呼吸器疾患とは Part2: 感染症の予防法

前回のトピックでは主な呼吸器疾患についてご紹介しました。今回のトピックではそれらの予防法を、免疫力向上と体成分に着目してご紹介します。


免疫力と栄養状態、筋肉量の関係

呼吸器分野や栄養分野など、様々な分野で筋肉量の不足及び栄養不良が疾患の悪い予後と関連しているとの発表が相次いでいます。高齢の誤嚥性肺炎患者を対象に90日間の生存率を確認した研究¹⁾では、骨格筋指数(ASMI)を基に4群に分けた結果、ASMIが最も少ない患者群の生存率が他の3群より低く示されました。30日間のフォローアップ結果でも少ない筋肉量が死亡率の独立因子であると示されました。これは同じ肺炎患者でも筋肉量が少ない患者の予後がより悪化することを意味します。

※「Muscle Mass Loss Is a Potential Predictor of 90-Day Mortality in Older Adults with Aspiration Pneumonia」より引用・改変

他の研究では筋肉量が少ない患者を対象に栄養管理及び適切なリハビリが有効であることを示しています。生体肝移植患者を対象としたこの研究²⁾では術前骨格筋量の少ない患者群における術後短期間の生存率が、骨格筋量の十分な患者群の生存率より低く示されました。また、骨格筋量の少ない患者群において、術前後に栄養介入及び運動介入を受けた患者群と介入を受けなかった患者群の比較も行われましたが、介入を受けた患者群の生存率が有意に改善されていたことを確認しました。

このように筋肉量の維持及び栄養管理が回復に欠かせないという点は継続的に示唆されてきました。そのため、身体活動が自由にできて筋肉量の管理が可能な人は日頃から管理しておくことが重要であり、入院などによって筋肉量の管理が難しい人は栄養管理を徹底的に行うことがその後の回復に必要不可欠であることを意味します。アメリカやヨーロッパでは、新型コロナウイルス患者の治療の最前線とも言われるICUにおいて、管理栄養士の役割が非常に重要であるという話も紹介されており³⁾、いかなる致命的な疾患でも栄養管理が治療における有効手段であることが分かります。

高齢者は特に疾患がなくても筋肉量が減少しやすくなりますが、疾患による栄養状態の悪化及び運動不足が重なると筋肉量の減少に拍車がかかり、疾患がより悪化してしまう悪循環に陥ります。従って、入院治療中の高齢者は静脈経腸栄養療法を含む様々な栄養介入を用いて筋肉量の減少を抑え、栄養状態を維持または改善させる必要があります。食道切除手術を受けた患者を対象にタンパク質を中心とした早期栄養療法を実施した結果、早期栄養療法を受けた患者群は体重及び除脂肪量が維持でき、術後90日の身体機能点数も高く示されるなど、早期回復と予後の好転を報告しました⁴⁾。これは患者の状態を改善することにおいて、適切かつ迅速な栄養供給が大きなメリットであることを示します。

※「COVID-19 Comunicado Técnico Diario」より引用・改変

低い筋肉量以外に、肥満や糖尿病などの生活習慣病の有無も呼吸器疾患の予後と関連しています。メキシコで発表されたCOVID-19の死亡者に関するデータ⁵⁾では、生活習慣病の基礎疾患としても代表的な高血圧・糖尿病・肥満症の疾患を持つ方の割合が高いことが報告されました。これらの疾患は珍しい疾患でもなく、一つでも発症すれば他の疾患が合併症として併発することもあるため、日頃の体調管理が重要です。肥満患者の場合、過剰な脂肪細胞が炎症反応を促進させ、免疫系がうまく働かないようになるため、適切な運動と食事管理で体脂肪量を減少させることが免疫力向上に役立ちます。
※免疫系の詳しい情報はInBodyトピックの「免疫力を高める方法」をご覧ください。


感染しない・感染させない方法

成人の場合、1分間で約12~20回呼吸をします⁶⁾。1日だと約17,300~29,000回呼吸するということになります。この数値は呼吸器疾患の原因となる病原体が侵入できる回数とも言えるでしょう。勿論、感染を避けるために呼吸を止めることはできず、多くの危険にさらされているからこそ、人体の免疫系も様々な方法でしっかりと体を守っています。しかし、どれほど免疫系が強くても防ぎきれない大量の病原体が侵入してきたり、疲労などによって体が少し弱っている隙に侵入してきたりすると防御することが極めて難しくなります。そのため、免疫力を向上しつつ、できる限り病原体が侵入できないようにすることが大事です。では、日常的に可能な呼吸器疾患の予防法を見てみましょう。

icon-caret-right人が密集しているところや密閉空間を避ける

呼吸器疾患の感染経路は飛沫・接触感染が最も一般的です。感染者の飛沫に混ざっていた病原体がしばらく空気中に残り、それらを呼吸によって吸い込み人体への侵入を許してしまうため、換気があまりできていない密閉された室内はなるべく避ける方が良いです。また、外でも多くの人が集まっているところではお互いの距離が近く、飛沫感染の可能性も高くなりやすいので注意が必要です。

もし風邪やインフルエンザに罹った状態で止むを得ず、人が多いところまたは密閉されている空間に滞在しなければいけない場合はマスクを着用しましょう。マスクでウイルスの拡散を完全に遮断できるわけではありませんが、自分の飛沫に混ざっているかもしれないウイルスをばらまくことを防ぐので、他の人にウイルスをうつしてしまう心配は減らすことになります。

家庭内または室内の定期的な換気も予防に有効です。院内感染予防に関する資料によると、約20帖(約33m²)の面積であれば1時間に3回、1回に2~4分程度の換気で十分とされています⁷⁾。もちろん、室内が乾燥していると空気中にウイルスが舞いやすくなるので湿度管理も忘れずに行うことも重要です。室内の湿度は50~60%が望ましいです。

icon-caret-right手洗い

殆どのウイルスは接触での感染が一番多いです。特に、様々なものに触る手は最も細菌が付着しやすい部位です。食中毒の病原体の一つであるノロウイルスに関する発表によると、手を洗っていない時と石けんで2回手洗いをした時を比較したところ、石けんで2回洗ってペーパータオルでふき取った手には殆ど細菌が残っておらず、残存細菌数が明らかに異なっていたことを報告しました⁸⁾。

不特定多数の人が触っていたであろう手すりやつり革、ドアノブなどを触った手で顔を触ることにより、手に付着していたウイルスが体内に侵入する可能性が高まります。従って、手に付着したウイルスを除去することがウイルスの感染率を下げることに繋がります。そして、殆どのウイルスは石けんやアルコール消毒液に含まれている界面活性剤に弱く、呼吸器疾患の病原体も同じなので正しい手洗いとアルコール消毒は感染性呼吸器疾患の予防に効果的です。厚生労働省のホームページでは正しい手洗い方法及び消毒方法を公開しているので、ぜひ実践してみてください⁹⁾¹⁰⁾。

icon-caret-right十分な休養・栄養摂取・水分摂取

これらは殆どの疾患に通用する予防策です。十分な休養は体の免疫機能を向上させ、疾患が発症する前に免疫系が病原体を処理できる状態にします。特に、細胞の修復を含む人体の回復作用は寝ている間に最も活発に行われます。そのため、睡眠不足は免疫力の低下だけでなく、高血圧や糖尿病、心血管疾患などのリスクも高めます。逆に言うと、十分な睡眠を取ることで様々な疾患の発症リスクを下げることができ、体が回復できるようにすることで免疫力の向上にも役立つと言えます¹¹⁾。

十分な栄養摂取は病原体に対抗できる体力をつけるために重要です。また、体は様々な方法で損傷した細胞を回復させますが、疲労が溜まったり栄養が足りなかったりすると回復速度も遅くなってしまいます。どれだけ効果のある薬も、病原体に作用はしても、病気・疾患によって弱った体力までを回復させることはできません。体力が落ちた状態のままでは、新たな病原体の侵入を防ぐこともできません。

適切な水分補給も大事です。感染性呼吸器疾患で共通する症状には発熱があり、発汗・発熱によって脱水状態になりやすく、血液循環も悪くなりやすいです。また、のどの粘膜が乾燥しているとウイルスが付着しやすくなりますが、こまめに水分を補給することで脱水と粘膜の乾燥を防ぐことができます。

一番大事なことは病気にならないようにすることですが、ウイルスの侵入を100%防ぐことは難しいので、病気になっても回復できるような状態を心掛けることが重要です。つまり、十分な休養と栄養摂取を欠かさずに、免疫力を高めることが必要というのは間違いないでしょう。


終わりに

呼吸は生命維持に欠かせない活動です。そのため、呼吸器疾患は誰にでも感染するリスクがあり、一旦感染してしまうと周囲の人間を感染させてしまうことにも繋がります。また、有効な治療法がない場合も多いですが、日常的にできる予防方法を行うことで感染することも、感染させることも減らせます。

COVID-19の流行で全世界が深刻な状況に陥っています。このことをきっかけに、感染症の予防策を徹底してみてはいかがでしょうか。些細なことのように思われるかもしれませんが、自身と家族、周りの人を守ることに繋がるかもしれません。

 

参考文献
1. Muscle Mass Loss Is a Potential Predictor of 90-Day Mortality in Older Adults with Aspiration Pneumonia. Keisuke Maeda, Junji Akagi. J Am Geriatr Soc 2017 Jan;65(1):18-22
2. Impact of Sarcopenia on Survival in Patients Undergoing Living Donor Liver Transplantation. T. Kaido, K. Ogawa et al., American Journal of Transplantation 2013 Jun; 13(6):1549-56
3. 「What are dietitians doing as part of the COVID-19 response?」 BDA The Association of UK Dietitiansホームページ
4. Effect of Early Full-Calorie Nutrition Support Following Esophagectomy: A Randomized Controlled Trial. Wei Wu, Ming Zhong et al., Journal of Parenteral and Enteral Nutrition 2017 Sep;41(7):1146-1154
5. COVID-19 Comunicado Técnico Diario, JUEVES 2 DE ABRIL DE 2020
6. 「呼吸器Q&A」一般社団法人日本呼吸器学会ホームページ
7. 「施設内感染対策相談窓口」日本感染症学会ホームページ
8. 「ノロウイルスによる食中毒の状態と対策について」厚生労働省
9. 「感染症対策」厚生労働省
10.「手洗いで感染症予防」厚生労働省、国立感染症研究所
11. InBody トピック「疲労と回復のメカニズム

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