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第一生命グループ 女子陸上競技部 -選手の主体性を引き出す育成方法-

機種モデル:InBody570

第一生命グループ女子陸上競技部は東京都・世田谷区にホームグラウンドを持つ、主に実業団の陸上長距離で活躍する陸上チームです。1990年に創設されたこのチームは、実業団の女子駅伝における日本一を決める大会の全日本実業団対抗女子駅伝競走大会(クイーンズ駅伝)で過去に2回優勝したことがあります。2020年東京オリンピック女子マラソンの強化コーチを務めた山下 佐知子監督のもと、「一人前の陸上選手に、そして一人前の社会人になろう! 」を指針に日本を代表するランナーの育成に力を入れています。2021年7月時点で平均年齢20歳の若い選手が11名所属しており、これからの活躍も期待できるチームです。


選手が掲げる目標に導く存在

▲ 林田 あやさん

管理栄養士の林田 あやさんはチームの専属栄養士として、選手の練習内容に合わせた献立作りを担当しています。林田さんは2000年シドニーオリンピックでマラソンの高橋 尚子選手が金メダルを獲得した際、そのチームで貢献した管理栄養士の存在を知り、管理栄養士として陸上長距離に関わりたいと考えるようになりました。中学・高校では陸上部に所属し、大学は管理栄養士の資格を取得するために、関東学院大学に進学しました。大学ではマネージャーとして男子陸上競技部に所属し、学部で学んだことを活かして選手に試合前や暑い時期の食事摂取に関するアドバイスをしていました。卒業後は保育園や帝京科学大学の柔道部に勤務し、献立作成から発注・調理までを担当、2018年に現在のチームに専属管理栄養士として就任して、今年で4年目を迎えます。
▲ 左から田中 智美コーチ、原田 紋里選手、古川 結美選手、櫻川 響晶選手、木村 亮太コーチ

コーチである田中 智美さんと木村 亮太さんは、監督が作成した練習メニューの指導の他、ウエイトトレーニングの立案・走る技術の指導・メンタルケアなど、多岐に渡って選手をサポートしています。元長距離選手の田中コーチは2010年に第一生命グループに入社し、2016年リオデジャネイロオリンピックに女子マラソンの代表選手として出場しました。2019年に選手を引退した後、一般社員として広報部で勤務しながらアドバイザーとして競技の指導にも携わり、2021年4月からコーチに就任しました。木村コーチは学生時代に東京国際大学男子駅伝部のマネージャーとしてチームに貢献し、卒業後は陸上競技のコーチングに関して専門性を高めるため筑波大学大学院に進学しました。体育学の修士学位を取得後、田中コーチと同時期の2021年4月に陸上競技部のコーチとして就任しました。現在は監督を始めとして、ゼネラルマネージャー・マネージャー・コンディショニングトレーナー・アドバイザーなど8名のスタッフが選手を支えています。


体重だけに依存しないコンディショニング

陸上長距離は特に体重が競技パフォーマンスへ直結すると言われており、体重のみでコンディションを管理する選手が多いです。以前は第一生命グループも選手のコンディションを体重と体脂肪率で評価していました。しかし、より長い距離を走るためには練習の質や負荷を高める必要があり、それに耐えるための身体には筋肉量が不可欠であるという考えをきっかけに、業務用の体成分分析装置を導入することになりました。この時、選手にもっと正確な測定値を提供したいという思いから、精度が高く他の競技でも使用されているInBodyを採択し、2019年11月にInBody570を導入しました。

林田さん:
「InBodyは柔道部の栄養管理を担当していた時から使用しており、これも一つのきっかけとなりました。また、他の競技チームに所属している管理栄養士もInBodyを使用している方が多く、信頼性が高い印象がありました。」

田中コーチ:
「私の選手時代にはコンディショニングの指標が体重と体脂肪率しかありませんでした。怪我やシーズンオフ後は減量を目指し、減量し過ぎた時は食事量を増やすことで増量していました。しかし、当時を振り返るとその増量は体脂肪量が増えていただけで、パフォーマンスにプラスになっていたとは思えません。走っていて身体が重いと感じていました。もし、その時InBodyがあったら、体重の増減がどの体成分の変化によるものか気づくことができたのではないかと思います。私のような経験から、チーム内でも体重の増減に拘るのではなく、筋肉量を増やす意識が広まりつつあります。但し、選手全員がそのような意識を持っているわけではないので、選手には自分の身体の変化をInBody測定で実感してもらい、徐々にその意識を改めながら身体づくりをして欲しいです。」

木村コーチ:
「InBody測定によって、体重の増減だけでは把握できない体成分の変化を知ることができます。女性選手は月経周期によるホルモンバランスの影響で男性選手より体重の変化が大きいですが、特に陸上選手はその変化に敏感になり過ぎて精神疾患を抱えてしまう恐れもあります。そのようなことにならないためにも、体重の増減のみでコンディションの良し悪しを判断するのではなく、筋肉量や体脂肪量などの詳細なデータを身体づくりの指標とすることで、具体的な改善策を立案することができます。そのため、体重の変化のみでコンディションを判断しないためにも体成分測定は必要です。」


練習に耐える身体をつくる食事

選手の朝・昼・夕の食事は林田さんが献立を作成し、給食委託会社が調理しています。選手は試合に向けて体重・体成分・血液状態などの目標値を設定しており、林田さんは選手が目標値に到達するまでの身体の整え方を食事面からサポートしています。献立を考える時は練習内容だけでなく、体重・筋肉量・体脂肪量の3項目も参考にしています。

▲ 選手の食事風景

林田さん:
「女子長距離選手は体重が増えないように、主食のごはん量を減らして体重調整をする傾向があります。運動によるエネルギー消費量に対して摂取エネルギー量が不足すると、女性アスリートの三主徴の1つである低エナジー・アベイラビリティに繋がりやすく、無月経や疲労骨折のリスクも高まります。そのため、摂取エネルギー量が不足しないためにも、必要な量のごはんを食べるよう選手に伝えるだけでなく、お米以外の食品(イモ類や麺類などの糖質)を増やすことで補っています。また、食事内容に筋肉の材料であるタンパク質を増やす時は、肉類・魚類・大豆製品など動物性・植物性タンパク質をバランス良く取り入れるだけでなく、一緒に脂質を摂り過ぎないために、脂質の少ない部位を使うように工夫しています。例えば、鶏肉のもも肉をささみやむね肉(皮なし)に、豚肉のロースをもも肉に変えるなどです。更に、チーム全体で体脂肪量の増加傾向が見られたら、低脂質の食事に変更することもあります。」

選手はコンディショニングのために毎日体重・体温・脈拍を記録しており、体重変化に合わせて食事量を調節することがあります。この時、林田さんは食事内容をどのように変更・調節するのかを選手と話し合いながら確認します。

林田さん:
「前日の食事の影響で増えた体重をエネルギー源のごはんを抜いて調整する選手がいます。しかし、その増加分は食べ物の重さで、胃腸内に残っているだけです。トレーニングや食事の全体量を調整すれば1週間単位で元に戻すことが出来ます。安易に走るために必要なエネルギーを抜いてしまうのは、疲労回復を遅らせるだけではなく場合によっては怪我に繋がってしまうことも周知しています。一方、間食の頻度が多いために食事量を調節する選手もいます。しかし、練習に耐える身体をつくるためには三食の食事を摂ることは必要不可欠なので、食事量は調節せずに間食をご褒美として食べてもらうなど頻度を減らせるように選手と一緒に改善方法を考えます。適切な食事管理は選手自身が実践して学習することが必要であり、個別に身体づくり・必要な栄養素・食事量を指導しています。体成分を測定することで客観的に身体の中身を把握できることはサポートをする上で貴重なデータになります。」


最高のパフォーマンスを発揮するための身体づくり

選手の練習内容は体成分測定・血液検査・骨密度検査の結果を参考に決定します。InBodyは合宿前後や試合前日、新人選手はデータ収集も兼ねて1~2週間に1回、体重減少が見られる選手は1ヶ月に1回など、定期的に測定しています。目標とする体重・体成分・血液状態などは、測定結果を基に毎月設定し、各々の課題に沿ってトレーニングの負荷や種類を調整しています。実際に2名の選手は絶対的な筋肉量の少なさに課題を抱えており、2021年4月より筋肉量の増加を目的としてウエイトトーニングを導入しました。そのトレーニング効果はInBodyで確認しており、結果的に2名とも体成分の改善が見られました。

➤ A選手のケース (専門: 1500m、3000m、5000m)
A選手:
「怪我の回復直後にウエイトトレーニングを頑張った時期がありましたが、InBodyで筋肉量の増加を確認することができました。この時は、以前怪我をした時と比べて円滑に競技に復帰することができました。」

➤ B選手のケース (専門: 1500m、3000m)
B選手:
「私は入社当時から筋肉量が少なく、それが怪我に繋がりました。怪我後に導入した新しいウエイトトレーニングで体成分だけでなく、走りの安定性も改善させることができました。現在も筋肉量の増加を目標に、食事やトレーニングを調節しています。」

木村コーチ:
「長距離走においては、一概に筋肉量があれば良いというわけではありませんが、まだ身体が未成熟で絶対的な筋肉量の少なさに課題を抱えている女子選手が一定数いるというのも事実です。今回のケースでは筋肉量増加という目標に沿った結果に結びつきましたが、一番の収穫は選手自身がトレーニングによって自分の身体の変化を実感することができたことです。トレーニングに手応えを感じた選手は、私達指導者に言われなくても、自ら考えてトレーニングに向き合うようになりました。このように身体の変化を可視化することは選手のトレーニングへの意欲を向上させ、主体性を育むのに効果的だと感じています。」

また、InBodyの測定結果を蓄積することで得られる気づきもありました。

木村コーチ:
「シーズンオフからオンまでの体成分をモニタリングして気づいたことがあります。ある選手は冬季の鍛錬期に十分なトレーニングを積んでシーズンを迎えました。しかし、シーズン中は試合スケジュールとの兼ね合いで十分なトレーニング時間を確保することができなかった影響からか、徐々に筋肉量が減少する過程が観察されました。常に良いコンディションを維持しながらシーズンを乗り切ることは難しいですが、どのようなトレーニングプログラムを組めば目標の試合に向けて良いコンディションのピークを持っていけるのか、改めて考えるきっかけとなりました。今は鍛錬期・試合準備期・試合期などの期分けごとに筋肉量を増やすことや維持することなど、目的を明確化してウエイトトレーニングの負荷を調整しています。」


選手にとってのInBodyの存在

実際にInBodyをコンディショニングに活用されている3名の選手から、InBodyに関してコメントをいただきました。
▲ 古川 結美選手

古川選手:
「過去に整骨院でInBodyを測定したことはありましたが、当時は体成分を意識した練習はしていませんでした。しかし、現在は監督やコーチらの指導の影響もあり、自分のコンディショニングにInBodyを活用するようになりました。」

▲ 櫻川 響晶選手

櫻川選手:
「私は中でも部位別情報の項目を活用しています。InBodyは部位別の筋肉量が分かるので、下肢筋肉量で左右差が見られた場合はウエイトトレーニングで筋肉量が少ない方の脚を集中的に鍛えるようにしています。」

▲ 下肢筋肉量の左右差を確認

▲ 原田 紋里選手

原田選手:
「自分でもInBodyを定期的に測定することでパフォーマンスが良い時の体成分が何となく分かってきました。今後はベストな状態の体成分を目指して怪我をしない身体づくりをしていきたいです。身体づくりに必要な食事面では、食事を一度にたくさん摂取できないので、小分けにして食べるなど上手く栄養を摂るための工夫をしています。」

更に、チームでは蓄積した測定結果を利用し、パフォーマンスと体成分を関連させた指標づくりの検討も試みています。そのような指標が完成すれば指導者の指導内容に対する説得力は増し、選手は自身のコンディショニングにおける目標として活用することができます。


これからの選手育成

今回ご紹介した選手3名は7月に開催された大会で自己ベストを更新しました。
チームとして11月に開催されるクイーンズ駅伝で上位入賞することを目標に日々練習に励んでいます。今後もInBodyを活用しながらトラック・マラソンで日本を代表する選手を育成し、世界の舞台へ挑戦する選手を輩出したいと考えています。

林田さん:
「選手の目標達成に向けて、体成分結果を基に栄養面の課題をクリアできるように選手一人一人に合った栄養サポートをしたいです。そして日本を代表するような選手になってもらえたら嬉しいです。また、中学・高校の女子ジュニア選手は無月経や疲労骨折、貧血などの問題が取り上げられることがありますが、食事の改善で予防することができます。このような現状を打開するため、チームが取り組んでいる体成分管理や食事内容を公開し、一つのロールモデルとして陸上界に発信していきたいと考えています。」

田中・木村コーチ:
「実業団チームですので目標に向けて結果を出すことはもちろんですが、合わせて人材育成の面でも力を入れていきたいです。私達のチーム方針である ”一人前の陸上選手に、そして一人前の社会人になろう!” にあるように、陸上選手としてだけではなく、一人の社会人として社会に価値を提供できる人材を育成することが、私達コーチ・スタッフのミッションだと考えています。日頃の練習でも、全てを指導者に言われたことしかできない受動的にこなすだけの選手ではなく、自分に必要なものを指導者やInBodyを活用しながら、自主的に考え、自立してコンディショニングができる選手を育成することを指導の軸として置き、そこから社会に通用する人材を育成したいです。」