徳島文理大学:S10編
-InBodyを多角的に活用する-

機種モデル:InBody S10

徳島文理大学は1895年に私立の専修学校として設立され、2025年に創立130周年を迎える歴史のある大学です。現在は9学部・27学科からなり、専門性の高い教育・研究活動を推進しています。保健福祉学部は、保健・医療・福祉の分野において、それぞれの専門的知識と技術を身に付けながら包括的(総合的)に仕事ができる専門職を養成します。その中でも理学療法学科は理学療法士の育成に特化した学科で、保健・医療・福祉の現場で使用する様々な機器に触れながら、評価方法や治療技術などを学べます。信頼される理学療法士になるため、専門職としての技術や知識の習得はもちろん、理学療法に対する確固とした理念や哲学についての学びも大事にしています。

▲ 鶯 春夫先生

保健福祉学部 理学療法学科の鶯 春夫先生は、 ”健康寿命を延ばす” ことをテーマにフレイルやサルコペニア予防に取り組み、地域活動・臨床指導・大学での教育でInBodyを活用しています。鶯先生は1986年に理学療法士免許を取得後、高田整形外科病院のリハビリテーション科で1年間、医療法人橋本病院で23年間理学療法士として勤めました。2010年4月に徳島文理大学で理学療法学科が新設されるにあたり、鶯先生は理学療法士免許のほかに医学博士課程も修めていたことから大学より声が掛かり、学科新設以降は徳島文理大学で教鞭を執っています。

鶯先生は2014年度から徳島県理学療法士会の会長も務められており、県内での地域活動の一つとして ”いきいき百歳体操 徳島版” の動画監修を行って、徳島県民の介護予防の啓発にも貢献しています。動画は筋力づくり編が30分、認知機能改善編が10分で実施できる内容で構成されており、徳島県下のすべての市町村の通いの場で実施されています。鶯先生の様々な活動が評価され、令和2年度では徳島県表彰を、令和3年度では厚生労働大臣表彰を受賞しました。

▲ いきいき百歳体操 徳島版 (筋力づくり編詳細説明付き40分)

鶯先生:
「私自身の高校時代はテニスに明け暮れており、体育の先生になることも考えていました。しかし、親戚の勧めがあったことと、今後の日本ではますます医療従事者の需要が高まっていくことを見越して、理学療法士という職に進むことを決めました。私が持つ理学療法士の知識や技術は、障害を負った人だけではなく、子どもから高齢者まで全ての人に提供したいと考えています。私の夢は、徳島県を日本一長寿な県にすることです。現在は介護予防や健康増進に力を入れ、地域活動や未来の理学療法士を育てるために大学で講義を行っています。」


InBody S10を用いて、地域活動を行う

▲ 地域活動や研究でも活用するInBody S10

鶯先生は地域活動を行う中で、運動機能の評価(握力・歩行速度など)はできても、筋肉量の評価ができないことに課題を感じていました。そこで筋肉量を評価する方法を探していたところ、InBody と出会い、2010年にInBody230(InBody270の前身)を導入しました。

鶯先生:
「InBody230は筋肉量を測定できることはもちろんですが、持ち運びができるため、地域においても負担なく活用することができました。地域高齢者をInBodyで測定したところ、右脚の筋肉量が少ない、体幹の体脂肪量が多いなど、体成分を数値で確認できて地域高齢者にも分かりやすい内容だったため、評判も良かったです。運動機能の評価と合わせて、筋肉量や体脂肪量の評価を行えるようになったので、地域高齢者への指導においても納得していただけることが増えました。」

地域活動の成果もあり、InBodyで測定したデータを研究でも活用していくこととなったため2019年にInBody S10を導入しました。周波数が2種類(20,100kHz)から6種類(1,5,50,250,500,1000kHz)に増えることで、結果として表示される項目も増え、より詳細に体成分を評価できるようになりました。

鶯先生:
「現在はInBody S10を地域活動などで活用しています。家に閉じこもりがちな高齢者は、住民主体の交流の場所である “通いの場” に週1回参加するだけでも、運動機能やInBodyの測定結果が十分良くなります。しかし、中にはなかなか好転しない方もいます。原因を追究すると、運動の負荷が十分でなかったり、サルコペニアである方はそうではない方と同様の運動をしても効果が見られないことが分かってきました。InBodyでは骨格筋量を測定することができるため、簡単にサルコペニアの可能性を確認できます。サルコペニアと疑われる方には、運動指導に加えて栄養指導を行うことで、より効果的な介護予防が期待できそうです。」


地域活動から健康寿命を延ばす

▲ 地域高齢者が通いの場で ”いきいき百歳体操 徳島版” を行う風景

2019年における日本の平均寿命と健康寿命は、 ”男性9年・女性12年” の差があることが大きな問題となっています¹⁾。今後は介護が必要な高齢者が増えることで、社会全体に大きな影響を与えることから、治療医学だけでなく予防医学を充実させることが重要です。予防医学を充実させることは、結果として健康寿命を延ばすことにも繋がります。

鶯先生:
「2022年に鳴門市は三菱総研ご協力のもと、様々な事業の効果検証を行いました。通いの場に参加する高齢者と通いの場に参加しない高齢者の、1年間の医療費及び介護費の差がどれくらいあるのかを調べたところ、通いの場に参加している高齢者では1年間で医療費は約10万円、介護費は約20万円の削減に繋がっていることが分かりました。通いの場に高齢者が1人参加するだけで、約30万円の費用削減に繋がる計算になります。鳴門市ではすべての通いの場で “いきいき百歳体操 徳島版” を行っているため、この体操の効果もあると考えます。現在はこの調査結果をもとに、多くの地域で体操を主体とした通いの場が広まるよう働きかけています。」

※三菱総合研究所 アンケート調査より引用・改変   

▲ 鳴門市民の社会保障費の比較 (通いの場 参加無し vs 参加あり)

鶯先生:
「厚生労働省は2018年度時点で5.7%だった通いの場に参加する高齢者の割合を、2025年までに8%に引き上げるという目標を掲げています²⁾。徳島県ではまだまだ参加率は上がっていませんので、加速度的に増やしたいと考えています。単なるご当地体操では熱しやすく冷めやすいため、 ”いきいき百歳体操 徳島版” を普及啓発していく際は、この体操には運動機能の改善効果があることをしっかりと伝えることが重要です。そのため運動機能の評価やInBodyの結果を定期的に見せることで効果を実感いただき、通いの場への参加を継続してもらえるようにしたいと思っています。」


InBody S10を活用した臨床指導・大学内での講義

鶯先生は、InBody S10を地域活動だけではなく、臨床指導や大学内での講義でも活用しています。

鶯先生:
「病院や大学などから共同研究の依頼があった際に、共同研究先の職員に向けて研究の基礎やInBodyの測定方法、測定結果の活用方法を指導することがあります。特にサルコペニアやフレイルをテーマとすることが多いため、骨格筋量について詳しく指導しています。今までは運動機能に関する評価が中心でしたが、骨格筋量まで把握できるようになったことで研究の根拠が強くなり、非常に助かっています。私たちは地域貢献・医療発展の視点から、学外の先生方との共同研究をいつでも受け付けており、無償でInBodyの貸出も行っているため、これからInBodyを使うところも増えてくると思います。」

▲ InBody S10を活用した学内講義の様子

鶯先生は大学で地域理学療法学や運動療法学を担当しており、高齢者のフィールドを想定したInBody測定方法や、直接体に触れて行う徒手療法などについて指導しています。ゼミ生には実際の地域活動で、地域高齢者の運動機能評価やInBody測定を担当してもらいます。

鶯先生:
「地域理学療法学という授業では、地域活動でも実際に活用できる様々な評価方法を教えています。その中の一つに筋肉の量や質を評価する手法としてInBodyを紹介しています。実際の地域活動でもゼミ生だけでInBodyの測定が行えるように指導しています。授業で初めてInBodyのことを知ったという学生が多いですが、簡単に筋肉量などの体成分を測定できることや細胞外水分比(ECW/TBW)を見ることで筋肉量が純粋に増えているのか、浮腫によって増えているのかなども判断できるということに驚いています。ECW/TBWは加齢に伴って高くなる特徴がありますが、学生同士の測定を行う中で、自身のECW/TBWが同年代と比べてやや高い傾向であることに気付けた学生もいます。我々も実際に地域活動でInBodyを活用しているので、学生たちにも筋肉の量や質を簡単に評価できる一つの有効な手段として、InBodyを伝えていきたいと思います。」


今後について

鶯先生:
「InBodyは骨格筋量を測定できることから、サルコペニアのスクリーニングで全国的・世界中で活用されています。InBodyは測定自体も簡単に行え、持ち運びができる点が非常に優れていると思います。今後も地域活動でInBodyを活用し、徳島県内でまだInBodyを導入できていない市町村や様々な病院にもInBodyの活用方法を紹介していきたいと思います。

健康になるためには運動だけすれば良いと考えている人がまだまだ多いですが、運動だけでは不十分なことも多く、栄養面の改善も重要と考えています。筋肉量を増やしたり運動機能を高めたりするためには、まずは今の身体の状態を数値化して正しく評価すること、そして評価の結果、栄養面の改善も同時に進める必要性があることも学生のうちから学んでほしいと思います。これからも積極的に地域活動を行う理学療法士を増やし、徳島県を日本一長寿な県にすることを目標に頑張りたいと思います。」

同大学の日岡 明美先生の記事はこちらよりご覧ください。日本で最初にInBody BWAを導入した先生で、主に研究でInBodyを活用しています。

参考文献
1. 厚生労働省, 健康寿命の令和元年値について. 2021
2. 厚生労働省, 一般介護予防事業等の推進方策に関する検討会取りまとめ. 2019