島田療育センター
-重症心身障害児(者)の栄養管理に必要不可欠なInBody-
✓InBodyを活用する目的
● 体重変動の「中身」(筋肉量・体脂肪量・水分バランス)を把握するため
● 病棟スタッフの感覚を数値化し、根拠を持って多職種や家族へ説明するため
● 一時点の評価ではなく経過として変化を追い、個別の栄養管理方針を決定するため
✓InBody S10導入の決め手
● 体重だけでは追えない筋肉量・体脂肪量・水分状態を客観的に評価できる点
● 測定データをグラフで経過管理することで、変化のパターンが把握できる点
✓得られた効果
● NSTや多職種連携の場で共通指標として活用でき、方向性の決定に役立った
● 体重増減の「中身」が分かることで、根拠を持った栄養介入方針の決定が可能になった
● 隠れ肥満や浮腫など、体重だけでは見落としがちな状態を早期に把握できるようになった
● スタッフや家族への説明に具体的な数値を示せるようになり、納得感のある指導が実現した
機種モデル:InBody S10
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島田療育センターは、1961年に日本で初めての重症心身障害児(者)(以下、重症児者)施設として東京都多摩市に開設され、60年以上にわたり地域の療育を支えてきました。小児期から成人期、さらには高齢期に至るまで一つの施設で継続的に支援を行う 「児者一貫の医療・療育」 を運営の軸とし、入院・外来に加え、通所・訪問まで幅広い形で支援を行いながら、重症心身障害や発達障害のある利用者一人ひとりと向き合っています。
栄養科科長の小林 弘治さんは1993年に専門学校を卒業後、杏雲堂平塚病院に入職し、約10年間の勤務を経て2004年に島田療育センターへ移り、2020年より栄養科科長を務めています。現在、栄養科では小林さんが中心となり、給食業務は委託としながらも233名の入所者全員の栄養管理を担っています。入職当初は施設としての栄養管理に関するマニュアルが十分に整っていなかったことから、当時の院長より栄養管理体制の構築を任されたことをきっかけに、一から体制を整えてきました。その後、外部の学会や栄養士会にも積極的に関わりながら知見を積み重ね、現在の栄養管理体制を築いてきました。
▲ 小林 弘治さん
小林さん:
「以前の職場では、主にがん患者の栄養管理に携わっていました。その中で、治療を支える栄養管理だけでなく、より生活に寄り添った形で栄養に関わりたいという想いを持つようになりました。そんな中、養成校時代の恩師から当センターを紹介していただいたことが転機になりました。島田療育センターは日本で初めての重症児者施設であるということも、ここへ来た理由の一つです。」
体重変化の中身を確かめるためのInBody
島田療育センターでは、2014年にInBody S10を導入しています。
▲ InBody S10と小林さん
小林さん:
「体重が減少したときに、筋肉量と体脂肪量のどちらが減っているのかを把握することが重要だということは知識として持っていましたが、それが実際のデータで目の前に見えると栄養管理の根拠になります。体重を減らすといっても筋肉量が減ってしまうのでは意味がないのではと思っていたため、InBodyで体重変動の中身を見ることが一番の目的でした。InBodyがなければ、体重だけを見て 『食事を増やしましょう』 と判断してしまいがちですが、InBodyがあることで、何が減っているのか、何が増えているのかを明確な根拠に基づき説明をすることができます。これは、私自身だけでなく、利用者や担当スタッフ、ご家族にとっても、安心材料になっていると感じています。」
InBodyは新入所時に測定し、その後は定期的に測定するのではなく、体重に大きな変化がみられたときや、NSTで栄養状態を確認する際など、必要に応じて測定を行っています。体重に変化があった際は健康状態に何かしらの大きな変化が生じている可能性があるからこそ、そのタイミングでInBodyを測定し、体重の変化が筋肉量や体水分量、体脂肪量など、どの成分によるものなのかを確認することが重要だと考えています。
小林さん:
「重症児者の場合は、1回の測定結果だけで評価するのではなく、複数回測定して体成分の経過を追う相対的評価によって、より有効に活用できるのではないかと考えています。また、測定結果は過去の測定結果とつなげる形で、一人ひとり自作のExcel(エクセル)にまとめ、グラフで経過を追うことでその人の体成分の特徴や変化のパターンが分かり、体重の変化だけでは捉えにくい身体状況の変化を把握することにつながりますので、そこが大切だと思っています。」
▲ 小林さんが作成しているInBodyの経過グラフ
重症児者のInBody測定では、測定姿勢や接触条件などを整えることで問題なく測定できる場合がある一方、身体の変形や拘縮、不随意運動などにより、安定した測定条件を整えることが難しく、エラーを完全に避けられない場合もあります。そこで、正常に測定できた結果だけでなく、エラーが生じた場合も測定記録として残し、エラーが生じた部位や、腕・脚が曲がった状態での測定など、その時の姿勢や測定条件についても記録しています。
体成分の評価では、1回の測定結果だけで状態や変化を判断するのではなく、過去の測定結果とあわせて、測定時の条件やエラーの発生状況を経時的に確認することが重要になります。特に、エラーが発生している箇所やインピーダンスの逆転程度が小さければ、測定値への影響が小さい場合もある一方、複数部位でエラーが生じた場合や逆転程度が大きい場合には、測定値の信頼性に影響します。そのような違いについても、継続的に記録しているからこそ把握することができます。重症児者では、全ての測定を理想的な条件で実施することが難しい場合がありますが、エラーとなった測定結果を単に除外するのではなく、エラーの部位や状況も含めて継続的に記録し、その情報を次回以降の測定に活用していくことが重要です。
また、病棟ではスタッフが日々のケアを通して 「最近少し重くなった気がする」 「腹囲がきつくなった」 「脚がむくんでいるように感じる」 といった身体の変化に気づくことがあります。こうした日常の感覚はInBodyで数値として可視化することで裏付けられ、スタッフ間での共有や日々のケアに役立っています。
小林さん:
「浮腫がある場合、体内の水分量が増加することで、InBody上の筋肉量が見かけ上増加することがあります。そのため、筋肉量と細胞内水分量・細胞外水分量および細胞外水分比(ECW/TBW)を合わせて確認し、水分状態の変化を考慮して筋肉量を評価するようにしています。また、浮腫の評価はInBodyだけでなく、血液検査などと組み合わせて総合的に判断しています。特に寝たきりの方の場合、浮腫が多くみられ、そういった場合、筋肉量が増加していても良い結果とは言えません。」
筋肉の主な構成成分は体水分であることから、体水分量の増減に伴って筋肉量も一緒に増減します。つまり、浮腫が生じている状態で測定を行うと、筋肉内に余分な水分量が蓄積していることから筋肉量が多く算出されます。筋肉量の変化を見る際には、数値だけで判断するのではなく、体水分の状態も合わせて確認することが重要です。
※浮腫における筋肉量の評価に関してはトピック 「体水分均衡の特徴と重要性」 をご覧ください。
InBodyの測定結果は 院内で使用している「栄養スクリーニング・アセスメント表」 にも組み込まれ、他の臨床データと合わせて一人ひとりの栄養状態を評価する際に活用されています。栄養スクリーニングではMUST(Malnutrition Universal Screening Tool)を用いてBMIや体重減少率、急性疾患の有無からリスクを判定し、低栄養の診断にはGLIM(Global Leadership Initiative on Malnutrition)基準を用いて評価しています。
一方、重症児者は病態や身体状況によって一般的な基準を一律に当てはめることが難しい場合があります。重症児者における下腿周囲長やSMIの報告はまだ限られており、今後は特性に応じた評価基準やカットオフ値について、さらなる検討が必要です¹⁾。
▲ 使用されている栄養スクリーニング・アセスメント表
現状維持を目指す栄養管理
重症児者は、身体状況によって体成分に大きな個人差があります。歩行・座位可能な方や筋緊張が強い方は筋肉量が比較的多い一方、寝たきりの方では体脂肪量が多いこともあります。そのため、体重やBMIだけで栄養状態を判断することは難しく、一人ひとりの体成分の変化を見ながら管理することが重要です。
実際に、島田療育センターの2025年度のInBody測定結果からは、男女別・活動レベル別に体成分傾向の違いが見られます。同じBMIでも運動能力により体成分にかなり違いがあります。また、ECW/TBWは男女ともに活動レベルが低いほど高い傾向があります。
▲ 2025年度 InBody測定結果まとめ
小林さん:
「重症児者の栄養管理は 『特殊で難しい』 と捉えられることが多いですが、基本的な考え方は他の栄養管理と大きく異なるものではありません。初めは私も難しいのかと思っていましたが、実際に継続して栄養管理を行う中で、摂取エネルギー量を調整すれば、それに応じて体重も増減するという基本的な原則は変わらないことを実感しています。重症児者では、活動量や疾患、身体状況など考慮すべき因子が多いと言われることもありますが、活動係数やストレス係数を対象者ごとに丁寧に検討するという点では、急性期患者や高齢者に対する栄養管理と基本的な考え方は変わりません。入所者233名の栄養管理方法は233通りで個人差がとても大きいのは確かですが、だからこそ画一的な基準を当てはめるよりも、個人個人でデータを蓄積して経過を管理する方が有効と考えます。」
重症児者は身体機能向上が難しいため、栄養管理では 「現状を維持すること」 が一つの大きな目標になり、InBodyの経過データはその状況を可視化する重要な手段となっています。実際、学校でBMIが低いことを理由に体重を増やすよう指導されていた外来の子どもをInBodyで測定したところ、筋肉量が少なく体脂肪量が多い 「隠れ肥満」 の状態であることが確認されたケースもありました。
小林さん:
「活動量が少ない状態で摂取エネルギー量を増やしても体脂肪量が増えて体重増加となってしまいます。そのため、体重を増やすことが必ずしも栄養状態の改善ではないことを説明し、その根拠として測定結果をご家族に示すことで、学校の指導とは異なる方針についても理解を得られることができます。このように、BMIだけでは判断できない体の中身を根拠として伝えられるのが、InBodyの大きな強みです。」
また、外来に通う知的障害児に対して、InBodyの測定結果をもとに通っている学童施設で体幹を鍛えるよう指導したところ、体幹の筋肉量の増加が確認されました。その後、コロナ禍で運動ができなくなった期間には再び筋肉量が低下し、取り組みの効果と生活環境の変化が数値として明確に表れた事例でした。
小林さん:
「努力したら努力した分だけ結果に出て、サボったらサボった分が数値に表れる。こうして状態を数値で経過として見られるので、説明もしやすいし、指導の根拠にもなります。」
一人ひとりの身体状況に合わせた測定の工夫
重症児者を測定する際には、一般的な測定とは異なる対応が必要になる場面も多くあります。島田療育センターでは、一人ひとりの身体状況に合わせて工夫しながら測定を行っています。
小林さん:
「測定中にどうしても身体が動いてしまう方は、車いすに乗ったままの方が姿勢を安定させやすい場合があるため、車いすのままスタッフが体を支えながら測定します。拘縮がある場合には、無理に姿勢を変えるのではなく、拘縮した状態のまま測定し、その旨をコメントとして記録しています。どちらの場合も、できる限り脇や脚の間をあけ、身体同士が接触しないよう注意しています。
また、何度再測定を行ってもエラーが出てしまう場合には、『エラーあり』 とコメントを付けたうえで、その結果も記録として残していますが、測定結果が前回と大きく異なる場合は別日に再測定を行っています。体動が大きく安静を保つことが難しい方では、脳波検査時に睡眠薬を使用するタイミングに合わせてInBody測定を行うこともあります。そのほか、足首が細く装着式電極では十分に挟むことが難しい場合には、付着式電極を使用するなど、それぞれの身体状況に合わせた方法で測定を行っています。」
重症児者の体成分の傾向
重症児者の体成分には大きな個人差がありますが、長年のデータ蓄積から、いくつかの傾向が見えてきています。
小児では、筋緊張がある程度保たれている場合、成長に伴う体重増加は比較的正常発達に近く、体脂肪量はあまり増えず、主として筋肉量の増加によって体重が増加していく傾向がみられます。一方、筋緊張が弱い場合には成長に伴って体重は増加するものの、その中身は筋肉量の増加ではなく体脂肪量の増加によるものであるケースが多く見られます。
▲ 代表的な小児の結果事例(2ケース)
成人では、体重の推移から大きく分けて、体重が安定しているケース・体重が減少するケース・体重が増加するケースの三つに分けて考えることができます。体重が安定している場合には、摂取エネルギー量と消費エネルギー量が概ね釣り合っていると考えられ、現在の摂取量がその方にとって適正な必要エネルギー量である可能性があります。しかし、体重減少と体重増加のケースには注意が必要です。体重減少は、摂取エネルギー量が不足している可能性を示す一方で、筋肉量の減少や体脂肪量の減少など、どの体成分が変化しているかを確認することが重要です。また、体重増加についても、筋肉量の増加によるものなのか、体脂肪量の増加によるものなのかによって、その意味は異なります。
小林さん:
「例えば、体重が減少している場合、体脂肪量だけでなく筋肉量も一緒に減少しているケースでは、単純に摂取エネルギー量を増やすと、筋肉量の減少に伴いエネルギー消費量が低下しているため体脂肪量の増加につながる可能性があります。そのため、体重減少の背景にある体成分の変化を確認したうえで、摂取エネルギー量を増やすのか、運動やリハビリテーションとの連携を図るのかなど、対応の方向性を検討することが重要です。また、体重が増加している場合、筋肉量による増加の場合であっても、浮腫が生じているケースには注意が必要です。体重だけを見ていると、単に体重が増加したと判断してしまいますが、InBodyでECW/TBWを確認することで、実際には純粋な筋肉量が増加しているのではなく、浮腫によって体水分量が増加しているだけという可能性を捉えることができます。特に寝たきりの方では、このような体水分量の変化が体重に影響しやすいため、体成分の推移を評価するうえでも欠かせない重要な視点となります。したがって、重症児者の栄養状態を評価する際には、体重の増減だけで判断するのではなく、筋肉量・体脂肪量・ECW/TBWなどの体成分の変化を確認することが重要です。InBodyを用いて体重の 『中身』 を把握することで、体重変化の背景をより適切に評価し、その方に応じた栄養管理の方向性を検討することができます。」
▲ 代表的な成人の結果事例(3ケース)
終わりに
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小林さん:
「私が最も取り組みたいと考えているのは、小児期から体成分の測定を継続し、栄養管理やリハビリテーションを行うことで、体成分がどのように変化していくのかを長期的に見ていくことです。現在、当センターでは体重がどのように変化してきたかというデータは蓄積されているのですが、リハビリをしたからこうなった、栄養管理をしっかり行ったからこうなったという介入の効果をきちんと示せるデータはまだ十分ではありません。そこを長期的に追っていければと思っています。」
もう一つの課題が、入所者の高齢化への対応です。島田療育センターは日本で初めての重症児者施設であり、入所者の高齢化もいち早く経験することになります。医療の進歩とともに60〜70代になった重症心身障害者のサルコペニアやフレイルへの対応にはまだ前例がなく、これから模索していくことになります。高齢者の栄養管理では、「リハビリテーション・口腔・栄養」 の三位一体の取り組みが重要視されており、それらも参考にしながら取り組みを進めていく方向性を見据えています。
小林さん:
「これまで多くのデータが積み上がってきているので、今後はこれらのデータを活用して、重症児者における体成分の経時的評価の有用性を示す論文にも取り組みたいと考えています。重症児者の栄養管理において、InBodyを使って体成分の変化を継続的に追い続けることが、個別の栄養管理の精度を上げることに繋がると実感しています。こうした相対的評価・経時的評価の重要性をデータとして示し、広く伝えていきたいです。」
参考文献
1. 小林弘治. 栄養アセスメント.臨床栄養 147 (4) 414-421, 2025.