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五大栄養素 -脂質Ⅱ-

このトピックの前編を見逃している方は、こちらもご覧ください☞「五大栄養素 -脂質Ⅰ-

前回のトピックでは脂質の推奨摂取量や体内での役割についてご紹介しました。今回はもう少し深く脂質について見ていきましょう。


脂質の過剰摂取による悪影響

皆さんがご存知のように、脂質の過剰摂取は肥満に繋がります。摂取した脂質のうち、体内で利用されずに余った分は皮下脂肪や内臓脂肪として体に溜まります。タンパク質や糖質の過剰摂取分も体脂肪として蓄積されますが、今回のトピックの前半でもご説明したように日本人の脂質摂取量は年々増加していること、エネルギー源の中で脂質は1gあたりのエネルギー量が最も多いことから、脂質は体脂肪量増加に寄与している割合が大きいです。体脂肪量のうち、皮下脂肪と内臓脂肪が約9割を占めており、残りの僅かな体脂肪量は血中などに存在します。皮下脂肪とは皮膚と筋肉の間にある脂肪を指し、内臓脂肪は内臓の周りにある脂肪を指します。これらの脂肪は、全身のあらゆるところ(特に下腹部・お尻・太もも・背中・二の腕・内臓周り)に存在する脂肪細胞に溜められたものです。体内で余った体脂肪はどんどん脂肪細胞に溜められ、体脂肪が溜め込めなくなると脂肪細胞の数を増やして更に溜め込もうとします。ダイエットや運動を行うと脂肪細胞の大きさを小さくすることはできますが、増えてしまった脂肪細胞が減ることはありません。

ここまで聞くと、脂肪細胞が悪者のように見えますが、溜め込んでいる体脂肪量が正常範囲内である脂肪細胞は実は、生活習慣病を防ぐ物質を放出し、私たちの体を守ってくれています¹⁾。放出されるレプチンは満腹中枢を刺激して食欲を抑制する効果があり、アディポネクチンは血圧や中性脂肪を下げる効果があります。しかし、細胞内に体脂肪を過剰に溜め込み膨れ上がった脂肪細胞は一転して、生活習慣病を招く悪い物質(PAI-1・TNF-α・IL-6など)を放出するようになります。タンパク質の一種であるPAI-1は血栓(血液の塊)を形成し、血液の流れを悪くします。サイトカインの一種であるTNF-αはインスリンの働きを妨げることで血糖値を上昇させ、IL-6は免疫機能を暴走させることでウイルスだけでなく健康な細胞まで攻撃するようになってしまいます。また、アディポネクチンの放出量が減ることで血圧や中性脂肪が上がってしまいます。そして、最終的に生活習慣病を発症してしまうのです。


脂質の不足による悪影響

一方、脂質の摂取不足は体にどのような悪影響があるのでしょうか。脂質が不足すると、体に必要な体脂肪量が確保できなくなります。保温機能がある体脂肪が少ないと、体温が維持されにくくなり体が冷えてしまいます。体温と免疫機能は密接な関わりがあり、体温低下は免疫力の低下に繋がります。

また、ホルモンバランスも乱れやすくなります。男性の場合、体脂肪率が低すぎると骨や筋肉の増加に関わるテストステロンの分泌量減少を引き起こし、女性の場合はホルモンバランスや月経周期に大きく影響します。女性ホルモンの分泌にはエネルギーが必要であり、普段蓄積されている体脂肪もエネルギー源として使用されます。しかし、体脂肪が少なすぎると、体脂肪から分泌されて脳のホルモン分泌信号にも影響を及ぼすレプチンの分泌量が減り、生理不順または無月経を引き起こします。InBodyでは成人女性における体脂肪率の標準範囲を18-28%としています。この標準範囲を下回ると個人差はありますが、約半数が月経不順に、10%以下ではほぼ100%無月経になってしまいます²⁾。正常な生理周期を保つためには最低22%以上が必要とされています³⁾。また、ホルモンバランスの乱れは骨密度にも影響するため、体脂肪率が低い女性アスリートは骨密度の低下によって疲労骨折が起こりやすくなります。

自分の体の体脂肪情報を確認せず闇雲に、「脂質を取らない」「夕食を食べない」といった偏りのあるダイエットを行った結果、脂質の不足が原因で体調不良に悩まされる方も少なくありません。InBodyでは体重の増減の内訳を確認することができます。体重が増えたとしても、体脂肪量が増加せず、主に筋肉量が増加しているなら良い体重増加と捉えることができます。一方、体重が減ったとしても、体脂肪量が維持されたまま筋肉量のみが減少しているなら悪い体重減少と捉えます。InBodyを定期的に測定することで、筋肉量や体脂肪量を加味した現在の体の状態を確認できます。


InBody結果用紙で表示される体脂肪量は測定・入力された体重から、測定された除脂肪量を差し引いた値になります。体重が正しく測定できなかった場合、その誤差のほとんどは体脂肪量の誤差として表れます。また、InBodyを測定する際、胃に残っている食べ物や、体内の便や尿などの排泄物は体脂肪量として算出されます。従って、正確に体脂肪量を測定するためには、食後最低2時間は時間を空け、測定前には必ずトイレを済ませることを推奨します。
※その他測定前の注意事項はインボディ公式YouTubeチャンネル「測定前の注意事項」の動画をご覧ください。

InBodyが独自に提供しているInBody点数(フィットネススコア)は筋肉量(厳密には除脂肪量)と体脂肪量から算出されています。筋肉量は標準値を超えると1kgあたり+1点されますが、体脂肪量は標準値から1kg増えても減っても-1点されます。体脂肪量の不足は体に悪影響を及ぼすため、私たちの体には適量な体脂肪が必要であるとInBodyは知っているからです。


脂質異常症

体内の脂質が過剰もしくは不足している状態が続くと脂質異常症と診断されます。日本動脈硬化学会では血液検査による診断基準を以下の通りとしています⁴⁾。脂質異常症そのものが何かしらの症状を起こすものではありませんが、脂質異常症によって動脈硬化が発生することで、心筋梗塞や脳梗塞のリスクを高めてしまいます。また、血中の脂質が増加することで、胆のうに胆石(コレステロールの塊)が発生してしまうこともあります。
▲脂質異常症の診断基準(日本動脈硬化学会より引用・改変)

脂質異常症の主な原因は喫煙・食生活の乱れ・運動不足・糖尿病・睡眠不足などが挙げられます。これらの生活習慣や関連疾患が起因して血中脂質濃度が上昇してしまいます。また、脂質異常症には遺伝的な要因が絡んでいる場合もあります。先天的なLDLコレステロールの代謝異常によって、血中の脂質が増加してしまうことが原因です。脂質異常症を防ぐには食生活の改善と定期的な運動を行うことが大切です。


体脂肪量以外で確認する測定項目

脂質を適切に摂取できているかは体脂肪量以外のInBody測定項目でも確認することができます。

➤内臓脂肪レベル
業務用InBodyの一部機種では、内臓脂肪レベルを確認することができます。InBodyでは内臓脂肪を直接測定しておらず、インピーダンス値とCTとの相関から、あくまで参考値として算出しています。内臓脂肪レベルは内臓脂肪断面積の1桁数値を切り捨てた値を意味しており、内臓脂肪レベルが10以上(内臓脂肪断面積が100cm²以上)だと、内臓脂肪が多いと判断します。

➤腹囲・部位別周囲長
腹囲や各部位の周囲長からも確認することが可能です。InBodyは最初に体水分量を算出しますが、体水分量を求める際に、各部位を円柱として捉えることで、円柱の体積・長さ・断面積が求められるので、円柱の周囲長(つまり腹囲や各部位の周囲長)も推定できます。くびれの位置や凹凸間の差が大きい方では、実測値と乖離する場合があります。しかし、メジャーで測定した周囲長でも測定する人によっては誤差(ヒューマンエラー)が発生することもあるので、そういった誤差が含まれていない値として、継続的にモニタリングするにはInBodyの数値も便利です。
※InBodyの測定原理に関して、詳しくは「InBodyの技術」ページも併せてご覧ください


終わりに

ダイエットや食生活を見直す際によく間違いやすいのが「脂質=体脂肪=悪」という認識です。この誤解から、体脂肪を減らすためには脂質の摂取量を極端に減らすことを考えるようになり、その結果、逆に脂質の不足状態に陥り、体の不調を招くことも多いです。つまり、脂質は必要不可欠な栄養素であり、体には適量必要であることを是非覚えておいてください。

このトピックの前編を見逃している方は、こちらもご覧ください☞「五大栄養素 -脂質Ⅰ-

 

参考文献
1.「e-ヘルスネット」 厚生労働省
2. 順天堂大学 女性スポーツ研究センター
3. Kimberly Huhmann, Menses Requires Energy: A Review of How Disordered Eating, Excessive Exercise, and High Stress Lead to Menstrual Irregularities. Clin Ther. 2020 Mar;42(3):401-407.
4.「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版」 日本動脈硬化学会

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五大栄養素 -脂質Ⅰ-

五大栄養素シリーズも折り返しです。三大栄養素の一つでもある脂質は私たちが生きていく上で欠かせない栄養素です。それにも関わらず、脂質=肥満という強烈なイメージによって、他の五大栄養素と比べると、悪者にされることもしばしば…。ダイエットされている方、健康診断でメタボリックシンドローム(内臓脂肪型肥満症候群)の危険ありと判定されてしまった方など、普段から脂質の摂取量を気にされている方は多いと思います。特に12月は忘年会やクリスマスパーティなど、脂質の多い食生活になりがちです。

厚生労働省は大人が一日に必要な脂質の目標量を、男女共に総エネルギー摂取量のうち20-30%未満と定めています¹⁾。2018年の国立健康・栄養研究所の栄養摂取状況調査によると、総エネルギー摂取量のうち脂質由来のエネルギーは、男性27.6%、女性28.9%となっています²⁾。脂質の摂取量は少なくすればするほど良いというイメージがありますが、脂質も一定量必要な栄養素であり、不足してしまうと体に悪影響が出ます。脂質と上手く付き合っていくために、是非今回のトピックで脂質への理解を深めてください。


脂質とは


脂質は三大栄養素(タンパク質・脂質・炭水化物)の中で、1gあたり9kcalと得られるエネルギー量が最も大きい栄養素です(タンパク質・炭水化物は4kcal/g)。厚生労働省は各栄養素から摂取するエネルギー量の比率の目標値を定めており、総エネルギー摂取量のうち、13-20%をタンパク質から、20-30%を脂質から、50-65%を糖質(炭水化物)から摂取することを推奨しています。よくダイエット本などで「PFCバランス」という言葉を目にすると思いますが、これはタンパク質(Protein)・脂質(Fat)・糖質(Carbohydrate)からそれぞれ摂取するエネルギー量の比率を表しています。ダイエットや筋トレを行うときは目標に合わせて、3つの栄養素の摂取量を調整しながら食事計画を立てるとより効果的とされています。

農林水産省による調査が開始されて以来、日本人の摂取エネルギー量の比率におけるタンパク質の割合は変わりませんが、脂質の割合は増え、糖質の割合は減る傾向にあります³⁾。この変化はファストフードや菓子類の普及、食事の欧米化などが理由に挙げられます。
▲「平成30年度食料需給表」より引用

人体における脂質の役割は様々です。例えば、脂質は細胞膜の主な構成成分です。細胞膜はイオンや有機化合物などの物質の出入りを制御していますが、細胞膜が健康でないと上手く制御されません。脂質はステロイドホルモン(性ホルモン、副腎皮質ホルモンなど)やビタミンDの前駆体(ある物質が生成される前段階の物質)でもあります。また、ビタミンの中には水ではなく脂質に溶けやすい脂溶性ビタミン(A・D・E・K)があり、脂質はこれらをはじめとする脂溶性物質の吸収を助ける働きがあります。他にも、脳・神経系の機能保持(大脳の主な構成要素)や肌・毛髪の健康維持、体温維持、臓器の保護なども脂質の役割です。これらの役割から、脂質が体に必要不可欠な栄養素であることが分かります。
※脂溶性ビタミンについてもう少し詳しく知りたい方はInBodyトピック「五大栄養素 -ビタミンI-」もご覧ください。


脂質の種類

脂質は主に飽和脂肪酸・一価不飽和脂肪酸・多価不飽和脂肪酸の3つに分類されます。下の図を見ると、大人が最も多く摂取している脂肪酸は一価不飽和脂肪酸で、次いで飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸となっています。
▲「日本人の食事摂取基準(2020年版)」より引用

体脂肪に変わりやすいと言われているのが飽和脂肪酸で、これは高LDLコレステロール血症をはじめとする生活習慣病や、心筋梗塞をはじめとする循環器疾患の主な危険因子の一つです。脂質全体の目標量の上限値は30%ですが、脂質に含まれる飽和脂肪酸の目標量は成人男女ともに総摂取エネルギー量の7%以下と定められています。尚、小児(~17歳)は発育に脂質が必要なため、目標量が10%以下と成人男女よりも多めに設定されています。
▲「日本人の食事摂取基準(2020年版)」より引用

多価不飽和脂肪酸は必須栄養素のため、最低限必要な量を摂取する必要があります。脂質全体の目標量の下限値は成人男女ともに総摂取エネルギー量の20%と定めています。これは脂質に含まれる多価不飽和脂肪酸の必須量を基に設定されています。多価不飽和脂肪酸は更にn-3脂肪酸とn-6脂肪酸に分類されます。n-3脂肪酸は魚油に多く含まれるEPAとDHAなどが該当し、n-6脂肪酸は紅花油やグレープシードオイル、ひまわり油などの植物油に多く含まれています。


脂質を多く含む食品と脂質が少ない食品

次の表は脂質が多い代表的な食品と脂質が少ない代表的な食品の各100gあたりの含有量です⁴⁾。同じ牛肉や鶏肉でも部位によって含まれる脂質は大きく異なるので、脂質の少ない部位を選べばダイエット中でもお肉を食べることができます。

「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」より改変

脂質はファストフードや菓子類を控えたり、食事内容に気を遣ったりすることで意識的に摂取量を調整できます。次回のトピックでは適切ではない脂質摂取によって体に出る影響をご紹介します。

 

参考文献
1.「日本人の食事摂取基準(2020年版)」 厚生労働省
2.「栄養摂取状況調査」 国立健康・栄養研究所
3.「平成30年度食料需給表」 農林水産省
4.「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」 文部科学省

 

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五大栄養素 -ビタミンⅡ-

このトピックの前編を見逃している方は、こちらもご覧ください☞「五大栄養素 -ビタミンⅠ-

前回のトピックではビタミンDの働きや、過剰摂取または不足による悪影響についてご紹介しました。今回のトピックでは食事以外でビタミンDを補う方法についてご紹介していきます。


食事以外でビタミンDを補う方法

➤日光浴

肌が紫外線を吸収すると、体内の化学反応によってビタミンDを生成することができます。前回のトピック「五大栄養素 -ビタミンⅠ-」でも説明したように、ビタミンDを食事だけで摂取すると不足しやすいため、環境省では軽めの日光浴を推奨しています。但し、紫外線の浴び過ぎは免疫機能の低下や皮膚がんなどのリスクを高めるため、日光浴をする時間には注意が必要です。

季節や地域によって推奨時間は異なりますが、7月の東京では1分、札幌では1分半程度、12月の東京では7分、札幌では12分程度の日光浴で1日に必要なビタミンDを生成することができます¹⁾。但し、これは1つの目安であり、時間帯・雲の量・日焼け止め・肌のメラニン含有量などがビタミンD生成に影響を及ぼすため、日光に当たっているからと言って常にビタミンDが生成されるわけではありません。また、日光浴は日向でなく、日陰や身体の一部に日光を当てる程度でも十分ですが、その場合は推奨時間よりも少し長めに時間をとる必要があります。


▲ 紫外線を当てる部位別のビタミンD合成に必要な日光浴時間

日光浴によるビタミンDの生成は体内で必要な量しか合成しないように調節されているため、体内のビタミンDが過剰になることはありません。従って、食事による平均的な摂取と適度な日光浴によって十分なビタミンDを体内に供給することができます。

➤サプリメント*

適度な食事と日光浴ができているのであれば、サプリメントに頼る必要はありませんが、ビタミンDを豊富に含む食品が苦手で摂取できなかったり、日中に外出する機会が減ったりしている人は、サプリメントで不足分を補うことができます。特に高齢者は加齢によって血中ビタミンD濃度が減少しやすい上に、屋外での活動量減少によって長期にわたりビタミンD不足状態に陥ると、骨粗鬆症や転倒のリスクが高まってしまいます。

しかし、高齢者にビタミンD(及びカルシウム)サプリメントを毎日摂取させると、12か月後には大腿四頭筋の筋力・姿勢制御・立ち上がり・歩行などの日常的な身体機能が改善されたとの報告があります²⁾。また、ビタミンDサプリメント単体による摂取よりも、カルシウムサプメントを併用した摂取の方が転倒の再発を減少させるとも言われています³⁾。高齢者の転倒はビタミンDサプリメントの摂取のみで改善されるわけではありませんが、これらの報告は、十分なビタミンD摂取は筋力と身体機能を改善させ、転倒を減少させる可能性があることを示しています。

*薬物療法中の方 や複数のサプリメントを服用中の方は効果を最大に発揮できないこともありますので、服用前は専門家とご相談ください。


ビタミンDの摂取・生成によるメリット

このように食事以外の方法でも体に必要なビタミンDを補うことができ、骨の健康を維持することができますが、ビタミンDは次のような働きもします。

➤筋肉量の減少を抑える

ビタミンDは筋肉のタンパク質を構成する必須アミノ酸の分解と筋肉を委縮させる因子 (転写因子FOXO1)の発現を抑え、筋委縮を改善させることができます⁴⁾。高齢者がサプリメントでビタミンDを1日100μg摂取すると、4ヶ月後に筋繊維が太くなったという報告があり⁵⁾、ビタミンD摂取は筋肉量の減少を抑制することができます。また、血中ビタミンD濃度は加齢に伴い減少するので、高齢者は 若い人よりもビタミンDの補充が重要になってきます。ロコモティブシンドローム*の予防を啓発する日本整形外科学会でも、筋肉や骨のために毎日摂取したい栄養素としてビタミンDを挙げています⁶⁾。

*ロコモティブシンドロームとは「立つ」「歩く」といった機能が低下している状態を表します。

➤免疫機能を調節する
ビタミンDは体内にウイルスや細菌が侵入してきた際に、過剰な免疫機能を抑えて、必要な免疫機能のみが働くように調節する役割があります。 血中ビタミンD濃度が低い人は呼吸器感染症のリスクが高いと言われており⁷⁾、免疫力の向上にはビタミンDが重要であることが分かります。特に今年は呼吸器感染症の1つに分類されるコロナウイルス(COVID-19)が流行していますが、その感染予防にビタミンD摂取が効果的であると報告している研究があります。しかし、それを否定する研究もあり、感染予防の効果有無は現在も議論されていますが、ビタミンDの摂取によって免疫力が高まることは明らかです。

➤血糖値を抑制する

インスリンは膵臓から分泌されるホルモンの一種で、血液中のブドウ糖をエネルギーに変換して、血糖値を一定に保つ役割があり、筋肉量が多い人ほど適切な量が分泌される傾向にあります⁸⁾。ビタミンDはこのインスリンの作用を改善させる働きがあります⁹⁾。更に、ビタミンDとカルシウムを一緒に摂取することで糖尿病の発症リスクを減少させるとの報告もあります¹⁰⁾。つまり、血中ビタミンD濃度を充足状態にすることは、糖尿病の予防にも繋がります。


終わりに

ビタミンDは健康な日々を過ごしていくために必要不可欠な栄養素の一つです。普段の食事で必要な量を摂取できているか振り返ってみて、もし不足しているようならビタミンDが豊富な食品を食事に取り入れたり、日光に当たる時間を増やしたりすることを心掛けてみてください。また、普段の生活でビタミンDの摂取や生成が十分でない人や、加齢に伴って血中ビタミンD濃度が低下してしまう高齢者は、サプリメントで不足分を補うのを検討してみるのはいかがでしょうか。

このトピックの前編を見逃している方は、こちらもご覧ください☞「五大栄養素 -ビタミンⅠ-

 

参考文献
1.「紫外線環境保健マニュアル2020」 環境省
2. M Pfeifer et al., Effects of a long-term vitamin D and calcium supplementation on falls and parameters of muscle function in community-dwelling older individuals. Osteoporos Int. 2009 Feb;20(2):315-22.
3. Heike A Bischoff et al., Effects of vitamin D and calcium supplementation on falls: a randomized controlled trial. J Bone Miner Res. 2003 Feb;18(2):343-51.
4. 亀井 康富, ビタミンDによるサルコペニアの予防・改善の分岐基盤の分析. 乳の学術連合. 2018
5. Lisa Ceglia et al., A randomized study on the effect of vitamin D₃ supplementation on skeletal muscle morphology and vitamin D receptor concentration in older women. J Clin Endocrinol Metab. 2013 Dec;98(12):E1927-35.
6.「食生活でロコモ対策」 日本整形外科学会 ロコモティブシンドローム予防啓発公式サイト
7. Ilkka Laaksi et al., An association of serum vitamin D concentrations < 40 nmol/L with acute respiratory tract infection in young Finnish men. Am J Clin Nutr. 2007 Sep;86(3):714-7. 8. B K J Glouzon et al., Muscle mass and insulin sensitivity in postmenopausal women after 6-month exercise training. Climacteric. 2015;18(6):846-51. 9. Naghmeh Mirhosseini et al., The Effect of Improved Serum 25-Hydroxyvitamin D Status on Glycemic Control in Diabetic Patients: A Meta-Analysis. J Clin Endocrinol Metab. 2017 Sep 1;102(9):3097-3110. 10. K Kirii et al., Japan Public Health Center-based Prospective Study Group. Calcium, vitamin D and dairy intake in relation to type 2 diabetes risk in a Japanese cohort. Diabetologia. 2009 Dec;52(12):2542-50.

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五大栄養素 -ビタミンⅠ-


五大栄養素の1つであるビタミンはエネルギー源や体をつくる成分ではありませんが、他の栄養素が体内で円滑に働くための潤滑油のような役割があり、健康を維持するためには必要不可欠な栄養素です。ビタミンは全部で13種類存在し、水に溶けやすい水溶性ビタミンと油脂に溶けやすい脂溶性ビタミンに分類され、それぞれの性質から体内に取り込まれるメカニズムが異なります。

水溶性ビタミンは血液などの体液に溶け込み、余分なものは尿として体外に排出されやすいため、大量に摂取しても体内に貯蔵されにくく過剰摂取の心配はありません。従って、体内で不足しないように、毎日数回に分けて摂取する必要があります。一方、脂溶性ビタミンは水に溶けにくく、主に脂肪組織や肝臓などに蓄積されやすい特徴があるため、過剰摂取すると蓄積過多となって体に害を及ぼしてしまう恐れがあります。今回のトピックでは、多くのビタミンの中でも骨の健康維持や免疫機能の向上に欠かせないビタミンDに焦点を当てていきます。


ビタミンDとは

ビタミンDは身体機能を正常に保つ働きをする脂溶性ビタミンに該当し、骨・ミネラル代謝の維持に必須な栄養素としてよく知られています。ビタミンDにはD2からD7まで6種類存在しますが、一般的に体内の生理的調節機能に高く作用するビタミンDはD2(エルゴカルシフェロール)とD3(コレカルシフェロール)です。この2種類は食品から摂取でき、体にとって重要な栄養素です。残りの4種類は殆ど食品に含まれておらず、体に及ぼす作用も低いです。

厚生労働省による1日の食事摂取基準は18歳以上の男女ともに8.5~100μg(ビタミンD2とD3の合計値)が推奨されています¹⁾。しかし、国民健康・栄養調査の報告では1日あたり男性6.9μg・女性6.3μgしか摂取できておらず、どちらも摂取量が基準を下回っている状況です²⁾。

ビタミンDはInBody結果用紙で表示される骨ミネラル量の改善に効果的な栄養成分です。 InBodyが測定する骨ミネラル量は除脂肪量に比例するという関係性に基づいて求めており、ビタミンDの摂取量がそのままInBody結果用紙の骨ミネラル量に反映されることはありませんが、除脂肪量の増加に伴って徐々に増加します。骨ミネラル量が標準範囲を下回っている場合は、ビタミンDの摂取量を増やしながら、除脂肪量の増加を心掛けてみてください。


ビタミンDの過剰摂取・不足による悪影響

既に説明した通り、脂溶性ビタミンであるビタミンDは 体内に蓄積されやすいため、過剰摂取は健康に問題を引き起こす恐れがあります。毎日大量のビタミンD(推奨量の約60~100倍)を数ヶ月間摂取し続けると、毒性が現れ、血中カルシウム濃度が過剰になり、血管・腎臓・肺・心臓に多量のカリウムが沈着します³⁾。初期症状として食欲不振・嘔吐・筋力低下・神経過敏・高血圧が起こりますが、重症化すると腎臓が損傷を受けて腎不全になる恐れもあります。


また、ビタミンDは健康な骨を維持するために必要なカルシウムとリンを小腸や腎臓で体内に吸収するのを助ける働きがあり、不足すると様々な骨へのリスクを高めます。小腸や腎臓で吸収されるはずのカルシウム量が減少し、低カルシウム血症になると、小児ではくる病(小児の骨軟化症)、成人(特に妊婦や授乳婦)では骨軟化症、骨量が低下している高齢者では骨粗鬆症を発症しやすくなります。日本内分泌学会では、血中ビタミンD濃度(血清25(OH)D濃度)からビタミンD欠乏症を判定する基準を次のように定めています⁴⁾。

充足状態: 30ng/ml以上
不足状態: 20ng/ml以上30ng/ml未満
欠乏症: 20ng/ml未満


ビタミンDを多く含む食品

ビタミンD2はきのこ類など植物性食品に多く含まれ、ビタミンD3は魚肉・魚類の肝臓・バター・卵黄など動物性食品に多く含まれます。ビタミンDは脂溶性のため、脂質を含む動物性食品の方が体内に吸収されやすいですが、植物性食品でも炒めたり、揚げたりして油と一緒に摂取すると吸収されやすくなります。次の表はビタミンDを多く含んでいる代表的な食品と100gあたりの含有量です。


「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」より改変

このように、ビタミンDは食品から摂取することができますが、多くの人が体に必要なビタミンD摂取量を満たしてないのが現状です。では、ビタミンD不足を補うためには食事摂取量を増やす方法しかないのでしょうか。実は、食事以外の方法でもビタミンDを補うことができます。次のトピックでは食事以外でビタミンDを補う方法についてご紹介していきます。

 

参考文献
1.「日本人の食事摂取基準(2020年版)」 厚生労働省
2.「平成30年国民健康・栄養調査報告」 厚生労働省
3.「ビタミンD」 MSDマニュアル家庭版
4. 岡崎 亮ら, ビタミンD不足・欠乏の判定指針. 日本内分泌学会雑誌, 2017 Mar; 93

 

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五大栄養素 -タンパク質Ⅱ-

このトピックの前編を見逃している方は、こちらもご覧ください☞「五大栄養素 -タンパク質Ⅰ-

前回のトピックではタンパク質の役割や、過剰摂取と不足による悪影響についてご紹介しました。今回のトピックでは効率良くタンパク質を摂取する方法をご紹介していきます。


プロテインの種類と効果


プロテインは、加工の過程で脂肪分や炭水化物が取り除かれるため、タンパク質の含有量が高く、タンパク質をたくさん摂取するにはお勧めです。プロテインは牛乳が原料であるホエイプロテイン・カゼインプロテインや、大豆が原料であるソイプロテインなど、様々な種類があります。また、ビタミン・ミネラルを加えることで、タンパク質の吸収効率も高まるので、一緒に摂取するように心掛けましょう。使用目的に合わせて、最適なプロテインを選べるよう、まずはそれぞれの特徴についてご紹介します¹⁾²⁾。

➤ホエイプロテイン
ホエイプロテインは、牛乳に含まれるタンパク質の一種です。ヨーグルトの上澄みにできる液体のことをホエイ(乳清)といいますが、このホエイに含まれるタンパク質がホエイプロテインです。ホエイには他に、ミネラルや水溶性ビタミンが含まれています。

ホエイプロテインには筋肉成分の多くを占めるアミノ酸が含まれており、筋肉修復効果も高いので、トレーニングで強い肉体を手に入れたい方にお勧めです。トレーニング後、効率的に筋肉の回復を促すためにはできるだけ素早くタンパク質を補給することが必要です。ホエイプロテインは吸収がスムーズであることからトレーニング直後の補給にも最適です。筋トレだけではなく、マラソンなどの持久系スポーツ、格闘技・コンタクトスポーツ(ラグビー・アメフトなど)と、広い分野で強靭な体を作りたい方に適しています。ホエイプロテインの味は淡白で飲みやすく、体内への吸収速度はスムーズで胃腸がもたれにくいというメリットがありますが、他のプロテインと比べると価格が比較的高いところが難点です。しかし、種類によってはソイプロテインと混合したものや、プロテイン含有量を控えめにしたものなど、機能や価格面で工夫しているものが多く出回っています。また、ホエイプロテインはその製法によって、タンパク質含有量が異なってくる点も特徴です。

➀ WPC製法…Whey Protein Concentrate(濃縮乳清タンパク質)、濃縮膜処理法
原料になる乳清をフィルターで膜処理し、ろ過して得られた液体を濃縮する製法のため乳糖(ラクトース)が残りやすいです。乳糖不耐症(乳製品に含まれる乳糖を小腸で分解できず、腹痛や下痢を起こす)を持つ人にとっては、腹部膨満感(お腹が張ってごろごろする症状)の原因となる場合もありますが、乳清に含まれるビタミンやミネラルをできるだけ多く残すことができるというメリットがあります。タンパク質含有率が約80%の製品はこの製法で作られていることが多いようです。

➁ WPI製法…Whey Protein Isolate(分離乳清タンパク質)、イオン交換法
WPC製法で分離されたタンパク質をさらにイオン交換処理を施して不純物を取り除くため、高濃度のホエイタンパクが作られます。タンパク質含有率も約90%と高く、お腹の不調になりやすい乳糖の含有率も非常に低いため、日本人に多い乳糖不耐症の方にも適した製法といえます。精製度の高いホエイプロテインを実現するために比較的多くの工数が必要となり、価格は若干高めです。

➂ WPH製法…Whey Protein Hydrolysate(加水分解乳清タンパク質)
加水分解ペプチドとも呼ばれ、微生物に含まれる酵素などを使いWPCをペプチド状態(アミノ酸が十数個から数十個つながった状態)に分離したものです。ホエイ含有率が約95%と高くなり、価格も高めのものが多いですが、比較的少ない摂取量で筋タンパク質合成を促進させることができます。

ホエイプロテインは製法ごとに様々な特徴を持っています。自分にあった製法のプロテインを選んで、タンパク質を効率良く摂取しましょう。

➤カゼインプロテイン
ホエイプロテインと同じく牛乳から作られるのがカゼインプロテインです。主成分であるカゼインは生乳を構成するタンパク質の約80%を占めています。ホエイプロテインが水溶性で吸収が早いことに対し、カゼインプロテインは不溶性で固まりやすく、体への吸収速度がゆっくりであることが特徴です。ダイエット時の間食や運動をしない日のタンパク質補給、就寝前にお勧めです。カゼインプロテインは体への吸収速度がゆっくりであることから満腹感の持続が期待できます。

➤ソイプロテイン
ソイプロテインの原料は、その名の通り大豆のタンパク質部分だけを粉末にしたものです。タンパク質の比率を高め水分や糖質、脂肪を減らし植物性タンパク質を効率的に摂取できます。価格が比較的安いことも特徴の一つです。ソイプロテインはカゼインプロテインと同じく消化吸収速度がゆっくりのため、満腹感が持続しやすく、ダイエットや健康維持をしたい方にお勧めです。加えて、大豆に含まれるイソフラボンの効果で皮膚や骨の強化、血流改善が期待できます。また、イソフラボンは女性ホルモンと似た働きをするので、肌の張りを保つ効果や、女性らしい体のラインをキープすることにも役立ちます。一方で、溶かしたときに粉っぽくなってしまい飲みにくいこともあるため、少量のぬるま湯で溶いてダマにならないようにしてから水を加えるなど、飲みやすくする工夫が必要です。最近では、溶けやすく改良された商品も多く発売されています。


筋肉増強以外でのプロテイン活用法

「プロテイン=運動している人が摂取するもの」というイメージを抱く方が多いですが、あくまでプロテインは「高タンパク食品」です。食事でタンパク質摂取量が足りない方や、タンパク質を多く摂取する必要がある方は普段の食事にプロテインを組み合わせることで効率よくタンパク質を摂取することができます。プロテインを摂取した方が良い人は、アスリート以外にはどのような人が当てはまるのでしょうか?

➤成長期の子ども(ジュニアプロテイン)

子どもは基礎代謝量や活動エネルギー分だけでなく、発育に必要なエネルギーも摂取しなければならないため、栄養摂取が特に重要な時期です。どんなに栄養豊富なご飯を朝・昼・夕に食べたとしても、子どもなので1食で食べられる量には限界があります。食の細い子も中にはいるでしょう。栄養をたくさん摂りたいけれど摂れないという時には、普段の食事に合わせてジュニアプロテインを一緒に摂取することで不足しがちな栄養を補うことができます。また、ジュニアプロテインは一般的なプロテインとは異なり、タンパク質だけでなく鉄分やカルシウムなど子どもの成長に必要な成分が多く含まれています。例えば、朝ごはんに飲んでいる牛乳にプロテインを溶かして一緒に摂取するのはいかがでしょうか?

➤高齢者の筋力・カルシウムサポート

最近では、高齢者のフレイルが問題視されています。フレイルとは、高齢期に筋肉量・筋力の減少など生理的予備能が低下することでストレスに対する脆弱性が亢進し、機能障害、要介護状態、死亡などの不幸な転機に陥りやすい状態とされ、生理的な加齢変化と機能障害、要介護状態の間にある状態を指します³⁾。筋肉量の減少は、フレイルを構成する原因の一つであり、筋肉量・筋力の減少を指すサルコペニアは多くの疾患と関連します。そこでフレイル予防の観点から2020年版の日本人の食事摂取基準⁴⁾では、65歳以上の総摂取エネルギー量に占めるべきタンパク質由来エネルギー量の下限値を前回(2015年版)の13%から15%に引き上げています。筋肉量の減少を防ぐために、運動の推奨は勿論ですが、栄養面からの予防策も必要になります。

例えば、70歳男性・身体活動レベルⅠ(自宅にいて、ほとんど外出しない)の方の推定エネルギー必要量は2,050kcal/日です(下表参照)。この方の推定エネルギー必要量のうち、タンパク質由来のエネルギー量は約308kcal/日になります。タンパク質1gあたりのエネルギー量は約4kcalなので、この方の推定エネルギー必要量を満たした食事メニューでは、タンパク質が約77g含まれるように構成を考える必要があります。食事量が多く取れない高齢者が十分なタンパク質を摂取するためには、食事面での栄養バランスを考えるだけでなく、プロテインなどの補助食品でタンパク質を補っていく必要があります。


「日本人の食事摂取基準2020」エネルギーより抜粋

➤妊婦や授乳期のお母さん

妊婦の方は、胎児及び胎盤などの発育に必要なタンパク質を摂取する必要があり、授乳期のお母さんは、自身に必要なタンパク質に加えて母乳分のタンパク質も摂取する必要があります。妊婦の場合、自身で必要なタンパク質に加えて、妊娠中期で+5g/日、妊娠後期で+25g/日のタンパク質摂取を推奨しています。また、授乳期では+20g/日の摂取を推奨しており、十分なタンパク質摂取が母親だけでなく、胎児・乳児の健康にも欠かせないことが分かります。


「日本人の食事摂取基準2020」タンパク質より抜粋


終わりに

普段、何気なく摂取しているタンパク質ですが、私たちの体に必要な量を摂取できているでしょうか? 同じ年齢・性別の方でも、体格や運動習慣の違いによって必要なタンパク質摂取量は変わってきます。そのため、自分に必要なタンパク質量を把握し、足りない分はプロテインなどの補助食品を上手く組み合わせながら食事メニューを考えてみましょう。

このトピックの前編を見逃している方は、こちらもご覧ください☞「五大栄養素 -タンパク質Ⅰ-

 

参考文献
1.「ホエイ、カゼイン、ソイってなに?プロテインの種類について」 グリコ
2.「かんたん、わかる!プロテインの教科書」 森永製菓
3. 日本サルコペニア・フレイル学会
4.「日本人の食事摂取基準(2020年版)」 文部科学省

 

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五大栄養素 -タンパク質Ⅰ-

五大栄養素とはどれを指しているでしょうか? 様々な栄養素の中で、私たちが生きていく上で欠かせない成分は糖質・脂質・タンパク質・ビタミン・ミネラルの5つがあり、中でも糖質・脂質・タンパク質の3つを三大栄養素と称します。三大栄養素はエネルギー源として生命維持や身体活動に用いられるため、摂取できない状況が続けば、呼吸など最も基本的な生命維持活動すら難しくなってしまいます。また、それぞれ体内での役割が異なるため、どれか1つの栄養素を大量に取れば良いものでもなく、満遍なく摂取する必要があります。


厚生労働省は、大人が一日に必要なタンパク質量を男性65g、女性50gと定めています¹⁾。定期的に運動を行っている方やスポーツ選手は、より多くのタンパク質が必要だと言われています。現代の日本人は食事で十分なタンパク質量を摂取できていると報告されていますが²⁾、体型や生活様式によって、必要なタンパク質量は十人十色です。タンパク質と聞くとまず思い浮かべるのは筋肉だと思いますが、それ以外にも血液・内臓・皮膚など体のあらゆる器官を構成する主要な成分でもあります。今回のトピックでは、私たちの体づくりに大きく関与しているタンパク質について勉強していきましょう。


タンパク質とは


タンパク質¹⁾は、人間だけでなく生物において重要な構成成分の一つです。私たちの体の約60%は水で構成されていますが、その次に多いのがタンパク質であり、15~20%を占めています。その働きは多岐に渡り、酵素やホルモンとして代謝を調節、生命活動に必要な物質輸送に関与し、あるときは抗体として生体防御にあたります。タンパク質を構成しているアミノ酸は、タンパク質合成の素材であるだけでなく、神経伝達物質やビタミン、その他の重要な生理活性物質の前駆体でもあります。

タンパク質は多くのアミノ酸が結合している集合体です。この集合体はそのまま体内に吸収することはできないため、摂取したタンパク質をアミノ酸に分解してから吸収します。タンパク質を構成しているアミノ酸は全部で20種類あり、体内で合成できる非必須アミノ酸と、体内では合成できず食べ物から摂取しなければいけない必須アミノ酸に分かれます。アミノ酸の状態で体内に吸収された後、20種類のアミノ酸の組み合わせ方を変えて再合成することで、筋肉・血液・内臓・骨・皮膚・髪・爪などの体の部位の主要成分となる他、ホルモン・抗体・脂肪などの材料にもなります。

体内のタンパク質は常に合成と分解を同時に繰り返し、動的平衡状態を保ちながら、毎日少しずつ作り替えられています。その速度は各器官によって異なり、小腸の上皮細胞だと約1日で作り替えられますが、骨や毛髪だと何年もかかります。作り替えられた各器官のタンパク質はアミノ酸に分解され、その一部は尿として体外に排出されてしまいます。つまり、人間はタンパク質を常に食事から補給し続けなければなりません。

InBody結果用紙で表示されるタンパク質量は、体細胞が主に水分とタンパク質で構成されていることから、水分量との相関を考慮して算出しています。そのため、タンパク質を100g摂取するとInBody結果用紙のタンパク質量がそのまま100g増えることはなく、筋肉量の増加や体細胞の増加に伴ってタンパク質量も少しずつ増加していきます。


タンパク質の過剰摂取・不足による悪影響

タンパク質の過剰摂取は消化・吸収・分解の過程で各臓器に対して、過度な負担を掛けてしまいます。タンパク質を吸収するためには、一旦アミノ酸に分解する必要があるため、多く摂取しすぎてしまうと消化や吸収に時間が掛かり、消化器に負担が掛かります。お肉をたくさん食べた次の日にまだお肉がお腹に残っているように感じるのはそのためです。アミノ酸を分解するとアンモニアが生成されますが、アンモニアは毒性が強く、体内の血中アンモニア濃度が高まると最悪の場合、死に直結します。肝臓では有害なアンモニアを無害な尿素に分解しますが、多量のアンモニアを尿素に分解することが続くと、肝臓に過度な負担が掛かり、機能低下を招く恐れがあります。更に、腎臓では血中の尿素濃度が高くなりすぎないように排泄が行われるため、尿素の量が増えると肝臓のみならず腎臓にも負担が掛かってしまいます。

また、タンパク質の過剰摂取は肥満に繋がります。吸収されたアミノ酸は肝臓に運ばれますが、ここで過剰に摂取されたタンパク質はアミノ酸に分解された後、糖質に再合成されて、最終的に中性脂肪になるためです。

一方、タンパク質の不足も、体全般の機能を低下させ、体調不良を引き起こしてしまいます。特に、食事量の減少や咀嚼力の低下により、十分なタンパク質を摂取することが難しくなる高齢者のタンパク質不足には注意が必要です。タンパク質の摂取がうまくできない高齢者は筋肉量が減少し、身体機能も低下することで転倒や骨折のリスクが高まり、老化が進む原因となります。


タンパク質を多く含む食品

タンパク質は動物性タンパク質と植物性タンパク質に大別されます。次の表はタンパク質を多く含んでいる代表的な食品と100gあたりの含有量です³⁾。


「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」より改変

タンパク質は卵や肉、魚のような動物由来の食品や、穀物・豆などの植物由来の食品から摂取することができます。しかし、これらの食品だけでタンパク質をたくさん摂取しようとすると、前者からは脂肪分を、後者からは炭水化物を必要以上に摂取してしまいます。脂肪や炭水化物の過剰摂取はカロリー過多状態につながり、余ったカロリーは体脂肪として蓄積される結果となります。

では、余分な体脂肪を増やすことなく、タンパク質をたくさん摂取するためにはどうすれば良いのでしょうか。次回のトピックでは効率良くタンパク質を摂取する方法をご紹介していきます。

 

参考文献
1.「日本人の食事摂取基準(2020年版)」 厚生労働省
2.「栄養摂取状況調査」 国立健康・栄養研究所
3.「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」 文部科学省

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BIA技術の限界と克服 Part2: 最新技術


これまでのBIA技術には前回のトピック「BIA技術の限界と克服 Part1: BIA技術の黎明」で紹介したような限界があり、部位別測定や多周波数測定など新しい技術開発の必要性が認識され、長年、技術者達がこの問題に取り組んできました。そして、1996年にDr. Chaが部位別測定や多周波数測定を適用し、インピーダンス・身長・体重のみで体成分を算出するDSM-BIA(Direct Segmental Multi-frequency Bioelectrical Impedance Analysis)機器を開発し、InBodyが誕生しました。ようやく、BIA機器が信頼を得て医療・研究など専門分野でも広く使用できる時代が幕を開けました。


最新技術を搭載したDSM-BIA機器

InBodyは人体を右腕・左腕・体幹・右脚・左脚の5つの部位に分けて、1~1000kHz内の低周波数と高周波数の交流電流を組み合わせてそれぞれ測定します。部位毎に分析する点や精度はDEXAと同じですが、DEXAよりもはるかに迅速かつ簡便です。そして、多周波数によるインピーダンス測定は水分バランスも測定できるので、筋肉量だけでなくその質まで解釈することを可能にしました。筋肉量と筋肉の質※を一緒に分析できるのは、最新のDSM-BIA機器だけです。

※健康な体は筋肉量が多いだけでなく、筋肉を構成する水分バランス(細胞外水分比、ECW/TBW)も必ず標準的な割合が維持されます。例えば、体が浮腫むと筋肉が水増しされる形で筋肉の質が落ち、栄養状態が悪くなると筋肉の細胞が脱水状態になる形で筋肉の質が落ちてしまいます。ECW/TBWの標準範囲は0.360~0.400で、一般的にECW/TBWは0.400を超えると高いと評価します。

実際に測定した結果を見ても分かるように各部位でインピーダンスが異なりますが、体幹のインピーダンスは腕や脚のインピーダンスの10分の1以下にもなる場合があります。体幹の筋肉量は全体の50%近くを占めるにも関わらず、インピーダンスは四肢と比べるととても小さいです。つまり、インピーダンス1Ωの変動に対して、四肢の筋肉量への影響は僅かでも体幹の筋肉量への影響はとても大きいということを意味します。そのため、体幹を単独で測定することがとても重要で、体幹部の誤差をなくすことは、結果的に全体の測定精度を大きく高めることになります。InBodyは部位別測定や多周波数測定などの技術を開発したことによって、次のような詳細情報を提供します。

※こちらの項目はInBody770で提供している項目の一部です。

※こちらの項目はInBody S10で提供している項目の一部です。


過去のBIA機器と最新DSM-BIA機器の計測データ(インピーダンス)を比較する

➀両脚だけを測定する機器、➁両腕だけを測定する機器、➂最新DSM-BIA機器、それぞれで計測されるデータは次のようになります。

➀と➁の測定方法では、重要な体幹データが欠落しています。また、片半身(右)だけを単周波で測定するBIA機器は右腕・体幹・右脚の3つの部位に電流を流しますが、片半身を一つの円柱と捉えるために、得られるインピーダンスデータは一つのみです。このようなBIA機器では、せいぜい体成分の大まかな値しか算出できません。従って、➂の測定方法のみ人体の全体像を捉えることができ、DEXAと比較した際に高い相関が得られます。


簡単、迅速、正確な方法


これまでの古いBIA機器には、技術的に克服しなければならない設計上の問題がいくつもありました。そのため、信頼性や再現性では評価を得られませんでした。しかし、最新のDSM-BIA機器はこれらの課題を克服して、専門的な使用を目的とした現場のニーズにも対応できるようになっています。

今日、BIA技術は古く使い物にならない技術ではありません。改良された技術を搭載したDSM-BIA機器は、従来のものと同様に簡単・迅速な測定方法としての利便性と、ゴールドスタンダードによって認められた精度が融合されています。DSM-BIA機器を使用することで、医師・研究者・フィットネス専門のトレーナーらは測定者の体成分をより正確に可視化できるため、InBodyは臨床検査・臨床試験・栄養指導・運動指導の必需品として選ばれています。

このトピックの前編を見逃している方は、こちらもご覧ください☞「BIA技術の限界と克服 Part1: BIA技術の黎明

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BIA技術の限界と克服 Part1: 技術の黎明

※このトピックをより深く理解していただくには、「InBodyの技術」ページも併せてご覧いただくことをお勧めします。


BIA(Bioelectrical Impedance Analysis:生体電気インピーダンス分析)技術が商業化された当初は、健常者に対して大体の体成分情報が提供できることから、”体脂肪計” として一般家庭やフィットネス現場に広く普及しました。しかし、部位毎に長さ・太さが異なり、水分均衡も変動する人体を、片半身の単周波数インピーダンスだけで解釈していた初期のBIA技術では、信頼性に関する疑念を払拭できず、医療・研究など専門分野での普及が遅延していました。限られたインピーダンス情報からできる限り正確な体成分を算出するための試みとして、年齢・性別を始め、体型・病歴・人種など様々な情報が組み込まれた補正式が開発されましたが、補正式は式を作った集団と類似な人体のみで精度が保たれ、且つ体成分の変化が正しく反映されない限界から、専門的な使用を目的とした医療・研究の現場では長年注目されることがありませんでした。

しかし、BIA技術は数十年に渡る長い道のりの中で飛躍的に向上しました。InBodyなどの最新技術を搭載した一部のBIA機器で測定した部位別筋肉量や体脂肪量は、ゴールドスタンダードと言われるDEXA(Dual Energy X-ray Absorptiometry)との比較測定によってその精度が証明されています。

もし、BIA技術は推定としての情報しか分からない、使えない技術であると考えているなら、想像してみてください。設置場所を取らずに、クリニック・パーソナルジム・待合スペースなど、どこでも設置可能で、簡単・迅速に測定でき、最高水準の精度と再現性を併せ持つデバイスを。体の変化を敏感に反映して治療やトレーニングの効果をモニタリングできる機器を。これらを実現可能にしてくれる機器が、InBody=体成分分析装置です。


過去の技術を使っているBIA機器


自宅などで使っている家庭用のBIA機器を確認してください。多くの機器が、統計補正に必要な情報として年齢・性別を入力する必要があり、両脚や両腕、片半身など体の一部だけに電気を流してインピーダンスを測定しています。体の一部しか測定していないにも関わらず、全身の値が算出されるということは、実際に測定した体の一部分に基づいて、全身の値を推定しているということを意味します。この方法は、全身の体成分が画一的であると想定しています。つまり、体の上下左右の筋肉の発達が不均衡の方は誤差が大きくなり、補正式を作った特定集団で表れる体成分の傾向と異なる方は更に誤差が大きくなります。

➤ケース① スポーツ選手

サッカー選手は一般人に比べると下半身がとても発達していますが、このような方が両脚だけを測定するBIA機器を使用すると、上半身も同様に発達していると見積もられた結果、全身の筋肉量が実際よりも過大評価される(=体脂肪率が極端に低く算出される)ケースがあります。

➤ケース② お腹周りの肥満

男性は特に内臓脂肪の増加も起因して、体幹部に脂肪が付きやすいです。腹部脂肪が溜まっている方が両腕だけを測定するBIA機器を使用すると、比較的体脂肪率が低い腕の情報に引っ張られ、体幹の過剰な体脂肪は無視された結果、全身の体脂肪率が実際よりも過小評価されるケースがあります。

➤ケース③ 特定部位の浮腫み・怪我

片半身だけを測定するBIA機器は、右半身または左半身のインピーダンスから残り片半身も同じとして全身を推定します。リンパ浮腫など特定部位のみが浮腫んでいたり、片足骨折など怪我が原因で一部が弱っていたり、左右の均衡が崩れている場合は全身筋肉量を実際より過大、若しくは過少評価してしまいます。また、長さ・太さがまったく異なる腕・体幹・脚を一つの円柱として解釈するには限界もあります。

また、これまでのBIA機器は単周波数(50kHz)の交流電流でインピーダンスを測定していました。しかし、50kHzの低周波数は電流が細胞膜を通過しづらいため、細胞内の水分量および全身の水分量を正確に測定することができません。その結果、水分バランスが崩れている高齢者や疾患者の体成分解釈を誤ってしまう場合があります。

➤ケース④ 高齢者・疾患者

単周波数(低周波数)だけを使用するBIA機器は、一部の体水分(細胞外水分量)しか測定できず、測定できた一部の体水分を基に残りを推定します。痩せている高齢者や、浮腫を伴う疾患を持っている患者など、水分バランスが大きく崩れている方は、全身の水分量や筋肉量が過大評価されるケースがあります。

ここまでは初期のBIA技術と、その問題点について説明してきました。次回のトピックでは、これらの限界を克服した最新技術DSM-BIA(Direct Segmental Multi-frequency Bioelectrical Impedance Analysis)についてご紹介します。

※このトピックをより深く理解していただくには、「InBodyの技術」ページも併せてご覧ください。

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猛暑下の運動と生体反応 Part2: 予防策

このトピックの前編を見逃している方は、こちらもご覧ください☞「猛暑下の運動と生体反応 Part1: 熱中症

前回のトピックでは主な熱中症の症状や危険性についてご紹介しました。今回のトピックではそれらの予防法についてご紹介します。


猛暑の中で安全に運動するためには


暑い時期だからといって、運動を控えた方が良いわけではありません。運動で発生する熱の影響を軽減して、熱中症にならないための予防策に取り組めば、夏でも外で運動を楽しむことができます。猛暑の中での運動を考えている場合は、次の内容を心掛けましょう。

➤自分の体調を考慮する
猛暑の中で運動をする際に、一番考慮しなければならないことは自分の体調です。今日の体調は大丈夫か? 暑さに弱い体質ではないか? 暑い環境下で運動することには慣れているのか? 熱中症の症状がもし現れても、対処することはできるのか? などを考えてみましょう。

➤適宜水分補給をする
最も代表的な熱中症予防対策は水分補給です。夏の運動は暑さと運動による多量の汗が要因で脱水状態になりやすく、体温調節機能に影響を及ぼすため、発汗量に見合った水分を補給する必要があります。適切な水分の補給量は、体重減少が体重の2%以内に収まることが目安となります¹⁾。つまり、運動の強度や気温だけでなく、 体格(体が大きい人は小さい人よりも補給量が多くなる)も考慮して水分補給を心掛けることが重要です。アメリカのスポーツ医学大学による運動時の水分補給ガイドラインは次のように定めています²⁾。

運動時の水分補給ガイドライン

運動前 運動前は十分な食事及び水分(運動する4時間前辺りから約500ml程度)を摂取するようにし、前回の運動後から少なくとも8~12時間の回復時間を設けてください。
運動中 喉の渇きに気づいたら水分摂取をするようにしてください。極端な暑さの中では、より喉が渇きやすくなります。しかし、水分のみを摂取し過ぎてしまうと、低ナトリウム血症または水中毒を発症するリスクが高まるため注意が必要です。長時間の運動をする場合は、6~8%の糖質を含む飲み物(スポーツドリンクなど)がお勧めです。
運動後 運動後の体重が減少していた場合、約500~700ml/450gの水分を摂取してください。運動後の食事でも必ず水分補給をしてください。

運動時の水分補給は、カフェイン入りの飲み物は避けてください。運動前にカフェイン入りの飲み物または水を摂取させて運動前後に血液検査を実施した研究によると、カフェイン入りの飲み物を摂取した人は運動後に脱水症を悪化させ、心血管系への負担が大きくなることが分かっています³⁾。従って、運動時の水分補給は水またはスポーツドリンクなどを選択してください。
※脱水時の水分補給についてもう少し詳しく知りたい方はInBodyトピック「脱水時に必要な飲み物は?」、水分摂取量についてもう少し詳しく知りたい方はInBodyトピック「水は飲めば飲むほどいいのか?」もご覧ください。

➤体を冷やす

体温の過度な上昇を抑えることで、熱中症の予防・持久性運動能力や認知機能低下の抑制・多量の発汗による脱水予防ができます¹⁾。

冷却方法は体の内部または外部から冷やす方法があります。内部から冷やす方法は、冷たい飲料などを摂取することで皮膚や筋温を大きく低下させることなく核心温を下げることができます。一方、冷水・アイスパック・送風などを用いて皮膚などの外部から冷やす方法は、筋肉の熱を直接冷やしたり、発汗による熱を発散させたりする効果があります。外部から冷やす場合、首筋やわきの下など、皮膚表面付近で太い血管が通っている部位を冷やすとより早く体温を下げることができます。首の後ろを冷やしてしまうと、視床下部が冷やされ体温が下がったと勘違いしてしまうので、首の横側を冷やすようにしましょう。

運動前・中・後、積極的に冷却することで得られるメリットは熱中症予防効果だけではありません。運動前に体温を低下させると、運動中の体温の許容量(貯熱量)を大きくして運動時間を延ばすことができます。運動・休憩中の冷却は体温や筋温が過度に上昇することを防ぎ、疲労感や暑さなどの主観的な感覚を和らげることができます。そして、運動後の冷却は上昇した体温や筋温を通常に戻して、疲労を軽減したり、筋損傷や炎症反応を抑えたりすることができます。また、体温が上昇した状態が続くと、余分なエネルギーを消耗してしまうため、冷却することでリカバリー効率も向上します。

体を冷却することは熱中症予防に繋がりますが、体温や筋温を適切な状態に保つためには過度に冷却しないことも大切です。例えば、外部から冷やすときはタオルを冷水に浸して軽くしぼり、冷たさを感じなくなるまで当て、再度タオルを冷水に浸して当てるということを2~3回繰り返す程度が適切です。汗を流している時には、風を当てるだけでも冷却効果は期待できます。

➤環境に体を慣れさせる
ほとんどの人は体が暑さに順応するまで約1〜2週間(毎日90分程度)かかります⁴⁾。但し、外部環境によるストレスに体を慣れさせることが大事なので、その環境にただ体を置くのではなく、ウォーキングなどの軽い運動をしたり、室内の温度を外の温度とあまり変わらないように、若しくは少しだけ低くなるようにしてリラックスした状態で過ごしたりするなど、ストレス環境下でもある程度の身体活動や日常活動を行うことが理想です。

➤運動しやすい時間と服装を選択する

1日の気温は朝5~6時頃が最も低く、徐々に上昇し、午後2~3時頃ピークに達します。従って、外で運動するときはこの暑い時間帯を避けるようにしましょう。また、服の素材や色も体温調節に重要です。運動時はポリエステルなど通気性のある生地で作られた明るめの服を着用しましょう。暗めよりも明るめの色の方が太陽光を吸収しにくいので、太陽光の熱を感じにくくなります。


終わりに

人間は周りの環境変化に合わせて適応できますが、全員が同じように暑さに耐えられるわけではありません。体調やその日の気温・湿度などを考慮して運動の可否や内容を検討してください。また、外ではなく冷房の効いた室内で行う、時間帯を変更・短縮する、激しい運動は控えるなど、暑さの中で少しでも快適に運動ができるような工夫をすることで、暑い季節でも運動を楽しむことができます。

このトピックの前編を見逃している方は、こちらもご覧ください☞「猛暑下の運動と生体反応 Part1: 熱中症

 

参考文献
1. 「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック(第5版)」 公益財団法人日本スポーツ協会
2. Brad A. Roy, Ph.D., Exercise and Fluid Replacement: Brought to you by the American College of Sports Medicine. FACSM, FACHE, ACSM’s Health & Fitness Journal: July/August 2013 Volume 17 Issue 4 p3
3. Chapman, Christopher L.; Johnson, Blair D. et al., Consumption of a Caffeinated Soft Drink during Exercise in the Heat Worsens Dehydration. Medicine & Science in Sports & Exercise: May 2018 Volume 50 Issue 5S p386
4. Michael N. Sawka, Julien D. Périard, Sébastien Racinais. Heat acclimatization to improve athletic performance in warm-hot environments. Sports Science Exchange (2015) Vol.28, No.153, 1-6

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猛暑下の運動と生体反応 Part1: 熱中症


日が長く晴れた夏空の下、屋外で運動をしたい、または始めたいと思う人はたくさんいるでしょう。しかし、日本の夏は年々気温が上昇しており、これまでに最高気温が41℃以上を観測した地域もあるほど(2020年6月時点)、猛暑日が増えてきています¹⁾。1980年アメリカでは猛暑への対策ができていなかったために1,700名が²⁾、2003年パリでは14,800名が熱中症に関連した合併症により亡くなりました³⁾。日本でも2018年に熱中症が原因で1,581名 が亡くなっています⁴⁾。猛暑下における運動は、健康を増進するどころか命の危険に繋がってしまう恐れもあります。では、暑い時期の運動は控えたほうが良いのでしょうか?


暑さを感じたときに起こる体内の反応

人間を含むほとんどの哺乳類は、外部の温度変化に左右されずに一定の体温を保つことができる恒温動物です。どのように人体は体温を一定に保っているのでしょうか。

人体は深部の核心温を36.5~37.5℃の一定範囲で維持しようとする体温調節機能を備えています⁵⁾。その核心温を調節する役割を担っているのが脳の視床下部です。外部温度が核心温を変化させるくらい極端である場合、視床下部は体温を正常範囲内に保つために、体を温めたり冷やしたりする指示を出します。

例えば、外部温度上昇の影響で体の核心温が上がると、視床下部は核心温を下げるために体内の血液を皮膚表面の血管に移動させます。これにより血管が拡張されて血液循環量が増えると、体内の熱は皮膚を通して放散されやすくなり、体温は下がります。また、血液循環量の増加に伴い、視床下部は汗腺を活性化させて発汗を促します。汗は蒸発することで肌を冷やし皮膚表面を流れる血液の温度を下げるため、体温はそれに伴って下がります。


様々な熱中症関連症状


体温調節機能は疾患などの問題がなければ自然に働きます。夏の高温環境では皮膚表面の温度が下がりにくいため、体温を汗の蒸発によって下げようとします。しかし、夏場は高い湿度の影響により汗の蒸発は少なくなります。その状態で十分な水分補給ができずに大量の汗をかくと、体温の低下が十分でないまま体内の水分は減少します。そして、体内に熱がこもり体温が高くなると熱中症になってしまう恐れがあります。熱中症に関する症状は様々ですが、熱中症が疑われた時点で適切な処置をする必要があります。熱中症に関する症状は次のようなものがあります。

➤熱痙攣
激しい運動により大量の汗をかいているにも関わらず水分だけを補給していると、血液中の塩分(ナトリウム)濃度は低下し、体内の電解質均衡が崩れてしまいます。酷使した筋肉は痙攣してしまい、触ると鋭い痛みを伴います。熱痙攣は熱中症の中では比較的重症度が軽く、涼しい環境でスポーツドリンクを飲んだり、少しの塩を入れた水を飲んだりすることで治ります。また、痛みがある部位は直接マッサージするよりも、ゆっくりストレッチすることで痛みを和らげることができます。

➤熱失神

長時間の立ちっぱなしや運動、または長時間座っていた後に急に立ち上がったりすると、めまいや一時的に意識を失う症状が起こります。体温を下げるための皮膚血管拡張により、血圧が急激に低下して脳に十分な血液が供給されないことが原因で起こります。意識がある場合は周りの人の助けを借りて、涼しいところに移動し、スポーツドリンクなど電解質を含む飲み物で水分補給しましょう。横になって休む時は脚を少し高めにすると脳への血流を改善できます。首筋やわきの下など、皮膚表面付近で太い血管が通っている部位を冷やすことも効果的です。但し、首の後ろを冷やしてしまうと、視床下部が冷やされ体温が下がったと勘違いしてしまうので、首の横側を冷やすようにしましょう。

➤熱疲労
運動時に限定されず、大量の汗で水分と塩分が過剰に失われて血液量が減少すると起こる症状です。軽度の体温上昇(40℃未満)を伴うこともあり、吐き気・頭痛・嘔吐などを感じ、失神に繋がることもあります。心拍数や呼吸数の上昇・血圧降下が見られ、症状が発生しているときも汗をかき続けるため、肌は冷たくベトベトに感じることがあります。熱中症の関連症状の中でも重症度が高い症状ですが、対処方法は他の熱中症と同じく、涼しいところで横になって休憩を取り、電解質を含む水分をゆっくり摂取します。嘔吐によって水分摂取ができない場合は、医療機関で点滴を行う必要があります。

➤熱射病
熱中症の中でも最も重症度が高く、若年運動選手の主な死亡原因とされているほど危険な症状です。極度の高温状態で運動や仕事をしたり、閉め切った暑い場所で過ごしていたりする人に起こることが殆どです。非常に暑い中、発汗または他の方法で体の熱を放散できなくなると、体温は下がらずに40℃以上まで上昇します。他の熱中症の症状が大量の発汗を特徴としているのに対し、熱射病の場合は皮膚が熱く赤くなり、汗をかかない場合もあります。また、意識障害(反応が鈍い・言動がおかしい・意識がない)が見られ、命に関わる危険性(脳や臓器の損傷・死亡)も高いため、緊急治療が必要です。処置の方法はとにかく体を冷やすことです。冷水に体を浸したり、浸すことができない場合は体にぬるま湯の霧を吹きかけ扇風機で風を当てて蒸発させることで体を冷やしたりします。もちろん、これらは応急処置なので早急に救急車を呼び、搬送を待つ間に行います。


このように高温多湿な環境では体温調節機能がうまく働かないこともあるため、体の不調に注意する必要があります。いつもより汗をかいていたり、めまいや立ちくらみを感じたり、動悸が激しいと感じたときは、必ず体を休めて水分補給をしましょう。更に深刻な兆候が見られた場合はすぐに助けを求め、医師の診察を受けるようにしてください。軽い症状だと思って放置してしまうと、命の危機に繋がる恐れもあります。


運動を控えた方が良いと判断する基準

暑さに耐えられる程度は年齢や健康状態などによって異なるため、運動を避けた方が良い暑さを判断する明確な基準は存在しません。しかし、運動をしても問題ないかを判断するときに活用できる客観的な要素として、暑さ指数(WBGT: Wet Bulb Globe Temperature)があります。WBGTは熱中症を予防することを目的に1954年にアメリカで提案された指標です。気温とは異なり、人体と外気との熱のやり取り(熱収支)に着目しており、熱収支に与える影響の大きい①湿度、②地面・建物・体から出る周辺の熱環境(輻射熱)、③気温の3つを考慮して計測されます。労働環境や運動環境の有用な指針として国際的にも規格化されており、環境省の熱中症予防情報サイトでは日本各地のWBGT情報を確認することができます。また、日本スポーツ協会では下図の「熱中症予防運動指針」を公表しており、WBGT 28℃以上は激しい運動を中止するように示しています⁶⁾。(乾球気温は気温を指します。)

「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック(第5版)」より引用

実際に、環境省によるデータを基に熱中症患者発生率と日最高WBGTの関係を示した下図を見ると、日最高WBGTが28℃を超えると一気に熱中症患者が増えていることが分かります⁷⁾。

「暑さ指数(WBGT)とは?」より引用

ただ、熱中症の発症リスクは年齢・健康状態などにより個人差が大きく、運動強度によっても大きく異なります。特に高齢者や小児は熱中症になりやすく、重症度が高くなりやすいため、より注意が必要です。WBGTによる運動指針を判断材料の一つとして活用し、運動を控えるかどうか決めてください。


脱水時の体成分変化について

脱水は熱中症を引き起こしてしまう主な要因ですが、どのように脱水は評価できるのでしょうか。医療施設では血液・尿検査や医師による所見診断などで脱水症を評価しますが、体重変動からも重症度を評価することができます⁸⁾。何らかの要因で1日のうちに大幅な体重減少が見られる場合は、体内の水分が大量に喪失していることを意味するため、脱水症になっている可能性が考えられます。下図は体重減少率による脱水症の重症度を示しており、体重減少率が大きいほど重症度が高いことが分かります。
「水分と電解質を失う「脱水」を知り、対策をとることが体調管理のテーマ」より引用⁸⁾

InBodyは体水分量を測定することができるため、このような脱水による水分変動を敏感に反映します。実際に、急激な減量を行うレスリング選手を対象に平常時・減量時(脱水時)・再水和時の水分状態を調査した報告もあります⁹⁾。レスリングは体重別で階級が分かれており、試合前日もしくは当日に計量をクリアしなければなりません。そのため、レスリング選手は計量の1~2日前から水抜き(脱水)によって体重を急激に落とそうとします。減量時では体水分量が減少し、再水和時には体水分量が増加する体成分の変化が結果に反映され、体重変動と同様に、基準となる平常時の値と比較することで体水分量の減少率を確認することができます。勿論、体水分量が減少することで水分均衡にも影響が出る可能性はありますが、脱水症は3種類あり、それぞれ水分均衡の変化も異なるため、体重変動と異なり明確な基準を設けることが難しいのが現状です。

また、大量の汗を掻くことによって体内の水分量が減少すると、筋肉量も一時的に減少してしまいます。なぜなら、筋肉量は水分とタンパク質の融合体であるため、体水分量の減少は筋肉量の減少に繋がってしまうためです。このような理由から、InBodyは運動前に測定する必要があります。

次回のトピックでは熱中症の具体的な予防策について紹介していきます。☞「猛暑下の運動と生体反応 Part:2 予防策

 

参考文献
1.「歴代全国ランキング」 気象庁
2. Eric E Coris et al., Heat illness in athletes: the dangerous combination of heat, humidity and exercise. Sports Med. 2004;34(1):9-16.
3. Jean-François Dhainaut et al., Unprecedented heat-related deaths during the 2003 heat wave in Paris: consequences on emergency departments. Crit Care. 2004 Feb;8(1):1-2.
4.「熱中症による死亡者数(人口動態統計)」 厚生労働省
5. J Gordon Betts et al., Anatomy and Physiology. Tyler Junior College. 2013 Aug:167
6.「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック(第5版)」 公益財団法人日本スポーツ協会
7.「暑さ指数(WBGT)とは?」 環境省熱中症予防情報サイト
8.「水分と電解質を失う「脱水」を知り、対策をとることが体調管理のテーマ」 教えて!「かくれ脱水」委員会
9. Alan C Utter et al., The validity of multifrequency bioelectrical impedance measures to detect changes in the hydration status of wrestlers during acute dehydration and rehydration. J Strength Cond Res. 2012 Jan;26(1):9-15.