなくなってしまう恐れがあります。

怪我をするとその部位が赤くなり、少し熱くなる経験をしたことがあると思います。発赤・疼痛・熱感・腫れは炎症の代表的な兆候です。炎症は傷害や感染を受けた細胞が分泌するサイトカインによって生じる反応です。つまり、炎症は病原体が体内に侵入されてきたことを免疫系に伝えて、病原体の排除と修復を促すことで健康を維持できるようにしています。しかし、過剰な体脂肪によって炎症反応が促進されると、免疫系はそちらの解決を優先に動くため、他の病原体から体を守ることが疎かになります。この場合、解決方法は簡単です。体成分を改善させることで過剰な体脂肪の悪影響を除去することです。内臓脂肪を含む過剰な体脂肪量を減らすことで、免疫系を過度に活性化させる炎症性因子を減らせます。そうすると、過剰に放出されていた血液内の免疫細胞の循環も徐々に少なくなり、免疫系の混乱を抑えることができます。正常な免疫系は疾患から体を守りますが、免疫系が過度に活性化されると身体の炎症反応を促進する免疫細胞の数が増えてしまい、反応が鈍くなってしまいます。

もちろん、体成分を改善させることは体脂肪量を減らすだけではありません。運動と食事で体脂肪量を減らしつつ、筋肉量を増やすことで免疫機能を強化することができ、長期的な健康維持に繋がります。


免疫系の健康を維持するために

人体の免疫系は健康を守り、恒常性を保つために休むことなく動いています。このような免疫系の働きをより良くするために、できることから実行してみてはいかがでしょうか。一気に全てを変えることは難しいと思うかもしれませんし、やっていてもすぐには実感できないかもしれません。しかし、次に季節の変わり目を迎えたときにあまり風邪を引かなくなったり、風邪を引いても以前より楽になったり、早く治るようになったりというような、体調の僅かな変化からも免疫系の向上を実感できるでしょう。

 

参考文献
1. Overview of the Immune Response, David D. Chaplin, J Allergy Clin Immunol. 2010 February;125(2 Suppl 2): S3–23.
2. Impacts of cigarette smoking on immune responsiveness: Up and down or upside down?, Feifei Qiu, Chun-Ling Liang, et, al., Oncotarget. 2017 Jan 3; 8(1): 268–284.
3. Evidence for the immunosuppressive role of nicotine on human dendritic cell functions, Mahyar Nouri-Shirazi and Elisabeth Guinet, Immunology. 2003 Jul; 109(3): 365–373
4. 「健康日本21」厚生労働省
5. Impact of Alcohol Abuse on the Adaptive Immune System, Sumana Pasala, Tasha Barr, and Ilhem Messaoudi, Alcohol Res. 2015; 37(2): 185–197
6. Current Directions in Stress and Human Immune Function, Jennifer N. Morey, et, al., Curr Opin Psychol. 2015 Oct 1; 5: 13–17.
7. Sleep and immune function, Luciana Besedovsky, et, al., Pflugers Arch. 2012 Jan; 463(1): 121–137
8. Exercise and the immune system, Brolinson PG, Elliott D., Clin Sports Med. 2007 Jul;26(3):311-9
9. Cancer, Physical Activity, and Exercise, Justin C. Brown, et, al., Compr Physiol. 2012 October ; 2(4): 2775–2809
10. The underappreciated role of muscle in health and disease, Wolfe RR, Am J Clin Nutr. 2006 Sep;84(3):475-82
11. Vitamin D and the Immune System, Cynthia Aranow, J Investig Med. 2011 Aug; 59(6): 881–886
12. Exercise and the aging immune system, Simpson RJ, et, al., Ageing Res Rev. 2012 Jul;11(3):404-20
13. Nutrition and the immune system: an introduction, Chandra RK, Am J Clin Nutr. 1997 Aug;66(2):460S-463S
14. Phytonutrients as therapeutic agents, Gupta C, Prakash D, J Complement Integr Med. 2014 Sep;11(3):151-69
15. Fat: A matter of disturbance for the immune system, Alessandro Federico et, al., World J Gastroenterol. 2010 Oct 14; 16(38): 4762–4772
16. InBodyトピック「InBody S10 -何ができて誰に必要なのか-

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健康美に対する認識が間違っている理由


美しさの基準は人それぞれですが、多くの人が(特に女性)考えている “理想的な体” というものは、実はそれほど健康的ではないことがあります。「これから運動をはじめよう」と行動を起こす背景には、自身の生理学的経験や心理的感情が複雑に絡んでいます。生い立ち・国柄・文化などは健康美に対する認識へ関係していますが、テレビ・雑誌・広告・SNSなどメディアで目にするものも、健康や運動意欲に大きく影響を与えます。

スーパーモデルの例を見てみましょう。平均的な体型とかけ離れている、とても細い体のモデルが理想として宣伝されています。しかし多くのモデルは、コットンボール・ダイエット(綿を食べることで満腹感を得るダイエット)のような不健康で危険なダイエットによって、その薄っぺらい体を維持しています。そして、メディアを通してスーパーモデルを目にした人々や、モデルに憧れる若い女性達は、そのモデルの体型を理想的な体と捉えます。これは間違った健康美を印象付けてしまう一例に過ぎず、その他にも誤解を与えてしまう要素はたくさんあります。


健康で綺麗になるための選択


偶像化された体型は、必ずしも健康的なライフスタイルによって生みだされているという訳ではありません。摂食障害のひとつである「オルトレキシア(orthorexia)」という言葉を聞いたことがあるでしょうか? 一般的な摂食障害との大きな違いは、カロリーや量ではなく質に異常なまでに執着してしまうことで、グルテン・オイル・糖質・添加物・動物性食材などを徹底的に制限し、極端な偏食になっていきます。「健康的」と考えられる食事以外を信じられなくなっている状態なので、不健康なものを摂取することに過剰な不安や恐怖心を抱き、制限を破ってしまうと嘔吐したりしてしまうこともあります。結果、ビタミン・ミネラル・タンパク質など健康を保つために必要不可欠な栄養素が不足し、重度な栄養失調や神経性やせ症など様々な病気を引き起こしてしまいます。体脂肪は多過ぎても健康には良くありませんが、少な過ぎても良くありません。体脂肪は体温調節やホルモンの材料としても使われており、生命維持のためにも必要な成分です。

美意識が高いと言われるモデルや女優、セレブらによって、オーガニックフード・ヴィーガン・スーパーフード・スムージーなどお洒落なライフスタイルが毎日のようにSNSで拡散されている今日では、「こういう食事を取らなければ健康になれない」と受け取ってしまうのも致し方ありません。しかし、痩せることを望んで(体重を減らしたくて)生じる拒食症とは異なり、オルトレキシアは純粋に健康的で自然体になりたいことを望んで発症しているため、自身が摂食障害であることを理解するのが難しく、不健康な状態もなかなか気づきにくいです。


本当に意識すべき健康マーカー

体重とBMIが標準に入っているからと、安心していませんか? 健康と考えていた体が、実際は健康とかけ離れているということはないでしょうか? 体重とBMIは、健康状態を評価する指標としては十分ではないと指摘されているにもかかわらず、最も長く使用され、最も一般的に使用されている項目です。体重やBMIは手軽に測定できるので、自身の体型評価をこれらに頼っているという方も多くいますが、体重やBMIは見かけの肥満度にしか過ぎません。BMIは単純に身長と体重の比率に過ぎず、その比率で低体重(BMI18.5未満)・普通体重(BMI18.5~25.0)・肥満(BMI30.0以上)を決定します。BMIだけで健康を評価すると、筋肉量が多い健康なスポーツ選手が肥満(不健康)に分類されたり、代謝異常によって過剰に体脂肪量が貯蓄されている患者が標準体重(健康)に分類されたりしてしまうことも問題です。性別・身長・体重が同じでも、見た目や体型はまったく異なるという場合もあります。このことから、体成分がとても重要であるということが理解できます。

体成分分析は体を構成している各成分を定量化して、その過不足を評価します。単純に体重を筋肉量と体脂肪量に分けるだけでなく、筋肉を構成している体水分量とタンパク質量をそれぞれ表示し、除脂肪量は筋肉量とミネラル量の合計として、体系的に表示します。全ての成分が定量化されることで、本当の意味で筋肉質であるのか、痩せているのかを評価できます。痩せているとは、身長に対して必要な体重が足りていないこと(標準体重より軽いこと)を指しますが、体重は標準体重であっても、筋肉量が足りていない痩せタイプ(隠れ肥満・痩せ肥満体型・サルコペニア肥満・スキニーファット)も確認することができます。


全てを手に入れることはできません

運動をする目的は、大きく分けると次の3つです。
icon-caret-square-o-rightスタイルを整えて外見を良くするため
icon-caret-square-o-right健康のため
icon-caret-square-o-rightスポーツ活動でパフォーマンスを向上させるため
残念なことに、この3つの目的を同時に達成することはできません。それぞれの目的を達成するには、異なるアプローチ、トレーニングが必要であるためです。そして、このような目的を持ち運動をしている方は、必ずしも健康体・健康美であるという訳ではありません。

スタイルに関して間違った理想を持ち、その理想に近づくことだけを目標にしていると、過剰なトレーニングや偏った食事など不健康なライフスタイルにたどり着くこともあります。健康のためと考えて選択した行動であっても、夢中になり過ぎると、疲労感・脱力感・無気力・罪悪感などに苛まれ、精神的な症状が発生することもあります。一見、不健康とは真逆にいるようなトップアスリートの中には、肝不全を経験したボディービルダーや心臓発作を起こしたレスリング選手もいます。

 


バランスの良い食事と一緒に好きなものを食べましょう。健康だからと言って、特定のものだけを食べ続けるようなことはしないでください。野菜・果物・穀物・赤身のタンパク質など、栄養豊富な食事を目指して努力することが大切です。糖質を少しでも抑えたい場合は、炭水化物を一切抜くのではなく、ごはんを大麦に置き換えるなど工夫してみましょう。大麦はg当たりの糖質がごはんの約1/2で、食物繊維は約20倍もあります。栄養が適切に補給できていること、過度に制限されていないことを確認してください。

 


好きなトレーニングを選択してください。ランニングが嫌いだからと言って、有酸素運動を避けてはいませんか? 有酸素運動はランニングが全てではありません。水泳・ハイキング・サイクリング・ヨガ・ローイングエルゴなども有酸素運動として選択肢になります。筋トレには、重いウエイト器具だけが効果的であると考えていませんか? トレーニングチューブや体重を使ったトレーニングも効率よく筋肉を鍛えることができます。様々なトレーニングを試して、自分に合ったものを探してみましょう。

十分な休養と睡眠を取ってください。睡眠は筋肉の成長や喪失に関わる体内のホルモン分泌に直接影響するので、体成分にとって重要な要素です。水分補給も忘れないでください。人体の大部分は “水” です。脱水は、筋肉疲労・めまい・頭痛などの諸症状を引き起こします。

健康美に対する認識が間違った状態で、食事・運動・ダイエット方法などを決定しないでください。健康の焦点を体成分に当ててみると、今後の選択が変わってくるかもしれません。

 

参考文献
1. InBodyトピック「体成分測定が必要な3つの理由」
2. InBodyトピック「カーボローディングとは」
3. InBodyトピック「疲労と回復のメカニズム」
4. InBodyトピック「脱水時に必要な飲み物は」

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良い痛みと悪い痛み

高強度の運動を続けるとき、「筋肉痛がないと筋肉は増えない」と考えながらモチベーションを維持する方が多いでしょう。運動した次の日に筋肉痛があると、筋肉が作られていると思い、やりがいを感じるかもしれません。しかし、運動後の痛みは全て筋肉が作られているとは限りません。痛みのパターンと原因は様々ですが、どの痛みも体で「何かが起こっている」ことを知らせる伝達反応です。痛みを正しく理解することで、運動を続けても良いのか運動を中止して専門家に相談すべきなのかを判断できるようになります。では一体、どの痛みが良い痛みで、どの痛みが悪い痛みなのでしょうか。今回は痛みについて詳しくお話しします。


痛みを正しく理解するために確認すること


痛みには良い痛みと悪い痛みがあります。例えば、固くなっている筋肉をマッサージでほぐす時に感じる痛みは「良い痛み」です。逆に、姿勢の問題が原因で、朝起きて首が痛いなどの場合は「悪い痛み」と言えるでしょう。そして高強度の運動で体が限界に近づいた時に感じる痛みは、良い痛みとも悪い痛みとも言えず、この間に位置します。専門家が痛みの種類を見極める判断材料は、痛みが発生した状況・痛みの強度・痛みの頻度・痛みが発生している部位・痛みの質があります。痛みの頻度や発生している部位について判断するのは難しくないため、他の項目について簡単に説明します。

 icon-caret-square-o-right 痛みが発生する状況
状況とは「いつ、どのタイミングで痛みが発生するのか」を予想するために最も重要な部分です。常に痛いのか、特定の動きをすると痛いのか、この痛みのパターンを知っておくことで、痛みを防ぐためにできることを考え、工夫することもできます。

icon-caret-square-o-right 痛みの強度
どれだけ痛みがひどいのかを把握することも重要です。これを把握しやすくするためには、痛みを数値化する方法、VAS(Visual Analogue Scale)・NRS(Numerical Rating Scale)・FRS(Face Rating Scale)などがあります。現在の痛みがどの程度かを把握することで、痛みの状態をより客観的に理解し、痛みの緩和や悪化のスケールとしても使用できます。

icon-caret-square-o-right 痛みの質
痛みを説明する表現は様々です。例えば「脈打つような」「ズキズキするような」「電気が走るような」「しびれるような」「凍てつくような」など、今の痛みがどのような性質なのかを具体的に表現することで、痛みの原因を特定し、性質が違う痛みを分けてそれぞれで評価することができるようになります。


痛みの種類


痛みは大きく次の3つに分類できます。

1. 侵害受容性疼痛
怪我や火傷をしたとき、侵襲性がある手術の回復期に感じる痛みがこれに該当します。この痛みの原因は炎症によるもので、炎症から発生した疼痛物質が末梢神経を刺激し、痛みを感じるようになります。この痛みは、体がまだ回復しきれていないというサインです。この状態で体を動かすと、痛みが悪化したり、最悪怪我が再発したりしてしまうケースもあります。この痛みは、回復期には必ずある反応なので心配いりませんが、治った後まで続くと慢性の痛みに発達するため注意が必要です。

2. 神経障害性疼痛
何らかの原因で痛みを司る神経経路(中枢・脊髄・末梢神経)で損傷がある場合に生じる痛みです。大怪我をした人が、怪我の完治後でも「前みたいに動けない」と感じたり、以前は痛くなかった動作で痛みを感じたりしてしまうというケースがこれに該当します。

3. 心因性疼痛
身体の異常が原因で起こるのではなく、心理的な原因で発生する痛みです。社会的・心理的ストレスによって急に痛みを感じることがこれに該当します。

激しい運動による筋肉痛は1番目の侵害受容性疼痛に該当します。この痛みは運動をする人であれば誰でも経験がある痛みで、炎症反応から来る筋肉痛は怪我とは異なりますが、侵害受容性疼痛の一種である炎症性疼痛と分類されます。しかし、筋肉痛の中でも遅発性筋肉痛(Delayed Onset Muscle Soreness; DOMS)と言われるこの筋肉痛には注意を払う必要がある場合もあります。

DOMSは激しい筋トレを行った後、数時間後から数日後によく発生する痛みです。DOMSの原因はいくつかありますが、筋トレによって筋線維単位の損傷が起こり、この損傷や筋肉の過度な疲労など、複数の要因が重なって発症するものが一般的です。筋肉は損傷の回復過程で発達しますが、この痛みが続いている間は安静が必要です。回復にかかる時間は運動強度によって異なりますが、一般的には1~2日かかります。痛みが残っている状態で無理して運動を行うと、怪我に繋がる恐れがあります。関節や筋肉が運動でかかる衝撃に弱くなっており、疲れた筋肉を補助するために無意識に他の筋肉を使ってしまうためです。更に、筋肉痛は痛覚を鈍らせるため、気づかないうちに筋肉を酷使し、筋肉が大きく損傷する恐れもあります。では、DOMSはどのような対処方法があるのでしょうか。簡単にできるDOMS対策をいくつかご紹介します。


DOMSの対策


 icon-caret-square-o-right アイシング
怪我をするとその部位が他の部位より少し熱く、熱を帯びています。損傷によって炎症が発生すると炎症部位が熱くなりやすく、筋肉痛も例外ではありません。そのため、氷やアイシング用のスプレーで筋肉痛の部位を冷やすと炎症を抑える効果があり、一時的に鎮痛剤を飲んだような効果があります。また、激しい運動後に定期的にアイシングすることは凝り予防にも繋がります。

icon-caret-square-o-right マッサージ
マッサージは筋肉痛による筋肉の緊張や痛みを和らげます。運動後には筋肉が固くなり、血行が悪くなりやすいため、マッサージで固くなった筋肉をほぐし、血液循環を促進することで回復を促す効果が期待できます。

icon-caret-square-o-right ストレッチや軽めの運動
ストレッチや軽いウォーキングなどの軽めの運動は、筋肉痛から最も早く回復できる方法です。軽い運動を2-30分程、体に大きい負担にならないほど続けることでマッサージと似たような血行改善の効果が得られます。

DOMSは運動の強度を上げた時や、新しい運動を始めたばかりのタイミングでよく起こりますが、適切な休憩を取ることで運動強度を維持できます。しかし、休まず運動することはオーバーユース障害(overuse injury)に繋がる恐れがあります。


オーバーユース障害


オーバーユース障害は同じ活動を頻繁に、高強度で長期間続けた時に起こります。テニス肘や野球肘、ジャンパー膝と呼ばれる負傷は典型的なオーバーユース障害です。体が十分回復できるほどの休みを取らずに運動を続けると、筋肉に繰り返し強いストレスがかかり、肉離れや疲労骨折の原因となります。また、間違った姿勢で長期間トレーニングを行うことは筋肉不均衡、筋肉弱化、柔軟性の低下等を引き起こします。InBodyの部位別筋肉量の項目を確認してください。筋肉均衡は整っていますか? 怪我のリスクがある場所は、体のどの部分でしょうか? 正しい姿勢や筋肉のバランスはトレーニングにおいてとても重要であり、同じ動作を繰り返すスポーツは特に重要です。

 icon-caret-square-o-right 怪我のリスクが高まる筋肉不均衡の例

下半身の筋肉量が少なくて上下均衡が崩れている場合(左)は、転倒や膝の怪我など下半身が弱いことが原因で発症する怪我が多くなります。左右で筋肉均衡が崩れている場合(真ん中)は、転倒のリスクが高まると共に腰痛や関節痛などの原因にもなります。また、左右で筋肉量が高くなっている部位はオーバーユース障害へと繋がる危険性も高いです。間違った姿勢でトレーニングを行っていることが原因で左右の筋肉不均衡が出ている可能性もあるので、一度フォームやトレーニング内容を見直す必要があるかもしれません。上半身の筋肉量が少なくて上下均衡が崩れている場合(右)は、転倒して腕を地面についた際に、体重を支えることができず、両腕を痛めることで怪我をしてしまうというリスクも高くなっています。また、軽い荷物を少し持っただけでも筋肉痛になってしまうという問題もあります。

オーバーユース障害を予防するためには同じ動作を繰り返さず、様々な運動を混ぜて行うことが望ましいです。例えば、ランナーは週2-3回の筋トレを行い、逆にパワースポーツ選手は週2-3回の有酸素運動を行うことで筋肉及び関節にかかるストレスを緩和できます。ヨガ・ピラティス・スタジオプログラムなどの多関節を同時に動かす複合運動は、身体活動量を維持しつつ全身を鍛える良い方法です。筋肉痛を無視して運動することは怪我の原因の一つです。他に怪我の原因となり得る行動は次のようなものがあります。

 icon-caret-square-o-right 過剰な運動量の増加
トレーニングの原則、漸進性の法則から、運動量(重量や距離)を増やすことがあります。このような変化はパフォーマンス向上にとって必要なものですが、急激に量を増やすことは怪我に繋がりやすいため、徐々に増やしていくことが必要です。

  休息期間やレストタイムが合っていない
休息は運動強度によって柔軟に調節することが望ましいです。セット間の休息時間も強度によって変える必要があり、一般的に低強度の運動は20-60秒ほど、高強度の運動は2-5分程の休息を挟むことで運動の持続に役立ちます。

 icon-caret-square-o-right 痛みを無視すること
運動中に筋肉痛ではない痛みが続くのであれば、無視せずに一度運動を中止して痛みの状況や頻度・強度・部位・質などを確認し、痛みを和らげたり、痛みが発生する動きを避けたりなど、適切な処置を行いましょう。もし痛みが続くのであれば専門家に相談してみるのもいいかもしれません。適切な診断と処置は、怪我の回復と重症化を防ぐことに繋がります。


痛みを正しく評価するために

運動中に体温が高くなり、筋肉が重くなったように感じるのは、運動によって刺激された筋肉に一時的に血液が集まりパンプアップできている証拠(良い痛み)です。ただ、一つの動作を行う際に正しい姿勢を維持することが難しい状態であれば、筋肉に過度な疲労が溜まっているサインなので、運動を再開する前に適切な休憩を取ることが必要です。

痛みは様々な原因があり、人によってその意味も異なります。そのため、痛みがあれば一度運動を止め、どのような痛みなのかを見分けることを試みてください。痛みを和らげるために運動の強度を下げることが必要になるかもしれませんが、体が十分回復した後、元の強度に戻すこともできるので気にすることはありません。ウォーミングアップやクールダウンは怪我の予防はもちろん、痛みの予防にも繋がります。運動は継続することも大事ですが、適切な休憩と栄養摂取も一緒に行わなければ筋肉を増やすことはできません。体が送る信号である痛みに気を付けながら、焦らず回復と運動を繰り返すことで長期的に良い結果をもたらすでしょう。
※運動と休息の関係はInBodyトピックの「疲労と回復のメカニズム」を参考にしてください。

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睡眠は子供の体成分にどう影響するか?

近年では睡眠不足が深刻な問題として挙げられており、あらゆる年齢層に影響を与えています。テレビやパソコン、スマートフォンの普及で、子供たちは常にスクリーンにへばりついています。このような光源を発する機器は、早寝を妨げる要因の1つとなっています。スクリーンが発する ”ブルーライト” を寝る直前まで見ていると、寝付きが悪くなってしまう子供もいます。

米国睡眠医学会によると、子供の適切な睡眠量は次のように発表しています。
icon-caret-square-o-right 4カ月~12カ月:1日12時間~16時間
 1歳~2歳:1日11時間~14時間
 3歳~5歳:1日10時間~13時間
 6歳~12歳:9~12時間
 13~18歳:8~10時間

子供の睡眠は親が管理することになりますが、起床時間は学校の開始時間によって決まってしまうので、就寝時間を遅くならないようにコントロールする必要があります。最近は夜更かしの原因になるものが溢れており、推奨されている睡眠量を取ることが難しくなっています。しかし、睡眠不足は学校の成績だけでなく、体の健康にも影響を与えてしまいます。体の健康が食事と運動習慣に基づくことは勿論ですが、睡眠も重要な要素です。


子供にとって重要な睡眠と成長ホルモン


成長は主に成長ホルモンの影響を受けます。このホルモンは睡眠中に2時間から3時間の間隔で下垂体前葉より分泌されるので、子供の成長や創傷治癒、肌の新陳代謝は睡眠時に特に促進されます。 また睡眠中、成長ホルモンレベルがピークに達するので、子供の成長にとって適切な睡眠量が必要であるということは理解できます。

就学前の子供でも睡眠が重要であることに変わりありません。未就学児を対象に睡眠と身体活動が成長に及ぼす影響を調査した研究¹⁾では、睡眠レベルが上がると全身の体脂肪量が減り、体脂肪率が改善されていることを発表しました。睡眠を怠惰や肥満増加の原因と考える人もいますが、子供の健康にとっては睡眠が必須です。子供たちが成長のために適切な睡眠量を取れているかどうか確認してください。


子供の睡眠と筋力


睡眠と筋力の関係について、興味深い研究がいくつかあります。青年の睡眠習慣を調べた横断研究²⁾では、睡眠が腹囲などの肥満マーカと反比例し、骨格筋量と正の相関関係があることが分かりました。しかし、最も睡眠の長かった青年も、睡眠が最も少なかった青年と同様に腹囲の増加が著しく、睡眠は少なすぎても多すぎても体成分に悪影響を及ぼす可能性があるということを示唆しています。男子大学生の睡眠習慣を調査した研究³⁾では、睡眠時間が短い(6時間未満)学生は、睡眠時間が適切な(7時間以上)学生と比べて筋力が低下していることが報告されました。

筋力が低下する理由は様々ですが、睡眠不足も1つの原因です。睡眠中にタンパク質合成が増加し、その日に分解された筋肉を再構築します。つまり、筋肉繊維を再建するには十分な睡眠が不可欠なのです。


睡眠は肥満に直接関連する


近年では小児肥満が深刻化し、小児の肥満診断基準が定められ、早期発見と予防の取り組みが求められるようになりました。厚生労働省は小児肥満を知る目安として、次の肥満度を使用しています⁴⁾。
厚生労働省:肥満度(%)=(実測体重-標準体重)÷標準体重×100
この計算式により、幼児では肥満度15%以上が肥満児、学童期以降では20~30%が軽度肥満、30~50%が中等度肥満、50%以上が高度肥満と判定されます。InBodyの研究項目にある肥満度は、
InBody:肥満度(%)=実測体重÷標準体重×100
で算出された数字なので、下二桁の数値が上記公式で算出された値と一致します。

BMC Public Healthで発表された、0-4歳児の子供を対象に睡眠の重要性に関する調査を行った研究⁵⁾では、睡眠時間が短いと成長障害や感情調整能力の未発達に加えて、体脂肪率が高くなることを発見しました。これは、より多く眠る子供は体脂肪率が良く、優れた体成分である確率が高いということを意味しています。7-9歳児を対象に睡眠を調査した横断研究⁶⁾でも同様な結果で、睡眠が9時間未満の子供は9時間以上の子らと比較して肥満になるリスクが3倍以上もあることが分かりました。体脂肪率は睡眠9時間未満の子供が23.4%、11時間以上の子供が20.9%と有意に低い値でした。

小児肥満の約70%が成人肥満に移行するといわれており、また高度の小児肥満は高血圧・糖尿病・脂質異常症などの病気を発症するリスクがあります。Obesity Reviews掲載記事⁷⁾では、習慣化された睡眠不足について次の問題を指摘しています。
 インスリン抵抗性が高くなる(糖尿病発症をもたらす可能性が上がる)
 糖尿病が原因で食欲増進・代謝変化・体成分変化・肥満の発症に繋がる
 高血圧と塩分貯留のリスクが上がり、心臓病の問題に繋がる
このような研究結果が、適切な睡眠量が肥満の治療に不可欠であることを示しています。健康な体を維持するためにはもちろん適切な食事と運動も重要ですが、睡眠も肥満の管理に重要な役割を果たすので、肥満治療計画の礎として睡眠にも介入すべきです。


健康には適切な睡眠が重要


子供たちが夜にしっかり睡眠を取れているかを確認することは非常に重要です。睡眠は、学校の成績・社会との関り・体の成長・健康にとって重要な役割を果たしています。宿題や習い事で忙しい子供は、就寝時間を早めることが難しいかもしれませんが、両親が就寝時間を一定に保つために努力することは必要です。寝る前にブルーライトを発する電子機器や運動を避け、カフェインを含む飲み物は与えないようにしてください。規則的な生活リズムを保てるように、周りの大人たちの生活リズムも一度見直してみましょう。子供が幼い時期から良い睡眠習慣を教えることは適切な発達を促し、良い健康状態、つまり健康的な体成分を成人期まで維持することに繋がります。

 

参考文献
1. Role of physical activity and sleep duration in growth and body composition of preschool‐aged children, Nancy F. Butte et al., Obesity(2016)24(6): 1328-1335
2. Sleep duration is associated with body fat and muscle mass and waist-to-height ratio beyond conventional obesity parameters in Korean adolescent boys, Nam GE et al., J Sleep Res(2017)26(4): 444-452
3. Relationship between sleep and muscle strength among Chinese university students: a cross-sectional study, Yanbo Chen et al., J Musculoskelet Neuronal Interact(2017)17(4): 327–333
4. 生活習慣病予防のための健康情報サイト 子どものメタボリックシンドロームが増えている|eヘルスネット 厚生労働省
5. Systematic review of the relationships between sleep duration and health indicators in the early years (0–4 years), Jean-Philippe Chaput et al., BMC Public Health(2017)17(5): 855
6. Long sleep duration and childhood overweight/obesity and body fat, Padez C et al., Am J Hum Biol(2009)21(3): 371-6
7. Epidemiological evidence for the links between sleep, circadian rhythms and metabolism,
Gangwisch JE, Obes Rev(2009)2: 37-4

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脱水時に必要な飲み物は?

水は体重の約50~70%を占めており、体で最も重要な基本成分です。深部体温を調節したり、栄養素を体の細胞に届け老廃物を体外に排出する運搬の役割を担ったり、神経組織や関節を保護することも、水が関係しています。すべての細胞・組織・臓器が機能を正常に保つには、適切な水分補給が必須です。

体が正常に機能するために必要な水分が十分にない場合、“脱水症” に陥ります。必要な水分補給量は、汗・排尿・呼吸など体から排出される水分量によっても左右されます。レスリング選手の運動による脱水を調査した研究では、体重の3.5%まで水分を失っていたと報告しています¹⁾。体重が60kgの場合、2.1kgもの水分が失われたことになります。つまり、運動中や運動前後のこまめな水分補給が非常に重要であることが分かります。水分補給は体の健康を維持するだけでなく、パフォーマンスの向上にも役立ちます。

しかし、脱水時や運動時に摂取すべき飲み物は何でしょうか? 渇いた体を潤すには、水で十分でしょうか? それともポカリスエットのようなスポーツドリンクがより有益なのでしょうか? 今回のトピックでは水分補給の仕組みについて学び、どのような状況で何を飲むべきなのか確認していきましょう。


運動時の水分補給


筋肉細胞が正しく機能するためには水が必須です。十分な水がない状態で運動すると、ベストな結果は得られません。ベストパフォーマンスには適切な水分補給が必要だと理解しているアスリートは多いですが、実際にどれくらいの水分を補給すればいいかを把握できている人はどれほどいらっしゃるでしょうか? 次に、必要な水分補給量やタイミングの目安となる評価方法を紹介します。

尿の色を確認する²⁾
尿の色は、健康状態だけでなく水分補給レベルについても多くの情報を伝えてくれます。尿の色が薄いほど、体内の水分が多く十分であることになります。尿が濃い黄色やうぐいす色に変色し始めたら、水分が不足しているサインです。速やかに水分を補給してください。


簡単な計算式から必要な水分補給量を知る
運動前後に体重測定をして、簡単な計算式から1時間あたりに必要な水分補給量を求めることができます。運動後の体重測定は、汗を吸っている重い服を着替えてから行ってください。必要水分補給量をあらかじめ把握することで、水分補給のプランを立てたり、運動強度や気温の変化などで発汗量が増える場合でも水分補給量を調節できたりするようになります³⁾。

1時間あたりに必要な水分補給量(ml/h)=(運動前後の体重変化量(g)+運動中に摂取した水分量(ml)-尿量(ml))/運動時間(h)

直ちに水分補給が必要な時 -脱水症状-
毎日摂取すべき水分量は、個人の身体特性や活動量によっても変わってきます。しかし、渇き・早発性の疲労・運動能力の低下・体温上昇・めまい・速い呼吸と心拍数のような兆候が現れたら、直ちにコップ1・2杯の水を飲んでください。


水分補給 水vsスポーツドリンク

水を選択するとき
例えば、運動の目的がダイエットや体成分の改善等であれば、糖やカロリーが添加された飲料水を避けて、水を選択するのが良いでしょう。強度の低い運動や、45分以内の短時間の運動、単に日常の喉の渇きを潤す場合なども水を選択するようにしましょう。

スポーツドリンクを選択するとき

運動時の水分補給には、電解質と美味しい味が添加されているスポーツドリンクを選択する人が多いです。水にはない、添加成分の詳細を見てみましょう。スポーツドリンクに含まれる成分には、水だけでは得られない効果があります。
電解質
カリウム・ナトリウム・マグネシウムなどのミネラルは電荷を帯びており、体のイオンバランスを維持するのに役立ちます。汗をかくと電解質を失いますが、スポーツドリンクは運動中に失われた電解質を補うといわれています。
炭水化物
スポーツドリンクの炭水化物はほとんどが糖です。炭水化物は体の主要エネルギー源であり、スポーツドリンクは激しい運動後消費したエネルギー燃料を補給するように設計されています。
アミノ酸
アミノ酸はタンパク質の構成要素です。激しい運動後にアミノ酸入り飲料を飲むことで体の回復がより速く、より良くなるといわれています。

45分以上激しい運動を行う場合や、マラソンやサイクリングなどの持久力を必要とするアスリート、汗に含まれるナトリウムの量が多い人(肌や衣服に汗の跡が残る人)は、スポーツドリンクで水分補給するとこのような効果を得られるかもしれません。スポーツドリンクを飲む際には電解質と炭水化物が含まれていることを確認してください。


水分補給ができるのは水とスポーツドリンクだけではありません。お茶・ジュース・牛乳のような飲み物や果物・野菜のような食べ物にもたくさんの水が含まれています。牛乳は良い水和剤であり、水よりも再水和の効果が高いです。激しい運動後に1杯のチョコレートミルクを楽しむことも、理にかなっています。果物や野菜は水分量が多いだけでなく、ビタミン・ミネラル・炭水化物も含まれているため、理想的なおやつになります。


終わりに

水分補給をすることは運動時などあらゆる場面で重要です。体内に十分な水が保たれないと、ベストパフォーマンスを発揮することも、健康な体を維持することもできません。水分補給の方法はたくさんありますが、添加物が含まれない普通の水は最良の選択肢です。激しい・長時間の運動をする時や水に飽きている時は、スポーツドリンク・牛乳・果物・野菜が選択肢になるでしょう。

 

参考文献
1. The validity of multifrequency bioelectrical impedance measures to detect changes in the hydration status of wrestlers during acute dehydration and rehydration, Alan C. Utter et al., Jarnal of Strength and Conditioning Resarch (2012)26(1):9-15
2. Urinary Indices of Hydration Status, Lawrence E. Armstrong et al., International Journal of Sport Nutrition (1994)4:265-279
3. Reprinted with permission from Murray R, Determining sweat rate, Sports Sci Exch.(1996)63

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筋トレに年齢制限なし

加齢に伴い筋肉量は減少します。加齢が原因で筋肉量と筋力が低下することを指した、サルコペニアという言葉もあります。50歳以降で筋肉量は1~2%減少し、60~70歳では平均5~13%、80歳を超えると11~50%も筋肉量が減少してしまいます¹⁾。筋肉量の減少は機能的能力の低下や、健康リスクに繋がります。身体活動が減ると筋肉の喪失がさらに加速され、生活の質が低下し日常生活が困難になる場合もあります。

高齢者は筋肉量が減少していくにもかかわらず、筋トレによって自身の体力レベルを改善することに消極的です。長い時間、トレーニングや身体活動をしていないと、”年を取りすぎて、もう重いものを持つことはできない” と誤った考えを持ってしまいやすい状態になります。しかし、年齢に関係なく誰もが体力レベルを向上させることができます。若い頃と変わらず活発で居続けるためには、体力と体型を改善するための目標を、体成分の視点で設定することが必要です。誤った考えから正しい考えへとシフトさせるには先ず、「フィジカルトレーニング(筋力・持久力・柔軟性などの基本的な運動トレーニング)」と「ファンクショナルトレーニング(機能的動作習得トレーニング)」の2つのトレーニングについて理解することから始まります。


フィジカルトレーニングとファンクショナルトレーニング


フィジカルトレーニングは、大きく次の3つに大別されています。
▶筋力を増幅するウエイトトレーニングや無酸素運動
▶心肺機能を高める有酸素運動
▶関節の柔軟性と可動性を高めるストレッチなど

小・中・高と学生時代に行っていた全国体力テストを覚えているでしょうか? 全国各地の学校で行われていた年1回のこのテストは、握力・上体起こし・50m走・持久走・長座体前屈などの体力を測るための様々な種目を実施することで、体力・運動能力の水準を向上させることを目的としています。学生であれば、自分のために使うことができる自由な時間が多いので、学業の時間と体力・運動能力を鍛える時間を設けることができます。しかし、大人になると仕事や家族に費やす時間が増え、自身を鍛える時間の優先度はだんだんと低くなっていき、体を鍛えるための十分な時間を確保しづらくなります。ではその様な方は、残り少ない自由な時間をファンクショナルトレーニングに当ててみてはいかがでしょうか?

 


ファンクショナルトレーニングという言葉を初めて耳にした方もいらっしゃると思います。若い方は尚更でしょう。元々ファンクショナルトレーニングとは、怪我や病気で基本的な動作ができなくなってしまった患者に対して、理学療法士や作業療法士がリハビリの一環として使用しているものでした。よって、トレーニングでは食事で箸を使う・お風呂で体を洗う・床や高い位置にあるものを掴む・楽器を弾くなどの、日常生活に必要な少し複雑な動きを安全に行えるようにすることを目的としていました。しかしファンクショナルトレーニングで大事なことは “筋肉をうまく使えるようになること=機能的に使えるようになること” なので怪我や病気のリハビリに限定せずに、老若男女問わず誰でも必要に応じて行うべきトレーニングです。

フィジカルトレーニングで筋力を鍛えたとしても、筋肉をうまく使える機能が弱ければ、フィジカルトレーニングの効果を「パフォーマンス」や「できるようになりたい動き」で発揮することができません。そのため、適切なファンクショナルトレーニングを行い、筋肉を使う機能を強化することが年をとっても生活の質を維持することに繋がると言えます。


高齢者にもお勧めのフィジカルトレーニングの例 -サーキットトレーニング-


高齢者には筋力・有酸素能力・柔軟性をまんべんなく短時間で鍛えることができるサーキットトレーニングがお勧めです。サーキットトレーニングでは全身の筋力と持久力を鍛えるために最低でも7種目の運動を休憩なし(若しくはごく短い休憩を挟みながら)で行う必要があります。複数の種目を連続して行うので、1つ1つの種目の負荷は軽めに設定します。そのため筋肥大を目的に全身くまなく高負荷を掛けて行う筋トレと比較すると、筋肥大の効果という点においては弱くなってしまいますが、高齢者にとっては筋肥大が目標ではないので軽い負荷でも十分効果が得られます。また、サーキットトレーニングではよくマシンも使用されており、高齢者でも怪我なく安全に実施できるという点でもメリットがあります。

サーキットトレーニング プログラム
【時間】
柔軟体操   20秒×8種目 計3分
有酸素運動 10分×2種目 計20分
無酸素運動 20秒×6種目 計2分
1サイクルのエクササイズ時間約25分、サイクル間の休憩5分前後(2セット以上行う場合)
【強度】
有酸素運動 最大心拍数の60~80%
無酸素運動 最大筋力の60~80%(25RM~8RM)
【種目】
柔軟体操   腰ストレッチ/背中・肩ストレッチ/お尻ストレッチ/太ももストレッチ/腹筋ストレッチ/膝ストレッチ/腕・肘ストレッチ/股関節ストレッチ など
有酸素運動 トレッドミル/フィットネスバイク/ペダルマシン/踏み台昇降運動 など
無酸素運動 カール(上腕二頭筋)/チェストプレス(大胸筋・上腕三頭筋)/バタフライ(大胸筋)/ショルダープレス(肩・三角筋)/シーテッドバッグエクステンション(背筋)/レッグプレス(大臀筋・大腿四頭筋)/レッグエクステンション(大腿四頭筋・ハムストリング) など


高齢者にもお勧めのファンクショナルトレーニングの例


ファンクショナルトレーニングを行う際は、次の5原則を意識して取り入れていくことが重要です。
1. 重力を利用する
人間が生活するうえで基本となる姿勢は “立位” です。立位姿勢から、歩く・走る・物を運ぶ・階段を上り下りするなどの動作に発展していきます。つまり、日常動作の機能を向上させるには重力に耐える体を作るトレーニングが必要という訳です。
【トレーニング例】
重力に対して抵抗を与える体幹トレーニング、抗重力筋(姿勢維持筋)を鍛えるチューブトレーニング など

2. 共同と分離
人間の体にはたくさんの関節が存在しています。複雑な動作を行う際は、各関節を分離させてそれぞれの役割に応じて動作を行ったり、分離した関節が同時に活動して全ての関節動作を共同させたりする必要があります。片足を上げるという動作に着目してみると、体幹と股関節が分離することで体幹が固定され、体が安定したまま上手に片足を上げることができています。
【トレーニング例】
複数の筋肉・関節周り・バランスを鍛えるランジ、多関節を使うマシントレーニング など

3. キネティックチェーン(運動連鎖)
運動動作は、1つの筋肉だけで行われているという訳ではなく、多くの筋肉が連鎖(チェーン)して起きています。ウォーキングでも、力は地面・脚・お尻・体幹・上肢へと伝達することで前進しています。実は、歩くだけでも200個以上の筋肉が使われ、連鎖しています。連鎖が切れていると力が上手く伝わらず、効率の良い動作ができず、連鎖が途切れている部分を痛めてしまうことにも繋がります。トレーニングでは複数の筋肉の連鎖を使うことを意識しましょう。
【トレーニング例】
ボール投げなど体の末端部位を動かす運動、複数の筋肉を鍛えるマシントレーニング など

4. 3面運動(3 Dimension movement pattern)
多くの動作は3面(前後・左右・回旋)で行われているので、体の機能を向上させるには3面運動も必要です。ウォーキングの動作を3面で見てみましょう。正面から見ると、片足の時に重心が支持脚になるので左右に体重移動をしていることが分かります。横から見ると、手足が大きく前後に動いていることが分かります。真上から見ると、体の捻りが手足の動きと合わせて同時に行われていることが分かります。
【トレーニング例】
胸椎・股関節の回旋を組み合わせたウインドミル、ツイスト、ゴルフのスイング など

5. 力の吸収と力の発揮
日常動作やスポーツにおいて、効率的で大きな力を発揮するためには、必ずその方向とは反対に力を溜めて踏み込む動作が必要になります。ジャンプ動作では、より高くジャンプをしようとすると無意識に一度しゃがみ込みを行います。このしゃがみ込みがなければ力の吸収が行われず、高く飛ぶことができません。
【トレーニング例】
深くしゃがみ込む様なスクワット、垂直飛び など


筋トレを始めるのに遅すぎるということはありません


筋トレも学問と同じように、”始めるのに遅すぎる” “年齢制限がある” というものではありません。マシンやウエイトトレーニングの効果を得るには “若くなければいけない” ということはないのです。高齢者を対象に筋トレの効果を報告したものが幾つもあります²⁾³⁾。 ”運動するのは難しいが、筋肉なしで生活するのはより難しい” と覚えてください。何年も運動をしていないからと、運動を始めることを諦めないでください。

 

参考文献
1. An overview of sarcopenia:facts and numbers on prevalence and clinical impact, Stephan von Haehling et al., J Cachexia Sarcopenia Muscle(2010)1(2):129-133
2. Effects of Resistance Training on Older Adults, Gary R. Hunter, John P. McCarthy and Marcas M. Bamman, Sports Medicine, April 2004, Volume 34, Issue 5: 329–348
3. Effects of circuit exercise and Tai Chi on body composition in middle-aged and older women, Wei-Hsiu Hsu et al., Geriatr Gerontol Int 2014, doi: 10.1111/ggi.12270

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出産後に体型を戻す方法

出産後は殆どの女性が、喜び・悲しみ・感動・不安・幸福・緊張・驚き・恐怖など、様々な感情の起伏をジェットコースターの様に経験します。すべての感情が、喜びや幸せのようなプラスな感情であったとしても、感情の束は体に負担を掛けます。

母乳育児は、妊娠前の状態に戻るようにダイエットを促すものではありません。クローゼットに眠っているジーンズを最後に履いたのはいつでしょうか? 妊娠前の遠い記憶です。妊娠前はスタイルが良かったとしても、体重の増加や分娩の影響による腹部のたるみなど、身体的な変化は避けられません。しかし、体型は元に戻すことができます。大事なことは、自身の身体的変化を知り、何ができるのかを学ぶことです。


妊娠中及び出産後の体成分の変化


お腹の中で子どもを育み、出産に備えて身体を整える約10か月の妊娠期間は、体成分が変化する期間でもあります。妊娠期間に大きく変化する体成分は体脂肪量です。体脂肪量は出産日に近づくに連れ増加していきますが、この体脂肪量には自身の体脂肪量増加分に加え、赤ちゃんの体重・拡大した子宮と乳房・余分な血液・胎盤・羊水が含まれています。体内で電流の流れない部分は非伝導体として体脂肪量に測定されるため、電流が上手く通らない羊膜内も体脂肪量として換算されてしまいます。

では、羊膜内以外の本来の体脂肪量は何故増加してしまうのでしょうか? 母体は、赤ちゃんの発達と母乳育児の準備のために脂肪組織が必要となります。しかし、残念ながら出産に備えるためにどれだけの体脂肪量がどこの部分に必要なのかなどの、明確な研究結果は殆ど出されていないのが現状です。出産を経験した557人の健康な女性を対象に、妊娠前から出産後までの体脂肪量の変化をモニタリングした研究では、体脂肪が貯蓄される時期・部位・量は個人差があり、個々によって異なると結論付けています¹⁾。妊婦の体脂肪量に関する研究を曖昧にしてしまう理由は、様々な要因によって母親の体成分(筋肉量・除脂肪量・体脂肪量など)の変化を明確に判断できないためです。いろんな要因の中の一つとして、母親とお腹の赤ちゃんの体成分を分離することができないことが挙げられます。

しかし、次の様な興味深い研究が発表されています。体脂肪量増加の程度に関する因子として、初産婦であるか経産婦であるかが関係するという研究です。この研究では初産婦は経産婦より妊娠中の体脂肪量増加が高いことを示し、出産半年後の時点でも初産婦の方が体脂肪の貯蓄が多かったことが報告されています²⁾。

出産後は、体成分が大きく変化するタイミングです。出産直後は赤ちゃん・胎盤・羊水・余分な血液などの分で、体重が大きく減ることになります。そして約6週間で子宮の大きさが小さくなり、妊娠前の体重に近づいていきます。これらの重さは自然と減っていきますが、残念なことに妊娠中に蓄えられた体脂肪は自然と消えてはくれません。蓄えられた余分な体脂肪のうち、いくらかは母乳育児の中で減らすことができるかもしれませんが、それ以上に体脂肪量を減らすためにはどのような対策が必要でしょうか?


腹直筋離開


妊婦の体型に大きく影響する一つの要因が腹直筋離開です。腹直筋離開とは胸骨から恥骨まで走る腹直筋の中心部分の白線という腱が横に伸びて薄くなり、左右の腹筋が離れて開いた状態になることです。妊娠が進むにつれて、赤ちゃんのスペースのために子宮は成長し、腹部の筋肉は伸びていきます。腹直筋離開は妊娠女性の大半が経験しますが、分離の程度と位置は個々によって異なります。妊婦の腹直筋離開に関するある研究では、68%の妊婦がおへそより上部、32%がおへそより下部で分離が発生したと報告しています。

出産後、分離の程度は自然と和らぐこともありますが、それだけでは完全に元通りになることは殆どありません。出産後の目立ったお腹や出産後から数か月経っても妊娠している様に見える体型は、弱くなってたるんだ腹筋が原因となっています。


安全で効果的なダイエット計画

前項で妊娠後の体型変化の要因を、体成分の変化と腹直筋離開の2点から説明しました。ここでは出産後体型の回復・改善を促すために、妊娠中に気を付けるべき点や出産後の運動などについて詳しくお話しします。

母乳育児の影響と体成分
恐らく、自然と体重を減らすことに繋がる最後のチャンスが母乳育児です。母乳育児と体重減少は関連していることを示す研究が増えてきています。最も結果が顕著に現れていた疫学的研究はデンマークの研究で、母乳育児6か月の女性が合理的に除去できる体重は12kgと定義しています³⁾。これらの所見は、母乳育児と混合育児(母乳と人工ミルクの混合栄養)の母親の体脂肪量を比較しているアメリカの研究結果でも裏付けされています。この研究で、出産後12週間は混合育児よりも母乳育児の方が母親の体脂肪量減少を促進していたことが分かりました⁴⁾。

では、授乳中の女性は母乳を作るためにいくらか体脂肪が必要であることを考慮して、どれだけの減量が「安全」と言えるのでしょうか? 出産後の体重が標準の場合は減量に励む必要はありませんが、過体重の女性に関しては授乳中でも1週間あたり約0.5kgの減量(出産後4~14週)は、新生児の成長と発達に悪影響を及ぼさないことが報告されているので、目安にしてください。

妊娠中の食事と体重管理

妊娠中は、赤ちゃんに与える栄養が必要と考えていつも以上に食べ過ぎていませんか? 食べつわりで、常に何か口にしないと落ち着かない方も少なくはないでしょう。高カロリーばかりの偏った食事や過度な体重増加は様々なリスクを高めます。太り過ぎは、妊娠高血圧・妊娠糖尿病・腰痛などの妊娠合併症の原因となります。これらが悪化すると、胎盤の機能低下・流産や早産の原因になる・胎児が巨大児になるなど、母子ともに危険な状態になってしまいます。また、産道にも体脂肪が付くことで難産の原因となったり、微弱陣痛でお産が長引いたりすることがあります。太り過ぎの妊婦は出産を終えるまでこれだけのリスクを抱えていますが、出産後も体重が戻りにくく妊娠線ができてしまうなどの問題があります。出産後体型の回復を早めるためにも、妊娠中に過度な体重増加を指摘された場合は次の点を心掛けましょう。
・規則正しい生活と食事を心掛ける
・早食いを避けて、ゆっくり食べる
・食生活を見直す(食べた物を書いてみると良い)
・間食や夜食を控える
・就寝前の2~3時間は飲食を控える
・油分を控え網焼きや蒸し物に代用するなど調理方法を工夫する

出産直前の体重増加は7~8kg程度が理想的です。理想的に体重増加した際の内訳は、赤ちゃんの体重約3kg、胎盤の重さ約0.5kg、羊水の重さ約0.5kg、乳房・子宮・血液・水分・体脂肪などお母さんの増加分が約3~4kgとなります。これ以上の体重増加はすべてお母さんの体脂肪です。体重は週に500g以上増えないよう気を付けましょう。

体型別の体重増加の目安

BMI ~18 18~24 24~28 28~
体型 痩せ気味の人 標準 肥満気味の人 肥満
体重増加の目安 12kg 8kg 5kg 0kg

妊娠中に必要な栄養素


妊娠中・授乳中に積極的に取り入れたい食品は「食物繊維・鉄分・カルシウム・葉酸を多く含む食品」です。加え、これらの吸収を助ける働きがあるビタミン類も一緒に取るようにしましょう。一方、妊娠中は高血圧や浮腫みが現れやすいので、塩分を控えめにした食事を心掛けましょう。

食物繊維
妊娠中はホルモンの影響などで腸の動きが鈍くなるため、便秘がちになります。便秘予防には食物繊維を積極的に取ることが効果的で、豆類・野菜・きのこ・海藻・果物などに多く含まれています。また、ヨーグルト・納豆・味噌・漬物などの発酵食品も、腸の働きを活発にするので取り入れて欲しい食品です。

鉄分
妊娠中はより多くの血液と鉄分が必要になるため、貧血になりやすくなっています。もともと貧血気味であった方だけでなく、食事が思うように取れていない方や痩せ気味の方も、妊娠前より多くの鉄分を摂取するよう、食品やサプリを選択しましょう。鉄分の摂取基準量は妊娠初期で8.5~9.0mg/日、妊娠中期と後期で21.0~21.5mg/日です。レバー・あさり・豆腐・小松菜・ほうれん草などの食品は鉄分を多く含んでいます。

カルシウム
カルシウムは日本人に不足しがちな栄養素ですが、赤ちゃんの発育にとても必要な栄養素です。また、妊娠してからこむら返りに悩まされるようになった方も多いと思います。カルシウム不足と妊娠によるホルモンバランスの崩れが原因で、こむら返りが発生します。1日の摂取基準量650mgを目安に、乳製品・小魚・豆腐などカルシウムを多く含む食品を摂取しましょう。

葉酸
妊娠中は血液量が増えるので、普段より多くの葉酸が必要になります。葉酸が不足することで貧血・流産・早産・妊娠高血圧症候群などが起こりやすくなります。また、赤ちゃんの口蓋裂や低出生体重の原因となることもあります。葉酸は授乳中も必要な栄養素となりますので、1日の摂取基準量0.4mgを目安に積極的に取り入れましょう。レバー・納豆・ほうれん草・いちごなどの食品は葉酸を多く含んでいます。

ビタミン類
鉄分とカルシウムは吸収されにくいので、吸収を助ける働きがあるビタミンを多く含む食品を一緒に取ると良いでしょう。鉄分の吸収を助ける食品は、ビタミンBとビタミンCを多く含む食品で、卵白・干しシイタケ・魚・柑橘類・野菜などが挙げられます。カルシウムの吸収を助ける食品はビタミンDを多く含む食品で、卵黄・いわし・バター・きくらげなどが挙げられます。

妊娠中と出産後・授乳中の運動


妊娠中は様々な制限があり、運動をためらう方もいらっしゃるでしょう。しかし、妊娠中の適度な運動は過度な体重増加・腰痛・肩こり・こむら返り・便秘を予防するだけでなく、出産や育児に備えた体力づくりや気分転換にもなります。妊娠初期の運動は流産を招く恐れがあるという話もありますが、流産の殆どは染色体異常によるものなので適度な運動はまったく問題ありません。但し、子宮収縮抑制薬を服用している時・医師から安静するように言われた時・出血がある時・お腹が張っている時は運動を控えて安静にしてください。おすすめの運動は、腕をしっかり振りながらのウォーキング・マタニティヨガ・マタニティスイミング・マタニティビクスなどの負担をかけすぎない有酸素運動です。反対に、激しい運動・勝敗を決めるような競技・落下や外傷のリスクがあるスポーツ・お腹の赤ちゃんに十分な酸素が行き届かなくなるような登山や無酸素運動など、妊娠中に控えるべき運動もあります。

出産後すぐにも行える運動は、体への負担が少ない産褥体操や骨盤底筋群体操です。産褥体操は、妊娠・出産で伸び縮みしたお腹・子宮・腟壁・骨盤の筋肉の回復を促進します。また、新陳代謝を高め血行を良くすることで肩こり・浮腫み・腰痛が軽減し、母乳の分泌が良くなる効果もあります。出産後は骨盤周りの筋肉が緩み、尿漏れや痔が起こりやすくなっています。これらの予防には骨盤底筋群体操が効果的です。産褥体操や骨盤底筋群体操はベッドに横になったまま行える体操もあるので、出産後なるべく早い段階から始めてみましょう。

産褥体操 からだならし -出産後2日目から-
頭を起こす運動(5回×2)
① 仰向けに寝て、両足を伸ばす
② 片手をお腹に、もう一方の手を体側に置く
③ 息を止めずにお腹の上を見るように頭だけ起こす
④ ひと呼吸したら頭を下ろし、左右の手を替えて繰り返す


骨盤底筋群体操 -出産後3週間目から-
腰の上げ下げ運動(5~10回×3)
① 仰向けに寝て両膝を立て、お腹に力を入れ、腰をできるだけ高く持ち上げる
② 肩、背中、お尻の順に下ろし、力を抜く


授乳中の適度な有酸素運動は、母乳量・母乳の成分・乳児の成長に影響を与えることもなく、母親の循環器系機能を改善すると言われています。赤ちゃんが外出できるようになったら、一緒にお散歩がてらウォーキングを行うことも良いかもしれません。運動前は十分な水分補給も忘れないでください。


自分に優しく

出産に向けて約10か月かけ体重を増加、体成分を変化させましたが、元に戻すにはさらにもう10か月かかる場合もあります。母乳育児や赤ちゃんの世話にかかりっきりの人は、10か月よりさらに長い期間が必要かもしれません。出産後僅か週数間で体型を元に戻しているモデルや芸能人のことは忘れてください。お抱えのシェフやパーソナルトレーナーなど特別なチームを持っている女性の例は、あまり参考にすることができません。

先ず、出産後の自身の体型が現時点でどの位置であるのか把握する必要があります。体成分を測定して、具体的にどれだけ筋肉量と体脂肪量を調節すべきか調べてみましょう。これらの情報は、体型を戻すための目標設定に役立ちます。焦らず、時間をかけてください。「いつまでに、どれくらいの減量をする」と徐々に前向きな変化を楽しんでください。赤ちゃんと家族の健康も勿論大事ですが、自分の体も気にかけて労わってください。毎日の僅かな変化でも、きっと出産前の体型に戻るでしょう。

参考文献
1. Pregnancy-related changes in body fat. Sidebottom AC et al., Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol, 2001 Feb; 94(2): 216–23.
2. Body fat composition and weight changes during pregnancy and 6-8 months post-partum in primiparous and multiparous women. To WW, Wong MW, Aust N Z J Obstet Gynaecol, 2009 Feb;49(1):34-8. doi: 10.1111/j.1479-828X.2008.00933.x.
3. Breastfeeding reduces postpartum weight retention. Baker JL et al., Am J Clin Nutr, 2008 Dec;88(6):1543-51. doi: 10.3945/ajcn.2008.26379.
4. Effect of infant feeding on maternal body composition. Irene E Hatsu, Dawn M McDougald and Alex K Anderson, Int Breastfeed J, 2008; 3: 18.
5. 安心すこやか妊娠・出産ガイド -産婦人科診療ガイドライン:産科編2014 準拠ー, 関沢明彦 岡井崇 監修, 昭和大学病院総合周産期母子医療センター