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HIIT -現代人向けの時短トレーニング法-

HIIT(ヒット、High-Intensity Interval Training)というトレーニング法をご存じでしょうか。
日本語では高強度インターバルトレーニングと表し、短時間の激しい運動を繰り返し行うことで大きくエネルギーを消費するトレーニング法です。 “定期的かつ適切な運動は、健康であり続けるために重要” と分かってはいても、実際に運動する時間を確保することは、仕事や家事、育児など日々時間に追われている現代人にとって至難の業となっています。そんな現代人にお勧めしたいトレーニング法がこのHIITです。毎日たった数分運動するだけで、何十分も運動を行ったことと同様の効果が得られます。今回はこのHIITについてお話ししていきます。


HIITとは?

「全力の運動を反復して行う」という運動は心肺機能を高めるために昔から行われていましたが、科学的な根拠はなく、これまでの経験則によるものでした。少しずつ研究は行われていましたが、1990年代に日本でスピードスケート選手のトレーニング法として科学的に取り入れられてから1)、世界的に注目されるようになっており、関連研究の発表も増えています。HIITは20秒~数分間の激しい運動とそれより短い時間での休息や軽い運動を繰り返し行います。激しい運動・軽い運動の内容はダッシュ運動やジョギング、筋トレ、ジムで用いられるエアロバイクなど様々です。ここでは、いくつかHIITのトレーニング例をご紹介します。
icon-caret-square-o-right(全力自転車エルゴメーター20秒+休息10秒)×8セット
全力(最大酸素摂取量の170%にあたる強度)で自転車エルゴメーターを20秒間行い、休息は10秒と短めに取ります。これを1セットとして、最低8セットは繰り返し行います。セット間の休息は取らずに、連続で8セット行います1)
icon-caret-square-o-right(全力ダッシュ4分+ジョギング3分)×4セット
全力(最大心拍数の90-95%の強度)でのダッシュ4分と、最大心拍数70%程の強度でジョギングを3分間行います。これを1セットとして、セット間休憩は入れずに4セット繰り返します2)
icon-caret-square-o-right(水泳自由形全力100m+休息20秒)×8セット×2回
全力で100mの自由型と休息20秒を1セットとします。セット間休憩は入れずに8セット繰り返します。8セット行った後、2分間の休息を取り、同じ8セットをもう1回行います3)

他にも腕立て伏せやスクワット、腹筋など、自分の好きな運動にHIITを取り入れることができます。いずれの運動でも重要なのは、激しい運動を行う際は手を抜かずに自分が出せる力を出し切る点です。短時間で行える分、いかに自分を追い込むことができるかで得られる効果が大きく変わってきます。


HIITが身体に与える効果

icon-caret-square-o-right筋肉
有酸素運動と無酸素運動を組み合わせているため、筋肥大だけでなく筋持久力も上がります。これまでは目標に応じてトレーニングの強度や回数を調整する必要がありましたが、HIITを行うことで有酸素運動と無酸素運動を一緒に行うことができます。運動時間を短くすることができるだけでなく、行う運動の種類も減らすことができます。
icon-caret-square-o-right最大酸素摂取量(VO2max、単位:ml/kg/min)
最大酸素摂取量とは、1分間に体重1kgあたり取り込むことができる酸素の量です。私たちは体内で糖や脂質を分解してエネルギーを作り出す際、酸素を利用しています。VO2maxが増加することで体内に取り込むことができる酸素の量が増え、運動強度が高くなっても、長時間運動できるように耐性が付くことから全身持久力の指標としても用いられます。脂質の分解にも酸素が使われることから、脂肪燃焼効率も上がります。HIITを行うことで持久力が上がるだけでなく、脂肪が燃えやすい身体になっていきます。また、前項のように、運動強度を決める指標としても用いられます。
icon-caret-square-o-right体脂肪
HIITは内臓脂肪だけでなく皮下脂肪も燃焼するとの報告があります4)。皮下脂肪は皮膚のすぐ下に付いている脂肪で、内臓脂肪は内臓や腸の周りに付いている脂肪を指します。女性は皮下脂肪が多く、男性は内臓脂肪が多い傾向があります。体脂肪が落ちるとき、内臓脂肪→皮下脂肪の順で体脂肪は落ちていきます。最初に内臓脂肪が落ちていくことから、トレーニングを始めてもすぐに体型は大きく変わらず、本当に効果があるのか疑心暗鬼になってしまいますが、継続して行うことで皮下脂肪も落ち始め、体型に変化が起こってきます。InBody570・470・270では体脂肪量以外にも内臓脂肪レベルで内臓脂肪量を推定することができます。

内臓脂肪レベルは推定された内臓脂肪断面積の1桁を切り捨てて、レベルとして表した値です(ex.内臓脂肪レベル7=70~79cm2、15=150~159cm2)。肥満診断で、内臓脂肪断面積≧100cm²が肥満として診断されることから、内臓脂肪レベルは10以下を維持することを目指します。このように、体脂肪量と内臓脂肪レベルの減少からもトレーニング効果や進捗度合い、健康状態を確認することができます。定期的に測定することで自分の身体の変化を楽しみながら、HIITに取り組むと良いでしょう。体成分の変化を追うには2~4週間毎に測定を行うことを推奨します。


リハビリにおけるHIIT

現在、HIITはプロアスリートのトレーニングだけでなく、リハビリの現場でも用いられています。病気や事故から日常生活に戻れるようリハビリを行う際に、このHIITを応用したトレーニングが用いられます。リハビリとして行われるHIITはプロアスリートが行うような激しい運動ではなく、徒歩や階段の昇降といった日常の動作です。日常の簡単な動作でも、リハビリを行う患者にとっては十分強度の高い運動となります。ノルウェーで行われた研究5)では安定した冠動脈疾患患者において、トレッドミル上でHIIT(VO2peakの80-90%強度の歩行)と従来の中程度の持続運動(VO2peakの50-60%強度の歩行)をそれぞれ行うと、VO2peakの改善率が、従来の中程度の持続運動よりもHIITの方が約10%有意に高くなったことを報告しました。
※VO2peak…最高酸素摂取量のこと。最大酸素摂取量(VO2max)は酸素摂取量の理想値を示すのに対し、最高酸素摂取量は酸素摂取量の実測値の最大値を示します。

日本国内では患者の安全性が指摘されており、実際にHIITをリハビリに導入している施設はとても少ないです。しかし、欧米では長期にわたるHIITのリハビリ効果や安全性に関する研究が進められており、今後、日本でも導入例が増えてくるかもしれません。ここで注意すべき点は、高強度というのは絶対強度ではなく相対強度であるという点です。リハビリを行う患者にとって、無理のない範囲で運動を行えるよう、適切な運動強度を設定することはとても重要です。
また、苦しいリハビリは何かしらの目標がないと継続するモチベーションを維持することができません。InBodyで測定した各部位の筋肉量や基礎代謝量といった数値の改善を、リハビリのモチベーションに繋げることができます。実際にInBodyを、リハビリの評価や動機づけとして使っている施設や企業はたくさんあります。
※リハビリの評価として活用している企業の一つを取材した「活用事例:取材 ツクイ~要介護高齢者向けの機能訓練の尺度~」もご覧ください。


終わりに

HIITは勿論のこと、トレーニングで効果を上げる最善の方法はトレーニングを習慣づけることです。せっかく始めたトレーニングも継続的に行わなければ効果を得ることはできません。習慣づけを断念する大きな要因の一つが、トレーニングに時間を多く取られてしまうということだと思います。短時間で行えるHIITは習慣づけのハードルを下げ、日々のちょっとした時間に行うだけで十分トレーニング効果が期待できます。

 

参考文献
1. Effects of moderate intensity-endurance and high intensity-intermittent training on anaerobic capacity and VO2max, Tabata I. Nishimura K. Kouzaki M. Hirai Y. Ogita F. Miyachi M. Yamamoto K., Med Sci Sports Exerc(1996)28: 1327–1330
2. Aerobic High-Intensity Intervals Improve V˙O2max More Than Moderate Training, Helgerud J. Høydal K. Wang E. Karlsen T. Berg P. Bjerkaas M. Simonsen T. Helgesen C. Hjorth N. Bach R. Hoff J, Med Sci Sports Exerc(2007)39(4): 665-671.
3. Concurrent Strength and Interval Endurance Training in Elite Water Polo Players, Petros G. Botonis, Argyris G. Toubekis, Theodoros I. Platanou, The Journal of Strength & Conditioning Research(2016)30(1): 126–133
4. High-Intensity Intermittent Exercise and Fat Loss, Boutcher SH., Hindawi Publishing Corporation Journal of Obesity(2011) 10 pages
5. High intensity aerobic interval exercise is superior to moderate intensity exercise for increasing aerobic capacity in patients with coronary artery disease, Rognmo Ø, Hetland E, Helgerud J, Hoff J, Slordahl SA, Eur J Cardiovasc Prev Rehabil (2004)11(3): 216-22

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InBody S10 -何ができて誰に必要なのか-

InBody S10は、InBody770と同じ高度なBIA技術を搭載し、携帯と移動に特化した体成分分析装置です。測定姿勢は、仰臥位・座位・立位の3つの姿勢から選択することができます。「手足が腫れている」、「拘縮がある」などの理由で通常の電極では測定ができない方でも、付着式電極を使用することで測定を行うことができます。コンパクトなサイズで院内を自由に移動することも可能で、外部や電源が取れない場所でも外付けバッテリーパックとサーマルプリンターで検査を行うことができます。様々な測定環境で、より幅広い患者層を測定できるので、医療施設や研究施設などの専門家にとって重要な検査機器の1つとなっています。

InBody S10の主な機能と特徴は、次の通りです。


部位別ECW/TBW分析


InBodyのいくつかの機種は、測定されたインピーダンス値から細胞外水分比(ECW/TBW; Extracellular Water/Total Body Water)を算出し、体水分量の内訳の細胞内水分量と細胞外水分量を提供しています。InBody S10はこの分析を更に進めて、細胞外水分比・細胞内水分量・細胞外水分量を部位毎で提供できます。

定期的に体内の水分状態を確認する必要がある方や透析患者など、体内の過剰水分を除去する必要がある患者は、体の水分情報を部位毎で細かくモニタリングできるS10を使用しています。医療処置前の患者では、どれくらいの細胞外水分量を減らす必要があるのか参考にすることができます。利尿剤の使用やうっ血除去などの医療処置を行った際は、体の各水分量が適量となっているかをみることで治療効果を確認できます。水分貯留が発生している部位や過剰水分量は患者ごとで異なり、同じ治療を行っても全ての患者で同じ効果が得られるという訳ではありません。S10は、患者個々で異なる水分情報を細かく反映し、治療の調整に役立ちます。

部位別ECW/TBWのグラフでは、水分均衡の増減を視覚的に観察することができます。両脚・体幹・両腕の5つの部位全体で浮腫みが発生することもありますが、リンパ浮腫のように特定の部位に水分貯留が発生することもあります。全身の浮腫みに対して治療を行っても、治療が効かない部位(部位別ECW/TBWの反応がない部位)が見つかれば、潜在的な問題が疑われます。特定の部位だけECW/TBWが高い場合、血管狭窄などの問題から過剰に水分が貯留している可能性もあります。この検査結果を基に、水分均衡が崩れている原因を更に調査することができます。
※ECW/TBWの標準範囲は0.360~0.400で、一般的にECW/TBWは0.400を超えると高いと評価します。

ここまで、ECW/TBWと水分貯留の関係についてお話しましたが、必ず「ECW/TBWが高い=水分貯留・浮腫みがある」ということではありません。ECW/TBWが高くなる原因は主に次の2パターンがあります。

 icon-caret-square-o-right パターン①:細胞外水分量(ECW)が増えてECW/TBWが高くなる
浮腫を伴う疾患(⼼不全・腎不全・肝不全・糖尿・リンパ浮腫など)の症例や術後の輸液などで体液が急激に増えた症例では、細胞外水分量(ECW)と細胞内⽔分量(ICW)の両⽅が異常に増加する中でECW の増加率がより高いことから、ECW/TBW が高値になります。

 icon-caret-square-o-right パターン②:細胞内水分量(ICW)が減ってECW/TBWが高くなる
人体は加齢・栄養悪化に伴って筋肉を構成する体細胞量が減少する形で細胞内水分量(ICW)が減っていきます。
TBW はICW+ECW であるので、ICW の減少はECW/TBW における分⺟を小さくして、ECW/TBWを高くします。例えば、70歳以上の高齢者は疾患がなくても、ECW/TBW が0.400を超えることが一般的ですが、これは体液過剰による現象ではありません。また、筋ジストロフィーの症例でもECW/TBWが⾼値となりますが、筋⾁量が極めて少なくICWが減少している結果です。栄養不良が原因でECW/TBWが高くなっている場合は、栄養改善を通して水分均衡を管理する必要があります。


2種類の電極:ホルダー式電極と付着式電極


  icon-caret-square-o-right ホルダー式電極
ホルダー式電極は痛みのない安定した着用感で繰り返し使用できます。手電極は親指と中指に、足電極は足首に装着します。ホルダー式電極は、InBodyが開発した独自の技術でインピーダンス測定が毎回同じ場所から開始されるようになっており、高い再現性が保証されています。従来の付着式の電極は、装着場所が毎回同じ場所に位置するように注意して取り扱う必要があります。専門知識がある人でも、電極を塗布する人が変われば電極位置の違いから測定結果の変動が生じる可能性があります。S10は、ホルダー式電極を使うことで、測定開始地点の変動からくる測定結果のばらつきを大幅に抑えることができるようになりました。

  icon-caret-square-o-right 付着式電極
付着式電極の利点は、麻痺・切断・手足の腫れなどの理由でホルダー式電極が使えない人でも測定が可能という点です。しかし、欠損症例の体成分結果解釈においては誤解がないよう注意が必要です。切断の部位は、少ないはずの筋肉量が多く測定されてしまいます。しかし、これはその部位に実際の筋肉量が多いわけではなく、電気抵抗を利用して体成分を算出するBIA 装置の原理によって多く算出されたものです。電流の流れる伝導体が短くなると、電流を邪魔する抵抗は小さくなります。また、水分量が多く電流が流れやすい状態でも抵抗値は小さくなります。そのため、InBody も伝導体が短くなって抵抗が下がったことを、水分が多くて抵抗が少ないと捉えてしまいます。該当部位で筋肉量が多く計測されたことで全身の筋肉量は過大評価され、体脂肪量は体重から除脂肪量を差し引いて求めるために過少評価される結果となります。このような理由から、欠損患者の測定結果は変化のモニタリングを目的として活用する必要があります。


InBody S10による栄養評価

InBody S10は体内の水分情報を詳しく測定することで、全身の栄養状態を評価することができます。人体の栄養状態に影響する要因はたくさんありますが、体成分測定を行うことは栄養状態の理解を助けてくれます。立位での測定が困難なため、通常の体成分測定が難しい方は、S10を使って栄養状態を評価するために必要な情報を入手することができます。寝たきりや車椅子を使用している患者こそ、栄養状態モニタリングの必要性が高いです。

  icon-caret-square-o-right 位相角
S10が提供する項目で、栄養評価に使える有用な指標の1つは位相角です。位相角は細胞膜の健康度・細胞の構造的な安定さを反映する値で、S10は全身及び各部位の位相角を提供します。

過度な食事制限や栄養不良は、フリーラジカルを過剰に生成させ、細胞を損傷します。位相角の減少はこのダメージを反映しています。細胞膜が弱まる(=位相角が低い)と、老化が早まったり免疫機能が低下したりして長期的な健康に影響を及ぼします。位相角の値から栄養状態を把握して、ビタミンやミネラルなど適切な栄養分を摂取するなど、時間をかけて改善していくことが重要です。緑黄色野菜やポリフェノールが豊富に含まれている食品には、フリーラジカルによる酸化作用を打ち消す抗酸化物質が含まれています。位相角は栄養状態の改善で増加するので、食事療法の効果を評価する有用な指標となります。

今回のトピックでご紹介したInBody S10の主要な機能と特徴は、ほんの一部です。詳しい仕様や項目等については、S10の製品ページをご覧ください。

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肥満と脳卒中の関係

脳卒中は身体障害の原因の一つであり、世界的な健康問題でもあります。厚生労働省の2017年発表によると、脳卒中は日本人の死亡原因4位の疾患1)であり、発症すると生存後にリハビリを受けても後遺症が残る可能性が高い疾患です。このようなことを考えると、脳卒中を予防することは健康な生活を維持するために重要なのは間違いありません。

脳卒中は「頭蓋内出血」と「脳梗塞」の2種類があります。頭蓋内出血は名前からもわかるように、脳血管が破れることを意味します。脳梗塞は血栓やその他血管問題により血管が詰まり、脳細胞にブドウ糖や酸素などが届かなくなることで起こります。脳卒中は原因によって予後が異なるという研究もあれば、原因に関係なく似たような予後を示したという報告もあります2)。また、脳卒中の中でも頭蓋内出血より脳梗塞の方の予後が良いことを示した報告もあり、脳卒中に関しては様々な研究報告があります。脳卒中のリスク因子は様々ですが、その中でも改善できる因子とそうでない因子があります。今回は改善できる因子の一つである肥満と脳卒中の関係、そして体成分が脳卒中予防にどのような影響を及ぼすかについて説明します。


脳卒中のリスク因子

脳卒中のリスク因子の中では年齢・性別・人種など、リスクを確認するときに考慮すべき要素ではあっても、改善することはできない変えられない因子があります。逆に、生活習慣や食習慣などの因子は改善することが可能です。改善可能な脳卒中のリスク因子には座位行動(長時間座ったまま生活すること)・悪い食習慣・肥満・メタボリックシンドロームなどが挙げられます。特に肥満は高血圧・糖尿病・脂質異常症のような脳卒中のリスクを高める疾患とも関連があります3)


肥満と脳卒中の関連性


肥満は世界中で問題視されている健康問題の一つですが、様々な慢性疾患の原因でもあります。ある研究によると脳卒中患者の約18%~44%が肥満患者であると推定されています4)。肥満は様々なメカニズムで脳梗塞の1種であるアテローム血栓性脳梗塞や心原性脳塞栓症に影響を及ぼします。アテローム血栓性脳梗塞の発症メカニズムは複雑で、様々な要因が影響を与えますが、脂肪組織もその一つです。脂肪組織は余分なエネルギーを保存するだけが役割と思うかもしれませんが、脂肪組織は内分泌及び免疫システムに影響を及ぼす組織です。体脂肪が過剰に蓄積されると炎症を引き起こし、組織の構成にも影響を与えることでアテローム血栓性脳梗塞を促進させ、脳卒中のリスクを高めます。肥満の脳卒中生存者は特性の心疾患のリスク因子が増えやすくなり、脳卒中の再発または回復の予後を悪化させる恐れがあります。また、日本人の脳梗塞で最も多いラクナ梗塞の場合、高血圧・糖尿病・脂質異常症(高脂血症)の3つが主な原因と言われますが5)、この3つは肥満とも密接な関連を持っていることから、過剰な体脂肪量は脳卒中や血栓症などの原因になり得ると言えます。


肥満と脳卒中のパラドックス

このように、肥満は脳卒中のリスク因子であることが明らかになっていますが、肥満患者の脳卒中予後に関しては様々な意見があります。多数の研究では肥満患者の脳卒中予後がより良いことを示唆しており、これを肥満と脳卒中のパラドックス(Paradox; 逆説)といいます。肥満と脳卒中の関係を説明するために企画された系統的文献レビュー6)では、25件の研究を分析し、脳卒中リスクと肥満の関係を確認しました。その結果、確かに多数の研究で肥満の脳卒中患者がより良い予後を示しました。しかし、この結果を「体脂肪量が多いのは良い」と解釈することは間違っていると指摘しています。肥満患者の脳卒中死亡率が低いことは事実ですが、他の研究では高度肥満及び低体重患者の脳卒中死亡率が有意に高いことも示されています。この相反する内容から、脳卒中の予後には体重よりも適切な体成分の構成が重要であることを推測できます。肥満患者の体重減量が脳卒中の予防に役立つという説も、体成分が重要であることを裏付けします。


腹部肥満の危険性

体成分と脳卒中の関係に着目した研究もあります。腹部肥満と脳卒中の関係を調べるため、ニューヨークで虚血性脳卒中(脳梗塞)症例576件を検討した研究が行われました7)。結果、性別や人種と関係なく、ウエストヒップ比(Waist-Hip Ratio; WHR)の増加と脳卒中リスクには有意な相関があることが示されました。この研究では次のように述べています。

icon-caret-square-o-right 人種に関係なく、腹部肥満は脳梗塞の独立リスク因子である。
icon-caret-square-o-right 腹部肥満はBMIより有意な脳梗塞のリスク因子である。
icon-caret-square-o-right 腹部肥満は若い人においてより悪い影響を及ぼす。

このように、腹部肥満と脳梗塞の間には独立且つ有意な関係があることを示しています。従って、体脂肪の分布を把握して腹部の体脂肪量を減らすことは、脳卒中のリスクを下げることに繋がります。InBodyでも腹部肥満の指標としてウエストヒップ比を提供しているので参考にしてください。ウエストヒップ比の値が大きいと、腹部肥満と判断されますが、男性1.0以上、女性0.9以上が目安とされています。また、ヨーロッパの研究では、男性0.9以上、女性0.85以上は心血管死亡率が高いと報告しています。
※ウエストヒップ比はS10以外の全ての機種で選択項目として提供しています。


他の改善可能なリスク因子

既に説明しましたが、糖尿病・脂質異常症・高血圧などの疾患は脳卒中リスクと関連しています。このような疾患は脳卒中のリスクを高めますが、適切な体成分状態を維持することでこれらの疾患を予防できます。次の内容は体成分と上記疾患の関連性に関する研究で示された内容です8)

icon-caret-square-o-right 2型糖尿病のリスクは国や人種に関係なく、BMIが高いほど増加する。
icon-caret-square-o-right 高血圧症例の1/4以上が過体重と関連していた。
icon-caret-square-o-right 内臓脂肪型の肥満患者において脂質異常症のリスクが増加した。

これらの疾患は脳卒中のリスク因子であるため、肥満を改善させて関連疾患のリスクを下げることは、脳卒中のリスクを下げることに繋がります。生活習慣を改善させてリスク因子を減らすことで、脳卒中の約50%を予防できると言われています9)。血圧を下げることや血糖値を管理すること、HDLコレステロール値を高めて脂質異常症を予防することは脳卒中のリスクを大きく下げると言われており、体成分の改善はこれらの疾患の予防に繋がります。生活習慣の改善方法には適切な運動による活動量の増加・肥満患者の体重減量・糖尿病患者の血糖値調整・禁煙・規則正しい食事を含む食習慣の改善などが挙げられます。


脳卒中予防のために


脳卒中は一度発症すると回復後にも後遺症が残る可能性があり、身体障害により生活の質が低下することは致命的な健康問題です。しかし、脳卒中はいくつかのリスク因子を改善させることで予防も可能です。今まで説明した通り、少ない活動量・座りっぱなしの生活・悪い食習慣・肥満などを改善することは脳卒中だけではなく、他の疾患のリスクも下げます。

脳卒中リスクを高める疾患には高血圧や糖尿病、脂質異常症などがあり、これらの予防と管理は脳卒中リスクを減少させることに繋がります。そして、肥満は様々な健康問題や疾患の原因である同時に、脳卒中のリスクを高める因子です。過剰な体脂肪量は炎症を起こしたり、アテローム血栓性脳梗塞の発症を促進したりする組織であるため、適切な管理が必要です。従って、肥満評価に用いられる体成分に注目して管理することは、脳卒中リスクを管理できる方法の一つとも言えます。特に内臓脂肪の蓄積が原因の腹部肥満は、脳卒中リスクを高める重要な因子と言われています。多くの研究が、ウエストヒップ比の減少で予測できる腹部脂肪量の減少は脳卒中の予防において臨床的価値を持つと示しており、腹部肥満管理の重要性を裏付けています。肥満と関連する体成分は体脂肪量が挙げられますが、筋肉量を維持することも肥満の予防・改善に繋がります。従って、活動量・食習慣・喫煙状況などの生活習慣を見直して、筋肉と脂肪のバランスを改善することは、誰でもできる脳卒中の予防方法と言えます。体成分の現状を把握し、どう改善すればいいか考えることから健康管理を始めてみてはいかがでしょうか。

 

参考文献
1. 「平成29年(2017)人口動態統計月報年計(概数)の概況」厚生労働省
2. Rehabilitation Outcomes: Ischemic versus Hemorrhagic Strokes, Robert Perna and Jessica Temple, Behavioural Neurology Volume 2015, Article ID 891651, 6 pages
3. Stroke Risk Factors, Genetics, and Prevention, Amelia K. Boehme et al., Circulation Research February 3, 2017, 472-495
4. Obesity: A Stubbornly Obvious Target for Stroke Prevention, Walter N. Kernan et al., Stroke. 2013; 44:278-286
5. 「どうしましたか?症状別病気解説: ラクナ梗塞」社団福祉法人 恩賜財団済生会ホームページ
6. Obesity paradox in stroke – Myth or reality? A systematic review, Lisa Oesch et al., PLoS ONE 12(3): e0171334
7. Abdominal Obesity and Risk of Ischemic Stroke: The Northern Manhattan Stroke Study, Seung-Han Suk et al., Stroke. 2003; 34:1586-1592
8. Obesity: Its Epidemiology, Comorbidities, and Management, Jana Jarolimova et al., Prim Care Companion CNS Disord. 2013; 15(5): PCC.12f01475
9. Stroke Prevention: Managing Modifiable Risk Factors, Silvia Di Legge et al., Stroke Research and Treatment Volume 2012, Article ID 391538, 15 pages

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良い痛みと悪い痛み

高強度の運動を続けるとき、「筋肉痛がないと筋肉は増えない」と考えながらモチベーションを維持する方が多いでしょう。運動した次の日に筋肉痛があると、筋肉が作られていると思い、やりがいを感じるかもしれません。しかし、運動後の痛みは全て筋肉が作られているとは限りません。痛みのパターンと原因は様々ですが、どの痛みも体で「何かが起こっている」ことを知らせる伝達反応です。痛みを正しく理解することで、運動を続けても良いのか運動を中止して専門家に相談すべきなのかを判断できるようになります。では一体、どの痛みが良い痛みで、どの痛みが悪い痛みなのでしょうか。今回は痛みについて詳しくお話しします。


痛みを正しく理解するために確認すること


痛みには良い痛みと悪い痛みがあります。例えば、固くなっている筋肉をマッサージでほぐす時に感じる痛みは「良い痛み」です。逆に、姿勢の問題が原因で、朝起きて首が痛いなどの場合は「悪い痛み」と言えるでしょう。そして高強度の運動で体が限界に近づいた時に感じる痛みは、良い痛みとも悪い痛みとも言えず、この間に位置します。専門家が痛みの種類を見極める判断材料は、痛みが発生した状況・痛みの強度・痛みの頻度・痛みが発生している部位・痛みの質があります。痛みの頻度や発生している部位について判断するのは難しくないため、他の項目について簡単に説明します。

 icon-caret-square-o-right 痛みが発生する状況
状況とは「いつ、どのタイミングで痛みが発生するのか」を予想するために最も重要な部分です。常に痛いのか、特定の動きをすると痛いのか、この痛みのパターンを知っておくことで、痛みを防ぐためにできることを考え、工夫することもできます。

icon-caret-square-o-right 痛みの強度
どれだけ痛みがひどいのかを把握することも重要です。これを把握しやすくするためには、痛みを数値化する方法、VAS(Visual Analogue Scale)・NRS(Numerical Rating Scale)・FRS(Face Rating Scale)などがあります。現在の痛みがどの程度かを把握することで、痛みの状態をより客観的に理解し、痛みの緩和や悪化のスケールとしても使用できます。

icon-caret-square-o-right 痛みの質
痛みを説明する表現は様々です。例えば「脈打つような」「ズキズキするような」「電気が走るような」「しびれるような」「凍てつくような」など、今の痛みがどのような性質なのかを具体的に表現することで、痛みの原因を特定し、性質が違う痛みを分けてそれぞれで評価することができるようになります。


痛みの種類


痛みは大きく次の3つに分類できます。

1. 侵害受容性疼痛
怪我や火傷をしたとき、侵襲性がある手術の回復期に感じる痛みがこれに該当します。この痛みの原因は炎症によるもので、炎症から発生した疼痛物質が末梢神経を刺激し、痛みを感じるようになります。この痛みは、体がまだ回復しきれていないというサインです。この状態で体を動かすと、痛みが悪化したり、最悪怪我が再発したりしてしまうケースもあります。この痛みは、回復期には必ずある反応なので心配いりませんが、治った後まで続くと慢性の痛みに発達するため注意が必要です。

2. 神経障害性疼痛
何らかの原因で痛みを司る神経経路(中枢・脊髄・末梢神経)で損傷がある場合に生じる痛みです。大怪我をした人が、怪我の完治後でも「前みたいに動けない」と感じたり、以前は痛くなかった動作で痛みを感じたりしてしまうというケースがこれに該当します。

3. 心因性疼痛
身体の異常が原因で起こるのではなく、心理的な原因で発生する痛みです。社会的・心理的ストレスによって急に痛みを感じることがこれに該当します。

激しい運動による筋肉痛は1番目の侵害受容性疼痛に該当します。この痛みは運動をする人であれば誰でも経験がある痛みで、炎症反応から来る筋肉痛は怪我とは異なりますが、侵害受容性疼痛の一種である炎症性疼痛と分類されます。しかし、筋肉痛の中でも遅発性筋肉痛(Delayed Onset Muscle Soreness; DOMS)と言われるこの筋肉痛には注意を払う必要がある場合もあります。

DOMSは激しい筋トレを行った後、数時間後から数日後によく発生する痛みです。DOMSの原因はいくつかありますが、筋トレによって筋線維単位の損傷が起こり、この損傷や筋肉の過度な疲労など、複数の要因が重なって発症するものが一般的です。筋肉は損傷の回復過程で発達しますが、この痛みが続いている間は安静が必要です。回復にかかる時間は運動強度によって異なりますが、一般的には1~2日かかります。痛みが残っている状態で無理して運動を行うと、怪我に繋がる恐れがあります。関節や筋肉が運動でかかる衝撃に弱くなっており、疲れた筋肉を補助するために無意識に他の筋肉を使ってしまうためです。更に、筋肉痛は痛覚を鈍らせるため、気づかないうちに筋肉を酷使し、筋肉が大きく損傷する恐れもあります。では、DOMSはどのような対処方法があるのでしょうか。簡単にできるDOMS対策をいくつかご紹介します。


DOMSの対策


 icon-caret-square-o-right アイシング
怪我をするとその部位が他の部位より少し熱く、熱を帯びています。損傷によって炎症が発生すると炎症部位が熱くなりやすく、筋肉痛も例外ではありません。そのため、氷やアイシング用のスプレーで筋肉痛の部位を冷やすと炎症を抑える効果があり、一時的に鎮痛剤を飲んだような効果があります。また、激しい運動後に定期的にアイシングすることは凝り予防にも繋がります。

icon-caret-square-o-right マッサージ
マッサージは筋肉痛による筋肉の緊張や痛みを和らげます。運動後には筋肉が固くなり、血行が悪くなりやすいため、マッサージで固くなった筋肉をほぐし、血液循環を促進することで回復を促す効果が期待できます。

icon-caret-square-o-right ストレッチや軽めの運動
ストレッチや軽いウォーキングなどの軽めの運動は、筋肉痛から最も早く回復できる方法です。軽い運動を2-30分程、体に大きい負担にならないほど続けることでマッサージと似たような血行改善の効果が得られます。

DOMSは運動の強度を上げた時や、新しい運動を始めたばかりのタイミングでよく起こりますが、適切な休憩を取ることで運動強度を維持できます。しかし、休まず運動することはオーバーユース障害(overuse injury)に繋がる恐れがあります。


オーバーユース障害


オーバーユース障害は同じ活動を頻繁に、高強度で長期間続けた時に起こります。テニス肘や野球肘、ジャンパー膝と呼ばれる負傷は典型的なオーバーユース障害です。体が十分回復できるほどの休みを取らずに運動を続けると、筋肉に繰り返し強いストレスがかかり、肉離れや疲労骨折の原因となります。また、間違った姿勢で長期間トレーニングを行うことは筋肉不均衡、筋肉弱化、柔軟性の低下等を引き起こします。InBodyの部位別筋肉量の項目を確認してください。筋肉均衡は整っていますか? 怪我のリスクがある場所は、体のどの部分でしょうか? 正しい姿勢や筋肉のバランスはトレーニングにおいてとても重要であり、同じ動作を繰り返すスポーツは特に重要です。

 icon-caret-square-o-right 怪我のリスクが高まる筋肉不均衡の例

下半身の筋肉量が少なくて上下均衡が崩れている場合(左)は、転倒や膝の怪我など下半身が弱いことが原因で発症する怪我が多くなります。左右で筋肉均衡が崩れている場合(真ん中)は、転倒のリスクが高まると共に腰痛や関節痛などの原因にもなります。また、左右で筋肉量が高くなっている部位はオーバーユース障害へと繋がる危険性も高いです。間違った姿勢でトレーニングを行っていることが原因で左右の筋肉不均衡が出ている可能性もあるので、一度フォームやトレーニング内容を見直す必要があるかもしれません。上半身の筋肉量が少なくて上下均衡が崩れている場合(右)は、転倒して腕を地面についた際に、体重を支えることができず、両腕を痛めることで怪我をしてしまうというリスクも高くなっています。また、軽い荷物を少し持っただけでも筋肉痛になってしまうという問題もあります。

オーバーユース障害を予防するためには同じ動作を繰り返さず、様々な運動を混ぜて行うことが望ましいです。例えば、ランナーは週2-3回の筋トレを行い、逆にパワースポーツ選手は週2-3回の有酸素運動を行うことで筋肉及び関節にかかるストレスを緩和できます。ヨガ・ピラティス・スタジオプログラムなどの多関節を同時に動かす複合運動は、身体活動量を維持しつつ全身を鍛える良い方法です。筋肉痛を無視して運動することは怪我の原因の一つです。他に怪我の原因となり得る行動は次のようなものがあります。

 icon-caret-square-o-right 過剰な運動量の増加
トレーニングの原則、漸進性の法則から、運動量(重量や距離)を増やすことがあります。このような変化はパフォーマンス向上にとって必要なものですが、急激に量を増やすことは怪我に繋がりやすいため、徐々に増やしていくことが必要です。

  休息期間やレストタイムが合っていない
休息は運動強度によって柔軟に調節することが望ましいです。セット間の休息時間も強度によって変える必要があり、一般的に低強度の運動は20-60秒ほど、高強度の運動は2-5分程の休息を挟むことで運動の持続に役立ちます。

 icon-caret-square-o-right 痛みを無視すること
運動中に筋肉痛ではない痛みが続くのであれば、無視せずに一度運動を中止して痛みの状況や頻度・強度・部位・質などを確認し、痛みを和らげたり、痛みが発生する動きを避けたりなど、適切な処置を行いましょう。もし痛みが続くのであれば専門家に相談してみるのもいいかもしれません。適切な診断と処置は、怪我の回復と重症化を防ぐことに繋がります。


痛みを正しく評価するために

運動中に体温が高くなり、筋肉が重くなったように感じるのは、運動によって刺激された筋肉に一時的に血液が集まりパンプアップできている証拠(良い痛み)です。ただ、一つの動作を行う際に正しい姿勢を維持することが難しい状態であれば、筋肉に過度な疲労が溜まっているサインなので、運動を再開する前に適切な休憩を取ることが必要です。

痛みは様々な原因があり、人によってその意味も異なります。そのため、痛みがあれば一度運動を止め、どのような痛みなのかを見分けることを試みてください。痛みを和らげるために運動の強度を下げることが必要になるかもしれませんが、体が十分回復した後、元の強度に戻すこともできるので気にすることはありません。ウォーミングアップやクールダウンは怪我の予防はもちろん、痛みの予防にも繋がります。運動は継続することも大事ですが、適切な休憩と栄養摂取も一緒に行わなければ筋肉を増やすことはできません。体が送る信号である痛みに気を付けながら、焦らず回復と運動を繰り返すことで長期的に良い結果をもたらすでしょう。
※運動と休息の関係はInBodyトピックの「疲労と回復のメカニズム」を参考にしてください。

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睡眠は子供の体成分にどう影響するか?

近年では睡眠不足が深刻な問題として挙げられており、あらゆる年齢層に影響を与えています。テレビやパソコン、スマートフォンの普及で、子供たちは常にスクリーンにへばりついています。このような光源を発する機器は、早寝を妨げる要因の1つとなっています。スクリーンが発する ”ブルーライト” を寝る直前まで見ていると、寝付きが悪くなってしまう子供もいます。

米国睡眠医学会によると、子供の適切な睡眠量は次のように発表しています。
icon-caret-square-o-right 4カ月~12カ月:1日12時間~16時間
 1歳~2歳:1日11時間~14時間
 3歳~5歳:1日10時間~13時間
 6歳~12歳:9~12時間
 13~18歳:8~10時間

子供の睡眠は親が管理することになりますが、起床時間は学校の開始時間によって決まってしまうので、就寝時間を遅くならないようにコントロールする必要があります。最近は夜更かしの原因になるものが溢れており、推奨されている睡眠量を取ることが難しくなっています。しかし、睡眠不足は学校の成績だけでなく、体の健康にも影響を与えてしまいます。体の健康が食事と運動習慣に基づくことは勿論ですが、睡眠も重要な要素です。


子供にとって重要な睡眠と成長ホルモン


成長は主に成長ホルモンの影響を受けます。このホルモンは睡眠中に2時間から3時間の間隔で下垂体前葉より分泌されるので、子供の成長や創傷治癒、肌の新陳代謝は睡眠時に特に促進されます。 また睡眠中、成長ホルモンレベルがピークに達するので、子供の成長にとって適切な睡眠量が必要であるということは理解できます。

就学前の子供でも睡眠が重要であることに変わりありません。未就学児を対象に睡眠と身体活動が成長に及ぼす影響を調査した研究1)では、睡眠レベルが上がると全身の体脂肪量が減り、体脂肪率が改善されていることを発表しました。睡眠を怠惰や肥満増加の原因と考える人もいますが、子供の健康にとっては睡眠が必須です。子供たちが成長のために適切な睡眠量を取れているかどうか確認してください。


子供の睡眠と筋力


睡眠と筋力の関係について、興味深い研究がいくつかあります。青年の睡眠習慣を調べた横断研究2)では、睡眠が腹囲などの肥満マーカと反比例し、骨格筋量と正の相関関係があることが分かりました。しかし、最も睡眠の長かった青年も、睡眠が最も少なかった青年と同様に腹囲の増加が著しく、睡眠は少なすぎても多すぎても体成分に悪影響を及ぼす可能性があるということを示唆しています。男子大学生の睡眠習慣を調査した研究3)では、睡眠時間が短い(6時間未満)学生は、睡眠時間が適切な(7時間以上)学生と比べて筋力が低下していることが報告されました。

筋力が低下する理由は様々ですが、睡眠不足も1つの原因です。睡眠中にタンパク質合成が増加し、その日に分解された筋肉を再構築します。つまり、筋肉繊維を再建するには十分な睡眠が不可欠なのです。


睡眠は肥満に直接関連する


近年では小児肥満が深刻化し、小児の肥満診断基準が定められ、早期発見と予防の取り組みが求められるようになりました。厚生労働省は小児肥満を知る目安として、次の肥満度を使用しています4)
厚生労働省:肥満度(%)=(実測体重-標準体重)÷標準体重×100
この計算式により、幼児では肥満度15%以上が肥満児、学童期以降では20~30%が軽度肥満、30~50%が中等度肥満、50%以上が高度肥満と判定されます。InBodyの研究項目にある肥満度は、
InBody:肥満度(%)=実測体重÷標準体重×100
で算出された数字なので、下二桁の数値が上記公式で算出された値と一致します。

BMC Public Healthで発表された、0-4歳児の子供を対象に睡眠の重要性に関する調査を行った研究5)では、睡眠時間が短いと成長障害や感情調整能力の未発達に加えて、体脂肪率が高くなることを発見しました。これは、より多く眠る子供は体脂肪率が良く、優れた体成分である確率が高いということを意味しています。7-9歳児を対象に睡眠を調査した横断研究6)でも同様な結果で、睡眠が9時間未満の子供は9時間以上の子らと比較して肥満になるリスクが3倍以上もあることが分かりました。体脂肪率は睡眠9時間未満の子供が23.4%、11時間以上の子供が20.9%と有意に低い値でした。

小児肥満の約70%が成人肥満に移行するといわれており、また高度の小児肥満は高血圧・糖尿病・脂質異常症などの病気を発症するリスクがあります。Obesity Reviews掲載記事7)では、習慣化された睡眠不足について次の問題を指摘しています。
 インスリン抵抗性が高くなる(糖尿病発症をもたらす可能性が上がる)
 糖尿病が原因で食欲増進・代謝変化・体成分変化・肥満の発症に繋がる
 高血圧と塩分貯留のリスクが上がり、心臓病の問題に繋がる
このような研究結果が、適切な睡眠量が肥満の治療に不可欠であることを示しています。健康な体を維持するためにはもちろん適切な食事と運動も重要ですが、睡眠も肥満の管理に重要な役割を果たすので、肥満治療計画の礎として睡眠にも介入すべきです。


健康には適切な睡眠が重要


子供たちが夜にしっかり睡眠を取れているかを確認することは非常に重要です。睡眠は、学校の成績・社会との関り・体の成長・健康にとって重要な役割を果たしています。宿題や習い事で忙しい子供は、就寝時間を早めることが難しいかもしれませんが、両親が就寝時間を一定に保つために努力することは必要です。寝る前にブルーライトを発する電子機器や運動を避け、カフェインを含む飲み物は与えないようにしてください。規則的な生活リズムを保てるように、周りの大人たちの生活リズムも一度見直してみましょう。子供が幼い時期から良い睡眠習慣を教えることは適切な発達を促し、良い健康状態、つまり健康的な体成分を成人期まで維持することに繋がります。

 

参考文献
1. Role of physical activity and sleep duration in growth and body composition of preschool‐aged children, Nancy F. Butte et al., Obesity(2016)24(6): 1328-1335
2. Sleep duration is associated with body fat and muscle mass and waist-to-height ratio beyond conventional obesity parameters in Korean adolescent boys, Nam GE et al., J Sleep Res(2017)26(4): 444-452
3. Relationship between sleep and muscle strength among Chinese university students: a cross-sectional study, Yanbo Chen et al., J Musculoskelet Neuronal Interact(2017)17(4): 327–333
4. 生活習慣病予防のための健康情報サイト 子どものメタボリックシンドロームが増えている|eヘルスネット 厚生労働省
5. Systematic review of the relationships between sleep duration and health indicators in the early years (0–4 years), Jean-Philippe Chaput et al., BMC Public Health(2017)17(5): 855
6. Long sleep duration and childhood overweight/obesity and body fat, Padez C et al., Am J Hum Biol(2009)21(3): 371-6
7. Epidemiological evidence for the links between sleep, circadian rhythms and metabolism,
Gangwisch JE, Obes Rev(2009)2: 37-4

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糖尿病と筋肉量の関係

生活習慣病としてよく知られている糖尿病は、毎年患者数が増加している現代の代表的な疾患の一つです。日本の糖尿病患者及び糖尿病予備群の数はどちらも約1千万名(2017年基準)、糖尿病による年間死亡数は約1万3千名(2016年基準)に達しています1)。尚、全体の約95%は2型糖尿病の患者であるといわれています。世界的にも糖尿病患者は増加しており、国際糖尿病連合(IDF)の調査によると、2017年の糖尿病患者数は2015年より1千万名増加した約4億2,500万名、成人(20歳~79歳)の糖尿病有病率は8.8%、糖尿病予備群(耐糖能異常)の数は約3憶2,500万名に達する等、糖尿病は身近な疾患となりつつあります2)


糖尿病患者といえば、多くの方は太っている人を想像するかもしれません。しかし、体重やBMIが標準または低くても糖尿病を患っている方もいます。BMIは高くなくても体脂肪率が高い、いわゆる隠れ肥満の人が糖尿病または糖尿病予備群になるリスクが高いです。これは糖尿病のリスクを下げるためには、単純に体重を管理するより体成分を管理する必要があることを示します。では、体成分と糖尿病はどのような関係があるのでしょうか? 不均衡な体成分と糖尿病はどう関連しているのか、確認してみましょう。


バランスの取れた体成分とは


体成分を2つに分けると体脂肪量と除脂肪量で分けることができます。除脂肪量には随意筋である骨格筋と、内臓筋・心臓筋や骨(骨ミネラル)が含まれます。除脂肪量と体脂肪量が適切な量を維持している状態が体成分のバランスが取れている状態で、健康な体を維持することに繋がります。過体重や肥満、または栄養状態が悪い人はこの均衡が大きく崩れています。

過体重や肥満の人は体重を減らすことだけを目標としがちです。しかし、健康状態を改善し、せっかく減らした体重を維持するためには崩れている体成分均衡を改善させる必要があります。つまり、体重を減らすことだけを目標にするのではなく、過剰な体脂肪量を減らしながら、除脂肪量(筋肉量)を維持または増やすことを目標とすることが望ましいです。体成分の改善は見た目をよくするだけではなく、糖尿病及び肥満と関連する様々なリスクを減らし、代謝機能を向上させる等、よい影響を及ぼします。


糖尿病と代謝機能の関連性

代謝機能(metabolism)という言葉を聞くとどういうことを思い浮かべますか? 代謝機能がいい人は同じ量を食べても、代謝機能が悪い人よりあまり太らないというイメージを持っている方が多いでしょう。これはある程度は正しいと言えます。代謝機能とは現在の身体構造を維持または回復するために飲食物を分解し、必要なエネルギーを供給する過程を言います。食事をすると、体はそれを分解して必要なところに届けます。この一連の過程を簡単に整理すると次の通りです。


このように、代謝活動はあまり複雑ではありません。しかし、糖尿病患者はこの一連の過程がうまくいきません。これが、糖尿病が代謝機能異常疾患として分類される理由でもあります。糖尿病は代謝方法を変化させるため、細胞がブドウ糖をエネルギーとしてうまく消費できないようにします。先ほどの代謝活動の流れをもう一度見てみましょう。上記過程でインスリンが分泌されるポイントは2つ(1次、2次)です。インスリンは細胞がブドウ糖を吸収してエネルギー源として使用できるように手伝う役割をするホルモンで、膵腸がインスリンを分泌するタイミングは最初にブドウ糖が供給されたときと、そのあとにもインスリンが必要になったときです。つまり、糖の代謝においてインスリンの役割はとても重要です。

 


糖尿病は1型と2型の2種類があります。1型糖尿病(T1D)患者の場合、そもそも体がインスリンを作ることができなくなり、代謝機能がうまく働きません。1型糖尿病患者は免疫機能の混乱によって膵腸でインスリンを作るβ細胞が壊れる疾患であり、糖尿病患者の中でもその数が少なく、原因もはっきりしていないため予防も難しいです。

2型糖尿病は少し違います。2型糖尿病患者の場合、インスリンはちゃんと分泌されていますが、細胞がインスリンを適切に使えなくなっています。このような状態を「インスリン抵抗性(IR)」といいます。インスリンが働かないと細胞はブドウ糖をエネルギー源として使用できないため、ブドウ糖はそのまま血中に残り、溜まってしまいます。血中の過剰な血糖はトリグリセリドに転換され、体脂肪として蓄積されます。体脂肪量が増加するとホルモン不均衡や全身性炎症が発症し、継続すると他の疾患にもつながる恐れがあります。

糖尿病は心疾患、脳卒中、腎臓病、神経疾患、皮膚感染症、眼科疾患とも関連しており、免疫システムの損傷を引き起こす恐れもあります。血液循環の問題と糖尿病が重なると怪我や感染のリスクを高め、足の感覚を鈍くさせ、切断せざるを得ない状態まで悪化することもあります。他に糖尿病が引き起こす合併症としては網膜症、腎不全、歯周疾患、動脈硬化、狭心症、認知障害等の慢性合併症と糖尿性ケトアシドーシス、感染症等の急性合併症があり、最悪の場合、死に至るほどの深刻な疾患まで発展することもあります3)


筋肉量と2型糖尿病の関係

過剰な体脂肪量だけが糖尿病のリスクを高めるわけではありません。最近の様々な研究では、糖尿病のリスクと低筋肉量の関連性が示されています。筋肉量が少ない人の糖尿病有病率が高いだけではなく、糖尿病によって筋肉が弱くなることもあります。2型糖尿病が筋肉に及ぼす悪影響は疲労度、筋力、筋肉量の3つに分けられます。

▶ 筋肉の疲労度
筋肉疲労は運動または身体活動後に、筋肉の疲れや痛みを感じる疲労の一種です。2型糖尿病患者は筋肉が回復するのに時間がかかり、運動負荷への耐性が弱くなる等、筋肉疲労度が増加するという研究発表もあります4)。これは2型糖尿病患者が健康な人より運動による筋肉疲労の影響が強いことを示します。

▶ 筋力
2型糖尿病は筋力を低下させます。年齢、性別、教育水準、アルコール消費量、喫煙期間、肥満、有酸素運動などの変数で調整した後でも、2型糖尿病患者の握力は健康な人に比べ弱かったという研究結果があります5)

▶ 筋肉量
2型糖尿病患者は筋力や筋肉の回復速度が低下するだけではなく、筋肉量も少なくなります。特に糖尿病の罹患期間が長くなると、筋肉量はより減少する傾向があり、部位別でみると下半身の筋肉量が特に減少しやすいです6)。2型糖尿病患者のInBody結果用紙を見てみましょう。下半身の筋肉量が特に少なく、それらの部位の水分均衡(ECW/TBW)※も崩れていることが分かります。

※水分均衡(ECW/TBW)の標準範囲は0.360~0.400で、InBodyではECW/TBWが0.400以上なら高いと評価します。特定の疾患・浮腫・悪い栄養状態・怪我による炎症などでECW/TBWは高くなります。

低筋肉量が2型糖尿病のリスクを高めるとすると、筋肉量を増やし、体成分を改善させることは2型糖尿病のリスクを減少させることに繋がります。日本と韓国の健常人約20万人をフォローアップした研究では、約3年後での2型糖尿病罹患率は、筋肉量が多い参加者で低い結果となりました7)。この結果から、筋トレや適度な運動を日常的に行い、筋肉量を減らさない努力が重要であると分かります。

運動は糖尿病のリスクを下げるだけではなく、糖尿病の状態を改善させる効果もあります。運動をすると筋肉は通常より多くのエネルギーを必要とし、ブドウ糖の需要を高めます。これによって、ブドウ糖が細胞に運ばれる量が増加するため、適切な運動は2型糖尿病患者の血糖コントロールに効果的です。特に、筋肉は大きいとより多くのエネルギーを必要としますが、脚の筋肉は体の中で最も大きい筋肉に該当します。そのため、脚の筋肉はブドウ糖の摂取・コントロールにおいて重要な筋肉です。また、2型糖尿病患者は下半身の筋肉量が特に減少しやすいため、下半身を中心とした運動を継続して筋肉量を維持・増加させることは糖尿病のリスクを下げ、身体能力の改善も期待できます。既にインスリン抵抗性が発生している状態でも、運動によってブドウ糖の需要が増えるとインスリンの効果が高くなり筋肉細胞がブドウ糖を使用できるようになり、血糖などを改善させることに繋がります。


インスリン抵抗性を改善する方法


既に説明した通り、2型糖尿病患者または糖尿病予備群の人はインスリン抵抗性が発生しており、これは細胞が血中のブドウ糖をエネルギーとして使う過程でインスリンがうまく働いていないことを意味します。そして、このような状態は結果的に様々な健康問題を引き起こします。しかし、インスリン感受性を回復させ、糖尿病の状態を緩和させたり、糖尿病が引き起こす合併症のリスクを下げたりすることは可能です。2型糖尿病患者を対象に筋トレプログラムを実施した結果、トレーニング前後でHbA1c数値が8.7%から7.6%に減少し、16週間の筋トレプログラムを終了した時には参加者の72%が、薬の服用量が減少していたと報告した研究もあります8)。既に糖尿病を患い、血糖値が高かったとしても、週2-3回程度の筋トレで糖尿病の症状を緩和させることができます。ただ、既に疾患を患っている方の場合、運動を始める前に必ず担当医と相談の上、運動計画を立ててください。


糖尿病の予防・改善のために覚えておくこと


糖尿病のリスクを高めるのは体重ではなく、その中身です。少ない筋肉量と多い体脂肪量は体重とは関係なく糖尿病のリスクを高めます。そのため、糖尿病のリスクを下げたり、血糖値を改善させたりするためには、体成分を改善させることが役立ちます。簡単に言うと体脂肪量が多い場合は体脂肪量を減らし、筋肉量が少ない場合は筋肉量を増やすことです。筋肉量を増やしつつ体脂肪量を減らした人が、両方ともに多い人または両方とも少ない人より2型糖尿病のリスクが低いと報告している研究もあります9)。つまり、どちらか片方ではなく、両方とも適切な量を維持することが大事といえます。

現在の体成分を把握することは、疾患のリスク把握と適切な目標設定に欠かせません。測定結果を基に体成分をどう改善すべきか、そのためには今の生活習慣をどう変えるべきか、具体的な計画を立てることができます。その計画を実行することで糖尿病を含む様々な疾患のリスクを下げることに繋がるでしょう。定期的な運動を行うことで、体脂肪量や筋肉量の改善はもちろん、血糖値を下げる効果も得られます。もちろん、食事も大事です。低糖質・高たんぱくの食事と筋トレを並行することは、インスリン感受性と体成分の改善に役立ちます。

健康問題が心配ですか? 健康維持のための目標設定が難しいですか? まずは体成分を把握しましょう。バランスの良い体成分を目指すことで、悩んでいた問題がより解決しやすくなるかもしれません。

 

参考文献
1. 「生活習慣病の調査・統計」一般社団法人日本生活習慣病予防協会ホームページ
2. 「IDF Diabetes Atlas 8th」国際糖尿病連合ホームページ
3. 「DM TOWN」SANOFIホームページ
4. Mechanisms for the increased fatigability of the lower limb in people with type 2 diabetes, Senefeld J. et al., J Appl Physiol (1985). 2018 Aug 1;125(2):553-566.
5. Association between muscle strength and type 2 diabetes mellitus in adults in Korea: Data from the Korea national health and nutrition examination survey (KNHANES) VI, Lee MR et al., Medicine (Baltimore). 2018 Jun;97(23)
6. Reduction of Skeletal Muscle, Especially in Lower Limbs, in Japanese Type 2 Diabetic Patients With Insulin Resistance and Cardiovascular Risk Factors, Yuji Tajiri et al., Metab Syndr Relat Disord. 2010 Apr;8(2):137-42
7. Relative muscle mass and the risk of incident type 2 diabetes: A cohort study, Sungwoo Hong et al., PLoS One. 2017; 12(11): e0188650
8. A randomized controlled trial of resistance exercise training to improve glycemic control in older adults with type 2 diabetes, Castaneda C. et al., Diabetes Care. 2002 Dec;25(12):2335-41
9. Effects of combination of change in visceral fat and thigh muscle mass on the development of type 2 diabetes, Seung Jin Han et al., Diabetes Res Clin Pract. 2017 Dec;134:131-138

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食物依存症と過食 Part2: 改善法

前回のトピックで確認した通り、食物依存症は過食の原因になり、過食は様々な健康問題を引き起こします。過食の原因が人によって異なるのと同じく、改善法も様々です。これから紹介する方法は数ある改善法の中の一部で、これらを参考に自分に合う改善法を探してみてください。


▶好きなもの(加工食品)を定期的に少量摂取する


チョコレートやケーキなどの甘いものを適量摂取することは、ストレスを減少させたり、幸せな気持ちになるなど、良い効果もあります。無理して食べないように我慢することはストレスの原因となるため、むしろ定期的に少量を摂取することでコントロールしやすくなります。


▶味覚を鍛える


加工食品の強い甘味に慣れてしまい果物や野菜の甘味に鈍くなっていても、味覚を鍛えることで自然の甘さを敏感に感じるように戻すことが出来ます。味覚を鍛えると言っても料理人を目指す人がやるように、細かく味を見分ける訓練をする訳ではありません。砂糖に接する頻度を少なくして、果物や野菜など自然の甘さと接するようにするだけです。味蕾細胞(みらいさいぼう)は約10日周期で新しくなるといわれています。つまり、新しい味蕾細胞を自然な甘さに慣れさせ続けることで味覚を鍛えることができるという訳です。


▶カロリーではなく胃腸を満たす食べ方をする

加工食品は砂糖や精製炭水化物が主原料であり、量が少なくてもカロリーが高いのが特徴です。そのため、加工食品を中心に満腹感を得るまで食べるとカロリー摂取量は急激に跳ね上がり、体脂肪量の増加に繋がります。しかし、満腹感を得ることも食事の楽しみの一つでしょう。満腹感を得ながら食事を楽しむ方法として、胃腸を満たしつつカロリー摂取量を抑えられるのが「十分な量の良い食べ物を食べる」という方法です。栄養分や食物繊維が豊富な野菜や果物を先に食べることで、高カロリー食品の過食を抑えられます。


▶きっかけになる食べ物を把握する

過食の原因には、過度なダイエットや食事制限があります。食べることを我慢している時に突然我慢できなくなり食べ続けてしまうのです。その「我慢できなくするもの」が何かを把握することも、過食を防止するためには重要です。食べ始めたらコントロールができなくなる食べ物が分かっていれば、その食べ物や似たような種類のものに注意を払うことができます。


▶食べたあとの感情を記録する


この方法は食べるときは実感できない報酬感を客観的に評価する方法です。例えば、チョコレートバーを一つ食べた後、少し時間が経ってからの感覚を簡単に記録します。「甘さが残ってない」のような短い一言で十分です。食事後やおやつを食べた後にしばらく記録し続けると、食べた瞬間の報酬感はあまり長続きしなかったり、思ったより小さく感じたりするなど、客観的に判断できるようになります。


▶自分で料理をする


外食をすると過食しやすくなる傾向が示されています。外食で過食しやすくなる理由として、「選択の幅が広くなる」ことと「食べ物の量を自分で調節できない」こと、そして「準備に自分の努力が必要ない」ことの3つが挙げられます。どれほど美味しいものでも、ずっと食べ続けると飽きて食べなくなります。しかし、外食する時は注文できる料理のバリエーションが広いため、いろんなものを飽きずに食べることができ、結果的には多く食べるようになります。そして、1人前の量を自分で調節できないため、全部食べると食べすぎることもあり、準備に手間がかからない分、たくさんの料理を食べようとする気持ちが強くなります。

自分で料理をすることは品数に限りがあるので選択の幅を狭め、決まった量を食べるようになり、過食を防ぎます。自分一人で一気に数十種類の料理を作って食べることはできないでしょう。そして、作りすぎて捨てることになるのが勿体ないと思うようになるので、作る段階であまり多く作らず、食べられる量だけ作ることで、過食をする機会が減っていきます。


▶食べる以外のストレス解消法を探す


ストレスは過食に繋がりやすいので、なるべくストレスを感じない生活を送れることが理想ですが、そういう生活を送ることはかなり難しいです。そのため、食べるという方法以外のストレス解消法を探し、常にコルチゾールの濃度が高いままにしておかないことが重要です。ストレス解消法は千差万別ですが、軽い運動や散歩、瞑想、好きなことをやるなど、自分に合うストレス解消法を見つけて適切に行うことで、ストレスによる過食を防止できます。


健康のために、時には我慢することも必要です


健康な体を作るためには筋肉と体脂肪の均衡を保つことが重要であるように、健康な食生活になるためには様々な栄養分をバランスよく摂ることが大事です。甘いものを食べることは悪くありませんが、摂りすぎてバランスが崩れてしまっては健康を損ないます。過食は、体重の増加・ホルモン分泌の変動・胃腸収容量の変化・代謝機能の悪化など、身体面へ影響しますが、「食べ過ぎた」という罪悪感と不快感から食事を楽しむことができなくなるなど、精神面にも影響を及ぼす恐れがあります。

急に何かを食べたくなった時、その理由が何かを考えてみましょう。空腹感には身体的な空腹感と感情的・精神的空腹感があり、食事が必要な空腹感は身体的空腹感です。ストレスや疲れが原因で感じる空腹感は加工食品の過食に繋がりやすく、エネルギーの過剰摂取に繋がります。何か食べたいあなた、何が食べたいですか? 甘いデザートやお菓子、味が濃いものなど、依存症を引き起こしやすい加工食品を思い浮かべたのであれば食べる前になぜ食べたいかを考えることで、過食衝動をコントロールできるかもしれません。
適量の甘いものを食べつつ、食べ物に常に気を付けて、時にはすぐ食べたい気持ちを我慢することで健康な食生活を楽しむことができるでしょう。

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食物依存症と過食 Part1: 体への影響

目の前にはチョコレートがひと箱あります。今日は仕事がいつもより忙しく、ストレスや疲れも溜まっているので、「心の癒しのためにちょっとだけ」と思って手を出したものの、いつの間にか全部食べてしまいました。そして甘いものを食べたせいか、塩辛いものが無性に食べたくなり、ついポテトチップスも一袋食べきってしまいました。食べきった後には、「しまった」と罪悪感に近い気持ちが押し寄せてきて憂鬱になります。ダイエットを頑張っている人で、こういう経験をした方は意外と多いかもしれません。こういうことになると殆どの人は自制心が足りないと思い、自分を責めることもありますが、ある理由による過食は自分の意志だけで克服するのはなかなか難しいものです。

食物依存症という言葉を耳にしたことがありますか? よく摂食障害である過食症と勘違いされやすい症状ですが、過食症が強い痩せ願望などの精神的な部分が原因であることに対し、食物依存症は食べ物を食べる行為自体に依存するという違いがあります。薬物依存症やアルコール依存症のように、食べ物に対して化学的に中毒症状を起こしている状態と考えた方がわかりやすいかもしれません。これから食物依存症と過食の関係を確認し、体成分にどのような影響を及ぼすかを説明します。


食物依存症とは?


食物依存症は大きく3つの特徴を持ちます。
▶ 食べる行為をコントロールできない
▶ 身体・精神的な悪影響にもかかわらず食べ続ける
▶ やめたいと思いながらも食べることをやめられない

食物依存症が問題になり始めたのはここ10年ほどで、まだ明確に定義されていない部分が多いですが、放置すると摂食障害に繋がる可能性が高い状態なのは確かです。全ての食べ物が食物依存症を引き起こすわけではありません。最近の研究では、果物や野菜など加工されていない食品は依存症になる危険性が低く、ピザやチョコレート、ポテトチップスの順で依存症の危険性が高かったと報告されています1)。 依存症になりやすい食品の共通点としては高脂質・高塩分・高糖質が挙げられます。甘く、塩辛く、脂っこい食べ物は依存症を引き起こしやすいですが、中でも特に強く働くのは甘味です。塩辛さや脂っぽさは甘味をうまく隠したり、甘味を引き立てたりして、さらに食が進むようにします。強い甘味が食物依存症を引き起こしやすい理由は、大きく3つ挙げられます。

ドーパミンとオピオイドの作用

ドーパミンは脳に働く化学物質で、報酬系という部分を活性化させて行動を強化します。人は褒めてもらうと、その行為を繰り返すようになります。これはドーパミンが働き、褒めてもらうための行為を強化したためです。依存症も「甘いものを食べる」「アルコールや薬物を使用する」などの快感を得る行為がドーパミンによって強化された状態です。オピオイドも脳に働く化学物質で、エンドルフィンもオピオイドの一種です。鎮痛作用もあり快感を与えるもので、手術や末期がん患者に使用する鎮痛剤にも使用されますが、麻薬の成分としても使われます。糖と脂質が結合されたものを食べるとき、オピオイドを分泌する脳神経は素早く活性化されます。オピオイドの作用で脳が「快感」を感じると、ドーパミンが増加し、報酬系が活性化されることで快感を得られたもの(甘いもの)を食べる行為を強化させます。甘味はこの一連の脳内作用に強く働きます。つまり、甘いものを食べるとオピオイド回路が活性化されて幸福感を感じ、ドーパミンが報酬系を活性化させることで甘いものを食べる行為を強化させます。

インスリンとレプチンの作用

食事をすると血糖値が上昇します。血糖値が上がるとインスリンが分泌され、糖を細胞に届けてエネルギーとして使うことで血糖値を下げます。そのため、血糖値が急に上がると、一時的にインスリン分泌量も増加します。一方、レプチンは満腹感を感じるようにします。一般的に食事を開始して20分ほど経つと分泌されますが、レプチンの信号が脳に届くと「エネルギーが十分なのでもう食べなくていい」という状態となります。これが満腹感で、満腹感をよく感じない人はレプチンの信号を脳がうまくキャッチできていない状態とも言えます。インスリンが送る「血糖値が高いのでインスリンをもっと作って欲しい」という信号と、レプチンが送る「もう食べなくていい」という信号は脳の同じ部分(視床下部)に届きますが、問題はインスリンとレプチンが視床下部に送る信号が同じで、片方が届くともう片方の信号にはうまく反応できないという状態に陥りやすいということです。甘いものを食べると血糖値が急激に上昇するため、インスリンの分泌が先に起こり、そのあとレプチンが分泌されますが、すでにインスリンの信号を受けている脳はレプチンの信号をうまく受け取れなくなります。そのため、満腹感を感じるまで時間がかかり、レプチンの信号を脳が受け取れるまで食べるようになります。この状態が長期化すると脳がレプチンの信号にうまく反応できなくなるレプチン抵抗性が発生し、ますます過食が進んでしまいます。

「甘味=食べていい状態」という生体的認識

必要なエネルギーを効果的に得るため、人はある味を本能的に好きになるように進化してきました。例えば、高カロリーの脂っこい食べ物は飢餓状態になっても生き残れるためのエネルギーを蓄積できる物であるため、積極的に摂取するようになっています。脂がのっている魚や肉をおいしく感じるのもこのような本能が働くからといえるでしょう。甘味も同じです。昔、果物は決まった時期にしか食べられず、果物から得られる栄養分を摂取する時期も限られていました。そのため、熟した果実の甘さを「食べころ」の信号として体が覚え、積極的に手を出すようになっているといいます。また、腐った食べ物は甘い味がしないため、「甘味=安全な食べ物」として認識し、好むようになったともいわれます。

甘いものを食べること自体は、精神的に安定をもたらす効果もあり、悪いだけではありません。しかし、食物依存症になるのは問題です。依存症になりやすい甘さは砂糖など高度に精製された甘さですが、砂糖は果物などとは違ってカロリー以外の栄養分が殆どありません。つまり、同じ甘いものでも果物はビタミンや食物繊維なども一緒に摂取できますが、砂糖ではカロリーしか得られません。そのため、少量でもカロリーの過剰摂取に繋がりやすいです。そして、依存症になるとコントロールが効かず、過食に繋がりやすくなります。


過食の原因と問題


過食の原因は前項で述べた食物依存症もありますが、他の理由もあります。

慢性的または過度なストレス
ストレスを感じるとこれを和らげるためにコルチゾールが分泌されます。コルチゾールは筋肉を分解して血糖値を上げるのと同時に、レプチンの分泌量を低下させるため食欲を高めます。また、ストレスが溜まるとセロトニンの分泌量が少なくなります。すると、体はセロトニン分泌量を高めるために必要なアミノ酸を脳に届かせようとし、アミノ酸を運搬するインスリンの分泌を促進させます。インスリンは血糖値が高くなると分泌されるため、結果的に甘いものを食べたくなります。

極端な食事制限
極端な食事制限は体にひどいストレスを与えるため、コルチゾールの働きによって食べ続けるようになります。また、食事制限によって慢性的な栄養不足状態に陥ってしまうため、食べ始めると足りなかった栄養分やエネルギーを補充しつつ、エネルギーが足りなくなったときの予備として食べ続けるようになることもあります。

 


食事は生きるために必要なことですが、過食は体に様々な問題を起こします。過食が招く問題としては次のようなことが挙げられます。

代謝症候群・肥満
過食の特徴は「早食い」と「コントロール障害」です。早く食べるとレプチンが働く前にすでに食べ過ぎてしまい、コントロールができないため満腹感を感じても食べ続けます。食べすぎることで膨満感(お腹の張り)を感じると体を動かすことも容易ではなくなり、運動を避けるようになるので、過剰なエネルギーを消費できず体脂肪として蓄積され肥満に繋がります。肥満によって心血管機能も低下しやすくなり、動脈硬化や血液循環の悪化など、心血管疾患の原因になります。

インスリン・レプチン・ドーパミンの変化
過食すると血糖も急に増加するとともに、血中インスリン濃度が高くなります。この状態が長期化するとインスリンがうまく働かなくなりますが、このような症状をインスリン抵抗性といいます。インスリン抵抗性は糖尿病の原因となり、細胞にエネルギーがうまく届かなくなるため代謝機能の障害を招きます。過食によって血中のレプチン濃度も高くなります。レプチンは脂肪細胞で分泌され、満腹感以外に体脂肪量を一定水準に維持させることにも関わります。つまり、体脂肪量が多すぎるとエネルギーが余り過ぎという信号を送り、エネルギー消費量を高めますが、体脂肪量が少なくなるとエネルギーを体脂肪として蓄積するようにします。血中インスリン濃度が高くなるとレプチン反応が鈍くなるため、脂肪細胞はレプチン分泌量を増加させて脳に信号が届くようにします。長期間レプチン濃度が高く維持されると、インスリンと同じくレプチン抵抗性が生じ、満腹感をよく感じられなくなります。過食でドーパミンが分泌されて報酬系が活性化されても、脳は徐々にその刺激に慣れてしまいます。そのため、最初に味わった満足感を得るためにはより多く食べないといけなくなります。また、ドーパミンの働きが収まった後は罪悪感などで落ち込んでしまうことも多いです。このように、定期的且つ長期間の過食習慣はホルモンの働きにも悪影響を及ぼします。

胃腸の収容量が増える
胃腸は伸縮性が良いため、過食が続くと飲食物収容量が増加します。これも満腹感を得ることが難しくなる原因になり、過剰なカロリー摂取に繋がります。

睡眠障害を起こしやすい
夜は過食しやすいですが、これは睡眠障害にも関連してきます。生活リズムの乱れや睡眠不足による疲れ・ストレスは、さらに高カロリーの物を食べるようになるなどの悪循環に繋がり、体脂肪量の増加と筋肉量の減少による疾患のリスクを高める恐れがあります。

ここまでは食物依存症と過食について確認しました。次のトピックではこれらをどのように改善できるのか、その方法について説明します。

 

参考文献
1. Which Foods May Be Addictive? The Roles of Processing, Fat Content, and Glycemic Load. Erica M. Schulte, Nicole M. Avena, Ashley N. Gearhardt. PLOS ONE | DOI:10.1371/journal.pone.0117959 February 18, 2015

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化学療法が体に与える影響

寿命が長くなり始めてから、癌は珍しくない病気になりました。化学療法とは化学物質を使用してがん細胞の分裂を止めるがん治療の1つで、抗がん剤治療も化学療法の一種です。残念なことに、抗がん剤には様々な副作用があり、患者の代謝とカロリー吸収に影響を与えるため、体成分も変化させます。今回のトピックでは化学療法が体成分に及ぼす悪影響と、その影響を軽減できる方法についてご紹介します。


体重増加と化学療法


抗がん剤治療には様々な種類がありますが、全てに共通していえる効果は「がん細胞の分裂を遅くする」という細胞周期に関わるものです。一般的な抗がん剤を一部紹介します。
▶アルキル化薬
細胞分裂が始まる前の休止期にがん細胞を攻撃し、分裂ができなくなるように働きます。
▶代謝拮抗剤
代謝拮抗剤はがん細胞に吸収されると、細胞の増殖や分裂が停止します。
▶トポイソメラーゼ阻害薬
DNA複製や細胞分裂に必要な酵素であるトポイソメラーゼの働きを止め、がん細胞が分裂できなくなるようにします。

これらの抗がん剤は、がん細胞を攻撃するだけではなく、健康な細胞も攻撃してしまいます。そのため、様々な副作用が現れます。代表的な副作用は、吐き気・嘔吐・脱毛・顔の浮腫み・痺れ・疼き・体重増加・尿閉・聴覚障害などが挙げられます。

「癌を患うと、食欲不振になり体重も落ちて痩せ細ってしまう」というイメージをお持ちの方もいらっしゃるでしょう。しかし、実際は化学療法を受けている間に体重が増加したと報告している研究が多くあります1)2)。一体なぜ患者が治療中に体重を増やしてしまうのでしょうか? 原因について次のような仮説が報告されています。
▶食べ物から栄養分を処理・吸収する能力の変化
▶体調不良のため運動ができない
▶癌や化学療法が原因で体液が貯留している
▶合併症治療のためのステロイド使用

過剰に体脂肪を蓄えることは、明らかに癌のリスク増加と関連しています。しかし、治療の副作用である体重の増加が体脂肪の増加とは限らないため、副作用によって癌の再発リスクが高まるとは言えません。先行研究でも、体重増加量と癌の再発に関連性が認められていません。従って、単なる体重の変化は、患者の体の変化を捉えるための最良の指標ではありません。患者一人一人、体の必要な成分と不必要な成分の過不足を把握することが、治療の第一歩ではないでしょうか。適切な治療のためには、治療中に生じる体成分の変化を経時的にモニタリングし、健康へのリスクを理解することも不可欠です。


体成分が重要な理由


体成分は、主に体重を構成している体水分・タンパク質・ミネラル・体脂肪の4つの構成成分を指します。
▶体水分
健康な人は約50~70%が水分です。体水分は摂取した栄養素を体の細胞に届け、老廃物を体外に排出する運搬の役割をしています。
▶タンパク質
体水分と共に筋肉の主な構成成分です。タンパク質量が足りないというのは、細胞の栄養状態が良くないことを意味します。
▶ミネラル量
ミネラルの約80%は骨にあり、体を支える役目をします。不足すると骨粗鬆症や骨折の危険性が高まります。ミネラル量は除脂肪量と密接な相関関係にあります。
▶体脂肪量
食事で摂った栄養分は消化吸収され活動のエネルギーとして使われます。使いきれなかったエネルギーは脂肪細胞に蓄積されますが、過剰に蓄積されると肥満の原因となります。

長年、健康の尺度として体重やBMIが使用されてきましたが、体成分は現在の健康状態や潜在しているリスクをより詳しく調べることができます。それぞれの成分は異なる役割を持っているので、成分ごとに変化を確認する “体成分” としての視点がとても重要です。特に疾患を持っている人は、”体重の増減” ではなく、”体成分の変動” に気を付ける必要があります。癌や化学療法は、体成分に大きな影響を与えるケースがあり、患者の体成分を理解してモニタリングすることはとても重要です。


化学療法が体成分に与える影響

化学療法と体脂肪量
残念ながら、化学療法は体成分にマイナスの変化をもたらしたり、様々な副作用を引き起こしたりすることがあります。先ずは、化学療法が体脂肪量に及ぼす影響について、いくつかの研究内容を覗いてみましょう。
研究①3)
化学療法を受ける乳がんの女性を対象に、体成分測定を実施して体成分がどのように変化するのかを分析しました。化学療法を受ける前後の測定結果を比較した結果、乳がん患者140名のうち、82名(58.6%)が体重と体脂肪率の増加を確認しました。更に、閉経前の女性においては76.8%もの患者が体脂肪率の増加を経験する結果となりました。

研究②4)
化学療法を受ける乳がん女性の体重と体成分の変化を分析した研究では、患者の体重には大きな変化が見られなかったものの、体脂肪量の増加と除脂肪量の減少が確認され、体成分の変化は起こっていることが明らかとなりました。

これらの研究で言及されている体成分変化の要因は、化学療法を受けることで身体活動量が減ってしまうことや、食欲不振になってしまうことでした。また、体重変化の内容として体脂肪量の増加や除脂肪量の減少が示されましたが、このような研究結果は化学療法を始めるにあたり、患者が自身に起こりうる変化を予測する手助けとなるでしょう。患者の変化が予測できれば、マイナスの変化を回避したり、程度を和らげたりするための措置を講じることができるようになります。

化学療法と筋肉量
研究①5)
がん悪液質の患者に起こっている代謝の変化を分析した研究では、次のような発見がありました。
・亡くなった患者の亡くなる直前の体成分検査では、平均4kg筋肉量が減少
・亡くなった患者は筋肉量だけでなく、体脂肪量も減少
・筋肉量や体脂肪量の減少は、代謝の変化によってカロリー消費量が増加したことが原因
・総筋肉量の平均減少率は約6.1%であったが、減少率が9%を超えると生存率が有意に低い(死亡リスクが3倍)

研究②6)
化学療法を受ける食道がん患者の体成分変化を治療前後に評価しました。結果、患者の43.3%でタンパク質が減少し、36.7%で骨格筋量・体細胞量・除脂肪量が減少しました。また、術後合併症のある患者と合併症がない患者の体成分を比べてみると、術後合併症のある患者は化学療法中に4つのパラメータ(タンパク質・骨格筋量・体細胞量・除脂肪量)全てが減少していることが分かりました。

体成分や筋肉量はがん患者の生存に大きく関わっています。化学療法などの治療中は筋肉量を維持し、悪液質の影響を最小限に抑えるために、適切な栄養補充にも焦点を当てることが必要です。


新しい治療と体成分の維持


体成分の維持や悪液質進行阻止のために、食事療法を行うことは勿論ですが、他に新しい治療法として次のようなものが開発されています。
▶運動模倣薬
運動模倣薬とは名前の通り、運動の利点や効果を模倣する薬のことです。化学療法を受けている多くの人が、運動はもちろん身体活動にも制限があるため、実際に運動しなくても運動による利益を得られるということは、強力な治療法です。運動模倣薬は筋繊維を刺激し、筋肉量維持を手助けしてくれます。しかし、中には副作用がある運動模倣薬もあるため、今後の更なる調査が必要です。
▶代謝をターゲットとした治療
がん治療の一種であるHDAC阻害薬AR-42の影響を調べた研究では、癌が発生した動物に対して阻害薬を投与すると、筋肉繊維の大きさや強度で減少を抑えることができました。筋肉量・筋繊維の大きさ・筋力の低下を防ぐことは、患者の体重を維持して生存期間を延ばすことに繋がります。
▶消化器系をターゲットとした治療
プロバイオティクスとは体内環境に良い影響を与える微生物のことで、代表的なものに乳酸菌やビフィズス菌があります。乳酸菌の中にはラクトバチルス・ロイテリ菌のように炎症の調節をサポートし、悪液質を減らす役割を持っているものもあり、消化管の健康を維持するためにも重要です。

がん患者にできることは、どのようなことがあるのでしょうか。がん患者に限らず全ての人にも当てはまりますが、疾患や加齢による筋肉の喪失を遅らせ、筋肉の強度を維持するために、食事管理や運動を取り入れることが必要になってくるでしょう。食事内容を改めたり、適度な運動を行ったりすることは、癌の予後を改善するだけではなく気持ちの面でもリフレッシュできるでしょう。


終わりに


化学療法は患者の体成分に大きな影響を与えます。がん患者の中には体重が増えてしまうケースもありますが、その内容は体脂肪や炎症から生じる体水分です。また、生理学的変化には体成分の変化が伴ってきます。医療の現場で患者の体水分・筋肉・体脂肪の変動をモニタリングすることは、体成分の負の変化を防ぎ、生存率や生活の質を高めることに繋がります。化学療法を受け、吐き気や嘔吐などの副作用がある中、健康的な食事を維持し活動的であり続けることは簡単ではないでしょう。勿論、癌の治療を行うことが最優先事項となりますが、次のステップは体の健康管理です。体成分は健康へのリスクと関連して変化します。食事管理と運動によるプラスの変化があれば、癌がもたらすマイナスの変化を少しでも相殺できるかもしれません。

アスリートのような体を目指しているわけではないので、無理して体を大きくする必要はありません。目標は運動や身体活動を積極的に続けることで筋肉繊維を刺激し、体に “筋肉がまだまだ必要である” という信号を送ることです。この信号が、筋肉の劣化を防ぎ、摂取したタンパク質の吸収を助けてくれます。悪液質に悩まされている人は、ビタミン・ミネラル・アミノ酸などの栄養摂取を強化する治療という選択肢もあります。InBodyが、癌や化学療法による体成分の悪化を和らげるきっかけとなり、患者の予後改善に役立つことを心から望んでいます。

 

参考文献
1. Weight gain during adjuvant chemotherapy for breast cancer. K Z Heasman, H J Sutherland, J A Campbell, T Elhakim, NF Boyd, Breast Cancer Research and Treatment, 1985 June; 5(2): 195–200
2. Weight Gain During Adjuvant and Neoadjuvant Chemotherapy for Breast Cancer: an Audit of 100 Women Receiving FEC or CMF Chemotherapy. K J Lankester, J E Phillips, P A Lawton, Clinical Oncology, 2002 Feb; 14(1):64-68. doi: https://doi.org/10.1053/clon.2001.0014
3. Percent Body Fat Change in Chinese Women After Adjuvant Chemotherapy for Breast Cancer. Qiong Fang et al., Med Sci Monit, 2018; 24: 5988-5995
4. Weight and body composition changes during and after adjuvant chemotherapy in women with breast cancer. Freedman R J et al., J Clin Endocrinol Metab, 2004 May; 89(5): 2248-53
5. Definition and classification of cancer cachexia: an international consensus. Fearon K et al., Lancet Oncol, 2011 May; 12(5): 489-95. Doi: 10.1016/S1470-2045(10)70218-7
6. Changes in Body Composition Secondary to Neoadjuvant Chemotherapy for Advanced Esophageal Cancer are Related to the Occurrence of Postoperative Complications After Esophagectomy. Satoshi Ida et al., Society of Surgical Oncology 2014

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サルコペニアの理解に必要なこと

現代人はこれまで以上に長生きできるようになりました。日本は世界的にも長寿国として知られていますが、健康上の問題がない状態で日常生活を送れる期間の ”健康寿命” はどうでしょうか? 日本の平均寿命は2016年には男性80.98歳、女性87.14歳で、1947年の男性50.06歳、女性53.96歳から増加し続けていますが、健康寿命の男性72.14歳、女性74.79歳と大きな差があります1)50歳以降で筋肉量は1~2%減少します。60~70歳では平均5~13%、80歳を超えると11~50%も筋肉量が減少してしまいます2)。筋肉量の減少は機能的能力の低下や、健康リスクに繋がります。日常生活が困難になれば、生活の質が低下し健康寿命にも影響します。

加齢に伴って、体成分は変化していきます。加齢が原因で筋肉量と筋力が低下することをサルコペニアといいます。身体活動量の低下や食事の変化が筋肉量減少をもたらし、筋肉量減少が手術への耐性低下や腰痛・関節痛、寝たきりなどの原因にもなっています。心血管疾患や生活習慣病などの慢性疾患を予防する方法として、栄養管理や運動療法が注目されますが、体成分に着目したアプローチは実施されていないということがよくあります。サルコペニアに関しても同様で、体成分の観点から健康管理できるということを忘れないでください。

次にサルコペニアのリスクと対策について、詳しく説明していきます。


サルコペニアとは?


サルコペニアとは、ギリシャ語で筋肉を意味する「sarx」と喪失を意味する「penia」を組み合わせた言葉です。サルコペニアは加齢に起因する筋肉量の低下と筋力・有酸素能力の低下を指すので、病気の結果としてではなく、自然な老化過程であるといえます。悪液質はがんなどの疾患が原因で栄養失調になるので、筋肉量や体脂肪量の喪失を制御することはできませんが、サルコペニアは栄養療法と運動療法から改善が可能です。

加齢に伴って筋肉量が減少するだけでなく、体脂肪量が燃焼されずに体内に残ってしまうケースが増えています。このような状態をサルコペニア肥満といいます。InBodyのデーターベースによれば70代高齢者の筋肉量は20代と比べると、男性は平均11.2kg、女性は4.6kg少なくなっています。又、70代高齢者の体脂肪量を男性と女性で比べると、女性が平均4.5kg重いことが示されています。女性の方が筋肉量が少なく体脂肪量が多いため、サルコペニア肥満へのリスクが高くなります。サルコペニア肥満については、後ほど詳しく説明していきます。


サルコペニアの原因は?


サルコペニアの原因は、加齢・タンパク質摂取不足・ホルモンの機能低下・身体活動の低下などが挙げられます。また無理なダイエットや食事制限が筋肉喪失を招いたり、サルコぺニアの進行を速めたりする可能性もあります。

加齢
京都大学の研究で、サルコペニア有病率が男性65~69歳の2.6%から85~89歳の75.0%まで増加すること、女性65~69歳の11.5%から85~89歳の54.3%まで増加することが報告されました3)。加齢による筋肉量減少は活動の変化に関連しています。多くの研究者達が、老化による筋肉喪失を食い止める方法を模索しています。

ホルモンの機能低下
テストステロンはサルコペニアと深い関連があります。テストステロンは性ホルモンの一種で、筋肉量を増加させるのに役立ちます。テストステロンが加齢と共に低下し始めると、筋タンパク質の合成を減少させるだけでなく、筋肉修復に不可欠な細胞再生を減少させてしまいます。筋タンパク質の分解が合成を上回ることで、サルコペニアのリスクが高まります。

タンパク質摂取量の減少
老化がサルコペニアに関連する大きな要因は、高齢者が通常の食生活を維持することが難しく、エネルギーやタンパク質の摂取不足、吸収不良などで栄養状態が悪くなるためです。運動と適切なタンパク質摂取を組み合わせることが、サルコペニア予防に効果的です。特に必須アミノ酸は体内で合成できないので、食品から摂取する必要があります。“必須アミノ酸がバランスよく含まれている食品=良質なタンパク質を含む食品” です。

身体活動の低下
高齢者は若者よりも座りがちな傾向があります。高齢になると運動の機会が減ることや閉じこもりによって身体活動量が低下します。定期的なレジスタンス運動は、筋肉量維持と筋肉強度の向上に役立ちます。

炎症性サイトカインの増加
偏った食事と運動不足によって内臓脂肪が貯蔵されますが、この脂肪組織がTNF-α・IL-6などの炎症性サイトカインを生成し、筋委縮やサルコペニアを促進させると言われています4)。内臓脂肪量の増加(腹部肥満)は筋肉量の減少で悪化するため、サルコペニアを進行させる要因となります。

疾患に関連した栄養失調
疾患に罹患している人、長期間病院で治療を受けている人は、栄養失調のリスクが高まります。うっ血性心不全(CHF)、末梢動脈疾患(PAD)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの心血管疾患および呼吸器系疾患は、中年期に発症する傾向があります。高齢な有病者は若年者よりも筋肉成分の消耗が著しく、機能低下を起こすスピードが速くなります。又、インスリン分泌の低下・インスリン抵抗性の発症も筋肉喪失を加速させるので、糖尿病もサルコペニアに関連しています。

体成分の悪化を加齢だけのせいにしてはいけません。適度な身体活動とバランスの取れた食事を心掛け、日々健康的に過ごしていますか? 体調管理を怠れば、筋肉量の減少を食い止めることはできません。健康的な食事で、余分な脂肪蓄積を防ぐことができます。


サルコペニア肥満


“サルコペニア肥満” という言葉を聞いたことがない方は、”隠れ肥満” ならどうでしょうか? 隠れ肥満は運動不足の現代人に多く見られる体型で、体は細くて見た目は普通ですが、体脂肪が多く筋肉が少ない状態です。体重が適正でも体成分は肥満の人と似たような構成なので、過体重の肥満体型と同様に心血管疾患や糖尿病などの疾患を発症するリスクがあります。サルコペニアは不健康な食生活と運動不足に関連するため、特に栄養管理と運動を怠るとサルコペニア肥満になる可能性が高くなります。これは高齢者に限ったことではありません。体重だけでなく、体成分に焦点を当てることが重要です。

サルコペニアやサルコペニア肥満であるかを、どのようにして調べることができるでしょうか? 体成分分析を使用して経時変化を観察してみましょう。体脂肪量が増加している中、筋肉量が減少しているとすれば、サルコペニア若しくはサルコペニア肥満の可能性があります。体成分を知ることで健康へのリスクを理解し、サルコペニアを予防してください。


サルコペニアの対策


現在、サルコペニアの明確な治療法はありませんが、筋肉喪失を和らげ、予防する方法はいくつかあります。日焼けをする前に日焼け止めクリームを塗ることと同じように、サルコペニアを発症する前に予防措置を講じることが重要です。

1) エクササイズ
レジスタンス運動は高齢の人でも効果が報告されています。レジスタンス運動は神経筋機能の向上と筋肥大を誘発します。これらの変化は加齢による日常生活動作(ADL)能力の低下を改善させる期待もあります。筋肉量を十分に保持し、早期筋肉分解を回避するためにも若いうちからレジスタンス運動を実施することが重要です。

2) タンパク質摂取量を増やす
タンパク質は筋肉組織の構成や修復に不可欠です。厚生労働省が報告した日本人の食事摂取基準の概要によると、18歳以上の男性は1日に60g、女性は50gのタンパク質摂取を推奨量と定めています5)。すでにサルコペニアの兆候がある人は、タンパク質摂取が更に必要です。加齢によって、タンパク質を体内に取り込む能力が低下するため、高齢者もより多くのタンパク質を摂取する必要があります。

3) アミノ酸摂取量を増やす
タンパク質を形成しているアミノ酸のうち、体内で合成することができないアミノ酸を必須アミノ酸といいます。必須アミノ酸は食事やサプリメントから摂取する必要があり、中でもBCAA(分岐鎖アミノ酸)であるロイシンは筋肉の合成に非常に重要な役割を果たしています。運動やタンパク質摂取をして筋肉を合成しようとしても、筋肉の部品となる必須アミノ酸がなければ効率が悪くなります。

4) ホルモン補充療法
テストステロンや成長ホルモンの投与によって筋肉量が増加する6)と報告されていますが、現在のところホルモン補充療法はサルコペニアの治療として推奨されていません。将来的には治療法の1つとして選択肢になる可能性があります。

5) ビタミンDが足りていることを確認
ビタミンDの不足は体成分・食事・ホルモン状態に関わらず、筋肉減少と関連します。ビタミンDは骨の健康だけでなく、加齢による筋肉喪失を回避するためにも重要です。


終わりに

加齢には、嬉しい成長やそれほど好ましくない老化など、多くの変化があります。体成分を活用することで年齢と共に変動する筋肉量を管理することができます。定期的に体成分測定をすることで、実際に起こっている体内変化をより正確に把握できます。健康寿命を延ばして、楽しく年を重ねていきましょう。

 

参考文献
1. 平成28年「簡易生命表の概要」「国民生活基礎調査」 厚生労働省
2. An overview of sarcopenia:facts and numbers on prevalence and clinical impact, Stephan von Haehling et al., J Cachexia Sarcopenia Muscle(2010)1(2):129-133
3. Prevalence of Sarcopenia in Community-Dwelling Japanese Older Adults, M Yamada et al., JAMDA xxx(2013)1-5
4. A study on relationship between elderly sarcopenia and inflammatory factors IL-6 and TNF-α, Ai-Lin Bian et al., Eur J Med Res(2017)22-25
5. 日本人の食事摂取基準(2015年版)の概要 厚生労働省
6. Hormone Replacement Therapy and Physical Function in Healthy Older Men. Time to Talk Hormones?, Manthos G. Giannoulis et al., Endocr Rev(2012)33(3):314-377