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喫煙による健康被害

2020年4月1日より、昨年から一部施行となっていた「健康増進法の一部を改正する法律」が全面施行になります。これまでは学校や病院といった行政機関及び公共施設において、原則敷地内禁煙と定められていましたが、全面施行になることで、それ以外の屋内施設がほぼすべて原則屋内禁煙となります。屋内での喫煙の場合、喫煙室の設置や喫煙室の標識掲示も必要になります。また、20歳未満であれば来店客・従業員問わず、喫煙エリアへの立入禁止も定められています。

近年、喫煙者自身の健康に対する悪影響よりも周囲の人に対する受動喫煙の健康に対する悪影響が深刻な問題となっており、受動喫煙を防ぐためにも、今回の法改正に則って分煙を進めていく必要があります。今回は喫煙や受動喫煙による身体への影響についてお話します。


たばこの歴史

たばこは16世紀後半に日本に伝来したとされています。江戸時代初期にはたばこの喫煙及び売買の禁止令が出されたものの、次第に容認され、嗜好品として徐々に定着していきました。江戸時代では葉を刻んだたばこをキセルで吸う「刻みたばこ」が好まれていました。明治時代になると、外国から「紙巻きたばこ」が輸入されるようになり、国内でも製造されるようになりました。明治後期には政府が国家の財源確保のため、たばこに関する法律を整備し、たばこ産業は国営化されていきました。昭和では、戦時中の英語使用禁止や配給制の影響を大きく受けましたが、戦後、国営化されていたたばこ産業は徐々に民営化が進み、様々な銘柄が誕生しました。平成に入ると健康志向の高まりや世界的なたばこ規制もあり、たばこ販売量は1996年をピークに緩やかに減少していきます。このような背景から、近年は分煙環境の整備や喫煙マナーの向上、未成年者の喫煙防止などの取り組みや煙の発生しにくいたばこの開発が進められています¹⁾。

ちなみに、たばこは英語で「tobacco」「cigarette」の2通りの表現があります。元々、「tobacco=原材料の植物であるたばこ」「cigarette=加工して販売しているたばこ」をそれぞれ指していたのですが、最近は加工して販売しているたばこも「tobacco」を使うようになっており、「たばこを吸う=smoking tobacco」と表現することもあります。また、「Tobacco」は産業としてのたばこを表す際にも用いられます。


たばこの煙

たばこの煙は喫煙者がたばこから吸う「主流煙」、喫煙者が吐き出した「呼出煙」、たばこそのものから発する「副流煙」があります。健康増進法第25条では受動喫煙を「室内又はこれに準ずる環境において、他人のたばこの煙を吸わされること」と定義しており、ここで述べている「他人のたばこの煙」は「呼出煙」と「副流煙」を指します。

たばこの煙は粒子成分とガス成分の2種類に分かれます。粒子成分には4,300種類、ガス成分には1,000種類もの化学物質が含まれ、そのうちのいくつかは粒子成分とガス成分の両方に含まれると報告されています²⁾。このうち、発がん性があると報告されている物質は約70種類も含まれています。たばこの煙に含まれる成分はたばこの葉そのものに含まれるものと、乾燥や加⼯・製造の過程で⽣成・添加されたもの、そして、それらが燃焼する際に⽣成されるもので構成されており、喫煙や受動喫煙ではこれらが合わさったものを吸い込んでいることになります。


たばこの三大有害成分

世界の喫煙に起因する年間死亡者数は、能動喫煙によって約700万人、受動喫煙によって約120万人と報告されています²⁾。また、日本人の年間死亡者数は、能動喫煙によって約13万人、受動喫煙によって約1万5000人(肺がん・虚血性心疾患・脳卒中による死亡)と推計されています³⁾。

たばこに含まれている「ニコチン」「タール」「一酸化炭素」は三大有害成分と呼ばれています。たばこの有害成分と聞いて、まず思い浮かべる代表的なものが「ニコチン」です。ニコチンは、たばこ葉の根で生合成されたのち、葉に蓄積する天然の成分です。ニコチンには毒性があり、本来は植物自身が虫や動物に食べられないよう、身を守るために生成している成分です。たばこはナス科の植物であるため、同じナス科のトマトやナス、ピーマン、ジャガイモなどにもニコチンは存在しますが、これらの植物に含まれるニコチンは非常に微量です。ニコチンは、喫煙によって発症リスクが高まるがんや脳卒中の直接的な要因であると思われていますが、現時点ではニコチンに発がん性は認められておらず、発がん性があるかどうかは不明です。しかし、ニコチンには麻薬と同等の強い依存性があると言われており、依存の離脱症状によって、不快感・抑うつ状態・不眠・気性が荒くなる・不安感・集中力欠如・心拍数減少・食欲増加などが見られます。この依存性から、たばこをたくさん吸うことによってニコチン以外の有害な化学物質を大量に摂取してしまい、各疾患の発病リスクも高まります。

「タール」はいわゆるヤニと呼ばれ、フィルターに付着する、べっとりしたものです。タールには数十種類の発がん物質が含まれています。「一酸化炭素」は酸素の運搬を阻害します。通常、体内に取り込まれた酸素は血中のヘモグロビンと結びつき、血液循環によって身体の各部に運ばれます。しかし、一酸化炭素は酸素の200~250倍の速さでヘモグロビンと結びつくことから、酸素とヘモグロビンの結合を妨げ、結果的に身体が酸素欠乏症に陥ります。

三大有害成分をはじめとした有害成分によって、各種がんや循環器疾患、呼吸器疾患、糖尿病、妊娠・出産へのリスク、小児の発育阻害などが引き起こされます。喫煙と各疾患との因果関係は次の表のように示されています。

「喫煙と健康 喫煙の健康影響に関する検討会報告書」より抜粋³⁾

InBodyは、喫煙が原因となる各種がんや循環器疾患・呼吸器疾患・糖尿病などのリスク管理に、測定項目を活用することができます。2009年の研究⁴⁾では、近年患者数が増加しているCOPD(慢性閉塞性肺疾患:たばこの煙などが原因で息がしづらくなる病気)患者に多い肺気腫(肺の呼吸機能が低下している状態)の重症度と筋肉量・体脂肪量の関係について発表しています。また、2014年のアジアサルコペニアワーキンググループの発表⁵⁾では、喫煙歴がサルコペニアに関連していると述べています。
※サルコペニアについてはInBodyトピック「サルコペニアの理解に必要なこと」をご覧ください。


新しいたばこの普及

最近は紙巻きたばこではなく、新しいたばこを利用する人も増えてきています。2018年に行われた、18~72歳の男女約4,000人が回答したアンケートによると、男性で14.5%、女性で4.7%の方が現在新しいたばこを使用していると回答しています。特に、20代の若者でその傾向は強く現れました(男性24.4%、女性10.1%)⁶⁾。新しいたばこは火を使わずに電気の力で水蒸気を発生させる仕組みで、大きく分けると次の2種類があります。

icon-caret-square-o-right たばこ葉を熱し、ニコチンが含まれた水蒸気を吸引する種類
従来の紙巻きたばこよりもニコチンの含有量が少なく、有害物質の一つであるタールも含まれないことから、紙巻きたばこより身体への悪影響が少ないと言われています。また、煙とニオイが少ないことも特徴です。

icon-caret-square-o-right 液状のリキッドを熱し、水蒸気を吸引する種類
ニコチンやタールを含まないため、紙巻きたばこや上記のたばこよりも身体への悪影響が少ないです。煙とニオイが多く、爆煙と呼ばれています。日本の薬事法上ではニコチンを含んだ液状のリキッドは販売禁止となっていますが、海外ではニコチンを含んだ液状のリキッドも流通しており、必ずしもニコチンが含まれていないたばことは言えません。

気を付けなければいけないのは、どちらも紙巻きたばこよりは少ないものの、有害化学物質を一切含んでいないわけではない、という点です。紙巻きたばこよりも身体への悪影響が少なく済むからといって、たくさん吸い続けると身体に悪影響が出ることに変わりはありません。

紙巻きたばこと比較すると、新しいたばこの主流煙は有害化学物質量が減少していますが、ニコチン量はほぼ同量です。その反面、製造方法や加熱方法の違いにより、一部の有害化学物質は新しいたばこの方が増加していました。受動喫煙における曝露量は紙巻きたばこより新しいたばこの方が少なくなっていたものの、ニコチンの受動喫煙は確認されており、新しいたばこだからといって、受動喫煙が全く0になるわけではありません⁶⁾。

これらのたばこはまだ発売されてから日が浅いこともあり、身体への影響における紙巻きたばことの違いや、がん発症リスクなどの検証が十分に行われていません。たばこへの規制が厳しい米国でも、新しいたばこに関して有害化学物質の発生低減を認めてはいますが、発症リスクの低減についてはまだ認めていません。2019年の研究⁷⁾では新しいたばこのフィルターから加熱時に有害化学物質が発生していることが報告されており、新しいたばこによる新たな問題も生じているようです。新しいたばこの影響については研究が進められていますが、WHOも継続した評価が必要であると主張しています。
※これらのたばこは「加熱式たばこ」「非燃焼式たばこ」「電子たばこ」等、表記が統一されていないため、今回は「新しいたばこ」としています。


進んでいく分煙

改正法が施行されると、原則室内禁煙となります。しかし、施設における事業内容や経営規模に対する配慮から、その類型・場所ごとに、各種喫煙室の設置が認められています。

「なくそう!望まない受動喫煙。」 厚生労働省より抜粋⁸⁾

通常の施設内では、「喫煙専用室」「加熱式たばこ専用喫煙室」の設置が可能です。「喫煙専用室」では加熱式たばこを含めたたばこの喫煙が可能ですが、飲食を始めとするサービス等の提供はできません。一方、「加熱式たばこ専用喫煙室」では、加熱式たばこのみの喫煙が可能ですが、飲食等の提供は可能です。どちらも施設の一部に設置が可能です。

シガーバーや、たばこ販売店、公衆喫煙所など、喫煙をサービスの目的とする施設(喫煙目的施設)については、受動喫煙防止の構造設備基準に適合した室内空間に限り、「喫煙目的室」を設けることができます。喫煙目的室では、喫煙に加え、飲食を始めとするサービス等を提供することも可能です。

しかし、経営規模の小さな飲食店については、喫煙目的室を設置できるほどの十分なスペースを確保することが難しく、事業継続に影響を与えることが考えられます。経過措置として、既存の小さな飲食店(客席面積100m²以下)のみ「喫煙可能室」の設置を認め、喫煙に加え、飲食を始めとするサービス等を提供することを可能としています。

「なくそう!望まない受動喫煙。」 厚生労働省より抜粋⁸⁾

また、これらを設置した場合、施設内に喫煙室がある旨を周知する必要があります。今後、このような標識を見る機会が増えるでしょう。


終わりに

たばこは江戸時代から人々の生活に根付いている文化の一つであるため、なくなることはないでしょう。たばこを吸う人吸わない人それぞれに配慮した社会環境作りが今後、更に進められていきます。現在、世界的な問題になっているコロナウイルス(COVID-19)も肺炎などの呼吸器疾患を起こしやすく、同様に呼吸器へ悪影響を及ぼす喫煙との関係が示唆されています。
※詳しくはInBodyトピック「呼吸器疾患とは Part1: 主な呼吸器疾患」をご覧ください。

WHOのテドロス事務局長も3月20日の談話の中で、「たばこを吸わないでください。喫煙は、もしあなたがコロナウイルスに感染した際、重症化するリスクを高めます。」と話しています⁹⁾。この記事を機に、たばこを吸う人も吸わない人も今一度、たばことの関わり方を考えてみてください。

 

参考文献
1.「JT(日本たばこ産業株式会社)」公式ホームページ
2.「Tobacco」WHO
3.「喫煙と健康 喫煙の健康影響に関する検討会報告書」厚生労働省
4. Extent of Emphysema on HRCT Affects Loss of Fat-free Mass and Fat Mass in COPD. Hiroko Kurosaki, Takeo Ishii, et al., Inter Med. 2009; 48: 41-48
5. Sarcopenia in Asia: Consensus Report of the Asian Working Group for Sarcopenia. Liang-Kung Chen, Li-Kuo Liu, et al., JAMDA. 2014; 15: 95-101
6. 非燃焼加熱式たばこにおける成分分析の手法の開発と国内外における使用実態や規制に関する研究. 欅田 尚樹, 伊藤 加奈江, 木村 和子, 田淵 貴大, 厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究, 2018
7. iQOS: evidence of pyrolysis and release of a toxicant from plastic. Davis B, Williams M, Talbot P, Tob Control. 2019; 28(1): 34-41
8.「なくそう!望まない受動喫煙。」厚生労働省
9.「WHO Director-General’s opening remarks at the media briefing on COVID-19 – 20 March 2020」WHO

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