,

喫煙による健康被害

2020年4月1日より、昨年から一部施行となっていた「健康増進法の一部を改正する法律」が全面施行になります。これまでは学校や病院といった行政機関及び公共施設において、原則敷地内禁煙と定められていましたが、全面施行になることで、それ以外の屋内施設がほぼすべて原則屋内禁煙となります。屋内での喫煙の場合、喫煙室の設置や喫煙室の標識掲示も必要になります。また、20歳未満であれば来店客・従業員問わず、喫煙エリアへの立入禁止も定められています。

近年、喫煙者自身の健康に対する悪影響よりも周囲の人に対する受動喫煙の健康に対する悪影響が深刻な問題となっており、受動喫煙を防ぐためにも、今回の法改正に則って分煙を進めていく必要があります。今回は喫煙や受動喫煙による身体への影響についてお話します。


たばこの歴史

たばこは16世紀後半に日本に伝来したとされています。江戸時代初期にはたばこの喫煙及び売買の禁止令が出されたものの、次第に容認され、嗜好品として徐々に定着していきました。江戸時代では葉を刻んだたばこをキセルで吸う「刻みたばこ」が好まれていました。明治時代になると、外国から「紙巻きたばこ」が輸入されるようになり、国内でも製造されるようになりました。明治後期には政府が国家の財源確保のため、たばこに関する法律を整備し、たばこ産業は国営化されていきました。昭和では、戦時中の英語使用禁止や配給制の影響を大きく受けましたが、戦後、国営化されていたたばこ産業は徐々に民営化が進み、様々な銘柄が誕生しました。平成に入ると健康志向の高まりや世界的なたばこ規制もあり、たばこ販売量は1996年をピークに緩やかに減少していきます。このような背景から、近年は分煙環境の整備や喫煙マナーの向上、未成年者の喫煙防止などの取り組みや煙の発生しにくいたばこの開発が進められています¹⁾。

ちなみに、たばこは英語で「tobacco」「cigarette」の2通りの表現があります。元々、「tobacco=原材料の植物であるたばこ」「cigarette=加工して販売しているたばこ」をそれぞれ指していたのですが、最近は加工して販売しているたばこも「tobacco」を使うようになっており、「たばこを吸う=smoking tobacco」と表現することもあります。また、「Tobacco」は産業としてのたばこを表す際にも用いられます。


たばこの煙

たばこの煙は喫煙者がたばこから吸う「主流煙」、喫煙者が吐き出した「呼出煙」、たばこそのものから発する「副流煙」があります。健康増進法第25条では受動喫煙を「室内又はこれに準ずる環境において、他人のたばこの煙を吸わされること」と定義しており、ここで述べている「他人のたばこの煙」は「呼出煙」と「副流煙」を指します。

たばこの煙は粒子成分とガス成分の2種類に分かれます。粒子成分には4,300種類、ガス成分には1,000種類もの化学物質が含まれ、そのうちのいくつかは粒子成分とガス成分の両方に含まれると報告されています²⁾。このうち、発がん性があると報告されている物質は約70種類も含まれています。たばこの煙に含まれる成分はたばこの葉そのものに含まれるものと、乾燥や加⼯・製造の過程で⽣成・添加されたもの、そして、それらが燃焼する際に⽣成されるもので構成されており、喫煙や受動喫煙ではこれらが合わさったものを吸い込んでいることになります。


たばこの三大有害成分

世界の喫煙に起因する年間死亡者数は、能動喫煙によって約700万人、受動喫煙によって約120万人と報告されています²⁾。また、日本人の年間死亡者数は、能動喫煙によって約13万人、受動喫煙によって約1万5000人(肺がん・虚血性心疾患・脳卒中による死亡)と推計されています³⁾。

たばこに含まれている「ニコチン」「タール」「一酸化炭素」は三大有害成分と呼ばれています。たばこの有害成分と聞いて、まず思い浮かべる代表的なものが「ニコチン」です。ニコチンは、たばこ葉の根で生合成されたのち、葉に蓄積する天然の成分です。ニコチンには毒性があり、本来は植物自身が虫や動物に食べられないよう、身を守るために生成している成分です。たばこはナス科の植物であるため、同じナス科のトマトやナス、ピーマン、ジャガイモなどにもニコチンは存在しますが、これらの植物に含まれるニコチンは非常に微量です。ニコチンは、喫煙によって発症リスクが高まるがんや脳卒中の直接的な要因であると思われていますが、現時点ではニコチンに発がん性は認められておらず、発がん性があるかどうかは不明です。しかし、ニコチンには麻薬と同等の強い依存性があると言われており、依存の離脱症状によって、不快感・抑うつ状態・不眠・気性が荒くなる・不安感・集中力欠如・心拍数減少・食欲増加などが見られます。この依存性から、たばこをたくさん吸うことによってニコチン以外の有害な化学物質を大量に摂取してしまい、各疾患の発病リスクも高まります。

「タール」はいわゆるヤニと呼ばれ、フィルターに付着する、べっとりしたものです。タールには数十種類の発がん物質が含まれています。「一酸化炭素」は酸素の運搬を阻害します。通常、体内に取り込まれた酸素は血中のヘモグロビンと結びつき、血液循環によって身体の各部に運ばれます。しかし、一酸化炭素は酸素の200~250倍の速さでヘモグロビンと結びつくことから、酸素とヘモグロビンの結合を妨げ、結果的に身体が酸素欠乏症に陥ります。

三大有害成分をはじめとした有害成分によって、各種がんや循環器疾患、呼吸器疾患、糖尿病、妊娠・出産へのリスク、小児の発育阻害などが引き起こされます。喫煙と各疾患との因果関係は次の表のように示されています。

「喫煙と健康 喫煙の健康影響に関する検討会報告書」より抜粋³⁾

InBodyは、喫煙が原因となる各種がんや循環器疾患・呼吸器疾患・糖尿病などのリスク管理に、測定項目を活用することができます。2009年の研究⁴⁾では、近年患者数が増加しているCOPD(慢性閉塞性肺疾患:たばこの煙などが原因で息がしづらくなる病気)患者に多い肺気腫(肺の呼吸機能が低下している状態)の重症度と筋肉量・体脂肪量の関係について発表しています。また、2014年のアジアサルコペニアワーキンググループの発表⁵⁾では、喫煙歴がサルコペニアに関連していると述べています。
※サルコペニアについてはInBodyトピック「サルコペニアの理解に必要なこと」をご覧ください。


新しいたばこの普及

最近は紙巻きたばこではなく、新しいたばこを利用する人も増えてきています。2018年に行われた、18~72歳の男女約4,000人が回答したアンケートによると、男性で14.5%、女性で4.7%の方が現在新しいたばこを使用していると回答しています。特に、20代の若者でその傾向は強く現れました(男性24.4%、女性10.1%)⁶⁾。新しいたばこは火を使わずに電気の力で水蒸気を発生させる仕組みで、大きく分けると次の2種類があります。

➤ たばこ葉を熱し、ニコチンが含まれた水蒸気を吸引する種類
従来の紙巻きたばこよりもニコチンの含有量が少なく、有害物質の一つであるタールも含まれないことから、紙巻きたばこより身体への悪影響が少ないと言われています。また、煙とニオイが少ないことも特徴です。

➤ 液状のリキッドを熱し、水蒸気を吸引する種類
ニコチンやタールを含まないため、紙巻きたばこや上記のたばこよりも身体への悪影響が少ないです。煙とニオイが多く、爆煙と呼ばれています。日本の薬事法上ではニコチンを含んだ液状のリキッドは販売禁止となっていますが、海外ではニコチンを含んだ液状のリキッドも流通しており、必ずしもニコチンが含まれていないたばことは言えません。

気を付けなければいけないのは、どちらも紙巻きたばこよりは少ないものの、有害化学物質を一切含んでいないわけではない、という点です。紙巻きたばこよりも身体への悪影響が少なく済むからといって、たくさん吸い続けると身体に悪影響が出ることに変わりはありません。

紙巻きたばこと比較すると、新しいたばこの主流煙は有害化学物質量が減少していますが、ニコチン量はほぼ同量です。その反面、製造方法や加熱方法の違いにより、一部の有害化学物質は新しいたばこの方が増加していました。受動喫煙における曝露量は紙巻きたばこより新しいたばこの方が少なくなっていたものの、ニコチンの受動喫煙は確認されており、新しいたばこだからといって、受動喫煙が全く0になるわけではありません⁶⁾。

これらのたばこはまだ発売されてから日が浅いこともあり、身体への影響における紙巻きたばことの違いや、がん発症リスクなどの検証が十分に行われていません。たばこへの規制が厳しい米国でも、新しいたばこに関して有害化学物質の発生低減を認めてはいますが、発症リスクの低減についてはまだ認めていません。2019年の研究⁷⁾では新しいたばこのフィルターから加熱時に有害化学物質が発生していることが報告されており、新しいたばこによる新たな問題も生じているようです。新しいたばこの影響については研究が進められていますが、WHOも継続した評価が必要であると主張しています。
※これらのたばこは「加熱式たばこ」「非燃焼式たばこ」「電子たばこ」等、表記が統一されていないため、今回は「新しいたばこ」としています。


進んでいく分煙

改正法が施行されると、原則室内禁煙となります。しかし、施設における事業内容や経営規模に対する配慮から、その類型・場所ごとに、各種喫煙室の設置が認められています。

「なくそう!望まない受動喫煙。」 厚生労働省より抜粋⁸⁾

通常の施設内では、「喫煙専用室」「加熱式たばこ専用喫煙室」の設置が可能です。「喫煙専用室」では加熱式たばこを含めたたばこの喫煙が可能ですが、飲食を始めとするサービス等の提供はできません。一方、「加熱式たばこ専用喫煙室」では、加熱式たばこのみの喫煙が可能ですが、飲食等の提供は可能です。どちらも施設の一部に設置が可能です。

シガーバーや、たばこ販売店、公衆喫煙所など、喫煙をサービスの目的とする施設(喫煙目的施設)については、受動喫煙防止の構造設備基準に適合した室内空間に限り、「喫煙目的室」を設けることができます。喫煙目的室では、喫煙に加え、飲食を始めとするサービス等を提供することも可能です。

しかし、経営規模の小さな飲食店については、喫煙目的室を設置できるほどの十分なスペースを確保することが難しく、事業継続に影響を与えることが考えられます。経過措置として、既存の小さな飲食店(客席面積100m²以下)のみ「喫煙可能室」の設置を認め、喫煙に加え、飲食を始めとするサービス等を提供することを可能としています。

「なくそう!望まない受動喫煙。」 厚生労働省より抜粋⁸⁾

また、これらを設置した場合、施設内に喫煙室がある旨を周知する必要があります。今後、このような標識を見る機会が増えるでしょう。


終わりに

たばこは江戸時代から人々の生活に根付いている文化の一つであるため、なくなることはないでしょう。たばこを吸う人吸わない人それぞれに配慮した社会環境作りが今後、更に進められていきます。現在、世界的な問題になっているコロナウイルス(COVID-19)も肺炎などの呼吸器疾患を起こしやすく、同様に呼吸器へ悪影響を及ぼす喫煙との関係が示唆されています。
※詳しくはInBodyトピック「呼吸器疾患とは Part1: 主な呼吸器疾患」をご覧ください。

WHOのテドロス事務局長も3月20日の談話の中で、「たばこを吸わないでください。喫煙は、もしあなたがコロナウイルスに感染した際、重症化するリスクを高めます。」と話しています⁹⁾。この記事を機に、たばこを吸う人も吸わない人も今一度、たばことの関わり方を考えてみてください。

 

参考文献
1.「JT(日本たばこ産業株式会社)」公式ホームページ
2.「Tobacco」WHO
3.「喫煙と健康 喫煙の健康影響に関する検討会報告書」厚生労働省
4. Extent of Emphysema on HRCT Affects Loss of Fat-free Mass and Fat Mass in COPD. Hiroko Kurosaki, Takeo Ishii, et al., Inter Med. 2009; 48: 41-48
5. Sarcopenia in Asia: Consensus Report of the Asian Working Group for Sarcopenia. Liang-Kung Chen, Li-Kuo Liu, et al., JAMDA. 2014; 15: 95-101
6. 非燃焼加熱式たばこにおける成分分析の手法の開発と国内外における使用実態や規制に関する研究. 欅田 尚樹, 伊藤 加奈江, 木村 和子, 田淵 貴大, 厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究, 2018
7. iQOS: evidence of pyrolysis and release of a toxicant from plastic. Davis B, Williams M, Talbot P, Tob Control. 2019; 28(1): 34-41
8.「なくそう!望まない受動喫煙。」厚生労働省
9.「WHO Director-General’s opening remarks at the media briefing on COVID-19 – 20 March 2020」WHO

呼吸器疾患とは Part2: 感染症の予防法

前回のトピックでは主な呼吸器疾患についてご紹介しました。今回のトピックではそれらの予防法を、免疫力向上と体成分に着目してご紹介します。


免疫力と栄養状態、筋肉量の関係

呼吸器分野や栄養分野など、様々な分野で筋肉量の不足及び栄養不良が疾患の悪い予後と関連しているとの発表が相次いでいます。高齢の誤嚥性肺炎患者を対象に90日間の生存率を確認した研究¹⁾では、骨格筋指数(ASMI)を基に4群に分けた結果、ASMIが最も少ない患者群の生存率が他の3群より低く示されました。30日間のフォローアップ結果でも少ない筋肉量が死亡率の独立因子であると示されました。これは同じ肺炎患者でも筋肉量が少ない患者の予後がより悪化することを意味します。

※「Muscle Mass Loss Is a Potential Predictor of 90-Day Mortality in Older Adults with Aspiration Pneumonia」より引用・改変

他の研究では筋肉量が少ない患者を対象に栄養管理及び適切なリハビリが有効であることを示しています。生体肝移植患者を対象としたこの研究²⁾では術前骨格筋量の少ない患者群における術後短期間の生存率が、骨格筋量の十分な患者群の生存率より低く示されました。また、骨格筋量の少ない患者群において、術前後に栄養介入及び運動介入を受けた患者群と介入を受けなかった患者群の比較も行われましたが、介入を受けた患者群の生存率が有意に改善されていたことを確認しました。

このように筋肉量の維持及び栄養管理が回復に欠かせないという点は継続的に示唆されてきました。そのため、身体活動が自由にできて筋肉量の管理が可能な人は日頃から管理しておくことが重要であり、入院などによって筋肉量の管理が難しい人は栄養管理を徹底的に行うことがその後の回復に必要不可欠であることを意味します。アメリカやヨーロッパでは、新型コロナウイルス患者の治療の最前線とも言われるICUにおいて、管理栄養士の役割が非常に重要であるという話も紹介されており³⁾、いかなる致命的な疾患でも栄養管理が治療における有効手段であることが分かります。

高齢者は特に疾患がなくても筋肉量が減少しやすくなりますが、疾患による栄養状態の悪化及び運動不足が重なると筋肉量の減少に拍車がかかり、疾患がより悪化してしまう悪循環に陥ります。従って、入院治療中の高齢者は静脈経腸栄養療法を含む様々な栄養介入を用いて筋肉量の減少を抑え、栄養状態を維持または改善させる必要があります。食道切除手術を受けた患者を対象にタンパク質を中心とした早期栄養療法を実施した結果、早期栄養療法を受けた患者群は体重及び除脂肪量が維持でき、術後90日の身体機能点数も高く示されるなど、早期回復と予後の好転を報告しました⁴⁾。これは患者の状態を改善することにおいて、適切かつ迅速な栄養供給が大きなメリットであることを示します。

※「COVID-19 Comunicado Técnico Diario」より引用・改変

低い筋肉量以外に、肥満や糖尿病などの生活習慣病の有無も呼吸器疾患の予後と関連しています。メキシコで発表されたCOVID-19の死亡者に関するデータ⁵⁾では、生活習慣病の基礎疾患としても代表的な高血圧・糖尿病・肥満症の疾患を持つ方の割合が高いことが報告されました。これらの疾患は珍しい疾患でもなく、一つでも発症すれば他の疾患が合併症として併発することもあるため、日頃の体調管理が重要です。肥満患者の場合、過剰な脂肪細胞が炎症反応を促進させ、免疫系がうまく働かないようになるため、適切な運動と食事管理で体脂肪量を減少させることが免疫力向上に役立ちます。
※免疫系の詳しい情報はInBodyトピックの「免疫力を高める方法」をご覧ください。


感染しない・感染させない方法

成人の場合、1分間で約12~20回呼吸をします⁶⁾。1日だと約17,300~29,000回呼吸するということになります。この数値は呼吸器疾患の原因となる病原体が侵入できる回数とも言えるでしょう。勿論、感染を避けるために呼吸を止めることはできず、多くの危険にさらされているからこそ、人体の免疫系も様々な方法でしっかりと体を守っています。しかし、どれほど免疫系が強くても防ぎきれない大量の病原体が侵入してきたり、疲労などによって体が少し弱っている隙に侵入してきたりすると防御することが極めて難しくなります。そのため、免疫力を向上しつつ、できる限り病原体が侵入できないようにすることが大事です。では、日常的に可能な呼吸器疾患の予防法を見てみましょう。

➤ 人が密集しているところや密閉空間を避ける

呼吸器疾患の感染経路は飛沫・接触感染が最も一般的です。感染者の飛沫に混ざっていた病原体がしばらく空気中に残り、それらを呼吸によって吸い込み人体への侵入を許してしまうため、換気があまりできていない密閉された室内はなるべく避ける方が良いです。また、外でも多くの人が集まっているところではお互いの距離が近く、飛沫感染の可能性も高くなりやすいので注意が必要です。

もし風邪やインフルエンザに罹った状態で止むを得ず、人が多いところまたは密閉されている空間に滞在しなければいけない場合はマスクを着用しましょう。マスクでウイルスの拡散を完全に遮断できるわけではありませんが、自分の飛沫に混ざっているかもしれないウイルスをばらまくことを防ぐので、他の人にウイルスをうつしてしまう心配は減らすことになります。

家庭内または室内の定期的な換気も予防に有効です。院内感染予防に関する資料によると、約20帖(約33m²)の面積であれば1時間に3回、1回に2~4分程度の換気で十分とされています⁷⁾。もちろん、室内が乾燥していると空気中にウイルスが舞いやすくなるので湿度管理も忘れずに行うことも重要です。室内の湿度は50~60%が望ましいです。

➤ 手洗い

殆どのウイルスは接触での感染が一番多いです。特に、様々なものに触る手は最も細菌が付着しやすい部位です。食中毒の病原体の一つであるノロウイルスに関する発表によると、手を洗っていない時と石けんで2回手洗いをした時を比較したところ、石けんで2回洗ってペーパータオルでふき取った手には殆ど細菌が残っておらず、残存細菌数が明らかに異なっていたことを報告しました⁸⁾。

不特定多数の人が触っていたであろう手すりやつり革、ドアノブなどを触った手で顔を触ることにより、手に付着していたウイルスが体内に侵入する可能性が高まります。従って、手に付着したウイルスを除去することがウイルスの感染率を下げることに繋がります。そして、殆どのウイルスは石けんやアルコール消毒液に含まれている界面活性剤に弱く、呼吸器疾患の病原体も同じなので正しい手洗いとアルコール消毒は感染性呼吸器疾患の予防に効果的です。厚生労働省のホームページでは正しい手洗い方法及び消毒方法を公開しているので、ぜひ実践してみてください⁹⁾¹⁰⁾。

➤ 十分な休養・栄養摂取・水分摂取

これらは殆どの疾患に通用する予防策です。十分な休養は体の免疫機能を向上させ、疾患が発症する前に免疫系が病原体を処理できる状態にします。特に、細胞の修復を含む人体の回復作用は寝ている間に最も活発に行われます。そのため、睡眠不足は免疫力の低下だけでなく、高血圧や糖尿病、心血管疾患などのリスクも高めます。逆に言うと、十分な睡眠を取ることで様々な疾患の発症リスクを下げることができ、体が回復できるようにすることで免疫力の向上にも役立つと言えます¹¹⁾。

十分な栄養摂取は病原体に対抗できる体力をつけるために重要です。また、体は様々な方法で損傷した細胞を回復させますが、疲労が溜まったり栄養が足りなかったりすると回復速度も遅くなってしまいます。どれだけ効果のある薬も、病原体に作用はしても、病気・疾患によって弱った体力までを回復させることはできません。体力が落ちた状態のままでは、新たな病原体の侵入を防ぐこともできません。

適切な水分補給も大事です。感染性呼吸器疾患で共通する症状には発熱があり、発汗・発熱によって脱水状態になりやすく、血液循環も悪くなりやすいです。また、のどの粘膜が乾燥しているとウイルスが付着しやすくなりますが、こまめに水分を補給することで脱水と粘膜の乾燥を防ぐことができます。

一番大事なことは病気にならないようにすることですが、ウイルスの侵入を100%防ぐことは難しいので、病気になっても回復できるような状態を心掛けることが重要です。つまり、十分な休養と栄養摂取を欠かさずに、免疫力を高めることが必要というのは間違いないでしょう。


終わりに

呼吸は生命維持に欠かせない活動です。そのため、呼吸器疾患は誰にでも感染するリスクがあり、一旦感染してしまうと周囲の人間を感染させてしまうことにも繋がります。また、有効な治療法がない場合も多いですが、日常的にできる予防方法を行うことで感染することも、感染させることも減らせます。

COVID-19の流行で全世界が深刻な状況に陥っています。このことをきっかけに、感染症の予防策を徹底してみてはいかがでしょうか。些細なことのように思われるかもしれませんが、自身と家族、周りの人を守ることに繋がるかもしれません。このトピックの前編を見逃している方は、そちらもご覧ください☞「呼吸器疾患とは Part1: 主な呼吸器疾患」

 

参考文献
1. Muscle Mass Loss Is a Potential Predictor of 90-Day Mortality in Older Adults with Aspiration Pneumonia. Keisuke Maeda, Junji Akagi. J Am Geriatr Soc 2017 Jan;65(1):18-22
2. Impact of Sarcopenia on Survival in Patients Undergoing Living Donor Liver Transplantation. T. Kaido, K. Ogawa et al., American Journal of Transplantation 2013 Jun; 13(6):1549-56
3. 「What are dietitians doing as part of the COVID-19 response?」 BDA The Association of UK Dietitiansホームページ
4. Effect of Early Full-Calorie Nutrition Support Following Esophagectomy: A Randomized Controlled Trial. Wei Wu, Ming Zhong et al., Journal of Parenteral and Enteral Nutrition 2017 Sep;41(7):1146-1154
5. COVID-19 Comunicado Técnico Diario, JUEVES 2 DE ABRIL DE 2020
6. 「呼吸器Q&A」一般社団法人日本呼吸器学会ホームページ
7. 「施設内感染対策相談窓口」日本感染症学会ホームページ
8. 「ノロウイルスによる食中毒の状態と対策について」厚生労働省
9. 「感染症対策」厚生労働省
10.「手洗いで感染症予防」厚生労働省、国立感染症研究所
11. InBody トピック「疲労と回復のメカニズム

呼吸器疾患とは Part1: 主な呼吸器疾患

季節の変わり目や冬に、特に注意する必要がある疾患というと何が思い浮かぶでしょうか? 多くの方は風邪またはインフルエンザと答えるでしょう。風邪は誰でも一回はかかったことのある身近な病気で、個人差はあるものの休養と栄養摂取、そして解熱剤など症状を和らげる薬を併用すれば、すぐに完治するので命に関わるようなことはありません。一方、インフルエンザは風邪と症状は似ているものの高熱を伴い、ひどい場合は肺炎まで悪化してしまう恐れがあり、命を脅かす感染症の一つと言えます。

では、「風邪・インフルエンザ・SARS・MERS・COVID-19」の共通点は何でしょうか? SARS・MERS・COVID-19は世界的に大流行し、多くの死者数を報告している重度の疾患ですが、分類としては風邪やインフルエンザと同じ呼吸器疾患です。今回は誰しも患うリスクがあり、時には命に関わる重病にもなりうる呼吸器疾患についてお話します。


呼吸器とは


呼吸器は酸素を吸い込み、二酸化炭素を吐き出す呼吸に関わる器官を示し、鼻(鼻腔)・咽頭・喉頭・気管・肺が呼吸器に該当します。特に身体活動をしなくても生命維持や臓器の活動時もエネルギーが必要で、酸素は細胞がエネルギーを作る際に使われます。そのため、酸素の供給が十分でないと臓器が機能するために必要なエネルギー産生にも問題が生じ、健康を損なうことに繋がります。

呼吸器は上気道と下気道に分けられます。上気道は鼻から喉頭まで、下気道は気管から肺までです。外部との接触が多い鼻と気管にある毛(繊毛)は、呼吸時に入ってくる細菌や異物が体内に侵入しないよう防ぐ役割をします。ここで防ぎきれなかった病原体は体内に侵入しますが、様々な免疫機能が働きこれらを除去するため、全てが疾患に繋がるものでありません。


代表的な呼吸器疾患

呼吸器疾患は発症の原因と部位によって分類されますが、よく耳にする呼吸器疾患の殆どは感染性呼吸器疾患に該当します。ウイルスが原因となるため、人が集まっているところで感染しやすいのが特徴です。他には気道閉塞性疾患や腫瘍性肺疾患などがあり、COPD(慢性閉塞性肺疾患)と肺がんがそれぞれ該当します。次から代表的な呼吸器疾患をいくつか紹介します。

➤ 風邪

最も一般的な感染性呼吸器疾患です。主に鼻から咽喉にかけて発症することが多いため上気道炎とも言います。鼻腔は頭蓋骨の中で目や耳と繋がっているため、稀に合併症として結膜炎や中耳炎を併発することもあります。感染経路は飛沫感染や接触感染が代表的です。風邪の原因になるウイルスが気道に直接入ることや、病原体が付着したものを触った手で顔を触ることで侵入するので、マスク着用や手洗いが有効な予防策です。症状は鼻づまりや鼻水・くしゃみ・咳・発熱など様々で、期間に差はあるものの殆どは人体の免疫機能によって自然に治ります。風邪の原因となるウイルスはその種類も多く、変種する速度も速いためウイルスに対抗する薬を作ることは不可能と言われています。いわゆる風邪薬は症状を和らげることしかできず、完治するためには体の免疫機能が働いて病原体を除去するしかありません。そのため、休養・栄養・水分摂取で免疫力を高めることが唯一の治療方法です。

➤ インフルエンザ
症状は風邪と似ていますが、原因となるウイルスはインフルエンザウイルスで風邪とは重症度へのリスク(特に高齢者と小児)や治療法が少し異なります。風邪の原因となるウイルスは常に変種するためワクチンを作ることができないのに対し、インフルエンザの原因となるウイルスは大きく3種類で、変種することも少ないためワクチンを作ることができます。感染経路は風邪と同じく飛沫感染が代表的です。主な症状としては高熱・頭痛・筋肉痛があり、合併症としては肺炎やインフルエンザ脳症などがあります。治療法は風邪と同じく休養・栄養・水分摂取が基本ですが、タミフルやイナビルなどの抗インフルエンザ薬を早期投与する方法もあります。インフルエンザの予防接種はインフルエンザの発症を完全に防ぐことはできませんが、発症後の症状を和らげることで患者の体力を維持し、治療を進めやすくします。

➤ 肺炎

主に細菌やウイルスのような病原体の感染により、肺に炎症が起こる疾患です。普段、このような病原体が体に侵入しても人体の免疫機能によって処理されるためすぐ発症するものではありません。しかし、➀高齢者 ➁他の疾患を患っていて免疫力が低下している場合 ➂肺炎の病原体が大量侵入した場合 ➃毒性が強い病原体に初めて感染し、まだ抗体が形成されていない場合、等の条件に該当すると肺炎を発症します。
感染された場所や原因によって市中感染による肺炎と、病院・介護施設で起こる肺炎、誤嚥性肺炎などに分けられます。症状としては発熱・咳・たん・悪寒・息切れ・胸の痛みなどがあり、初期症状は風邪と似ていることから風邪が悪化して肺炎になると誤解されることも多いです。免疫力が低下している高齢者や入院患者には致命的な疾患で、国内の死亡原因の第5位¹⁾でもあります。また、喫煙は肺炎のリスクを高めるため²⁾、予防策として禁煙が進められており、新生児や高齢者に推奨されている予防接種の肺炎球菌ワクチンも効果的です。

➤ COPD (慢性閉塞性肺疾患)

肺に発生する慢性炎症性疾患で、喫煙及び受動喫煙が主な原因として挙げられます。肺がたばこに含まれる有害物質に長時間暴露されることで炎症が発生し、肺胞を中心に肺の構造が変わってしまう疾患で、男性の国内死亡原因の第8位³⁾です。主な症状は咳・たん・呼吸困難などがあり、代表的合併症として肺炎や肺がんがあります。炎症によって気道が狭くなったり詰まったり、弾力が落ちたりするので症状が進行すると呼吸が難しくなり、これによって呼吸仕事量(work of breathing)が増加しますが、これは呼吸に必要なエネルギー量が増加することを意味します。健常者の呼吸に必要な代謝エネルギー量が36~72kcalであることに対し、COPD患者はその10倍以上の430~720kcalと高く⁴⁾、消費エネルギー量も急増します。しかし、摂取エネルギー量が消費エネルギー量より少なくなりやすいため、エネルギー不足状態となり、筋肉や体脂肪が分解されてエネルギー源として使われてしまいます。そのため、COPDが悪化して発症する肺気腫患者の場合、筋肉量と体脂肪量が両方減少するという研究結果もあります⁵⁾。

全世界で流行っているCOVID-19を含めSARS、MERS等は急性呼吸器疾患(症候群)と言われており、病原体はコロナウイルスです。コロナウイルスは風邪の原因となるウイルスでもあるため、初期症状は風邪と似ていますが、毒性が強く肺に転移すると肺炎を引き起こし急激に症状が悪化しやすいです。このように呼吸器疾患はよくかかる軽いものから致命的なものまで様々ですが、どれも本格的に発症する前または発症後の予後を左右するのは体の免疫力です。健康な若年成人より高齢者や小児がインフルエンザの合併症を発症しやすいのも低い免疫力が原因と言えます⁶⁾。

では、次のトピックでは免疫力を高めるための方法とそれに関連する体成分についてお話します。☞「呼吸器疾患とは Part2: 感染症の予防法」

 

参考文献
1. 「平成 30 年(2018) 人口動態統計月報年計(概数)の概況」厚生労働省
2. 喫煙と呼吸器疾患、熊本大学大学院医学薬学研究部 公衆衛生・医療科学、大森久光
3. 「平成30年(2018)人口動態統計(確定数)の概況」厚生労働省
4. 慢性呼吸器疾患の栄養管理 ─COPD の経口栄養療法─、日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 第 20 巻 第 2 号、103~108
5. Extent of Emphysema on HRCT Affects Loss of Fat-free Mass and Fat Mass in COPD, Hiroko Kurosaki et al., Inter Med 48: 41-48, 2009
6. 「インフルエンザにかかったら―治療と予防について」医療法人社団 医新会ホームページ

, ,

妊娠中の体成分モニタリング

お腹の中で子どもを育み、出産に備えて体を整える約10か月の妊娠期間は、体成分が大きく変化する期間でもあります。中には、10kg以上の体重増加を経験した妊婦さんもいらっしゃるでしょう。以前、産後のダイエットについてご紹介しましたが、今回のトピックでは妊娠中の体成分モニタリングについて詳しくお話しします。


妊婦の体重管理の重要性

妊娠中にInBodyを測定しても、安全面で問題ないのか気になる方もいると思いますが、InBodyが体成分を測定するために使用しているBIA法は体に影響を及ぼさない程の微弱な電流を使用しているため、体成分の測定方法の中で最も安全で体に負担のかからない方法として評価されてきました。また、妊娠高血圧症候群・妊娠中毒・妊娠浮腫・妊娠糖尿病など、妊婦を対象にした様々なInBodyを活用した研究が、国内外でも活発に行われています。このように測定の安全性としては問題ありませんが、妊娠期間中は常に体に注意を払う必要があるので、InBody測定は他の検査と同様に、その日の体調や担当医師と相談しながら実施してください。

安定期(妊娠中期)に入り、つわりなどの妊娠初期症状が落ち着いてきた頃、次は体重管理の問題が待っています。厚生労働省は、妊娠中期から後期の妊婦における1週間当たりの体重増加量は「300gから500g」であることが望ましいと、妊娠中の目安となる体重増加量を定めています。従って、体重は週に500g以上増えないよう心掛けましょう。
※妊娠前のBMIが25.0未満であった妊婦に対する目安


妊娠中は、赤ちゃんの成長だけでなく胎盤・羊水・血液・皮下脂肪も増加するので体重が徐々に増加していくのは当たり前ですが、過度な体重増加には様々なリスクがあります。太り過ぎは、妊娠高血圧・妊娠糖尿病・腰痛などの妊娠合併症の原因となります。これらが悪化すると、胎盤の機能低下・流産・早産・胎児の巨大化など、母子ともに危険な状態になってしまいます。また、産道にも体脂肪が付くことで難産の原因となったり、微弱陣痛でお産が長引いたりすることがあります。太り過ぎの妊婦は出産を終えるまでこれだけのリスクを抱えていますが、出産後も体重が戻りにくく妊娠線ができてしまうなどの問題もあります。妊娠発覚から出産直前までの体重増加は7~8kg程度が理想的です。これ以上の体重増加はすべてお母さんの体脂肪です。特に妊娠中に過度な体重増加を指摘された方は、適切な体重管理を心掛ける必要があります。では、一体どのようにして体重管理を行っていけば良いのでしょうか?
※妊娠前のBMIが18~24であった妊婦に対する目安


妊婦の体成分変化 -筋肉量と体脂肪量のバランス-

妊娠期間に大きく変化する体成分は体脂肪量です。体脂肪量は出産日に近づくに連れて増加していきますが、この体脂肪量にはお母さん自身の増加した体脂肪量だけではなく、赤ちゃんの体重・拡大した子宮と乳房・余分な血液・胎盤・羊水が含まれます。なぜなら体内で電流の流れない部分は体脂肪量として測定されるため、電流が上手く通らない羊膜内の重量も体脂肪量として換算されてしまいます。この原理を利用すれば、自身の変化と合わせて赤ちゃん(羊膜内)の成長も予測することができます。先ずは、基準となるデータを妊娠前や妊娠初期に取ることから始めましょう。


体重・筋肉量・体脂肪量の棒グラフの先端を線で結んでみましょう。この形を、標準型(I型)・強靭型(D型)・肥満型/虚弱型(C型)と分けて、体のタイプを一目で確認することができます。上記の例❶では体重と筋肉量が標準で、体脂肪量が少ない標準体重強靭型(D型)と分類できます。


妊娠中期の体成分を妊娠前の体成分と比べてみましょう。上記の例❷では妊娠前の時から体脂肪量が3.2kg増加したことで、棒グラフの先端を結んだ形が真っ直ぐになり、体成分が標準体重健康型(I型)へと推移していることが分かります。部位別体脂肪量を見てみると、増加した体脂肪量の約半分が体幹体脂肪量の増加として現れていることが分かります。羊膜内の重量は体幹体脂肪量として反映されるため、このような結果が見られます。同時期に測定したエコー検査より胎児重量が660gであったことから、羊膜内の重量は胎児重量約0.7kg・胎盤約0.3kg・羊水約0.4kgの合計で、おおよそ1.4kgです¹⁾。つまり、上記の例❷で体幹体脂肪量が1.6kg増えていることは、羊膜内の重量1.4kgとお母さん自身の体幹体脂肪量が0.2kg増えた結果と推測できます。因みに、エコー検査から算出される胎児重量は、胎児頭部の大横径・腹囲・大腿骨頭長などの長さを計測して推定式を用いて算出されます²⁾。筋肉量も妊娠前の❶から1.1kg増えていますが、正常な妊娠では周期を経る毎に体水分量も増えるので³⁾、筋肉量も体水分量に比例して増加しています。このような結果は母子共に経過が順調であることの現れと言えます。


出産後は、体成分が大きく変化するタイミングです。出産直後は赤ちゃん・余分な血液・胎盤・羊水などが体内からなくなり、体重が大きく減ることになります。そして約6週間で子宮の大きさが小さくなり、妊娠前の体重に近づいていきます。上記の例❸は産後10日の時点で測定した体成分ですが、体脂肪量が妊娠前の❶から2.5kg増え、筋肉量は1.4kg減った状態です。筋肉量が大きく減ったことで、体成分が若干の虚弱型(C型)へ推移しつつあることが分かります。体脂肪量も妊娠前の❶よりは大幅に増加していますが、それでも標準値の100%よりは少ない状態なので、妊娠・出産による体脂肪量増加を気にしてダイエットを行う必要は全くありません。出産後は体の回復を第一にして、徐々に筋肉量を増やしていく意識が必要です。この時点で体脂肪量が標準範囲(80%~160%)を大きく外れている妊婦の方は、今後の育児で体調を崩さないために、自身の管理も優先的に行って欲しいです。


上記の例❹は産後半年の時点で測定した体成分ですが、体脂肪量が妊娠前の❶から1.7kg増え、前回測定の❸からは0.8kg減ったことが分かります。筋肉量は妊娠前の❶までは戻ってはいませんが、前回測定の❸からは1.0kgも回復しています。これまでの4回分の体成分を見比べてみると、徐々に妊娠前の体成分に戻りつつあることが分かりますが、授乳中は体脂肪量も必要な体成分なのでこれ以上無理に減らす必要はありません。上記の例❹では、体脂肪量を減らすことよりも、筋肉へのアプローチを継続して筋肉量を妊娠前の❶の状態まで戻すことが大切です。
※出産後でも実施しやすい具体的な運動例は、InBodyトピックの「出産後に体型を戻す方法」を参考にしてください。


妊婦の体成分変化 -体水分のモニタリング-

妊娠時は胎盤で血糖値を上げやすいホルモンなどが分泌されるため、妊娠中期以後はインスリンが効きにくい状態になり、血糖値が上昇しやすくなります。妊娠中に血糖値が高いと、母体では妊娠高血圧症候群や羊水過多症になりやすく、胎児では巨大児や新生児の低血糖などの影響が出てきます。妊娠正常群では妊娠周期を経る毎に体水分量・細胞内水分量・細胞外水分量が増加していきますが、妊娠高血圧症候群では全てが段々減少していく傾向が確認できます。妊娠初期に測定した体水分の増加・減少傾向をモニタリングすることで、妊娠高血圧症候群の可能性を事前に把握できます³⁾。


妊娠中は赤ちゃんに栄養を行き渡らせるために通常よりも血液量が増加していますが、同時にエストロゲンやアルドステロンというホルモンの増加によって、末梢血管透過性が亢進され細胞外に水分が溜まりやすくなっています。つまり、体水分量・細胞内水分量・細胞外水分量が増加していく中で、特に細胞外水分量の増加が目立つ形で細胞外水分比(ECW/TBW)も上がっていきます。体水分量(TBW)に対する細胞外水分量(ECW)の割合であるECW/TBWは、体の水分均衡を表す指標として世界的に広く使用されており、その標準範囲は0.360~0.400で、健常人は0.380前後の一定な数値を維持します。InBodyではECW/TBWが0.400以上なら高いと評価します。健常人でも重力の影響で夕方以降にむくむ人もいますが、妊婦は体内の血液と水分バランスが崩れやすくむくみやすい体質なので、よりむくみの管理が求められます。


妊娠中は、大きくなった子宮が静脈やリンパ管を圧迫するため、むくみが起こりやすい状態です。 朝よりも夕方や夜にむくみを感じる場合が多いですが、朝から下肢がむくんでいるときは注意が必要です。さらに手や顔、全身に現れるむくみや、1週間に500g以上の体重増加を認めるむくみなどは妊娠高血圧症候群の予備軍として危険視されています。正常妊娠では、体水分量・細胞内水分量・細胞外水分量が増加していく中で細胞外水分比も増加しますが、妊娠高血圧症候群では逆に、体水分量・細胞内水分量・細胞外水分量が減少する中で細胞外水分比が増加します。また、細胞外水分比の増加幅も正常妊娠のケースより大きく、明らかな違いが見られます。


最後に

出産に向けての約10か月間は体成分が大きく変化しますが、そのときの変化はどのような変化だったでしょうか。母子共に健康な証である変化だったでしょうか。それとも、妊娠合併症などの、状態が悪くなっているサインである変化だったでしょうか。妊娠中は、吐き気・眠気・便秘・下肢浮腫・頭痛・動悸・腰痛など様々な不調が現れ、出産に対する不安や恐れから情緒不安定になる方も少なくありません。このような状態でも、お母さんは母子共に無事出産を乗り越えるために、自身の健康と体重管理を頑張っています。頑張っていても、思うように体重管理が上手くコントロールできていないかもしれません。自分の状態を理解していても、出産に対する恐怖が先行してしまうかもしれません。


そのとき先ずは、家族の方が一緒になって、現状について知ってください。妊婦健診を一緒に受けてみることも良い方法です。毎週どれだけ体重が増加しているのかも気にしてみてください。また、医師から体重の過度な増加を指摘されている時は、家族が一緒になって食事の改善や適度な運動を行ってみてください。InBodyも家族の一員となって、妊娠期間の健康や体重管理のために、少しでも役立てることを願っています。

 

参考文献
1. 胎児の発育とその異常. 荒木勤, 日医大誌第51巻第1号, 1984
2.「推定胎児体重と胎児発育曲線」保健指導マニュアル 厚生労働科学研究成果
3. Multifrequency bioelectrical impedance analysis in women with a normal and hypertensive pregnancy. Herbert Valensie, et, al., Am J Clin Nutr 2000; 72: 780-3.
4. InBodyトピック「出産後に体型を戻す方法

,

水は飲めば飲むほどいいのか?

運動中にも十分な水分補給が必要という話を聞いたことはありますか? のどが渇く前に水を飲んだ方がいいという話はどうでしょうか? 水分補給に関しては様々な意見がありますが、汗で失った水分を適切に補給することが重要なことは間違いありません。水は人体の機能が正常に作用するために必要不可欠であり、何らかの理由で水分を失ったのであれば必ず補給しなければなりません。


では、逆に水を「飲みすぎる」ことはどうでしょうか? 健康に問題はないでしょうか? 答えは「飲みすぎは問題になる」です。水を飲みすぎると体内のナトリウムをはじめとした各成分が希釈され、命の危険をもたらすほど血中濃度が低くなり、体内の電解質均衡が崩れます。電解質異常は深刻な症状に繋がることもあります。まずは、水分摂取量が適切でないと、どういう問題が生じるのかを説明します。


適切な飲水量はどれくらい?


詳しい説明の前に、水と人体はどういう関係かを見てみましょう。まず、食べ物や空気と同じく、水は生命維持に関連する重要な要素です。人体の約60%は水であると言われており、人体を構成する必要な成分と言えます。水は体温の維持に役立ち、血液として栄養素を運び、老廃物を尿の形で排出し、内臓にある程度溜まっていることで詰め物のような役割をします。水は人体に細胞単位から関与しているため、水を十分に摂取しないと1日も経たないうちに、致命的なダメージを受けてしまう恐れがあります。水が足りないと人体は脱水状態に陥ります。軽い脱水でも疲労感や認知機能・運動能力の低下等の症状が現れます。そして、深刻な脱水になると死に至ることもあります。

アメリカで行われた研究を基にした一般健常者の1日推奨水分摂取量は、男性約3.7L・女性約2.7Lです¹⁾。しかし、この水分摂取量は普通に生活する一般人における推奨量であり、アスリートや定期的に運動をする方の場合、または暑くて湿度が高い天気の場合は推奨量も増えます。また、妊婦や授乳中の女性はより多くの水分摂取が必要となります²⁾。
※脱水についてもう少し詳しく知りたい方はInBodyトピックの「脱水時に必要な飲み物は? 」もご覧ください。


水を飲みすぎるとどうなるのか?

2003年、64歳の女性が自宅で死亡しました。死亡前日、女性は30~40杯ほどの水を飲み、何度も嘔吐しました。女性は徐々に方向感覚を失い、痛みを訴え、水を十分飲めていないと叫び始めました。女性は医師の診断も拒み、横になって寝ているうちに死亡しました。女性には既往歴がなかったため、死亡6時間後に死体解剖が行われました。血液毒物学的な観点から様々な原因が除外されたあと、最終的に見い出された死因は「急性水中毒による血中ナトリウム濃度の低下(低ナトリウム血症)」でした³⁾。低ナトリウム血症とは血中のナトリウム濃度が低い状態を意味し、最も頻繁に見かける電解質異常症です。低ナトリウム血症の診断基準は血中ナトリウム濃度<136mmol/Lと定められています。


また、長距離トライアスロン選手を対象にした研究もあります⁴⁾。この研究ではニュージーランドのトライアスロン選手330名のうち58名が、競技終了時の血液検査から低ナトリウム血症を発症していると診断されました。58名中医師の診察を受けた18名は、重度の低ナトリウム血症と診断され、深刻な症状が現れていました。研究結果によると、長距離運動選手において低ナトリウム血症はよく見かける状態であり、無症状の選手も多いことが分かりました。また、運動選手の深刻な低ナトリウム血症の約73%は、体液過剰が原因として挙げられています。他にも水分摂取に関する多くの研究がありますが、結論はどれも同じで、あまりにも水を飲みすぎるとかえって健康に悪影響を及ぼすということが示されています。


なぜ問題が起こるのか?

なぜ水を飲みすぎると、最悪の場合、命を落とすほど健康を損なうのでしょうか? その理由を理解するため、人体がどのように水と塩分(ナトリウム)、そして老廃物を扱っているのかを確認する必要があります。

臓器の中でも腎臓はフィルタのような役割をします。血液は腎動脈を経由して腎臓に流れ込みます。腎臓に入った血液から過剰な体液と老廃物が腎小体と細尿管で構成されたネフロンでろ過されます。ろ過される老廃物の中には塩分も含まれていますが、人体が必要とするものは再吸収され、残りは尿管に送られて尿として排出されます。しかし、水を飲みすぎると腎臓のろ過機能に過剰な負担をかけることになります。そうなると人体には、うまくろ過されなかった過剰な体液と老廃物が滞留されたままになり、低ナトリウム血症の原因となります。また、既に腎機能に問題があった場合は、より状態が悪化する恐れもあります。


水中毒


水分や老廃物を除去する腎機能に負担がかかりすぎると、上述した64歳女性の死因でもあった “水中毒” に発展する恐れがあります。水中毒と呼ばれる状態は電解質不均衡が原因であり、低ナトリウム血症を引き起こします。血中ナトリウム濃度が急激に低下すると、次のような症状が現れます。

・初期症状: 混乱、方向感覚の喪失、吐き気、嘔吐を含む精神状態の変化、または精神異常
・後期症状: 初期症状を放置すると発作、意識不明、最終的には死亡


低ナトリウム血症の種類

低ナトリウム血症はナトリウム摂取量の不足だけが原因ではありません。これは水分摂取量に比べナトリウム摂取量が少ないパターンです。低ナトリウム血症には3つのタイプがあり、それぞれ異なる原因で発症します。

1. 細胞外液量正常型の低ナトリウム血症 (Euvolemic hyponatremia)
希釈性低ナトリウム血症とも言われる症状で、水をたくさん飲みすぎることで生じる症状はこちらに該当します。一般的には多飲症(polydipsia)やその他の原因で水を飲みすぎると発生します。代表的な治療方法は原因となる疾患(糖尿病、精神疾患、脳損傷)を治療することです。

2. 細胞外液量増加型の低ナトリウム血症 (Hypervolemic hyponatremia)
このタイプの低ナトリウム血症は水分とナトリウムが同時に増加しているものの、相対的に水分増加量がナトリウム増加量を上回るときに発症します。心不全や肝硬変などの疾患による浮腫で体液貯留が生じると発生することが多いです。治療方法としては水分摂取量の制限と利尿剤を使用して強制的に水分を排出する方法があります。

3. 細胞外液量減少型の低ナトリウム血症 (Hypovolemic hyponatremia)
細胞外液量増加型とは逆に、細胞外液量減少型の低ナトリウム血症は水分とナトリウムが同時に減少しているものの、相対的にナトリウム減少量が水分減少量を上回るときに発症します。このタイプの低ナトリウム血症はナトリウムを含んでいる体液の損失によって起こり、嘔吐や下痢による体液損失が代表的な原因です。また、利尿剤や腎疾患によっても発症します。治療は重症度によって異なりますが、0.9%濃度の生理食塩水などの電解質を投与して失った水分とナトリウムの交換を行う必要があります。


適量の水を摂取するために

ここまで過剰な水分摂取で起こりうる問題についてお話しました。では、どうすれば適切な量の水を飲むことができるのでしょうか? 次に、過剰な水分摂取を避けるために実践すると良い方法をいくつかご紹介します。


1. のどが渇いてから水を飲む


体は水分が足りないときに適切に反応します。そのため、のどが渇いてから水を飲み、渇く前には飲まないようにしましょう。殆ど座って生活する場合は推奨水分摂取量に従って水を飲み、活動量が多い場合は推奨量よりは多めに水を飲んでください。のどがいつ渇くのかを記録することも良いかもしれません。


2. 1時間にどれほど汗をかいているか推定する


これは少し複雑な方法ですが、暑くて湿度の高い日に外で運動する時や、競技スポーツをするときに試してみると良い方法です。まず、運動前に体重を測り、運動中にのどが渇いたら水を飲んで、運動が終わってまた体重を測ります。そして、運動中にどれほど水を飲んだのかも確認しておきます。

理想は運動前後の体重が同じか、運動後の体重減少量がわずかな状態です。必要以上に水分を摂取していれば、体重は増加するはずです。この方法からどれほど汗をかいていたか、どれほど水を飲めばいいのかを推定できます。


3. 飲み過ぎないように注意する


最も簡単な方法はこれです。のどの渇きが解消されたらそれ以上飲まないようにしましょう。それ以上飲むと吐き気や嘔吐など、水中毒の症状を経験することになるかもしれません。だからといって全く水を飲まなくていい、ということではありません。のどが渇いてなければそれ以上飲まないということです。

必要な量の水分を摂取できているかを見分ける簡単な方法があります。のどが渇く頻度が少なかったり、尿の色が透明または薄い黄色をしていたりすると水分摂取量が足りていると判断していいでしょう。尿のカラーチャートはInBodyトピックの「脱水時に必要な飲み物は? 」内で確認できます。


正しく水分を摂取するために

「過ぎたるは猶及ばざるが如し」といいます。水も同じで、摂取量が少なすぎても多すぎても健康に悪影響を及ぼします。しかし、体が送る信号に従って水を飲む量やタイミングを調整するだけでこれらの問題は解決できるでしょう。適量の水を飲んでいるか、今一度確認してみてください。

 

参考文献
1. Dietary Reference Intakes for Water, Potassium, Sodium, Chloride, and Sulfate, The National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine
2. Hydration for Pregnancy and Motherhood, Emma Derbyshire, Pregnancy and Motherhood May 2016
3. Fatal water intoxication, D.J. Farrell and L. Bower, J Clin Pathol. 2003 Oct; 56(10): 803–804
4. Hyponatremia in ultradistance triathletes. Speedy DB, Noakes TD, et. al., Medicine and Science in Sports and Exercise, 01 Jun 1999, 31(6):809-815

,

免疫力を高める方法

インフルエンザが流行っても全く影響がない人がいれば、数日間高熱を出しながらベッドから一歩も動けない人もいます。また、よく風邪をひく人もいれば、年に数回軽い症状だけですぐ治る人もいます。このような違いは、免疫力の差によって生じると言われています。ウイルスに感染すると、人体はすぐに進入を防ぐための防御体制に入ります。免疫系はこの防御体制の最前列に立ち、体を守る役割をします。この防御体制は常に様々な菌やウイルスから体を守ろうと働いています。

人体の防御体制は体を守り、健康を維持できるように長い年月を経て進化してきました。様々な菌が身の回りの至るところにあり、体内に侵入してしまうこともありますが、私たちは何事もなく生活できています。このように、健康を維持するためには最前線でウイルスと戦う免疫系を強化することが重要です。今回のトピックでは、免疫力を高めるために役立つ方法をご紹介します。


人体の免疫系とは


免疫系は健康を維持するための必須要素で、様々な細胞が密接に連携している複雑なシステムです。免疫系の主な役割は、様々な病原体が体内に侵入して恒常性を乱そうとするときにこれらを中和して有害な要素を排除すること、つまり疾患の原因になる細胞と戦うことです。免疫系は大きく自然免疫(先天性免疫、基本免疫)と獲得免疫(後天性免疫、適応免疫)に分けられます¹⁾。

ウイルスや細菌が体内に侵入するときに初めて当たる防御体制は、皮膚や粘膜などの細胞上皮です。細胞上皮は機械的(多重構造の物理的防御壁)・科学的(分泌液や胃液などの化学物質での防御)・生物学的(腸内細菌などの体内微生物による防御)方法で病原体を排除します。細胞上皮を突破した病原体が体内まで侵入すると、次に自然免疫系と対峙します。自然免疫系ではマクロファージや好中球などの食細胞を中心に病原体を排除します。より確実に病原体を排除するために、獲得免疫系が抗体を形成する際に必要な情報を記憶します。白血球の一種であるT細胞やB細胞などは一度進入した病原体の情報をマクロファージや樹状細胞から受け取り、記憶しておいたあと、病原体に感染された細胞を殺すことで迅速にウイルスを排除します。

このように、免疫系は様々な細胞と密接に連携して適応・進化することで健康を守っています。免疫系を強化して更に健康を維持しやすくするためには、どのような日常的行動があるのでしょうか。


免疫力を高めるための7つの方法


1.禁煙


喫煙が体に及ぼす悪影響については言うまでもないでしょう。喫煙は免疫系を損傷させるだけでなく心血管疾患・自己免疫機能損傷・呼吸器疾患・神経疾患とも関連します²⁾。喫煙と関連する疾患の症状としては息切れ・長引く咳・頻繁な風邪等が挙げられます。特に喫煙で吸い込むニコチンは樹状細胞などの獲得免疫細胞の免疫監視機能に影響を及ぼすことで、免疫抑制剤のような働きをして免疫系の活動を鈍らせます³⁾。つまり、たばこを吸うことは免疫系の働きを邪魔することと同じと言えるでしょう。


2.適量の飲酒


祝い事や記念日など、楽しい時間にお酒は欠かせないでしょう。適量のお酒を嗜むことはストレスを軽減させることもでき、雰囲気を楽しむには良いかもしれませんが、飲みすぎると免疫系を損傷させます。アルコールは肝臓を含む臓器損傷の因子でもあり、体の回復速度を遅らせます。厚生労働省で発表したアルコール摂取適量は一日約20g(純粋なアルコールの量)で、濃度5%のビール500mlほどです⁴⁾。適量以上のアルコール摂取は必須免疫経路を邪魔し、感染に対する身体の防御能力を低下させます⁵⁾。また、アルコールに関わる免疫系障害は特定のがんの発病率を高める可能性があります。このような問題は慢性的にアルコールを摂取する人に限られているわけではなく、一時的な暴飲も防御機能には重大な損傷を及ぼす恐れがあります。


3.ストレスを減らす


慢性ストレスは毒のようなものです。ストレスは健康に関する全ての要素に悪影響を及ぼします。更に、意識できないストレスが徐々に体を蝕んでいくことも危険です。様々な身体システムの中で体の辛い状態をコントロールするのが免疫系です。特に、免疫系の細胞はコルチゾールのようなストレスホルモンを認識する受容体を持っています⁶⁾。

急なストレスは血液内の炎症性因子であるサイトカインの濃度を高め、免疫系を乱します⁶⁾。ストレス・抗体・疾患はお互いに密接しており、これらの関係はライフステージ・環境・目標・ストレスを感じた期間・十分な睡眠のような因子によって左右されます。従って、健康を維持するためには友達や家族と一緒に楽しい時間を過ごしたり、適切な運動や趣味を楽しむことで、ストレスを緩和させたりすることが効果的です。


4.十分な睡眠


睡眠は免疫プロセスを整える心強いコーディネーターであり、獲得免疫にかかわる細胞の記憶能力を向上させます⁷⁾。適切な睡眠をとらないと、風邪やインフルエンザなどの感染リスクが高くなるだけではなく、ウイルスや細菌の感染からの回復速度も遅らせてしまいます。睡眠中に免疫系が強化され、有害要素をフィルタリングする役割を持つ免疫器官であるリンパ節にT細胞を移動させます⁷⁾。T細胞は体に炎症反応があるときやストレスを感じるときに作用するサイトカインを生成しますが、睡眠時間が足りないとサイトカイン生成量が減り、免疫系は更に損傷されます。十分な睡眠はひどい風邪にも良い薬と言えるでしょう。


5.定期的な運動習慣


定期的な運動習慣は免疫機能を向上させ、外部感染からの防御機能を強化させることが様々な研究から明らかになっています⁸⁾⁹⁾。筋トレを行い、筋肉量を増やすことで、免疫系が疾患と戦うために必要なタンパク質量を増加させることに繋がります¹⁰⁾。簡単にいえば、健康的な食事と定期的な運動を行って筋肉量が増えると、免疫系が疾患と戦って健康を守ることに役立ちます。逆に、あまり運動をしないで筋肉量が落ちてしまうと病原菌やウイルスから体を守ることが難しくなるでしょう。

できれば室外で運動することもお勧めします。室外での運動は、ストレス解消はもちろん、ビタミンDの生成にも良い効果をもたらします。ビタミンDは日光を浴びることで体内から作られるもので、多くの研究で骨の健康を守るだけではなく、免疫力を高める効果や糖尿病・高血圧・心疾患のような疾患のリスクを下げる効果も示されています¹¹⁾。そのため、天気がいい日には外で日光を浴びながら運動をするのも良いでしょう。もちろん、紫外線対策はしっかり行ってください。

加齢に伴い身体の様々な能力は低下していきますが、免疫力も例外ではありません。しかし、高齢者において定期的な身体活動は加齢の影響を抑え、感染や疾患に対する免疫機能を強化するという研究結果もあります¹²⁾。


6.健康的な食事


体は適切に機能するためにエネルギーを必要とします。このエネルギーは食事を取るとカロリーという形で体に提供されます。エネルギー摂取が足りないことは、微量栄養素欠乏及び免疫系と主要身体機能損傷の原因となります。世界的に、栄養不良は免疫欠乏の最も大きい原因として挙げられています¹³⁾。食事はとても大事です。食事の取り方次第で、健康を維持するために必要な化学経路が作られることもあれば、破壊されることもあります。栄養が豊富な食事を取ることは、免疫系を強化させ健康維持に貢献します。

特定栄養素の欠乏・過度な食事制限・栄養不良は、フリーラジカルを過剰に生成させ、感染に対する免疫細胞を損傷させる恐れがあります。ビタミンやミネラルなど適切な栄養分を摂取し、時間をかけて改善していくことが重要になります。緑黄色野菜やポリフェノールが豊富に含まれている食品には、フリーラジカルによる酸化作用を打ち消す抗酸化物質が含まれています。

フィトケミカル(phytonutrients)と呼ばれる植物由来の化学物質も免疫系強化に重要な役割をします。ポリフェノール・フラボノイド・イソフラボン・カロチノイド・植物性エストロゲン等、一部のフィトケミカル成分は免疫力を高める効果を持っています。フィトケミカルの摂取は健康増進だけではなく、がんや心血管疾患・神経変性疾患・糖尿病・炎症性疾患のような慢性疾患の予防にも役立ちます¹⁴⁾。

このようにビタミン・ミネラル・主要アミノ酸を含むタンパク質等をバランスよく摂取することで感染抵抗力を高めます。もし食事だけで必要な栄養分を摂取することが難しいのであれば、総合ビタミン剤やサプリメントで補うことも良いでしょう。


7.適切な体脂肪率の維持


過剰なエネルギー摂取は炎症性疾患及び自己免疫疾患のリスクを高めると報告した研究もあります¹⁵⁾。健康体の理想的な体脂肪率は、男性10~20%・女性18~28%の間です。体脂肪率が高すぎると、免疫反応の調節が上手くいかなくなってしまう恐れがあります。

怪我をするとその部位が赤くなり、少し熱くなる経験をしたことがあると思います。発赤・疼痛・熱感・腫れは炎症の代表的な兆候です。炎症は傷害や感染を受けた細胞が分泌するサイトカインによって生じる反応です。つまり、炎症は病原体が体内に侵入されてきたことを免疫系に伝えて、病原体の排除と修復を促すことで健康を維持できるようにしています。しかし、過剰な体脂肪によって炎症反応が促進されると、免疫系はそちらの解決を優先に動くため、他の病原体から体を守ることが疎かになります。この場合、解決方法は簡単です。体成分を改善させることで過剰な体脂肪の悪影響を除去することです。内臓脂肪を含む過剰な体脂肪量を減らすことで、免疫系を過度に活性化させる炎症性因子を減らせます。そうすると、過剰に放出されていた血液内の免疫細胞の循環も徐々に少なくなり、免疫系の混乱を抑えることができます。正常な免疫系は疾患から体を守りますが、免疫系が過度に活性化されると身体の炎症反応を促進する免疫細胞の数が増えてしまい、反応が鈍くなってしまいます。

もちろん、体成分を改善させることは体脂肪量を減らすだけではありません。運動と食事で体脂肪量を減らしつつ、筋肉量を増やすことで免疫機能を強化することができ、長期的な健康維持に繋がります。


免疫系の健康を維持するために

人体の免疫系は健康を守り、恒常性を保つために休むことなく動いています。このような免疫系の働きをより良くするために、できることから実行してみてはいかがでしょうか。一気に全てを変えることは難しいと思うかもしれませんし、やっていてもすぐには実感できないかもしれません。しかし、次に季節の変わり目を迎えたときにあまり風邪を引かなくなったり、風邪を引いても以前より楽になったり、早く治るようになったりというような、体調の僅かな変化からも免疫系の向上を実感できるでしょう。

 

参考文献
1. Overview of the Immune Response, David D. Chaplin, J Allergy Clin Immunol. 2010 February;125(2 Suppl 2): S3–23.
2. Impacts of cigarette smoking on immune responsiveness: Up and down or upside down?, Feifei Qiu, Chun-Ling Liang, et, al., Oncotarget. 2017 Jan 3; 8(1): 268–284.
3. Evidence for the immunosuppressive role of nicotine on human dendritic cell functions, Mahyar Nouri-Shirazi and Elisabeth Guinet, Immunology. 2003 Jul; 109(3): 365–373
4. 「健康日本21」厚生労働省
5. Impact of Alcohol Abuse on the Adaptive Immune System, Sumana Pasala, Tasha Barr, and Ilhem Messaoudi, Alcohol Res. 2015; 37(2): 185–197
6. Current Directions in Stress and Human Immune Function, Jennifer N. Morey, et, al., Curr Opin Psychol. 2015 Oct 1; 5: 13–17.
7. Sleep and immune function, Luciana Besedovsky, et, al., Pflugers Arch. 2012 Jan; 463(1): 121–137
8. Exercise and the immune system, Brolinson PG, Elliott D., Clin Sports Med. 2007 Jul;26(3):311-9
9. Cancer, Physical Activity, and Exercise, Justin C. Brown, et, al., Compr Physiol. 2012 October ; 2(4): 2775–2809
10. The underappreciated role of muscle in health and disease, Wolfe RR, Am J Clin Nutr. 2006 Sep;84(3):475-82
11. Vitamin D and the Immune System, Cynthia Aranow, J Investig Med. 2011 Aug; 59(6): 881–886
12. Exercise and the aging immune system, Simpson RJ, et, al., Ageing Res Rev. 2012 Jul;11(3):404-20
13. Nutrition and the immune system: an introduction, Chandra RK, Am J Clin Nutr. 1997 Aug;66(2):460S-463S
14. Phytonutrients as therapeutic agents, Gupta C, Prakash D, J Complement Integr Med. 2014 Sep;11(3):151-69
15. Fat: A matter of disturbance for the immune system, Alessandro Federico et, al., World J Gastroenterol. 2010 Oct 14; 16(38): 4762–4772
16. InBodyトピック「InBody S10 -何ができて誰に必要なのか-

,

HIIT -現代人向けの時短トレーニング法-

HIIT(ヒット、High-Intensity Interval Training)というトレーニング法をご存じでしょうか。
日本語では高強度インターバルトレーニングと表し、短時間の激しい運動を繰り返し行うことで大きくエネルギーを消費するトレーニング法です。 “定期的かつ適切な運動は、健康であり続けるために重要” と分かってはいても、実際に運動する時間を確保することは、仕事や家事、育児など日々時間に追われている現代人にとって至難の業となっています。そんな現代人にお勧めしたいトレーニング法がこのHIITです。毎日たった数分運動するだけで、何十分も運動を行ったことと同様の効果が得られます。今回はこのHIITについてお話ししていきます。


HIITとは?

「全力の運動を反復して行う」という運動は心肺機能を高めるために昔から行われていましたが、科学的な根拠はなく、これまでの経験則によるものでした。少しずつ研究は行われていましたが、1990年代に日本でスピードスケート選手のトレーニング法として科学的に取り入れられてから¹⁾、世界的に注目されるようになっており、関連研究の発表も増えています。HIITは20秒~数分間の激しい運動とそれより短い時間での休息や軽い運動を繰り返し行います。激しい運動・軽い運動の内容はダッシュ運動やジョギング、筋トレ、ジムで用いられるエアロバイクなど様々です。ここでは、いくつかHIITのトレーニング例をご紹介します。
➤ (全力自転車エルゴメーター20秒+休息10秒)×8セット
全力(最大酸素摂取量の170%にあたる強度)で自転車エルゴメーターを20秒間行い、休息は10秒と短めに取ります。これを1セットとして、最低8セットは繰り返し行います。セット間の休息は取らずに、連続で8セット行います¹⁾。
➤ (全力ダッシュ4分+ジョギング3分)×4セット
全力(最大心拍数の90-95%の強度)でのダッシュ4分と、最大心拍数70%程の強度でジョギングを3分間行います。これを1セットとして、セット間休憩は入れずに4セット繰り返します²⁾。
➤ (水泳自由形全力100m+休息20秒)×8セット×2回
全力で100mの自由型と休息20秒を1セットとします。セット間休憩は入れずに8セット繰り返します。8セット行った後、2分間の休息を取り、同じ8セットをもう1回行います³⁾。

他にも腕立て伏せやスクワット、腹筋など、自分の好きな運動にHIITを取り入れることができます。いずれの運動でも重要なのは、激しい運動を行う際は手を抜かずに自分が出せる力を出し切る点です。短時間で行える分、いかに自分を追い込むことができるかで得られる効果が大きく変わってきます。


HIITが身体に与える効果

➤ 筋肉
有酸素運動と無酸素運動を組み合わせているため、筋肥大だけでなく筋持久力も上がります。これまでは目標に応じてトレーニングの強度や回数を調整する必要がありましたが、HIITを行うことで有酸素運動と無酸素運動を一緒に行うことができます。運動時間を短くすることができるだけでなく、行う運動の種類も減らすことができます。
➤ 最大酸素摂取量(VO₂max、単位:ml/kg/min)
最大酸素摂取量とは、1分間に体重1kgあたり取り込むことができる酸素の量です。私たちは体内で糖や脂質を分解してエネルギーを作り出す際、酸素を利用しています。VO₂maxが増加することで体内に取り込むことができる酸素の量が増え、運動強度が高くなっても、長時間運動できるように耐性が付くことから全身持久力の指標としても用いられます。脂質の分解にも酸素が使われることから、脂肪燃焼効率も上がります。HIITを行うことで持久力が上がるだけでなく、脂肪が燃えやすい身体になっていきます。また、前項のように、運動強度を決める指標としても用いられます。
➤ 体脂肪
HIITは内臓脂肪だけでなく皮下脂肪も燃焼するとの報告があります⁴⁾。皮下脂肪は皮膚のすぐ下に付いている脂肪で、内臓脂肪は内臓や腸の周りに付いている脂肪を指します。女性は皮下脂肪が多く、男性は内臓脂肪が多い傾向があります。体脂肪が落ちるとき、内臓脂肪→皮下脂肪の順で体脂肪は落ちていきます。最初に内臓脂肪が落ちていくことから、トレーニングを始めてもすぐに体型は大きく変わらず、本当に効果があるのか疑心暗鬼になってしまいますが、継続して行うことで皮下脂肪も落ち始め、体型に変化が起こってきます。InBody570・470・270では体脂肪量以外にも内臓脂肪レベルで内臓脂肪量を推定することができます。

内臓脂肪レベルは推定された内臓脂肪断面積の1桁を切り捨てて、レベルとして表した値です(ex.内臓脂肪レベル7=70~79cm²、15=150~159cm²)。肥満診断で、内臓脂肪断面積≧100cm²が肥満として診断されることから、内臓脂肪レベルは10以下を維持することを目指します。このように、体脂肪量と内臓脂肪レベルの減少からもトレーニング効果や進捗度合い、健康状態を確認することができます。定期的に測定することで自分の身体の変化を楽しみながら、HIITに取り組むと良いでしょう。体成分の変化を追うには2~4週間毎に測定を行うことを推奨します。


リハビリにおけるHIIT

現在、HIITはプロアスリートのトレーニングだけでなく、リハビリの現場でも用いられています。病気や事故から日常生活に戻れるようリハビリを行う際に、このHIITを応用したトレーニングが用いられます。リハビリとして行われるHIITはプロアスリートが行うような激しい運動ではなく、徒歩や階段の昇降といった日常の動作です。日常の簡単な動作でも、リハビリを行う患者にとっては十分強度の高い運動となります。ノルウェーで行われた研究⁵⁾では安定した冠動脈疾患患者において、トレッドミル上でHIIT(VO₂peakの80-90%強度の歩行)と従来の中程度の持続運動(VO₂peakの50-60%強度の歩行)をそれぞれ行うと、VO₂peakの改善率が、従来の中程度の持続運動よりもHIITの方が約10%有意に高くなったことを報告しました。
※VO₂peak…最高酸素摂取量のこと。最大酸素摂取量(VO₂max)は酸素摂取量の理想値を示すのに対し、最高酸素摂取量は酸素摂取量の実測値の最大値を示します。

日本国内では患者の安全性が指摘されており、実際にHIITをリハビリに導入している施設はとても少ないです。しかし、欧米では長期にわたるHIITのリハビリ効果や安全性に関する研究が進められており、今後、日本でも導入例が増えてくるかもしれません。ここで注意すべき点は、高強度というのは絶対強度ではなく相対強度であるという点です。リハビリを行う患者にとって、無理のない範囲で運動を行えるよう、適切な運動強度を設定することはとても重要です。
また、苦しいリハビリは何かしらの目標がないと継続するモチベーションを維持することができません。InBodyで測定した各部位の筋肉量や基礎代謝量といった数値の改善を、リハビリのモチベーションに繋げることができます。実際にInBodyを、リハビリの評価や動機づけとして使っている施設や企業はたくさんあります。
※リハビリの評価として活用している企業の一つを取材した「活用事例:取材 ツクイ~要介護高齢者向けの機能訓練の尺度~」もご覧ください。


終わりに

HIITは勿論のこと、トレーニングで効果を上げる最善の方法はトレーニングを習慣づけることです。せっかく始めたトレーニングも継続的に行わなければ効果を得ることはできません。習慣づけを断念する大きな要因の一つが、トレーニングに時間を多く取られてしまうということだと思います。短時間で行えるHIITは習慣づけのハードルを下げ、日々のちょっとした時間に行うだけで十分トレーニング効果が期待できます。

 

参考文献
1. Effects of moderate intensity-endurance and high intensity-intermittent training on anaerobic capacity and VO2max, Tabata I. Nishimura K. Kouzaki M. Hirai Y. Ogita F. Miyachi M. Yamamoto K., Med Sci Sports Exerc(1996)28: 1327–1330
2. Aerobic High-Intensity Intervals Improve V˙O2max More Than Moderate Training, Helgerud J. Høydal K. Wang E. Karlsen T. Berg P. Bjerkaas M. Simonsen T. Helgesen C. Hjorth N. Bach R. Hoff J, Med Sci Sports Exerc(2007)39(4): 665-671.
3. Concurrent Strength and Interval Endurance Training in Elite Water Polo Players, Petros G. Botonis, Argyris G. Toubekis, Theodoros I. Platanou, The Journal of Strength & Conditioning Research(2016)30(1): 126–133
4. High-Intensity Intermittent Exercise and Fat Loss, Boutcher SH., Hindawi Publishing Corporation Journal of Obesity(2011) 10 pages
5. High intensity aerobic interval exercise is superior to moderate intensity exercise for increasing aerobic capacity in patients with coronary artery disease, Rognmo Ø, Hetland E, Helgerud J, Hoff J, Slordahl SA, Eur J Cardiovasc Prev Rehabil (2004)11(3): 216-22

,

InBody S10 -何ができて誰に必要なのか-

InBody S10は、InBody770と同じ高度なBIA技術を搭載し、携帯と移動に特化した体成分分析装置です。測定姿勢は、仰臥位・座位・立位の3つの姿勢から選択することができます。「手足が腫れている」、「拘縮がある」などの理由で通常の電極では測定ができない方でも、付着式電極を使用することで測定を行うことができます。コンパクトなサイズで院内を自由に移動することも可能で、外部や電源が取れない場所でも外付けバッテリーパックとサーマルプリンターで検査を行うことができます。様々な測定環境で、より幅広い患者層を測定できるので、医療施設や研究施設などの専門家にとって重要な検査機器の1つとなっています。

InBody S10の主な機能と特徴は、次の通りです。


部位別ECW/TBW分析


InBodyのいくつかの機種は、測定されたインピーダンス値から細胞外水分比(ECW/TBW; Extracellular Water/Total Body Water)を算出し、体水分量の内訳の細胞内水分量と細胞外水分量を提供しています。InBody S10はこの分析を更に進めて、細胞外水分比・細胞内水分量・細胞外水分量を部位毎で提供できます。

定期的に体内の水分状態を確認する必要がある方や透析患者など、体内の過剰水分を除去する必要がある患者は、体の水分情報を部位毎で細かくモニタリングできるS10を使用しています。医療処置前の患者では、どれくらいの細胞外水分量を減らす必要があるのか参考にすることができます。利尿剤の使用やうっ血除去などの医療処置を行った際は、体の各水分量が適量となっているかをみることで治療効果を確認できます。水分貯留が発生している部位や過剰水分量は患者ごとで異なり、同じ治療を行っても全ての患者で同じ効果が得られるという訳ではありません。S10は、患者個々で異なる水分情報を細かく反映し、治療の調整に役立ちます。

部位別ECW/TBWのグラフでは、水分均衡の増減を視覚的に観察することができます。両脚・体幹・両腕の5つの部位全体で浮腫みが発生することもありますが、リンパ浮腫のように特定の部位に水分貯留が発生することもあります。全身の浮腫みに対して治療を行っても、治療が効かない部位(部位別ECW/TBWの反応がない部位)が見つかれば、潜在的な問題が疑われます。特定の部位だけECW/TBWが高い場合、血管狭窄などの問題から過剰に水分が貯留している可能性もあります。この検査結果を基に、水分均衡が崩れている原因を更に調査することができます。
※ECW/TBWの標準範囲は0.360~0.400で、一般的にECW/TBWは0.400を超えると高いと評価します。

ここまで、ECW/TBWと水分貯留の関係についてお話しましたが、必ず「ECW/TBWが高い=水分貯留・浮腫みがある」ということではありません。ECW/TBWが高くなる原因は主に次の2パターンがあります。

パターン①:細胞外水分量(ECW)が増えてECW/TBWが高くなる
浮腫を伴う疾患(⼼不全・腎不全・肝不全・糖尿・リンパ浮腫など)の症例や術後の輸液などで体液が急激に増えた症例では、細胞外水分量(ECW)と細胞内⽔分量(ICW)の両⽅が異常に増加する中でECW の増加率がより高いことから、ECW/TBW が高値になります。

パターン②:細胞内水分量(ICW)が減ってECW/TBWが高くなる
人体は加齢・栄養悪化に伴って筋肉を構成する体細胞量が減少する形で細胞内水分量(ICW)が減っていきます。
TBW はICW+ECW であるので、ICW の減少はECW/TBW における分⺟を小さくして、ECW/TBWを高くします。例えば、70歳以上の高齢者は疾患がなくても、ECW/TBW が0.400を超えることが一般的ですが、これは体液過剰による現象ではありません。また、筋ジストロフィーの症例でもECW/TBWが⾼値となりますが、筋⾁量が極めて少なくICWが減少している結果です。栄養不良が原因でECW/TBWが高くなっている場合は、栄養改善を通して水分均衡を管理する必要があります。


2種類の電極:ホルダー式電極と付着式電極


➤ ホルダー式電極
ホルダー式電極は痛みのない安定した着用感で繰り返し使用できます。手電極は親指と中指に、足電極は足首に装着します。ホルダー式電極は、InBodyが開発した独自の技術でインピーダンス測定が毎回同じ場所から開始されるようになっており、高い再現性が保証されています。従来の付着式の電極は、装着場所が毎回同じ場所に位置するように注意して取り扱う必要があります。専門知識がある人でも、電極を塗布する人が変われば電極位置の違いから測定結果の変動が生じる可能性があります。S10は、ホルダー式電極を使うことで、測定開始地点の変動からくる測定結果のばらつきを大幅に抑えることができるようになりました。

➤ 付着式電極
付着式電極の利点は、麻痺・切断・手足の腫れなどの理由でホルダー式電極が使えない人でも測定が可能という点です。しかし、欠損症例の体成分結果解釈においては誤解がないよう注意が必要です。切断の部位は、少ないはずの筋肉量が多く測定されてしまいます。しかし、これはその部位に実際の筋肉量が多いわけではなく、電気抵抗を利用して体成分を算出するBIA 装置の原理によって多く算出されたものです。電流の流れる伝導体が短くなると、電流を邪魔する抵抗は小さくなります。また、水分量が多く電流が流れやすい状態でも抵抗値は小さくなります。そのため、InBody も伝導体が短くなって抵抗が下がったことを、水分が多くて抵抗が少ないと捉えてしまいます。該当部位で筋肉量が多く計測されたことで全身の筋肉量は過大評価され、体脂肪量は体重から除脂肪量を差し引いて求めるために過少評価される結果となります。このような理由から、欠損患者の測定結果は変化のモニタリングを目的として活用する必要があります。


InBody S10による栄養評価

InBody S10は体内の水分情報を詳しく測定することで、全身の栄養状態を評価することができます。人体の栄養状態に影響する要因はたくさんありますが、体成分測定を行うことは栄養状態の理解を助けてくれます。立位での測定が困難なため、通常の体成分測定が難しい方は、S10を使って栄養状態を評価するために必要な情報を入手することができます。寝たきりや車椅子を使用している患者こそ、栄養状態モニタリングの必要性が高いです。

➤ 位相角
S10が提供する項目で、栄養評価に使える有用な指標の1つは位相角です。位相角は細胞膜の健康度・細胞の構造的な安定さを反映する値で、S10は全身及び各部位の位相角を提供します。

過度な食事制限や栄養不良は、フリーラジカルを過剰に生成させ、細胞を損傷します。位相角の減少はこのダメージを反映しています。細胞膜が弱まる(=位相角が低い)と、老化が早まったり免疫機能が低下したりして長期的な健康に影響を及ぼします。位相角の値から栄養状態を把握して、ビタミンやミネラルなど適切な栄養分を摂取するなど、時間をかけて改善していくことが重要です。緑黄色野菜やポリフェノールが豊富に含まれている食品には、フリーラジカルによる酸化作用を打ち消す抗酸化物質が含まれています。位相角は栄養状態の改善で増加するので、食事療法の効果を評価する有用な指標となります。

今回のトピックでご紹介したInBody S10の主要な機能と特徴は、ほんの一部です。詳しい仕様や項目等については、S10の製品ページをご覧ください。

,

肥満と脳卒中の関係

脳卒中は身体障害の原因の一つであり、世界的な健康問題でもあります。厚生労働省の2017年発表によると、脳卒中は日本人の死亡原因4位の疾患¹⁾であり、発症すると生存後にリハビリを受けても後遺症が残る可能性が高い疾患です。このようなことを考えると、脳卒中を予防することは健康な生活を維持するために重要なのは間違いありません。

脳卒中は「頭蓋内出血」と「脳梗塞」の2種類があります。頭蓋内出血は名前からもわかるように、脳血管が破れることを意味します。脳梗塞は血栓やその他血管問題により血管が詰まり、脳細胞にブドウ糖や酸素などが届かなくなることで起こります。脳卒中は原因によって予後が異なるという研究もあれば、原因に関係なく似たような予後を示したという報告もあります²⁾。また、脳卒中の中でも頭蓋内出血より脳梗塞の方の予後が良いことを示した報告もあり、脳卒中に関しては様々な研究報告があります。脳卒中のリスク因子は様々ですが、その中でも改善できる因子とそうでない因子があります。今回は改善できる因子の一つである肥満と脳卒中の関係、そして体成分が脳卒中予防にどのような影響を及ぼすかについて説明します。


脳卒中のリスク因子

脳卒中のリスク因子の中では年齢・性別・人種など、リスクを確認するときに考慮すべき要素ではあっても、改善することはできない変えられない因子があります。逆に、生活習慣や食習慣などの因子は改善することが可能です。改善可能な脳卒中のリスク因子には座位行動(長時間座ったまま生活すること)・悪い食習慣・肥満・メタボリックシンドロームなどが挙げられます。特に肥満は高血圧・糖尿病・脂質異常症のような脳卒中のリスクを高める疾患とも関連があります³⁾。


肥満と脳卒中の関連性


肥満は世界中で問題視されている健康問題の一つですが、様々な慢性疾患の原因でもあります。ある研究によると脳卒中患者の約18%~44%が肥満患者であると推定されています⁴⁾。肥満は様々なメカニズムで脳梗塞の1種であるアテローム血栓性脳梗塞や心原性脳塞栓症に影響を及ぼします。アテローム血栓性脳梗塞の発症メカニズムは複雑で、様々な要因が影響を与えますが、脂肪組織もその一つです。脂肪組織は余分なエネルギーを保存するだけが役割と思うかもしれませんが、脂肪組織は内分泌及び免疫システムに影響を及ぼす組織です。体脂肪が過剰に蓄積されると炎症を引き起こし、組織の構成にも影響を与えることでアテローム血栓性脳梗塞を促進させ、脳卒中のリスクを高めます。肥満の脳卒中生存者は特性の心疾患のリスク因子が増えやすくなり、脳卒中の再発または回復の予後を悪化させる恐れがあります。また、日本人の脳梗塞で最も多いラクナ梗塞の場合、高血圧・糖尿病・脂質異常症(高脂血症)の3つが主な原因と言われますが⁵⁾、この3つは肥満とも密接な関連を持っていることから、過剰な体脂肪量は脳卒中や血栓症などの原因になり得ると言えます。


肥満と脳卒中のパラドックス

このように、肥満は脳卒中のリスク因子であることが明らかになっていますが、肥満患者の脳卒中予後に関しては様々な意見があります。多数の研究では肥満患者の脳卒中予後がより良いことを示唆しており、これを肥満と脳卒中のパラドックス(Paradox; 逆説)といいます。肥満と脳卒中の関係を説明するために企画された系統的文献レビュー⁶⁾では、25件の研究を分析し、脳卒中リスクと肥満の関係を確認しました。その結果、確かに多数の研究で肥満の脳卒中患者がより良い予後を示しました。しかし、この結果を「体脂肪量が多いのは良い」と解釈することは間違っていると指摘しています。肥満患者の脳卒中死亡率が低いことは事実ですが、他の研究では高度肥満及び低体重患者の脳卒中死亡率が有意に高いことも示されています。この相反する内容から、脳卒中の予後には体重よりも適切な体成分の構成が重要であることを推測できます。肥満患者の体重減量が脳卒中の予防に役立つという説も、体成分が重要であることを裏付けします。


腹部肥満の危険性

体成分と脳卒中の関係に着目した研究もあります。腹部肥満と脳卒中の関係を調べるため、ニューヨークで虚血性脳卒中(脳梗塞)症例576件を検討した研究が行われました⁷⁾。結果、性別や人種と関係なく、ウエストヒップ比(Waist-Hip Ratio; WHR)の増加と脳卒中リスクには有意な相関があることが示されました。この研究では次のように述べています。

・人種に関係なく、腹部肥満は脳梗塞の独立リスク因子である。
・腹部肥満はBMIより有意な脳梗塞のリスク因子である。
・腹部肥満は若い人においてより悪い影響を及ぼす。

このように、腹部肥満と脳梗塞の間には独立且つ有意な関係があることを示しています。従って、体脂肪の分布を把握して腹部の体脂肪量を減らすことは、脳卒中のリスクを下げることに繋がります。InBodyでも腹部肥満の指標としてウエストヒップ比を提供しているので参考にしてください。ウエストヒップ比の値が大きいと、腹部肥満と判断されますが、男性1.0以上、女性0.9以上が目安とされています。また、ヨーロッパの研究では、男性0.9以上、女性0.85以上は心血管死亡率が高いと報告しています。
※ウエストヒップ比はS10以外の全ての機種で選択項目として提供しています。


他の改善可能なリスク因子

既に説明しましたが、糖尿病・脂質異常症・高血圧などの疾患は脳卒中リスクと関連しています。このような疾患は脳卒中のリスクを高めますが、適切な体成分状態を維持することでこれらの疾患を予防できます。次の内容は体成分と上記疾患の関連性に関する研究で示された内容です⁸⁾。

・2型糖尿病のリスクは国や人種に関係なく、BMIが高いほど増加する。
・高血圧症例の1/4以上が過体重と関連していた。
・内臓脂肪型の肥満患者において脂質異常症のリスクが増加した。

これらの疾患は脳卒中のリスク因子であるため、肥満を改善させて関連疾患のリスクを下げることは、脳卒中のリスクを下げることに繋がります。生活習慣を改善させてリスク因子を減らすことで、脳卒中の約50%を予防できると言われています⁹⁾。血圧を下げることや血糖値を管理すること、HDLコレステロール値を高めて脂質異常症を予防することは脳卒中のリスクを大きく下げると言われており、体成分の改善はこれらの疾患の予防に繋がります。生活習慣の改善方法には適切な運動による活動量の増加・肥満患者の体重減量・糖尿病患者の血糖値調整・禁煙・規則正しい食事を含む食習慣の改善などが挙げられます。


脳卒中予防のために


脳卒中は一度発症すると回復後にも後遺症が残る可能性があり、身体障害により生活の質が低下することは致命的な健康問題です。しかし、脳卒中はいくつかのリスク因子を改善させることで予防も可能です。今まで説明した通り、少ない活動量・座りっぱなしの生活・悪い食習慣・肥満などを改善することは脳卒中だけではなく、他の疾患のリスクも下げます。

脳卒中リスクを高める疾患には高血圧や糖尿病、脂質異常症などがあり、これらの予防と管理は脳卒中リスクを減少させることに繋がります。そして、肥満は様々な健康問題や疾患の原因である同時に、脳卒中のリスクを高める因子です。過剰な体脂肪量は炎症を起こしたり、アテローム血栓性脳梗塞の発症を促進したりする組織であるため、適切な管理が必要です。従って、肥満評価に用いられる体成分に注目して管理することは、脳卒中リスクを管理できる方法の一つとも言えます。特に内臓脂肪の蓄積が原因の腹部肥満は、脳卒中リスクを高める重要な因子と言われています。多くの研究が、ウエストヒップ比の減少で予測できる腹部脂肪量の減少は脳卒中の予防において臨床的価値を持つと示しており、腹部肥満管理の重要性を裏付けています。肥満と関連する体成分は体脂肪量が挙げられますが、筋肉量を維持することも肥満の予防・改善に繋がります。従って、活動量・食習慣・喫煙状況などの生活習慣を見直して、筋肉と脂肪のバランスを改善することは、誰でもできる脳卒中の予防方法と言えます。体成分の現状を把握し、どう改善すればいいか考えることから健康管理を始めてみてはいかがでしょうか。

 

参考文献
1. 「平成29年(2017)人口動態統計月報年計(概数)の概況」厚生労働省
2. Rehabilitation Outcomes: Ischemic versus Hemorrhagic Strokes, Robert Perna and Jessica Temple, Behavioural Neurology Volume 2015, Article ID 891651, 6 pages
3. Stroke Risk Factors, Genetics, and Prevention, Amelia K. Boehme et al., Circulation Research February 3, 2017, 472-495
4. Obesity: A Stubbornly Obvious Target for Stroke Prevention, Walter N. Kernan et al., Stroke. 2013; 44:278-286
5. 「どうしましたか?症状別病気解説: ラクナ梗塞」社団福祉法人 恩賜財団済生会ホームページ
6. Obesity paradox in stroke – Myth or reality? A systematic review, Lisa Oesch et al., PLoS ONE 12(3): e0171334
7. Abdominal Obesity and Risk of Ischemic Stroke: The Northern Manhattan Stroke Study, Seung-Han Suk et al., Stroke. 2003; 34:1586-1592
8. Obesity: Its Epidemiology, Comorbidities, and Management, Jana Jarolimova et al., Prim Care Companion CNS Disord. 2013; 15(5): PCC.12f01475
9. Stroke Prevention: Managing Modifiable Risk Factors, Silvia Di Legge et al., Stroke Research and Treatment Volume 2012, Article ID 391538, 15 pages

, ,

良い痛みと悪い痛み

高強度の運動を続けるとき、「筋肉痛がないと筋肉は増えない」と考えながらモチベーションを維持する方が多いでしょう。運動した次の日に筋肉痛があると、筋肉が作られていると思い、やりがいを感じるかもしれません。しかし、運動後の痛みは全て筋肉が作られているとは限りません。痛みのパターンと原因は様々ですが、どの痛みも体で「何かが起こっている」ことを知らせる伝達反応です。痛みを正しく理解することで、運動を続けても良いのか運動を中止して専門家に相談すべきなのかを判断できるようになります。では一体、どの痛みが良い痛みで、どの痛みが悪い痛みなのでしょうか。今回は痛みについて詳しくお話しします。


痛みを正しく理解するために確認すること


痛みには良い痛みと悪い痛みがあります。例えば、固くなっている筋肉をマッサージでほぐす時に感じる痛みは「良い痛み」です。逆に、姿勢の問題が原因で、朝起きて首が痛いなどの場合は「悪い痛み」と言えるでしょう。そして高強度の運動で体が限界に近づいた時に感じる痛みは、良い痛みとも悪い痛みとも言えず、この間に位置します。専門家が痛みの種類を見極める判断材料は、痛みが発生した状況・痛みの強度・痛みの頻度・痛みが発生している部位・痛みの質があります。痛みの頻度や発生している部位について判断するのは難しくないため、他の項目について簡単に説明します。

➤ 痛みが発生する状況
状況とは「いつ、どのタイミングで痛みが発生するのか」を予想するために最も重要な部分です。常に痛いのか、特定の動きをすると痛いのか、この痛みのパターンを知っておくことで、痛みを防ぐためにできることを考え、工夫することもできます。

➤ 痛みの強度
どれだけ痛みがひどいのかを把握することも重要です。これを把握しやすくするためには、痛みを数値化する方法、VAS(Visual Analogue Scale)・NRS(Numerical Rating Scale)・FRS(Face Rating Scale)などがあります。現在の痛みがどの程度かを把握することで、痛みの状態をより客観的に理解し、痛みの緩和や悪化のスケールとしても使用できます。

➤ 痛みの質
痛みを説明する表現は様々です。例えば「脈打つような」「ズキズキするような」「電気が走るような」「しびれるような」「凍てつくような」など、今の痛みがどのような性質なのかを具体的に表現することで、痛みの原因を特定し、性質が違う痛みを分けてそれぞれで評価することができるようになります。


痛みの種類


痛みは大きく次の3つに分類できます。

1. 侵害受容性疼痛
怪我や火傷をしたとき、侵襲性がある手術の回復期に感じる痛みがこれに該当します。この痛みの原因は炎症によるもので、炎症から発生した疼痛物質が末梢神経を刺激し、痛みを感じるようになります。この痛みは、体がまだ回復しきれていないというサインです。この状態で体を動かすと、痛みが悪化したり、最悪怪我が再発したりしてしまうケースもあります。この痛みは、回復期には必ずある反応なので心配いりませんが、治った後まで続くと慢性の痛みに発達するため注意が必要です。

2. 神経障害性疼痛
何らかの原因で痛みを司る神経経路(中枢・脊髄・末梢神経)で損傷がある場合に生じる痛みです。大怪我をした人が、怪我の完治後でも「前みたいに動けない」と感じたり、以前は痛くなかった動作で痛みを感じたりしてしまうというケースがこれに該当します。

3. 心因性疼痛
身体の異常が原因で起こるのではなく、心理的な原因で発生する痛みです。社会的・心理的ストレスによって急に痛みを感じることがこれに該当します。

激しい運動による筋肉痛は1番目の侵害受容性疼痛に該当します。この痛みは運動をする人であれば誰でも経験がある痛みで、炎症反応から来る筋肉痛は怪我とは異なりますが、侵害受容性疼痛の一種である炎症性疼痛と分類されます。しかし、筋肉痛の中でも遅発性筋肉痛(Delayed Onset Muscle Soreness; DOMS)と言われるこの筋肉痛には注意を払う必要がある場合もあります。

DOMSは激しい筋トレを行った後、数時間後から数日後によく発生する痛みです。DOMSの原因はいくつかありますが、筋トレによって筋線維単位の損傷が起こり、この損傷や筋肉の過度な疲労など、複数の要因が重なって発症するものが一般的です。筋肉は損傷の回復過程で発達しますが、この痛みが続いている間は安静が必要です。回復にかかる時間は運動強度によって異なりますが、一般的には1~2日かかります。痛みが残っている状態で無理して運動を行うと、怪我に繋がる恐れがあります。関節や筋肉が運動でかかる衝撃に弱くなっており、疲れた筋肉を補助するために無意識に他の筋肉を使ってしまうためです。更に、筋肉痛は痛覚を鈍らせるため、気づかないうちに筋肉を酷使し、筋肉が大きく損傷する恐れもあります。では、DOMSはどのような対処方法があるのでしょうか。簡単にできるDOMS対策をいくつかご紹介します。


DOMSの対策


➤ アイシング
怪我をするとその部位が他の部位より少し熱く、熱を帯びています。損傷によって炎症が発生すると炎症部位が熱くなりやすく、筋肉痛も例外ではありません。そのため、氷やアイシング用のスプレーで筋肉痛の部位を冷やすと炎症を抑える効果があり、一時的に鎮痛剤を飲んだような効果があります。また、激しい運動後に定期的にアイシングすることは凝り予防にも繋がります。

➤ マッサージ
マッサージは筋肉痛による筋肉の緊張や痛みを和らげます。運動後には筋肉が固くなり、血行が悪くなりやすいため、マッサージで固くなった筋肉をほぐし、血液循環を促進することで回復を促す効果が期待できます。

➤ ストレッチや軽めの運動
ストレッチや軽いウォーキングなどの軽めの運動は、筋肉痛から最も早く回復できる方法です。軽い運動を2-30分程、体に大きい負担にならないほど続けることでマッサージと似たような血行改善の効果が得られます。

DOMSは運動の強度を上げた時や、新しい運動を始めたばかりのタイミングでよく起こりますが、適切な休憩を取ることで運動強度を維持できます。しかし、休まず運動することはオーバーユース障害(overuse injury)に繋がる恐れがあります。


オーバーユース障害


オーバーユース障害は同じ活動を頻繁に、高強度で長期間続けた時に起こります。テニス肘や野球肘、ジャンパー膝と呼ばれる負傷は典型的なオーバーユース障害です。体が十分回復できるほどの休みを取らずに運動を続けると、筋肉に繰り返し強いストレスがかかり、肉離れや疲労骨折の原因となります。また、間違った姿勢で長期間トレーニングを行うことは筋肉不均衡、筋肉弱化、柔軟性の低下等を引き起こします。InBodyの部位別筋肉量の項目を確認してください。筋肉均衡は整っていますか? 怪我のリスクがある場所は、体のどの部分でしょうか? 正しい姿勢や筋肉のバランスはトレーニングにおいてとても重要であり、同じ動作を繰り返すスポーツは特に重要です。

➤ 怪我のリスクが高まる筋肉不均衡の例

下半身の筋肉量が少なくて上下均衡が崩れている場合(左)は、転倒や膝の怪我など下半身が弱いことが原因で発症する怪我が多くなります。左右で筋肉均衡が崩れている場合(真ん中)は、転倒のリスクが高まると共に腰痛や関節痛などの原因にもなります。また、左右で筋肉量が高くなっている部位はオーバーユース障害へと繋がる危険性も高いです。間違った姿勢でトレーニングを行っていることが原因で左右の筋肉不均衡が出ている可能性もあるので、一度フォームやトレーニング内容を見直す必要があるかもしれません。上半身の筋肉量が少なくて上下均衡が崩れている場合(右)は、転倒して腕を地面についた際に、体重を支えることができず、両腕を痛めることで怪我をしてしまうというリスクも高くなっています。また、軽い荷物を少し持っただけでも筋肉痛になってしまうという問題もあります。

オーバーユース障害を予防するためには同じ動作を繰り返さず、様々な運動を混ぜて行うことが望ましいです。例えば、ランナーは週2-3回の筋トレを行い、逆にパワースポーツ選手は週2-3回の有酸素運動を行うことで筋肉及び関節にかかるストレスを緩和できます。ヨガ・ピラティス・スタジオプログラムなどの多関節を同時に動かす複合運動は、身体活動量を維持しつつ全身を鍛える良い方法です。筋肉痛を無視して運動することは怪我の原因の一つです。他に怪我の原因となり得る行動は次のようなものがあります。

➤ 過剰な運動量の増加
トレーニングの原則、漸進性の法則から、運動量(重量や距離)を増やすことがあります。このような変化はパフォーマンス向上にとって必要なものですが、急激に量を増やすことは怪我に繋がりやすいため、徐々に増やしていくことが必要です。

➤ 休息期間やレストタイムが合っていない
休息は運動強度によって柔軟に調節することが望ましいです。セット間の休息時間も強度によって変える必要があり、一般的に低強度の運動は20-60秒ほど、高強度の運動は2-5分程の休息を挟むことで運動の持続に役立ちます。

➤ 痛みを無視すること
運動中に筋肉痛ではない痛みが続くのであれば、無視せずに一度運動を中止して痛みの状況や頻度・強度・部位・質などを確認し、痛みを和らげたり、痛みが発生する動きを避けたりなど、適切な処置を行いましょう。もし痛みが続くのであれば専門家に相談してみるのもいいかもしれません。適切な診断と処置は、怪我の回復と重症化を防ぐことに繋がります。


痛みを正しく評価するために

運動中に体温が高くなり、筋肉が重くなったように感じるのは、運動によって刺激された筋肉に一時的に血液が集まりパンプアップできている証拠(良い痛み)です。ただ、一つの動作を行う際に正しい姿勢を維持することが難しい状態であれば、筋肉に過度な疲労が溜まっているサインなので、運動を再開する前に適切な休憩を取ることが必要です。

痛みは様々な原因があり、人によってその意味も異なります。そのため、痛みがあれば一度運動を止め、どのような痛みなのかを見分けることを試みてください。痛みを和らげるために運動の強度を下げることが必要になるかもしれませんが、体が十分回復した後、元の強度に戻すこともできるので気にすることはありません。ウォーミングアップやクールダウンは怪我の予防はもちろん、痛みの予防にも繋がります。運動は継続することも大事ですが、適切な休憩と栄養摂取も一緒に行わなければ筋肉を増やすことはできません。体が送る信号である痛みに気を付けながら、焦らず回復と運動を繰り返すことで長期的に良い結果をもたらすでしょう。
※運動と休息の関係はInBodyトピックの「疲労と回復のメカニズム」を参考にしてください。