広島東洋カープ
-コンディショニングの維持と体成分-

機種モデル:InBody770

広島東洋カープは広島を本拠地としているセントラル・リーグ所属のプロ野球チームです。1945年原爆投下後の苦しい時代の中、市民と青少年への心身ケアを目的として健全な娯楽を提供したいという強い情熱で創設され、1950年からセントラル・リーグに加盟しました。カープはプロ野球チームの中で、経営を特定の企業に全面依存しない唯一の球団であることから、広島地域に根付いた活動が盛んに行われ、熱烈なファンが多いことも特徴です。6チームからなるセントラル・リーグでは、2016年からリーグ史上2球団目となる3年連続優勝を挙げ、リーグ上位3チームで争われるクライマックスシリーズでは、2016年と2018年に優勝を勝ち取っています。


2016年 変動の年

広島東洋カープのトレーナーを務める梶山 聡司トレーナーは、選手のパフォーマンスを高めるためにフィジカル面の管理から栄養指導までを一括して総合的に調整を行う、コンディショニングトレーナーです。高校時代から大学まで野球選手として過ごした経験から、選手やパフォーマンスと直接関りを持つトレーナーという職業に興味を持ち、志すきっかけとなりました。大学で整形リハビリを学ぶには、国内よりもスポーツ医療の研究が進んでいるアメリカで学びたいという気持ちから、ボストンの大学に留学することを決めました。在学中にはインターンシップとしてメジャーリーグのBoston Red Soxの一員となりながら大学院を卒業し、卒業後はシカゴのBroMenn Medical Center / Orthopedic & Sports Enhancement Centerに3年勤務、その後再びアスレチックトレーナーとしてインターン時代に所属していたBoston Red Soxに戻りました。そして2016年に広島東洋カープのコンディショニングトレーナーとして入団し、その後同じ年にInBody770もカープに入団することになります。

「チームの勝ち負けはコントロールすることができませんが、選手の体調やコンディションはコントロールすることができます。良い体になれば試合に勝てるという訳ではありませんが、できるだけのサポートとして体調だけは常に健康で、引退するまで離脱もなくプレーに集中して欲しいです。そして、その結果チームの目標としての勝利に繋がればと考えています。」


指導の根拠として測定データの正確性が求められる

InBodyの導入前は市販の体重計による、体重と体脂肪率の管理を行っていました。体脂肪率の値は一貫性が見られず誤差も大きかったため、当てにすることができませんでした。また、単なる体重を記録してもその数値の意味を選手に伝えることはできません。同じ体重・同じ筋肉量・同じ体脂肪量でも、正確性や信頼性がなければ数値に意味を持たせることはできません。エラーの多い計測では、体脂肪率が増えてきていることへの注意や、食事内容改善の提案も 「この測定値は正確ではないじゃないですか? 本当にこの数値は正しい値ですか? 」と断る逃げ道を与えることになります。市販のもので選手のコンディションを管理するには限界があり、トレーナーたちの指導に説得力を持たせ、逃げる余地を与えないためにも、エラーがなく、補正も受けず、正確性のある何かしらの測定器が必要でした。そこで検討したものが、キャリパー法と医療分野でも使われている高精度体成分分析装置でした。

ここで、他球団やエリートスポーツでの導入実績があること、ランニングコストがかからないこと、統計補正の影響を受けないこと、データの蓄積ができること、そういった欲しい機能が備わっているものがInBodyでした。プロ野球のチームは遠征が多いため、定期的に測定ができて持ち運びができる測定器としてキャリパー法も候補に挙がりましたが、この方法はヒューマンエラーの問題を解決することができませんでした。

「InBodyの数値を使い始めてから、選手の理解度は良くなりました。漠然とした、体重が落ちれば良くない、体重が増えれば力が上がるというアバウトな理解ではなく、InBodyの細かい数値を使うことで、選手の体に対する興味が深まったと感じています。」


選手の体成分管理を徹底する

選手の体成分管理のために毎月最低1回のInBody測定を実施しています。キャンプから日本シリーズまでの9ヶ月間にも及ぶシーズンでは、特に値の変化に敏感に着目しています。オフシーズンに力を蓄えて、キャンプで調整を行い、シーズンの開幕で試合のできる、疲労も蓄積していない状態(=ピークコンディション)となるため、この時期に測定したInBodyの結果を基準値として設定します。InBodyの項目はたくさんありますが、全ての項目を全体的に捉えて変化をモニタリングしていくと、急な値の増減が自覚していない疲労や怪我のサインとなることがあります。InBodyを使用してグラフの変化を追っている内に、定めた基準値から悪化した選手はパフォーマンスが低下していたり、成績が落ちていたり、疲労や怪我を抱えているという印象を持つようになりました。

オフシーズン中は、前年度の値とシーズン中の平均値と比較しながら、どういう状態が個人のベストコンディションであるのか、オフシーズンの基準とする値も検討しています。また、怪我や手術を経験した長期リハビリの選手が、練習に戻る・グランドに戻る・トレーニングに戻る・試合に戻る・2軍から1軍に戻るタイミングなどを計る際に、体成分がどれだけ基準値に戻っているのかを確認することも一つの判断材料として参考することがあります。

※取材を基に再現したイメージグラフです。

初めから選手の全員がInBodyによる体成分の管理に積極的であったわけではありません。体がアスリートにとってどれだけ重要かを認識している選手は、積極的に測定や数値の意味を聞きに来ますが、そうでない選手に対しては、常に測定・数値の重要性・栄養の指導などを繰り返し指導し、InBodyの結果を気にせざるを得ない状態に持っていきました。これがトレーナーの仕事でもあります。

「なぜこの数値が体調管理に必要なのか? ということを分かってもらえて測定がスタートできます。測定して終わりではありません。」

数値を理解することの重要性を粘り強く意識付けした結果、今ではほとんどの選手がInBodyに理解を示し、積極的に測定に参加するようになっています。選手たちには、自身の肉体をもっと良くしたいという意欲があります。

4月から10月は筋肉量を落とさないことを、最低限の目標として選手に伝えています。同じスイングでも、65kgの筋肉量で振ったスイングと70kgの筋肉量で振ったスイングではパワーが異なるのでパフォーマンスにも直接影響します。

「全ての選手がこの目標を達成することは難しいですが、筋肉量が落ちない選手は振り返ってみると打率が良かったり、タイトルを獲得していたり、優勝に大きく貢献するような、そういう選手になっています。ここ3年で全体的に選手の体格はいい意味で大きくなっていると感じています。」


終わりに

選手のInBodyに対する印象も良くなってきています。各数値を疑うこともなく、活用しようとする姿が見られるようになりました。

「できるだけいい状態の肉体を維持し続けるために、トレーナーは数値を管理することは勿論重要ですが、その他に選手のメンタル面や栄養管理など多くの要素から何を優先するのかを選択をしなければなりません。長いシーズンを乗り切るために、時には体成分から離れてモチベーションのケアが優先になることもあります。」

「日本のスポーツはまだまだ発展の途上で、特にフィジカルを必要とするスポーツ、パワーを必要とするスポーツは欧米と比べて劣っている部分があります。フィジカルの面で世界に追いつくためには、昔ながらの感覚的・経験的なやり方からは脱却して、数値的・客観的に分析して選手の能力を上げていけるようなトレーナーが求められています。感覚や体重だけではなく、細かい体成分に着目して伸ばすべきところは伸ばすというような、皆で同じ方向に進んでいけたらと思います。球界はチーム間の情報共有に対して閉鎖的なところもありますが、日本全体のレベルアップのために、球団のトレーナーやスタッフが協力し合い、情報交換を行うことは意味があると考えています。」


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