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肥満と脳卒中の関係

脳卒中は身体障害の原因の一つであり、世界的な健康問題でもあります。厚生労働省の2017年発表によると、脳卒中は日本人の死亡原因4位の疾患1)であり、発症すると生存後にリハビリを受けても後遺症が残る可能性が高い疾患です。このようなことを考えると、脳卒中を予防することは健康な生活を維持するために重要なのは間違いありません。

脳卒中は「頭蓋内出血」と「脳梗塞」の2種類があります。頭蓋内出血は名前からもわかるように、脳血管が破れることを意味します。脳梗塞は血栓やその他血管問題により血管が詰まり、脳細胞にブドウ糖や酸素などが届かなくなることで起こります。脳卒中は原因によって予後が異なるという研究もあれば、原因に関係なく似たような予後を示したという報告もあります2)。また、脳卒中の中でも頭蓋内出血より脳梗塞の方の予後が良いことを示した報告もあり、脳卒中に関しては様々な研究報告があります。脳卒中のリスク因子は様々ですが、その中でも改善できる因子とそうでない因子があります。今回は改善できる因子の一つである肥満と脳卒中の関係、そして体成分が脳卒中予防にどのような影響を及ぼすかについて説明します。


脳卒中のリスク因子

脳卒中のリスク因子の中では年齢・性別・人種など、リスクを確認するときに考慮すべき要素ではあっても、改善することはできない変えられない因子があります。逆に、生活習慣や食習慣などの因子は改善することが可能です。改善可能な脳卒中のリスク因子には座位行動(長時間座ったまま生活すること)・悪い食習慣・肥満・メタボリックシンドロームなどが挙げられます。特に肥満は高血圧・糖尿病・脂質異常症のような脳卒中のリスクを高める疾患とも関連があります3)


肥満と脳卒中の関連性


肥満は世界中で問題視されている健康問題の一つですが、様々な慢性疾患の原因でもあります。ある研究によると脳卒中患者の約18%~44%が肥満患者であると推定されています4)。肥満は様々なメカニズムで脳梗塞の1種であるアテローム血栓性脳梗塞や心原性脳塞栓症に影響を及ぼします。アテローム血栓性脳梗塞の発症メカニズムは複雑で、様々な要因が影響を与えますが、脂肪組織もその一つです。脂肪組織は余分なエネルギーを保存するだけが役割と思うかもしれませんが、脂肪組織は内分泌及び免疫システムに影響を及ぼす組織です。体脂肪が過剰に蓄積されると炎症を引き起こし、組織の構成にも影響を与えることでアテローム血栓性脳梗塞を促進させ、脳卒中のリスクを高めます。肥満の脳卒中生存者は特性の心疾患のリスク因子が増えやすくなり、脳卒中の再発または回復の予後を悪化させる恐れがあります。また、日本人の脳梗塞で最も多いラクナ梗塞の場合、高血圧・糖尿病・脂質異常症(高脂血症)の3つが主な原因と言われますが5)、この3つは肥満とも密接な関連を持っていることから、過剰な体脂肪量は脳卒中や血栓症などの原因になり得ると言えます。


肥満と脳卒中のパラドックス

このように、肥満は脳卒中のリスク因子であることが明らかになっていますが、肥満患者の脳卒中予後に関しては様々な意見があります。多数の研究では肥満患者の脳卒中予後がより良いことを示唆しており、これを肥満と脳卒中のパラドックス(Paradox; 逆説)といいます。肥満と脳卒中の関係を説明するために企画された系統的文献レビュー6)では、25件の研究を分析し、脳卒中リスクと肥満の関係を確認しました。その結果、確かに多数の研究で肥満の脳卒中患者がより良い予後を示しました。しかし、この結果を「体脂肪量が多いのは良い」と解釈することは間違っていると指摘しています。肥満患者の脳卒中死亡率が低いことは事実ですが、他の研究では高度肥満及び低体重患者の脳卒中死亡率が有意に高いことも示されています。この相反する内容から、脳卒中の予後には体重よりも適切な体成分の構成が重要であることを推測できます。肥満患者の体重減量が脳卒中の予防に役立つという説も、体成分が重要であることを裏付けします。


腹部肥満の危険性

体成分と脳卒中の関係に着目した研究もあります。腹部肥満と脳卒中の関係を調べるため、ニューヨークで虚血性脳卒中(脳梗塞)症例576件を検討した研究が行われました7)。結果、性別や人種と関係なく、ウエストヒップ比(Waist-Hip Ratio; WHR)の増加と脳卒中リスクには有意な相関があることが示されました。この研究では次のように述べています。

icon-caret-square-o-right 人種に関係なく、腹部肥満は脳梗塞の独立リスク因子である。
icon-caret-square-o-right 腹部肥満はBMIより有意な脳梗塞のリスク因子である。
icon-caret-square-o-right 腹部肥満は若い人においてより悪い影響を及ぼす。

このように、腹部肥満と脳梗塞の間には独立且つ有意な関係があることを示しています。従って、体脂肪の分布を把握して腹部の体脂肪量を減らすことは、脳卒中のリスクを下げることに繋がります。InBodyでも腹部肥満の指標としてウエストヒップ比を提供しているので参考にしてください。ウエストヒップ比の値が大きいと、腹部肥満と判断されますが、男性1.0以上、女性0.9以上が目安とされています。また、ヨーロッパの研究では、男性0.9以上、女性0.85以上は心血管死亡率が高いと報告しています。
※ウエストヒップ比はS10以外の全ての機種で選択項目として提供しています。


他の改善可能なリスク因子

既に説明しましたが、糖尿病・脂質異常症・高血圧などの疾患は脳卒中リスクと関連しています。このような疾患は脳卒中のリスクを高めますが、適切な体成分状態を維持することでこれらの疾患を予防できます。次の内容は体成分と上記疾患の関連性に関する研究で示された内容です8)

icon-caret-square-o-right 2型糖尿病のリスクは国や人種に関係なく、BMIが高いほど増加する。
icon-caret-square-o-right 高血圧症例の1/4以上が過体重と関連していた。
icon-caret-square-o-right 内臓脂肪型の肥満患者において脂質異常症のリスクが増加した。

これらの疾患は脳卒中のリスク因子であるため、肥満を改善させて関連疾患のリスクを下げることは、脳卒中のリスクを下げることに繋がります。生活習慣を改善させてリスク因子を減らすことで、脳卒中の約50%を予防できると言われています9)。血圧を下げることや血糖値を管理すること、HDLコレステロール値を高めて脂質異常症を予防することは脳卒中のリスクを大きく下げると言われており、体成分の改善はこれらの疾患の予防に繋がります。生活習慣の改善方法には適切な運動による活動量の増加・肥満患者の体重減量・糖尿病患者の血糖値調整・禁煙・規則正しい食事を含む食習慣の改善などが挙げられます。


脳卒中予防のために


脳卒中は一度発症すると回復後にも後遺症が残る可能性があり、身体障害により生活の質が低下することは致命的な健康問題です。しかし、脳卒中はいくつかのリスク因子を改善させることで予防も可能です。今まで説明した通り、少ない活動量・座りっぱなしの生活・悪い食習慣・肥満などを改善することは脳卒中だけではなく、他の疾患のリスクも下げます。

脳卒中リスクを高める疾患には高血圧や糖尿病、脂質異常症などがあり、これらの予防と管理は脳卒中リスクを減少させることに繋がります。そして、肥満は様々な健康問題や疾患の原因である同時に、脳卒中のリスクを高める因子です。過剰な体脂肪量は炎症を起こしたり、アテローム血栓性脳梗塞の発症を促進したりする組織であるため、適切な管理が必要です。従って、肥満評価に用いられる体成分に注目して管理することは、脳卒中リスクを管理できる方法の一つとも言えます。特に内臓脂肪の蓄積が原因の腹部肥満は、脳卒中リスクを高める重要な因子と言われています。多くの研究が、ウエストヒップ比の減少で予測できる腹部脂肪量の減少は脳卒中の予防において臨床的価値を持つと示しており、腹部肥満管理の重要性を裏付けています。肥満と関連する体成分は体脂肪量が挙げられますが、筋肉量を維持することも肥満の予防・改善に繋がります。従って、活動量・食習慣・喫煙状況などの生活習慣を見直して、筋肉と脂肪のバランスを改善することは、誰でもできる脳卒中の予防方法と言えます。体成分の現状を把握し、どう改善すればいいか考えることから健康管理を始めてみてはいかがでしょうか。

 

参考文献
1. 「平成29年(2017)人口動態統計月報年計(概数)の概況」厚生労働省
2. Rehabilitation Outcomes: Ischemic versus Hemorrhagic Strokes, Robert Perna and Jessica Temple, Behavioural Neurology Volume 2015, Article ID 891651, 6 pages
3. Stroke Risk Factors, Genetics, and Prevention, Amelia K. Boehme et al., Circulation Research February 3, 2017, 472-495
4. Obesity: A Stubbornly Obvious Target for Stroke Prevention, Walter N. Kernan et al., Stroke. 2013; 44:278-286
5. 「どうしましたか?症状別病気解説: ラクナ梗塞」社団福祉法人 恩賜財団済生会ホームページ
6. Obesity paradox in stroke – Myth or reality? A systematic review, Lisa Oesch et al., PLoS ONE 12(3): e0171334
7. Abdominal Obesity and Risk of Ischemic Stroke: The Northern Manhattan Stroke Study, Seung-Han Suk et al., Stroke. 2003; 34:1586-1592
8. Obesity: Its Epidemiology, Comorbidities, and Management, Jana Jarolimova et al., Prim Care Companion CNS Disord. 2013; 15(5): PCC.12f01475
9. Stroke Prevention: Managing Modifiable Risk Factors, Silvia Di Legge et al., Stroke Research and Treatment Volume 2012, Article ID 391538, 15 pages

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ホットヨガが代謝に及ぼす作用

ホットヨガは世界中で流行っているエクササイズの1つです。伝統的なヨガは、今から5000年以上も前からインドで行われており、現在までその人気は続いていますが、これには理由があります。ヨガは、柔軟性の向上・高血圧や心機能の改善・精神力の育成などの効果があります。一方、ホットヨガは大量に汗を掻くことで代謝が良くなり多くのカロリーを燃焼するので、デトックス効果が高まります。

ホットヨガは室温40℃前後、湿度40%~60%のスタジオで一連のエクササイズを行います。このように高温多湿な環境で行うヨガは、血流を良くし、筋肉が温まることでストレッチの効果も高まり、リンパの流れが良くなることで毒素の排出を助けるといわれています。しかし、このような主張のいくつかは、研究によって科学的に検証されていない点もあるということに留意してください。

運動中、体に熱ストレスを与えると筋肉代謝に影響する1)ことは明らかになっています。熱ストレスに長時間さらされることで代謝速度が向上するので、ホットヨガが実際に代謝へ影響している可能性は期待できます。今回のトピックではホットヨガと代謝の関係をもう少し詳しく考えていきます。先ずは、代謝と代謝率についてお話しします。


代謝と代謝率とは


代謝とは、体内に取り入れたもの(食べ物や飲み物)と酸素が組み合わさって、体に必要なエネルギーを生成する一連の合成や化学反応のことです。代謝は主に体成分と体力に由来します。代謝率とは、細胞の修復・呼吸・血液循環の維持など生命維持に必要なエネルギーをカロリーで表示した、代謝速度のことです。代謝速度が速くなると、体の機能を最適に維持するために必要なエネルギーが増えることになります。

基礎代謝量は、安静時でも生命活動を維持するために必要な最小限のエネルギーをカロリー(kcal)で表したものです。筋肉は多くのカロリーを消費するので、筋肉量を維持するためにもより多くのエネルギーが必要です。つまり、筋肉量が多い人は安静時でも多くのカロリーを消費するので、代謝率(基礎代謝量)も高くなります。カロリーの消費を増やす、もう1つの方法は身体活動です。身体活動が筋肉の需要を増大させ、筋肉を機能させるために更にエネルギー源を必要とします。InBodyでは全機種でカニンガム公式を利用した基礎代謝量を提供しているので、簡単に自身の基礎代謝量を調べることができます。また、一部の機種では推奨エネルギー摂取量も提供しており、体成分が標準に入っていない方が適正に近づくために摂取すべきエネルギー量も参考にすることができます。
※推奨エネルギー摂取量を提供している機種はInBody570・470・270です。健康な方における1日に必要なエネルギー推定量を算出したあと、InBodyで測定した体成分を考慮して補正した値です。体重と骨格筋量が両方とも標準範囲未満である場合は推奨エネルギー摂取量が増加し、体重と体脂肪率が両方とも標準範囲以上である場合は推奨エネルギー摂取量が減少します。

代謝率は個人で異なります。体の形・大きさ・体成分は個々で異なるので、代謝率が一致することはありません。代謝率に関わる遺伝的要素は変えることはできませんが、身体活動によって代謝率を高めることは可能です。先ほど、筋肉量が多いと安静時のカロリー消費量も増えることを説明しました。つまり、筋トレによる筋肉の構築は、代謝率にも大きな影響を与えるということです。有酸素運動も1日を通して消費するカロリー量を増やすため、一時的に代謝を高めます。有酸素運動と筋トレを組み合わせたHIIT(高強度インターバルトレーニング)が、運動後過剰酸素消費量(EPOC)を増やすことで代謝を効果的に高めることができると報告している研究2)もあります。代謝率を高める別の方法、熱ストレスによる方法は、次の項で見てみましょう。


熱が基礎代謝量に与える影響


性別・身長・年齢も代謝に作用しますが、これらの要因は変えることができません。しかし、体温を制御することでカロリーの燃焼を増やすことができます。体の内部温度と外部温度がどのように代謝率に影響するのでしょうか。

 icon-caret-square-o-right 内部温度
体の内部温度が高くなると、体は正常な体温まで戻そうと化学反応が強く働くため、代謝速度が速くなります。例えば、発熱している時、基礎代謝量は通常よりも遥かに高い数字まで跳ね上がりますが、それは発熱を抑え健康な状態に戻そうと、細胞の代謝反応が増えるためです。

 icon-caret-square-o-right  外部温度
内部温度の変化とは異なり、外部温度によって基礎代謝量を上昇させるには、体を熱ストレスに長時間さらす必要があります。短時間の熱ストレスでは代謝に影響を与えることができません。体に熱ストレスを長時間浴びせることができる代表的なものがホットヨガです。これが、多くの人がホットヨガに惹きつけられている理由の1つです。


ヨガとホットヨガの利点


先ず、従来のヨガの利点から説明します。ヨガで行う独特のポーズは、バランス能力・柔軟性・筋肉の構築を改善し、怪我の予防にも役立ちます。ヨガは筋肉を伸ばすことでストレスを緩和し、精神面にも作用します。定期的にヨガを行えば、肥満を防ぎメタボリックシンドローム発症のリスクを減らすと報告した研究3)もあります。

ホットヨガは従来のヨガと同じ利点を持ち、更にいくつかの利点が加わります。暖房が利いている部屋で大量の汗を掻くことは体に悪い影響を及ぼすこともありますが、
①トレーナーの指導に従うこと
②水分補給を行うこと
③自身の耐熱性を把握すること
でホットヨガは安全に行うことができます。高齢者を対象にホットヨガプログラムを8週間実施した研究4)でも、BMIが大幅に減少し体成分が改善されたことを報告しています。ホットヨガは体温より遥かに高い環境で行われるので、体が熱ストレスに長時間さらされることで基礎代謝量も上がり、体成分の改善が期待できます。


終わりに

代謝活動は睡眠中など無意識の状態でも常に行われており、生命活動にとって重要な機能を果たしています。代謝率は人それぞれ異なりますが、HIITや熱ストレスを利用したホットヨガなどの身体活動で高めることができます。一見、ホットヨガは大量に汗を掻いている姿から過酷な運動のように見えるかもしれませんが、得られる効果も大きく、行うだけの価値があるかもしれません。ホットヨガは柔軟性・精神力・代謝率の向上に加え、体成分の改善にも役立ちます。

何か新しいことにチャレンジしたいというあなた、マットを広げて汗を掻いてみませんか?

 

参考文献
1. Muscle metabolism during exercise and heat stress in trained men: effect of acclimation, Febbraio MA et al., J Appl Physiol (1985)76(2): 589-97
2. High-intensity interval exercise induces 24-h energy expenditure similar to traditional endurance exercise despite reduced time commitment, Skelly LE et al., Appl Physiol Nutr Metab(2014)39(7): 845-8
3. Yoga Practice for Reducing the Male Obesity and Weight Related Psychological Difficulties-A Randomized Controlled Trial, P.B. Rshikesan et al., J Clin Diagn Res(2016)10(11): OC22–OC28
4. The Effects of Bikram Yoga on Health: Critical Review and Clinical Trial Recommendations, Zoe L. Hewett et al., Evid Based Complement Alternat Med(2015): 428427

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睡眠は子供の体成分にどう影響するか?

近年では睡眠不足が深刻な問題として挙げられており、あらゆる年齢層に影響を与えています。テレビやパソコン、スマートフォンの普及で、子供たちは常にスクリーンにへばりついています。このような光源を発する機器は、早寝を妨げる要因の1つとなっています。スクリーンが発する ”ブルーライト” を寝る直前まで見ていると、寝付きが悪くなってしまう子供もいます。

米国睡眠医学会によると、子供の適切な睡眠量は次のように発表しています。
icon-caret-square-o-right 4カ月~12カ月:1日12時間~16時間
 1歳~2歳:1日11時間~14時間
 3歳~5歳:1日10時間~13時間
 6歳~12歳:9~12時間
 13~18歳:8~10時間

子供の睡眠は親が管理することになりますが、起床時間は学校の開始時間によって決まってしまうので、就寝時間を遅くならないようにコントロールする必要があります。最近は夜更かしの原因になるものが溢れており、推奨されている睡眠量を取ることが難しくなっています。しかし、睡眠不足は学校の成績だけでなく、体の健康にも影響を与えてしまいます。体の健康が食事と運動習慣に基づくことは勿論ですが、睡眠も重要な要素です。


子供にとって重要な睡眠と成長ホルモン


成長は主に成長ホルモンの影響を受けます。このホルモンは睡眠中に2時間から3時間の間隔で下垂体前葉より分泌されるので、子供の成長や創傷治癒、肌の新陳代謝は睡眠時に特に促進されます。 また睡眠中、成長ホルモンレベルがピークに達するので、子供の成長にとって適切な睡眠量が必要であるということは理解できます。

就学前の子供でも睡眠が重要であることに変わりありません。未就学児を対象に睡眠と身体活動が成長に及ぼす影響を調査した研究1)では、睡眠レベルが上がると全身の体脂肪量が減り、体脂肪率が改善されていることを発表しました。睡眠を怠惰や肥満増加の原因と考える人もいますが、子供の健康にとっては睡眠が必須です。子供たちが成長のために適切な睡眠量を取れているかどうか確認してください。


子供の睡眠と筋力


睡眠と筋力の関係について、興味深い研究がいくつかあります。青年の睡眠習慣を調べた横断研究2)では、睡眠が腹囲などの肥満マーカと反比例し、骨格筋量と正の相関関係があることが分かりました。しかし、最も睡眠の長かった青年も、睡眠が最も少なかった青年と同様に腹囲の増加が著しく、睡眠は少なすぎても多すぎても体成分に悪影響を及ぼす可能性があるということを示唆しています。男子大学生の睡眠習慣を調査した研究3)では、睡眠時間が短い(6時間未満)学生は、睡眠時間が適切な(7時間以上)学生と比べて筋力が低下していることが報告されました。

筋力が低下する理由は様々ですが、睡眠不足も1つの原因です。睡眠中にタンパク質合成が増加し、その日に分解された筋肉を再構築します。つまり、筋肉繊維を再建するには十分な睡眠が不可欠なのです。


睡眠は肥満に直接関連する


近年では小児肥満が深刻化し、小児の肥満診断基準が定められ、早期発見と予防の取り組みが求められるようになりました。厚生労働省は小児肥満を知る目安として、次の肥満度を使用しています4)
厚生労働省:肥満度(%)=(実測体重-標準体重)÷標準体重×100
この計算式により、幼児では肥満度15%以上が肥満児、学童期以降では20~30%が軽度肥満、30~50%が中等度肥満、50%以上が高度肥満と判定されます。InBodyの研究項目にある肥満度は、
InBody:肥満度(%)=実測体重÷標準体重×100
で算出された数字なので、下二桁の数値が上記公式で算出された値と一致します。

BMC Public Healthで発表された、0-4歳児の子供を対象に睡眠の重要性に関する調査を行った研究5)では、睡眠時間が短いと成長障害や感情調整能力の未発達に加えて、体脂肪率が高くなることを発見しました。これは、より多く眠る子供は体脂肪率が良く、優れた体成分である確率が高いということを意味しています。7-9歳児を対象に睡眠を調査した横断研究6)でも同様な結果で、睡眠が9時間未満の子供は9時間以上の子らと比較して肥満になるリスクが3倍以上もあることが分かりました。体脂肪率は睡眠9時間未満の子供が23.4%、11時間以上の子供が20.9%と有意に低い値でした。

小児肥満の約70%が成人肥満に移行するといわれており、また高度の小児肥満は高血圧・糖尿病・脂質異常症などの病気を発症するリスクがあります。Obesity Reviews掲載記事7)では、習慣化された睡眠不足について次の問題を指摘しています。
 インスリン抵抗性が高くなる(糖尿病発症をもたらす可能性が上がる)
 糖尿病が原因で食欲増進・代謝変化・体成分変化・肥満の発症に繋がる
 高血圧と塩分貯留のリスクが上がり、心臓病の問題に繋がる
このような研究結果が、適切な睡眠量が肥満の治療に不可欠であることを示しています。健康な体を維持するためにはもちろん適切な食事と運動も重要ですが、睡眠も肥満の管理に重要な役割を果たすので、肥満治療計画の礎として睡眠にも介入すべきです。


健康には適切な睡眠が重要


子供たちが夜にしっかり睡眠を取れているかを確認することは非常に重要です。睡眠は、学校の成績・社会との関り・体の成長・健康にとって重要な役割を果たしています。宿題や習い事で忙しい子供は、就寝時間を早めることが難しいかもしれませんが、両親が就寝時間を一定に保つために努力することは必要です。寝る前にブルーライトを発する電子機器や運動を避け、カフェインを含む飲み物は与えないようにしてください。規則的な生活リズムを保てるように、周りの大人たちの生活リズムも一度見直してみましょう。子供が幼い時期から良い睡眠習慣を教えることは適切な発達を促し、良い健康状態、つまり健康的な体成分を成人期まで維持することに繋がります。

 

参考文献
1. Role of physical activity and sleep duration in growth and body composition of preschool‐aged children, Nancy F. Butte et al., Obesity(2016)24(6): 1328-1335
2. Sleep duration is associated with body fat and muscle mass and waist-to-height ratio beyond conventional obesity parameters in Korean adolescent boys, Nam GE et al., J Sleep Res(2017)26(4): 444-452
3. Relationship between sleep and muscle strength among Chinese university students: a cross-sectional study, Yanbo Chen et al., J Musculoskelet Neuronal Interact(2017)17(4): 327–333
4. 生活習慣病予防のための健康情報サイト 子どものメタボリックシンドロームが増えている|eヘルスネット 厚生労働省
5. Systematic review of the relationships between sleep duration and health indicators in the early years (0–4 years), Jean-Philippe Chaput et al., BMC Public Health(2017)17(5): 855
6. Long sleep duration and childhood overweight/obesity and body fat, Padez C et al., Am J Hum Biol(2009)21(3): 371-6
7. Epidemiological evidence for the links between sleep, circadian rhythms and metabolism,
Gangwisch JE, Obes Rev(2009)2: 37-4

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糖尿病と筋肉量の関係

生活習慣病としてよく知られている糖尿病は、毎年患者数が増加している現代の代表的な疾患の一つです。日本の糖尿病患者及び糖尿病予備群の数はどちらも約1千万名(2017年基準)、糖尿病による年間死亡数は約1万3千名(2016年基準)に達しています1)。尚、全体の約95%は2型糖尿病の患者であるといわれています。世界的にも糖尿病患者は増加しており、国際糖尿病連合(IDF)の調査によると、2017年の糖尿病患者数は2015年より1千万名増加した約4億2,500万名、成人(20歳~79歳)の糖尿病有病率は8.8%、糖尿病予備群(耐糖能異常)の数は約3憶2,500万名に達する等、糖尿病は身近な疾患となりつつあります2)


糖尿病患者といえば、多くの方は太っている人を想像するかもしれません。しかし、体重やBMIが標準または低くても糖尿病を患っている方もいます。BMIは高くなくても体脂肪率が高い、いわゆる隠れ肥満の人が糖尿病または糖尿病予備群になるリスクが高いです。これは糖尿病のリスクを下げるためには、単純に体重を管理するより体成分を管理する必要があることを示します。では、体成分と糖尿病はどのような関係があるのでしょうか? 不均衡な体成分と糖尿病はどう関連しているのか、確認してみましょう。


バランスの取れた体成分とは


体成分を2つに分けると体脂肪量と除脂肪量で分けることができます。除脂肪量には随意筋である骨格筋と、内臓筋・心臓筋や骨(骨ミネラル)が含まれます。除脂肪量と体脂肪量が適切な量を維持している状態が体成分のバランスが取れている状態で、健康な体を維持することに繋がります。過体重や肥満、または栄養状態が悪い人はこの均衡が大きく崩れています。

過体重や肥満の人は体重を減らすことだけを目標としがちです。しかし、健康状態を改善し、せっかく減らした体重を維持するためには崩れている体成分均衡を改善させる必要があります。つまり、体重を減らすことだけを目標にするのではなく、過剰な体脂肪量を減らしながら、除脂肪量(筋肉量)を維持または増やすことを目標とすることが望ましいです。体成分の改善は見た目をよくするだけではなく、糖尿病及び肥満と関連する様々なリスクを減らし、代謝機能を向上させる等、よい影響を及ぼします。


糖尿病と代謝機能の関連性

代謝機能(metabolism)という言葉を聞くとどういうことを思い浮かべますか? 代謝機能がいい人は同じ量を食べても、代謝機能が悪い人よりあまり太らないというイメージを持っている方が多いでしょう。これはある程度は正しいと言えます。代謝機能とは現在の身体構造を維持または回復するために飲食物を分解し、必要なエネルギーを供給する過程を言います。食事をすると、体はそれを分解して必要なところに届けます。この一連の過程を簡単に整理すると次の通りです。


このように、代謝活動はあまり複雑ではありません。しかし、糖尿病患者はこの一連の過程がうまくいきません。これが、糖尿病が代謝機能異常疾患として分類される理由でもあります。糖尿病は代謝方法を変化させるため、細胞がブドウ糖をエネルギーとしてうまく消費できないようにします。先ほどの代謝活動の流れをもう一度見てみましょう。上記過程でインスリンが分泌されるポイントは2つ(1次、2次)です。インスリンは細胞がブドウ糖を吸収してエネルギー源として使用できるように手伝う役割をするホルモンで、膵腸がインスリンを分泌するタイミングは最初にブドウ糖が供給されたときと、そのあとにもインスリンが必要になったときです。つまり、糖の代謝においてインスリンの役割はとても重要です。

 


糖尿病は1型と2型の2種類があります。1型糖尿病(T1D)患者の場合、そもそも体がインスリンを作ることができなくなり、代謝機能がうまく働きません。1型糖尿病患者は免疫機能の混乱によって膵腸でインスリンを作るβ細胞が壊れる疾患であり、糖尿病患者の中でもその数が少なく、原因もはっきりしていないため予防も難しいです。

2型糖尿病は少し違います。2型糖尿病患者の場合、インスリンはちゃんと分泌されていますが、細胞がインスリンを適切に使えなくなっています。このような状態を「インスリン抵抗性(IR)」といいます。インスリンが働かないと細胞はブドウ糖をエネルギー源として使用できないため、ブドウ糖はそのまま血中に残り、溜まってしまいます。血中の過剰な血糖はトリグリセリドに転換され、体脂肪として蓄積されます。体脂肪量が増加するとホルモン不均衡や全身性炎症が発症し、継続すると他の疾患にもつながる恐れがあります。

糖尿病は心疾患、脳卒中、腎臓病、神経疾患、皮膚感染症、眼科疾患とも関連しており、免疫システムの損傷を引き起こす恐れもあります。血液循環の問題と糖尿病が重なると怪我や感染のリスクを高め、足の感覚を鈍くさせ、切断せざるを得ない状態まで悪化することもあります。他に糖尿病が引き起こす合併症としては網膜症、腎不全、歯周疾患、動脈硬化、狭心症、認知障害等の慢性合併症と糖尿性ケトアシドーシス、感染症等の急性合併症があり、最悪の場合、死に至るほどの深刻な疾患まで発展することもあります3)


筋肉量と2型糖尿病の関係

過剰な体脂肪量だけが糖尿病のリスクを高めるわけではありません。最近の様々な研究では、糖尿病のリスクと低筋肉量の関連性が示されています。筋肉量が少ない人の糖尿病有病率が高いだけではなく、糖尿病によって筋肉が弱くなることもあります。2型糖尿病が筋肉に及ぼす悪影響は疲労度、筋力、筋肉量の3つに分けられます。

▶ 筋肉の疲労度
筋肉疲労は運動または身体活動後に、筋肉の疲れや痛みを感じる疲労の一種です。2型糖尿病患者は筋肉が回復するのに時間がかかり、運動負荷への耐性が弱くなる等、筋肉疲労度が増加するという研究発表もあります4)。これは2型糖尿病患者が健康な人より運動による筋肉疲労の影響が強いことを示します。

▶ 筋力
2型糖尿病は筋力を低下させます。年齢、性別、教育水準、アルコール消費量、喫煙期間、肥満、有酸素運動などの変数で調整した後でも、2型糖尿病患者の握力は健康な人に比べ弱かったという研究結果があります5)

▶ 筋肉量
2型糖尿病患者は筋力や筋肉の回復速度が低下するだけではなく、筋肉量も少なくなります。特に糖尿病の罹患期間が長くなると、筋肉量はより減少する傾向があり、部位別でみると下半身の筋肉量が特に減少しやすいです6)。2型糖尿病患者のInBody結果用紙を見てみましょう。下半身の筋肉量が特に少なく、それらの部位の水分均衡(ECW/TBW)※も崩れていることが分かります。

※水分均衡(ECW/TBW)の標準範囲は0.360~0.400で、InBodyではECW/TBWが0.400以上なら高いと評価します。特定の疾患・浮腫・悪い栄養状態・怪我による炎症などでECW/TBWは高くなります。

低筋肉量が2型糖尿病のリスクを高めるとすると、筋肉量を増やし、体成分を改善させることは2型糖尿病のリスクを減少させることに繋がります。日本と韓国の健常人約20万人をフォローアップした研究では、約3年後での2型糖尿病罹患率は、筋肉量が多い参加者で低い結果となりました7)。この結果から、筋トレや適度な運動を日常的に行い、筋肉量を減らさない努力が重要であると分かります。

運動は糖尿病のリスクを下げるだけではなく、糖尿病の状態を改善させる効果もあります。運動をすると筋肉は通常より多くのエネルギーを必要とし、ブドウ糖の需要を高めます。これによって、ブドウ糖が細胞に運ばれる量が増加するため、適切な運動は2型糖尿病患者の血糖コントロールに効果的です。特に、筋肉は大きいとより多くのエネルギーを必要としますが、脚の筋肉は体の中で最も大きい筋肉に該当します。そのため、脚の筋肉はブドウ糖の摂取・コントロールにおいて重要な筋肉です。また、2型糖尿病患者は下半身の筋肉量が特に減少しやすいため、下半身を中心とした運動を継続して筋肉量を維持・増加させることは糖尿病のリスクを下げ、身体能力の改善も期待できます。既にインスリン抵抗性が発生している状態でも、運動によってブドウ糖の需要が増えるとインスリンの効果が高くなり筋肉細胞がブドウ糖を使用できるようになり、血糖などを改善させることに繋がります。


インスリン抵抗性を改善する方法


既に説明した通り、2型糖尿病患者または糖尿病予備群の人はインスリン抵抗性が発生しており、これは細胞が血中のブドウ糖をエネルギーとして使う過程でインスリンがうまく働いていないことを意味します。そして、このような状態は結果的に様々な健康問題を引き起こします。しかし、インスリン感受性を回復させ、糖尿病の状態を緩和させたり、糖尿病が引き起こす合併症のリスクを下げたりすることは可能です。2型糖尿病患者を対象に筋トレプログラムを実施した結果、トレーニング前後でHbA1c数値が8.7%から7.6%に減少し、16週間の筋トレプログラムを終了した時には参加者の72%が、薬の服用量が減少していたと報告した研究もあります8)。既に糖尿病を患い、血糖値が高かったとしても、週2-3回程度の筋トレで糖尿病の症状を緩和させることができます。ただ、既に疾患を患っている方の場合、運動を始める前に必ず担当医と相談の上、運動計画を立ててください。


糖尿病の予防・改善のために覚えておくこと


糖尿病のリスクを高めるのは体重ではなく、その中身です。少ない筋肉量と多い体脂肪量は体重とは関係なく糖尿病のリスクを高めます。そのため、糖尿病のリスクを下げたり、血糖値を改善させたりするためには、体成分を改善させることが役立ちます。簡単に言うと体脂肪量が多い場合は体脂肪量を減らし、筋肉量が少ない場合は筋肉量を増やすことです。筋肉量を増やしつつ体脂肪量を減らした人が、両方ともに多い人または両方とも少ない人より2型糖尿病のリスクが低いと報告している研究もあります9)。つまり、どちらか片方ではなく、両方とも適切な量を維持することが大事といえます。

現在の体成分を把握することは、疾患のリスク把握と適切な目標設定に欠かせません。測定結果を基に体成分をどう改善すべきか、そのためには今の生活習慣をどう変えるべきか、具体的な計画を立てることができます。その計画を実行することで糖尿病を含む様々な疾患のリスクを下げることに繋がるでしょう。定期的な運動を行うことで、体脂肪量や筋肉量の改善はもちろん、血糖値を下げる効果も得られます。もちろん、食事も大事です。低糖質・高たんぱくの食事と筋トレを並行することは、インスリン感受性と体成分の改善に役立ちます。

健康問題が心配ですか? 健康維持のための目標設定が難しいですか? まずは体成分を把握しましょう。バランスの良い体成分を目指すことで、悩んでいた問題がより解決しやすくなるかもしれません。

 

参考文献
1. 「生活習慣病の調査・統計」一般社団法人日本生活習慣病予防協会ホームページ
2. 「IDF Diabetes Atlas 8th」国際糖尿病連合ホームページ
3. 「DM TOWN」SANOFIホームページ
4. Mechanisms for the increased fatigability of the lower limb in people with type 2 diabetes, Senefeld J. et al., J Appl Physiol (1985). 2018 Aug 1;125(2):553-566.
5. Association between muscle strength and type 2 diabetes mellitus in adults in Korea: Data from the Korea national health and nutrition examination survey (KNHANES) VI, Lee MR et al., Medicine (Baltimore). 2018 Jun;97(23)
6. Reduction of Skeletal Muscle, Especially in Lower Limbs, in Japanese Type 2 Diabetic Patients With Insulin Resistance and Cardiovascular Risk Factors, Yuji Tajiri et al., Metab Syndr Relat Disord. 2010 Apr;8(2):137-42
7. Relative muscle mass and the risk of incident type 2 diabetes: A cohort study, Sungwoo Hong et al., PLoS One. 2017; 12(11): e0188650
8. A randomized controlled trial of resistance exercise training to improve glycemic control in older adults with type 2 diabetes, Castaneda C. et al., Diabetes Care. 2002 Dec;25(12):2335-41
9. Effects of combination of change in visceral fat and thigh muscle mass on the development of type 2 diabetes, Seung Jin Han et al., Diabetes Res Clin Pract. 2017 Dec;134:131-138

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筋トレに年齢制限なし

加齢に伴い筋肉量は減少します。加齢が原因で筋肉量と筋力が低下することを指した、サルコペニアという言葉もあります。50歳以降で筋肉量は1~2%減少し、60~70歳では平均5~13%、80歳を超えると11~50%も筋肉量が減少してしまいます1)。筋肉量の減少は機能的能力の低下や、健康リスクに繋がります。身体活動が減ると筋肉の喪失がさらに加速され、生活の質が低下し日常生活が困難になる場合もあります。

高齢者は筋肉量が減少していくにもかかわらず、筋トレによって自身の体力レベルを改善することに消極的です。長い時間、トレーニングや身体活動をしていないと、”年を取りすぎて、もう重いものを持つことはできない” と誤った考えを持ってしまいやすい状態になります。しかし、年齢に関係なく誰もが体力レベルを向上させることができます。若い頃と変わらず活発で居続けるためには、体力と体型を改善するための目標を、体成分の視点で設定することが必要です。誤った考えから正しい考えへとシフトさせるには先ず、「フィジカルトレーニング(筋力・持久力・柔軟性などの基本的な運動トレーニング)」と「ファンクショナルトレーニング(機能的動作習得トレーニング)」の2つのトレーニングについて理解することから始まります。


フィジカルトレーニングとファンクショナルトレーニング


フィジカルトレーニングは、大きく次の3つに大別されています。
▶筋力を増幅するウエイトトレーニングや無酸素運動
▶心肺機能を高める有酸素運動
▶関節の柔軟性と可動性を高めるストレッチなど

小・中・高と学生時代に行っていた全国体力テストを覚えているでしょうか? 全国各地の学校で行われていた年1回のこのテストは、握力・上体起こし・50m走・持久走・長座体前屈などの体力を測るための様々な種目を実施することで、体力・運動能力の水準を向上させることを目的としています。学生であれば、自分のために使うことができる自由な時間が多いので、学業の時間と体力・運動能力を鍛える時間を設けることができます。しかし、大人になると仕事や家族に費やす時間が増え、自身を鍛える時間の優先度はだんだんと低くなっていき、体を鍛えるための十分な時間を確保しづらくなります。ではその様な方は、残り少ない自由な時間をファンクショナルトレーニングに当ててみてはいかがでしょうか?

 


ファンクショナルトレーニングという言葉を初めて耳にした方もいらっしゃると思います。若い方は尚更でしょう。元々ファンクショナルトレーニングとは、怪我や病気で基本的な動作ができなくなってしまった患者に対して、理学療法士や作業療法士がリハビリの一環として使用しているものでした。よって、トレーニングでは食事で箸を使う・お風呂で体を洗う・床や高い位置にあるものを掴む・楽器を弾くなどの、日常生活に必要な少し複雑な動きを安全に行えるようにすることを目的としていました。しかしファンクショナルトレーニングで大事なことは “筋肉をうまく使えるようになること=機能的に使えるようになること” なので怪我や病気のリハビリに限定せずに、老若男女問わず誰でも必要に応じて行うべきトレーニングです。

フィジカルトレーニングで筋力を鍛えたとしても、筋肉をうまく使える機能が弱ければ、フィジカルトレーニングの効果を「パフォーマンス」や「できるようになりたい動き」で発揮することができません。そのため、適切なファンクショナルトレーニングを行い、筋肉を使う機能を強化することが年をとっても生活の質を維持することに繋がると言えます。


高齢者にもお勧めのフィジカルトレーニングの例 -サーキットトレーニング-


高齢者には筋力・有酸素能力・柔軟性をまんべんなく短時間で鍛えることができるサーキットトレーニングがお勧めです。サーキットトレーニングでは全身の筋力と持久力を鍛えるために最低でも7種目の運動を休憩なし(若しくはごく短い休憩を挟みながら)で行う必要があります。複数の種目を連続して行うので、1つ1つの種目の負荷は軽めに設定します。そのため筋肥大を目的に全身くまなく高負荷を掛けて行う筋トレと比較すると、筋肥大の効果という点においては弱くなってしまいますが、高齢者にとっては筋肥大が目標ではないので軽い負荷でも十分効果が得られます。また、サーキットトレーニングではよくマシンも使用されており、高齢者でも怪我なく安全に実施できるという点でもメリットがあります。

サーキットトレーニング プログラム
【時間】
柔軟体操   20秒×8種目 計3分
有酸素運動 10分×2種目 計20分
無酸素運動 20秒×6種目 計2分
1サイクルのエクササイズ時間約25分、サイクル間の休憩5分前後(2セット以上行う場合)
【強度】
有酸素運動 最大心拍数の60~80%
無酸素運動 最大筋力の60~80%(25RM~8RM)
【種目】
柔軟体操   腰ストレッチ/背中・肩ストレッチ/お尻ストレッチ/太ももストレッチ/腹筋ストレッチ/膝ストレッチ/腕・肘ストレッチ/股関節ストレッチ など
有酸素運動 トレッドミル/フィットネスバイク/ペダルマシン/踏み台昇降運動 など
無酸素運動 カール(上腕二頭筋)/チェストプレス(大胸筋・上腕三頭筋)/バタフライ(大胸筋)/ショルダープレス(肩・三角筋)/シーテッドバッグエクステンション(背筋)/レッグプレス(大臀筋・大腿四頭筋)/レッグエクステンション(大腿四頭筋・ハムストリング) など


高齢者にもお勧めのファンクショナルトレーニングの例


ファンクショナルトレーニングを行う際は、次の5原則を意識して取り入れていくことが重要です。
1. 重力を利用する
人間が生活するうえで基本となる姿勢は “立位” です。立位姿勢から、歩く・走る・物を運ぶ・階段を上り下りするなどの動作に発展していきます。つまり、日常動作の機能を向上させるには重力に耐える体を作るトレーニングが必要という訳です。
【トレーニング例】
重力に対して抵抗を与える体幹トレーニング、抗重力筋(姿勢維持筋)を鍛えるチューブトレーニング など

2. 共同と分離
人間の体にはたくさんの関節が存在しています。複雑な動作を行う際は、各関節を分離させてそれぞれの役割に応じて動作を行ったり、分離した関節が同時に活動して全ての関節動作を共同させたりする必要があります。片足を上げるという動作に着目してみると、体幹と股関節が分離することで体幹が固定され、体が安定したまま上手に片足を上げることができています。
【トレーニング例】
複数の筋肉・関節周り・バランスを鍛えるランジ、多関節を使うマシントレーニング など

3. キネティックチェーン(運動連鎖)
運動動作は、1つの筋肉だけで行われているという訳ではなく、多くの筋肉が連鎖(チェーン)して起きています。ウォーキングでも、力は地面・脚・お尻・体幹・上肢へと伝達することで前進しています。実は、歩くだけでも200個以上の筋肉が使われ、連鎖しています。連鎖が切れていると力が上手く伝わらず、効率の良い動作ができず、連鎖が途切れている部分を痛めてしまうことにも繋がります。トレーニングでは複数の筋肉の連鎖を使うことを意識しましょう。
【トレーニング例】
ボール投げなど体の末端部位を動かす運動、複数の筋肉を鍛えるマシントレーニング など

4. 3面運動(3 Dimension movement pattern)
多くの動作は3面(前後・左右・回旋)で行われているので、体の機能を向上させるには3面運動も必要です。ウォーキングの動作を3面で見てみましょう。正面から見ると、片足の時に重心が支持脚になるので左右に体重移動をしていることが分かります。横から見ると、手足が大きく前後に動いていることが分かります。真上から見ると、体の捻りが手足の動きと合わせて同時に行われていることが分かります。
【トレーニング例】
胸椎・股関節の回旋を組み合わせたウインドミル、ツイスト、ゴルフのスイング など

5. 力の吸収と力の発揮
日常動作やスポーツにおいて、効率的で大きな力を発揮するためには、必ずその方向とは反対に力を溜めて踏み込む動作が必要になります。ジャンプ動作では、より高くジャンプをしようとすると無意識に一度しゃがみ込みを行います。このしゃがみ込みがなければ力の吸収が行われず、高く飛ぶことができません。
【トレーニング例】
深くしゃがみ込む様なスクワット、垂直飛び など


筋トレを始めるのに遅すぎるということはありません


筋トレも学問と同じように、”始めるのに遅すぎる” “年齢制限がある” というものではありません。マシンやウエイトトレーニングの効果を得るには “若くなければいけない” ということはないのです。高齢者を対象に筋トレの効果を報告したものが幾つもあります2)3)。 ”運動するのは難しいが、筋肉なしで生活するのはより難しい” と覚えてください。何年も運動をしていないからと、運動を始めることを諦めないでください。

 

参考文献
1. An overview of sarcopenia:facts and numbers on prevalence and clinical impact, Stephan von Haehling et al., J Cachexia Sarcopenia Muscle(2010)1(2):129-133
2. Effects of Resistance Training on Older Adults, Gary R. Hunter, John P. McCarthy and Marcas M. Bamman, Sports Medicine, April 2004, Volume 34, Issue 5: 329–348
3. Effects of circuit exercise and Tai Chi on body composition in middle-aged and older women, Wei-Hsiu Hsu et al., Geriatr Gerontol Int 2014, doi: 10.1111/ggi.12270

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食物依存症と過食 Part2: 改善法

前回のトピックで確認した通り、食物依存症は過食の原因になり、過食は様々な健康問題を引き起こします。過食の原因が人によって異なるのと同じく、改善法も様々です。これから紹介する方法は数ある改善法の中の一部で、これらを参考に自分に合う改善法を探してみてください。


▶好きなもの(加工食品)を定期的に少量摂取する


チョコレートやケーキなどの甘いものを適量摂取することは、ストレスを減少させたり、幸せな気持ちになるなど、良い効果もあります。無理して食べないように我慢することはストレスの原因となるため、むしろ定期的に少量を摂取することでコントロールしやすくなります。


▶味覚を鍛える


加工食品の強い甘味に慣れてしまい果物や野菜の甘味に鈍くなっていても、味覚を鍛えることで自然の甘さを敏感に感じるように戻すことが出来ます。味覚を鍛えると言っても料理人を目指す人がやるように、細かく味を見分ける訓練をする訳ではありません。砂糖に接する頻度を少なくして、果物や野菜など自然の甘さと接するようにするだけです。味蕾細胞(みらいさいぼう)は約10日周期で新しくなるといわれています。つまり、新しい味蕾細胞を自然な甘さに慣れさせ続けることで味覚を鍛えることができるという訳です。


▶カロリーではなく胃腸を満たす食べ方をする

加工食品は砂糖や精製炭水化物が主原料であり、量が少なくてもカロリーが高いのが特徴です。そのため、加工食品を中心に満腹感を得るまで食べるとカロリー摂取量は急激に跳ね上がり、体脂肪量の増加に繋がります。しかし、満腹感を得ることも食事の楽しみの一つでしょう。満腹感を得ながら食事を楽しむ方法として、胃腸を満たしつつカロリー摂取量を抑えられるのが「十分な量の良い食べ物を食べる」という方法です。栄養分や食物繊維が豊富な野菜や果物を先に食べることで、高カロリー食品の過食を抑えられます。


▶きっかけになる食べ物を把握する

過食の原因には、過度なダイエットや食事制限があります。食べることを我慢している時に突然我慢できなくなり食べ続けてしまうのです。その「我慢できなくするもの」が何かを把握することも、過食を防止するためには重要です。食べ始めたらコントロールができなくなる食べ物が分かっていれば、その食べ物や似たような種類のものに注意を払うことができます。


▶食べたあとの感情を記録する


この方法は食べるときは実感できない報酬感を客観的に評価する方法です。例えば、チョコレートバーを一つ食べた後、少し時間が経ってからの感覚を簡単に記録します。「甘さが残ってない」のような短い一言で十分です。食事後やおやつを食べた後にしばらく記録し続けると、食べた瞬間の報酬感はあまり長続きしなかったり、思ったより小さく感じたりするなど、客観的に判断できるようになります。


▶自分で料理をする


外食をすると過食しやすくなる傾向が示されています。外食で過食しやすくなる理由として、「選択の幅が広くなる」ことと「食べ物の量を自分で調節できない」こと、そして「準備に自分の努力が必要ない」ことの3つが挙げられます。どれほど美味しいものでも、ずっと食べ続けると飽きて食べなくなります。しかし、外食する時は注文できる料理のバリエーションが広いため、いろんなものを飽きずに食べることができ、結果的には多く食べるようになります。そして、1人前の量を自分で調節できないため、全部食べると食べすぎることもあり、準備に手間がかからない分、たくさんの料理を食べようとする気持ちが強くなります。

自分で料理をすることは品数に限りがあるので選択の幅を狭め、決まった量を食べるようになり、過食を防ぎます。自分一人で一気に数十種類の料理を作って食べることはできないでしょう。そして、作りすぎて捨てることになるのが勿体ないと思うようになるので、作る段階であまり多く作らず、食べられる量だけ作ることで、過食をする機会が減っていきます。


▶食べる以外のストレス解消法を探す


ストレスは過食に繋がりやすいので、なるべくストレスを感じない生活を送れることが理想ですが、そういう生活を送ることはかなり難しいです。そのため、食べるという方法以外のストレス解消法を探し、常にコルチゾールの濃度が高いままにしておかないことが重要です。ストレス解消法は千差万別ですが、軽い運動や散歩、瞑想、好きなことをやるなど、自分に合うストレス解消法を見つけて適切に行うことで、ストレスによる過食を防止できます。


健康のために、時には我慢することも必要です


健康な体を作るためには筋肉と体脂肪の均衡を保つことが重要であるように、健康な食生活になるためには様々な栄養分をバランスよく摂ることが大事です。甘いものを食べることは悪くありませんが、摂りすぎてバランスが崩れてしまっては健康を損ないます。過食は、体重の増加・ホルモン分泌の変動・胃腸収容量の変化・代謝機能の悪化など、身体面へ影響しますが、「食べ過ぎた」という罪悪感と不快感から食事を楽しむことができなくなるなど、精神面にも影響を及ぼす恐れがあります。

急に何かを食べたくなった時、その理由が何かを考えてみましょう。空腹感には身体的な空腹感と感情的・精神的空腹感があり、食事が必要な空腹感は身体的空腹感です。ストレスや疲れが原因で感じる空腹感は加工食品の過食に繋がりやすく、エネルギーの過剰摂取に繋がります。何か食べたいあなた、何が食べたいですか? 甘いデザートやお菓子、味が濃いものなど、依存症を引き起こしやすい加工食品を思い浮かべたのであれば食べる前になぜ食べたいかを考えることで、過食衝動をコントロールできるかもしれません。
適量の甘いものを食べつつ、食べ物に常に気を付けて、時にはすぐ食べたい気持ちを我慢することで健康な食生活を楽しむことができるでしょう。

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食物依存症と過食 Part1: 体への影響

目の前にはチョコレートがひと箱あります。今日は仕事がいつもより忙しく、ストレスや疲れも溜まっているので、「心の癒しのためにちょっとだけ」と思って手を出したものの、いつの間にか全部食べてしまいました。そして甘いものを食べたせいか、塩辛いものが無性に食べたくなり、ついポテトチップスも一袋食べきってしまいました。食べきった後には、「しまった」と罪悪感に近い気持ちが押し寄せてきて憂鬱になります。ダイエットを頑張っている人で、こういう経験をした方は意外と多いかもしれません。こういうことになると殆どの人は自制心が足りないと思い、自分を責めることもありますが、ある理由による過食は自分の意志だけで克服するのはなかなか難しいものです。

食物依存症という言葉を耳にしたことがありますか? よく摂食障害である過食症と勘違いされやすい症状ですが、過食症が強い痩せ願望などの精神的な部分が原因であることに対し、食物依存症は食べ物を食べる行為自体に依存するという違いがあります。薬物依存症やアルコール依存症のように、食べ物に対して化学的に中毒症状を起こしている状態と考えた方がわかりやすいかもしれません。これから食物依存症と過食の関係を確認し、体成分にどのような影響を及ぼすかを説明します。


食物依存症とは?


食物依存症は大きく3つの特徴を持ちます。
▶ 食べる行為をコントロールできない
▶ 身体・精神的な悪影響にもかかわらず食べ続ける
▶ やめたいと思いながらも食べることをやめられない

食物依存症が問題になり始めたのはここ10年ほどで、まだ明確に定義されていない部分が多いですが、放置すると摂食障害に繋がる可能性が高い状態なのは確かです。全ての食べ物が食物依存症を引き起こすわけではありません。最近の研究では、果物や野菜など加工されていない食品は依存症になる危険性が低く、ピザやチョコレート、ポテトチップスの順で依存症の危険性が高かったと報告されています1)。 依存症になりやすい食品の共通点としては高脂質・高塩分・高糖質が挙げられます。甘く、塩辛く、脂っこい食べ物は依存症を引き起こしやすいですが、中でも特に強く働くのは甘味です。塩辛さや脂っぽさは甘味をうまく隠したり、甘味を引き立てたりして、さらに食が進むようにします。強い甘味が食物依存症を引き起こしやすい理由は、大きく3つ挙げられます。

ドーパミンとオピオイドの作用

ドーパミンは脳に働く化学物質で、報酬系という部分を活性化させて行動を強化します。人は褒めてもらうと、その行為を繰り返すようになります。これはドーパミンが働き、褒めてもらうための行為を強化したためです。依存症も「甘いものを食べる」「アルコールや薬物を使用する」などの快感を得る行為がドーパミンによって強化された状態です。オピオイドも脳に働く化学物質で、エンドルフィンもオピオイドの一種です。鎮痛作用もあり快感を与えるもので、手術や末期がん患者に使用する鎮痛剤にも使用されますが、麻薬の成分としても使われます。糖と脂質が結合されたものを食べるとき、オピオイドを分泌する脳神経は素早く活性化されます。オピオイドの作用で脳が「快感」を感じると、ドーパミンが増加し、報酬系が活性化されることで快感を得られたもの(甘いもの)を食べる行為を強化させます。甘味はこの一連の脳内作用に強く働きます。つまり、甘いものを食べるとオピオイド回路が活性化されて幸福感を感じ、ドーパミンが報酬系を活性化させることで甘いものを食べる行為を強化させます。

インスリンとレプチンの作用

食事をすると血糖値が上昇します。血糖値が上がるとインスリンが分泌され、糖を細胞に届けてエネルギーとして使うことで血糖値を下げます。そのため、血糖値が急に上がると、一時的にインスリン分泌量も増加します。一方、レプチンは満腹感を感じるようにします。一般的に食事を開始して20分ほど経つと分泌されますが、レプチンの信号が脳に届くと「エネルギーが十分なのでもう食べなくていい」という状態となります。これが満腹感で、満腹感をよく感じない人はレプチンの信号を脳がうまくキャッチできていない状態とも言えます。インスリンが送る「血糖値が高いのでインスリンをもっと作って欲しい」という信号と、レプチンが送る「もう食べなくていい」という信号は脳の同じ部分(視床下部)に届きますが、問題はインスリンとレプチンが視床下部に送る信号が同じで、片方が届くともう片方の信号にはうまく反応できないという状態に陥りやすいということです。甘いものを食べると血糖値が急激に上昇するため、インスリンの分泌が先に起こり、そのあとレプチンが分泌されますが、すでにインスリンの信号を受けている脳はレプチンの信号をうまく受け取れなくなります。そのため、満腹感を感じるまで時間がかかり、レプチンの信号を脳が受け取れるまで食べるようになります。この状態が長期化すると脳がレプチンの信号にうまく反応できなくなるレプチン抵抗性が発生し、ますます過食が進んでしまいます。

「甘味=食べていい状態」という生体的認識

必要なエネルギーを効果的に得るため、人はある味を本能的に好きになるように進化してきました。例えば、高カロリーの脂っこい食べ物は飢餓状態になっても生き残れるためのエネルギーを蓄積できる物であるため、積極的に摂取するようになっています。脂がのっている魚や肉をおいしく感じるのもこのような本能が働くからといえるでしょう。甘味も同じです。昔、果物は決まった時期にしか食べられず、果物から得られる栄養分を摂取する時期も限られていました。そのため、熟した果実の甘さを「食べころ」の信号として体が覚え、積極的に手を出すようになっているといいます。また、腐った食べ物は甘い味がしないため、「甘味=安全な食べ物」として認識し、好むようになったともいわれます。

甘いものを食べること自体は、精神的に安定をもたらす効果もあり、悪いだけではありません。しかし、食物依存症になるのは問題です。依存症になりやすい甘さは砂糖など高度に精製された甘さですが、砂糖は果物などとは違ってカロリー以外の栄養分が殆どありません。つまり、同じ甘いものでも果物はビタミンや食物繊維なども一緒に摂取できますが、砂糖ではカロリーしか得られません。そのため、少量でもカロリーの過剰摂取に繋がりやすいです。そして、依存症になるとコントロールが効かず、過食に繋がりやすくなります。


過食の原因と問題


過食の原因は前項で述べた食物依存症もありますが、他の理由もあります。

慢性的または過度なストレス
ストレスを感じるとこれを和らげるためにコルチゾールが分泌されます。コルチゾールは筋肉を分解して血糖値を上げるのと同時に、レプチンの分泌量を低下させるため食欲を高めます。また、ストレスが溜まるとセロトニンの分泌量が少なくなります。すると、体はセロトニン分泌量を高めるために必要なアミノ酸を脳に届かせようとし、アミノ酸を運搬するインスリンの分泌を促進させます。インスリンは血糖値が高くなると分泌されるため、結果的に甘いものを食べたくなります。

極端な食事制限
極端な食事制限は体にひどいストレスを与えるため、コルチゾールの働きによって食べ続けるようになります。また、食事制限によって慢性的な栄養不足状態に陥ってしまうため、食べ始めると足りなかった栄養分やエネルギーを補充しつつ、エネルギーが足りなくなったときの予備として食べ続けるようになることもあります。

 


食事は生きるために必要なことですが、過食は体に様々な問題を起こします。過食が招く問題としては次のようなことが挙げられます。

代謝症候群・肥満
過食の特徴は「早食い」と「コントロール障害」です。早く食べるとレプチンが働く前にすでに食べ過ぎてしまい、コントロールができないため満腹感を感じても食べ続けます。食べすぎることで膨満感(お腹の張り)を感じると体を動かすことも容易ではなくなり、運動を避けるようになるので、過剰なエネルギーを消費できず体脂肪として蓄積され肥満に繋がります。肥満によって心血管機能も低下しやすくなり、動脈硬化や血液循環の悪化など、心血管疾患の原因になります。

インスリン・レプチン・ドーパミンの変化
過食すると血糖も急に増加するとともに、血中インスリン濃度が高くなります。この状態が長期化するとインスリンがうまく働かなくなりますが、このような症状をインスリン抵抗性といいます。インスリン抵抗性は糖尿病の原因となり、細胞にエネルギーがうまく届かなくなるため代謝機能の障害を招きます。過食によって血中のレプチン濃度も高くなります。レプチンは脂肪細胞で分泌され、満腹感以外に体脂肪量を一定水準に維持させることにも関わります。つまり、体脂肪量が多すぎるとエネルギーが余り過ぎという信号を送り、エネルギー消費量を高めますが、体脂肪量が少なくなるとエネルギーを体脂肪として蓄積するようにします。血中インスリン濃度が高くなるとレプチン反応が鈍くなるため、脂肪細胞はレプチン分泌量を増加させて脳に信号が届くようにします。長期間レプチン濃度が高く維持されると、インスリンと同じくレプチン抵抗性が生じ、満腹感をよく感じられなくなります。過食でドーパミンが分泌されて報酬系が活性化されても、脳は徐々にその刺激に慣れてしまいます。そのため、最初に味わった満足感を得るためにはより多く食べないといけなくなります。また、ドーパミンの働きが収まった後は罪悪感などで落ち込んでしまうことも多いです。このように、定期的且つ長期間の過食習慣はホルモンの働きにも悪影響を及ぼします。

胃腸の収容量が増える
胃腸は伸縮性が良いため、過食が続くと飲食物収容量が増加します。これも満腹感を得ることが難しくなる原因になり、過剰なカロリー摂取に繋がります。

睡眠障害を起こしやすい
夜は過食しやすいですが、これは睡眠障害にも関連してきます。生活リズムの乱れや睡眠不足による疲れ・ストレスは、さらに高カロリーの物を食べるようになるなどの悪循環に繋がり、体脂肪量の増加と筋肉量の減少による疾患のリスクを高める恐れがあります。

ここまでは食物依存症と過食について確認しました。次のトピックではこれらをどのように改善できるのか、その方法について説明します。

 

参考文献
1. Which Foods May Be Addictive? The Roles of Processing, Fat Content, and Glycemic Load. Erica M. Schulte, Nicole M. Avena, Ashley N. Gearhardt. PLOS ONE | DOI:10.1371/journal.pone.0117959 February 18, 2015

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化学療法が体に与える影響

寿命が長くなり始めてから、癌は珍しくない病気になりました。化学療法とは化学物質を使用してがん細胞の分裂を止めるがん治療の1つで、抗がん剤治療も化学療法の一種です。残念なことに、抗がん剤には様々な副作用があり、患者の代謝とカロリー吸収に影響を与えるため、体成分も変化させます。今回のトピックでは化学療法が体成分に及ぼす悪影響と、その影響を軽減できる方法についてご紹介します。


体重増加と化学療法


抗がん剤治療には様々な種類がありますが、全てに共通していえる効果は「がん細胞の分裂を遅くする」という細胞周期に関わるものです。一般的な抗がん剤を一部紹介します。
▶アルキル化薬
細胞分裂が始まる前の休止期にがん細胞を攻撃し、分裂ができなくなるように働きます。
▶代謝拮抗剤
代謝拮抗剤はがん細胞に吸収されると、細胞の増殖や分裂が停止します。
▶トポイソメラーゼ阻害薬
DNA複製や細胞分裂に必要な酵素であるトポイソメラーゼの働きを止め、がん細胞が分裂できなくなるようにします。

これらの抗がん剤は、がん細胞を攻撃するだけではなく、健康な細胞も攻撃してしまいます。そのため、様々な副作用が現れます。代表的な副作用は、吐き気・嘔吐・脱毛・顔の浮腫み・痺れ・疼き・体重増加・尿閉・聴覚障害などが挙げられます。

「癌を患うと、食欲不振になり体重も落ちて痩せ細ってしまう」というイメージをお持ちの方もいらっしゃるでしょう。しかし、実際は化学療法を受けている間に体重が増加したと報告している研究が多くあります1)2)。一体なぜ患者が治療中に体重を増やしてしまうのでしょうか? 原因について次のような仮説が報告されています。
▶食べ物から栄養分を処理・吸収する能力の変化
▶体調不良のため運動ができない
▶癌や化学療法が原因で体液が貯留している
▶合併症治療のためのステロイド使用

過剰に体脂肪を蓄えることは、明らかに癌のリスク増加と関連しています。しかし、治療の副作用である体重の増加が体脂肪の増加とは限らないため、副作用によって癌の再発リスクが高まるとは言えません。先行研究でも、体重増加量と癌の再発に関連性が認められていません。従って、単なる体重の変化は、患者の体の変化を捉えるための最良の指標ではありません。患者一人一人、体の必要な成分と不必要な成分の過不足を把握することが、治療の第一歩ではないでしょうか。適切な治療のためには、治療中に生じる体成分の変化を経時的にモニタリングし、健康へのリスクを理解することも不可欠です。


体成分が重要な理由


体成分は、主に体重を構成している体水分・タンパク質・ミネラル・体脂肪の4つの構成成分を指します。
▶体水分
健康な人は約50~70%が水分です。体水分は摂取した栄養素を体の細胞に届け、老廃物を体外に排出する運搬の役割をしています。
▶タンパク質
体水分と共に筋肉の主な構成成分です。タンパク質量が足りないというのは、細胞の栄養状態が良くないことを意味します。
▶ミネラル量
ミネラルの約80%は骨にあり、体を支える役目をします。不足すると骨粗鬆症や骨折の危険性が高まります。ミネラル量は除脂肪量と密接な相関関係にあります。
▶体脂肪量
食事で摂った栄養分は消化吸収され活動のエネルギーとして使われます。使いきれなかったエネルギーは脂肪細胞に蓄積されますが、過剰に蓄積されると肥満の原因となります。

長年、健康の尺度として体重やBMIが使用されてきましたが、体成分は現在の健康状態や潜在しているリスクをより詳しく調べることができます。それぞれの成分は異なる役割を持っているので、成分ごとに変化を確認する “体成分” としての視点がとても重要です。特に疾患を持っている人は、”体重の増減” ではなく、”体成分の変動” に気を付ける必要があります。癌や化学療法は、体成分に大きな影響を与えるケースがあり、患者の体成分を理解してモニタリングすることはとても重要です。


化学療法が体成分に与える影響

化学療法と体脂肪量
残念ながら、化学療法は体成分にマイナスの変化をもたらしたり、様々な副作用を引き起こしたりすることがあります。先ずは、化学療法が体脂肪量に及ぼす影響について、いくつかの研究内容を覗いてみましょう。
研究①3)
化学療法を受ける乳がんの女性を対象に、体成分測定を実施して体成分がどのように変化するのかを分析しました。化学療法を受ける前後の測定結果を比較した結果、乳がん患者140名のうち、82名(58.6%)が体重と体脂肪率の増加を確認しました。更に、閉経前の女性においては76.8%もの患者が体脂肪率の増加を経験する結果となりました。

研究②4)
化学療法を受ける乳がん女性の体重と体成分の変化を分析した研究では、患者の体重には大きな変化が見られなかったものの、体脂肪量の増加と除脂肪量の減少が確認され、体成分の変化は起こっていることが明らかとなりました。

これらの研究で言及されている体成分変化の要因は、化学療法を受けることで身体活動量が減ってしまうことや、食欲不振になってしまうことでした。また、体重変化の内容として体脂肪量の増加や除脂肪量の減少が示されましたが、このような研究結果は化学療法を始めるにあたり、患者が自身に起こりうる変化を予測する手助けとなるでしょう。患者の変化が予測できれば、マイナスの変化を回避したり、程度を和らげたりするための措置を講じることができるようになります。

化学療法と筋肉量
研究①5)
がん悪液質の患者に起こっている代謝の変化を分析した研究では、次のような発見がありました。
・亡くなった患者の亡くなる直前の体成分検査では、平均4kg筋肉量が減少
・亡くなった患者は筋肉量だけでなく、体脂肪量も減少
・筋肉量や体脂肪量の減少は、代謝の変化によってカロリー消費量が増加したことが原因
・総筋肉量の平均減少率は約6.1%であったが、減少率が9%を超えると生存率が有意に低い(死亡リスクが3倍)

研究②6)
化学療法を受ける食道がん患者の体成分変化を治療前後に評価しました。結果、患者の43.3%でタンパク質が減少し、36.7%で骨格筋量・体細胞量・除脂肪量が減少しました。また、術後合併症のある患者と合併症がない患者の体成分を比べてみると、術後合併症のある患者は化学療法中に4つのパラメータ(タンパク質・骨格筋量・体細胞量・除脂肪量)全てが減少していることが分かりました。

体成分や筋肉量はがん患者の生存に大きく関わっています。化学療法などの治療中は筋肉量を維持し、悪液質の影響を最小限に抑えるために、適切な栄養補充にも焦点を当てることが必要です。


新しい治療と体成分の維持


体成分の維持や悪液質進行阻止のために、食事療法を行うことは勿論ですが、他に新しい治療法として次のようなものが開発されています。
▶運動模倣薬
運動模倣薬とは名前の通り、運動の利点や効果を模倣する薬のことです。化学療法を受けている多くの人が、運動はもちろん身体活動にも制限があるため、実際に運動しなくても運動による利益を得られるということは、強力な治療法です。運動模倣薬は筋繊維を刺激し、筋肉量維持を手助けしてくれます。しかし、中には副作用がある運動模倣薬もあるため、今後の更なる調査が必要です。
▶代謝をターゲットとした治療
がん治療の一種であるHDAC阻害薬AR-42の影響を調べた研究では、癌が発生した動物に対して阻害薬を投与すると、筋肉繊維の大きさや強度で減少を抑えることができました。筋肉量・筋繊維の大きさ・筋力の低下を防ぐことは、患者の体重を維持して生存期間を延ばすことに繋がります。
▶消化器系をターゲットとした治療
プロバイオティクスとは体内環境に良い影響を与える微生物のことで、代表的なものに乳酸菌やビフィズス菌があります。乳酸菌の中にはラクトバチルス・ロイテリ菌のように炎症の調節をサポートし、悪液質を減らす役割を持っているものもあり、消化管の健康を維持するためにも重要です。

がん患者にできることは、どのようなことがあるのでしょうか。がん患者に限らず全ての人にも当てはまりますが、疾患や加齢による筋肉の喪失を遅らせ、筋肉の強度を維持するために、食事管理や運動を取り入れることが必要になってくるでしょう。食事内容を改めたり、適度な運動を行ったりすることは、癌の予後を改善するだけではなく気持ちの面でもリフレッシュできるでしょう。


終わりに


化学療法は患者の体成分に大きな影響を与えます。がん患者の中には体重が増えてしまうケースもありますが、その内容は体脂肪や炎症から生じる体水分です。また、生理学的変化には体成分の変化が伴ってきます。医療の現場で患者の体水分・筋肉・体脂肪の変動をモニタリングすることは、体成分の負の変化を防ぎ、生存率や生活の質を高めることに繋がります。化学療法を受け、吐き気や嘔吐などの副作用がある中、健康的な食事を維持し活動的であり続けることは簡単ではないでしょう。勿論、癌の治療を行うことが最優先事項となりますが、次のステップは体の健康管理です。体成分は健康へのリスクと関連して変化します。食事管理と運動によるプラスの変化があれば、癌がもたらすマイナスの変化を少しでも相殺できるかもしれません。

アスリートのような体を目指しているわけではないので、無理して体を大きくする必要はありません。目標は運動や身体活動を積極的に続けることで筋肉繊維を刺激し、体に “筋肉がまだまだ必要である” という信号を送ることです。この信号が、筋肉の劣化を防ぎ、摂取したタンパク質の吸収を助けてくれます。悪液質に悩まされている人は、ビタミン・ミネラル・アミノ酸などの栄養摂取を強化する治療という選択肢もあります。InBodyが、癌や化学療法による体成分の悪化を和らげるきっかけとなり、患者の予後改善に役立つことを心から望んでいます。

 

参考文献
1. Weight gain during adjuvant chemotherapy for breast cancer. K Z Heasman, H J Sutherland, J A Campbell, T Elhakim, NF Boyd, Breast Cancer Research and Treatment, 1985 June; 5(2): 195–200
2. Weight Gain During Adjuvant and Neoadjuvant Chemotherapy for Breast Cancer: an Audit of 100 Women Receiving FEC or CMF Chemotherapy. K J Lankester, J E Phillips, P A Lawton, Clinical Oncology, 2002 Feb; 14(1):64-68. doi: https://doi.org/10.1053/clon.2001.0014
3. Percent Body Fat Change in Chinese Women After Adjuvant Chemotherapy for Breast Cancer. Qiong Fang et al., Med Sci Monit, 2018; 24: 5988-5995
4. Weight and body composition changes during and after adjuvant chemotherapy in women with breast cancer. Freedman R J et al., J Clin Endocrinol Metab, 2004 May; 89(5): 2248-53
5. Definition and classification of cancer cachexia: an international consensus. Fearon K et al., Lancet Oncol, 2011 May; 12(5): 489-95. Doi: 10.1016/S1470-2045(10)70218-7
6. Changes in Body Composition Secondary to Neoadjuvant Chemotherapy for Advanced Esophageal Cancer are Related to the Occurrence of Postoperative Complications After Esophagectomy. Satoshi Ida et al., Society of Surgical Oncology 2014

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カフェインが体に及ぼす影響

【質問】コーヒーや緑茶など、カフェイン含有飲料をどれほど飲んでいますか?
国際コーヒー機関(IOC)が2018年に発表した「世界の1人当たりコーヒー消費量」統計データによると、2017年に日本人1人当たりが1年間に消費したコーヒー消費量は3.64kgです1)。疲れてなかなか目が覚めない朝、コーヒー一杯でパッと目が覚めたり、夜遅くまで勉強や仕事をするときにコーヒーを飲んで眠気を飛ばしたりした経験はあるでしょう。カフェインの覚醒効果や食欲抑制効果についてはよく知られていますが、体成分についてはどうでしょうか? カフェイン摂取は体成分に対して一体、どのような影響を及ぼすのでしょうか?

実は、カフェインは体脂肪の燃焼を促進する効果を持つだけではなく、運動効果を高める効果もあるため、体重調節に役立ちます。もしダイエット中に水以外の飲み物で良いものがないか悩んでいるのであれば、コーヒーは良い選択肢になるかもしれません。これから、カフェインがどのように体脂肪量の減少に役立つか、そのメカニズムについて確認してみましょう。


カフェインはどうやって体脂肪を「燃焼」させるのか?


よく「体脂肪を燃焼させる」といいますが、もちろん脂肪細胞を火で直接燃やすという意味ではありません。「体脂肪を燃焼させる」ということは、体脂肪をエネルギー源として使うということを指しています。体脂肪という単語を聞くと、脂肪の塊のような脂肪組織をイメージしやすいですが、この形の体脂肪はエネルギー源として使用できません。脂肪細胞の中には遊離脂肪酸というものが含まれており、この遊離脂肪酸の形で血液中に存在するときのみエネルギー源として使用されます。そして、エネルギー源として使用されないときはブドウ糖と合成して中性脂肪となり、脂肪組織に蓄積されます。つまり、体脂肪量を減少させるためには脂肪組織の中に含まれている遊離脂肪酸を血液中に放出し、消費する必要があります。そして、カフェイン摂取は遊離脂肪酸の放出量を増加させる効果的な方法の一つです。

カフェインの摂取により、脂肪分解というプロセスが促進されます。具体的に言うと、カフェインを摂取するとリパーゼという消化酵素が活発になり、このリパーゼが体脂肪を遊離脂肪酸とグリセリンに分解し、エネルギー源として使用できる形に変えます。また、カフェインを摂取すると血中のアドレナリンとノルアドレナリンというエネルギー性ホルモンの濃度が高くなります。これらのホルモンは腎臓から分泌されるものですが、心拍数を増やしたり、血管の収縮・拡張を誘導したり、脂肪組織での脂肪分解作用を促進させたりする働きもあります。つまり、カフェインは体脂肪の分解作用を手伝う酵素やホルモン分泌を促進させ、体脂肪の「燃焼」を起こりやすくします。


カフェインと代謝機能の関係

遊離脂肪酸の形になった体脂肪をエネルギー源として使用することを代謝といいます。この代謝能力は食習慣や生活習慣、遺伝などの様々な要因によって高くなったり低くなったりします。そして、カフェインはこの代謝機能の改善にも役立ちます。

どうして運動後には体が温まるのでしょうか? 代謝活動によりエネルギーを消費したときのプロセスとして熱生産があります。代謝が発生する際には必ず熱エネルギーが発生するため、代謝と熱生産は1セットとして考えられますが、カフェインを摂取すると熱生産量が増加するという研究があります。この研究によると、カフェイン400mg摂取またはコーヒーを2~3杯飲むことで、熱生産が増加したと報告されています2)。最近では、カフェインが代謝に関わる特定遺伝子を活性化させることで体細胞の代謝率を高めることができるということが分かってきました3)。この通り、カフェイン摂取は代謝を高める効果があり、より多くエネルギーを消費できるようにします。


カフェインと代謝機能の関係


今までは細胞単位で行われるエネルギー消費において、カフェインがどのように働くかを確認しました。しかし、このようなプロセスが本当に体重減量という結果に繋がるのでしょうか? カフェインと体重減量に関する研究について、いくつか調べてみましょう。

カフェインの消費量が多い人と少ない人が混ざっている過体重の76名を対象にした研究では、低カロリーの食事を4週間続けた結果、女性において4週後の体重減少量とカフェイン消費量が相関するということが明らかになりました。つまり、カフェイン消費量が多い人がより減量したという結果になります4)。その他にも2016年に行われた観察調査では、カフェイン摂取量が多い人は減量後にも体重を維持できていたと報告しています5)。せっかく体重減量に成功しても、維持できずリバウンドしてしまっては再び減量することは難しくなります。減量した体重を維持することに苦労しているのであれば、適量のカフェインを摂取することが役に立つかもしれません。このように多くの研究で体重減量とカフェイン摂取量が関係していると示されていますが、これはカフェイン摂取だけで体重を減量できるというわけではなく、体重減量・維持においてカフェインが効果的という意味であることを忘れないでください。


カフェインと運動効果の関係


最も確実に体脂肪量を減らす方法が何かを聞かれると、誰でも運動と答えるでしょう。運動は体脂肪量を減少させるだけではなく、筋肉量を増加させるなど、体成分を改善させることで基礎代謝量を高め、太りにくい体質にすると科学的に証明された方法です。では、この運動にカフェイン摂取を加えると更なる効果が期待できるのでしょうか?

激しい有酸素運動にカフェイン摂取をプラスすると、エネルギー源として使用される遊離脂肪酸の量が増加し、血流を促進するアドレナリンの濃度が2倍以上に増えます。つまり、運動に必要なエネルギー源が活発に供給できる状態になるため、運動の効果を高めるだけではなく、エネルギーが良く消費されることで更に脂肪分解が強化されます。また、個人によってはカフェインの働きにより筋肉内のグリコーゲン消費が抑えられる効果も期待できます。運動によって筋肉に貯蓄されたグリコーゲンは消費されますが、この消費量を抑えることでより長く運動を続けることができるようになります。

カフェインと運動の組み合わせには他のメリットもあります。カフェインは少ない量(コーヒー1~2杯ほど)でも、気分を高揚させ、認知能力を高め、運動中及び運動後の集中力を高めます。前項でカフェインの摂取によりアドレナリンとノルアドレナリンの濃度が高まると述べましたが、アドレナリンは運動時にも分泌されます。アドレナリンによって血管が拡張され、心拍数が上がると、血流が速くなって酸素が筋肉や細胞により多く供給されるようになり、運動能力が高まります。そして、アドレナリンが脳に働くとエンドルフィンやドーパミンというホルモンの分泌も促進されます。これらのホルモンはモチベーションを高めたり、運動による疲れを軽減させたり、鎮痛効果もあるため、より長く運動を続けられるようになります。このようなホルモンの影響から、カフェイン摂取で次のような運動の強化が期待できます。

▶ 持久力強化: サイクリング選手を対象とした研究ではノンカフェインコーヒーを飲んだ選手群よりカフェイン含有コーヒーを飲んだ選手群の速度パフォーマンスが有意に高く示されました6)。摂取量とは関係なく、カフェインを摂取することで持久力の向上が期待できます7)
▶ 筋力強化: 筋トレをしている男性をカフェイン摂取群と非摂取群(プラセボ投与)に分け、筋力を測定した結果、カフェイン摂取群の筋肉収縮時最大筋力が有意に高くなりました8)。女性においても上半身筋力の有意な増加を確認した研究があります9)
▶ 高強度運動の持続時間延長: カフェイン摂取群と非摂取群(プラセボ投与)に分けて、それぞれ激しい有酸素運動を行い、筋肉内グリコーゲン量を比較した結果、カフェイン摂取群で筋肉内エネルギー(グリコーゲン)の状態が良好であったことから、筋肉内グリコーゲンの節約効果も期待できます10)


カフェインとテストステロンの関係


男性ホルモンと呼ばれるテストステロンは筋肉量を維持しつつ、体脂肪量を減らしたいときに注目すべきホルモンです。肥満男性を対象にした研究で、テストステロン補助剤を摂取した群は対照群に比べて筋肉量がより増加し、体脂肪量はより減少することが確認されています11)。このように、テストステロンの血中濃度が高まれば、運動効果を強化することができます。カフェインはテストステロン濃度を高める効果を持っているため、運動効果の強化に繋がります。。最近の研究によると、ハーフタイムでカフェイン含有のガムを噛んだラグビー選手とプラセボ群のテストステロン濃度を比較した結果、15分後のテストステロン濃度はカフェイン摂取群が70%も高い数値を示す結果となりました12)。テストステロンは筋肥大反応に影響を及ぼすホルモンでもあるため、カフェイン摂取後の筋トレでより効果を高めることもできるでしょう。


適切なカフェイン摂取量について


このように様々な効果を持っているカフェインですが、「薬も過ぎれば毒となる」といわれる通り、摂りすぎはかえって健康を損なうことになります。カフェインの過剰摂取はめまいや吐き気、頭痛、不眠症、神経障害、幻覚・幻聴などの身体的な副作用はもちろん、カフェインによってドーパミンの分泌量が増加し続けると、逆に脳がドーパミンに鈍くなるため、深刻な憂鬱状態を引き起こすなどの精神的な副作用もあります。従って、カフェインの摂取量は目的に合わせてコントロールすることが大事です。運動効果を高めたい場合は、少量のカフェインでも十分効果があるため、コーヒー一杯ほどの量でも十分でしょう。体脂肪の分解に関してはカフェイン摂取量が多くなると効果も比例して現れますが、過剰摂取による急性カフェイン中毒は死亡に至ることもあるほど危険な状態であることを忘れてはいけません2)

カフェイン中毒症状が現れるのは、成人の場合1,000mgを短時間で摂取した場合といわれています13)。ただ、カフェイン感受性が高い人であればこれより少ない量を摂取してもカフェイン中毒症状が現れることもあるので、異常を感じたら摂取量を減らすことが必要です。参考までに、代表的な飲料のカフェイン含有量は次の通りです。

飲料100mL当たりのカフェイン含有量の目安

食品名 100mL当たりのカフェイン濃度 備考
カフェインが多く添加された清涼飲料水 32~300mg 製品によってカフェイン濃度、内容量が異なる
インスタント珈琲(顆粒製品) 60mg インスタントコーヒー粉末2g、熱湯140mL
コーヒー(浸出液) 60mg 浸出法:コーヒー粉末10g、熱湯150mL
紅茶(浸出液) 30mg 浸出法:茶5g、熱湯360mL、1.5~4分
せん茶(浸出液) 20mg 浸出法:茶10g、90℃ 430mL、1分
ほうじ茶(浸出液) 20mg 浸出法:茶15g、90℃ 650mL、0.5分
ウーロン茶(浸出液) 20mg 浸出法:茶15g、90℃ 650mL、0.5分
玄米茶(浸出液) 10mg 浸出法:茶15g、90℃ 650mL、0.5分

「食品に含まれるカフェインの過剰摂取についてQ&A ~カフェインの過剰摂取に注意しましょう~」厚生労働省より算出14)

コーヒーや緑茶、紅茶に含まれているカフェインは、元々含まれている他の成分によって効果がある程度抑えられることもあるといわれていますが、エナジードリンクやカフェイン補助剤によるカフェイン摂取は一気に多量のカフェイン摂取に繋がりやすいため、注意が必要です。


適切なカフェインと上手く付き合いましょう

今まで説明しました通り、適量のカフェインは体脂肪減量に頑張るあなたの頼もしい味方になってくれるでしょう。また、コーヒーやお茶を飲みながらリラックスすることは、疲れやストレスを和らげ、厳しい減量にも頑張れるようモチベーションの維持にも役立つでしょう。カフェインの効果や副作用について理解し、良い効果だけを得られるようにうまく付き合うことが大切です。毎日頑張っているあなたに、心と体の健康をもたらすコーヒー一杯をご馳走してはいかがでしょうか?

 

参考文献
1) 「世界の国別一人当たり消費量」社団法人全日本コーヒー協会ホームページ統計資料
2) Caffeine: a double-blind, placebo-controlled study of its thermogenic, metabolic, and cardiovascular effects in healthy volunteers, Astrup A. et al., Am J Clin Nutr. 1990 May;51(5):759-67
3) Metabolic effects of physiological levels of caffeine in myotubes. Jamie K. Schnuck et al., Journal of Physiology and Biochemistry, February 2018, Volume 74, Issue 1, pp 35–45
4) Body weight loss and weight maintenance in relation to habitual caffeine intake and green tea supplementation, Westerterp-Plantenga MS et al., Obes Res. 2005 Jul;13(7):1195-204
5) Caffeine intake is related to successful weight loss maintenance, Icken D. et al., Eur J Clin Nutr. 2016 Apr;70(4):532-4
6) The Metabolic and Performance Effects of Caffeine Compared to Coffee during Endurance Exercise, Adrian B. Hodgson et al., PLoS One. 2013; 8(4): e59561
7) The effect of different dosages of caffeine on endurance performance time, Pasman WJ et al., Int J Sports Med. 1995 May;16(4):225-30
8) Effect of caffeine ingestion on maximal voluntary contraction strength in upper- and lower-body muscle groups, Timmins TD et al., J Strength Cond Res. 2014 Nov;28(11):3239-44
9) Caffeine enhances upper body strength in resistance-trained women, Erica Goldstein et al., J Int Soc Sports Nutr. 2010; 7: 18
10) Regulation of muscle glycogenolytic flux during intense aerobic exercise after caffeine ingestion, Chesley A. et al., Am J Physiol. 1998 Aug;275(2 Pt 2):R596-603
11) Effects of testosterone treatment on body fat and lean mass in obese men on a hypocaloric diet: a randomised controlled trial, Mark Ng Tang Fui et al., BMC Med. 2016; 14: 153
12) The Physiological and Performance Effects of Caffeine Gum Consumed During A Simulated Half-Time By Professional Academy Rugby Union Players, Russell M. et al., J Strength Cond Res. 2017 Nov 27
13) 「保健師・薬剤師・看護師向け中毒情報、カフェイン含有飲料(コーヒー、紅茶、緑茶、ココア)」日本中毒情報センターホームページ
14) 「食品に含まれるカフェインの過剰摂取についてQ&A ~カフェインの過剰摂取に注意しましょう~」厚生労働省

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出産後に体型を戻す方法

出産後は殆どの女性が、喜び・悲しみ・感動・不安・幸福・緊張・驚き・恐怖など、様々な感情の起伏をジェットコースターの様に経験します。すべての感情が、喜びや幸せのようなプラスな感情であったとしても、感情の束は体に負担を掛けます。

母乳育児は、妊娠前の状態に戻るようにダイエットを促すものではありません。クローゼットに眠っているジーンズを最後に履いたのはいつでしょうか? 妊娠前の遠い記憶です。妊娠前はスタイルが良かったとしても、体重の増加や分娩の影響による腹部のたるみなど、身体的な変化は避けられません。しかし、体型は元に戻すことができます。大事なことは、自身の身体的変化を知り、何ができるのかを学ぶことです。


妊娠中及び出産後の体成分の変化


お腹の中で子どもを育み、出産に備えて身体を整える約10か月の妊娠期間は、体成分が変化する期間でもあります。妊娠期間に大きく変化する体成分は体脂肪量です。体脂肪量は出産日に近づくに連れ増加していきますが、この体脂肪量には自身の体脂肪量増加分に加え、赤ちゃんの体重・拡大した子宮と乳房・余分な血液・胎盤・羊水が含まれています。体内で電流の流れない部分は非伝導体として体脂肪量に測定されるため、電流が上手く通らない羊膜内も体脂肪量として換算されてしまいます。

では、羊膜内以外の本来の体脂肪量は何故増加してしまうのでしょうか? 母体は、赤ちゃんの発達と母乳育児の準備のために脂肪組織が必要となります。しかし、残念ながら出産に備えるためにどれだけの体脂肪量がどこの部分に必要なのかなどの、明確な研究結果は殆ど出されていないのが現状です。出産を経験した557人の健康な女性を対象に、妊娠前から出産後までの体脂肪量の変化をモニタリングした研究では、体脂肪が貯蓄される時期・部位・量は個人差があり、個々によって異なると結論付けています1)。妊婦の体脂肪量に関する研究を曖昧にしてしまう理由は、様々な要因によって母親の体成分(筋肉量・除脂肪量・体脂肪量など)の変化を明確に判断できないためです。いろんな要因の中の一つとして、母親とお腹の赤ちゃんの体成分を分離することができないことが挙げられます。

しかし、次の様な興味深い研究が発表されています。体脂肪量増加の程度に関する因子として、初産婦であるか経産婦であるかが関係するという研究です。この研究では初産婦は経産婦より妊娠中の体脂肪量増加が高いことを示し、出産半年後の時点でも初産婦の方が体脂肪の貯蓄が多かったことが報告されています2)

出産後は、体成分が大きく変化するタイミングです。出産直後は赤ちゃん・胎盤・羊水・余分な血液などの分で、体重が大きく減ることになります。そして約6週間で子宮の大きさが小さくなり、妊娠前の体重に近づいていきます。これらの重さは自然と減っていきますが、残念なことに妊娠中に蓄えられた体脂肪は自然と消えてはくれません。蓄えられた余分な体脂肪のうち、いくらかは母乳育児の中で減らすことができるかもしれませんが、それ以上に体脂肪量を減らすためにはどのような対策が必要でしょうか?


腹直筋離開


妊婦の体型に大きく影響する一つの要因が腹直筋離開です。腹直筋離開とは胸骨から恥骨まで走る腹直筋の中心部分の白線という腱が横に伸びて薄くなり、左右の腹筋が離れて開いた状態になることです。妊娠が進むにつれて、赤ちゃんのスペースのために子宮は成長し、腹部の筋肉は伸びていきます。腹直筋離開は妊娠女性の大半が経験しますが、分離の程度と位置は個々によって異なります。妊婦の腹直筋離開に関するある研究では、68%の妊婦がおへそより上部、32%がおへそより下部で分離が発生したと報告しています。

出産後、分離の程度は自然と和らぐこともありますが、それだけでは完全に元通りになることは殆どありません。出産後の目立ったお腹や出産後から数か月経っても妊娠している様に見える体型は、弱くなってたるんだ腹筋が原因となっています。


安全で効果的なダイエット計画

前項で妊娠後の体型変化の要因を、体成分の変化と腹直筋離開の2点から説明しました。ここでは出産後体型の回復・改善を促すために、妊娠中に気を付けるべき点や出産後の運動などについて詳しくお話しします。

母乳育児の影響と体成分
恐らく、自然と体重を減らすことに繋がる最後のチャンスが母乳育児です。母乳育児と体重減少は関連していることを示す研究が増えてきています。最も結果が顕著に現れていた疫学的研究はデンマークの研究で、母乳育児6か月の女性が合理的に除去できる体重は12kgと定義しています3)。これらの所見は、母乳育児と混合育児(母乳と人工ミルクの混合栄養)の母親の体脂肪量を比較しているアメリカの研究結果でも裏付けされています。この研究で、出産後12週間は混合育児よりも母乳育児の方が母親の体脂肪量減少を促進していたことが分かりました4)

では、授乳中の女性は母乳を作るためにいくらか体脂肪が必要であることを考慮して、どれだけの減量が「安全」と言えるのでしょうか? 出産後の体重が標準の場合は減量に励む必要はありませんが、過体重の女性に関しては授乳中でも1週間あたり約0.5kgの減量(出産後4~14週)は、新生児の成長と発達に悪影響を及ぼさないことが報告されているので、目安にしてください。

妊娠中の食事と体重管理

妊娠中は、赤ちゃんに与える栄養が必要と考えていつも以上に食べ過ぎていませんか? 食べつわりで、常に何か口にしないと落ち着かない方も少なくはないでしょう。高カロリーばかりの偏った食事や過度な体重増加は様々なリスクを高めます。太り過ぎは、妊娠高血圧・妊娠糖尿病・腰痛などの妊娠合併症の原因となります。これらが悪化すると、胎盤の機能低下・流産や早産の原因になる・胎児が巨大児になるなど、母子ともに危険な状態になってしまいます。また、産道にも体脂肪が付くことで難産の原因となったり、微弱陣痛でお産が長引いたりすることがあります。太り過ぎの妊婦は出産を終えるまでこれだけのリスクを抱えていますが、出産後も体重が戻りにくく妊娠線ができてしまうなどの問題があります。出産後体型の回復を早めるためにも、妊娠中に過度な体重増加を指摘された場合は次の点を心掛けましょう。
・規則正しい生活と食事を心掛ける
・早食いを避けて、ゆっくり食べる
・食生活を見直す(食べた物を書いてみると良い)
・間食や夜食を控える
・就寝前の2~3時間は飲食を控える
・油分を控え網焼きや蒸し物に代用するなど調理方法を工夫する

出産直前の体重増加は7~8kg程度が理想的です。理想的に体重増加した際の内訳は、赤ちゃんの体重約3kg、胎盤の重さ約0.5kg、羊水の重さ約0.5kg、乳房・子宮・血液・水分・体脂肪などお母さんの増加分が約3~4kgとなります。これ以上の体重増加はすべてお母さんの体脂肪です。体脂肪量は週に500g以上増えないよう気を付けましょう。

体型別の体重増加の目安

BMI ~18 18~24 24~28 28~
体型 痩せ気味の人 標準 肥満気味の人 肥満
体重増加の目安 12kg 8kg 5kg 0kg

妊娠中に必要な栄養素


妊娠中・授乳中に積極的に取り入れたい食品は「食物繊維・鉄分・カルシウム・葉酸を多く含む食品」です。加え、これらの吸収を助ける働きがあるビタミン類も一緒に取るようにしましょう。一方、妊娠中は高血圧や浮腫みが現れやすいので、塩分を控えめにした食事を心掛けましょう。

▶食物繊維
妊娠中はホルモンの影響などで腸の動きが鈍くなるため、便秘がちになります。便秘予防には食物繊維を積極的に取ることが効果的で、豆類・野菜・きのこ・海藻・果物などに多く含まれています。また、ヨーグルト・納豆・味噌・漬物などの発酵食品も、腸の働きを活発にするので取り入れて欲しい食品です。

▶鉄分
妊娠中はより多くの血液と鉄分が必要になるため、貧血になりやすくなっています。もともと貧血気味であった方だけでなく、食事が思うように取れていない方や痩せ気味の方も、妊娠前より多くの鉄分を摂取するよう、食品やサプリを選択しましょう。鉄分の摂取基準量は妊娠初期で8.5~9.0mg/日、妊娠中期と後期で21.0~21.5mg/日です。レバー・あさり・豆腐・小松菜・ほうれん草などの食品は鉄分を多く含んでいます。

▶カルシウム
カルシウムは日本人に不足しがちな栄養素ですが、赤ちゃんの発育にとても必要な栄養素です。また、妊娠してからこむら返りに悩まされるようになった方も多いと思います。カルシウム不足と妊娠によるホルモンバランスの崩れが原因で、こむら返りが発生します。1日の摂取基準量650mgを目安に、乳製品・小魚・豆腐などカルシウムを多く含む食品を摂取しましょう。

▶葉酸
妊娠中は血液量が増えるので、普段より多くの葉酸が必要になります。葉酸が不足することで貧血・流産・早産・妊娠高血圧症候群などが起こりやすくなります。また、赤ちゃんの口蓋裂や低出生体重の原因となることもあります。葉酸は授乳中も必要な栄養素となりますので、1日の摂取基準量0.4mgを目安に積極的に取り入れましょう。レバー・納豆・ほうれん草・いちごなどの食品は葉酸を多く含んでいます。

▶ビタミン類
鉄分とカルシウムは吸収されにくいので、吸収を助ける働きがあるビタミンを多く含む食品を一緒に取ると良いでしょう。鉄分の吸収を助ける食品は、ビタミンBとビタミンCを多く含む食品で、卵白・干しシイタケ・魚・柑橘類・野菜などが挙げられます。カルシウムの吸収を助ける食品はビタミンDを多く含む食品で、卵黄・いわし・バター・きくらげなどが挙げられます。

妊娠中と出産後・授乳中の運動


妊娠中は様々な制限があり、運動をためらう方もいらっしゃるでしょう。しかし、妊娠中の適度な運動は過度な体重増加・腰痛・肩こり・こむら返り・便秘を予防するだけでなく、出産や育児に備えた体力づくりや気分転換にもなります。妊娠初期の運動は流産を招く恐れがあるという話もありますが、流産の殆どは染色体異常によるものなので適度な運動はまったく問題ありません。但し、子宮収縮抑制薬を服用している時・医師から安静するように言われた時・出血がある時・お腹が張っている時は運動を控えて安静にしてください。おすすめの運動は、腕をしっかり振りながらのウォーキング・マタニティヨガ・マタニティスイミング・マタニティビクスなどの負担をかけすぎない有酸素運動です。反対に、激しい運動・勝敗を決めるような競技・落下や外傷のリスクがあるスポーツ・お腹の赤ちゃんに十分な酸素が行き届かなくなるような登山や無酸素運動など、妊娠中に控えるべき運動もあります。

出産後すぐにも行える運動は、体への負担が少ない産褥体操や骨盤底筋群体操です。産褥体操は、妊娠・出産で伸び縮みしたお腹・子宮・腟壁・骨盤の筋肉の回復を促進します。また、新陳代謝を高め血行を良くすることで肩こり・浮腫み・腰痛が軽減し、母乳の分泌が良くなる効果もあります。出産後は骨盤周りの筋肉が緩み、尿漏れや痔が起こりやすくなっています。これらの予防には骨盤底筋群体操が効果的です。産褥体操や骨盤底筋群体操はベッドに横になったまま行える体操もあるので、出産後なるべく早い段階から始めてみましょう。

▶産褥体操 からだならし -出産後2日目から-
頭を起こす運動(5回×2)
① 仰向けに寝て、両足を伸ばす
② 片手をお腹に、もう一方の手を体側に置く
③ 息を止めずにお腹の上を見るように頭だけ起こす
④ ひと呼吸したら頭を下ろし、左右の手を替えて繰り返す


▶骨盤底筋群体操 -出産後3週間目から-
腰の上げ下げ運動(5~10回×3)
① 仰向けに寝て両膝を立て、お腹に力を入れ、腰をできるだけ高く持ち上げる
② 肩、背中、お尻の順に下ろし、力を抜く


授乳中の適度な有酸素運動は、母乳量・母乳の成分・乳児の成長に影響を与えることもなく、母親の循環器系機能を改善すると言われています。赤ちゃんが外出できるようになったら、一緒にお散歩がてらウォーキングを行うことも良いかもしれません。運動前は十分な水分補給も忘れないでください。


自分に優しく

出産に向けて約10か月かけ体重を増加、体成分を変化させましたが、元に戻すにはさらにもう10か月かかる場合もあります。母乳育児や赤ちゃんの世話にかかりっきりの人は、10か月よりさらに長い期間が必要かもしれません。出産後僅か週数間で体型を元に戻しているモデルや芸能人のことは忘れてください。お抱えのシェフやパーソナルトレーナーなど特別なチームを持っている女性の例は、あまり参考にすることができません。

先ず、出産後の自身の体型が現時点でどの位置であるのか把握する必要があります。体成分を測定して、具体的にどれだけ筋肉量と体脂肪量を調節すべきか調べてみましょう。これらの情報は、体型を戻すための目標設定に役立ちます。焦らず、時間をかけてください。「いつまでに、どれくらいの減量をする」と徐々に前向きな変化を楽しんでください。赤ちゃんと家族の健康も勿論大事ですが、自分の体も気にかけて労わってください。毎日の僅かな変化でも、きっと出産前の体型に戻るでしょう。

参考文献
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5. 安心すこやか妊娠・出産ガイド -産婦人科診療ガイドライン:産科編2014 準拠ー, 関沢明彦 岡井崇 監修, 昭和大学病院総合周産期母子医療センター