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体成分改善に効果的な運動頻度は?

運動は健康増進やダイエットなどの体成分改善に必要不可欠です。運動の必要性を分かっていても、「どのような運動をすれば良いのか?」「週に何回運動をするのか?」具体的に計画を立てる際につまずく人も多いかと思います。毎日がむしゃらに運動を行えば、運動の効果はすぐに出てくるのでしょうか? 今回は体成分改善と運動頻度の関係性について確認してみましょう。


体成分改善の目標と運動の関係

頻度について話す前に、体成分改善の目標と適切な運動について簡単に確認してみましょう。一般的に運動は有酸素運動と筋トレ(無酸素運動)で分けることができ、有酸素運動は体脂肪量の減少に、無酸素運動は筋肉量の増加に効果的と言われています。しかし、どの運動も片方だけに効果があるわけではなく、より効果的であるという考え方が正しいと言えるでしょう。従って、体脂肪量と筋肉量のどちらも改善を目的としている場合は有酸素運動と筋トレの割合を調節しながら自分の目標に適した運動計画を立てる必要があります。また、運動と食事管理を並行しながら体成分の変動を定期的に確認し、有酸素運動と無酸素運動の割合やトレーニング部位を変えるなどの工夫も重要です。

勿論、運動を日常化することは良いことですが、だからと言って毎日高強度の筋トレを続けるのが良いとは言い難いです。筋トレの場合、毎日行うと疲労ばかりが蓄積されてかえって筋肉量を減らす結果となる恐れもあります。そのため、運動効果を高めるためには適度な休息を入れることで筋肉を超回復させなければなりません。
※ 筋肉増加と休息の関係について詳しく知りたい方は、InBodyトピックの「疲労と回復のメカニズム」もご覧ください。

では、体成分の改善に有効な運動頻度は次の中どれでしょうか?
① 週5日
② 週3日
③ 週2日

ここからは上記3つの運動頻度の理論とその効果について説明します。

⓵週5日プランの理論と効果
週5日プランは平日運動し、週末に休息日を取り入れる方法です。週5日プランの特徴は「トレーニング部位を分けて計画を立てる」ことです。運動部位を分けることで前日に鍛えた部位は休ませ、その間に他の部位を鍛えることで筋肉の回復時間の確保と運動の継続を両立させるという理論です。次は週5日プランの計画例です。

【週5日プランの運動計画例】
月曜日: (背中と上腕)背筋・上腕二頭筋・上腕三頭筋
火曜日: (胸と腹部)胸筋・腹筋
水曜日: (肩)広背筋・三角筋・ローテーターカフ
木曜日: (大腿と下腿)大腿四頭筋・ハムストリングス・ヒラメ筋
金曜日: (腰部)腸腰筋・大殿筋
土曜日: 休息
日曜日: 休息

これはあくまで一つの例で、部位の分け方を変えたり、5日のうち1日は有酸素運動にしたりなど自由に構成できますが、「ほぼ毎日」「違う部位を運動する」がポイントです。このように、週5日プランでは体を5つに分けて毎日違う部位を鍛え、一度鍛えた部位は残り6日にかけてゆっくり回復させるという理論を基にしています。

この方法は一見、毎日違う部位を鍛えながら十分な休息も取れる効率的な方法のように考えられます。しかし、最近の研究ではこの方法は思ったより筋肉量を増加させないことが分かりました¹⁾。特定部位の筋肉量を増やすためには同じ部位の筋トレを週2回行う方が望ましいという研究結果が報告されたのです。勿論、週5日プランが運動を習慣化させて健康増進に役立つことは間違いありませんが、筋肉量を増やすことが主な目的である場合は他の方法を検討したほうがいいかもしれません。

⓶週3日プランの理論と効果
週3日プランは普段の生活が忙しく、運動できる日を多く確保するのが難しい人にとって、選択しやすい方法でしょう。また、運動があまり好きでない人でも週5回プランに比べると、週3回プランの方はあまりストレスを感じずに継続できます。毎日運動すると計画を立てた後に運動計画を守れなくなって、そのまま運動を諦めてしまった経験がある方は少なくないでしょう。しかし、週3日プランであれば多少計画がずれても本来の計画を修正して対応できるため、諦めずに続けやすくなります。

週3日プランの特徴は、上半身または下半身でより鍛えたい部位を週2回運動するスケジュールを組んだり、「全身筋トレ-有酸素運動-全身筋トレ」のような組み合わせを作ったりすることで、効率的に体を鍛えられることです。しかし、週3日だと体成分を改善させるには運動頻度が少ないと感じる方や、高強度で運動する必要があるのではないかと心配される方がいるかもしれません。

大学生における週3日プランの効果を検討した研究²⁾では、運動強度に関係なく週3日の運動が除脂肪量を有意に増加させており、体成分を改善させるには週3日でも十分であることが示されました。このように、週3日プランは体成分の改善効果もありながら、あまりストレスを感じずに持続できる方法と言えます。

⓷週2日プランの理論と効果
週2日プランというと体成分改善の効率的な運動頻度としては不十分で、その効果は良くて健康維持程度だろうと思われるかもしれません。週5日が厳しすぎて続けられるか心配になる頻度であれば、週2日は運動することを忘れてしまいそうなほど少ない気もします。週2日プランは体成分を改善する効果があるのでしょうか。

週2日プランの効果を検証した研究³⁾では、週2日プランを20週間行い、体成分の変化を確認しました。その結果、筋肉量が有意に増加する結果が示されています。ただ、この研究には重要なポイントが一つあります。それは「全身運動をした場合」に体成分が有意に改善したということです。週5日プランの説明で述べたように、筋肉が成長するためには週2回同じ部位を鍛える必要があり、週2日プランでこれが全身にかけて行われていたため体成分が有意に改善したと考えられます。つまり、週2日の頻度で筋肉量を増やしていくには、1日で全身の筋肉を鍛えられる筋トレや全身運動を組まないとその効果を期待できないかもしれません。


終わりに

運動頻度に関わらず、定期的な運動は体成分改善の効果が期待できます。これは週何日運動をするかではなく、”継続すること” が重要であることを示します。週5日運動すると意気込んでも、仕事が忙しいなどの理由から途中で諦めてしまっては何も得られません。週2日でも継続することで、いつかは “体成分改善” というゴールに辿り着けるでしょう。他人のやり方を無理してマネすることより、自分のライフスタイルに適した方法を探して続けることが大事です。まずは今のあなたに適している運動頻度を見つけて、運動を継続していきましょう。

 

参考文献
1. Schoenfeld BJ, Ogborn D, Krieger JW. Effects of Resistance Training Frequency on Measures of Muscle Hypertrophy: A Systematic Review and Meta-Analysis. Sports Med. 2016 Nov;46(11):1689-1697.
2. Thomas MH, Burns SP. Increasing Lean Mass and Strength: A Comparison of High Frequency Strength Training to Lower Frequency Strength Training. Int J Exerc Sci. 2016 Apr 1;9(2):159-167.
3. Calder AW, Chilibeck PD, Webber CE, Sale DG. Comparison of whole and split weight training routines in young women. Can J Appl Physiol. 1994 Jun;19(2):185-99.

 

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すべての女性が筋トレを行うべき科学的根拠

健康に関する目標を尋ねた時に、”体重(体脂肪量)の減量” ではなく ”筋肉量の増加” と答える方は、女性の中でどれくらいいるのでしょうか? 本当の意味での健康体とは、一体どのような体型を指すのでしょうか? ただ痩せているだけではなく筋肉で引き締まったスタイルを手に入れるためには、どのようなトレーニングが必要なのでしょうか? 今回のトピックでは、特に女性が知ってほしい筋トレに関する科学的根拠や迷信についてご紹介します。


女性は筋トレを避けるべきという迷信

筋トレに関する様々な迷信や誤解があります。これらの中には、女性がウエイトトレーニングや高負荷トレーニングを行わないよう推奨しているものもあります。次に紹介するのは一般的に広まってしまっている3つの迷信です。

迷信1:ウエイトトレーニングを行うと、ずんぐりとした体型になる
多くの女性はウエイトトレーニングなどの筋トレが体重増加やずんぐりとした体型に繋がるため、男性だけが行うべきトレーニングと考えています。確かに、筋トレを行うと筋肉量(除脂肪量)の増加によって体重が増える可能性があります。しかし、筋肉は脂肪よりも密度が高いので増加しても思うほど見た目は太くならず、むしろ引き締まった体型になります。また、筋トレによって筋肉が増加しても同量の体脂肪を減らせば、体重は変わらずボディラインはよりスリムになるため、実際の体重より痩せて見えることもあります。筋肥大を目的として高強度トレーニング(1RMの75%以上強度, RM:最大挙上重量, 反復回数4-12RM)ばかりを行わない限り男性のように筋肉が強調されてムキムキになることはありません。ダイエットまたは健康増進を目的とした筋トレの負荷程度では筋力と筋持久力の向上が主な効果として得られますが、そこまでの筋肥大は生じません。

つまり、筋トレで太って見えるようになることはなく、筋肉量が多いほど時間の経過とともに消費できるカロリー(燃焼する体脂肪量)も多くなるなどのメリットもあるため、将来的に体成分が良くなるための投資と考えてください。「健康」の定義は人それぞれですが、体重だけを基準にせず、見た目の体型や気分、そして筋肉量をはじめとした体成分の数値などの様々な基準で、健康を測ることができます。
※消費エネルギーに関する調整法など詳しく知りたい方は、InBodyトピックの「体脂肪減量に関する5つの迷信」もご覧ください。

迷信2:軽い重さでは効果が得られない

女性を対象に3つの筋トレ方法(高強度低反復vs中強度中反復vs低強度高反復)の効果を調べた研究では、トレーニング方法の違いに関係なく全ての方法で筋力と筋肉量が増加したことが報告されています¹⁾。体重の2倍ものバーベルを持ち上げたり、頭のサイズほど大きいダンベルをカールさせたりする必要はなく、軽い重さでも反復回数を調整すれば、筋トレの効果は十分得られます。

迷信3:筋トレは高齢者に適さない
筋肉の喪失を意味する「サルコペニア」は老化過程で発生する自然な現象ではありますが、高齢者だけが直面している問題ではありません。40代後半から筋肉量は徐々に減少していくことが報告されていますが²⁾、女性の中には30代後半から段階的に減少していく人もいます。このように若い内から筋肉量や筋力が低下していくことは、老化のプロセスではなく活動量が少ないことに起因します。

加齢や活動量低下によって筋肉量が減少していくにもかかわらず、中年女性や高齢女性では筋トレに抵抗意識を持つ人が多いです。トレーニングや身体活動をしない期間が長くなると、”年を取りすぎて、もう重いものは持てない” という誤った認識から、筋トレで自身の体力レベルを改善することに消極的になってしまいます。

しかし、勉強と同じく、筋トレも”始めるには遅すぎる” “年齢制限がある” というものではありません。筋トレの効果を得るには “若くなければいけない” ということはありません。高齢者が対象であっても、筋トレの効果が認められた報告はいくつもあります。
※高齢者にもお勧めできるトレーニングなどもう少し詳しく知りたい方は、InBodyトピックの「筋トレに年齢制限なし」もご覧ください。


筋トレがもたらす様々な利点

筋肉量(除脂肪量)を増やして体成分を改善することは、見た目が健康的になること以外にもいくつかの利点があります。

➤骨・関節への効果
運動習慣がない成人は、10年ごとに3~8%もの筋肉量が減少するという研究もあります。筋トレを行うことは骨格筋の減少を防ぐだけでなく、内臓脂肪の減少・HbA1cの減少・安静時血圧の低下・心血管の健康増進等の利点があります。また、筋トレは骨の発達を促進することから、骨密度の増加や腰痛・関節炎の軽減などにも効果的であると報告されています³⁾。特に女性は更年期以降、骨粗鬆症のリスクが一層高まるので、筋トレで除脂肪量を増やして予防するという意識も必要です⁴⁾。

➤精神的な効果(不安やストレスの軽減)
面白いことに、筋トレにはリラックス効果やストレス・不安の緩和効果もあります。筋トレとストレス軽減に相関関係があることを報告した研究では、筋トレの強度は低-中強度(1RMの70%以下強度, RM:最大挙上重量, 反復回数12RM以上)が最適であるとしています⁵⁾。


最適な筋トレの頻度

筋トレを効果的に行うためには筋肉を休ませる時間が必要で、その時間は運動負荷の程度によって異なります。運動後の休息期間に起こる修復のリバウンドを超回復と言いますが、超回復には運動後24~48時間ほどの休息が必要です。運動負荷が大きい場合は48~72時間の休息が必要です⁷⁾。つまり筋トレの頻度は週に2-3回が最適であると言えます。
※超回復に関する詳しい説明は、InBodyトピックの「疲労と回復のメカニズム」をご覧ください。

例えば週に2回、上半身(肩・胸・お腹周り・背中・腕など)と下半身(お尻・太もも・ふくらはぎなど)を交互に実施すれば、全身の筋肉をバランス良く鍛えることができます。筋トレ初心者は、エクササイズバンドや軽いダンベルを使用するトレーニングを週1回実施することから始めてみましょう。また、スクワット・腹筋・腕立て伏せ・ぶら下がりなどの自重トレーニングを隔日で行うことも効果的です。


終わりに

今回は筋トレの重要性に焦点を当ててお話ししましたが、スリムで引き締まった健康的なスタイルは、筋トレだけでなく有酸素運動も組み合わせて習慣化することで実現できます。まずはトレーニングプランと目標設定から決めていきましょう。体成分測定ができる環境のある方は、定期的な測定も忘れないでください。これからトレーニングを始めるにあたってInBody測定を検討されている方は、当ホームページで公開している「InBody測定ができる施設」のページからお近くの施設を検索してみてください。

体重計に縛られる目標は止めて、筋肉量(除脂肪量)の増加を目標設定に取り入れてください。筋肉量の増加という観点を持てば、筋トレの効果も正しく測定できるでしょう。体重が増えたことで落ち込むこともなくなり、筋肉量が増えたことが喜びとなります。筋トレを試したことがない、または今までなかなかダイエットに成功したことがない方は、今が行動するチャンスです。外出し辛い時期が続きますが、自重トレーニングや軽いダンベルを使った筋トレは自宅でも実施可能です。まずは一歩踏み出してみましょう。

 

参考文献
1. Stone William J., Coulter, Scott P., Strength/Endurance Effects From Three Resistance Training Protocols With Women. Journal of Strength and Conditioning Research. 8(4):231-234, November 1994
2. Minoru Yamada et al., Age-dependent changes in skeletal muscle mass and visceral fat area in Japanese adults from 40 to 79 years-of-age. Geriatr Gerontol Int 2014;14(Suppl.1):8–14
3. Wayne L Westcott, Resistance Training is Medicine: Effects of Strength Training on Health. Curr Sports Med Rep,Jul-Aug 2012;11(4):209-16
4. Geun Ou Shin et al., Comparison of Body Components and Mineral Mass between Women with Osteoporosis and Non osteoporosis Postmenopausal Women. J Korean Acad Fam Med 2002, 23, 7:934 941
5. Justin C. Strickland and Mark A. Smith, The anxiolytic effects of resistance exercise. Front Psychol, 2014; 5: 753

 

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五大栄養素 -タンパク質Ⅱ-

このトピックの前編を見逃している方は、こちらもご覧ください☞「五大栄養素 -タンパク質Ⅰ-

前回のトピックではタンパク質の役割や、過剰摂取と不足による悪影響についてご紹介しました。今回のトピックでは効率良くタンパク質を摂取する方法をご紹介していきます。


プロテインの種類と効果


プロテインは、加工の過程で脂肪分や炭水化物が取り除かれるため、タンパク質の含有量が高く、タンパク質をたくさん摂取するにはお勧めです。プロテインは牛乳が原料であるホエイプロテイン・カゼインプロテインや、大豆が原料であるソイプロテインなど、様々な種類があります。また、ビタミン・ミネラルを加えることで、タンパク質の吸収効率も高まるので、一緒に摂取するように心掛けましょう。使用目的に合わせて、最適なプロテインを選べるよう、まずはそれぞれの特徴についてご紹介します¹⁾²⁾。

➤ホエイプロテイン
ホエイプロテインは、牛乳に含まれるタンパク質の一種です。ヨーグルトの上澄みにできる液体のことをホエイ(乳清)といいますが、このホエイに含まれるタンパク質がホエイプロテインです。ホエイには他に、ミネラルや水溶性ビタミンが含まれています。

ホエイプロテインには筋肉成分の多くを占めるアミノ酸が含まれており、筋肉修復効果も高いので、トレーニングで強い肉体を手に入れたい方にお勧めです。トレーニング後、効率的に筋肉の回復を促すためにはできるだけ素早くタンパク質を補給することが必要です。ホエイプロテインは吸収がスムーズであることからトレーニング直後の補給にも最適です。筋トレだけではなく、マラソンなどの持久系スポーツ、格闘技・コンタクトスポーツ(ラグビー・アメフトなど)と、広い分野で強靭な体を作りたい方に適しています。ホエイプロテインの味は淡白で飲みやすく、体内への吸収速度はスムーズで胃腸がもたれにくいというメリットがありますが、他のプロテインと比べると価格が比較的高いところが難点です。しかし、種類によってはソイプロテインと混合したものや、プロテイン含有量を控えめにしたものなど、機能や価格面で工夫しているものが多く出回っています。また、ホエイプロテインはその製法によって、タンパク質含有量が異なってくる点も特徴です。

➀ WPC製法…Whey Protein Concentrate(濃縮乳清タンパク質)、濃縮膜処理法
原料になる乳清をフィルターで膜処理し、ろ過して得られた液体を濃縮する製法のため乳糖(ラクトース)が残りやすいです。乳糖不耐症(乳製品に含まれる乳糖を小腸で分解できず、腹痛や下痢を起こす)を持つ人にとっては、腹部膨満感(お腹が張ってごろごろする症状)の原因となる場合もありますが、乳清に含まれるビタミンやミネラルをできるだけ多く残すことができるというメリットがあります。タンパク質含有率が約80%の製品はこの製法で作られていることが多いようです。

➁ WPI製法…Whey Protein Isolate(分離乳清タンパク質)、イオン交換法
WPC製法で分離されたタンパク質をさらにイオン交換処理を施して不純物を取り除くため、高濃度のホエイタンパクが作られます。タンパク質含有率も約90%と高く、お腹の不調になりやすい乳糖の含有率も非常に低いため、日本人に多い乳糖不耐症の方にも適した製法といえます。精製度の高いホエイプロテインを実現するために比較的多くの工数が必要となり、価格は若干高めです。

➂ WPH製法…Whey Protein Hydrolysate(加水分解乳清タンパク質)
加水分解ペプチドとも呼ばれ、微生物に含まれる酵素などを使いWPCをペプチド状態(アミノ酸が十数個から数十個つながった状態)に分離したものです。ホエイ含有率が約95%と高くなり、価格も高めのものが多いですが、比較的少ない摂取量で筋タンパク質合成を促進させることができます。

ホエイプロテインは製法ごとに様々な特徴を持っています。自分にあった製法のプロテインを選んで、タンパク質を効率良く摂取しましょう。

➤カゼインプロテイン
ホエイプロテインと同じく牛乳から作られるのがカゼインプロテインです。主成分であるカゼインは生乳を構成するタンパク質の約80%を占めています。ホエイプロテインが水溶性で吸収が早いことに対し、カゼインプロテインは不溶性で固まりやすく、体への吸収速度がゆっくりであることが特徴です。ダイエット時の間食や運動をしない日のタンパク質補給、就寝前にお勧めです。カゼインプロテインは体への吸収速度がゆっくりであることから満腹感の持続が期待できます。

➤ソイプロテイン
ソイプロテインの原料は、その名の通り大豆のタンパク質部分だけを粉末にしたものです。タンパク質の比率を高め水分や糖質、脂肪を減らし植物性タンパク質を効率的に摂取できます。価格が比較的安いことも特徴の一つです。ソイプロテインはカゼインプロテインと同じく消化吸収速度がゆっくりのため、満腹感が持続しやすく、ダイエットや健康維持をしたい方にお勧めです。加えて、大豆に含まれるイソフラボンの効果で皮膚や骨の強化、血流改善が期待できます。また、イソフラボンは女性ホルモンと似た働きをするので、肌の張りを保つ効果や、女性らしい体のラインをキープすることにも役立ちます。一方で、溶かしたときに粉っぽくなってしまい飲みにくいこともあるため、少量のぬるま湯で溶いてダマにならないようにしてから水を加えるなど、飲みやすくする工夫が必要です。最近では、溶けやすく改良された商品も多く発売されています。


筋肉増強以外でのプロテイン活用法

「プロテイン=運動している人が摂取するもの」というイメージを抱く方が多いですが、あくまでプロテインは「高タンパク食品」です。食事でタンパク質摂取量が足りない方や、タンパク質を多く摂取する必要がある方は普段の食事にプロテインを組み合わせることで効率よくタンパク質を摂取することができます。プロテインを摂取した方が良い人は、アスリート以外にはどのような人が当てはまるのでしょうか?

➤成長期の子ども(ジュニアプロテイン)

子どもは基礎代謝量や活動エネルギー分だけでなく、発育に必要なエネルギーも摂取しなければならないため、栄養摂取が特に重要な時期です。どんなに栄養豊富なご飯を朝・昼・夕に食べたとしても、子どもなので1食で食べられる量には限界があります。食の細い子も中にはいるでしょう。栄養をたくさん摂りたいけれど摂れないという時には、普段の食事に合わせてジュニアプロテインを一緒に摂取することで不足しがちな栄養を補うことができます。また、ジュニアプロテインは一般的なプロテインとは異なり、タンパク質だけでなく鉄分やカルシウムなど子どもの成長に必要な成分が多く含まれています。例えば、朝ごはんに飲んでいる牛乳にプロテインを溶かして一緒に摂取するのはいかがでしょうか?

➤高齢者の筋力・カルシウムサポート

最近では、高齢者のフレイルが問題視されています。フレイルとは、高齢期に筋肉量・筋力の減少など生理的予備能が低下することでストレスに対する脆弱性が亢進し、機能障害、要介護状態、死亡などの不幸な転機に陥りやすい状態とされ、生理的な加齢変化と機能障害、要介護状態の間にある状態を指します³⁾。筋肉量の減少は、フレイルを構成する原因の一つであり、筋肉量・筋力の減少を指すサルコペニアは多くの疾患と関連します。そこでフレイル予防の観点から2020年版の日本人の食事摂取基準⁴⁾では、65歳以上の総摂取エネルギー量に占めるべきタンパク質由来エネルギー量の下限値を前回(2015年版)の13%から15%に引き上げています。筋肉量の減少を防ぐために、運動の推奨は勿論ですが、栄養面からの予防策も必要になります。

例えば、70歳男性・身体活動レベルⅠ(自宅にいて、ほとんど外出しない)の方の推定エネルギー必要量は2,050kcal/日です(下表参照)。この方の推定エネルギー必要量のうち、タンパク質由来のエネルギー量は約308kcal/日になります。タンパク質1gあたりのエネルギー量は約4kcalなので、この方の推定エネルギー必要量を満たした食事メニューでは、タンパク質が約77g含まれるように構成を考える必要があります。食事量が多く取れない高齢者が十分なタンパク質を摂取するためには、食事面での栄養バランスを考えるだけでなく、プロテインなどの補助食品でタンパク質を補っていく必要があります。


「日本人の食事摂取基準2020」エネルギーより抜粋

➤妊婦や授乳期のお母さん

妊婦の方は、胎児及び胎盤などの発育に必要なタンパク質を摂取する必要があり、授乳期のお母さんは、自身に必要なタンパク質に加えて母乳分のタンパク質も摂取する必要があります。妊婦の場合、自身で必要なタンパク質に加えて、妊娠中期で+5g/日、妊娠後期で+25g/日のタンパク質摂取を推奨しています。また、授乳期では+20g/日の摂取を推奨しており、十分なタンパク質摂取が母親だけでなく、胎児・乳児の健康にも欠かせないことが分かります。


「日本人の食事摂取基準2020」タンパク質より抜粋


終わりに

普段、何気なく摂取しているタンパク質ですが、私たちの体に必要な量を摂取できているでしょうか? 同じ年齢・性別の方でも、体格や運動習慣の違いによって必要なタンパク質摂取量は変わってきます。そのため、自分に必要なタンパク質量を把握し、足りない分はプロテインなどの補助食品を上手く組み合わせながら食事メニューを考えてみましょう。

このトピックの前編を見逃している方は、こちらもご覧ください☞「五大栄養素 -タンパク質Ⅰ-

 

参考文献
1.「ホエイ、カゼイン、ソイってなに?プロテインの種類について」 グリコ
2.「かんたん、わかる!プロテインの教科書」 森永製菓
3. 日本サルコペニア・フレイル学会
4.「日本人の食事摂取基準(2020年版)」 文部科学省

 

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猛暑下の運動と生体反応 Part2: 予防策

このトピックの前編を見逃している方は、こちらもご覧ください☞「猛暑下の運動と生体反応 Part1: 熱中症

前回のトピックでは主な熱中症の症状や危険性についてご紹介しました。今回のトピックではそれらの予防法についてご紹介します。


猛暑の中で安全に運動するためには


暑い時期だからといって、運動を控えた方が良いわけではありません。運動で発生する熱の影響を軽減して、熱中症にならないための予防策に取り組めば、夏でも外で運動を楽しむことができます。猛暑の中での運動を考えている場合は、次の内容を心掛けましょう。

➤自分の体調を考慮する
猛暑の中で運動をする際に、一番考慮しなければならないことは自分の体調です。今日の体調は大丈夫か? 暑さに弱い体質ではないか? 暑い環境下で運動することには慣れているのか? 熱中症の症状がもし現れても、対処することはできるのか? などを考えてみましょう。

➤適宜水分補給をする
最も代表的な熱中症予防対策は水分補給です。夏の運動は暑さと運動による多量の汗が要因で脱水状態になりやすく、体温調節機能に影響を及ぼすため、発汗量に見合った水分を補給する必要があります。適切な水分の補給量は、体重減少が体重の2%以内に収まることが目安となります¹⁾。つまり、運動の強度や気温だけでなく、 体格(体が大きい人は小さい人よりも補給量が多くなる)も考慮して水分補給を心掛けることが重要です。アメリカのスポーツ医学大学による運動時の水分補給ガイドラインは次のように定めています²⁾。

運動時の水分補給ガイドライン

運動前 運動前は十分な食事及び水分(運動する4時間前辺りから約500ml程度)を摂取するようにし、前回の運動後から少なくとも8~12時間の回復時間を設けてください。
運動中 喉の渇きに気づいたら水分摂取をするようにしてください。極端な暑さの中では、より喉が渇きやすくなります。しかし、水分のみを摂取し過ぎてしまうと、低ナトリウム血症または水中毒を発症するリスクが高まるため注意が必要です。長時間の運動をする場合は、6~8%の糖質を含む飲み物(スポーツドリンクなど)がお勧めです。
運動後 運動後の体重が減少していた場合、約500~700ml/450gの水分を摂取してください。運動後の食事でも必ず水分補給をしてください。

運動時の水分補給は、カフェイン入りの飲み物は避けてください。運動前にカフェイン入りの飲み物または水を摂取させて運動前後に血液検査を実施した研究によると、カフェイン入りの飲み物を摂取した人は運動後に脱水症を悪化させ、心血管系への負担が大きくなることが分かっています³⁾。従って、運動時の水分補給は水またはスポーツドリンクなどを選択してください。
※脱水時の水分補給についてもう少し詳しく知りたい方はInBodyトピック「脱水時に必要な飲み物は?」、水分摂取量についてもう少し詳しく知りたい方はInBodyトピック「水は飲めば飲むほどいいのか?」もご覧ください。

➤体を冷やす

体温の過度な上昇を抑えることで、熱中症の予防・持久性運動能力や認知機能低下の抑制・多量の発汗による脱水予防ができます¹⁾。

冷却方法は体の内部または外部から冷やす方法があります。内部から冷やす方法は、冷たい飲料などを摂取することで皮膚や筋温を大きく低下させることなく核心温を下げることができます。一方、冷水・アイスパック・送風などを用いて皮膚などの外部から冷やす方法は、筋肉の熱を直接冷やしたり、発汗による熱を発散させたりする効果があります。外部から冷やす場合、首筋やわきの下など、皮膚表面付近で太い血管が通っている部位を冷やすとより早く体温を下げることができます。首の後ろを冷やしてしまうと、視床下部が冷やされ体温が下がったと勘違いしてしまうので、首の横側を冷やすようにしましょう。

運動前・中・後、積極的に冷却することで得られるメリットは熱中症予防効果だけではありません。運動前に体温を低下させると、運動中の体温の許容量(貯熱量)を大きくして運動時間を延ばすことができます。運動・休憩中の冷却は体温や筋温が過度に上昇することを防ぎ、疲労感や暑さなどの主観的な感覚を和らげることができます。そして、運動後の冷却は上昇した体温や筋温を通常に戻して、疲労を軽減したり、筋損傷や炎症反応を抑えたりすることができます。また、体温が上昇した状態が続くと、余分なエネルギーを消耗してしまうため、冷却することでリカバリー効率も向上します。

体を冷却することは熱中症予防に繋がりますが、体温や筋温を適切な状態に保つためには過度に冷却しないことも大切です。例えば、外部から冷やすときはタオルを冷水に浸して軽くしぼり、冷たさを感じなくなるまで当て、再度タオルを冷水に浸して当てるということを2~3回繰り返す程度が適切です。汗を流している時には、風を当てるだけでも冷却効果は期待できます。

➤環境に体を慣れさせる
ほとんどの人は体が暑さに順応するまで約1〜2週間(毎日90分程度)かかります⁴⁾。但し、外部環境によるストレスに体を慣れさせることが大事なので、その環境にただ体を置くのではなく、ウォーキングなどの軽い運動をしたり、室内の温度を外の温度とあまり変わらないように、若しくは少しだけ低くなるようにしてリラックスした状態で過ごしたりするなど、ストレス環境下でもある程度の身体活動や日常活動を行うことが理想です。

➤運動しやすい時間と服装を選択する

1日の気温は朝5~6時頃が最も低く、徐々に上昇し、午後2~3時頃ピークに達します。従って、外で運動するときはこの暑い時間帯を避けるようにしましょう。また、服の素材や色も体温調節に重要です。運動時はポリエステルなど通気性のある生地で作られた明るめの服を着用しましょう。暗めよりも明るめの色の方が太陽光を吸収しにくいので、太陽光の熱を感じにくくなります。


終わりに

人間は周りの環境変化に合わせて適応できますが、全員が同じように暑さに耐えられるわけではありません。体調やその日の気温・湿度などを考慮して運動の可否や内容を検討してください。また、外ではなく冷房の効いた室内で行う、時間帯を変更・短縮する、激しい運動は控えるなど、暑さの中で少しでも快適に運動ができるような工夫をすることで、暑い季節でも運動を楽しむことができます。

このトピックの前編を見逃している方は、こちらもご覧ください☞「猛暑下の運動と生体反応 Part1: 熱中症

 

参考文献
1. 「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック(第5版)」 公益財団法人日本スポーツ協会
2. Brad A. Roy, Ph.D., Exercise and Fluid Replacement: Brought to you by the American College of Sports Medicine. FACSM, FACHE, ACSM’s Health & Fitness Journal: July/August 2013 Volume 17 Issue 4 p3
3. Chapman, Christopher L.; Johnson, Blair D. et al., Consumption of a Caffeinated Soft Drink during Exercise in the Heat Worsens Dehydration. Medicine & Science in Sports & Exercise: May 2018 Volume 50 Issue 5S p386
4. Michael N. Sawka, Julien D. Périard, Sébastien Racinais. Heat acclimatization to improve athletic performance in warm-hot environments. Sports Science Exchange (2015) Vol.28, No.153, 1-6

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猛暑下の運動と生体反応 Part1: 熱中症


日が長く晴れた夏空の下、屋外で運動をしたい、または始めたいと思う人はたくさんいるでしょう。しかし、日本の夏は年々気温が上昇しており、これまでに最高気温が41℃以上を観測した地域もあるほど(2020年6月時点)、猛暑日が増えてきています¹⁾。1980年アメリカでは猛暑への対策ができていなかったために1,700名が²⁾、2003年パリでは14,800名が熱中症に関連した合併症により亡くなりました³⁾。日本でも2018年に熱中症が原因で1,581名 が亡くなっています⁴⁾。猛暑下における運動は、健康を増進するどころか命の危険に繋がってしまう恐れもあります。では、暑い時期の運動は控えたほうが良いのでしょうか?


暑さを感じたときに起こる体内の反応

人間を含むほとんどの哺乳類は、外部の温度変化に左右されずに一定の体温を保つことができる恒温動物です。どのように人体は体温を一定に保っているのでしょうか。

人体は深部の核心温を36.5~37.5℃の一定範囲で維持しようとする体温調節機能を備えています⁵⁾。その核心温を調節する役割を担っているのが脳の視床下部です。外部温度が核心温を変化させるくらい極端である場合、視床下部は体温を正常範囲内に保つために、体を温めたり冷やしたりする指示を出します。

例えば、外部温度上昇の影響で体の核心温が上がると、視床下部は核心温を下げるために体内の血液を皮膚表面の血管に移動させます。これにより血管が拡張されて血液循環量が増えると、体内の熱は皮膚を通して放散されやすくなり、体温は下がります。また、血液循環量の増加に伴い、視床下部は汗腺を活性化させて発汗を促します。汗は蒸発することで肌を冷やし皮膚表面を流れる血液の温度を下げるため、体温はそれに伴って下がります。


様々な熱中症関連症状


体温調節機能は疾患などの問題がなければ自然に働きます。夏の高温環境では皮膚表面の温度が下がりにくいため、体温を汗の蒸発によって下げようとします。しかし、夏場は高い湿度の影響により汗の蒸発は少なくなります。その状態で十分な水分補給ができずに大量の汗をかくと、体温の低下が十分でないまま体内の水分は減少します。そして、体内に熱がこもり体温が高くなると熱中症になってしまう恐れがあります。熱中症に関する症状は様々ですが、熱中症が疑われた時点で適切な処置をする必要があります。熱中症に関する症状は次のようなものがあります。

➤熱痙攣
激しい運動により大量の汗をかいているにも関わらず水分だけを補給していると、血液中の塩分(ナトリウム)濃度は低下し、体内の電解質均衡が崩れてしまいます。酷使した筋肉は痙攣してしまい、触ると鋭い痛みを伴います。熱痙攣は熱中症の中では比較的重症度が軽く、涼しい環境でスポーツドリンクを飲んだり、少しの塩を入れた水を飲んだりすることで治ります。また、痛みがある部位は直接マッサージするよりも、ゆっくりストレッチすることで痛みを和らげることができます。

➤熱失神

長時間の立ちっぱなしや運動、または長時間座っていた後に急に立ち上がったりすると、めまいや一時的に意識を失う症状が起こります。体温を下げるための皮膚血管拡張により、血圧が急激に低下して脳に十分な血液が供給されないことが原因で起こります。意識がある場合は周りの人の助けを借りて、涼しいところに移動し、スポーツドリンクなど電解質を含む飲み物で水分補給しましょう。横になって休む時は脚を少し高めにすると脳への血流を改善できます。首筋やわきの下など、皮膚表面付近で太い血管が通っている部位を冷やすことも効果的です。但し、首の後ろを冷やしてしまうと、視床下部が冷やされ体温が下がったと勘違いしてしまうので、首の横側を冷やすようにしましょう。

➤熱疲労
運動時に限定されず、大量の汗で水分と塩分が過剰に失われて血液量が減少すると起こる症状です。軽度の体温上昇(40℃未満)を伴うこともあり、吐き気・頭痛・嘔吐などを感じ、失神に繋がることもあります。心拍数や呼吸数の上昇・血圧降下が見られ、症状が発生しているときも汗をかき続けるため、肌は冷たくベトベトに感じることがあります。熱中症の関連症状の中でも重症度が高い症状ですが、対処方法は他の熱中症と同じく、涼しいところで横になって休憩を取り、電解質を含む水分をゆっくり摂取します。嘔吐によって水分摂取ができない場合は、医療機関で点滴を行う必要があります。

➤熱射病
熱中症の中でも最も重症度が高く、若年運動選手の主な死亡原因とされているほど危険な症状です。極度の高温状態で運動や仕事をしたり、閉め切った暑い場所で過ごしていたりする人に起こることが殆どです。非常に暑い中、発汗または他の方法で体の熱を放散できなくなると、体温は下がらずに40℃以上まで上昇します。他の熱中症の症状が大量の発汗を特徴としているのに対し、熱射病の場合は皮膚が熱く赤くなり、汗をかかない場合もあります。また、意識障害(反応が鈍い・言動がおかしい・意識がない)が見られ、命に関わる危険性(脳や臓器の損傷・死亡)も高いため、緊急治療が必要です。処置の方法はとにかく体を冷やすことです。冷水に体を浸したり、浸すことができない場合は体にぬるま湯の霧を吹きかけ扇風機で風を当てて蒸発させることで体を冷やしたりします。もちろん、これらは応急処置なので早急に救急車を呼び、搬送を待つ間に行います。


このように高温多湿な環境では体温調節機能がうまく働かないこともあるため、体の不調に注意する必要があります。いつもより汗をかいていたり、めまいや立ちくらみを感じたり、動悸が激しいと感じたときは、必ず体を休めて水分補給をしましょう。更に深刻な兆候が見られた場合はすぐに助けを求め、医師の診察を受けるようにしてください。軽い症状だと思って放置してしまうと、命の危機に繋がる恐れもあります。


運動を控えた方が良いと判断する基準

暑さに耐えられる程度は年齢や健康状態などによって異なるため、運動を避けた方が良い暑さを判断する明確な基準は存在しません。しかし、運動をしても問題ないかを判断するときに活用できる客観的な要素として、暑さ指数(WBGT: Wet Bulb Globe Temperature)があります。WBGTは熱中症を予防することを目的に1954年にアメリカで提案された指標です。気温とは異なり、人体と外気との熱のやり取り(熱収支)に着目しており、熱収支に与える影響の大きい①湿度、②地面・建物・体から出る周辺の熱環境(輻射熱)、③気温の3つを考慮して計測されます。労働環境や運動環境の有用な指針として国際的にも規格化されており、環境省の熱中症予防情報サイトでは日本各地のWBGT情報を確認することができます。また、日本スポーツ協会では下図の「熱中症予防運動指針」を公表しており、WBGT 28℃以上は激しい運動を中止するように示しています⁶⁾。(乾球気温は気温を指します。)

「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック(第5版)」より引用

実際に、環境省によるデータを基に熱中症患者発生率と日最高WBGTの関係を示した下図を見ると、日最高WBGTが28℃を超えると一気に熱中症患者が増えていることが分かります⁷⁾。

「暑さ指数(WBGT)とは?」より引用

ただ、熱中症の発症リスクは年齢・健康状態などにより個人差が大きく、運動強度によっても大きく異なります。特に高齢者や小児は熱中症になりやすく、重症度が高くなりやすいため、より注意が必要です。WBGTによる運動指針を判断材料の一つとして活用し、運動を控えるかどうか決めてください。


脱水時の体成分変化について

脱水は熱中症を引き起こしてしまう主な要因ですが、どのように脱水は評価できるのでしょうか。医療施設では血液・尿検査や医師による所見診断などで脱水症を評価しますが、体重変動からも重症度を評価することができます⁸⁾。何らかの要因で1日のうちに大幅な体重減少が見られる場合は、体内の水分が大量に喪失していることを意味するため、脱水症になっている可能性が考えられます。下図は体重減少率による脱水症の重症度を示しており、体重減少率が大きいほど重症度が高いことが分かります。
「水分と電解質を失う「脱水」を知り、対策をとることが体調管理のテーマ」より引用⁸⁾

InBodyは体水分量を測定することができるため、このような脱水による水分変動を敏感に反映します。実際に、急激な減量を行うレスリング選手を対象に平常時・減量時(脱水時)・再水和時の水分状態を調査した報告もあります⁹⁾。レスリングは体重別で階級が分かれており、試合前日もしくは当日に計量をクリアしなければなりません。そのため、レスリング選手は計量の1~2日前から水抜き(脱水)によって体重を急激に落とそうとします。減量時では体水分量が減少し、再水和時には体水分量が増加する体成分の変化が結果に反映され、体重変動と同様に、基準となる平常時の値と比較することで体水分量の減少率を確認することができます。勿論、体水分量が減少することで水分均衡にも影響が出る可能性はありますが、脱水症は3種類あり、それぞれ水分均衡の変化も異なるため、体重変動と異なり明確な基準を設けることが難しいのが現状です。

また、大量の汗を掻くことによって体内の水分量が減少すると、筋肉量も一時的に減少してしまいます。なぜなら、筋肉量は水分とタンパク質の融合体であるため、体水分量の減少は筋肉量の減少に繋がってしまうためです。このような理由から、InBodyは運動前に測定する必要があります。

次回のトピックでは熱中症の具体的な予防策について紹介していきます。☞「猛暑下の運動と生体反応 Part:2 予防策

 

参考文献
1.「歴代全国ランキング」 気象庁
2. Eric E Coris et al., Heat illness in athletes: the dangerous combination of heat, humidity and exercise. Sports Med. 2004;34(1):9-16.
3. Jean-François Dhainaut et al., Unprecedented heat-related deaths during the 2003 heat wave in Paris: consequences on emergency departments. Crit Care. 2004 Feb;8(1):1-2.
4.「熱中症による死亡者数(人口動態統計)」 厚生労働省
5. J Gordon Betts et al., Anatomy and Physiology. Tyler Junior College. 2013 Aug:167
6.「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック(第5版)」 公益財団法人日本スポーツ協会
7.「暑さ指数(WBGT)とは?」 環境省熱中症予防情報サイト
8.「水分と電解質を失う「脱水」を知り、対策をとることが体調管理のテーマ」 教えて!「かくれ脱水」委員会
9. Alan C Utter et al., The validity of multifrequency bioelectrical impedance measures to detect changes in the hydration status of wrestlers during acute dehydration and rehydration. J Strength Cond Res. 2012 Jan;26(1):9-15.

 

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ストレッチ ‐運動を始めるその前に‐

12月に入り、多くのイベントが控えています。忘年会、クリスマス、お正月、新年会。家族や友人、会社の同僚と飲んだり食べたりしながら、とても有意義な時間を過ごすことでしょう。そして、ふと体重計に乗ると、たくさん飲み食いしたことにより、見たことのない体重が表示されることもしばしば…。それを嫌い、イベント自体に参加することをためらう人も中にはいるのではないでしょうか? 増えすぎた体重を見たあなたは、これをきっかけに普段しないウォーキングやランニング、ジムに通うといった運動を始めると思います。しかし、今まであまり運動をしていない人が焦って急に運動を始めると健康になるどころか怪我に繋がってしまいます。怪我なく安全かつ効果的に運動を行うためには運動前後のストレッチがとても重要です。今回はストレッチについてお話します。


ストレッチを行う効果

運動する前になんとなくストレッチを行っている方はたくさんいると思います。しかし、なぜストレッチをするのかちゃんと理解しているでしょうか? ストレッチを行う効果を理解しているかどうかでストレッチを行う意識が大きく変わるでしょう。

1) 関節可動域を広げ、柔軟性を生む

筋肉だけでなく、関節の柔軟性も年齢と共に低くなります。前はできていた動きが久しぶりにやってみると、できなくなっていた経験は誰しもあると思います。柔軟性が低下すると筋肉が硬くなり、伸縮性がなくなっていきます。その結果、過度な張力がかかりやすい骨と筋肉の付着部分や腱の炎症が起こりやすくなります。それを知らずに昔と同じ感覚で運動を行うと、無理な関節の動きを強いてしまい、腰痛などの関節痛や筋損傷に繋がります。ストレッチを行うことで現在の自分の関節可動域を知ることができます。また、継続的にストレッチを行うことで、関節の可動域を広げて柔軟性を高め、筋肉や腱に無理なく運動を行うことができます。

2) 筋肉の緊張を和らげる


ある運動を一定時間連続して行ったあと、その部位が痛くなってきたという経験があると思います。これはオーバーユース障害と呼ばれます。一般的にスポーツでの怪我は➀衝突などの突発的なアクシデントによって発生するスポーツ外傷(捻挫、肉離れなど)と、➁同じ動作を繰り返して起きる慢性的な痛みであるオーバーユース障害 の2つに分けられます。オーバーユース障害で代表的なものがこうした筋肉の使い過ぎによる腰痛などの関節痛です。筋肉は伸びたり縮んだりしながら動いています。しかし、同じ動作を繰り返していると、伸び縮みが頻繁になってしまうので、その部位の筋肉はやがて弾力性を失い、硬くなってしまいます。硬くなった筋肉は、血液を送り出すポンプとしての働きが弱まってしまい、血液が流れづらくなります。その結果、老廃物が溜まりやすくなることから疲労回復が遅くなったり、腰痛などの痛みを発生させてしまいます。また、そういった血行不良は余分な水分貯留によるむくみや、血液滞留による冷えなどの原因にもなります。ストレッチを行うことでこういった様々な体調不良を改善することができます。InBodyの細胞外水分比(ECW/TBW)を確認してみましょう。この項目は怪我の炎症マーカとして反応するだけでなく、水分貯留(むくみ)も反映して値が高くなることが知られています。
※ECW/TBWの標準範囲は0.360~0.400で、一般的にECW/TBWは0.400を超えると高いと評価します。

3) 血液循環促進による疲労回復


筋肉を伸ばしてあげることで血液循環が促進されます。血液がよく循環するようになると、酸素や栄養が身体の隅々まで行き渡るだけでなく、筋肉内の血液に存在する疲労物質が取り除かれ、筋肉の回復が更に促進されます。デスクワークで同じ姿勢を取っていたり、同じ運動を長時間続けていると、同じ筋肉ばかり使うことになり、筋肉が収縮したまま硬くなってしまいます。いわゆる「コリ」の状態です。ストレッチを行い、硬くなってしまった筋肉をほぐすことでコリや筋損傷を改善し、疲労回復を早めてくれます。

4) リラックス効果


ストレッチを行った際の刺激が中枢神経に伝わることでリラックスした状態の副交感神経を優位にしてくれます。そして、呼吸しながらスローペースでストレッチを行うことで、神経の興奮を落ち着かせてくれます。何か気に入らないことがあってイライラしている日は、ストレッチを行って気持ちを落ち着かせましょう。


動的ストレッチと静的ストレッチ


皆さんがストレッチと言われて思い浮かべる動作の多くは静的ストレッチに該当します。座った状態で前屈をしたり、腕を胸の前で組んで伸ばしたり。これらはすべて、実際の身体の動きを含まない静的ストレッチです。一方、動的ストレッチは実際に身体を動かしながら行います。筋肉を動かしながらストレッチを行うことで筋肉が熱を持つようになり、柔軟性が高くなっていきます。皆さんが一度はやったことがある「ラジオ体操」は動的ストレッチに分類されます。一般的に、運動前は動的ストレッチ、運動後は静的ストレッチが適していると言われています。運動前に動的ストレッチを行って筋肉や関節の柔軟性を高め、運動後は静的ストレッチを行うことで疲れが残らないようにします。

動的ストレッチは身体を動かしながら行うため、筋肉に様々な刺激が入ります。すると、交感神経が優位になり、「これから運動するぞ! 」というやる気に満ちた状態にしてくれます。静的ストレッチはリラックス状態に関わる副交感神経を優位に働かせて、身体が回復状態になっていきます。静的ストレッチを運動前に行ってしまうと副交感神経が優位になってしまい、これから運動を始めるのに向かない状態(=リラックス状態)になるため、静的ストレッチを運動前に行うことは適していません。クロアチアで発表された論文では、プロのアスリートに対して運動前に静的ストレッチを同じ部位で45秒以上行うと筋力が平均5.4%、瞬発力も平均2.0%減少し、ストレッチの長さが90秒以上になると更に筋力が低下すると報告されています¹⁾。


ストレッチを行うときに気を付けること

実際にストレッチを行う際は次の点に気を付けましょう。

➤ 無理に筋肉を伸ばさない
関節の可動域を広げたい、筋肉をもっとほぐしたいからといって、痛みが出るまで伸ばすのは避けましょう。筋肉は急激に伸ばされてしまうと、損傷を避けるために自分の意志に関係なく縮まります。これを伸張反射と言います。伸張反射が起きてしまうとせっかくのストレッチの効果が得られにくくなるので、身体に無理のない範囲で行うように心がけましょう。またその際は、痛みが出ないようにゆっくりと時間をかけて伸ばしていただくことをお勧めします。

➤ 呼吸を止めないようにする
体内の酸素が不足すると、筋肉は緊張状態になりやすくなります。筋肉がほぐれやすくなるように必ずストレッチ中は呼吸を止めないように意識しましょう。静的ストレッチの場合、深呼吸を行っていただくことでよりリラックス効果が高まります。


終わりに


ストレッチを行う意味を理解して身体に無理のないストレッチを運動の前後で行うことで、運動効果を高めたり、その後の疲労回復や怪我の予防に役立ってくれます。もちろん、運動前後でなくてもデスクワークの合間や寝る前など、日常の様々な場面でストレッチを取り入れることで、生活がより健康的なものになるでしょう。

 

参考文献
1. Simic L, Sarabon N, Markovic G, Does pre-exercise static stretching inhibit maximal muscular performance? A meta-analytical review. Scand J Med Sci Sports. 2013 Mar;23(2):131-48.
2. InBodyトピック「良い痛みと悪い痛み
3. InBodyトピック「疲労と回復のメカニズム

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健康美に対する認識が間違っている理由


美しさの基準は人それぞれですが、多くの人が(特に女性)考えている “理想的な体” というものは、実はそれほど健康的ではないことがあります。「これから運動をはじめよう」と行動を起こす背景には、自身の生理学的経験や心理的感情が複雑に絡んでいます。生い立ち・国柄・文化などは健康美に対する認識へ関係していますが、テレビ・雑誌・広告・SNSなどメディアで目にするものも、健康や運動意欲に大きく影響を与えます。

スーパーモデルの例を見てみましょう。平均的な体型とかけ離れている、とても細い体のモデルが理想として宣伝されています。しかし多くのモデルは、コットンボール・ダイエット(綿を食べることで満腹感を得るダイエット)のような不健康で危険なダイエットによって、その薄っぺらい体を維持しています。そして、メディアを通してスーパーモデルを目にした人々や、モデルに憧れる若い女性達は、そのモデルの体型を理想的な体と捉えます。これは間違った健康美を印象付けてしまう一例に過ぎず、その他にも誤解を与えてしまう要素はたくさんあります。


健康で綺麗になるための選択


偶像化された体型は、必ずしも健康的なライフスタイルによって生みだされているという訳ではありません。摂食障害のひとつである「オルトレキシア(orthorexia)」という言葉を聞いたことがあるでしょうか? 一般的な摂食障害との大きな違いは、カロリーや量ではなく質に異常なまでに執着してしまうことで、グルテン・オイル・糖質・添加物・動物性食材などを徹底的に制限し、極端な偏食になっていきます。「健康的」と考えられる食事以外を信じられなくなっている状態なので、不健康なものを摂取することに過剰な不安や恐怖心を抱き、制限を破ってしまうと嘔吐したりしてしまうこともあります。結果、ビタミン・ミネラル・タンパク質など健康を保つために必要不可欠な栄養素が不足し、重度な栄養失調や神経性やせ症など様々な病気を引き起こしてしまいます。体脂肪は多過ぎても健康には良くありませんが、少な過ぎても良くありません。体脂肪は体温調節やホルモンの材料としても使われており、生命維持のためにも必要な成分です。

美意識が高いと言われるモデルや女優、セレブらによって、オーガニックフード・ヴィーガン・スーパーフード・スムージーなどお洒落なライフスタイルが毎日のようにSNSで拡散されている今日では、「こういう食事を取らなければ健康になれない」と受け取ってしまうのも致し方ありません。しかし、痩せることを望んで(体重を減らしたくて)生じる拒食症とは異なり、オルトレキシアは純粋に健康的で自然体になりたいことを望んで発症しているため、自身が摂食障害であることを理解するのが難しく、不健康な状態もなかなか気づきにくいです。


本当に意識すべき健康マーカー

体重とBMIが標準に入っているからと、安心していませんか? 健康と考えていた体が、実際は健康とかけ離れているということはないでしょうか? 体重とBMIは、健康状態を評価する指標としては十分ではないと指摘されているにもかかわらず、最も長く使用され、最も一般的に使用されている項目です。体重やBMIは手軽に測定できるので、自身の体型評価をこれらに頼っているという方も多くいますが、体重やBMIは見かけの肥満度にしか過ぎません。BMIは単純に身長と体重の比率に過ぎず、その比率で低体重(BMI18.5未満)・普通体重(BMI18.5~25.0)・肥満(BMI30.0以上)を決定します。BMIだけで健康を評価すると、筋肉量が多い健康なスポーツ選手が肥満(不健康)に分類されたり、代謝異常によって過剰に体脂肪量が貯蓄されている患者が標準体重(健康)に分類されたりしてしまうことも問題です。性別・身長・体重が同じでも、見た目や体型はまったく異なるという場合もあります。このことから、体成分がとても重要であるということが理解できます。

体成分分析は体を構成している各成分を定量化して、その過不足を評価します。単純に体重を筋肉量と体脂肪量に分けるだけでなく、筋肉を構成している体水分量とタンパク質量をそれぞれ表示し、除脂肪量は筋肉量とミネラル量の合計として、体系的に表示します。全ての成分が定量化されることで、本当の意味で筋肉質であるのか、痩せているのかを評価できます。痩せているとは、身長に対して必要な体重が足りていないこと(標準体重より軽いこと)を指しますが、体重は標準体重であっても、筋肉量が足りていない痩せタイプ(隠れ肥満・痩せ肥満体型・サルコペニア肥満・スキニーファット)も確認することができます。


全てを手に入れることはできません

運動をする目的は、大きく分けると次の3つです。
➤ スタイルを整えて外見を良くするため
➤ 健康のため
➤ スポーツ活動でパフォーマンスを向上させるため
残念なことに、この3つの目的を同時に達成することはできません。それぞれの目的を達成するには、異なるアプローチ、トレーニングが必要であるためです。そして、このような目的を持ち運動をしている方は、必ずしも健康体・健康美であるという訳ではありません。

スタイルに関して間違った理想を持ち、その理想に近づくことだけを目標にしていると、過剰なトレーニングや偏った食事など不健康なライフスタイルにたどり着くこともあります。健康のためと考えて選択した行動であっても、夢中になり過ぎると、疲労感・脱力感・無気力・罪悪感などに苛まれ、精神的な症状が発生することもあります。一見、不健康とは真逆にいるようなトップアスリートの中には、肝不全を経験したボディービルダーや心臓発作を起こしたレスリング選手もいます。

 


バランスの良い食事と一緒に好きなものを食べましょう。健康だからと言って、特定のものだけを食べ続けるようなことはしないでください。野菜・果物・穀物・赤身のタンパク質など、栄養豊富な食事を目指して努力することが大切です。糖質を少しでも抑えたい場合は、炭水化物を一切抜くのではなく、ごはんを大麦に置き換えるなど工夫してみましょう。大麦はg当たりの糖質がごはんの約1/2で、食物繊維は約20倍もあります。栄養が適切に補給できていること、過度に制限されていないことを確認してください。

 


好きなトレーニングを選択してください。ランニングが嫌いだからと言って、有酸素運動を避けてはいませんか? 有酸素運動はランニングが全てではありません。水泳・ハイキング・サイクリング・ヨガ・ローイングエルゴなども有酸素運動として選択肢になります。筋トレには、重いウエイト器具だけが効果的であると考えていませんか? トレーニングチューブや体重を使ったトレーニングも効率よく筋肉を鍛えることができます。様々なトレーニングを試して、自分に合ったものを探してみましょう。

十分な休養と睡眠を取ってください。睡眠は筋肉の成長や喪失に関わる体内のホルモン分泌に直接影響するので、体成分にとって重要な要素です。水分補給も忘れないでください。人体の大部分は “水” です。脱水は、筋肉疲労・めまい・頭痛などの諸症状を引き起こします。

健康美に対する認識が間違った状態で、食事・運動・ダイエット方法などを決定しないでください。健康の焦点を体成分に当ててみると、今後の選択が変わってくるかもしれません。

 

参考文献
1. InBodyトピック「体成分測定が必要な3つの理由」
2. InBodyトピック「カーボローディングとは」
3. InBodyトピック「疲労と回復のメカニズム」
4. InBodyトピック「脱水時に必要な飲み物は」

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HIIT -現代人向けの時短トレーニング法-

HIIT(ヒット、High-Intensity Interval Training)というトレーニング法をご存じでしょうか。
日本語では高強度インターバルトレーニングと表し、短時間の激しい運動を繰り返し行うことで大きくエネルギーを消費するトレーニング法です。 “定期的かつ適切な運動は、健康であり続けるために重要” と分かってはいても、実際に運動する時間を確保することは、仕事や家事、育児など日々時間に追われている現代人にとって至難の業となっています。そんな現代人にお勧めしたいトレーニング法がこのHIITです。毎日たった数分運動するだけで、何十分も運動を行ったことと同様の効果が得られます。今回はこのHIITについてお話ししていきます。


HIITとは?

「全力の運動を反復して行う」という運動は心肺機能を高めるために昔から行われていましたが、科学的な根拠はなく、これまでの経験則によるものでした。少しずつ研究は行われていましたが、1990年代に日本でスピードスケート選手のトレーニング法として科学的に取り入れられてから¹⁾、世界的に注目されるようになっており、関連研究の発表も増えています。HIITは20秒~数分間の激しい運動とそれより短い時間での休息や軽い運動を繰り返し行います。激しい運動・軽い運動の内容はダッシュ運動やジョギング、筋トレ、ジムで用いられるエアロバイクなど様々です。ここでは、いくつかHIITのトレーニング例をご紹介します。
➤ (全力自転車エルゴメーター20秒+休息10秒)×8セット
全力(最大酸素摂取量の170%にあたる強度)で自転車エルゴメーターを20秒間行い、休息は10秒と短めに取ります。これを1セットとして、最低8セットは繰り返し行います。セット間の休息は取らずに、連続で8セット行います¹⁾。
➤ (全力ダッシュ4分+ジョギング3分)×4セット
全力(最大心拍数の90-95%の強度)でのダッシュ4分と、最大心拍数70%程の強度でジョギングを3分間行います。これを1セットとして、セット間休憩は入れずに4セット繰り返します²⁾。
➤ (水泳自由形全力100m+休息20秒)×8セット×2回
全力で100mの自由型と休息20秒を1セットとします。セット間休憩は入れずに8セット繰り返します。8セット行った後、2分間の休息を取り、同じ8セットをもう1回行います³⁾。

他にも腕立て伏せやスクワット、腹筋など、自分の好きな運動にHIITを取り入れることができます。いずれの運動でも重要なのは、激しい運動を行う際は手を抜かずに自分が出せる力を出し切る点です。短時間で行える分、いかに自分を追い込むことができるかで得られる効果が大きく変わってきます。


HIITが身体に与える効果

➤ 筋肉
有酸素運動と無酸素運動を組み合わせているため、筋肥大だけでなく筋持久力も上がります。これまでは目標に応じてトレーニングの強度や回数を調整する必要がありましたが、HIITを行うことで有酸素運動と無酸素運動を一緒に行うことができます。運動時間を短くすることができるだけでなく、行う運動の種類も減らすことができます。
➤ 最大酸素摂取量(VO₂max、単位:ml/kg/min)
最大酸素摂取量とは、1分間に体重1kgあたり取り込むことができる酸素の量です。私たちは体内で糖や脂質を分解してエネルギーを作り出す際、酸素を利用しています。VO₂maxが増加することで体内に取り込むことができる酸素の量が増え、運動強度が高くなっても、長時間運動できるように耐性が付くことから全身持久力の指標としても用いられます。脂質の分解にも酸素が使われることから、脂肪燃焼効率も上がります。HIITを行うことで持久力が上がるだけでなく、脂肪が燃えやすい身体になっていきます。また、前項のように、運動強度を決める指標としても用いられます。
➤ 体脂肪
HIITは内臓脂肪だけでなく皮下脂肪も燃焼するとの報告があります⁴⁾。皮下脂肪は皮膚のすぐ下に付いている脂肪で、内臓脂肪は内臓や腸の周りに付いている脂肪を指します。女性は皮下脂肪が多く、男性は内臓脂肪が多い傾向があります。体脂肪が落ちるとき、内臓脂肪→皮下脂肪の順で体脂肪は落ちていきます。最初に内臓脂肪が落ちていくことから、トレーニングを始めてもすぐに体型は大きく変わらず、本当に効果があるのか疑心暗鬼になってしまいますが、継続して行うことで皮下脂肪も落ち始め、体型に変化が起こってきます。InBody570・470・270では体脂肪量以外にも内臓脂肪レベルで内臓脂肪量を推定することができます。

内臓脂肪レベルは推定された内臓脂肪断面積の1桁を切り捨てて、レベルとして表した値です(ex.内臓脂肪レベル7=70~79cm²、15=150~159cm²)。肥満診断で、内臓脂肪断面積≧100cm²が肥満として診断されることから、内臓脂肪レベルは10以下を維持することを目指します。このように、体脂肪量と内臓脂肪レベルの減少からもトレーニング効果や進捗度合い、健康状態を確認することができます。定期的に測定することで自分の身体の変化を楽しみながら、HIITに取り組むと良いでしょう。体成分の変化を追うには2~4週間毎に測定を行うことを推奨します。


リハビリにおけるHIIT

現在、HIITはプロアスリートのトレーニングだけでなく、リハビリの現場でも用いられています。病気や事故から日常生活に戻れるようリハビリを行う際に、このHIITを応用したトレーニングが用いられます。リハビリとして行われるHIITはプロアスリートが行うような激しい運動ではなく、徒歩や階段の昇降といった日常の動作です。日常の簡単な動作でも、リハビリを行う患者にとっては十分強度の高い運動となります。ノルウェーで行われた研究⁵⁾では安定した冠動脈疾患患者において、トレッドミル上でHIIT(VO₂peakの80-90%強度の歩行)と従来の中程度の持続運動(VO₂peakの50-60%強度の歩行)をそれぞれ行うと、VO₂peakの改善率が、従来の中程度の持続運動よりもHIITの方が約10%有意に高くなったことを報告しました。
※VO₂peak…最高酸素摂取量のこと。最大酸素摂取量(VO₂max)は酸素摂取量の理想値を示すのに対し、最高酸素摂取量は酸素摂取量の実測値の最大値を示します。

日本国内では患者の安全性が指摘されており、実際にHIITをリハビリに導入している施設はとても少ないです。しかし、欧米では長期にわたるHIITのリハビリ効果や安全性に関する研究が進められており、今後、日本でも導入例が増えてくるかもしれません。ここで注意すべき点は、高強度というのは絶対強度ではなく相対強度であるという点です。リハビリを行う患者にとって、無理のない範囲で運動を行えるよう、適切な運動強度を設定することはとても重要です。
また、苦しいリハビリは何かしらの目標がないと継続するモチベーションを維持することができません。InBodyで測定した各部位の筋肉量や基礎代謝量といった数値の改善を、リハビリのモチベーションに繋げることができます。実際にInBodyを、リハビリの評価や動機づけとして使っている施設や企業はたくさんあります。
※リハビリの評価として活用している企業の一つを取材した「活用事例:取材 ツクイ~要介護高齢者向けの機能訓練の尺度~」もご覧ください。


終わりに

HIITは勿論のこと、トレーニングで効果を上げる最善の方法はトレーニングを習慣づけることです。せっかく始めたトレーニングも継続的に行わなければ効果を得ることはできません。習慣づけを断念する大きな要因の一つが、トレーニングに時間を多く取られてしまうということだと思います。短時間で行えるHIITは習慣づけのハードルを下げ、日々のちょっとした時間に行うだけで十分トレーニング効果が期待できます。

 

参考文献
1. Tabata I et al., Effects of moderate-intensity endurance and high-intensity intermittent training on anaerobic capacity and VO2max. Med Sci Sports Exerc. 1996 Oct;28(10):1327-30.
2. Helgerud J et al., Aerobic high-intensity intervals improve VO2max more than moderate training. Med Sci Sports Exerc. 2007 Apr;39(4):665-71.
3. Petros G. Botonis et al., Concurrent Strength and Interval Endurance Training in Elite Water Polo Players. J Strength Cond Res. 2016 Jan;30(1):126-33.
4. Boutcher SH., High-intensity intermittent exercise and fat loss. J Obes. 2011;2011:868305.
5. Rognmo Ø et al., High intensity aerobic interval exercise is superior to moderate intensity exercise for increasing aerobic capacity in patients with coronary artery disease. Eur J Cardiovasc Prev Rehabil. 2004 Jun;11(3):216-22.

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ホットヨガが代謝に及ぼす作用

ホットヨガは世界中で流行っているエクササイズの1つです。伝統的なヨガは、今から5000年以上も前からインドで行われており、現在までその人気は続いていますが、これには理由があります。ヨガは、柔軟性の向上・高血圧や心機能の改善・精神力の育成などの効果があります。一方、ホットヨガは大量に汗を掻くことで代謝が良くなり多くのカロリーを燃焼するので、デトックス効果が高まります。

ホットヨガは室温40℃前後、湿度40%~60%のスタジオで一連のエクササイズを行います。このように高温多湿な環境で行うヨガは、血流を良くし、筋肉が温まることでストレッチの効果も高まり、リンパの流れが良くなることで毒素の排出を助けるといわれています。しかし、このような主張のいくつかは、研究によって科学的に検証されていない点もあるということに留意してください。

運動中、体に熱ストレスを与えると筋肉代謝に影響すること¹⁾は明らかになっています。熱ストレスに長時間さらされることで代謝速度が向上するので、ホットヨガが実際に代謝へ影響している可能性は期待できます。今回のトピックではホットヨガと代謝の関係をもう少し詳しく考えていきます。先ずは、代謝と代謝率についてお話しします。


代謝と代謝率とは


代謝とは、体内に取り入れたもの(食べ物や飲み物)と酸素が組み合わさって、体に必要なエネルギーを生成する一連の合成や化学反応のことです。代謝は主に体成分と体力に由来します。代謝率とは、細胞の修復・呼吸・血液循環の維持など生命維持に必要なエネルギーをカロリーで表示した、代謝速度のことです。代謝速度が速くなると、体の機能を最適に維持するために必要なエネルギーが増えることになります。

基礎代謝量は、安静時でも生命活動を維持するために必要な最小限のエネルギーをカロリー(kcal)で表したものです。筋肉は多くのカロリーを消費するので、筋肉量を維持するためにもより多くのエネルギーが必要です。つまり、筋肉量が多い人は安静時でも多くのカロリーを消費するので、代謝率(基礎代謝量)も高くなります。カロリーの消費を増やす、もう1つの方法は身体活動です。身体活動が筋肉の需要を増大させ、筋肉を機能させるために更にエネルギー源を必要とします。InBodyでは全機種でカニンガム公式を利用した基礎代謝量を提供しているので、簡単に自身の基礎代謝量を調べることができます。また、一部の機種では推奨エネルギー摂取量も提供しており、体成分が標準に入っていない方が適正に近づくために摂取すべきエネルギー量も参考にすることができます。
※推奨エネルギー摂取量を提供している機種はInBody570・470・270です。健康な方における1日に必要なエネルギー推定量を算出したあと、InBodyで測定した体成分を考慮して補正した値です。体重と骨格筋量が両方とも標準範囲未満である場合は推奨エネルギー摂取量が増加し、体重と体脂肪率が両方とも標準範囲以上である場合は推奨エネルギー摂取量が減少します。

代謝率は個人で異なります。体の形・大きさ・体成分は個々で異なるので、代謝率が一致することはありません。代謝率に関わる遺伝的要素は変えることはできませんが、身体活動によって代謝率を高めることは可能です。先ほど、筋肉量が多いと安静時のカロリー消費量も増えることを説明しました。つまり、筋トレによる筋肉の構築は、代謝率にも大きな影響を与えるということです。有酸素運動も1日を通して消費するカロリー量を増やすため、一時的に代謝を高めます。有酸素運動と筋トレを組み合わせたHIIT(高強度インターバルトレーニング)が、運動後過剰酸素消費量(EPOC)を増やすことで代謝を効果的に高めることができると報告している研究²⁾もあります。代謝率を高める別の方法、熱ストレスによる方法は、次の項で見てみましょう。


熱が基礎代謝量に与える影響


性別・身長・年齢も代謝に作用しますが、これらの要因は変えることができません。しかし、体温を制御することでカロリーの燃焼を増やすことができます。体の内部温度と外部温度がどのように代謝率に影響するのでしょうか。

➤ 内部温度
体の内部温度が高くなると、体は正常な体温まで戻そうと化学反応が強く働くため、代謝速度が速くなります。例えば、発熱している時、基礎代謝量は通常よりも遥かに高い数字まで跳ね上がりますが、それは発熱を抑え健康な状態に戻そうと、細胞の代謝反応が増えるためです。

➤ 外部温度
内部温度の変化とは異なり、外部温度によって基礎代謝量を上昇させるには、体を熱ストレスに長時間さらす必要があります。短時間の熱ストレスでは代謝に影響を与えることができません。体に熱ストレスを長時間浴びせることができる代表的なものがホットヨガです。これが、多くの人がホットヨガに惹きつけられている理由の1つです。


ヨガとホットヨガの利点


先ず、従来のヨガの利点から説明します。ヨガで行う独特のポーズは、バランス能力・柔軟性・筋肉の構築を改善し、怪我の予防にも役立ちます。ヨガは筋肉を伸ばすことでストレスを緩和し、精神面にも作用します。定期的にヨガを行えば、肥満を防ぎメタボリックシンドローム発症のリスクを減らすと報告した研究³⁾もあります。

ホットヨガは従来のヨガと同じ利点を持ち、更にいくつかの利点が加わります。暖房が利いている部屋で大量の汗を掻くことは体に悪い影響を及ぼすこともありますが、
①トレーナーの指導に従うこと
②水分補給を行うこと
③自身の耐熱性を把握すること
でホットヨガは安全に行うことができます。高齢者を対象にホットヨガプログラムを8週間実施した研究⁴⁾でも、BMIが大幅に減少し体成分が改善されたことを報告しています。ホットヨガは体温より遥かに高い環境で行われるので、体が熱ストレスに長時間さらされることで基礎代謝量も上がり、体成分の改善が期待できます。


終わりに

代謝活動は睡眠中など無意識の状態でも常に行われており、生命活動にとって重要な機能を果たしています。代謝率は人それぞれ異なりますが、HIITや熱ストレスを利用したホットヨガなどの身体活動で高めることができます。一見、ホットヨガは大量に汗を掻いている姿から過酷な運動のように見えるかもしれませんが、得られる効果も大きく、行うだけの価値があるかもしれません。ホットヨガは柔軟性・精神力・代謝率の向上に加え、体成分の改善にも役立ちます。

何か新しいことにチャレンジしたいというあなた、マットを広げて汗を掻いてみませんか?

 

参考文献
1. Febbraio MA et al., Muscle metabolism during exercise and heat stress in trained men: effect of acclimation. J Appl Physiol (1985). 1994 Feb;76(2):589-97.
2. Skelly LE et al., High-intensity interval exercise induces 24-h energy expenditure similar to traditional endurance exercise despite reduced time commitment. Appl Physiol Nutr Metab. 2014 Jul;39(7):845-8.
3. P.B. Rshikesan et al., Yoga Practice for Reducing the Male Obesity and Weight Related Psychological Difficulties-A Randomized Controlled Trial. J Clin Diagn Res. 2016 Nov;10(11):OC22-OC28.
4. Zoe L. Hewett et al., The Effects of Bikram Yoga on Health: Critical Review and Clinical Trial Recommendations. Evid Based Complement Alternat Med. 2015;2015:428427.

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良い痛みと悪い痛み

高強度の運動を続けるとき、「筋肉痛がないと筋肉は増えない」と考えながらモチベーションを維持する方が多いでしょう。運動した次の日に筋肉痛があると、筋肉が作られていると思い、やりがいを感じるかもしれません。しかし、運動後の痛みは全て筋肉が作られているとは限りません。痛みのパターンと原因は様々ですが、どの痛みも体で「何かが起こっている」ことを知らせる伝達反応です。痛みを正しく理解することで、運動を続けても良いのか運動を中止して専門家に相談すべきなのかを判断できるようになります。では一体、どの痛みが良い痛みで、どの痛みが悪い痛みなのでしょうか。今回は痛みについて詳しくお話しします。


痛みを正しく理解するために確認すること


痛みには良い痛みと悪い痛みがあります。例えば、固くなっている筋肉をマッサージでほぐす時に感じる痛みは「良い痛み」です。逆に、姿勢の問題が原因で、朝起きて首が痛いなどの場合は「悪い痛み」と言えるでしょう。そして高強度の運動で体が限界に近づいた時に感じる痛みは、良い痛みとも悪い痛みとも言えず、この間に位置します。専門家が痛みの種類を見極める判断材料は、痛みが発生した状況・痛みの強度・痛みの頻度・痛みが発生している部位・痛みの質があります。痛みの頻度や発生している部位について判断するのは難しくないため、他の項目について簡単に説明します。

➤ 痛みが発生する状況
状況とは「いつ、どのタイミングで痛みが発生するのか」を予想するために最も重要な部分です。常に痛いのか、特定の動きをすると痛いのか、この痛みのパターンを知っておくことで、痛みを防ぐためにできることを考え、工夫することもできます。

➤ 痛みの強度
どれだけ痛みがひどいのかを把握することも重要です。これを把握しやすくするためには、痛みを数値化する方法、VAS(Visual Analogue Scale)・NRS(Numerical Rating Scale)・FRS(Face Rating Scale)などがあります。現在の痛みがどの程度かを把握することで、痛みの状態をより客観的に理解し、痛みの緩和や悪化のスケールとしても使用できます。

➤ 痛みの質
痛みを説明する表現は様々です。例えば「脈打つような」「ズキズキするような」「電気が走るような」「しびれるような」「凍てつくような」など、今の痛みがどのような性質なのかを具体的に表現することで、痛みの原因を特定し、性質が違う痛みを分けてそれぞれで評価することができるようになります。


痛みの種類


痛みは大きく次の3つに分類できます。

1. 侵害受容性疼痛
怪我や火傷をしたとき、侵襲性がある手術の回復期に感じる痛みがこれに該当します。この痛みの原因は炎症によるもので、炎症から発生した疼痛物質が末梢神経を刺激し、痛みを感じるようになります。この痛みは、体がまだ回復しきれていないというサインです。この状態で体を動かすと、痛みが悪化したり、最悪怪我が再発したりしてしまうケースもあります。この痛みは、回復期には必ずある反応なので心配いりませんが、治った後まで続くと慢性の痛みに発達するため注意が必要です。

2. 神経障害性疼痛
何らかの原因で痛みを司る神経経路(中枢・脊髄・末梢神経)で損傷がある場合に生じる痛みです。大怪我をした人が、怪我の完治後でも「前みたいに動けない」と感じたり、以前は痛くなかった動作で痛みを感じたりしてしまうというケースがこれに該当します。

3. 心因性疼痛
身体の異常が原因で起こるのではなく、心理的な原因で発生する痛みです。社会的・心理的ストレスによって急に痛みを感じることがこれに該当します。

激しい運動による筋肉痛は1番目の侵害受容性疼痛に該当します。この痛みは運動をする人であれば誰でも経験がある痛みで、炎症反応から来る筋肉痛は怪我とは異なりますが、侵害受容性疼痛の一種である炎症性疼痛と分類されます。しかし、筋肉痛の中でも遅発性筋肉痛(Delayed Onset Muscle Soreness; DOMS)と言われるこの筋肉痛には注意を払う必要がある場合もあります。

DOMSは激しい筋トレを行った後、数時間後から数日後によく発生する痛みです。DOMSの原因はいくつかありますが、筋トレによって筋線維単位の損傷が起こり、この損傷や筋肉の過度な疲労など、複数の要因が重なって発症するものが一般的です。筋肉は損傷の回復過程で発達しますが、この痛みが続いている間は安静が必要です。回復にかかる時間は運動強度によって異なりますが、一般的には1~2日かかります。痛みが残っている状態で無理して運動を行うと、怪我に繋がる恐れがあります。関節や筋肉が運動でかかる衝撃に弱くなっており、疲れた筋肉を補助するために無意識に他の筋肉を使ってしまうためです。更に、筋肉痛は痛覚を鈍らせるため、気づかないうちに筋肉を酷使し、筋肉が大きく損傷する恐れもあります。では、DOMSはどのような対処方法があるのでしょうか。簡単にできるDOMS対策をいくつかご紹介します。


DOMSの対策


➤ アイシング
怪我をするとその部位が他の部位より少し熱く、熱を帯びています。損傷によって炎症が発生すると炎症部位が熱くなりやすく、筋肉痛も例外ではありません。そのため、氷やアイシング用のスプレーで筋肉痛の部位を冷やすと炎症を抑える効果があり、一時的に鎮痛剤を飲んだような効果があります。また、激しい運動後に定期的にアイシングすることは凝り予防にも繋がります。

➤ マッサージ
マッサージは筋肉痛による筋肉の緊張や痛みを和らげます。運動後には筋肉が固くなり、血行が悪くなりやすいため、マッサージで固くなった筋肉をほぐし、血液循環を促進することで回復を促す効果が期待できます。

➤ ストレッチや軽めの運動
ストレッチや軽いウォーキングなどの軽めの運動は、筋肉痛から最も早く回復できる方法です。軽い運動を2-30分程、体に大きい負担にならないほど続けることでマッサージと似たような血行改善の効果が得られます。

DOMSは運動の強度を上げた時や、新しい運動を始めたばかりのタイミングでよく起こりますが、適切な休憩を取ることで運動強度を維持できます。しかし、休まず運動することはオーバーユース障害(overuse injury)に繋がる恐れがあります。


オーバーユース障害


オーバーユース障害は同じ活動を頻繁に、高強度で長期間続けた時に起こります。テニス肘や野球肘、ジャンパー膝と呼ばれる負傷は典型的なオーバーユース障害です。体が十分回復できるほどの休みを取らずに運動を続けると、筋肉に繰り返し強いストレスがかかり、肉離れや疲労骨折の原因となります。また、間違った姿勢で長期間トレーニングを行うことは筋肉不均衡、筋肉弱化、柔軟性の低下等を引き起こします。InBodyの部位別筋肉量の項目を確認してください。筋肉均衡は整っていますか? 怪我のリスクがある場所は、体のどの部分でしょうか? 正しい姿勢や筋肉のバランスはトレーニングにおいてとても重要であり、同じ動作を繰り返すスポーツは特に重要です。

➤ 怪我のリスクが高まる筋肉不均衡の例

下半身の筋肉量が少なくて上下均衡が崩れている場合(左)は、転倒や膝の怪我など下半身が弱いことが原因で発症する怪我が多くなります。左右で筋肉均衡が崩れている場合(真ん中)は、転倒のリスクが高まると共に腰痛や関節痛などの原因にもなります。また、左右で筋肉量が高くなっている部位はオーバーユース障害へと繋がる危険性も高いです。間違った姿勢でトレーニングを行っていることが原因で左右の筋肉不均衡が出ている可能性もあるので、一度フォームやトレーニング内容を見直す必要があるかもしれません。上半身の筋肉量が少なくて上下均衡が崩れている場合(右)は、転倒して腕を地面についた際に、体重を支えることができず、両腕を痛めることで怪我をしてしまうというリスクも高くなっています。また、軽い荷物を少し持っただけでも筋肉痛になってしまうという問題もあります。

オーバーユース障害を予防するためには同じ動作を繰り返さず、様々な運動を混ぜて行うことが望ましいです。例えば、ランナーは週2-3回の筋トレを行い、逆にパワースポーツ選手は週2-3回の有酸素運動を行うことで筋肉及び関節にかかるストレスを緩和できます。ヨガ・ピラティス・スタジオプログラムなどの多関節を同時に動かす複合運動は、身体活動量を維持しつつ全身を鍛える良い方法です。筋肉痛を無視して運動することは怪我の原因の一つです。他に怪我の原因となり得る行動は次のようなものがあります。

➤ 過剰な運動量の増加
トレーニングの原則、漸進性の法則から、運動量(重量や距離)を増やすことがあります。このような変化はパフォーマンス向上にとって必要なものですが、急激に量を増やすことは怪我に繋がりやすいため、徐々に増やしていくことが必要です。

➤ 休息期間やレストタイムが合っていない
休息は運動強度によって柔軟に調節することが望ましいです。セット間の休息時間も強度によって変える必要があり、一般的に低強度の運動は20-60秒ほど、高強度の運動は2-5分程の休息を挟むことで運動の持続に役立ちます。

➤ 痛みを無視すること
運動中に筋肉痛ではない痛みが続くのであれば、無視せずに一度運動を中止して痛みの状況や頻度・強度・部位・質などを確認し、痛みを和らげたり、痛みが発生する動きを避けたりなど、適切な処置を行いましょう。もし痛みが続くのであれば専門家に相談してみるのもいいかもしれません。適切な診断と処置は、怪我の回復と重症化を防ぐことに繋がります。


痛みを正しく評価するために

運動中に体温が高くなり、筋肉が重くなったように感じるのは、運動によって刺激された筋肉に一時的に血液が集まりパンプアップできている証拠(良い痛み)です。ただ、一つの動作を行う際に正しい姿勢を維持することが難しい状態であれば、筋肉に過度な疲労が溜まっているサインなので、運動を再開する前に適切な休憩を取ることが必要です。

痛みは様々な原因があり、人によってその意味も異なります。そのため、痛みがあれば一度運動を止め、どのような痛みなのかを見分けることを試みてください。痛みを和らげるために運動の強度を下げることが必要になるかもしれませんが、体が十分回復した後、元の強度に戻すこともできるので気にすることはありません。ウォーミングアップやクールダウンは怪我の予防はもちろん、痛みの予防にも繋がります。運動は継続することも大事ですが、適切な休憩と栄養摂取も一緒に行わなければ筋肉を増やすことはできません。体が送る信号である痛みに気を付けながら、焦らず回復と運動を繰り返すことで長期的に良い結果をもたらすでしょう。
※運動と休息の関係はInBodyトピックの「疲労と回復のメカニズム」を参考にしてください。