押さえておきたい、「位相角」の基礎知識

InBodyの測定結果の中で、「位相角」という項目を見たことはありますか? これまで位相角は医療機器モデルでしか確認できませんでしたが、現在販売している非医療器モデル(InBody380N・InBody270S)でも確認できるようになり、身近な項目になりました。ただ、筋肉量や体脂肪量に比べて聞き馴染みもなく、複雑に感じる方も少なくないかと思います。今回は、私たちの健康状態を反映してくれる位相角についてご紹介します。


位相角とは?

位相角は、測定者の細胞がいかに丈夫か、健康であるかを反映する指標です。

細胞が丈夫で健康な状態であるほど、位相角の数値は高くなります。つまり、位相角が高いほど体の健康状態が良いといえます。近年では、位相角は筋肉の「質」を示す指標としても注目されており、健康状態や筋肉の質を総合的に確認できる、非常に活用しやすい項目です。

InBodyは、体内に微弱な電流を流し、そのときの電気の流れにくさ(電気抵抗値)などの情報から体成分を求めます。この微弱な電流が私たちの体内に存在する細胞を通過するとき、細胞を包む細胞膜が壁のように働き、電気が通りにくくなるために電気抵抗が生じます。これは、細胞膜が電気を通しにくい脂質が二重になった構造をしているためです。この、細胞膜で生じた電気抵抗値を反映した項目が「位相角」です。

細胞膜の状態が良いということは、脂質の二重構造でできている膜が丈夫であるということを意味します。その状態の細胞膜に電流を流した場合、電気抵抗値は大きくなり、その電気抵抗値を反映する位相角も高くなります。

細胞膜の状態が悪化してくると、脂質の二重構造も脆く弱くなります。その状態の細胞膜に電流を流した場合、電気抵抗値は小さくなり、その電気抵抗値を反映する位相角も低くなります。細胞の状態が悪化する理由は様々ですが、栄養不足や浮腫み、加齢、炎症などの影響を受けて細胞膜がダメージを受けると、それに伴って位相角の数値は下がります。


位相角で筋肉の量だけではなく「質」を観察

医療現場では、患者の重症度評価や、治療後の病状の見通しを考える際に活用されていますが、医療以外の場面でも十分に活用できます。位相角は、筋肉量だけでは把握しきれない、筋肉の「質」を反映する項目としても知られています。

私たちの身体は無数の細胞で構成されており、位相角はその細胞の数や大きさに比例します。そのため、細胞がひしめき合うような引き締まった筋肉を持っている状態では位相角が高く計測されます。

位相角には明確な基準値はありませんが、健康状態が良好であれば5°前後を示します。

▲ 健常者における位相角の平均値(男性n=11,200 女性n=11,511)

上のグラフは主に健診センター・整体院・フィットネス施設・公共施設で収集された、位相角の平均値です。このグラフから、位相角における下記の傾向が読み取れます。

・健常者の平均はおおよそ5°前後である
・体格に比例するため、女性よりも男性の方が高い数値が出やすい
・健常者であっても、年齢を重ねるごとに位相角は小さくなりやすい

位相角の数値は、1回の測定のみで評価するだけではなく、経時的に数値をモニタリングして変化を確認することが大切です。定期的に評価する際は、±0.2°以上の変化からが明確な変化と解釈できます。


位相角をモニタリングした実例: マラソンランナーの場合

下図は日頃から運動習慣のある成人男性の測定結果ですが、位相角は7.3°と非常に高く、運動によって鍛えられた、引き締まった筋肉が位相角にも反映されています。

しかし、同じ男性が100kmマラソンを完走した翌日に測定を行うと、位相角は0.6°も低下していました。これは、マラソンによって脚をはじめ全身に相当な負担がかかり、細胞にもダメージが及んだことが反映されています。実際に、酷い筋肉痛や浮腫みなどの自覚症状もありました。

マラソン参加後は体を休め、2週間後には完全に筋肉痛や浮腫みも解消し、運動を再開できるようになりました。このタイミングで測定を行うと、位相角は0.4°上昇し、マラソン実施前の状態に近づいていることが確認できました。

このように、位相角を確認することで見た目や筋肉量では分からない筋肉のダメージやその回復過程を観察できます。筋肉量や体脂肪量は増減を繰り返しながら少しずつ変化していき、変化として確認できるまでに3~4週間を要します。しかし位相角は、測定時の細胞膜の状態をそのまま反映するため、より短期間で増減が観察できます。


位相角を評価する際の注意事項

位相角を用いて体成分を観察、評価する際に気を付けたいポイントをご紹介します。

➤全身位相角=右半身での測定値
位相角は、BIA法が発明された当初から測定項目として存在しています。右腕・体幹・右脚の情報から全身の数値を求める過去のBIA法の特徴を引き継ぎ、現在も全身位相角は右腕・体幹・右脚に電流を流した際に得られる電気抵抗値から求めています。そのため、左腕や左脚に怪我や炎症などの特徴があると、その特徴が全身位相角に反映されない傾向があります。その場合は、部位別位相角で特定の部位の位相角を確認することをお勧めいたします。また、体の部位の中で最も短く太い体幹は、部位別位相角の中で最も高く計測される傾向があります。

▲ 部位別位相角(InBody580結果用紙内)
※部位別位相角を提供していない機種もございます。

➤電極の装着位置、機器メーカーや機種によって数値が異なる
位相角は筋肉量や体脂肪量のように臨床公式によって求められているのではなく、測定された電気抵抗値から直接求められているため、電極の位置や形状によって大きく変動します。例えば、電極を手の骨頭・くるぶしの下側に付けて測定したときに比べ、上側に付けて測定したときの位相角が1~2°程度大きく測定されます。そのため、BIA法の異なるメーカー同士の機器はもちろん、同じメーカーの製品同士でも電極の形状によって数値が異なります。位相角を評価する際には電極を正しい位置に接触させ、同一の機器でモニタリングすることが最も望ましい方法です。


終わりに

位相角の数値の変動には、様々な要因が影響します。位相角の数値を上昇させるには、質の良い筋肉を増やすことが重要です。適切な運動と栄養、休息を組み合わせて、より良い体成分を目指しましょう。筋肉量として変化が出るより先に、筋肉の状態変化を位相角が反映してくれているかもしれません。今後は、トレーニングの成果を「筋肉量」と併せて、筋肉の「質」を確認してみませんか。

まとめ
・位相角は「測定者の細胞がいかに丈夫か、健康であるか」を反映する指標
・体の健康状態と併せて筋肉の「質」を確認できる
・健常者の平均はおおよそ5°前後
・数値が低いほど状態は良好ではなく、高くなればなるほど良好であると判断できる