AWGS2025: 筋肉を軸にしたサルコペニア評価とケアの方向性

アジアサルコペニアワーキンググループ(AWGS)はサルコペニア診断に関する新たな指針を2025年に発表し(AWGS2025)、診断基準やフローが再整理されました。高齢者人口の増加とともにサルコペニアの早期発見と介入の必要性が高まったことを背景に、より包括的な支援を目指す診断アルゴリズムへと改訂が進められています。特に、健康寿命の延伸における骨格筋(筋肉)の重要性が再認識されるとともに、「筋肉量だけでなく、心身の健康を総合的に評価すること」がこれまで以上に求められています。今回は、AWGS2025での要点と、InBodyの活用方法をご紹介します。


AWGS2025の要点
– サルコペニアの定義・診断

サルコペニアはこれまで、骨格筋量の低下と筋力もしくは身体機能(歩行速度など)の低下によって定義されてきました。しかしAWGS2025においては、「骨格筋量と筋力の低下」によって定義されるように変更されています。これは、GLIS(Global Leadership Initiative in Sarcopenia)が2024年に報告した、「身体機能の低下はサルコペニアによって生じるアウトカムである」という考え方に基づいています。この変更に伴い、サルコペニアの診断フローも次のように変更されています。

▲ AWGS2025におけるサルコペニア診断アルゴリズム

症例を抽出するためのスクリーニング項目には、従来の下腿周囲長測定やSARC-F・SARC-CalFに加えて、どの施設・場所でもコストをかけずに実施できる「指輪っかテスト」が新たに追加されました。この指輪っかテストを含むスクリーニングでサルコペニアが疑われた場合には、握力と骨格筋量の測定を行うことが求められます。また、身体機能の低下がアウトカムとして位置づけられたことを受け、「重度サルコペニア」という分類は廃止されました。その一方で、サルコペニア評価だけではなく、合併症や社会的・身体的環境を含む詳細な評価を併せて行うことが明記されています。


– 握力、SMIのカットオフ値

これまでは65歳以上を対象としたカットオフ値が発表されていましたが、サルコペニアの早期発見・介入を目的とし、新たに50-64歳を対象としたカットオフ値が設定されました。

➤握力カットオフ
65歳以上: 男性<28kg、女性<18kg
50-64歳: 男性<34kg、女性<20kg

➤SMIカットオフ
65歳以上: 男性<7.0kg/㎡、女性<5.7kg/㎡
50-64歳: 男性<7.6kg/㎡、女性<5.7kg/㎡


– 評価項目「ASM/BMI」の追加

従来のSMIに加えてASM/BMIでの評価も新たに追加され、年代別のカットオフ値も提示されています。肥満などで体脂肪量が多くBMIが高い方は筋肉量の絶対量も多くなりやすいため、身長で補正するSMIではサルコペニアのカットオフ値を下回らない場合があります。そこで、BMIで補正したASM/BMIを用いることで、より相対的な視点で低筋肉量を評価できます。近年は、このBMI補正の有用性も報告されており、こうした背景から四肢骨格筋量(ASM)をBMIで除したASM/BMIが新たに設定されています。

筋肉量筋力
SMI(kg/m²)ASM/BMI(kg/BMI)握力(kg)
65歳以上男性<7.0男性<0.83男性<28
女性<5.7女性<0.57女性<18
50-64歳男性<7.6男性<0.90男性<34
女性<5.7女性<0.63女性<20

※色付きは今回新設されたカットオフ値を示しています。


– Muscle Healthというフレームワーク

AWGS2025では、サルコペニアを単に改善するだけでなく、全身の健康状態を高め、より健康に長く生きることを目指す方針が示されています。特に重要な位置づけとなるのが、骨格筋(筋肉)です。骨格筋は、「身体を動かすための動力部(筋力)」「エネルギーの貯蔵(筋肉量)」という良く知られている役割に加えて、近年は「マイオカインなど、全身に影響を及ぼすホルモンを分泌する器官(代謝)」としての働きも注目されており、筋肉量を維持増進することは体のあらゆる面において総合的な健康に貢献することが示されています。このことが、「Muscle Health」という概念として説明されています。

AWGS2025では、加齢と共に変化する複数の臓器との複雑な相互作用を考慮しながら、Muscle Healthを維持向上させるためのフレームワークが提示されています。これは、サルコペニアが国際疾病分類(ICD-10-CM)に正式に認定されていることを背景として、WHOが提唱するICOPE*に即した流れで構成されています。

今後のサルコペニアの診断や介入は、筋肉のみにフォーカスせず、対象者の総合的な健康状態を継続的に評価・介入しながら支えていく視点を軸として実施されることになります。
*ICOPE: Integrated Care for Older People(高齢者のための統合ケア)の略で、高齢者の「生活機能(intrinsic capacity)」を維持・改善するための包括的ケアモデル


「InBody+InGrip」で筋肉量と筋力を経時的に評価

InBodyでは、筋肉量をはじめとした体成分を約30秒で誰でも簡単に確認でき、サルコペニアの診断に必要なSMIも自動で算出されます。InGripはロードセル方式により、安定した正確な値を提供し、最小1kgから測定を行えます。

また、InGripとBluetoothで連携することで、体成分と併せて握力もスムーズに測定できます。結果用紙には「筋肉・筋力評価」としてSMIと握力の測定値が表示され、サルコペニア診断フロー内の筋肉量・筋力評価がすぐに行えます。また、選択項目でASM/BMIを表示させることで、筋肉量評価でSMIとASM/BMIを一緒に確認することも可能です。
※一部対応していない機種や、連携にアップデート作業などが必要になる場合がございます。興味のある方は弊社までお問い合わせください。
※InGrip(握力計)について、詳しくは製品ページトピック「サルコペニアの予防に活用できるInBody(握力計連携)」をご覧ください。


まとめ

AWGS2025の改訂は、診断フローの更新・評価項目の刷新に留まらず、筋肉を「健康の中心的要素」として位置づけた点に大きな意義があります。サルコペニアは加齢に伴う筋肉量や筋力の低下として捉えられてきましたが、今後は身体機能や代謝、生活機能までを含めた「Muscle Health」の維持・向上を目的とする包括的なケアが求められます。そのためには、日々変化する筋肉の状態を「見える化」し、客観的に把握していくことが必要です。InBodyとInGripを活用して筋肉量や筋力の変化を継続的に追うことで、より的確な介入や評価につながります。

AWGS2025の改訂を受け、今後のサルコペニア対策は予防や地域ケアを含めた幅広い取り組みへと更に発展していくことが予想されます。得られたデータをもとに、個別化された支援を行うことがより一層重要となります。

引用文献
1) Chen LK et al. A focus shift from sarcopenia to muscle health in the Asian Working Group for Sarcopenia 2025 Consensus Update. Nat Aging. 2025.
2) Kirk, Ben et al. The Conceptual Definition of Sarcopenia: Delphi Consensus from the Global Leadership Initiative in Sarcopenia (GLIS). Age and ageing. 53(3), 2024.