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睡眠は子供の体成分にどう影響するか?

近年では睡眠不足が深刻な問題として挙げられており、あらゆる年齢層に影響を与えています。テレビやパソコン、スマートフォンの普及で、子供たちは常にスクリーンにへばりついています。このような光源を発する機器は、早寝を妨げる要因の1つとなっています。スクリーンが発する ”ブルーライト” を寝る直前まで見ていると、寝付きが悪くなってしまう子供もいます。

米国睡眠医学会によると、子供の適切な睡眠量は次のように発表しています。
icon-caret-square-o-right 4カ月~12カ月:1日12時間~16時間
 1歳~2歳:1日11時間~14時間
 3歳~5歳:1日10時間~13時間
 6歳~12歳:9~12時間
 13~18歳:8~10時間

子供の睡眠は親が管理することになりますが、起床時間は学校の開始時間によって決まってしまうので、就寝時間を遅くならないようにコントロールする必要があります。最近は夜更かしの原因になるものが溢れており、推奨されている睡眠量を取ることが難しくなっています。しかし、睡眠不足は学校の成績だけでなく、体の健康にも影響を与えてしまいます。体の健康が食事と運動習慣に基づくことは勿論ですが、睡眠も重要な要素です。


子供にとって重要な睡眠と成長ホルモン


成長は主に成長ホルモンの影響を受けます。このホルモンは睡眠中に2時間から3時間の間隔で下垂体前葉より分泌されるので、子供の成長や創傷治癒、肌の新陳代謝は睡眠時に特に促進されます。 また睡眠中、成長ホルモンレベルがピークに達するので、子供の成長にとって適切な睡眠量が必要であるということは理解できます。

就学前の子供でも睡眠が重要であることに変わりありません。未就学児を対象に睡眠と身体活動が成長に及ぼす影響を調査した研究1)では、睡眠レベルが上がると全身の体脂肪量が減り、体脂肪率が改善されていることを発表しました。睡眠を怠惰や肥満増加の原因と考える人もいますが、子供の健康にとっては睡眠が必須です。子供たちが成長のために適切な睡眠量を取れているかどうか確認してください。


子供の睡眠と筋力


睡眠と筋力の関係について、興味深い研究がいくつかあります。青年の睡眠習慣を調べた横断研究2)では、睡眠が腹囲などの肥満マーカと反比例し、骨格筋量と正の相関関係があることが分かりました。しかし、最も睡眠の長かった青年も、睡眠が最も少なかった青年と同様に腹囲の増加が著しく、睡眠は少なすぎても多すぎても体成分に悪影響を及ぼす可能性があるということを示唆しています。男子大学生の睡眠習慣を調査した研究3)では、睡眠時間が短い(6時間未満)学生は、睡眠時間が適切な(7時間以上)学生と比べて筋力が低下していることが報告されました。

筋力が低下する理由は様々ですが、睡眠不足も1つの原因です。睡眠中にタンパク質合成が増加し、その日に分解された筋肉を再構築します。つまり、筋肉繊維を再建するには十分な睡眠が不可欠なのです。


睡眠は肥満に直接関連する


近年では小児肥満が深刻化し、小児の肥満診断基準が定められ、早期発見と予防の取り組みが求められるようになりました。厚生労働省は小児肥満を知る目安として、次の肥満度を使用しています4)
厚生労働省:肥満度(%)=(実測体重-標準体重)÷標準体重×100
この計算式により、幼児では肥満度15%以上が肥満児、学童期以降では20~30%が軽度肥満、30~50%が中等度肥満、50%以上が高度肥満と判定されます。InBodyの研究項目にある肥満度は、
InBody:肥満度(%)=実測体重÷標準体重×100
で算出された数字なので、下二桁の数値が上記公式で算出された値と一致します。

BMC Public Healthで発表された、0-4歳児の子供を対象に睡眠の重要性に関する調査を行った研究5)では、睡眠時間が短いと成長障害や感情調整能力の未発達に加えて、体脂肪率が高くなることを発見しました。これは、より多く眠る子供は体脂肪率が良く、優れた体成分である確率が高いということを意味しています。7-9歳児を対象に睡眠を調査した横断研究6)でも同様な結果で、睡眠が9時間未満の子供は9時間以上の子らと比較して肥満になるリスクが3倍以上もあることが分かりました。体脂肪率は睡眠9時間未満の子供が23.4%、11時間以上の子供が20.9%と有意に低い値でした。

小児肥満の約70%が成人肥満に移行するといわれており、また高度の小児肥満は高血圧・糖尿病・脂質異常症などの病気を発症するリスクがあります。Obesity Reviews掲載記事7)では、習慣化された睡眠不足について次の問題を指摘しています。
 インスリン抵抗性が高くなる(糖尿病発症をもたらす可能性が上がる)
 糖尿病が原因で食欲増進・代謝変化・体成分変化・肥満の発症に繋がる
 高血圧と塩分貯留のリスクが上がり、心臓病の問題に繋がる
このような研究結果が、適切な睡眠量が肥満の治療に不可欠であることを示しています。健康な体を維持するためにはもちろん適切な食事と運動も重要ですが、睡眠も肥満の管理に重要な役割を果たすので、肥満治療計画の礎として睡眠にも介入すべきです。


健康には適切な睡眠が重要


子供たちが夜にしっかり睡眠を取れているかを確認することは非常に重要です。睡眠は、学校の成績・社会との関り・体の成長・健康にとって重要な役割を果たしています。宿題や習い事で忙しい子供は、就寝時間を早めることが難しいかもしれませんが、両親が就寝時間を一定に保つために努力することは必要です。寝る前にブルーライトを発する電子機器や運動を避け、カフェインを含む飲み物は与えないようにしてください。規則的な生活リズムを保てるように、周りの大人たちの生活リズムも一度見直してみましょう。子供が幼い時期から良い睡眠習慣を教えることは適切な発達を促し、良い健康状態、つまり健康的な体成分を成人期まで維持することに繋がります。

 

参考文献
1. Role of physical activity and sleep duration in growth and body composition of preschool‐aged children, Nancy F. Butte et al., Obesity(2016)24(6): 1328-1335
2. Sleep duration is associated with body fat and muscle mass and waist-to-height ratio beyond conventional obesity parameters in Korean adolescent boys, Nam GE et al., J Sleep Res(2017)26(4): 444-452
3. Relationship between sleep and muscle strength among Chinese university students: a cross-sectional study, Yanbo Chen et al., J Musculoskelet Neuronal Interact(2017)17(4): 327–333
4. 生活習慣病予防のための健康情報サイト 子どものメタボリックシンドロームが増えている|eヘルスネット 厚生労働省
5. Systematic review of the relationships between sleep duration and health indicators in the early years (0–4 years), Jean-Philippe Chaput et al., BMC Public Health(2017)17(5): 855
6. Long sleep duration and childhood overweight/obesity and body fat, Padez C et al., Am J Hum Biol(2009)21(3): 371-6
7. Epidemiological evidence for the links between sleep, circadian rhythms and metabolism,
Gangwisch JE, Obes Rev(2009)2: 37-4

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糖尿病と筋肉量の関係

生活習慣病としてよく知られている糖尿病は、毎年患者数が増加している現代の代表的な疾患の一つです。日本の糖尿病患者及び糖尿病予備群の数はどちらも約1千万名(2017年基準)、糖尿病による年間死亡数は約1万3千名(2016年基準)に達しています1)。尚、全体の約95%は2型糖尿病の患者であるといわれています。世界的にも糖尿病患者は増加しており、国際糖尿病連合(IDF)の調査によると、2017年の糖尿病患者数は2015年より1千万名増加した約4億2,500万名、成人(20歳~79歳)の糖尿病有病率は8.8%、糖尿病予備群(耐糖能異常)の数は約3憶2,500万名に達する等、糖尿病は身近な疾患となりつつあります2)


糖尿病患者といえば、多くの方は太っている人を想像するかもしれません。しかし、体重やBMIが標準または低くても糖尿病を患っている方もいます。BMIは高くなくても体脂肪率が高い、いわゆる隠れ肥満の人が糖尿病または糖尿病予備群になるリスクが高いです。これは糖尿病のリスクを下げるためには、単純に体重を管理するより体成分を管理する必要があることを示します。では、体成分と糖尿病はどのような関係があるのでしょうか? 不均衡な体成分と糖尿病はどう関連しているのか、確認してみましょう。


バランスの取れた体成分とは


体成分を2つに分けると体脂肪量と除脂肪量で分けることができます。除脂肪量には随意筋である骨格筋と、内臓筋・心臓筋や骨(骨ミネラル)が含まれます。除脂肪量と体脂肪量が適切な量を維持している状態が体成分のバランスが取れている状態で、健康な体を維持することに繋がります。過体重や肥満、または栄養状態が悪い人はこの均衡が大きく崩れています。

過体重や肥満の人は体重を減らすことだけを目標としがちです。しかし、健康状態を改善し、せっかく減らした体重を維持するためには崩れている体成分均衡を改善させる必要があります。つまり、体重を減らすことだけを目標にするのではなく、過剰な体脂肪量を減らしながら、除脂肪量(筋肉量)を維持または増やすことを目標とすることが望ましいです。体成分の改善は見た目をよくするだけではなく、糖尿病及び肥満と関連する様々なリスクを減らし、代謝機能を向上させる等、よい影響を及ぼします。


糖尿病と代謝機能の関連性

代謝機能(metabolism)という言葉を聞くとどういうことを思い浮かべますか? 代謝機能がいい人は同じ量を食べても、代謝機能が悪い人よりあまり太らないというイメージを持っている方が多いでしょう。これはある程度は正しいと言えます。代謝機能とは現在の身体構造を維持または回復するために飲食物を分解し、必要なエネルギーを供給する過程を言います。食事をすると、体はそれを分解して必要なところに届けます。この一連の過程を簡単に整理すると次の通りです。


このように、代謝活動はあまり複雑ではありません。しかし、糖尿病患者はこの一連の過程がうまくいきません。これが、糖尿病が代謝機能異常疾患として分類される理由でもあります。糖尿病は代謝方法を変化させるため、細胞がブドウ糖をエネルギーとしてうまく消費できないようにします。先ほどの代謝活動の流れをもう一度見てみましょう。上記過程でインスリンが分泌されるポイントは2つ(1次、2次)です。インスリンは細胞がブドウ糖を吸収してエネルギー源として使用できるように手伝う役割をするホルモンで、膵腸がインスリンを分泌するタイミングは最初にブドウ糖が供給されたときと、そのあとにもインスリンが必要になったときです。つまり、糖の代謝においてインスリンの役割はとても重要です。

 


糖尿病は1型と2型の2種類があります。1型糖尿病(T1D)患者の場合、そもそも体がインスリンを作ることができなくなり、代謝機能がうまく働きません。1型糖尿病患者は免疫機能の混乱によって膵腸でインスリンを作るβ細胞が壊れる疾患であり、糖尿病患者の中でもその数が少なく、原因もはっきりしていないため予防も難しいです。

2型糖尿病は少し違います。2型糖尿病患者の場合、インスリンはちゃんと分泌されていますが、細胞がインスリンを適切に使えなくなっています。このような状態を「インスリン抵抗性(IR)」といいます。インスリンが働かないと細胞はブドウ糖をエネルギー源として使用できないため、ブドウ糖はそのまま血中に残り、溜まってしまいます。血中の過剰な血糖はトリグリセリドに転換され、体脂肪として蓄積されます。体脂肪量が増加するとホルモン不均衡や全身性炎症が発症し、継続すると他の疾患にもつながる恐れがあります。

糖尿病は心疾患、脳卒中、腎臓病、神経疾患、皮膚感染症、眼科疾患とも関連しており、免疫システムの損傷を引き起こす恐れもあります。血液循環の問題と糖尿病が重なると怪我や感染のリスクを高め、足の感覚を鈍くさせ、切断せざるを得ない状態まで悪化することもあります。他に糖尿病が引き起こす合併症としては網膜症、腎不全、歯周疾患、動脈硬化、狭心症、認知障害等の慢性合併症と糖尿性ケトアシドーシス、感染症等の急性合併症があり、最悪の場合、死に至るほどの深刻な疾患まで発展することもあります3)


筋肉量と2型糖尿病の関係

過剰な体脂肪量だけが糖尿病のリスクを高めるわけではありません。最近の様々な研究では、糖尿病のリスクと低筋肉量の関連性が示されています。筋肉量が少ない人の糖尿病有病率が高いだけではなく、糖尿病によって筋肉が弱くなることもあります。2型糖尿病が筋肉に及ぼす悪影響は疲労度、筋力、筋肉量の3つに分けられます。

▶ 筋肉の疲労度
筋肉疲労は運動または身体活動後に、筋肉の疲れや痛みを感じる疲労の一種です。2型糖尿病患者は筋肉が回復するのに時間がかかり、運動負荷への耐性が弱くなる等、筋肉疲労度が増加するという研究発表もあります4)。これは2型糖尿病患者が健康な人より運動による筋肉疲労の影響が強いことを示します。

▶ 筋力
2型糖尿病は筋力を低下させます。年齢、性別、教育水準、アルコール消費量、喫煙期間、肥満、有酸素運動などの変数で調整した後でも、2型糖尿病患者の握力は健康な人に比べ弱かったという研究結果があります5)

▶ 筋肉量
2型糖尿病患者は筋力や筋肉の回復速度が低下するだけではなく、筋肉量も少なくなります。特に糖尿病の罹患期間が長くなると、筋肉量はより減少する傾向があり、部位別でみると下半身の筋肉量が特に減少しやすいです6)。2型糖尿病患者のInBody結果用紙を見てみましょう。下半身の筋肉量が特に少なく、それらの部位の水分均衡(ECW/TBW)※も崩れていることが分かります。

※水分均衡(ECW/TBW)の標準範囲は0.360~0.400で、InBodyではECW/TBWが0.400以上なら高いと評価します。特定の疾患・浮腫・悪い栄養状態・怪我による炎症などでECW/TBWは高くなります。

低筋肉量が2型糖尿病のリスクを高めるとすると、筋肉量を増やし、体成分を改善させることは2型糖尿病のリスクを減少させることに繋がります。日本と韓国の健常人約20万人をフォローアップした研究では、約3年後での2型糖尿病罹患率は、筋肉量が多い参加者で低い結果となりました7)。この結果から、筋トレや適度な運動を日常的に行い、筋肉量を減らさない努力が重要であると分かります。

運動は糖尿病のリスクを下げるだけではなく、糖尿病の状態を改善させる効果もあります。運動をすると筋肉は通常より多くのエネルギーを必要とし、ブドウ糖の需要を高めます。これによって、ブドウ糖が細胞に運ばれる量が増加するため、適切な運動は2型糖尿病患者の血糖コントロールに効果的です。特に、筋肉は大きいとより多くのエネルギーを必要としますが、脚の筋肉は体の中で最も大きい筋肉に該当します。そのため、脚の筋肉はブドウ糖の摂取・コントロールにおいて重要な筋肉です。また、2型糖尿病患者は下半身の筋肉量が特に減少しやすいため、下半身を中心とした運動を継続して筋肉量を維持・増加させることは糖尿病のリスクを下げ、身体能力の改善も期待できます。既にインスリン抵抗性が発生している状態でも、運動によってブドウ糖の需要が増えるとインスリンの効果が高くなり筋肉細胞がブドウ糖を使用できるようになり、血糖などを改善させることに繋がります。


インスリン抵抗性を改善する方法


既に説明した通り、2型糖尿病患者または糖尿病予備群の人はインスリン抵抗性が発生しており、これは細胞が血中のブドウ糖をエネルギーとして使う過程でインスリンがうまく働いていないことを意味します。そして、このような状態は結果的に様々な健康問題を引き起こします。しかし、インスリン感受性を回復させ、糖尿病の状態を緩和させたり、糖尿病が引き起こす合併症のリスクを下げたりすることは可能です。2型糖尿病患者を対象に筋トレプログラムを実施した結果、トレーニング前後でHbA1c数値が8.7%から7.6%に減少し、16週間の筋トレプログラムを終了した時には参加者の72%が、薬の服用量が減少していたと報告した研究もあります8)。既に糖尿病を患い、血糖値が高かったとしても、週2-3回程度の筋トレで糖尿病の症状を緩和させることができます。ただ、既に疾患を患っている方の場合、運動を始める前に必ず担当医と相談の上、運動計画を立ててください。


糖尿病の予防・改善のために覚えておくこと


糖尿病のリスクを高めるのは体重ではなく、その中身です。少ない筋肉量と多い体脂肪量は体重とは関係なく糖尿病のリスクを高めます。そのため、糖尿病のリスクを下げたり、血糖値を改善させたりするためには、体成分を改善させることが役立ちます。簡単に言うと体脂肪量が多い場合は体脂肪量を減らし、筋肉量が少ない場合は筋肉量を増やすことです。筋肉量を増やしつつ体脂肪量を減らした人が、両方ともに多い人または両方とも少ない人より2型糖尿病のリスクが低いと報告している研究もあります9)。つまり、どちらか片方ではなく、両方とも適切な量を維持することが大事といえます。

現在の体成分を把握することは、疾患のリスク把握と適切な目標設定に欠かせません。測定結果を基に体成分をどう改善すべきか、そのためには今の生活習慣をどう変えるべきか、具体的な計画を立てることができます。その計画を実行することで糖尿病を含む様々な疾患のリスクを下げることに繋がるでしょう。定期的な運動を行うことで、体脂肪量や筋肉量の改善はもちろん、血糖値を下げる効果も得られます。もちろん、食事も大事です。低糖質・高たんぱくの食事と筋トレを並行することは、インスリン感受性と体成分の改善に役立ちます。

健康問題が心配ですか? 健康維持のための目標設定が難しいですか? まずは体成分を把握しましょう。バランスの良い体成分を目指すことで、悩んでいた問題がより解決しやすくなるかもしれません。

 

参考文献
1. 「生活習慣病の調査・統計」一般社団法人日本生活習慣病予防協会ホームページ
2. 「IDF Diabetes Atlas 8th」国際糖尿病連合ホームページ
3. 「DM TOWN」SANOFIホームページ
4. Mechanisms for the increased fatigability of the lower limb in people with type 2 diabetes, Senefeld J. et al., J Appl Physiol (1985). 2018 Aug 1;125(2):553-566.
5. Association between muscle strength and type 2 diabetes mellitus in adults in Korea: Data from the Korea national health and nutrition examination survey (KNHANES) VI, Lee MR et al., Medicine (Baltimore). 2018 Jun;97(23)
6. Reduction of Skeletal Muscle, Especially in Lower Limbs, in Japanese Type 2 Diabetic Patients With Insulin Resistance and Cardiovascular Risk Factors, Yuji Tajiri et al., Metab Syndr Relat Disord. 2010 Apr;8(2):137-42
7. Relative muscle mass and the risk of incident type 2 diabetes: A cohort study, Sungwoo Hong et al., PLoS One. 2017; 12(11): e0188650
8. A randomized controlled trial of resistance exercise training to improve glycemic control in older adults with type 2 diabetes, Castaneda C. et al., Diabetes Care. 2002 Dec;25(12):2335-41
9. Effects of combination of change in visceral fat and thigh muscle mass on the development of type 2 diabetes, Seung Jin Han et al., Diabetes Res Clin Pract. 2017 Dec;134:131-138

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食物依存症と過食 Part2: 改善法

前回のトピックで確認した通り、食物依存症は過食の原因になり、過食は様々な健康問題を引き起こします。過食の原因が人によって異なるのと同じく、改善法も様々です。これから紹介する方法は数ある改善法の中の一部で、これらを参考に自分に合う改善法を探してみてください。


▶好きなもの(加工食品)を定期的に少量摂取する


チョコレートやケーキなどの甘いものを適量摂取することは、ストレスを減少させたり、幸せな気持ちになるなど、良い効果もあります。無理して食べないように我慢することはストレスの原因となるため、むしろ定期的に少量を摂取することでコントロールしやすくなります。


▶味覚を鍛える


加工食品の強い甘味に慣れてしまい果物や野菜の甘味に鈍くなっていても、味覚を鍛えることで自然の甘さを敏感に感じるように戻すことが出来ます。味覚を鍛えると言っても料理人を目指す人がやるように、細かく味を見分ける訓練をする訳ではありません。砂糖に接する頻度を少なくして、果物や野菜など自然の甘さと接するようにするだけです。味蕾細胞(みらいさいぼう)は約10日周期で新しくなるといわれています。つまり、新しい味蕾細胞を自然な甘さに慣れさせ続けることで味覚を鍛えることができるという訳です。


▶カロリーではなく胃腸を満たす食べ方をする

加工食品は砂糖や精製炭水化物が主原料であり、量が少なくてもカロリーが高いのが特徴です。そのため、加工食品を中心に満腹感を得るまで食べるとカロリー摂取量は急激に跳ね上がり、体脂肪量の増加に繋がります。しかし、満腹感を得ることも食事の楽しみの一つでしょう。満腹感を得ながら食事を楽しむ方法として、胃腸を満たしつつカロリー摂取量を抑えられるのが「十分な量の良い食べ物を食べる」という方法です。栄養分や食物繊維が豊富な野菜や果物を先に食べることで、高カロリー食品の過食を抑えられます。


▶きっかけになる食べ物を把握する

過食の原因には、過度なダイエットや食事制限があります。食べることを我慢している時に突然我慢できなくなり食べ続けてしまうのです。その「我慢できなくするもの」が何かを把握することも、過食を防止するためには重要です。食べ始めたらコントロールができなくなる食べ物が分かっていれば、その食べ物や似たような種類のものに注意を払うことができます。


▶食べたあとの感情を記録する


この方法は食べるときは実感できない報酬感を客観的に評価する方法です。例えば、チョコレートバーを一つ食べた後、少し時間が経ってからの感覚を簡単に記録します。「甘さが残ってない」のような短い一言で十分です。食事後やおやつを食べた後にしばらく記録し続けると、食べた瞬間の報酬感はあまり長続きしなかったり、思ったより小さく感じたりするなど、客観的に判断できるようになります。


▶自分で料理をする


外食をすると過食しやすくなる傾向が示されています。外食で過食しやすくなる理由として、「選択の幅が広くなる」ことと「食べ物の量を自分で調節できない」こと、そして「準備に自分の努力が必要ない」ことの3つが挙げられます。どれほど美味しいものでも、ずっと食べ続けると飽きて食べなくなります。しかし、外食する時は注文できる料理のバリエーションが広いため、いろんなものを飽きずに食べることができ、結果的には多く食べるようになります。そして、1人前の量を自分で調節できないため、全部食べると食べすぎることもあり、準備に手間がかからない分、たくさんの料理を食べようとする気持ちが強くなります。

自分で料理をすることは品数に限りがあるので選択の幅を狭め、決まった量を食べるようになり、過食を防ぎます。自分一人で一気に数十種類の料理を作って食べることはできないでしょう。そして、作りすぎて捨てることになるのが勿体ないと思うようになるので、作る段階であまり多く作らず、食べられる量だけ作ることで、過食をする機会が減っていきます。


▶食べる以外のストレス解消法を探す


ストレスは過食に繋がりやすいので、なるべくストレスを感じない生活を送れることが理想ですが、そういう生活を送ることはかなり難しいです。そのため、食べるという方法以外のストレス解消法を探し、常にコルチゾールの濃度が高いままにしておかないことが重要です。ストレス解消法は千差万別ですが、軽い運動や散歩、瞑想、好きなことをやるなど、自分に合うストレス解消法を見つけて適切に行うことで、ストレスによる過食を防止できます。


健康のために、時には我慢することも必要です


健康な体を作るためには筋肉と体脂肪の均衡を保つことが重要であるように、健康な食生活になるためには様々な栄養分をバランスよく摂ることが大事です。甘いものを食べることは悪くありませんが、摂りすぎてバランスが崩れてしまっては健康を損ないます。過食は、体重の増加・ホルモン分泌の変動・胃腸収容量の変化・代謝機能の悪化など、身体面へ影響しますが、「食べ過ぎた」という罪悪感と不快感から食事を楽しむことができなくなるなど、精神面にも影響を及ぼす恐れがあります。

急に何かを食べたくなった時、その理由が何かを考えてみましょう。空腹感には身体的な空腹感と感情的・精神的空腹感があり、食事が必要な空腹感は身体的空腹感です。ストレスや疲れが原因で感じる空腹感は加工食品の過食に繋がりやすく、エネルギーの過剰摂取に繋がります。何か食べたいあなた、何が食べたいですか? 甘いデザートやお菓子、味が濃いものなど、依存症を引き起こしやすい加工食品を思い浮かべたのであれば食べる前になぜ食べたいかを考えることで、過食衝動をコントロールできるかもしれません。
適量の甘いものを食べつつ、食べ物に常に気を付けて、時にはすぐ食べたい気持ちを我慢することで健康な食生活を楽しむことができるでしょう。

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食物依存症と過食 Part1: 体への影響

目の前にはチョコレートがひと箱あります。今日は仕事がいつもより忙しく、ストレスや疲れも溜まっているので、「心の癒しのためにちょっとだけ」と思って手を出したものの、いつの間にか全部食べてしまいました。そして甘いものを食べたせいか、塩辛いものが無性に食べたくなり、ついポテトチップスも一袋食べきってしまいました。食べきった後には、「しまった」と罪悪感に近い気持ちが押し寄せてきて憂鬱になります。ダイエットを頑張っている人で、こういう経験をした方は意外と多いかもしれません。こういうことになると殆どの人は自制心が足りないと思い、自分を責めることもありますが、ある理由による過食は自分の意志だけで克服するのはなかなか難しいものです。

食物依存症という言葉を耳にしたことがありますか? よく摂食障害である過食症と勘違いされやすい症状ですが、過食症が強い痩せ願望などの精神的な部分が原因であることに対し、食物依存症は食べ物を食べる行為自体に依存するという違いがあります。薬物依存症やアルコール依存症のように、食べ物に対して化学的に中毒症状を起こしている状態と考えた方がわかりやすいかもしれません。これから食物依存症と過食の関係を確認し、体成分にどのような影響を及ぼすかを説明します。


食物依存症とは?


食物依存症は大きく3つの特徴を持ちます。
▶ 食べる行為をコントロールできない
▶ 身体・精神的な悪影響にもかかわらず食べ続ける
▶ やめたいと思いながらも食べることをやめられない

食物依存症が問題になり始めたのはここ10年ほどで、まだ明確に定義されていない部分が多いですが、放置すると摂食障害に繋がる可能性が高い状態なのは確かです。全ての食べ物が食物依存症を引き起こすわけではありません。最近の研究では、果物や野菜など加工されていない食品は依存症になる危険性が低く、ピザやチョコレート、ポテトチップスの順で依存症の危険性が高かったと報告されています1)。 依存症になりやすい食品の共通点としては高脂質・高塩分・高糖質が挙げられます。甘く、塩辛く、脂っこい食べ物は依存症を引き起こしやすいですが、中でも特に強く働くのは甘味です。塩辛さや脂っぽさは甘味をうまく隠したり、甘味を引き立てたりして、さらに食が進むようにします。強い甘味が食物依存症を引き起こしやすい理由は、大きく3つ挙げられます。

ドーパミンとオピオイドの作用

ドーパミンは脳に働く化学物質で、報酬系という部分を活性化させて行動を強化します。人は褒めてもらうと、その行為を繰り返すようになります。これはドーパミンが働き、褒めてもらうための行為を強化したためです。依存症も「甘いものを食べる」「アルコールや薬物を使用する」などの快感を得る行為がドーパミンによって強化された状態です。オピオイドも脳に働く化学物質で、エンドルフィンもオピオイドの一種です。鎮痛作用もあり快感を与えるもので、手術や末期がん患者に使用する鎮痛剤にも使用されますが、麻薬の成分としても使われます。糖と脂質が結合されたものを食べるとき、オピオイドを分泌する脳神経は素早く活性化されます。オピオイドの作用で脳が「快感」を感じると、ドーパミンが増加し、報酬系が活性化されることで快感を得られたもの(甘いもの)を食べる行為を強化させます。甘味はこの一連の脳内作用に強く働きます。つまり、甘いものを食べるとオピオイド回路が活性化されて幸福感を感じ、ドーパミンが報酬系を活性化させることで甘いものを食べる行為を強化させます。

インスリンとレプチンの作用

食事をすると血糖値が上昇します。血糖値が上がるとインスリンが分泌され、糖を細胞に届けてエネルギーとして使うことで血糖値を下げます。そのため、血糖値が急に上がると、一時的にインスリン分泌量も増加します。一方、レプチンは満腹感を感じるようにします。一般的に食事を開始して20分ほど経つと分泌されますが、レプチンの信号が脳に届くと「エネルギーが十分なのでもう食べなくていい」という状態となります。これが満腹感で、満腹感をよく感じない人はレプチンの信号を脳がうまくキャッチできていない状態とも言えます。インスリンが送る「血糖値が高いのでインスリンをもっと作って欲しい」という信号と、レプチンが送る「もう食べなくていい」という信号は脳の同じ部分(視床下部)に届きますが、問題はインスリンとレプチンが視床下部に送る信号が同じで、片方が届くともう片方の信号にはうまく反応できないという状態に陥りやすいということです。甘いものを食べると血糖値が急激に上昇するため、インスリンの分泌が先に起こり、そのあとレプチンが分泌されますが、すでにインスリンの信号を受けている脳はレプチンの信号をうまく受け取れなくなります。そのため、満腹感を感じるまで時間がかかり、レプチンの信号を脳が受け取れるまで食べるようになります。この状態が長期化すると脳がレプチンの信号にうまく反応できなくなるレプチン抵抗性が発生し、ますます過食が進んでしまいます。

「甘味=食べていい状態」という生体的認識

必要なエネルギーを効果的に得るため、人はある味を本能的に好きになるように進化してきました。例えば、高カロリーの脂っこい食べ物は飢餓状態になっても生き残れるためのエネルギーを蓄積できる物であるため、積極的に摂取するようになっています。脂がのっている魚や肉をおいしく感じるのもこのような本能が働くからといえるでしょう。甘味も同じです。昔、果物は決まった時期にしか食べられず、果物から得られる栄養分を摂取する時期も限られていました。そのため、熟した果実の甘さを「食べころ」の信号として体が覚え、積極的に手を出すようになっているといいます。また、腐った食べ物は甘い味がしないため、「甘味=安全な食べ物」として認識し、好むようになったともいわれます。

甘いものを食べること自体は、精神的に安定をもたらす効果もあり、悪いだけではありません。しかし、食物依存症になるのは問題です。依存症になりやすい甘さは砂糖など高度に精製された甘さですが、砂糖は果物などとは違ってカロリー以外の栄養分が殆どありません。つまり、同じ甘いものでも果物はビタミンや食物繊維なども一緒に摂取できますが、砂糖ではカロリーしか得られません。そのため、少量でもカロリーの過剰摂取に繋がりやすいです。そして、依存症になるとコントロールが効かず、過食に繋がりやすくなります。


過食の原因と問題


過食の原因は前項で述べた食物依存症もありますが、他の理由もあります。

慢性的または過度なストレス
ストレスを感じるとこれを和らげるためにコルチゾールが分泌されます。コルチゾールは筋肉を分解して血糖値を上げるのと同時に、レプチンの分泌量を低下させるため食欲を高めます。また、ストレスが溜まるとセロトニンの分泌量が少なくなります。すると、体はセロトニン分泌量を高めるために必要なアミノ酸を脳に届かせようとし、アミノ酸を運搬するインスリンの分泌を促進させます。インスリンは血糖値が高くなると分泌されるため、結果的に甘いものを食べたくなります。

極端な食事制限
極端な食事制限は体にひどいストレスを与えるため、コルチゾールの働きによって食べ続けるようになります。また、食事制限によって慢性的な栄養不足状態に陥ってしまうため、食べ始めると足りなかった栄養分やエネルギーを補充しつつ、エネルギーが足りなくなったときの予備として食べ続けるようになることもあります。

 


食事は生きるために必要なことですが、過食は体に様々な問題を起こします。過食が招く問題としては次のようなことが挙げられます。

代謝症候群・肥満
過食の特徴は「早食い」と「コントロール障害」です。早く食べるとレプチンが働く前にすでに食べ過ぎてしまい、コントロールができないため満腹感を感じても食べ続けます。食べすぎることで膨満感(お腹の張り)を感じると体を動かすことも容易ではなくなり、運動を避けるようになるので、過剰なエネルギーを消費できず体脂肪として蓄積され肥満に繋がります。肥満によって心血管機能も低下しやすくなり、動脈硬化や血液循環の悪化など、心血管疾患の原因になります。

インスリン・レプチン・ドーパミンの変化
過食すると血糖も急に増加するとともに、血中インスリン濃度が高くなります。この状態が長期化するとインスリンがうまく働かなくなりますが、このような症状をインスリン抵抗性といいます。インスリン抵抗性は糖尿病の原因となり、細胞にエネルギーがうまく届かなくなるため代謝機能の障害を招きます。過食によって血中のレプチン濃度も高くなります。レプチンは脂肪細胞で分泌され、満腹感以外に体脂肪量を一定水準に維持させることにも関わります。つまり、体脂肪量が多すぎるとエネルギーが余り過ぎという信号を送り、エネルギー消費量を高めますが、体脂肪量が少なくなるとエネルギーを体脂肪として蓄積するようにします。血中インスリン濃度が高くなるとレプチン反応が鈍くなるため、脂肪細胞はレプチン分泌量を増加させて脳に信号が届くようにします。長期間レプチン濃度が高く維持されると、インスリンと同じくレプチン抵抗性が生じ、満腹感をよく感じられなくなります。過食でドーパミンが分泌されて報酬系が活性化されても、脳は徐々にその刺激に慣れてしまいます。そのため、最初に味わった満足感を得るためにはより多く食べないといけなくなります。また、ドーパミンの働きが収まった後は罪悪感などで落ち込んでしまうことも多いです。このように、定期的且つ長期間の過食習慣はホルモンの働きにも悪影響を及ぼします。

胃腸の収容量が増える
胃腸は伸縮性が良いため、過食が続くと飲食物収容量が増加します。これも満腹感を得ることが難しくなる原因になり、過剰なカロリー摂取に繋がります。

睡眠障害を起こしやすい
夜は過食しやすいですが、これは睡眠障害にも関連してきます。生活リズムの乱れや睡眠不足による疲れ・ストレスは、さらに高カロリーの物を食べるようになるなどの悪循環に繋がり、体脂肪量の増加と筋肉量の減少による疾患のリスクを高める恐れがあります。

ここまでは食物依存症と過食について確認しました。次のトピックではこれらをどのように改善できるのか、その方法について説明します。

 

参考文献
1. Which Foods May Be Addictive? The Roles of Processing, Fat Content, and Glycemic Load. Erica M. Schulte, Nicole M. Avena, Ashley N. Gearhardt. PLOS ONE | DOI:10.1371/journal.pone.0117959 February 18, 2015

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化学療法が体に与える影響

寿命が長くなり始めてから、癌は珍しくない病気になりました。化学療法とは化学物質を使用してがん細胞の分裂を止めるがん治療の1つで、抗がん剤治療も化学療法の一種です。残念なことに、抗がん剤には様々な副作用があり、患者の代謝とカロリー吸収に影響を与えるため、体成分も変化させます。今回のトピックでは化学療法が体成分に及ぼす悪影響と、その影響を軽減できる方法についてご紹介します。


体重増加と化学療法


抗がん剤治療には様々な種類がありますが、全てに共通していえる効果は「がん細胞の分裂を遅くする」という細胞周期に関わるものです。一般的な抗がん剤を一部紹介します。
▶アルキル化薬
細胞分裂が始まる前の休止期にがん細胞を攻撃し、分裂ができなくなるように働きます。
▶代謝拮抗剤
代謝拮抗剤はがん細胞に吸収されると、細胞の増殖や分裂が停止します。
▶トポイソメラーゼ阻害薬
DNA複製や細胞分裂に必要な酵素であるトポイソメラーゼの働きを止め、がん細胞が分裂できなくなるようにします。

これらの抗がん剤は、がん細胞を攻撃するだけではなく、健康な細胞も攻撃してしまいます。そのため、様々な副作用が現れます。代表的な副作用は、吐き気・嘔吐・脱毛・顔の浮腫み・痺れ・疼き・体重増加・尿閉・聴覚障害などが挙げられます。

「癌を患うと、食欲不振になり体重も落ちて痩せ細ってしまう」というイメージをお持ちの方もいらっしゃるでしょう。しかし、実際は化学療法を受けている間に体重が増加したと報告している研究が多くあります1)2)。一体なぜ患者が治療中に体重を増やしてしまうのでしょうか? 原因について次のような仮説が報告されています。
▶食べ物から栄養分を処理・吸収する能力の変化
▶体調不良のため運動ができない
▶癌や化学療法が原因で体液が貯留している
▶合併症治療のためのステロイド使用

過剰に体脂肪を蓄えることは、明らかに癌のリスク増加と関連しています。しかし、治療の副作用である体重の増加が体脂肪の増加とは限らないため、副作用によって癌の再発リスクが高まるとは言えません。先行研究でも、体重増加量と癌の再発に関連性が認められていません。従って、単なる体重の変化は、患者の体の変化を捉えるための最良の指標ではありません。患者一人一人、体の必要な成分と不必要な成分の過不足を把握することが、治療の第一歩ではないでしょうか。適切な治療のためには、治療中に生じる体成分の変化を経時的にモニタリングし、健康へのリスクを理解することも不可欠です。


体成分が重要な理由


体成分は、主に体重を構成している体水分・タンパク質・ミネラル・体脂肪の4つの構成成分を指します。
▶体水分
健康な人は約50~70%が水分です。体水分は摂取した栄養素を体の細胞に届け、老廃物を体外に排出する運搬の役割をしています。
▶タンパク質
体水分と共に筋肉の主な構成成分です。タンパク質量が足りないというのは、細胞の栄養状態が良くないことを意味します。
▶ミネラル量
ミネラルの約80%は骨にあり、体を支える役目をします。不足すると骨粗鬆症や骨折の危険性が高まります。ミネラル量は除脂肪量と密接な相関関係にあります。
▶体脂肪量
食事で摂った栄養分は消化吸収され活動のエネルギーとして使われます。使いきれなかったエネルギーは脂肪細胞に蓄積されますが、過剰に蓄積されると肥満の原因となります。

長年、健康の尺度として体重やBMIが使用されてきましたが、体成分は現在の健康状態や潜在しているリスクをより詳しく調べることができます。それぞれの成分は異なる役割を持っているので、成分ごとに変化を確認する “体成分” としての視点がとても重要です。特に疾患を持っている人は、”体重の増減” ではなく、”体成分の変動” に気を付ける必要があります。癌や化学療法は、体成分に大きな影響を与えるケースがあり、患者の体成分を理解してモニタリングすることはとても重要です。


化学療法が体成分に与える影響

化学療法と体脂肪量
残念ながら、化学療法は体成分にマイナスの変化をもたらしたり、様々な副作用を引き起こしたりすることがあります。先ずは、化学療法が体脂肪量に及ぼす影響について、いくつかの研究内容を覗いてみましょう。
研究①3)
化学療法を受ける乳がんの女性を対象に、体成分測定を実施して体成分がどのように変化するのかを分析しました。化学療法を受ける前後の測定結果を比較した結果、乳がん患者140名のうち、82名(58.6%)が体重と体脂肪率の増加を確認しました。更に、閉経前の女性においては76.8%もの患者が体脂肪率の増加を経験する結果となりました。

研究②4)
化学療法を受ける乳がん女性の体重と体成分の変化を分析した研究では、患者の体重には大きな変化が見られなかったものの、体脂肪量の増加と除脂肪量の減少が確認され、体成分の変化は起こっていることが明らかとなりました。

これらの研究で言及されている体成分変化の要因は、化学療法を受けることで身体活動量が減ってしまうことや、食欲不振になってしまうことでした。また、体重変化の内容として体脂肪量の増加や除脂肪量の減少が示されましたが、このような研究結果は化学療法を始めるにあたり、患者が自身に起こりうる変化を予測する手助けとなるでしょう。患者の変化が予測できれば、マイナスの変化を回避したり、程度を和らげたりするための措置を講じることができるようになります。

化学療法と筋肉量
研究①5)
がん悪液質の患者に起こっている代謝の変化を分析した研究では、次のような発見がありました。
・亡くなった患者の亡くなる直前の体成分検査では、平均4kg筋肉量が減少
・亡くなった患者は筋肉量だけでなく、体脂肪量も減少
・筋肉量や体脂肪量の減少は、代謝の変化によってカロリー消費量が増加したことが原因
・総筋肉量の平均減少率は約6.1%であったが、減少率が9%を超えると生存率が有意に低い(死亡リスクが3倍)

研究②6)
化学療法を受ける食道がん患者の体成分変化を治療前後に評価しました。結果、患者の43.3%でタンパク質が減少し、36.7%で骨格筋量・体細胞量・除脂肪量が減少しました。また、術後合併症のある患者と合併症がない患者の体成分を比べてみると、術後合併症のある患者は化学療法中に4つのパラメータ(タンパク質・骨格筋量・体細胞量・除脂肪量)全てが減少していることが分かりました。

体成分や筋肉量はがん患者の生存に大きく関わっています。化学療法などの治療中は筋肉量を維持し、悪液質の影響を最小限に抑えるために、適切な栄養補充にも焦点を当てることが必要です。


新しい治療と体成分の維持


体成分の維持や悪液質進行阻止のために、食事療法を行うことは勿論ですが、他に新しい治療法として次のようなものが開発されています。
▶運動模倣薬
運動模倣薬とは名前の通り、運動の利点や効果を模倣する薬のことです。化学療法を受けている多くの人が、運動はもちろん身体活動にも制限があるため、実際に運動しなくても運動による利益を得られるということは、強力な治療法です。運動模倣薬は筋繊維を刺激し、筋肉量維持を手助けしてくれます。しかし、中には副作用がある運動模倣薬もあるため、今後の更なる調査が必要です。
▶代謝をターゲットとした治療
がん治療の一種であるHDAC阻害薬AR-42の影響を調べた研究では、癌が発生した動物に対して阻害薬を投与すると、筋肉繊維の大きさや強度で減少を抑えることができました。筋肉量・筋繊維の大きさ・筋力の低下を防ぐことは、患者の体重を維持して生存期間を延ばすことに繋がります。
▶消化器系をターゲットとした治療
プロバイオティクスとは体内環境に良い影響を与える微生物のことで、代表的なものに乳酸菌やビフィズス菌があります。乳酸菌の中にはラクトバチルス・ロイテリ菌のように炎症の調節をサポートし、悪液質を減らす役割を持っているものもあり、消化管の健康を維持するためにも重要です。

がん患者にできることは、どのようなことがあるのでしょうか。がん患者に限らず全ての人にも当てはまりますが、疾患や加齢による筋肉の喪失を遅らせ、筋肉の強度を維持するために、食事管理や運動を取り入れることが必要になってくるでしょう。食事内容を改めたり、適度な運動を行ったりすることは、癌の予後を改善するだけではなく気持ちの面でもリフレッシュできるでしょう。


終わりに


化学療法は患者の体成分に大きな影響を与えます。がん患者の中には体重が増えてしまうケースもありますが、その内容は体脂肪や炎症から生じる体水分です。また、生理学的変化には体成分の変化が伴ってきます。医療の現場で患者の体水分・筋肉・体脂肪の変動をモニタリングすることは、体成分の負の変化を防ぎ、生存率や生活の質を高めることに繋がります。化学療法を受け、吐き気や嘔吐などの副作用がある中、健康的な食事を維持し活動的であり続けることは簡単ではないでしょう。勿論、癌の治療を行うことが最優先事項となりますが、次のステップは体の健康管理です。体成分は健康へのリスクと関連して変化します。食事管理と運動によるプラスの変化があれば、癌がもたらすマイナスの変化を少しでも相殺できるかもしれません。

アスリートのような体を目指しているわけではないので、無理して体を大きくする必要はありません。目標は運動や身体活動を積極的に続けることで筋肉繊維を刺激し、体に “筋肉がまだまだ必要である” という信号を送ることです。この信号が、筋肉の劣化を防ぎ、摂取したタンパク質の吸収を助けてくれます。悪液質に悩まされている人は、ビタミン・ミネラル・アミノ酸などの栄養摂取を強化する治療という選択肢もあります。InBodyが、癌や化学療法による体成分の悪化を和らげるきっかけとなり、患者の予後改善に役立つことを心から望んでいます。

 

参考文献
1. Weight gain during adjuvant chemotherapy for breast cancer. K Z Heasman, H J Sutherland, J A Campbell, T Elhakim, NF Boyd, Breast Cancer Research and Treatment, 1985 June; 5(2): 195–200
2. Weight Gain During Adjuvant and Neoadjuvant Chemotherapy for Breast Cancer: an Audit of 100 Women Receiving FEC or CMF Chemotherapy. K J Lankester, J E Phillips, P A Lawton, Clinical Oncology, 2002 Feb; 14(1):64-68. doi: https://doi.org/10.1053/clon.2001.0014
3. Percent Body Fat Change in Chinese Women After Adjuvant Chemotherapy for Breast Cancer. Qiong Fang et al., Med Sci Monit, 2018; 24: 5988-5995
4. Weight and body composition changes during and after adjuvant chemotherapy in women with breast cancer. Freedman R J et al., J Clin Endocrinol Metab, 2004 May; 89(5): 2248-53
5. Definition and classification of cancer cachexia: an international consensus. Fearon K et al., Lancet Oncol, 2011 May; 12(5): 489-95. Doi: 10.1016/S1470-2045(10)70218-7
6. Changes in Body Composition Secondary to Neoadjuvant Chemotherapy for Advanced Esophageal Cancer are Related to the Occurrence of Postoperative Complications After Esophagectomy. Satoshi Ida et al., Society of Surgical Oncology 2014

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サルコペニアの理解に必要なこと

現代人はこれまで以上に長生きできるようになりました。日本は世界的にも長寿国として知られていますが、健康上の問題がない状態で日常生活を送れる期間の ”健康寿命” はどうでしょうか? 日本の平均寿命は2016年には男性80.98歳、女性87.14歳で、1947年の男性50.06歳、女性53.96歳から増加し続けていますが、健康寿命の男性72.14歳、女性74.79歳と大きな差があります1)50歳以降で筋肉量は1~2%減少します。60~70歳では平均5~13%、80歳を超えると11~50%も筋肉量が減少してしまいます2)。筋肉量の減少は機能的能力の低下や、健康リスクに繋がります。日常生活が困難になれば、生活の質が低下し健康寿命にも影響します。

加齢に伴って、体成分は変化していきます。加齢が原因で筋肉量と筋力が低下することをサルコペニアといいます。身体活動量の低下や食事の変化が筋肉量減少をもたらし、筋肉量減少が手術への耐性低下や腰痛・関節痛、寝たきりなどの原因にもなっています。心血管疾患や生活習慣病などの慢性疾患を予防する方法として、栄養管理や運動療法が注目されますが、体成分に着目したアプローチは実施されていないということがよくあります。サルコペニアに関しても同様で、体成分の観点から健康管理できるということを忘れないでください。

次にサルコペニアのリスクと対策について、詳しく説明していきます。


サルコペニアとは?


サルコペニアとは、ギリシャ語で筋肉を意味する「sarx」と喪失を意味する「penia」を組み合わせた言葉です。サルコペニアは加齢に起因する筋肉量の低下と筋力・有酸素能力の低下を指すので、病気の結果としてではなく、自然な老化過程であるといえます。悪液質はがんなどの疾患が原因で栄養失調になるので、筋肉量や体脂肪量の喪失を制御することはできませんが、サルコペニアは栄養療法と運動療法から改善が可能です。

加齢に伴って筋肉量が減少するだけでなく、体脂肪量が燃焼されずに体内に残ってしまうケースが増えています。このような状態をサルコペニア肥満といいます。InBodyのデーターベースによれば70代高齢者の筋肉量は20代と比べると、男性は平均11.2kg、女性は4.6kg少なくなっています。又、70代高齢者の体脂肪量を男性と女性で比べると、女性が平均4.5kg重いことが示されています。女性の方が筋肉量が少なく体脂肪量が多いため、サルコペニア肥満へのリスクが高くなります。サルコペニア肥満については、後ほど詳しく説明していきます。


サルコペニアの原因は?


サルコペニアの原因は、加齢・タンパク質摂取不足・ホルモンの機能低下・身体活動の低下などが挙げられます。また無理なダイエットや食事制限が筋肉喪失を招いたり、サルコぺニアの進行を速めたりする可能性もあります。

加齢
京都大学の研究で、サルコペニア有病率が男性65~69歳の2.6%から85~89歳の75.0%まで増加すること、女性65~69歳の11.5%から85~89歳の54.3%まで増加することが報告されました3)。加齢による筋肉量減少は活動の変化に関連しています。多くの研究者達が、老化による筋肉喪失を食い止める方法を模索しています。

ホルモンの機能低下
テストステロンはサルコペニアと深い関連があります。テストステロンは性ホルモンの一種で、筋肉量を増加させるのに役立ちます。テストステロンが加齢と共に低下し始めると、筋タンパク質の合成を減少させるだけでなく、筋肉修復に不可欠な細胞再生を減少させてしまいます。筋タンパク質の分解が合成を上回ることで、サルコペニアのリスクが高まります。

タンパク質摂取量の減少
老化がサルコペニアに関連する大きな要因は、高齢者が通常の食生活を維持することが難しく、エネルギーやタンパク質の摂取不足、吸収不良などで栄養状態が悪くなるためです。運動と適切なタンパク質摂取を組み合わせることが、サルコペニア予防に効果的です。特に必須アミノ酸は体内で合成できないので、食品から摂取する必要があります。“必須アミノ酸がバランスよく含まれている食品=良質なタンパク質を含む食品” です。

身体活動の低下
高齢者は若者よりも座りがちな傾向があります。高齢になると運動の機会が減ることや閉じこもりによって身体活動量が低下します。定期的なレジスタンス運動は、筋肉量維持と筋肉強度の向上に役立ちます。

炎症性サイトカインの増加
偏った食事と運動不足によって内臓脂肪が貯蔵されますが、この脂肪組織がTNF-α・IL-6などの炎症性サイトカインを生成し、筋委縮やサルコペニアを促進させると言われています4)。内臓脂肪量の増加(腹部肥満)は筋肉量の減少で悪化するため、サルコペニアを進行させる要因となります。

疾患に関連した栄養失調
疾患に罹患している人、長期間病院で治療を受けている人は、栄養失調のリスクが高まります。うっ血性心不全(CHF)、末梢動脈疾患(PAD)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの心血管疾患および呼吸器系疾患は、中年期に発症する傾向があります。高齢な有病者は若年者よりも筋肉成分の消耗が著しく、機能低下を起こすスピードが速くなります。又、インスリン分泌の低下・インスリン抵抗性の発症も筋肉喪失を加速させるので、糖尿病もサルコペニアに関連しています。

体成分の悪化を加齢だけのせいにしてはいけません。適度な身体活動とバランスの取れた食事を心掛け、日々健康的に過ごしていますか? 体調管理を怠れば、筋肉量の減少を食い止めることはできません。健康的な食事で、余分な脂肪蓄積を防ぐことができます。


サルコペニア肥満


“サルコペニア肥満” という言葉を聞いたことがない方は、”隠れ肥満” ならどうでしょうか? 隠れ肥満は運動不足の現代人に多く見られる体型で、体は細くて見た目は普通ですが、体脂肪が多く筋肉が少ない状態です。体重が適正でも体成分は肥満の人と似たような構成なので、過体重の肥満体型と同様に心血管疾患や糖尿病などの疾患を発症するリスクがあります。サルコペニアは不健康な食生活と運動不足に関連するため、特に栄養管理と運動を怠るとサルコペニア肥満になる可能性が高くなります。これは高齢者に限ったことではありません。体重だけでなく、体成分に焦点を当てることが重要です。

サルコペニアやサルコペニア肥満であるかを、どのようにして調べることができるでしょうか? 体成分分析を使用して経時変化を観察してみましょう。体脂肪量が増加している中、筋肉量が減少しているとすれば、サルコペニア若しくはサルコペニア肥満の可能性があります。体成分を知ることで健康へのリスクを理解し、サルコペニアを予防してください。


サルコペニアの対策


現在、サルコペニアの明確な治療法はありませんが、筋肉喪失を和らげ、予防する方法はいくつかあります。日焼けをする前に日焼け止めクリームを塗ることと同じように、サルコペニアを発症する前に予防措置を講じることが重要です。

1) エクササイズ
レジスタンス運動は高齢の人でも効果が報告されています。レジスタンス運動は神経筋機能の向上と筋肥大を誘発します。これらの変化は加齢による日常生活動作(ADL)能力の低下を改善させる期待もあります。筋肉量を十分に保持し、早期筋肉分解を回避するためにも若いうちからレジスタンス運動を実施することが重要です。

2) タンパク質摂取量を増やす
タンパク質は筋肉組織の構成や修復に不可欠です。厚生労働省が報告した日本人の食事摂取基準の概要によると、18歳以上の男性は1日に60g、女性は50gのタンパク質摂取を推奨量と定めています5)。すでにサルコペニアの兆候がある人は、タンパク質摂取が更に必要です。加齢によって、タンパク質を体内に取り込む能力が低下するため、高齢者もより多くのタンパク質を摂取する必要があります。

3) アミノ酸摂取量を増やす
タンパク質を形成しているアミノ酸のうち、体内で合成することができないアミノ酸を必須アミノ酸といいます。必須アミノ酸は食事やサプリメントから摂取する必要があり、中でもBCAA(分岐鎖アミノ酸)であるロイシンは筋肉の合成に非常に重要な役割を果たしています。運動やタンパク質摂取をして筋肉を合成しようとしても、筋肉の部品となる必須アミノ酸がなければ効率が悪くなります。

4) ホルモン補充療法
テストステロンや成長ホルモンの投与によって筋肉量が増加する6)と報告されていますが、現在のところホルモン補充療法はサルコペニアの治療として推奨されていません。将来的には治療法の1つとして選択肢になる可能性があります。

5) ビタミンDが足りていることを確認
ビタミンDの不足は体成分・食事・ホルモン状態に関わらず、筋肉減少と関連します。ビタミンDは骨の健康だけでなく、加齢による筋肉喪失を回避するためにも重要です。


終わりに

加齢には、嬉しい成長やそれほど好ましくない老化など、多くの変化があります。体成分を活用することで年齢と共に変動する筋肉量を管理することができます。定期的に体成分測定をすることで、実際に起こっている体内変化をより正確に把握できます。健康寿命を延ばして、楽しく年を重ねていきましょう。

 

参考文献
1. 平成28年「簡易生命表の概要」「国民生活基礎調査」 厚生労働省
2. An overview of sarcopenia:facts and numbers on prevalence and clinical impact, Stephan von Haehling et al., J Cachexia Sarcopenia Muscle(2010)1(2):129-133
3. Prevalence of Sarcopenia in Community-Dwelling Japanese Older Adults, M Yamada et al., JAMDA xxx(2013)1-5
4. A study on relationship between elderly sarcopenia and inflammatory factors IL-6 and TNF-α, Ai-Lin Bian et al., Eur J Med Res(2017)22-25
5. 日本人の食事摂取基準(2015年版)の概要 厚生労働省
6. Hormone Replacement Therapy and Physical Function in Healthy Older Men. Time to Talk Hormones?, Manthos G. Giannoulis et al., Endocr Rev(2012)33(3):314-377