五大栄養素
-炭水化物Ⅰ-

あけましておめでとうございます。新しい年を迎えた今、いかがお過ごしでしょうか。例年のように大勢が集まる忘年会は難しかったかもしれませんが、年末にはご家族でクリスマスケーキやチキン、揚げ物を添えた年越しそばを食べたり、年明けにはお節料理やお餅を食べたり、食に充実した年末年始であったのではないでしょうか。

ケーキ、揚げ物、そば、お餅。今回はこれらの共通点であり、私たちの食事で最も摂取する割合が大きい栄養素、炭水化物に関して話したいと思います。


炭水化物とは

炭水化物に関する誤解の一つとして「炭水化物=糖質」というものがあります。しかし、厳密にいうと炭水化物は糖質だけを示すものではありません。栄養学的な分類でいうと、炭水化物は糖質と食物繊維の総称です。糖質は消化酵素により分解されエネルギー源として使われることに対し、食物繊維は分解するための消化酵素を持っておらず、エネルギー源になりません(0kcal/g)。炭水化物のエネルギー量4kcal/gはほぼ糖質から算出されています。

厚生労働省では炭水化物摂取量を総エネルギー摂取量の50~65%としています。例えば、1日の総エネルギー摂取量が2,000kcalであれば、そのうち1,000~1,300kcalを炭水化物で摂るのが望ましいということになります。単純に計算すると炭水化物250~325gが必要です。参考までに、ご飯1杯(150g)に含まれている炭水化物の量は55.7gなので、三食でご飯を1杯ずつ食べたとしても1日に必要な炭水化物量を下回ってしまいます。しかし、炭水化物は米・小麦などの穀物、ジャガイモ・トウモロコシなどの野菜以外にも様々な食べ物に含まれているだけでなく、砂糖も糖質であることから、私たちは無意識のうちに炭水化物を摂取しています。次は代表的な食品の100gあたりの炭水化物含有量です¹⁾。
「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」より改変

糖質はそれ自体の組成やどの食品に入っているかによって、単糖類・二糖類・多糖類に分類されます。糖質を構成する糖類の数を基準に、これ以上分解できないものが単糖類、単糖類2分子で構成されるものが二糖類、それ以上の単糖類で構成されているものが多糖類となります。代表的な単糖類はブドウ糖や果糖で、二糖類には乳糖、多糖類にはでんぷんやグリコーゲンが該当します。単糖類以外の糖質はいずれも分解され、最終的にはブドウ糖になりエネルギー源として活用されます。また、一部は肝臓や筋肉などに一時保管され、空腹時にも持続的にエネルギーを供給できるようにします。

一方、炭水化物を構成する成分の一つである食物繊維はエネルギー源としての役割は殆どないものの、小腸から大腸までを通過しながら様々な効果を発揮します。消化の過程で、ブドウ糖・アミノ酸・脂肪酸などの栄養素は小腸で吸収されますが、食物繊維が小腸にとどまることで栄養素の消化・吸収時間を延ばし、血糖値の上昇を抑えます。また、食物繊維は大腸にある腸内細菌の中でも善玉菌といわれるビフィズス菌や乳酸菌が繁殖しやすい環境を作り、腸内環境を整えます。更に、不溶性の食物繊維は便の量を増やし、大腸の粘膜壁を刺激することで便通を整える効果もあります。

このように、炭水化物は単なるカロリー源ではなく、体を維持し整える役割も担う重要な栄養素です。しかし、主要エネルギー源である糖質はその摂取量に注意する必要があります。


糖質の不足・過剰摂取による問題

炭水化物のエネルギー量の殆どが糖質のものであるため、ダイエットをしようと思う人は炭水化物を極力取らないようにすることが多いです。しかし、他の栄養素と同じく、炭水化物(特に糖質)の不足・過剰摂取はどちらも健康に問題を引き起こします。

➤不足による悪影響

糖質摂取量が減ると供給されるグルコースの量も減少するため、各臓器に十分なエネルギー源が供給されず、動きが鈍くなってしまいます。特に脳のエネルギー消費量は1日消費エネルギー量の約18%を占めており、成人の脳は1日約120gのブドウ糖を消費するとも言われる、エネルギー消費量が最も多い部位です。そのため、ブドウ糖の供給が足りなくなると脳の活動が鈍くなり、集中力・思考能力の低下につながります。また、脳は他の器官に指示を出す器官でもあるため、エネルギー不足によって脳の機能が鈍くなると各器官の動きに悪影響を及ぼして様々な障害の原因にもなります。参考までに手足の震えやめまいのような身体的な問題や、不安感・眠気・イライラ・倦怠感・うつなど精神的な問題も、糖質摂取量の極端な減少が原因の一つである低血糖症の症状です。

➤過剰摂取による悪影響

一方、糖質の過剰摂取も様々な健康問題の原因となります。最も代表的な問題として肥満や糖尿病が挙げられます。

糖質が多い食事を摂ると、血糖値が急上昇します。そうなると、体は急に増えたエネルギー源を処理するためにインスリンを大量に分泌します。インスリンの役割は血糖値を一定に保つことですが、ブドウ糖を細胞に取り込んで使用・保管することで血糖値を正常範囲内に維持します。そして、インスリンは脂肪細胞にもブドウ糖を取り込むことができます。体はエネルギー源を効率よく使うために、余った分は捨てずに体に貯めておき、必要になった際に取り出して使用します。肝臓・筋肉・脂肪は代表的なエネルギー保存先ですが、肝臓と筋肉にはブドウ糖を合成し、すぐに使えるグリコーゲンという形で少量保存されます。肝臓と筋肉に保存できず余った分はインスリンによって脂肪細胞に取り込まれ、長期保存できる形に変化します。そのため、糖質を過剰摂取すると体脂肪量が増加することになります。

糖尿病の発症もこの仕組みの延長です。インスリンは血糖値の上昇に合わせて分泌されます。つまり、血糖値が高くなるとより多くのインスリンが分泌されるということです。しかし、急に多量のインスリンが必要になると、インスリンを作る膵臓に負担がかかります。これが継続されると膵臓の機能が低下し、インスリンをうまく分泌できなくなります。そうなると、多くなった血糖を処理することができずに血糖値が高くなり、体で保管できなくなった糖が尿に混ざって出るくらいまで血糖値が上昇します。これが2型糖尿病です。

他にも過剰な糖質はタンパク質の糖化を招き、老化を促進するとされているAGEs(異常タンパク質)を生成します。また、糖質の吸収にはビタミンBが必要であるため、多量の糖質摂取はビタミンB欠乏を引き起こす恐れもあります。次回のトピックでは糖質過剰摂取の原因となる行動や摂り過ぎに注意すべき食品について、具体的にご紹介します。

参考文献
1.「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」 文部科学省