障害者スポーツ文化センター: 横浜ラポール
-障害者の健康づくりと社会参加促進-

機種モデル:InBody S10

障害者スポーツ文化センター横浜ラポール(以下「横浜ラポール」)は、障害者の「完全参加と平等」の実現という国際障害者年の理想に基づき、1992年8月に開館しました。障害者がスポーツ、レクリエーション、文化活動を通じて、健康づくりや社会参加の促進をはかるとともに、市域における中核施設として、障害者が主体的に参加する中から市民交流を活発に行ない、この活動を広く発展させていくことを目的としています。運営は、社会福祉法人横浜市リハビリテーション事業団が行っています。横浜ラポールの「ラポール」は、フランス語で「心の通い合い」という意味を持っています。

年間利用者数が約40万人に至る横浜ラポールは大小体育館をはじめ、フィットネスルーム・プール・グラウンドなど幅広いスポーツ設備は勿論、創作工房やシアターのような交流・文化イベントを楽しめる設備も充実しており、いつでも気軽に来館して好きな運動や文化活動を楽しめる拠点の役割を担っています。施設の利用案内などの情報は “横浜ラポールホームページ” から発信しています。
※現在(21年10月時点)はコロナの影響で一部の施設利用は予約が必要です。

「健康相談コーナー」

横浜ラポールはスポーツ・文化・聴覚障害者支援の3部署に大きく分けられており、それぞれの方法で障害者を支援しています。スポーツにおいては、健康・体力づくり、社会参加、仲間づくり、自律・主体性を柱とした「リハビリテーション・スポーツ」の考え方に基づいたアプローチ・支援を行っています。また、生涯スポーツや競技に向けた支援も実施しています。

健康相談コーナーは、横浜ラポールでスポーツ・運動をする障害がある方々を対象とした健康づくりを支援しており、スポーツ指導員・保健師・管理栄養士が所属されています。リハビリテーション・スポーツの入り口としての役割も担っており、保健師によるインテークで相談内容・生活状況・主訴の確認を行い、主訴・ニーズ・課題にそって体育指導員による個別運動指導や集団プログラム、健康栄養相談等につなげています。
▲ 健康相談コーナーご利用の流れ

▲ 健康相談コーナーでの相談の様子

健康相談コーナーに相談に来られる方は、脳卒中の後遺症で片麻痺がある方や高次脳機能障害が多く、他に脳性麻痺・脊髄損傷・変形性関節症の方がいらっしゃいます。よく相談される内容は、障害によって活動量が減ったり、食事の管理が難しくなったりすることが原因で増えてしまった体重の減量や、障害初期でまだ残っている身体機能を維持したい、体力をつけたいなどがあります。

また、横浜ラポール内の掲示板、月間発行のラポラポ、横浜ラポールホームページ、情報発信サイト“Forsmile”など様々な媒体を活用し、睡眠や血圧、からだの点検、褥瘡予防などの障害に配慮しつつ健康づくりのための基本的な知識や情報の発信を行っています。

YouTubeでは「ちゃちゃっとヘルシーごはん」という動画を配信しています。この動画は新型コロナウイルス感染症が流行する前は調理プログラムとして行っていたことをアレンジしたもので、なるべく火や包丁を使わず、カット野菜や冷凍野菜、電子レンジを活用してできるレシピ動画です。麻痺の影響で包丁などの調理器具が使いにくい方や、高次脳機能障害などにより記憶や段取りが苦手な方など、どなたでも簡単に作れるよう工夫しています。また、栄養バランス、エネルギー、塩分などに配慮しています。他にも障害に配慮したストレッチなど、毎日続けていただきたい運動も動画で配信しています。
▲ 季節に合わせた健康管理情報やレシピ情報を発信している健康相談コーナー掲示板
▲ 内藤 洋美さん

内藤 洋美さんは誰にとっても何をするにも、その人にとってより良い健康状態であることが土台になるということから、健康づくりに関わりたいと思い保健師を目指しました。保健所勤務において障害があるお子さんとその家族との関わりや脳卒中後遺症の方の機能訓練事業を経験し、その後、横浜市リハビリテーション事業団に就職。横浜ラポール健康相談コーナー、療育部門での相談支援業務を経て、令和元年4月から再び横浜ラポールの健康相談コーナーでリハビリテーション・スポーツの理念を基盤としながら、障害者の健康づくりをテーマにした取組みを行っています。

内藤さん:
「初めての場所・初対面の人にご自身のことを話すのは緊張されると思いますので、まずは相談しやすい雰囲気での対応を心がけます。そして、主訴・思いをきちんと把握し、その方に合ったプランとなるように意識しています。障害状況(原因疾患・残存機能・移動機能・高次脳機能障害の状況など)・基礎疾患・合併症・投薬内容(副作用の把握)・生活状況・運動経験・現在の活動量等々、その方の全体像を把握し、ニーズ(課題)・目的・目標を見極め、次のステップを考え提案しています。また、対象者の状態とプラン、その後の経過をチームで共有するようにしています。」

▲ 日比 真琴さん

管理栄養士の日比 真琴さんは、大学の時にパラアスリートの栄養サポートに関わったことをきっかけに、大学卒業後は横浜市リハビリテーション事業団に就職し、横浜ラポールの健康相談コーナーで栄養士業務を始めて2年目となります。

日比さん:
「相手の気持ちや目標をしっかり聞いて、無理を強いるのではなくQOLが向上できるような相談を心がけています。減量を目標としていても食べる楽しみを大切にしてアドバイスしています。また、食事準備の担当が曜日によってヘルパーやグループホーム職員の場合もあるので、買い物場所や生活状況を聞き取り、障害状況や基礎疾患等の情報も踏まえた上で、本人のできることを探すように意識しています。また、この施設の管理栄養士を“食生活について気軽に相談できる相手”として感じてもらい、栄養面でも充実した支援ができるような体制作りを心掛けています。」

▲ 福田 豊さん

スポーツ指導員の福田 豊さんは体育大学を卒業した後、整形外科でリハビリ助手に携わり、そこで障害者スポーツに興味を持つようになりました。その後、東京都障害者スポーツセンターでの非常勤職員を経て、横浜ラポールに勤務。現在は地域の障害者の運動指導にも携わっています。

福田さん:
「来館者の中には地域のスポーツ施設がバリアフリーになっていなくて、横浜ラポールに来ている方もいらっしゃいます。時々、施設側で対応できないこともあるのですが、そういった場合にただ “できません” と言ってしまうとその人のスポーツを楽しむ機会が失われてしまう可能性があるので、代わりにできることを提案するなど建設的な対話をするよう心掛けています。」

健康づくり支援の一助としての体成分測定

▲ InBody S10を使った体成分測定

車いすを常用している場合や、運動制限等により歩行スピードがゆっくりで活動量が少なくなりがちな場合、体重増加が気になることがあります。栄養相談・運動指導の開始時や経過をみて支援していく上で、その方の状態をできるだけ客観的に把握するため必要に応じてInBody S10で測定しています。InBody S10は電極を握らなくてもよく、座位で測定でき、麻痺がある方や車いす利用者も測定しやすいです。体脂肪や筋肉量・基礎代謝量が分かることで、ご本人や家族が健康づくりに取組むきっかけになっています。

日比さん:
「障害者の体成分を把握する際には、健常者と違うところに気を付ける必要があります。麻痺によって拘縮が生じている部位の筋肉量が多く出たり、片麻痺によって左右差が大きかったりなど様々なケースがあり、結果の解釈に悩むこともあります。また、障害特性上、数字にこだわる傾向が強い方もいらっしゃるので、1kgや1%に一喜一憂しすぎないような配慮も必要です。極端な食事制限や運動に繋がってしまうことは避けたいと考えており、数値に注目するよりは全体的な変化を見つつ、利用者の意識付け・動機づけ、その方自身の経過を見ていくツールとして活用するよう心掛けています。また、お子さんへの対応は、成長期にあることも踏まえて対応しています。」

内藤さん:
「ある数値の改善ということだけでなく、広い意味での健康づくりとしては、ラポールにまた来たいと思ってもらえる環境づくりや取組みによって活動を継続して頂くことは、結果的に健康づくりにつながるのではと思っています。既成種目では実施が難しい方を対象にしたプログラムや、各施設でのワンポイントアドバイス、定期的・継続的に卓球やボッチャができる設定なども、健康づくりに繋がるものと考えています。ラポールを継続的に利用してもらえること、ラポールでの経験をきっかけとして新しいことや場所にもチャレンジしていただけたらと願っています。」

➤ 二分脊椎(下半身麻痺)のケース
活動量の不足で体脂肪量が多く(上)、車いすを動かすための上半身は発達していますが、動けない下半身の筋肉量が少ない(下)のが分かります。数値で体重の中身を確認することは、利用者とその家族が自身の状態に気づくことにつながります。

※棒グラフは取材を基に再現したイメージグラフです。

➤ 右片麻痺のケース
軽度の人(上)に比べ重度の人(下)の左右差が明らかに大きく現れています。

※棒グラフは取材を基に再現したイメージグラフです。

体成分を通したコミュニケーション

日比さん:
「InBody測定を勧めることで気軽にアプローチできるようになり、以前よりコミュニケーションを取りやすくなりました。他の利用者が測定するのを見て自分もやってみようかと声をかけてくれる方もいます。測定準備中に普段聞けない生活のことを話してくれることもあります。」

福田さん:
「重要なのは利用者が“楽しく” 運動やスポーツを続けていくことで、私たちの役割はそのサポートをすることです。そして、測定を通じて「もし、体力がついたら何をしてみたいのか?」夢や目標を具体的に聞き取り、私たちは「何ができるか」を一緒に考えながら健康づくりに取り組んでいます。勿論、来館者全員が運動やスポーツに興味を持っているわけではありません。最初から運動を勧めるよりも、選択肢を増やして文化施設の利用から始めるようにしたり、できる限り本人の意思を尊重し支援しています。」

終わりに

横浜ラポールは新型コロナの影響で多くの施設が休館している中でも、可能な限り障害者が優先して利用できるように開館を続けており、県内外を問わず多くの障害者が利用できる体制を維持してきました。また、様々な設備が備わっており、障害者目線で工夫されているため、平成29年には利用延人数が1,000万人を突破し、最近の入場者数制限や利用時間短縮にも関わらず多くの利用者が来館されています。「できなかったことが道具の工夫やルールを少し変えることでできるようになる」「残っている身体機能をフル活用してスポーツに励む」パラスポーツは障害者にも、それを見る人々にも勇気と感動を与えます。

横浜ラポールはより多くの障害者がその楽しみを知り、健康増進と楽しい生活の両方を手に入れられるよう、障害者と一緒に考えながら支援しています。今後も、障害者が「できること」「楽しいこと」「続けられそうなこと」を見つけ、活き活きとした活動を続けていけるよう支援していこうと日々取組んでいます。

同事業団が運営しているラポール上大岡にもお話を伺っています。こちらからご覧ください。