相愛大学
-留学生のための食育プロジェクト-

機種モデル:InBody470

相愛大学人間発達学部発達栄養学科では、基礎と現場経験の両方を重視したカリキュラムのもと、企業や医療機関、官公庁と連携して様々な食育事業に取り組んでいます。 “留学生のための食育プロジェクト” はその中の1つで、相愛大学や近隣に所在する日本語学校の留学生を対象に、InBody測定と骨密度測定による栄養状態のチェック、和食メニューの調理実習が行われています。学内の食堂で留学生の食事を覗いてみると、日本に暮らしているにもかかわらず和食ではない独自で調理したものを食べている姿が多く見られます。その彼らに和食を知ってもらい、日本の食の良さを伝えたいという気持ちと、日本を訪れる外国人・留学生が増えてきた中で、何かしらの支援を大学で企画して欲しいという声もあったことから、“留学生のための食育プロジェクト” が発足することになりました。

発達栄養学科准教授の竹山 育子先生は、かつては開業栄養士として病院・クリニック・自治体の健康料理教室など様々な現場で臨床栄養を担当していました。現在の主な研究テーマも “血液透析患者のQOL向上” で、厳しい食事管理が求められている中でも楽しい食事を取り入れることを目指しています。竹山先生は大学教員の他に、透析クリニックの臨床現場の管理栄養士という顔を合わせ持ち、クリニックでもInBodyを使い患者の水分状態を見て食事介入を行っています。厚生労働省の “大腸がん予防プロジェクト” では食事調査を担当し、10年にわたり1人当たり4年間の食事内容を追跡、約600人分の膨大なデータを分析しました。食事内容をデータに起こす作業は技術が必要で、食事メニュー全てをグラム(g)単位に捉え直し、味付けや調味料まで数値としてデータ化していきます。教員という道を選んだ背景には、残りの栄養士人生はこのような経験を伝え、次世代を育てたいという想いがあります。


▲ 竹山 育子先生


食育や栄養士にとってInBodyは必須

「以前は1人の体脂肪率を求めるだけでも、多くの時間と手間が必要でした。InBodyでは体脂肪率を瞬時に求めることができ、他にも体を構成している主な成分が詳細に分かることで大変救われています。特に透析患者の場合、水分状態を確認することができて大変ありがたいです。水分量を基に塩分量を1g単位で細かく調整しています。また、栄養士は基礎代謝量を求める機会が多いのですが、そこでもInBodyが便利です。ダイエットに苦労している方へ基礎代謝量の説明をすると、基礎代謝量が低いから太りやすい、痩せにくいんだと納得してくれます。」

このように、竹山先生は臨床栄養の現場ではInBodyが必須だと言います。発達栄養学科の学生は、運動生理学実習と臨床栄養学実習の授業でInBodyについて詳しく学びます。半期で15回もの測定を行うので、InBodyの扱いにも慣れており、食育プロジェクトや管理栄養士としての現場でもすぐに活用してくれています。留学生のための食育プロジェクトではもちろんのこと、その他の食育プロジェクトでも全てInBodyの体成分測定がセットになっています。大阪急性期・総合医療センターとのコラボで行っている糖尿病フェスタでは、体重の変化ではなく、筋肉量と体脂肪量の増減から健康改善ができているかを読み取れるようになり、相愛大学主催のヘルシーダイエット教室では、筋肉量と体脂肪量のバランスを示すIDCタイプを確認して栄養介入を行うことで、生活習慣を改善するきっかけとなっています。

「InBodyの結果用紙から測定者の背景、生活習慣までイメージできることもあります。留学生の食育プロジェクトでは、ベトナム出身の僧侶の方でとても筋肉量が多い方がいました。何か特別なことをやっているのか尋ねてみると、通学だけでなく普段からたくさん歩いていることが分かりました。InBodyでは部位毎で筋肉量と体脂肪量の評価も行えるので、ここを見るだけで下半身が強い方はサッカー選手であるとか、左右差が大きい方はテニスの経験者であるなどのスポーツ歴も見え、体脂肪量の付き具合によって、脂っこいものを好んで多く食べているなどの食事の好みまでイメージができます。」


留学生のための食育プロジェクト


▲ まずは、参加留学生がInBodyでチェック

食育プロジェクトでは、始めにInBody測定と骨密度測定から行います。留学生にとってもInBody測定は好評で、皆が自身の体を理解することに興味を持っていました。

中国からの男子留学生「中国でもInBodyで測っていました。結果を見て、もっと太らなければと思うのですが、なかなか太れないことに悩んでいます。体成分分析から、タンパク質とミネラル量を増やそうと食事を頑張っていましたが、体脂肪量を増やす必要があるとはあまり考えていませんでした。毎日1時間ほどランニングをしていますが、運動と食事の両方をもっと頑張ろうと思います。」

次に、和食(サラダ巻き・けんちん汁・ごま和え)の調理実習に移ります。留学生1グループにつき発達栄養学科の学生が2名ずつサポートとして付きます。1年生を中心として配置することで、学生の学びの場ともなっています。留学生は初めて見る日本の食材や調理器具に目を輝かせつつ、慣れない和食の調理に真剣にチャレンジ。栄養学科の学生は初めて和食を調理する留学生に対して、材料の切り方や調理手順など身振り手振りを交えながら、協力します。最初は初対面でぎこちなかったそれぞれのグループが、調理が進むにつれて会話が弾み、笑い声が調理室に響くようになっていきました。実習後には調理グループ毎にテーブルを囲んで、自分たちで調理した和食を実食しながら、発達栄養学科学生による日本文化と食育に関する発表、さらに竹山先生によるInBody結果用紙の解釈について講義を聞くことができます。中国・インドネシア・ベトナム・香港・カナダそして日本の学生が一緒になって、課題に取り組みながら栄養について学んでいきます。


▲ 和気あいあいと和食調理を実習中(エプロン姿が留学生、白衣姿が発達栄養学科学生)

インドネシアからの女子留学生「和食が好きで、実は家でもお寿司を作っています。ランゲージスクールに通っていますが、そこでプロジェクトのチラシを貰って、興味があったので参加しました。今日の実習はとても楽しく上手に作ることが出来て良かったです。」

発達栄養学科留学生「私自身が中国の出身なので中国の留学生を担当しましたが、食材を切るにもいろんな切り方があり、それを言葉で伝えるのが難しいので、実際に切って見せて教えました。将来は管理栄養士の資格を取って日本で働くことを夢見ています。」

発達栄養学科1年生「短い時間の中で、複数の留学生に対して同時進行でたくさんの工程を教えるのに苦労しましたが、皆で和気あいあいと作ることができました。卒業後は教育現場の栄養教諭を希望しており、教えることを大事にしていきたいです。」


食育プロジェクトを通して見えた留学生の栄養と体の現状


▲ レクチャーを聞く姿も真剣そのもの

プロジェクトに参加していた留学生には肥満の方はいませんでしたが、BMI18(標準範囲:18.5-25.0)、体脂肪率5%(標準範囲:男性10-20%;女性18-28%)などの痩せ気味の学生が見受けられました。和食で使われている調味料が分からないため自炊が難しく、口にしたことがない食材は買わないという食生活のスタイルからか、栄養改善が必要な学生もいます。留学生にとって体成分を測る機会が殆どありませんが、InBody測定を通し、自身の筋肉量・体脂肪量が実際にどれだけ足りていないか、適正体重に入るためにはどれだけ各成分が必要なのかを知ってもらうことができました。

竹山先生「留学生だけでなく、体脂肪率が何を指しているのかを知らない方が未だに多いことも驚きです。InBodyの結果用紙を上から順に説明することで、体脂肪率が体重全体の重さに対する体脂肪量の割合であるということの理解を助けます。今回のプロジェクトでは1回きりのInBody測定なので現状を伝えることしかできません。留学生に対して栄養介入や生活習慣指導を行うには、InBodyの定期測定が必要になります。」


終わりに

「留学生は言葉の壁もある中、日本で学んだことを自国で活かしたい、日本で就職したいという気持ちを持って、修学中はもちろん卒業後も頑張ってくれています。近年では管理栄養士・栄養士を目指す留学生も増えてきました。中国からの留学生の教え子で、2018年の管理栄養士国家試験に合格し、本学の管理栄養士留学生第1号として活躍している子もいて、彼女のことを聞くと本当に嬉しい限りです。栄養の専門用語はホルモンや薬剤などカタカナが多く、彼女もまたカタカナで苦労している姿をずっと見てきました。しかし、今では相愛大学で学んだことと日本語・中国語・英語で栄養指導ができる強みを活かして仕事に就いてくれています。」

国によっては管理栄養士という職や、食育という概念がない場合もあります。世界中で肥満や飢餓の問題が残存している今、日本で栄養学を学んだ留学生が母国に帰り、大学4年間で身に付けた栄養の知識が必要とされる時が必ずやってきます。

「管理栄養士に向いている人は、食べることが好きな人、美味しく食べようと工夫ができる人です。透析患者もそうですが、制約がある中でもできるだけ美味しいものを作ってあげたいと考えています。発達栄養学科の留学生は、日本で学んだことプラス、自分の国の特性を活かした食育のできる管理栄養士になってほしいです。」