運動の選び方 Part1: 有酸素 or 無酸素運動

ジムで運動をしようと考えたとき、どのような運動を選びますか? トレッドミルやエアロバイクを使った有酸素運動、それともダンベルやマシーンを使った無酸素運動(筋力トレーニング)を選択しますか? もしくは有酸素運動と無酸素運動を組み合わせて目標をいち早く達成させようと頑張りますか? 運動と一言で言っても、それぞれ主な効果が違うため、目的によって行うべき運動も変わってきます。

例えば、筋肉量を増やすことが目標であれば、トレッドミルをいくら頑張っても目標達成は難しいでしょう。この場合は、スクワットやベンチプレスなどの高重量の重りを扱う筋トレが効果的です。このように、目標に合った運動を選ぶことは効率的に目標を達成させるためにも重要です。そのため、各運動が健康増進にどのような効果を持つのかを把握して、より適切な細かい運動計画を立てる必要があります。今回は運動の種類毎で異なるそれぞれの効果についてご紹介します。


有酸素運動とは?


ランニングやサイクリングなどが代表的な有酸素運動は、心拍数を上昇させることにより、筋肉に酸素をたくさん含んだ血液を届けます。筋細胞に酸素が供給されると、筋細胞は運動に必要なエネルギーを生み出します。有酸素運動は普段の活動よりたくさんの酸素を要するという意味でも、”有酸素” と言えるでしょう。ランニングをするといつもより呼吸が早くなるのもたくさんの酸素を吸いこみ、体の隅々まで届かせるためです。肺で体内に取り込まれた酸素は血液中に溶け、心臓のポンプ作用によって全身の細胞に届けられます。そして、全身を回った血液は再び心臓に戻ります。このように、有酸素運動は「筋細胞のエネルギー生成作用」と「血液循環及び心血管機能」に働く運動と言えます。では、健康には具体的にどのような効果をもたらすのでしょうか?


有酸素運動の効果① 心肺機能の強化


有酸素運動は心肺機能を強化し、血液循環機能を改善させます。有酸素運動を継続して行うと、全身に血液を送る機能を持つ左心室が大きくなり、一度により多くの血液を送り出すことができます。そのため、1回の拍動あたりに拍出する血液量(1回拍出量)が増えます。心臓が大きく、そして強くなると1回拍出量は増えますが、心拍数が増えるわけではありません。1回の拍動でより多くの血液を全身へ送り出すことができるため、心拍数は減少します。実際、アスリートの安静時心拍数は30~40回/分ほどと言われています。

また、安静時心拍数が高い人は心血管疾患のリスクが高くなることが分かっています。約3万人の健常者を対象にした研究¹⁾では、安静時心拍数が増加した人が虚血性心疾患によって死亡するリスクが高くなったことが示されました。つまり、有酸素運動で心肺機能を強化させ、心拍数を減少させる(増加させない)ことは心血管疾患のリスクを軽減させることに繋がります。


有酸素運動の効果② 血管機能の改善

心臓が拍動する度に、動脈では血流に対して抵抗が生じます。その抵抗は動脈の弾性を高めることで和らげることができます。抵抗が少なくなると拍動の際に心臓にかかる負担が軽くなります。

有酸素運動を行うと心拍数が上昇し、安静時よりも多くの血液が動脈に送り込まれます。動脈の内壁では血流の増加を感知し、一連のメカニズムによって血管が拡張されます。そして、このような動脈の拡張が定期的に行われると、動脈はより拡張されやすくなります。逆に、有酸素運動を行わないと動脈は拡張性が低くなり、弾性を失い固くなってしまいます。これが動脈硬化と言われる現象です。動脈硬化は心不全を含む様々な心血管疾患のリスクを高める原因となります。

有酸素運動は動脈の弾性を改善するだけでなく、体の隅々まで酸素をたくさん含んだ血液を届けるため、毛細血管の成長を促進します。毛細血管は人体の様々な組織の機能と関連しており、毛細血管の強化は免疫力の改善やアンチエイジングの効果も期待できると言われています。


有酸素運動の効果③ 代謝能力の向上

有酸素運動は筋肉がエネルギーを生成する機能にも影響を及ぼします。血液を通じて酸素が筋肉に届くと、筋肉はこの酸素を用いて運動中に必要なエネルギーを生成します。また、有酸素運動は体脂肪を分解してエネルギーを作りますが、これはミトコンドリアだけが持つ作用です。有酸素運動はミトコンドリアの数を増やし、体脂肪を燃焼させる能力を向上させます。

高強度の有酸素運動は運動後の酸素消費量も増加させ、運動後にもカロリーを消費させることで総消費エネルギー量の増加に繋がります。運動後にも継続的にカロリー消費が行われることは、余分なエネルギーが体脂肪に変換され体内に蓄積されるのを防ぐことにも繋がります。運動後の酸素消費量を維持するためには、運動強度を徐々に上げることが望ましいです。


体成分改善における有酸素運動の効果

肥満や過体重で減量が必要な場合には有酸素運動が効果的です。有酸素運動を行う際のポイントは、運動中に一定時間心拍数が高い状態を維持することです。心拍数が高い状態が続いている間、体は体脂肪を分解してエネルギーに変え、そのエネルギーを消費し続けます。

8ヶ月間、健康な成人を有酸素運動群と筋トレ群、両方行う混合運動群の3群に分けてそれぞれの運動効果を調べた研究があります ²⁾。結果は有酸素運動が最も体重を大きく減少させ、その内訳としては体脂肪量の減少が大きく示されました。一方、筋トレ群は筋肉量の増加を示しました。有酸素運動はこの結果からも、体脂肪の減少、筋トレでは筋肉量の増加にそれぞれ適しているということがわかります。

有酸素運動は心肺機能の強化・血管弾性の改善・代謝能力の向上という効果を持っており、減量に最も効果的であると言えます。


無酸素運動とは?


無酸素運動は酸素を体内に取り込まずに、強い負荷を短時間・継続艇にかける運動のことです。筋トレや短距離走、ウェイトリフティングなどが代表例で、筋肉そのものを強化したいときに行います。また、腕立て伏せのような自重トレーニングも典型的な無酸素運動です。無酸素運動は筋肉量や筋力を増加させ、筋機能を向上させます。無酸素運動の効果は主に筋細胞に現れますが、筋肉の成長だけではなく心血管系にまで良い影響を及ぼします。では、具体的にどのような効果があるのかを確認してみましょう。


無酸素運動の効果① 筋機能の向上


無酸素運動は筋肉をより使える筋肉として機能できるよう、筋機能の向上に寄与します。これには筋肉の収縮と伸展をコントロールする、収縮性タンパク質が重要な役割を担っています。

無酸素運動をすると、一部のタンパク質が分解されます。そして、筋肉に負荷をかけ続けると、筋肉の再生が促進され、筋肉量や筋力の増加に繋がります。無酸素運動後、筋肉はタンパク質合成を始めますが、食事やプロテインからタンパク質を取り入れることで、このタンパク質合成をより促進することができます。

タンパク質合成の場面では、サテライト細胞と称される特別な細胞が活躍しています。サテライト細胞は普段、筋細胞の近くで活動せず休止していますが、無酸素運動を行うとサテライト細胞も活動を始めます。活性化されたサテライト細胞は無酸素運動中に損傷した筋細胞と結合し、増殖を繰り返すことで筋肉の再生に必要なタンパク質の合成を手伝います。

また、60% 1RM(RM:最大挙上重量)以上の筋トレは「速筋」と称される筋肉を発達させます。速筋は瞬間的に大きな力を発揮できる筋肉で、重いものを一気に持ち上げたり、速度を出して短距離を走ったりする際に活躍する筋肉です。負荷が大きい筋トレを行うことで、速筋を強化できます。


無酸素運動の効果② 筋肉量の増加(筋肥大)


適切な強度の筋トレは筋肉量の増加にも繋がります。筋トレによって筋肉量が増加する現象を筋肥大と言います。無酸素運動は短時間で大きなエネルギーが必要です。そのため、1回に決めた回数を全力でこなし、限界に追い込む動作を繰り返すことで筋肥大に繋がります。筋肥大は言葉通り筋肉が大きくなることですが、厳密にいうと筋肉を構成する筋繊維が損傷と修復を繰り返しながら太さや重さが増加することを指します。

筋肉量の増加がもたらすメリットには基礎代謝量の増加が挙げられます。基礎代謝量とは、何もせずとも消費される生命維持(呼吸・体温維持など)に必要な最小限のエネルギーのことで、そのうち骨格筋(運動によって主に鍛えられる随意筋)が消費するエネルギー量の割合は約20%とされています。そのため、筋肉量が増えると自然に基礎代謝量も増えて太りにくい体質となり、肥満などの生活習慣病予防にも繋がります。


無酸素運動が体成分に及ぼす影響

ある研究では、筋トレはその頻度に関係なく筋力及び筋肉量を増加させる効果があることが示されました³⁾。このように、筋トレは筋肉の機能と量のどちらも向上させます。そして、筋トレは加齢による筋肉量の減少(サルコペニア)を防止する効果も期待できます。サルコペニアは様々な疾患のリスクや生存率などと密接に関連することが明らかになっており、筋肉量の維持は健康維持において重要です。そして、筋トレはその大事な筋肉量を維持・増加させる運動と言えます。
※サルコペニアに関してはInBodyトピックの「サルコペニアの理解に必要なこと」もご覧ください。

今回のトピックでは有酸素運動と無酸素運動それぞれの違いとその効果についてお話しました。次回は、有酸素運動と無酸素運動を同日に組み合わせて行うことについて、押さえて欲しいポイントをお話します。

参考文献
1. Nauman J, Janszky I, Vatten LJ, Wisløff U. Temporal changes in resting heart rate and deaths from ischemic heart disease. JAMA. 2011 Dec 21;306(23):2579-87
2. Willis LH, Slentz CA, Bateman LA, Shields AT, Piner LW, Bales CW, Houmard JA, Kraus WE. Effects of aerobic and/or resistance training on body mass and fat mass in overweight or obese adults. J Appl Physiol (1985). 2012 Dec 15;113(12):1831-7.
3. Saric J, Lisica D, Orlic I, Grgic J, Krieger JW, Vuk S, Schoenfeld BJ. Resistance Training Frequencies of 3 and 6 Times Per Week Produce Similar Muscular Adaptations in Resistance-Trained Men. J Strength Cond Res. 2019 Jul;33 Suppl 1:S122-S129.