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体成分と食事回数の関係 Part2: 実践編

このトピックの前編を見逃している方は、こちらもご覧ください☞「体成分と食事回数の関係 Part1:生理学

目標とした体成分に到達するために有用な方法は食事回数を減らすだけではありません。今回のトピックでは、体成分改善に効果的な食事コントロールの例として、朝食や断食の効果をご紹介します。


朝食の重要性


朝はゆっくりとできる時間もなく、朝食を摂らないという人も少なくはないでしょう。しかし、健康的な朝食を摂ることが体重の減量と間食を減らすことに役立つという研究結果¹⁾もあり、朝食を摂ることは減量または体重維持に有効な習慣です。また、高タンパクの朝食を摂ることで間食や甘いものに対する食欲が減少したという研究結果もあります²⁾。この研究では朝食を摂った人が摂っていない人よりドーパミン濃度が高く示されています。

好きなことをしていて幸せな時や、重大なことを無事に完了して達成感を味わっているとき、空腹を忘れているような経験をしたことはありませんか? この時に脳で分泌されるホルモンがドーパミンです。空腹状態で甘い物を食べた時に分泌されるドーパミンは食物依存症に繋がるのに対し、満腹中枢が刺激されている中で分泌されるドーパミンは食欲を抑える効果があります。そのため、満腹感を感じつつドーパミン濃度が更に高くなる高タンパクな朝食を摂ることは、余計なカロリー摂取を抑え体脂肪量の減少にも繋がります。
※食物依存症の詳細はInBodyトピックの「食物依存症と過食 part1: 体への影響」もご覧ください。

また、Gonzalezらの研究では朝食が代謝機能を改善させるという結果も示されています³⁾。これらの研究結果から分かることは、朝からしっかりエネルギーを補充しておくことが体脂肪量減少に役立つという点です。


断食の効果


摂取エネルギーの制限方法として食事回数を減らすことや低カロリー食事をすることが挙げられますが、断食も良く知られている方法です。減量目的でよく耳にする断食方法は断続的断食(Intermittent Fasting)と1日おき断食(Alternate Day Fasting)の2つがあります。

断続的断食には様々な方法がありますが、一番やりやすいのは16:8断食と言われるものです。これは1日のうち、8時間だけ食事をする時間を設けて残り16時間は食事をしない方法です。理論上、8時間の間で2食(朝食と昼食/昼食と夕食)を摂ることができるので、毎日行うこともできます。1日おき断食も断続的断食と似たような方法ですが、断食の時間がより長いです。1日おき断食は36時間断食して次の12時間で食事をする方法です。

どの方法も減量には効果的という研究は多々ありますが、断食の難しいところは全く食事をしない時間帯があるため、長期間持続するのが難しいという点です。また、断食の減量効果は摂取カロリー制限とあまり差がなかったとの研究結果もあるため⁴⁾、個人の生活パターンや目標とする期間などを考慮して、自分に合う方法を選択する必要があります。


減量のポイントは「カロリー赤字」


体重や体脂肪量の減少を目的とする場合、断食や食事回数の調節は有効な方法ですが、これらの方法がどういう状態になるための手段なのかを忘れてはなりません。減量において最も重要なのは「カロリー赤字」の状態になることで、断食も食事回数の調節もカロリー制限もこの状態になるための様々な手段にすぎません。ある研究では、食事回数とは関係なく、同じカロリー赤字の量であれば同じ程度の体重と体脂肪量の減少を示しています⁵⁾。

ただ、この結果は食事回数の変化が無意味というわけではありません。同じ低カロリーの食事を行った人でも、1日2食の人の方が1日6食の人よりも、体重が減少しています⁶⁾。 重要なのは、食事回数を減らしたとしてもカロリー赤字になっていなければ体重は減らないということです⁷⁾。つまり、食事回数の減少と摂取カロリー制限を同時に行うことでカロリー赤字になりやすく、減量しやすいと考えるべきです。
※カロリー赤字の詳細はInBodyトピックの「体脂肪量減量に関する5つの迷信」もご覧ください。


体重を減らす時に注意すべき点


食事回数を変えて体成分の変化を試みた時、本来意図していなかった結果となる場合もあります。通常であれば、タンパク質はエネルギー源としてあまり使われません。しかし、食事をしない時間が長くなって蓄えていたブドウ糖を使いきった後は多量のタンパク質がエネルギーを作るために分解され始めます。これは断続的断食または1日おき断食が、筋肉の分解という思いもしなかった結果に繋がることもあり得るということです。

一方、筋トレと断食を一緒に行った人は、筋肉量が減少しなかったという研究もあり⁸⁾、断食や食事回数の減少が筋肉量に及ぼす影響に関しては、不明な点もまだ多く残っています。断食中であっても、筋トレと並行しながら、食事のタイミングで十分な量のタンパク質を摂取できれば、筋肉量の減少を防止できるという研究結果から、断食で食事を摂る際は栄養バランスがとても重要であることが分かります。

繰り返しますが、食事回数・食事量・食事内容・摂取のタイミングなど、食事に関する何かしらの変化は、筋肉量の減少を引き起こす可能性があるということを常に考える必要があります。これを防ぐためには、タンパク質の摂取量を十分に確保することや、食事の変化に伴い筋トレメニューを組むなど、運動習慣も含めて計画を立てる必要があります。筋トレによって筋肉量が維持または増加すると基礎代謝量も増加するため、カロリー赤字になりやすいのも適切な筋トレのメリットです。


食事回数の調節に取り組む前に


食事は体に生理学的影響を及ぼし、食習慣は体成分に大きく影響します。食事回数を調整することは、代謝量・消化管ホルモン・満腹感に影響して、目標とする体成分に近づくことにも繋がります。ただ、食事回数を減らすことについて明確な結論は出ておらず、食事回数を減らすことが体重・体脂肪量の減少に有用であるという研究が多く報告されているだけです。食事回数の調節を検討する時は、次の内容を意識して自身の体で合った方法なのかも考えながら、試行錯誤しましょう。

少ない食事回数と体重・体脂肪量の減少は関連している。
体重・体脂肪量を減らすためにはカロリー赤字になることが重要である。
朝食を摂ることは体重の維持・減少に有効であり、高タンパクの朝食は間食や甘いものへの食欲を減らせる。
定期的に運動をすることは筋肉量を維持・増加させ、代謝量にも影響を及ぼす。

食事回数を減らすとき、1食を抜くことで1日2食にすることが一般的であるとはいえ、誰にでも効果があるものではありません。食事回数をどのように調整するかは自分の生活パターンや目標に合わせて決めることが大事です。短期間で魔法のように体成分を変える方法はありません。地道な努力だけが健康と体成分の改善を同時に達成できる唯一の方法です。食事回数を含む食生活の変化は、正しい方法を頑張って継続させた分だけ、成果として現れるでしょう。このトピックの前編を見逃している方は、こちらもご覧ください☞「体成分と食事回数の関係 Part1:生理学

 

参考文献
1. Schlundt DG et al., The role of breakfast in the treatment of obesity: a randomized clinical trial. Am J Clin Nutr. 1992 Mar;55(3):645-51.
2. Hoertel HA, Will MJ, Leidy HJ. A randomized crossover, pilot study examining the effects of a normal protein vs. high protein breakfast on food cravings and reward signals in overweight/obese “breakfast skipping”, late-adolescent girls. Nutr J. 2014 Aug 6;13:80.
3. Gonzalez JT et al., Molecular adaptations of adipose tissue to 6 weeks of morning fasting vs. daily breakfast consumption in lean and obese adults. J Physiol. 2018 Feb 15;596(4):609-622.
4. Catenacci VA et al., A randomized pilot study comparing zero-calorie alternate-day fasting to daily caloric restriction in adults with obesity. Obesity (Silver Spring). 2016 Sep;24(9):1874-83.
5. Cameron JD, Cyr MJ, Doucet E. Increased meal frequency does not promote greater weight loss in subjects who were prescribed an 8-week equi-energetic energy-restricted diet. Br J Nutr. 2010 Apr;103(8):1098-101.
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体成分と食事回数の関係 Part1: 生理学

体重と体脂肪量を減らす計画を立てる時、多くの人は食生活を変えることから試みるでしょう。食生活の改善で「何を食べるか」はとても重要で、普段の食事内容が確認できていないと、どのように改善すればいいのか分かりません。しかし、「1日の食事回数」については深く考えない人が多いのではないでしょうか。アスリートにおいてはパフォーマンスを最も高める食事タイミング及び量に関する研究発表もあります¹⁾。しかし、減量を目標とする一般健常人の場合、食事計画を立てるときに何を考慮すればいいのか分からない方が多いでしょう。

約50年も前に、少量の食事を1日数回に分けて摂る方が、体重・代謝量・代謝機能を良くするという研究発表がありました²⁾。今でも食事を小分けにして1日6食にする方が太りにくいという話はよく耳にする話です。しかし、最近ではこの研究内容が再検討されています³⁾。

少量を数回に分けて1日中食べる方法と、定期的に普通の量を食べる方法、どちらが減量と代謝に効果的でしょうか? どちらが効果的かを考える前に、体がどのように食べたものを消化するのかと、食事回数と量の関係について確認してみましょう。


食事の生理学

食事をすると、次のような生理学的現象が起こります。

➤食事による熱生産(Thermic Effect of Food; TEF)

食事をすると食べたものを消化・吸収するためのエネルギーと血流が必要となり、代謝量が増加します。代謝量が増加するということはエネルギーを消耗して熱を作り出すことを意味し、この現象を「食事による熱生産(TEF)」と言います。一般的にタンパク質のTEFは摂取エネルギーの15~30%、糖質は6~8%、脂質は2~3%程度とされています⁴⁾。ホルモン濃度や体重等によって個人差はあるものの、代謝量は食事後に約25%増加すると言われています⁵⁾。そして、他の要因と比べて代謝量に影響が大きいのは食事量です。多くの食べ物を消化するためにはエネルギーも多く必要であるため、食事量が少なかった時より多かった時の方が代謝量の増加も大きくなります。

➤消化管ホルモンの分泌

食べたものが胃や腸管に入って内壁を刺激すると、脳に信号が伝わりホルモン分泌が促進されます。信号を送るのが胃・腸などの消化器であることから、この作用で分泌されるホルモンを消化管ホルモンと称します。代表的な消化管ホルモンはグレリン・PYY・GLP-1・GIP等があり、それぞれ異なる作用と効果があります。消化管ホルモンは食べたものが胃に長く留まるようにしたり、代謝に重要なホルモンであるインスリンの分泌を促進したり、栄養摂取ができていると脳に信号を送ることで食事の速度を落としたり、満腹感を感じさせることで食事を終えるようにしたりします。消化管ホルモンのうち、GLP-1というホルモンは食事量に比例して分泌されますが、ブドウ糖の体内生産を抑えることや食べたものが胃から排出される時間を遅延させることで満腹感を感じやすくします。

同じものを食べるのであれば食事量がホルモンの分泌量に影響を及ぼすので、食事量が少ないと勿論満腹感も得られにくくなります。満腹感がないことから、食後あまり時間が経っていないうちにまた何か口にしてしまえば、「結局は食事を小分けにしない方がトータルの摂取量は少なかった」なんてことにもなりかねません。

食事から得た栄養素を消化・吸収している間、体はエネルギーや栄養分を貯める「貯蔵モード」に入ります。食後、代謝量が一時的に増加してもしばらく栄養素の吸収は続き、体に予備として貯蔵されます。そして、一般的に食後約4時間で体は「空腹状態」に戻り、次の食事までの間は貯蔵していた栄養素をエネルギー源として使用します。食事を小分けにして1日中食べると代謝量は多少増加しますが、1日の殆どを「貯蔵モード」で過ごすことになります。また、食後の状態が続くことで満腹を感じさせる消化管ホルモンが活発に分泌されなくなり、ずっと空腹を感じてしまうようになる可能性もあります。これらの内容を踏まえ、食事回数と量についてもう少し確認してみましょう。


食事回数と体重・体成分の変化


最初に紹介した研究の結論にある「少量に分けて数回食事を摂ることは、太りにくくすることと関係がある」という部分は、減量を考えている人の間で常識のように思われてきました。最初に決めた摂取カロリーを1日5-6食に分けて摂ると継続的に食欲を抑えることができるので、カロリー制限も続けられて減量しやすくなると考えられていたのかもしれません。しかし、これとは逆の結果を示す研究発表も実は多く報告されています。

ある研究では、食事回数が多い群(8食/日)と少ない群(3食/日)を比較した結果、回数が多い群が空腹を感じやすく、食欲が増加し、満腹感を少なく感じたと報告しています⁶⁾。その理由までは明らかになっていませんが、恐らく食事量と消化管ホルモン分泌量の関係や満腹感に及ぼす影響が原因ではないかと推測できます。

さらに2007年にアメリカで行われた研究では、2ヶ月間食事回数を1日3食と1日1食にした2群を比較した時、1日1食の群で体脂肪量がより減少したと示されました⁷⁾。この研究の食事回数は他の研究とは異なりますが、結果としては食事回数が少ない方が短期間の体成分改善に効果的であることを示唆しています。

食事回数に関した他の疫学研究では、頻繁な食事が過体重と関連していることを示しました。2015年、約2万名を対象としたアメリカの研究では、1日5食以上の場合、過体重または肥満になる可能性が約1.5倍も大きくなることが報告されました⁸⁾。食事回数と体重増加の関係を明確には説明されていませんが、食事回数が多い人たちの殆どが早食いだったとことが共通点で挙げられています。また、約1,000名の男性を10年間フォローアップした別の研究でも、1日3食以上食事をした人の15%以上で、体重が約5kgも増加していることが分かりました⁹⁾。


これらの研究結果から、少ない食事回数は減量または体重増加を抑える直接的な効果があると断言するのは難しいかもしれませんが、食事を小分けにして食事回数を多くすると、体重増加の引き金にもなり得ることを覚えておいてください。むしろ、体重を増やしたい場合は小まめに食事を摂ることが効果的と言えるでしょう。もちろん、体重はその数値だけが重要なわけではありません。重要なのは中身で、筋肉量が多くて体重が重い場合もあれば、隠れ肥満のように体重は普通でも体脂肪量が多い場合もあるので、体重より重要なのは体成分です。

では、なぜ食事回数が少なく一回当たりの食事量が多くなる摂取方法が、食事回数が頻繁で少しずつ分けて食べる方法より効果的なのでしょうか? ここで消化管ホルモンのことを思い出してみてください。満腹感を感じるのは消化管ホルモンの作用によるものなので、1回の食事量が少なくホルモンの分泌量が少ないと、満腹感をあまり感じることができません。食事回数が少なくても食事量が多ければ、PYYという消化管ホルモンの分泌量が多くなるので¹⁰⁾、1日の食事量を小分けにして食べるよりも、食事回数を減らして一回当たりの摂取量を増やす方が、満腹感を感じやすくなると言えます。PYYの分泌量はタンパク質の摂取量に影響されるので¹¹⁾、3食の中でタンパク質を適切に取り入れることを意識してください。また、GLP-1の分泌量は摂取量と関係するので、1回の食事量を極端に減らし過ぎないようにしましょう。GLP-1の分泌量が減ると、インスリン分泌がうまく促進されなかったり、満腹感を得ることが難しくなったりします。

つまり、1日2-3回、適量を食べることが体重と体脂肪を減らす食事戦略と言えるでしょう。続いて次のトピックでは、食事回数を減らすときに気を付けることをご紹介します。☞「体成分と食事回数の関係 Part2: 実践編

 

参考文献
1. Kerksick CM et al., International society of sports nutrition position stand: nutrient timing. J Int Soc Sports Nutr. 2017 Aug 29;14:33.
2. Fabry P et al., THE FREQUENCY OF MEALS. ITS RELATION TO OVERWEIGHT, HYPERCHOLESTEROLAEMIA, AND DECREASED GLUCOSE-TOLERANCE. Lancet. 1964 Sep 19;2(7360):614-5.
3. Schoenfeld BJ, Aragon AA, Krieger JW, Effects of meal frequency on weight loss and body composition: a meta-analysis. Nutr Rev. 2015 Feb;73(2):69-82.
4. 永井成美, 糖質摂取と食事後体熱産生―適正エネルギー比率の糖質摂取と若年者の健康―. 応用糖質科学第5巻第4 号(2015): 216-221
5. Miles CW et al., Effect of circadian variation in energy expenditure, within-subject variation and weight reduction on thermic effect of food. Eur J Clin Nutr. 1993 Apr;47(4):274-84.
6. Perrigue MM et al., Higher Eating Frequency Does Not Decrease Appetite in Healthy Adults. J Nutr. 2016 Jan;146(1):59-64.
7. Stote KS et al., A controlled trial of reduced meal frequency without caloric restriction in healthy, normal-weight, middle-aged adults. Am J Clin Nutr. 2007 Apr;85(4):981-8.
8. Murakami K, Livingstone MB, Eating Frequency Is Positively Associated with Overweight and Central Obesity in U.S. Adults. J Nutr. 2015 Dec;145(12):2715-24.
9. van der Heijden AA et al., A prospective study of breakfast consumption and weight gain among U.S. men. Obesity (Silver Spring). 2007 Oct;15(10):2463-9.
10. Leidy HJ et al., The influence of higher protein intake and greater eating frequency on appetite control in overweight and obese men. Obesity (Silver Spring). 2010 Sep;18(9):1725-32.
11. Batterham RL et al., Critical role for peptide YY in protein-mediated satiation and body-weight regulation. Cell Metab. 2006 Sep;4(3):223-33.

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在宅勤務で健康維持する方法


2018年、日本企業のテレワーク導入率は19.0%
で年々増加傾向にありますが(2017年:13.8%、2016年:13.2%)、2020年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによってテレワークの導入が各企業で加速していくことが予想されます。まだテレワークの制度が整っていない企業でも、今後早急に導入を検討しなければならないような状況でもあります。テレワークと言ってもその勤務形態は様々で、在宅勤務・サテライトオフィス勤務・モバイルワークもテレワークに含まれます。
※総務省「通信利用動向調査(企業編)平成30年報告書」より引用。常用雇用者が100人以上の全国の企業を対象にした調査で、2,119企業から集計。

在宅勤務には、定型業務の効率性向上・通勤時間の短縮・オフィスコストの削減・通勤困難者への対応・非常時(災害や新型コロナウイルスなど)の事業継続など、多くのメリットがあります。通勤時間の短縮で使えるようになった自由な時間は、セルフケアや新しいことに挑戦できる機会でもあります。しかし、在宅勤務に普段から慣れていない人たちにとっては、「自宅でどのように業務に取り組めば良いのか? どのようにストレス管理・健康的な食事・運動を取り入れれば良いのか?」 と、悩まされる人も多いです。新型コロナウイルスのパンデミックから身を守ることを考えると、今は健康的なワークライフバランスを確立させてセルフケアを最優先すべき時期ではないでしょうか。今回のトピックでは、テレワーク導入に伴ったワークライフバランスの変化に対応できるよう、生活の中で取り入れるべき・見直すべき点についてご紹介していきます。


メンタルヘルスについて


新型コロナウイルスはその特性や効果的な治療法など、まだ明らかとなっていない部分も多いです。これらの不明点は、自粛生活のストレスや感染の危険性への不安が増長される原因となっています。現在も多くの方が在宅勤務・自宅療養・外出自粛で自宅中心の生活を余儀なくされていますが、ウイルスもストレスも目には見えないものの健康を損なう要因であることに違いはありません。悪化する前から精神状態の管理方法について考えてみる必要があります。

➤ 瞑想
瞑想は、どこでもできる簡単なストレスケア方法です。2020年の研究によると、毎日20分の瞑想を行うだけで、生産品質の改善や仕事のミス減少などの生産性が向上するだけでなく、POMS(気分プロフィール検査)の【抑うつ・落ち込み】や【怒り・敵意】などの項目が減少し、精神的にも大きな効果が見られました¹⁾。このように、研究でも定期的な瞑想の実施は生産性の向上のみならず、幸福感を高めることにも役立つことが示されています。初めて瞑想を行う方は、毎日3分から始めて徐々に時間を伸ばしていきましょう。瞑想の方法は様々ですが、今回は気軽に始められるよう、瞑想法の土台にもなっていた ”呼吸による瞑想” を簡単にご紹介します。


※「Googleも採用するマインドフルネス瞑想/その効果と難易度別3つの実践方法」林佐智子.ライフアンドマインドより引用・改変

呼吸による瞑想は、ただ呼吸に意識を向けるだけの方法なので新しいスキルや道具も不要です。しかし、呼吸は自律神経の中で唯一意識的に介入することができる神経系なので、意図的に呼吸を変化させることでその状況が脳に伝わり、脳内に働きかけることができると言われています。呼吸法は、横隔膜を動かして内臓にも刺激が伝わる腹式呼吸がお勧めですが胸式呼吸でも問題なく、やりやすい呼吸で②-③を繰り返し3分から15分ほど続けてみましょう。

➤ 仕事とプライベートのバランス
自宅で仕事を行う際の問題点は、仕事の時間とプライベートの時間に境界線が無くなることです。会社に通勤していた頃は、オフィスを離れることで自然と終業を認識できていましたが、自宅での仕事は就業時間の区別をつけにくくなってしまいます。朝早くから夜遅くまで一日中、メールの返信をするなどパソコンと向き合ってばかりではありませんか?

プライベートの時間まで仕事の時間に充てることは、心身の健康状態の悪化にも関連します。在宅勤務中でも、できるだけ通常通りの勤務時間を設定して区切りをつけてください。時間になったらパソコンは閉じて、仕事関連の通知はミュートにしましょう。このようなルールをチームや上司と共有して、仕事とプライベートのバランスを取るためには会社からの理解も必要です。

➤ 睡眠
毎朝決められた時間に出社する必要がなくなったので、目覚ましをかけることを止めてはいませんか? 今までの規則正しかった睡眠ルーティンを忘れてはいませんか? 不規則な睡眠スケジュールや睡眠不足は、脳細胞回復の妨げとなり、認知機能や判断力・記憶力低下の原因になります。また、睡眠を促進するホルモンであるメラトニンは気持ちを落ち着かせるセロトニンとも密接な関係があるため、十分な睡眠をとることは心理的安定をもたらし、ストレス解消にも繋がります。


健康的な食事


在宅勤務中の昼食と間食はどのようにしていますか? バランスの取れた食事と栄養価の高い間食を選択することは、健康体を目指す上で必要不可欠です。外出の必要もなく手軽に食事を済ませられるからと言って、デリバリーのピザやファストフードを頻繁に頼んではいませんか? デリバリーに対応している食事は、高カロリーかつ塩分過多・糖質過多なものが多く、頻繁に食べると肥満のリスクが高まります。

在宅勤務は、外食を避けて自炊をするチャンスです。自炊であれば、食材の選択から調理方法までより細かく食事内容を制御することができます。これからの食事には、次のようなバランスの取れた食品を取り入れることをお勧めします。
 全粒穀物(玄米・全粒粉小麦・オートミールなど)
様々な種類のタンパク源(赤身の肉・魚介類・卵・大豆製品・ナッツ類など)
低脂肪または無脂肪乳製品(牛乳・ヨーグルト・チーズなど)
非デンプン質野菜(葉野菜・トマト・玉ねぎなど)とデンプン質野菜(ジャガイモ・カボチャ・グリーンピースなど)
丸ごと果実

肉料理をするときは大量の添加物と塩が含まれている加工肉ではなく、新鮮な赤身肉を選んでください。調理で使用する油は、オリーブオイルやキャノーラオイルなどの健康的な食用油を使うのもいいでしょう。一人で様々な種類の野菜と果物を消費するのが難しい場合は、小分けできる冷凍野菜やドライフルーツを取り入れてみましょう。


自宅での食事は人目もないので、ついつい ”ながら食べ” をしていませんか? 仕事をしながら、スマートフォンやテレビを見ながら、本や雑誌を片手にしながら食事をしていませんか? “〇〇しながら” の行為と食事を同時に行うことは、意識を分散してしまうので過食になりがちです。Physiology and Behaviorジャーナルに掲載された2019年の研究でも、食事中にスマートフォンを使用することはカロリー摂取量の増加に関連することを報告しています²⁾。仕事部屋やパソコンの前で食事は避けて、できるだけ食事スペースと仕事スペースを分けてください。気が散った状態での食事は、過剰なカロリー摂取に陥る傾向があります。仕事中であろうがなかろうが、”ながら食べ” は止めましょう。

仕事中にお菓子を食べながらの、ながら仕事も同じように気を付けてください。仕事のストレスも過剰な間食の引き金になりますが、どうしても口にしたい時は健康的な間食を選択してください。高カロリーなジャンクフードや菓子パン類は手の届きにくい場所へ移しましょう。健康的な間食の例としては、フルーツ・ナッツ類・ポップコーン・全粒粉クラッカー・お餅などがあります。

また、食事も睡眠と同様に、規則正しいスケジュールを守ってください。不規則な食事も肥満のリスクに繋がります。毎日同じ時間に食事と間食を摂るように心掛けてみましょう。これは勿論、休日にも当てはまります。


定期的な運動


在宅勤務では、通勤で体を動かすことができないので、運動のガイドラインを満たすことが困難になってきます。このような状況で、どのようにモチベーションを維持しながら身体活動量を増やすことができるでしょうか。在宅勤務では、オフィスビルに出入りしたり、会議室や休憩室まで歩いたり、階段を上り下りするような身体活動はありません。残念なことに、自宅で一日中デスクワークに取り組むだけでは筋肉量は増えませんし、体脂肪量は減少するどころか増加してしまいます。在宅勤務やデスクワークで運動量が足りない方は、仕事の合間にちょっとした運動休憩を挟んで運動量を確保する必要があります。

2020年の最新の研究でも、ちょっとした運動休憩を取ることは、食後の血糖反応を良くしてトリアシルグリセロール(中性脂肪)の低下に役立つことが示されています³⁾。この研究では、長時間の座位活動の合間に下記の運動休憩を取り入れています。
昼食前に30分の早歩き
4時間の座位(デスクワーク) → 30分のサイクリング運動(運動強度: 70%VO₂max)
40分の座位(デスクワーク) → 6分のサイクリング運動(運動強度: 70%VO₂max)
3時間15分の座位(デスクワーク) → 15分の立位 & 15分のウォーキング & 15分のMVPA(中-高強度の身体活動)運動

仕事中に運動休憩を取ることをつい忘れてしまう人は、タイマーをセットしてください。座ったまま一定時間が過ぎたら、強制的に立ち上がって、少し室内を移動してみましょう。できれば、運動休憩は屋外で実施してください。日光を浴びると免疫機能に重要な役割を果たすビタミンDを皮下で生合成できます。屋外に出ることが難しい場合は、ヨガ・自荷重の運動・トレーニングビデオで紹介されている有酸素運動など、室内でもできる簡単な運動を行いましょう。

1日中自宅で過ごしていると、どんなに努力しても、十分な運動量を確保することはとても難しいです。厚生労働省が定める「アクティブガイド-健康づくりのための身体活動指針-」では、1日に60分の身体活動と8,000歩を目安に歩くことを推奨しています。60分の身体活動のうち20分は筋トレやスポーツを行うことを目指します。なかなかこの目標まで達成することは難しい状況かもしれませんが、少しでも運動休憩などを取り入れてコツコツ身体活動量を増やしていきましょう。


進捗状況を確認する


一人で運動のモチベーションを維持することは、家族や友人と一緒に行う時よりも難しくなります。そんな時は、体組成計で進捗を記録したり、体成分データを周りの人と共有したりすることで、モチベーションアップに繋げましょう。

骨格筋量や体脂肪率などの体成分は、体重よりも遥かに優れた指標です。体重が減ったとしても、それだけでは体にとって良い変化なのかわかりません。一日中座りっぱなしの生活で筋肉量が減り、体重が減ったことは良い変化ですか? 水分補給を忘れてしまい脱水状態に陥った結果、体重が減ったことは良い変化と言えますか? 体重が標準範囲内だからと言って健康体とは限りません。筋肉量と体脂肪量がそれぞれ適量でなければ、本当に健康かは分かりません。

InBody Dialは家庭用のInBodyで、業務用InBodyと同様に部位別測定・2周波の多周波数測定・統計補正の排除を可能にした家庭用で最も精度の高い体組成計です。体重だけでなく、骨格筋量・体脂肪率・BMI・内臓脂肪レベルなどの項目が、スマートフォンアプリの履歴で確認することもできます。
※InBody Dialの詳細は製品情報の家庭用製品「InBody Dial」からご覧ください。


終わりに

緊急事態宣言をきっかけに新しく在宅勤務を始めた方にとって、健康的なワークライフバランスを確立させるのに今以上の好機はありません。仕事とプライベートの健康的な両立には、メンタルヘルスマネジメント・バランスの取れた食事・定期的な運動の3つの視点が欠かせません。ストレスや不安を感じている時は、瞑想を試してみたり睡眠を優先するようにしてください。食事メニューを見直して、バランスの取れた食品・調理法を選択しましょう。そして、1日に少なくとも60分の身体活動を実施するように心掛けてください。

 

参考文献
1. Pagliaro G et al., The effects of meditation on the performance and well-being of a company: A pilot study. Explore (NY). 2020 Jan-Feb;16(1):56-60.
2. Gonçalves RFDM et al., Smartphone use while eating increases caloric ingestion. Physiol Behav. 2019 May 15;204:93-99.
3. Loh R et al., Effects of Interrupting Prolonged Sitting with Physical Activity Breaks on Blood Glucose, Insulin and Triacylglycerol Measures: A Systematic Review and Meta-analysis. Sports Med. 2020 Feb;50(2):295-330.

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喫煙による健康被害

2020年4月1日より、昨年から一部施行となっていた「健康増進法の一部を改正する法律」が全面施行になります。これまでは学校や病院といった行政機関及び公共施設において、原則敷地内禁煙と定められていましたが、全面施行になることで、それ以外の屋内施設がほぼすべて原則屋内禁煙となります。屋内での喫煙の場合、喫煙室の設置や喫煙室の標識掲示も必要になります。また、20歳未満であれば来店客・従業員問わず、喫煙エリアへの立入禁止も定められています。

近年、喫煙者自身の健康に対する悪影響よりも周囲の人に対する受動喫煙の健康に対する悪影響が深刻な問題となっており、受動喫煙を防ぐためにも、今回の法改正に則って分煙を進めていく必要があります。今回は喫煙や受動喫煙による身体への影響についてお話します。


たばこの歴史

たばこは16世紀後半に日本に伝来したとされています。江戸時代初期にはたばこの喫煙及び売買の禁止令が出されたものの、次第に容認され、嗜好品として徐々に定着していきました。江戸時代では葉を刻んだたばこをキセルで吸う「刻みたばこ」が好まれていました。明治時代になると、外国から「紙巻きたばこ」が輸入されるようになり、国内でも製造されるようになりました。明治後期には政府が国家の財源確保のため、たばこに関する法律を整備し、たばこ産業は国営化されていきました。昭和では、戦時中の英語使用禁止や配給制の影響を大きく受けましたが、戦後、国営化されていたたばこ産業は徐々に民営化が進み、様々な銘柄が誕生しました。平成に入ると健康志向の高まりや世界的なたばこ規制もあり、たばこ販売量は1996年をピークに緩やかに減少していきます。このような背景から、近年は分煙環境の整備や喫煙マナーの向上、未成年者の喫煙防止などの取り組みや煙の発生しにくいたばこの開発が進められています¹⁾。

ちなみに、たばこは英語で「tobacco」「cigarette」の2通りの表現があります。元々、「tobacco=原材料の植物であるたばこ」「cigarette=加工して販売しているたばこ」をそれぞれ指していたのですが、最近は加工して販売しているたばこも「tobacco」を使うようになっており、「たばこを吸う=smoking tobacco」と表現することもあります。また、「Tobacco」は産業としてのたばこを表す際にも用いられます。


たばこの煙

たばこの煙は喫煙者がたばこから吸う「主流煙」、喫煙者が吐き出した「呼出煙」、たばこそのものから発する「副流煙」があります。健康増進法第25条では受動喫煙を「室内又はこれに準ずる環境において、他人のたばこの煙を吸わされること」と定義しており、ここで述べている「他人のたばこの煙」は「呼出煙」と「副流煙」を指します。

たばこの煙は粒子成分とガス成分の2種類に分かれます。粒子成分には4,300種類、ガス成分には1,000種類もの化学物質が含まれ、そのうちのいくつかは粒子成分とガス成分の両方に含まれると報告されています²⁾。このうち、発がん性があると報告されている物質は約70種類も含まれています。たばこの煙に含まれる成分はたばこの葉そのものに含まれるものと、乾燥や加⼯・製造の過程で⽣成・添加されたもの、そして、それらが燃焼する際に⽣成されるもので構成されており、喫煙や受動喫煙ではこれらが合わさったものを吸い込んでいることになります。


たばこの三大有害成分

世界の喫煙に起因する年間死亡者数は、能動喫煙によって約700万人、受動喫煙によって約120万人と報告されています²⁾。また、日本人の年間死亡者数は、能動喫煙によって約13万人、受動喫煙によって約1万5000人(肺がん・虚血性心疾患・脳卒中による死亡)と推計されています³⁾。

たばこに含まれている「ニコチン」「タール」「一酸化炭素」は三大有害成分と呼ばれています。たばこの有害成分と聞いて、まず思い浮かべる代表的なものが「ニコチン」です。ニコチンは、たばこ葉の根で生合成されたのち、葉に蓄積する天然の成分です。ニコチンには毒性があり、本来は植物自身が虫や動物に食べられないよう、身を守るために生成している成分です。たばこはナス科の植物であるため、同じナス科のトマトやナス、ピーマン、ジャガイモなどにもニコチンは存在しますが、これらの植物に含まれるニコチンは非常に微量です。ニコチンは、喫煙によって発症リスクが高まるがんや脳卒中の直接的な要因であると思われていますが、現時点ではニコチンに発がん性は認められておらず、発がん性があるかどうかは不明です。しかし、ニコチンには麻薬と同等の強い依存性があると言われており、依存の離脱症状によって、不快感・抑うつ状態・不眠・気性が荒くなる・不安感・集中力欠如・心拍数減少・食欲増加などが見られます。この依存性から、たばこをたくさん吸うことによってニコチン以外の有害な化学物質を大量に摂取してしまい、各疾患の発病リスクも高まります。

「タール」はいわゆるヤニと呼ばれ、フィルターに付着する、べっとりしたものです。タールには数十種類の発がん物質が含まれています。「一酸化炭素」は酸素の運搬を阻害します。通常、体内に取り込まれた酸素は血中のヘモグロビンと結びつき、血液循環によって身体の各部に運ばれます。しかし、一酸化炭素は酸素の200~250倍の速さでヘモグロビンと結びつくことから、酸素とヘモグロビンの結合を妨げ、結果的に身体が酸素欠乏症に陥ります。

三大有害成分をはじめとした有害成分によって、各種がんや循環器疾患、呼吸器疾患、糖尿病、妊娠・出産へのリスク、小児の発育阻害などが引き起こされます。喫煙と各疾患との因果関係は次の表のように示されています。

「喫煙と健康 喫煙の健康影響に関する検討会報告書」より抜粋³⁾

InBodyは、喫煙が原因となる各種がんや循環器疾患・呼吸器疾患・糖尿病などのリスク管理に、測定項目を活用することができます。2009年の研究⁴⁾では、近年患者数が増加しているCOPD(慢性閉塞性肺疾患:たばこの煙などが原因で息がしづらくなる病気)患者に多い肺気腫(肺の呼吸機能が低下している状態)の重症度と筋肉量・体脂肪量の関係について発表しています。また、2014年のアジアサルコペニアワーキンググループの発表⁵⁾では、喫煙歴がサルコペニアに関連していると述べています。
※サルコペニアについてはInBodyトピック「サルコペニアの理解に必要なこと」をご覧ください。


新しいたばこの普及

最近は紙巻きたばこではなく、新しいたばこを利用する人も増えてきています。2018年に行われた、18~72歳の男女約4,000人が回答したアンケートによると、男性で14.5%、女性で4.7%の方が現在新しいたばこを使用していると回答しています。特に、20代の若者でその傾向は強く現れました(男性24.4%、女性10.1%)⁶⁾。新しいたばこは火を使わずに電気の力で水蒸気を発生させる仕組みで、大きく分けると次の2種類があります。

➤ たばこ葉を熱し、ニコチンが含まれた水蒸気を吸引する種類
従来の紙巻きたばこよりもニコチンの含有量が少なく、有害物質の一つであるタールも含まれないことから、紙巻きたばこより身体への悪影響が少ないと言われています。また、煙とニオイが少ないことも特徴です。

➤ 液状のリキッドを熱し、水蒸気を吸引する種類
ニコチンやタールを含まないため、紙巻きたばこや上記のたばこよりも身体への悪影響が少ないです。煙とニオイが多く、爆煙と呼ばれています。日本の薬事法上ではニコチンを含んだ液状のリキッドは販売禁止となっていますが、海外ではニコチンを含んだ液状のリキッドも流通しており、必ずしもニコチンが含まれていないたばことは言えません。

気を付けなければいけないのは、どちらも紙巻きたばこよりは少ないものの、有害化学物質を一切含んでいないわけではない、という点です。紙巻きたばこよりも身体への悪影響が少なく済むからといって、たくさん吸い続けると身体に悪影響が出ることに変わりはありません。

紙巻きたばこと比較すると、新しいたばこの主流煙は有害化学物質量が減少していますが、ニコチン量はほぼ同量です。その反面、製造方法や加熱方法の違いにより、一部の有害化学物質は新しいたばこの方が増加していました。受動喫煙における曝露量は紙巻きたばこより新しいたばこの方が少なくなっていたものの、ニコチンの受動喫煙は確認されており、新しいたばこだからといって、受動喫煙が全く0になるわけではありません⁶⁾。

これらのたばこはまだ発売されてから日が浅いこともあり、身体への影響における紙巻きたばことの違いや、がん発症リスクなどの検証が十分に行われていません。たばこへの規制が厳しい米国でも、新しいたばこに関して有害化学物質の発生低減を認めてはいますが、発症リスクの低減についてはまだ認めていません。2019年の研究⁷⁾では新しいたばこのフィルターから加熱時に有害化学物質が発生していることが報告されており、新しいたばこによる新たな問題も生じているようです。新しいたばこの影響については研究が進められていますが、WHOも継続した評価が必要であると主張しています。
※これらのたばこは「加熱式たばこ」「非燃焼式たばこ」「電子たばこ」等、表記が統一されていないため、今回は「新しいたばこ」としています。


進んでいく分煙

改正法が施行されると、原則室内禁煙となります。しかし、施設における事業内容や経営規模に対する配慮から、その類型・場所ごとに、各種喫煙室の設置が認められています。

「なくそう!望まない受動喫煙。」 厚生労働省より抜粋⁸⁾

通常の施設内では、「喫煙専用室」「加熱式たばこ専用喫煙室」の設置が可能です。「喫煙専用室」では加熱式たばこを含めたたばこの喫煙が可能ですが、飲食を始めとするサービス等の提供はできません。一方、「加熱式たばこ専用喫煙室」では、加熱式たばこのみの喫煙が可能ですが、飲食等の提供は可能です。どちらも施設の一部に設置が可能です。

シガーバーや、たばこ販売店、公衆喫煙所など、喫煙をサービスの目的とする施設(喫煙目的施設)については、受動喫煙防止の構造設備基準に適合した室内空間に限り、「喫煙目的室」を設けることができます。喫煙目的室では、喫煙に加え、飲食を始めとするサービス等を提供することも可能です。

しかし、経営規模の小さな飲食店については、喫煙目的室を設置できるほどの十分なスペースを確保することが難しく、事業継続に影響を与えることが考えられます。経過措置として、既存の小さな飲食店(客席面積100m²以下)のみ「喫煙可能室」の設置を認め、喫煙に加え、飲食を始めとするサービス等を提供することを可能としています。

「なくそう!望まない受動喫煙。」 厚生労働省より抜粋⁸⁾

また、これらを設置した場合、施設内に喫煙室がある旨を周知する必要があります。今後、このような標識を見る機会が増えるでしょう。


終わりに

たばこは江戸時代から人々の生活に根付いている文化の一つであるため、なくなることはないでしょう。たばこを吸う人吸わない人それぞれに配慮した社会環境作りが今後、更に進められていきます。現在、世界的な問題になっているコロナウイルス(COVID-19)も肺炎などの呼吸器疾患を起こしやすく、同様に呼吸器へ悪影響を及ぼす喫煙との関係が示唆されています。
※詳しくはInBodyトピック「呼吸器疾患とは Part1: 主な呼吸器疾患」をご覧ください。

WHOのテドロス事務局長も3月20日の談話の中で、「たばこを吸わないでください。喫煙は、もしあなたがコロナウイルスに感染した際、重症化するリスクを高めます。」と話しています⁹⁾。この記事を機に、たばこを吸う人も吸わない人も今一度、たばことの関わり方を考えてみてください。

 

参考文献
1.「JT(日本たばこ産業株式会社)」公式ホームページ
2.「Tobacco」WHO
3.「喫煙と健康 喫煙の健康影響に関する検討会報告書」厚生労働省
4. Hiroko Kurosaki et al., Extent of emphysema on HRCT affects loss of fat-free mass and fat mass in COPD. Intern Med. 2009;48(1):41-8.
5. LK Chen et al., Sarcopenia in Asia: consensus report of the Asian Working Group for Sarcopenia. J Am Med Dir Assoc. 2014 Feb;15(2):95-101.
6. 欅田 尚樹ら, 非燃焼加熱式たばこにおける成分分析の手法の開発と国内外における使用実態や規制に関する研究. 厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究. 2018
7. Davis B, Williams M, Talbot P. iQOS: evidence of pyrolysis and release of a toxicant from plastic. Tob Control. 2019 Jan;28(1):34-41.
8.「なくそう!望まない受動喫煙。」厚生労働省
9.「WHO Director-General’s opening remarks at the media briefing on COVID-19 – 20 March 2020」WHO

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呼吸器疾患とは Part2: 感染症の予防法

このトピックの前編を見逃している方は、こちらもご覧ください☞「呼吸器疾患とは Part1: 主な呼吸器疾患

前回のトピックでは主な呼吸器疾患についてご紹介しました。今回のトピックではそれらの予防法を、免疫力向上と体成分に着目してご紹介します。


免疫力と栄養状態、筋肉量の関係

呼吸器分野や栄養分野など、様々な分野で筋肉量の不足及び栄養不良が疾患の悪い予後と関連しているとの発表が相次いでいます。高齢の誤嚥性肺炎患者を対象に90日間の生存率を確認した研究¹⁾では、骨格筋指数(ASMI)を基に4群に分けた結果、ASMIが最も少ない患者群の生存率が他の3群より低く示されました。30日間のフォローアップ結果でも少ない筋肉量が死亡率の独立因子であると示されました。これは同じ肺炎患者でも筋肉量が少ない患者の予後がより悪化することを意味します。

※「Muscle Mass Loss Is a Potential Predictor of 90-Day Mortality in Older Adults with Aspiration Pneumonia」より引用・改変

他の研究では筋肉量が少ない患者を対象に栄養管理及び適切なリハビリが有効であることを示しています。生体肝移植患者を対象としたこの研究²⁾では術前骨格筋量の少ない患者群における術後短期間の生存率が、骨格筋量の十分な患者群の生存率より低く示されました。また、骨格筋量の少ない患者群において、術前後に栄養介入及び運動介入を受けた患者群と介入を受けなかった患者群の比較も行われましたが、介入を受けた患者群の生存率が有意に改善されていたことを確認しました。

このように筋肉量の維持及び栄養管理が回復に欠かせないという点は継続的に示唆されてきました。そのため、身体活動が自由にできて筋肉量の管理が可能な人は日頃から管理しておくことが重要であり、入院などによって筋肉量の管理が難しい人は栄養管理を徹底的に行うことがその後の回復に必要不可欠であることを意味します。アメリカやヨーロッパでは、新型コロナウイルス患者の治療の最前線とも言われるICUにおいて、管理栄養士の役割が非常に重要であるという話も紹介されており³⁾、いかなる致命的な疾患でも栄養管理が治療における有効手段であることが分かります。

高齢者は特に疾患がなくても筋肉量が減少しやすくなりますが、疾患による栄養状態の悪化及び運動不足が重なると筋肉量の減少に拍車がかかり、疾患がより悪化してしまう悪循環に陥ります。従って、入院治療中の高齢者は静脈経腸栄養療法を含む様々な栄養介入を用いて筋肉量の減少を抑え、栄養状態を維持または改善させる必要があります。食道切除手術を受けた患者を対象にタンパク質を中心とした早期栄養療法を実施した結果、早期栄養療法を受けた患者群は体重及び除脂肪量が維持でき、術後90日の身体機能点数も高く示されるなど、早期回復と予後の好転を報告しました⁴⁾。これは患者の状態を改善することにおいて、適切かつ迅速な栄養供給が大きなメリットであることを示します。

※「COVID-19 Comunicado Técnico Diario」より引用・改変

低い筋肉量以外に、肥満や糖尿病などの生活習慣病の有無も呼吸器疾患の予後と関連しています。メキシコで発表されたCOVID-19の死亡者に関するデータ⁵⁾では、生活習慣病の基礎疾患としても代表的な高血圧・糖尿病・肥満症の疾患を持つ方の割合が高いことが報告されました。これらの疾患は珍しい疾患でもなく、一つでも発症すれば他の疾患が合併症として併発することもあるため、日頃の体調管理が重要です。肥満患者の場合、過剰な脂肪細胞が炎症反応を促進させ、免疫系がうまく働かないようになるため、適切な運動と食事管理で体脂肪量を減少させることが免疫力向上に役立ちます。
※免疫系の詳しい情報はInBodyトピックの「免疫力を高める方法」をご覧ください。


感染しない・感染させない方法

成人の場合、1分間で約12~20回呼吸をします⁶⁾。1日だと約17,300~29,000回呼吸するということになります。この数値は呼吸器疾患の原因となる病原体が侵入できる回数とも言えるでしょう。勿論、感染を避けるために呼吸を止めることはできず、多くの危険にさらされているからこそ、人体の免疫系も様々な方法でしっかりと体を守っています。しかし、どれほど免疫系が強くても防ぎきれない大量の病原体が侵入してきたり、疲労などによって体が少し弱っている隙に侵入してきたりすると防御することが極めて難しくなります。そのため、免疫力を向上しつつ、できる限り病原体が侵入できないようにすることが大事です。では、日常的に可能な呼吸器疾患の予防法を見てみましょう。

➤ 人が密集しているところや密閉空間を避ける

呼吸器疾患の感染経路は飛沫・接触感染が最も一般的です。感染者の飛沫に混ざっていた病原体がしばらく空気中に残り、それらを呼吸によって吸い込み人体への侵入を許してしまうため、換気があまりできていない密閉された室内はなるべく避ける方が良いです。また、外でも多くの人が集まっているところではお互いの距離が近く、飛沫感染の可能性も高くなりやすいので注意が必要です。

もし風邪やインフルエンザに罹った状態で止むを得ず、人が多いところまたは密閉されている空間に滞在しなければいけない場合はマスクを着用しましょう。マスクでウイルスの拡散を完全に遮断できるわけではありませんが、自分の飛沫に混ざっているかもしれないウイルスをばらまくことを防ぐので、他の人にウイルスをうつしてしまう心配は減らすことになります。

家庭内または室内の定期的な換気も予防に有効です。院内感染予防に関する資料によると、約20帖(約33m²)の面積であれば1時間に3回、1回に2~4分程度の換気で十分とされています⁷⁾。もちろん、室内が乾燥していると空気中にウイルスが舞いやすくなるので湿度管理も忘れずに行うことも重要です。室内の湿度は50~60%が望ましいです。

➤ 手洗い

殆どのウイルスは接触での感染が一番多いです。特に、様々なものに触る手は最も細菌が付着しやすい部位です。食中毒の病原体の一つであるノロウイルスに関する発表によると、手を洗っていない時と石けんで2回手洗いをした時を比較したところ、石けんで2回洗ってペーパータオルでふき取った手には殆ど細菌が残っておらず、残存細菌数が明らかに異なっていたことを報告しました⁸⁾。

不特定多数の人が触っていたであろう手すりやつり革、ドアノブなどを触った手で顔を触ることにより、手に付着していたウイルスが体内に侵入する可能性が高まります。従って、手に付着したウイルスを除去することがウイルスの感染率を下げることに繋がります。そして、殆どのウイルスは石けんやアルコール消毒液に含まれている界面活性剤に弱く、呼吸器疾患の病原体も同じなので正しい手洗いとアルコール消毒は感染性呼吸器疾患の予防に効果的です。厚生労働省のホームページでは正しい手洗い方法及び消毒方法を公開しているので、ぜひ実践してみてください⁹⁾¹⁰⁾。

➤ 十分な休養・栄養摂取・水分摂取

これらは殆どの疾患に通用する予防策です。十分な休養は体の免疫機能を向上させ、疾患が発症する前に免疫系が病原体を処理できる状態にします。特に、細胞の修復を含む人体の回復作用は寝ている間に最も活発に行われます。そのため、睡眠不足は免疫力の低下だけでなく、高血圧や糖尿病、心血管疾患などのリスクも高めます。逆に言うと、十分な睡眠を取ることで様々な疾患の発症リスクを下げることができ、体が回復できるようにすることで免疫力の向上にも役立つと言えます¹¹⁾。

十分な栄養摂取は病原体に対抗できる体力をつけるために重要です。また、体は様々な方法で損傷した細胞を回復させますが、疲労が溜まったり栄養が足りなかったりすると回復速度も遅くなってしまいます。どれだけ効果のある薬も、病原体に作用はしても、病気・疾患によって弱った体力までを回復させることはできません。体力が落ちた状態のままでは、新たな病原体の侵入を防ぐこともできません。

適切な水分補給も大事です。感染性呼吸器疾患で共通する症状には発熱があり、発汗・発熱によって脱水状態になりやすく、血液循環も悪くなりやすいです。また、のどの粘膜が乾燥しているとウイルスが付着しやすくなりますが、こまめに水分を補給することで脱水と粘膜の乾燥を防ぐことができます。

一番大事なことは病気にならないようにすることですが、ウイルスの侵入を100%防ぐことは難しいので、病気になっても回復できるような状態を心掛けることが重要です。つまり、十分な休養と栄養摂取を欠かさずに、免疫力を高めることが必要というのは間違いないでしょう。


終わりに

呼吸は生命維持に欠かせない活動です。そのため、呼吸器疾患は誰にでも感染するリスクがあり、一旦感染してしまうと周囲の人間を感染させてしまうことにも繋がります。また、有効な治療法がない場合も多いですが、日常的にできる予防方法を行うことで感染することも、感染させることも減らせます。

COVID-19の流行で全世界が深刻な状況に陥っています。このことをきっかけに、感染症の予防策を徹底してみてはいかがでしょうか。些細なことのように思われるかもしれませんが、自身と家族、周りの人を守ることに繋がるかもしれません。このトピックの前編を見逃している方は、こちらもご覧ください☞「呼吸器疾患とは Part1: 主な呼吸器疾患

 

参考文献
1. Maeda K, Akagi J. Muscle Mass Loss Is a Potential Predictor of 90-Day Mortality in Older Adults with Aspiration Pneumonia. J Am Geriatr Soc. 2017 Jan;65(1):e18-e22.
2. T. Kaido et al., Impact of sarcopenia on survival in patients undergoing living donor liver transplantation. Am J Transplant. 2013 Jun;13(6):1549-56.
3. 「What are dietitians doing as part of the COVID-19 response?」 BDA The Association of UK Dietitians
4. Wei Wu, Ming Zhong et al., Effect of Early Full-Calorie Nutrition Support Following Esophagectomy: A Randomized Controlled Trial. JPEN J Parenter Enteral Nutr. 2017 Sep;41(7):1146-1154.
5. COVID-19 Comunicado Técnico Diario, JUEVES 2 DE ABRIL DE 2020
6. 「呼吸器Q&A」 一般社団法人日本呼吸器学会ホームページ
7. 「施設内感染対策相談窓口」 日本感染症学会ホームページ
8. 「ノロウイルスによる食中毒の状態と対策について」 厚生労働省
9. 「感染症対策」 厚生労働省
10.「手洗いで感染症予防」 厚生労働省、国立感染症研究所
11. InBody トピック「疲労と回復のメカニズム

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呼吸器疾患とは Part1: 主な呼吸器疾患

季節の変わり目や冬に、特に注意する必要がある疾患というと何が思い浮かぶでしょうか? 多くの方は風邪またはインフルエンザと答えるでしょう。風邪は誰でも一回はかかったことのある身近な病気で、個人差はあるものの休養と栄養摂取、そして解熱剤など症状を和らげる薬を併用すれば、すぐに完治するので命に関わるようなことはありません。一方、インフルエンザは風邪と症状は似ているものの高熱を伴い、ひどい場合は肺炎まで悪化してしまう恐れがあり、命を脅かす感染症の一つと言えます。

では、「風邪・インフルエンザ・SARS・MERS・COVID-19」の共通点は何でしょうか? SARS・MERS・COVID-19は世界的に大流行し、多くの死者数を報告している重度の疾患ですが、分類としては風邪やインフルエンザと同じ呼吸器疾患です。今回は誰しも患うリスクがあり、時には命に関わる重病にもなりうる呼吸器疾患についてお話します。


呼吸器とは


呼吸器は酸素を吸い込み、二酸化炭素を吐き出す呼吸に関わる器官を示し、鼻(鼻腔)・咽頭・喉頭・気管・肺が呼吸器に該当します。特に身体活動をしなくても生命維持や臓器の活動時もエネルギーが必要で、酸素は細胞がエネルギーを作る際に使われます。そのため、酸素の供給が十分でないと臓器が機能するために必要なエネルギー産生にも問題が生じ、健康を損なうことに繋がります。

呼吸器は上気道と下気道に分けられます。上気道は鼻から喉頭まで、下気道は気管から肺までです。外部との接触が多い鼻と気管にある毛(繊毛)は、呼吸時に入ってくる細菌や異物が体内に侵入しないよう防ぐ役割をします。ここで防ぎきれなかった病原体は体内に侵入しますが、様々な免疫機能が働きこれらを除去するため、全てが疾患に繋がるものでありません。


代表的な呼吸器疾患

呼吸器疾患は発症の原因と部位によって分類されますが、よく耳にする呼吸器疾患の殆どは感染性呼吸器疾患に該当します。ウイルスが原因となるため、人が集まっているところで感染しやすいのが特徴です。他には気道閉塞性疾患や腫瘍性肺疾患などがあり、COPD(慢性閉塞性肺疾患)と肺がんがそれぞれ該当します。次から代表的な呼吸器疾患をいくつか紹介します。

➤ 風邪

最も一般的な感染性呼吸器疾患です。主に鼻から咽喉にかけて発症することが多いため上気道炎とも言います。鼻腔は頭蓋骨の中で目や耳と繋がっているため、稀に合併症として結膜炎や中耳炎を併発することもあります。感染経路は飛沫感染や接触感染が代表的です。風邪の原因になるウイルスが気道に直接入ることや、病原体が付着したものを触った手で顔を触ることで侵入するので、マスク着用や手洗いが有効な予防策です。症状は鼻づまりや鼻水・くしゃみ・咳・発熱など様々で、期間に差はあるものの殆どは人体の免疫機能によって自然に治ります。風邪の原因となるウイルスはその種類も多く、変種する速度も速いためウイルスに対抗する薬を作ることは不可能と言われています。いわゆる風邪薬は症状を和らげることしかできず、完治するためには体の免疫機能が働いて病原体を除去するしかありません。そのため、休養・栄養・水分摂取で免疫力を高めることが唯一の治療方法です。

➤ インフルエンザ
症状は風邪と似ていますが、原因となるウイルスはインフルエンザウイルスで風邪とは重症度へのリスク(特に高齢者と小児)や治療法が少し異なります。風邪の原因となるウイルスは常に変種するためワクチンを作ることができないのに対し、インフルエンザの原因となるウイルスは大きく3種類で、変種することも少ないためワクチンを作ることができます。感染経路は風邪と同じく飛沫感染が代表的です。主な症状としては高熱・頭痛・筋肉痛があり、合併症としては肺炎やインフルエンザ脳症などがあります。治療法は風邪と同じく休養・栄養・水分摂取が基本ですが、タミフルやイナビルなどの抗インフルエンザ薬を早期投与する方法もあります。インフルエンザの予防接種はインフルエンザの発症を完全に防ぐことはできませんが、発症後の症状を和らげることで患者の体力を維持し、治療を進めやすくします。

➤ 肺炎

主に細菌やウイルスのような病原体の感染により、肺に炎症が起こる疾患です。普段、このような病原体が体に侵入しても人体の免疫機能によって処理されるためすぐ発症するものではありません。しかし、➀高齢者 ➁他の疾患を患っていて免疫力が低下している場合 ➂肺炎の病原体が大量侵入した場合 ➃毒性が強い病原体に初めて感染し、まだ抗体が形成されていない場合、等の条件に該当すると肺炎を発症します。
感染された場所や原因によって市中感染による肺炎と、病院・介護施設で起こる肺炎、誤嚥性肺炎などに分けられます。症状としては発熱・咳・たん・悪寒・息切れ・胸の痛みなどがあり、初期症状は風邪と似ていることから風邪が悪化して肺炎になると誤解されることも多いです。免疫力が低下している高齢者や入院患者には致命的な疾患で、国内の死亡原因の第5位¹⁾でもあります。また、喫煙は肺炎のリスクを高めるため²⁾、予防策として禁煙が進められており、新生児や高齢者に推奨されている予防接種の肺炎球菌ワクチンも効果的です。

➤ COPD (慢性閉塞性肺疾患)

肺に発生する慢性炎症性疾患で、喫煙及び受動喫煙が主な原因として挙げられます。肺がたばこに含まれる有害物質に長時間暴露されることで炎症が発生し、肺胞を中心に肺の構造が変わってしまう疾患で、男性の国内死亡原因の第8位³⁾です。主な症状は咳・たん・呼吸困難などがあり、代表的合併症として肺炎や肺がんがあります。炎症によって気道が狭くなったり詰まったり、弾力が落ちたりするので症状が進行すると呼吸が難しくなり、これによって呼吸仕事量(work of breathing)が増加しますが、これは呼吸に必要なエネルギー量が増加することを意味します。健常者の呼吸に必要な代謝エネルギー量が36~72kcalであることに対し、COPD患者はその10倍以上の430~720kcalと高く⁴⁾、消費エネルギー量も急増します。しかし、摂取エネルギー量が消費エネルギー量より少なくなりやすいため、エネルギー不足状態となり、筋肉や体脂肪が分解されてエネルギー源として使われてしまいます。そのため、COPDが悪化して発症する肺気腫患者の場合、筋肉量と体脂肪量が両方減少するという研究結果もあります⁵⁾。

全世界で流行っているCOVID-19を含めSARS、MERS等は急性呼吸器疾患(症候群)と言われており、病原体はコロナウイルスです。コロナウイルスは風邪の原因となるウイルスでもあるため、初期症状は風邪と似ていますが、毒性が強く肺に転移すると肺炎を引き起こし急激に症状が悪化しやすいです。このように呼吸器疾患はよくかかる軽いものから致命的なものまで様々ですが、どれも本格的に発症する前または発症後の予後を左右するのは体の免疫力です。健康な若年成人より高齢者や小児がインフルエンザの合併症を発症しやすいのも低い免疫力が原因と言えます⁶⁾。

では、次のトピックでは免疫力を高めるための方法とそれに関連する体成分についてお話します。☞「呼吸器疾患とは Part2: 感染症の予防法」

 

参考文献
1. 「平成 30 年(2018) 人口動態統計月報年計(概数)の概況」 厚生労働省
2. 大森久光, 喫煙と呼吸器疾患. 熊本大学大学院医学薬学研究部 公衆衛生・医療科学
3. 「平成30年(2018)人口動態統計(確定数)の概況」 厚生労働省
4. 岩川 裕美, 慢性呼吸器疾患の栄養管理 ─COPD の経口栄養療法─. 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 第20巻第2号:103-108
5. Hiroko Kurosaki et al., Extent of emphysema on HRCT affects loss of fat-free mass and fat mass in COPD. Intern Med. 2009;48(1):41-48.
6. 「インフルエンザにかかったら―治療と予防について」 医療法人社団 医新会ホームページ

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体型改善 Part2: 基礎代謝量の活用法

このトピックの前編を見逃している方は、こちらもご覧ください☞「体型改善 Part1: 基礎代謝量とは

体成分を改善させたい場合は、筋肉量を増やして体脂肪量を減らす必要があります。しかし、思い通りに体成分を変化させることはとても難しく、やり方を間違えるとより悪化してしまうケースもあります。つまり、食生活の内容は、筋肉量の増加・体脂肪量の減少という目標を達成できるように構成する必要があります。筋肉量と体脂肪量の増減を意識せずに、ちぐはぐな食事プランと運動を設定してしまうと目標を達成することはできません。

よくある誤解として、「食事量を減らし運動量を増やせば、体脂肪率が改善して理想の体型になれる」 ということがあります。しかし、なりたい体型がどういうものかによって実践する内容は変わります。場合によっては食事量を増やすことが必要なときもあります。例えば、筋肉量を増やし強靭な体型になることを求めているなら、運動量を普段よりも増やして1日の総消費カロリー(TDEE)に見合った分の食事を心掛ける必要があります。
※体成分を改善したい方は、InBodyトピックの「体型改善 -ダイエットの始め方-」もご覧ください。

体型改善の目的において、食事プランに取り入れるべき要素は多く、全てを取り入れようとすると複雑になってしまいます。筋肉量を増やしてウエイトアップを目的とするのか、体脂肪量を減らして体重を落とすことを目的とするのかによっても、食事の内容や摂取カロリー量は変わってきます。今回のトピックでは、筋肉量増加と体脂肪量減少のそれぞれの視点から、基礎代謝量(BMR)を用いて適切な食事プランを立てる方法をご紹介します。


筋肉量を増やす食事プラン

筋肉量を増やしたい場合は、TDEE以上のカロリーを摂取する必要がありますが、不要なカロリー摂取は避ける必要があります。筋トレのメニューも重要ですが、何をどう食べるかについては更なる工夫が必要です。

前回のトピックで登場した男性(体重:77.6kg、除脂肪量:60.6kg、BMR:1,679kcal、身体活動レベル:普通)を例に説明します。こちらの男性のTDEEは2,938kcalなので、ウエイトアップにはこれ以上のカロリーを摂取する必要があります。具体的にはどれくらい摂取カロリーを増やせばいいのでしょうか? 2002年に発表されたアメリカの研究によると、ウエイトアップにはTDEEより約15%多くカロリーを摂取する必要があると報告されています¹⁾。この研究に基づいて、こちらの男性の摂取カロリーは3,379kcalに設定することができます。体脂肪量の増加は最小限に抑えつつ筋肉量を増やすためには、どのように摂取カロリーを増やせばよいのでしょうか?

筋肉量を効率よく増加させるためには3大栄養素の中でも、特にタンパク質の摂取が大切と言われています²⁾。しかし、タンパク質の摂取量のみを増やしたからといって、それがそのまま筋肉量の増加につながるわけではありません。2006年の大学運動選手を対象とした研究によると、2.0g/体重(kg)/日以上ものタンパク質を摂取していたにも関わらず、筋肉量や筋力が向上されなかったと報告されています³⁾。筋力が必要とされる大学運動選手の適切な摂取カロリーは、44.0~59.0kcal/体重(kg)/日以上が推奨されていますが⁴⁾、この研究の参加者の摂取カロリーは33.0±5.5kcal/体重(kg)/日と、推奨量を下回っていました。このような研究から、タンパク質だけを十分に摂取したとしても、運動レベルに適した摂取カロリーが足りない場合、筋肉量を増やすことは難しいと分かります。つまり、もし筋肉量を増加させたい場合は、タンパク質の摂取量を増やすことも大切ですが、摂取カロリーはTDEE以上である必要があります。タンパク質はもちろん、炭水化物もバランスよく食事内容に構成して、適切なカロリーを摂取しましょう¹⁾。

また、適切な摂取カロリーの設定には、InBodyが研究項目で提供している推奨エネルギー摂取量※1も参考になります。推奨エネルギー摂取量は、健康な人が1日に必要とするエネルギー摂取量(EER)を算出後、InBodyで測定した体成分を考慮して調節される値です。EERの算出方法は次の通りです⁵⁾。

➤ 20歳以上の成人男性
EER=662-9.53×年齢+身体活動係数(PA
※2×[15.91×体重(kg)+539.6×身長(m)] ➤ 20歳以上の成人女性
EER=354-6.91×年齢+身体活動係数(PA)
※2×[9.36×体重(kg)+726.0×身長(m)] ➤ 20歳未満の男性(9歳以上)
EER=88.5-61.9×年齢+身体活動係数(PA)
※3×[26.7×体重(kg)+903×身長(m)]+25
➤ 20歳未満の女性(9歳以上)
EER=135.3-30.8×年齢+身体活動係数(PA)
※3×[10.0×体重(kg)+934×身長(m)]+25

基本的には、EERがそのまま推奨エネルギー摂取量として提供されますが、次の条件に該当する人は体成分を考慮してEERが調節されます。
① 18~64歳の男女で、体重・骨格筋量がどちらも標準範囲より少ない痩せ型の場合は、EERに250 kcalを足す。
② 18~64歳の男女で、体重・体脂肪率がどちらも標準範囲よりも多い肥満型の場合は、EERから500 kcalを引く。
③ 65歳以上の男女で、体重・骨格筋量共に標準範囲未満である場合、または体重・体脂肪率共に標準範囲以上である場合、EER公式の
”体重” 箇所に ”調節体重” を適用して算出する。
調節体重=現在体重+(標準体重-現在体重)÷4

筋肉量を増やすために、ウエイトアップする必要がある痩せ型な男性(年齢:20歳、体重:50.9kg、身長:170cm、骨格筋量:標準範囲未満)の推奨エネルギー摂取量を計算してみましょう。こちらの男性のEERを計算すると、2,389kcalとなります。しかし、体重・骨格筋量が標準範囲未満であるということは、身体活動に必要なエネルギーが十分に供給されていない状態を意味するので、この場合はEERに250kcalをプラスします。結果、この男性の推奨エネルギー摂取量は2,639kcalになります。推奨エネルギー摂取量を参考にすることで、自分の体成分に応じてエネルギー摂取量を調節し、筋肉量を増やすためのウエイトアップをすることができます。

※1 現行販売している非医療機器(InBody270, 470, 570)のみ、提供している項目になります。
※2 身体活動の程度によって4段階(非活動・低活動・活動・高活動)に分けられますが、InBodyでは平均的な活動係数男性1.11、女性1.12を使用します。
※3 身体活動の程度によって4段階(非活動・低活動・活動・高活動)に分けられますが、InBodyでは平均的な活動係数男性1.13、女性1.16を使用します。


体脂肪量を減らす食事プラン

体脂肪量を減らしたい場合は、カロリーが不足した状態=「カロリー赤字」をつくる必要があります。つまり、TDEEより低いカロリーを持続的に摂取します。TDEEは現在体重を維持するために必要な摂取カロリーなので、これを基準に「カロリー赤字」を考えてみましょう。
※カロリー赤字に関してもう少し詳しく知りたい方は、InBodyトピックの「体脂肪量減量に関する5つの迷信」もご覧ください。

2週間で1kgの体脂肪量を減らすには、毎日の食事から550kcalほど減らす必要があると言われています。これは1kgの体脂肪量をカロリーに換算すると約7,700kcalであることから、「2週間でマイナス7,700kcalを達成するためには1日当たり摂取カロリーを550kcal減らす必要がある」という計算に基づいています。確かに理論上、この方法は理に適っていますが、誰にでも推奨できる方法ではありません。TDEEが3,000kcalや4,000kcalとある程度高い方が、摂取カロリーを1日に550kcalほど減らしたとしてもそれほど問題ではありませんが、TDEEが1,500kcalもない方が1日の摂取カロリーを1,000kcal以下にして日常生活と運動をこなすのは難しいです。
※体脂肪量1g当たり=7.7kcalに該当します。

従って、TDEEから摂取カロリーを減らす最も安全な方法は、まずは1日当たりの摂取カロリーを200~300kcalほどの僅かな量だけ減らし、1~2週間維持することです。1週間の継続後に筋肉量が減っていないかを確認するため、InBody測定を行います。もし筋肉量が維持されたまま体脂肪量が少しでも減少していれば、カロリー赤字は成功です。今後は運動による消費カロリーなども調節し、その日に応じた必要な分のカロリーを摂取します。

では、摂取カロリーを食事から安全に減らすにはどうすれば良いでしょうか? 最も簡単な方法は、ファストフード・お菓子・チョコレート・ジュース・お酒などの摂取量を減らすことです。今までどれだけ摂っていたかによっても異なりますが、これだけで減量できるかもしれません。普段からこういったものをあまり摂取していない場合は、摂取量を多少減らしても問題ない栄養源を減らすようにします。食事プランの炭水化物や脂質の中でカットできる部分がないか見直してみましょう。一方、摂取量を減らし過ぎないよう注意すべき栄養素はタンパク質です。タンパク質は筋肉を構成する成分であり、摂取量を減らし過ぎてしまうと、筋肉量が減少して体重が落ちてしまいます²⁾。厚生労働省は、日本人が必要なタンパク質の量を男性60g/日、女性50g/日と定めているので、こちらの値を参考に調節してください⁶⁾。


摂取カロリーを食事から安全に減らす別の方法は、低カロリー高タンパク質の食材を選ぶことです。お勧めの食材は次のようなものが挙げられます。適切なカロリー制限と栄養摂取に運動を並行することで、筋肉量を維持しつつ体脂肪量を減らすことができます。

・さけの切り身(100g): 132kcal/タンパク質 22g
・ギリシャヨーグルト(170g): 100kcal/タンパク質 17g
・鶏の胸肉(骨・皮なし、100g): 108kcal/タンパク質 22g
・牛肉(もも、赤身肉、100g): 140kcal/タンパク質 23g
・豚肉(ヒレ、赤身肉、100g): 114kcal/タンパク質 23g
・絹ごし豆腐(1丁300g): 168kcal/タンパク質 15g


理想の体型になるために

理想の体型になるためには、食事プランと一緒に運動なども常に少しずつ変化させる必要があります。諦めずに継続すれば、必ず努力は結果として現れるでしょう。しかし、結果が目に見えるまで、どれほど時間を要するかは個人によって異なります。モチベーションを維持するためにも、定期的に体成分を確認するようにしましょう。測定頻度の目安としては、1~2週間毎の測定が推奨されますが、食事プランや運動内容が更新されたタイミングに合わせて測定するのも良いでしょう。より詳細な体成分の変化を確認したいのであれば、是非InBodyで測定してみてください。

最後に、BMRは筋肉量と密接に関連していることを忘れないでください。適切な栄養摂取と運動によって筋肉量が増えると、必要な摂取カロリーも増加します。摂取カロリーの調節ができなければ、せっかく増やした筋肉量を維持することはできません。更に筋肉量を増やしたい場合は、今の摂取カロリーも見直す必要があります。逆に、厳しいカロリー制限を行って筋肉量が減少した場合はBMRも減少しています。筋肉量の減少を考慮せずにむやみに運動量を増やしたり、余分に摂取カロリーを取ってしまったりすると、理想の体型から遠ざかってしまうかもしれません。

食事や運動の計画を立てる際、体に必要な摂取カロリーを把握することはとても有益です。これを把握するためには、BMRを知ることから始まります。BMRをうまく活用することで、健康を損なうことなく、より効果的に体成分を改善して、少しずつ理想の体型に近づけていきましょう。このトピックの前編を見逃している方は、こちらもご覧ください☞「体型改善 Part1: 基礎代謝量とは

 

参考文献
1. Lambert CP et al., Macronutrient considerations for the sport of bodybuilding. Sports Med. 2004;34(5):317-27.
2.「筋肉量を増やすために必要な栄養素「分岐鎖アミノ酸(BCAA)」」 独立行政法人環境再生保全機構 すこやかライフ
3. Jay R Hoffman et al., Effect of protein intake on strength, body composition and endocrine changes in strength/power athletes. J Int Soc Sports Nutr. 2006 Dec 13;3(2):12-18.
4. American College of Sports Medicine; American Dietetic Association; Dietitians of Canada. Joint Position Statement: nutrition and athletic performance. American College of Sports Medicine, American Dietetic Association, and Dietitians of Canada. Med Sci Sports Exerc. 2000 Dec;32(12):2130-45.
5. Dietary reference intakes for energy, carbohydrate, fiber, fat, fatty acids, cholesterol, protein and amino acids, institute of medicine of the national academies, 2002 and 2005, The National academies press 500 Fifth street, N.W. Washington, DC 20001
6.「日本人の食事摂取基準(2020年版)」 厚生労働省

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体型改善 Part1: 基礎代謝量とは

理想の体型になりたいと思ったとき、第一にとる行動はジムに行くことです。初めのうちはとてもやる気がある状態で、毎日トレッドミルやウエイトトレーニングを頑張ろうと決意します。しかし、変化が何も見えない状態では、その熱意は徐々に失われてしまいます。気付けば、毎日が週3日になり、週3日が時間のあるときになり、運動の頻度が落ちてしまいます。このように、体型の変化を知る前に運動を諦めてしまった経験はありませんか? ジムに行くことを途中で止める理由はたくさんありますが、最も一般的な理由は結果がすぐには現れないことです。そして、理想の体型を目指してジムに通うことだけに夢中になっている人は、最も重要で基本的なことを忘れてしまっています。

「腹筋はキッチンで作られる」という話がありますが、これは事実です。ジムでは運動を行い筋肉に刺激を与えることができますが、悪い食生活の下では十分な運動効果を得ることはできません。適切な食事無しでの運動は、逆に筋肉の破壊につながりかねません。では、適切な食事はどのように取れば良いのでしょうか? 摂取する栄養素の種類・食事の頻度・摂取するタイミング・断食の選択など、食事に関して考えるべき要素はたくさんありますが、食事メニューを考える上でも1日の総消費カロリー(TDEE)を知ることは最重要事項です。
※Total Daily Energy Expenditure (TDEE)とは、身体活動量分のカロリーも含んだ1日の総消費カロリーです。


基礎代謝量(BMR)の求め方


体が1日に消費する総消費カロリーはどれくらいでしょうか? TDEEは基礎代謝(70%)・生活活動代謝(20%)・食事誘発性熱代謝(10%)に分けることができます。基礎代謝は、毎日の生命維持のために体を動かさなくても使われるカロリーを指します。生命維持とは、呼吸・血液の循環・体温維持・脳の活動・内臓の活動などによる代謝活動です。生活活動代謝は、歩いたり走ったりするときに使われるカロリーを指し、食事誘発性熱代謝は、摂取した食物が消化・吸収される際に発生する熱によって消費されるカロリーを指します。

TDEEを求めるためには、まずBMRを求める必要があります。BMRと一言でいっても、ハリスベネディクト式やミフリンセントジョール式などBMR算出に用いられている公式は様々です。これらの式は体重を用いてBMRを計算しますが、身長・年齢・性別による補正が掛かっています。つまり、同じ身長・年齢・性別の平均から外れている人がこれらの式を使用すると(例えば、アスリートや疾患者の場合)、算出されたBMRは正確ではない可能性があります。平均から離れている人には、除脂肪量を用いて算出する、カニンガム式のBMRを使用することをお勧めします。BMRを除脂肪量だけ用いて算出することには、次のようなメリットがあります。

カニンガムの式 BMR=除脂肪量×21.6+370¹⁾
➀年齢・性別の統計から得られた情報による補正の影響を受けません。
➁カニンガムの式は運動によって鍛えられる筋肉量の変化を反映するので、筋肉量が増えるとBMRも増えます。
(除脂肪量には筋肉量が含まれており、筋肉量の増加は除脂肪量の増加につながります。)
※除脂肪量(kg)=体重(kg)-体脂肪量(kg)

現行販売している全てのInBody機種で、カニンガム式により算出されたBMRを提供しています。自分のBMRが把握できたら、次のステップに進みましょう。


BMRから1日の総消費カロリー(TDEE)を計算する方法

BMRは安静時に消費されるカロリーであり、歩行・会話・家事・仕事・運動など、生活活動に関わる消費カロリーは含まれていません。そのため、食事プランを立てるために必要なTDEEは、BMRに身体活動レベルを表す係数を掛けて求める必要があります。TDEEの算出方法は次の表をご参照ください²⁾。

身体活動レベル 説明 TDEE
低い(Ⅰ) 静的な活動(生活の大部分が座位) TDEE=1.5×BMR
普通(Ⅱ) 中強度な活動(通勤・買い物・家事・軽いスポーツなど) TDEE=1.75×BMR
高い(Ⅲ) 高強度な活動(スポーツなどの活発な運動習慣・肉体労働など) TDEE=2.0×BMR

身体活動レベルが普通(Ⅱ)である男性のTDEEを計算してみましょう。この方の体重は77.6kgで、除脂肪量は60.6kgです。カニンガムの式を用いると、この男性のBMRは1,679kcalとなります。これに適切な係数(1.75)を掛けると、体重を維持するためにこちらの男性が必要なTDEEは、2,938kcalになります。

ここまでは、主に基礎代謝量の種類と計算方法について説明しました。次のトピックではこれらをどのように活用できるのか、実践方法をご紹介します。☞「体型改善 Part2: 基礎代謝量の活用法」

 

参考文献
1. Cunningham JJ. A reanalysis of the factors influencing basal metabolic rate in normal adults. Am J Clin Nutr. 1980 Nov;33(11):2372-2374.
2. 「日本人の食事摂取基準(2020年版)」 厚生労働省

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妊娠中の体成分モニタリング

お腹の中で子どもを育み、出産に備えて体を整える約10か月の妊娠期間は、体成分が大きく変化する期間でもあります。中には、10kg以上の体重増加を経験した妊婦さんもいらっしゃるでしょう。以前、産後のダイエットについてご紹介しましたが、今回のトピックでは妊娠中の体成分モニタリングについて詳しくお話しします。


妊婦の体重管理の重要性

妊娠中にInBodyを測定しても、安全面で問題ないのか気になる方もいると思いますが、InBodyが体成分を測定するために使用しているBIA法は体に影響を及ぼさない程の微弱な電流を使用しているため、体成分の測定方法の中で最も安全で体に負担のかからない方法として評価されてきました。また、妊娠高血圧症候群・妊娠中毒・妊娠浮腫・妊娠糖尿病など、妊婦を対象にした様々なInBodyを活用した研究が、国内外でも活発に行われています。このように測定の安全性としては問題ありませんが、妊娠期間中は常に体に注意を払う必要があるので、InBody測定は他の検査と同様に、その日の体調や担当医師と相談しながら実施してください。

安定期(妊娠中期)に入り、つわりなどの妊娠初期症状が落ち着いてきた頃、次は体重管理の問題が待っています。厚生労働省は、妊娠中期から後期の妊婦における1週間当たりの体重増加量は「300gから500g」であることが望ましいと、妊娠中の目安となる体重増加量を定めています。従って、体重は週に500g以上増えないよう心掛けましょう。
※妊娠前のBMIが25.0未満であった妊婦に対する目安


妊娠中は、赤ちゃんの成長だけでなく胎盤・羊水・血液・皮下脂肪も増加するので体重が徐々に増加していくのは当たり前ですが、過度な体重増加には様々なリスクがあります。太り過ぎは、妊娠高血圧・妊娠糖尿病・腰痛などの妊娠合併症の原因となります。これらが悪化すると、胎盤の機能低下・流産・早産・胎児の巨大化など、母子ともに危険な状態になってしまいます。また、産道にも体脂肪が付くことで難産の原因となったり、微弱陣痛でお産が長引いたりすることがあります。太り過ぎの妊婦は出産を終えるまでこれだけのリスクを抱えていますが、出産後も体重が戻りにくく妊娠線ができてしまうなどの問題もあります。妊娠発覚から出産直前までの体重増加は7~8kg程度が理想的です。これ以上の体重増加はすべてお母さんの体脂肪です。特に妊娠中に過度な体重増加を指摘された方は、適切な体重管理を心掛ける必要があります。では、一体どのようにして体重管理を行っていけば良いのでしょうか?
※妊娠前のBMIが18~24であった妊婦に対する目安


妊婦の体成分変化 -筋肉量と体脂肪量のバランス-

妊娠期間に大きく変化する体成分は体脂肪量です。体脂肪量は出産日に近づくに連れて増加していきますが、この体脂肪量にはお母さん自身の増加した体脂肪量だけではなく、赤ちゃんの体重・拡大した子宮と乳房・余分な血液・胎盤・羊水が含まれます。なぜなら体内で電流の流れない部分は体脂肪量として測定されるため、電流が上手く通らない羊膜内の重量も体脂肪量として換算されてしまいます。この原理を利用すれば、自身の変化と合わせて赤ちゃん(羊膜内)の成長も予測することができます。先ずは、基準となるデータを妊娠前や妊娠初期に取ることから始めましょう。


体重・筋肉量・体脂肪量の棒グラフの先端を線で結んでみましょう。この形を、標準型(I型)・強靭型(D型)・肥満型/虚弱型(C型)と分けて、体のタイプを一目で確認することができます。上記の例❶では体重と筋肉量が標準で、体脂肪量が少ない標準体重強靭型(D型)と分類できます。


妊娠中期の体成分を妊娠前の体成分と比べてみましょう。上記の例❷では妊娠前の時から体脂肪量が3.2kg増加したことで、棒グラフの先端を結んだ形が真っ直ぐになり、体成分が標準体重健康型(I型)へと推移していることが分かります。部位別体脂肪量を見てみると、増加した体脂肪量の約半分が体幹体脂肪量の増加として現れていることが分かります。羊膜内の重量は体幹体脂肪量として反映されるため、このような結果が見られます。同時期に測定したエコー検査より胎児重量が660gであったことから、羊膜内の重量は胎児重量約0.7kg・胎盤約0.3kg・羊水約0.4kgの合計で、おおよそ1.4kgです¹⁾。つまり、上記の例❷で体幹体脂肪量が1.6kg増えていることは、羊膜内の重量1.4kgとお母さん自身の体幹体脂肪量が0.2kg増えた結果と推測できます。因みに、エコー検査から算出される胎児重量は、胎児頭部の大横径・腹囲・大腿骨頭長などの長さを計測して推定式を用いて算出されます²⁾。筋肉量も妊娠前の❶から1.1kg増えていますが、正常な妊娠では周期を経る毎に体水分量も増えるので³⁾、筋肉量も体水分量に比例して増加しています。このような結果は母子共に経過が順調であることの現れと言えます。


出産後は、体成分が大きく変化するタイミングです。出産直後は赤ちゃん・余分な血液・胎盤・羊水などが体内からなくなり、体重が大きく減ることになります。そして約6週間で子宮の大きさが小さくなり、妊娠前の体重に近づいていきます。上記の例❸は産後10日の時点で測定した体成分ですが、体脂肪量が妊娠前の❶から2.5kg増え、筋肉量は1.4kg減った状態です。筋肉量が大きく減ったことで、体成分が若干の虚弱型(C型)へ推移しつつあることが分かります。体脂肪量も妊娠前の❶よりは大幅に増加していますが、それでも標準値の100%よりは少ない状態なので、妊娠・出産による体脂肪量増加を気にしてダイエットを行う必要は全くありません。出産後は体の回復を第一にして、徐々に筋肉量を増やしていく意識が必要です。この時点で体脂肪量が標準範囲(80%~160%)を大きく外れている妊婦の方は、今後の育児で体調を崩さないために、自身の管理も優先的に行って欲しいです。


上記の例❹は産後半年の時点で測定した体成分ですが、体脂肪量が妊娠前の❶から1.7kg増え、前回測定の❸からは0.8kg減ったことが分かります。筋肉量は妊娠前の❶までは戻ってはいませんが、前回測定の❸からは1.0kgも回復しています。これまでの4回分の体成分を見比べてみると、徐々に妊娠前の体成分に戻りつつあることが分かりますが、授乳中は体脂肪量も必要な体成分なのでこれ以上無理に減らす必要はありません。上記の例❹では、体脂肪量を減らすことよりも、筋肉へのアプローチを継続して筋肉量を妊娠前の❶の状態まで戻すことが大切です。
※出産後でも実施しやすい具体的な運動例は、InBodyトピックの「出産後に体型を戻す方法」を参考にしてください。


妊婦の体成分変化 -体水分のモニタリング-

妊娠時は胎盤で血糖値を上げやすいホルモンなどが分泌されるため、妊娠中期以後はインスリンが効きにくい状態になり、血糖値が上昇しやすくなります。妊娠中に血糖値が高いと、母体では妊娠高血圧症候群や羊水過多症になりやすく、胎児では巨大児や新生児の低血糖などの影響が出てきます。妊娠正常群では妊娠周期を経る毎に体水分量・細胞内水分量・細胞外水分量が増加していきますが、妊娠高血圧症候群では全てが段々減少していく傾向が確認できます。妊娠初期に測定した体水分の増加・減少傾向をモニタリングすることで、妊娠高血圧症候群の可能性を事前に把握できます³⁾。


妊娠中は赤ちゃんに栄養を行き渡らせるために通常よりも血液量が増加していますが、同時にエストロゲンやアルドステロンというホルモンの増加によって、末梢血管透過性が亢進され細胞外に水分が溜まりやすくなっています。つまり、体水分量・細胞内水分量・細胞外水分量が増加していく中で、特に細胞外水分量の増加が目立つ形で細胞外水分比(ECW/TBW)も上がっていきます。体水分量(TBW)に対する細胞外水分量(ECW)の割合であるECW/TBWは、体の水分均衡を表す指標として世界的に広く使用されており、その標準範囲は0.360~0.400で、健常人は0.380前後の一定な数値を維持します。InBodyではECW/TBWが0.400以上なら高いと評価します。健常人でも重力の影響で夕方以降にむくむ人もいますが、妊婦は体内の血液と水分バランスが崩れやすくむくみやすい体質なので、よりむくみの管理が求められます。


妊娠中は、大きくなった子宮が静脈やリンパ管を圧迫するため、むくみが起こりやすい状態です。 朝よりも夕方や夜にむくみを感じる場合が多いですが、朝から下肢がむくんでいるときは注意が必要です。さらに手や顔、全身に現れるむくみや、1週間に500g以上の体重増加を認めるむくみなどは妊娠高血圧症候群の予備軍として危険視されています。正常妊娠では、体水分量・細胞内水分量・細胞外水分量が増加していく中で細胞外水分比も増加しますが、妊娠高血圧症候群では逆に、体水分量・細胞内水分量・細胞外水分量が減少する中で細胞外水分比が増加します。また、細胞外水分比の増加幅も正常妊娠のケースより大きく、明らかな違いが見られます。


最後に

出産に向けての約10か月間は体成分が大きく変化しますが、そのときの変化はどのような変化だったでしょうか。母子共に健康な証である変化だったでしょうか。それとも、妊娠合併症などの、状態が悪くなっているサインである変化だったでしょうか。妊娠中は、吐き気・眠気・便秘・下肢浮腫・頭痛・動悸・腰痛など様々な不調が現れ、出産に対する不安や恐れから情緒不安定になる方も少なくありません。このような状態でも、お母さんは母子共に無事出産を乗り越えるために、自身の健康と体重管理を頑張っています。頑張っていても、思うように体重管理が上手くコントロールできていないかもしれません。自分の状態を理解していても、出産に対する恐怖が先行してしまうかもしれません。


そのとき先ずは、家族の方が一緒になって、現状について知ってください。妊婦健診を一緒に受けてみることも良い方法です。毎週どれだけ体重が増加しているのかも気にしてみてください。また、医師から体重の過度な増加を指摘されている時は、家族が一緒になって食事の改善や適度な運動を行ってみてください。InBodyも家族の一員となって、妊娠期間の健康や体重管理のために、少しでも役立てることを願っています。

 

参考文献
1. 荒木勤, 胎児の発育とその異常. 日医大誌第51巻第1号, 1984
2.「推定胎児体重と胎児発育曲線」保健指導マニュアル 厚生労働科学研究成果
3. Herbert Valensie et al., Multifrequency bioelectrical impedance analysis in women with a normal and hypertensive pregnancy. Am J Clin Nutr. 2000 Sep;72(3):780-3.
4. InBodyトピック「出産後に体型を戻す方法

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水は飲めば飲むほどいいのか?

運動中にも十分な水分補給が必要という話を聞いたことはありますか? のどが渇く前に水を飲んだ方がいいという話はどうでしょうか? 水分補給に関しては様々な意見がありますが、汗で失った水分を適切に補給することが重要なことは間違いありません。水は人体の機能が正常に作用するために必要不可欠であり、何らかの理由で水分を失ったのであれば必ず補給しなければなりません。


では、逆に水を「飲みすぎる」ことはどうでしょうか? 健康に問題はないでしょうか? 答えは「飲みすぎは問題になる」です。水を飲みすぎると体内のナトリウムをはじめとした各成分が希釈され、命の危険をもたらすほど血中濃度が低くなり、体内の電解質均衡が崩れます。電解質異常は深刻な症状に繋がることもあります。まずは、水分摂取量が適切でないと、どういう問題が生じるのかを説明します。


適切な飲水量はどれくらい?


詳しい説明の前に、水と人体はどういう関係かを見てみましょう。まず、食べ物や空気と同じく、水は生命維持に関連する重要な要素です。人体の約60%は水であると言われており、人体を構成する必要な成分と言えます。水は体温の維持に役立ち、血液として栄養素を運び、老廃物を尿の形で排出し、内臓にある程度溜まっていることで詰め物のような役割をします。水は人体に細胞単位から関与しているため、水を十分に摂取しないと1日も経たないうちに、致命的なダメージを受けてしまう恐れがあります。水が足りないと人体は脱水状態に陥ります。軽い脱水でも疲労感や認知機能・運動能力の低下等の症状が現れます。そして、深刻な脱水になると死に至ることもあります。

アメリカで行われた研究を基にした一般健常者の1日推奨水分摂取量は、男性約3.7L・女性約2.7Lです¹⁾。しかし、この水分摂取量は普通に生活する一般人における推奨量であり、アスリートや定期的に運動をする方の場合、または暑くて湿度が高い天気の場合は推奨量も増えます。また、妊婦や授乳中の女性はより多くの水分摂取が必要となります²⁾。
※脱水についてもう少し詳しく知りたい方はInBodyトピックの「脱水時に必要な飲み物は?」もご覧ください。


水を飲みすぎるとどうなるのか?

2003年、64歳の女性が自宅で死亡しました。死亡前日、女性は30~40杯ほどの水を飲み、何度も嘔吐しました。女性は徐々に方向感覚を失い、痛みを訴え、水を十分飲めていないと叫び始めました。女性は医師の診断も拒み、横になって寝ているうちに死亡しました。女性には既往歴がなかったため、死亡6時間後に死体解剖が行われました。血液毒物学的な観点から様々な原因が除外されたあと、最終的に見い出された死因は「急性水中毒による血中ナトリウム濃度の低下(低ナトリウム血症)」でした³⁾。低ナトリウム血症とは血中のナトリウム濃度が低い状態を意味し、最も頻繁に見かける電解質異常症です。低ナトリウム血症の診断基準は血中ナトリウム濃度<136mmol/Lと定められています。


また、長距離トライアスロン選手を対象にした研究もあります⁴⁾。この研究ではニュージーランドのトライアスロン選手330名のうち58名が、競技終了時の血液検査から低ナトリウム血症を発症していると診断されました。58名中医師の診察を受けた18名は、重度の低ナトリウム血症と診断され、深刻な症状が現れていました。研究結果によると、長距離運動選手において低ナトリウム血症はよく見かける状態であり、無症状の選手も多いことが分かりました。また、運動選手の深刻な低ナトリウム血症の約73%は、体液過剰が原因として挙げられています。他にも水分摂取に関する多くの研究がありますが、結論はどれも同じで、あまりにも水を飲みすぎるとかえって健康に悪影響を及ぼすということが示されています。


なぜ問題が起こるのか?

なぜ水を飲みすぎると、最悪の場合、命を落とすほど健康を損なうのでしょうか? その理由を理解するため、人体がどのように水と塩分(ナトリウム)、そして老廃物を扱っているのかを確認する必要があります。

臓器の中でも腎臓はフィルタのような役割をします。血液は腎動脈を経由して腎臓に流れ込みます。腎臓に入った血液から過剰な体液と老廃物が腎小体と細尿管で構成されたネフロンでろ過されます。ろ過される老廃物の中には塩分も含まれていますが、人体が必要とするものは再吸収され、残りは尿管に送られて尿として排出されます。しかし、水を飲みすぎると腎臓のろ過機能に過剰な負担をかけることになります。そうなると人体には、うまくろ過されなかった過剰な体液と老廃物が滞留されたままになり、低ナトリウム血症の原因となります。また、既に腎機能に問題があった場合は、より状態が悪化する恐れもあります。


水中毒


水分や老廃物を除去する腎機能に負担がかかりすぎると、上述した64歳女性の死因でもあった “水中毒” に発展する恐れがあります。水中毒と呼ばれる状態は電解質不均衡が原因であり、低ナトリウム血症を引き起こします。血中ナトリウム濃度が急激に低下すると、次のような症状が現れます。

・初期症状: 混乱、方向感覚の喪失、吐き気、嘔吐を含む精神状態の変化、または精神異常
・後期症状: 初期症状を放置すると発作、意識不明、最終的には死亡


低ナトリウム血症の種類

低ナトリウム血症はナトリウム摂取量の不足だけが原因ではありません。これは水分摂取量に比べナトリウム摂取量が少ないパターンです。低ナトリウム血症には3つのタイプがあり、それぞれ異なる原因で発症します。

1. 細胞外液量正常型の低ナトリウム血症 (Euvolemic hyponatremia)
希釈性低ナトリウム血症とも言われる症状で、水をたくさん飲みすぎることで生じる症状はこちらに該当します。一般的には多飲症(polydipsia)やその他の原因で水を飲みすぎると発生します。代表的な治療方法は原因となる疾患(糖尿病、精神疾患、脳損傷)を治療することです。

2. 細胞外液量増加型の低ナトリウム血症 (Hypervolemic hyponatremia)
このタイプの低ナトリウム血症は水分とナトリウムが同時に増加しているものの、相対的に水分増加量がナトリウム増加量を上回るときに発症します。心不全や肝硬変などの疾患による浮腫で体液貯留が生じると発生することが多いです。治療方法としては水分摂取量の制限と利尿剤を使用して強制的に水分を排出する方法があります。

3. 細胞外液量減少型の低ナトリウム血症 (Hypovolemic hyponatremia)
細胞外液量増加型とは逆に、細胞外液量減少型の低ナトリウム血症は水分とナトリウムが同時に減少しているものの、相対的にナトリウム減少量が水分減少量を上回るときに発症します。このタイプの低ナトリウム血症はナトリウムを含んでいる体液の損失によって起こり、嘔吐や下痢による体液損失が代表的な原因です。また、利尿剤や腎疾患によっても発症します。治療は重症度によって異なりますが、0.9%濃度の生理食塩水などの電解質を投与して失った水分とナトリウムの交換を行う必要があります。


適量の水を摂取するために

ここまで過剰な水分摂取で起こりうる問題についてお話しました。では、どうすれば適切な量の水を飲むことができるのでしょうか? 次に、過剰な水分摂取を避けるために実践すると良い方法をいくつかご紹介します。


1. のどが渇いてから水を飲む


体は水分が足りないときに適切に反応します。そのため、のどが渇いてから水を飲み、渇く前には飲まないようにしましょう。殆ど座って生活する場合は推奨水分摂取量に従って水を飲み、活動量が多い場合は推奨量よりは多めに水を飲んでください。のどがいつ渇くのかを記録することも良いかもしれません。


2. 1時間にどれほど汗をかいているか推定する


これは少し複雑な方法ですが、暑くて湿度の高い日に外で運動する時や、競技スポーツをするときに試してみると良い方法です。まず、運動前に体重を測り、運動中にのどが渇いたら水を飲んで、運動が終わってまた体重を測ります。そして、運動中にどれほど水を飲んだのかも確認しておきます。

理想は運動前後の体重が同じか、運動後の体重減少量がわずかな状態です。必要以上に水分を摂取していれば、体重は増加するはずです。この方法からどれほど汗をかいていたか、どれほど水を飲めばいいのかを推定できます。


3. 飲み過ぎないように注意する


最も簡単な方法はこれです。のどの渇きが解消されたらそれ以上飲まないようにしましょう。それ以上飲むと吐き気や嘔吐など、水中毒の症状を経験することになるかもしれません。だからといって全く水を飲まなくていい、ということではありません。のどが渇いてなければそれ以上飲まないということです。

必要な量の水分を摂取できているかを見分ける簡単な方法があります。のどが渇く頻度が少なかったり、尿の色が透明または薄い黄色をしていたりすると水分摂取量が足りていると判断していいでしょう。尿のカラーチャートはInBodyトピックの「脱水時に必要な飲み物は? 」内で確認できます。


正しく水分を摂取するために

「過ぎたるは猶及ばざるが如し」といいます。水も同じで、摂取量が少なすぎても多すぎても健康に悪影響を及ぼします。しかし、体が送る信号に従って水を飲む量やタイミングを調整するだけでこれらの問題は解決できるでしょう。適量の水を飲んでいるか、今一度確認してみてください。

 

参考文献
1. Dietary Reference Intakes for Water, Potassium, Sodium, Chloride, and Sulfate, The National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine
2. Hydration for Pregnancy and Motherhood, Emma Derbyshire, Pregnancy and Motherhood May 2016
3. Farrell DJ, Bower L. Fatal water intoxication. J Clin Pathol. 2003 Oct;56(10):803-4.
4. Speedy DB et al., Hyponatremia in ultradistance triathletes. Med Sci Sports Exerc. 1999 Jun;31(6):809-15.