その血圧は正しいですか? 白衣高血圧と仮面高血圧

病院に行って検査をすると誰もが多少は緊張してしまうものです。特に痛みを伴うものや慣れない検査を控えている状態なら尚更です。このように緊張した状態で血圧を測ると普段は血圧に異常がなくても、高血圧と診断されるほどの数値が出てしまうことがあります。これを「白衣高血圧(White coat hypertension)」と言います。今回は高血圧の診断に影響を及ぼす「白衣高血圧」と「仮面高血圧(Masked hypertension)」、そしてどうすれば正確に血圧を測れるのかについてご説明します。


白衣高血圧と仮面高血圧

人体は恐怖などの精神的ストレスを受けると緊張状態に入ります。これは危険から自分を守るために体が準備する自然な現象ですが、この緊張状態によって心拍は速くなり、血圧も影響を受けます。白衣高血圧は病院の医療スタッフが白衣を着ていることが多く、こういう人を見ると緊張してしまい、いつもより血圧が高くなる状態を示します。一般的に正常血圧は120/80mmHg未満で、140/90mmHg以上は高血圧と診断されます。病院という特殊な環境の影響で5-10mmHgほど血圧が上昇することは珍しくないので、白衣高血圧の診断は次のような基準を用いて判断します。

・診療室内血圧: 140/90mmHg以上、且つ
・診療室外血圧(家庭血圧): 135/85mmHg未満

白衣高血圧の問題は日常生活では正常血圧であることです。白衣高血圧の人は一般的な人より病院での血圧増加が大きく、最大30mmHgも上昇することがあります。病院で測定した血圧が高かったせいで、高血圧の治療が必要と判断され、血圧降下剤を服用するようになる場合もあります。しかし、血圧降下剤は一度服用し始めるとずっと服用する必要があり、他の治療薬と同様に副作用も存在します。従って、不要な薬を服用することにならないように正確な診断が必要です。

しかし、残念なことに高血圧と診断された人の約30%が白衣高血圧であると言われています。女性や妊婦、高齢者、非喫煙者、急に高い血圧が測定された人は白衣高血圧である可能性が高くなります。白衣高血圧と類似している現象としては「白衣効果」というものがあります。これは既に高血圧治療を受けているにも関わらず、病院で血圧を測定すると血圧が高く測定されることを示すもので、白衣高血圧と同じく緊張によって血圧が一時的に高くなるのが原因です。

一方、白衣高血圧とは逆の場合もあります。これは、病院で測定した血圧は正常でも病院以外のところで血圧を測定すると高血圧になる現象です。これは仮面高血圧といい、治療が必要な状態にもかかわらず、病院で測定した血圧が正常であるため治療を受ける機会を逃してしまいます。仮面高血圧は正常血圧を示す人で10~15%、降圧治療中の患者で30%ほど潜在していると言われています。仮面高血圧は正常血圧の人に比べ代謝異常の合併症が生じやすく、また高血圧の患者と同じく心疾患リスクが高いため必ず適切な治療が必要です。

このように、血圧は測定する環境によって増減することがあるため、病院で測定した血圧が必ず正確な血圧状態を反映している訳ではありません。では、どうすればより正確に高血圧の診断ができるようになるのでしょうか。それは白衣高血圧や仮面高血圧の特徴を考えてみると難しいことではありません。


家庭での血圧測定の有用性

白衣高血圧の人は病院で血圧が高くなるため、血圧降下剤を服用することが多々あります。しかし、アメリカのペンシルバニア大学の研究によると、白衣高血圧で血圧降下剤を服用することは心血管疾患及び脳卒中のリスクを約36%高め、血圧降下剤を服用していない白衣高血圧症の人と比べて心疾患による死亡率が2倍ほど高くなることが明らかになりました。つまり、白衣高血圧の人で血圧降下剤を服用していない場合では心血管疾患のリスクは増加しないことが分かります¹⁾。これらのことから分かるように、不要な薬の服用は健康に悪影響を及ぼし兼ねません。しかし、本当に高血圧であるにも関わらず白衣高血圧かもしれないと懸念して適切な治療を受けられないことも危険です。どのようにすれば正確に高血圧を見分けて、治療を選択することができるのでしょうか。

ここで活用できるのが家庭用血圧測定器です。近年は自宅で簡単に測定できる血圧計がたくさん販売されており、いつでも血圧を測定できるようになっています。「家庭用の血圧計は病院のものに比べるとあまり正確ではない」と勘違いされることがありますが、正しく測定すれば家庭用でも十分正しい血圧情報を得ることができます。むしろ、家庭で測定した血圧(家庭血圧)は診療室で測定する血圧より測定の再現性が高く、日内変動や長期にわたる血圧の変動も確認できるなど、高血圧に関する情報をより多く得られることができるため、高血圧の診断においてとても重要な役割を果たしています。実際、家庭血圧と病院で測定した血圧で診断の違いが生じる場合は家庭血圧による診断を優先とします。

家庭で血圧を測定するときは1日数回、異なる時間で1機会2回測定した平均値を記録しておきます。もし1機会1回測定した場合はその値をそのまま記録します。1機会に複数回測定してその中で最も良い結果を記録すると血圧モニタリングの正確性が落ちるため、平均値を記録するか複数回の測定結果を全て記載しましょう。

また、測定する際には背筋を伸ばし、足が地面につくような高さで座って数分間安静してから測定してください。測定時の腕の位置は心臓と同じ高さに置き、上腕部にカフを巻いて測定します。腕の高さが心臓の高さより高かったり低かったりすると血圧に影響が出る可能性があるため、可能な限り高さを合わせてください。

測定のタイミングは起床1時間以内や排尿後・食前に測定し、もし薬を服用している場合は服薬前にも測定します。夜は就寝前(入浴後・服薬後)に測定します。家庭での測定は現在高血圧治療を受けている人にとっては治療効果を確認できる方法で、高血圧ではない人でも仮面高血圧の可能性や今後の健康維持にとって有用な情報となるため、継続的に測定してモニタリングすると良いでしょう。


病院で血圧を測定するとき

しかし、できれば病院でも正確な血圧を測定したいものです。一度血圧が高いと言われると、どうしても次の検査の時に心配になり、緊張してしまいます。白衣高血圧や仮面高血圧を克服するのは難しいかもしれませんが、どちらも通常と違う環境で血圧を測定することで起こる現象のため、気持ちを落ち着かせることが大事です。また、血圧が心配な方は、定期的に病院に行って血圧を測定し、家庭での測定結果と照らし合わせながら担当医と状態を確認しましょう。病院で血圧を測定する際は次に挙げる事項を参考にしてください。

・病院の診療予約はスケジュールに余裕がある日を選ぶ
・病院の雰囲気など、環境に慣れるために少し早めに着くようにする
・できる限り静かな状態で血圧を測る
・測定前に深呼吸をする

家で測定したときより病院で血圧が高く出たとしても不安に思わず、医者と十分に相談しながら今後の方針を決めるようにしましょう。禁煙や禁酒、適切な運動と健康な食事のような、よく知っている「健康な生活習慣」を身に付けることで、血圧の管理だけでなく高血圧から発生する様々な疾患の予防にも繋がるでしょう。

参考文献
1. Jordana B. Cohen, Michael J. Lotito, Usha K. Trivedi, et al. Cardiovascular Events and Mortality in White Coat Hypertension: A Systematic Review and Meta-analysis. Ann Intern Med.2019; 170:853-862.
「高血圧治療ガイドライン 2019」日本高血圧学会

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